感情を君へ   作:味噌汁豆腐

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恥ずかしいな

今は水泳の授業前、更衣室。私、神谷うりは着替えるために脱衣を始めていた。

 

「ぐぬぬ...」

 

自分の胸部を見てどうしても苦悩の声が漏れる。いつもなら全然気にならないのに。全部清隆君のせいだ。まだ諦めるときじゃないって、慰めているように見えて只々酷い。

 

別に自分でも分かってる。他の女の子より成長が鈍いなんて10も承知だ。でもこの学校は異常だ。みんな大きすぎる。なんでそんなに大きくなれるの?ほんと怖い。

 

「うりちゃん?大丈夫?」

 

横から心配そうな声が聞こえてきた。桔梗ちゃんだ。桔梗ちゃんはみんなに優しいから大好きだ。だから桔梗ちゃんに話せばどうにかこのむかむかを抑えられるかも。

 

「桔梗ちゃ...っ!」

 

「ん?どうしたの?」

 

胸部!圧倒的脂肪の暴力!?桔梗ちゃんにそんな諸悪の根源がくっついてる!?

 

※元々ついてる

 

「...き、桔梗ちゃん?その大胸筋はどうしたの?」

 

「あ、あはは...分かっちゃった?」

 

え?どういうこと?まさか偽t...

 

「最近また大きくなっちゃって♪」

 

「...」

 

「へ?」

 

急に押し黙る私にあっけらかんとする桔梗ちゃん。でもね?これだけは言わせて?

 

「桔梗ちゃんの裏切者ぉぉぉぉぉぉ!」

 

私は目から滲み出る汗を腕で拭いながらプールサイドへと全力疾走するのだった。

 

「...行っちゃった。何か悪いこと言っちゃったかな...?」

 

「多分不可抗力だよ...あれ」

 

事情を知っている女子は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

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更衣室からプールサイドに出ると外では味わえない塩素の臭いが鼻を刺激する。周りを見るともう既に着替えて更衣室から出ていた池と山内が鼻息を荒げていた。

 

「やっぱり俺は佐倉ちゃんだと思うぜ!」

 

「いや長谷部だろ!あれはバケモンだぜ!あれは単なる脂肪じゃない…男の夢と希望が詰まってるんだ」

 

いや普通に脂肪だと思うぞ。あと、すごく言いにくいが佐倉と長谷部は既にここに居る。何なら池たちの話を聞いている。見学席で堂々と。あのものすごく冷えた視線に夢と希望が詰まってるのは無理があると思う。

 

そんなことを考えながらぼーっとしていると、どこからか大きな足音がぴちゃぴちゃと反響して来る。それと同時にその音の主は姿を現した。

 

「…ん?神谷、プールサイドは走ると滑って危ないぞ」

 

「...っ!」

 

プールサイドへと勢いよく駆け込んできた神谷は俺を見ると、俯いたまま早歩きで俺の方に一直線で近寄ってくる。しっかり注意を聞くのは良いことなんだがどこか様子がおかしい。どうしたんだ?

 

「...清隆君」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでもまだ、私の物が貧弱だと思う!?」

 

神谷は軽く涙を浮かべてキッっと俺を睨んだ。そして気がつくと俺の頭は神谷の胸部へと押し付けられていた。勿論、神谷の手と腕によって。

 

「えっ、ちょ...」

 

「どう!?柔らかい?柔らかいでしょ!?」

 

そう詰めてくる神谷からはいい匂いがする。少し甘いようなそれでいて心地よい匂いだった。

 

 

神谷はなんでこんな行動に?慌てていた脳を落ち着かせ考えてみる。すぐに結論は出た。理由は分からないが神谷はきっと錯乱状態なのだろう。つまりこれが所謂ラッキースケベか。架空のものだとは思ってたが実際に起こると驚きはあるがそれよりもこの状況が気になる。そう思ったのも束の間、俺の頭には激痛が走った。肋骨が痛い...。その物がクッションとしての役割を果たせていないんだ。

 

「っ...」

 

「柔らかいって言うまで離さないっ!」

 

逃れようとすると神谷は腕のホールドを強め、自分のありもしない物へと俺の頭を押し付ける。締め付けられて圧迫感の増す。何故か布がはっきりと感じられる。

 

頭に激痛が走り続ける。理不尽だが贅沢な悩みに俺は究極の選択を迫られていた。

 

「柔ら...かいぞ...」

 

俺は痛みに負けた。すまない池。お前の言った夢と希望は激痛と肋骨に負けたぞ。

 

「ほんとっ?」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、神谷は腕の拘束を弱めた。何かに縋るように俺の目を見つめる。

 

「...ああ」

 

「ほんとに?ほんとにほんと?」

 

「しっかり柔らかかったぞ」

 

それを聞いた神谷は緊張が解れたのか安心したように顔が緩んだ。

 

「えへへ...そうかな?」

 

自分でぐにっーっと伸ばしている頬が朱色に染まっているあたり相当嬉しいのだろう。だがすぐにはっと思い出したように神谷はない物を張ると虚勢を張るように頬に添えていた両手を腰に当てた。

 

「ということだから私には諦めるほど物が小さいわけじゃないんだよっ!分かった?」

 

「お、おう」

 

「返事は『はい』だけっ!もう一回!」

 

「はい...」

 

「よろしい!」

 

この時初めて俺は神谷の胸の話は禁止ワードだと自覚したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

あの後、しばらく神谷は胸の話をしたり、大きなものを見ると露骨に猫のような警戒反応を起こすようになった。

 

 

「池!今日バスケしようぜ!」

 

「シャー!フーフー...」

 

「なんで俺っ!?」

 

(須藤の大胸筋でも反応するのか...)

 

 

今日も今日とて神谷うりは感情豊かだ。

 

 

 

 

 

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