感情を君へ   作:味噌汁豆腐

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遅くなってしまいました。すみません。続きをどうぞ!


嬉しかったんだよ?

 

 

 

 

 

 

「池~山内~食堂行こうぜ」

 

「おう!今日もDXスペシャル頼んじゃうか!」

 

「ばっかお前、あの山盛り残して食堂のおばちゃんにめっちゃ怒られたの忘れたのか!?」

 

 

 

 

 

 

「本当に知性が感じられないわ。食べ物に対する感謝はないのかしら」

 

水泳の授業も終わり、俺たちは教室へと戻ってきた。ちょうど昼の時間帯であるため、各々が食堂に行ったり、教室で弁当を広げたりしている。そんな中、横で読書に勤しむ堀北鈴音は小声でそんなことを呟いた。

 

「…何かしら。その邪な視線を向けないでもらえる?非常に不愉快よ」

 

どうやら無意識に目を向けていたらしい。堀北とはバスの中でも隣になった...いわば知り合いなのだが本人曰く、他人らしいのでおとなしくその立場に落ち着いた。そうしてたまにだがこうして他愛もないことを話す関係になっている。

 

今日は機嫌が悪いみたいだな...。言葉の棘がいつもよりも鋭い。

 

「気分を害したなら悪かった」

 

「あら、あなたが素直に謝るなんて珍しいこともあるのね。あの汚らわしいクラスの男子たちよりはほんの少しだけ好感が持てなくはないわ」

 

「俺をなんだと思っているんだ...?入学初日にもいったが事なかれ主義なんだ。面倒な争いは避けたい」

 

「あら?褒めているのよ。あなたは異性の胸部に執着しているわけでもないでしょう?」

 

なるほど。堀北の機嫌が悪いのはそういうことか。しかし、俺としてもその話はあまり触れたくはない。しただけであの時の激痛が...。そういえば、神谷から感情を知るための資料として借りた漫画に「ウっ、頭が...!」とか言っていたものがあった。あれは再現性があったのか。面白い。今度、続きを神谷に借りよう。

 

「綾小路君?...急に黙ってどうしたのかしら?」

 

「いや、何でもない。少し考え事をしていただけだ」

 

堀北は少し考え込むように黙り込むと、本を閉じて膝に置いた。その顔は少し真剣そうだった。いつも俺とは違う意味で表情を崩さない堀北にしては珍しいな。

 

「...あなたはこの学校の異常さに気づいているの?」

 

「異常...何のことだ?」

 

「たくさんあるわ。Sシステムのこと、教員の生徒指導の甘さ、監視カメラの配置、どれをとっても異常だとは思わないのかしら?」

 

Sシステム...単純に考えればただただ、おいしい甘い蜜。毎月のように10万円が手に入るという制度。だがそれは単純な話であればの話だ。実際、そんなことをしていては国家予算なんてとうに破綻している。それは単純計算で一人につき、一年で120万の出費であり、この学校に在籍する生徒の数を垣間見れば、総額では軽く億を超えるはずだ。そしてその大切な財源を掛けるほどにこのクラスの生徒に価値はあるのか。答えはNOだ。

 

どう考えても何かはあるのだろう。ただ、何かするつもりはない。それをするだけの利益なんて俺にはどこにもない。俺は俺の目的以外はどうでもいい。それでいい。

 

「思わないな。勘違いじゃないか?」

 

「そ、そう...」

 

どこか落胆したような顔をしている。それでもどこか納得いかないようだった。悪いな堀北。きっとお前は間違ってない。だが俺は加担するつもりはないんだ。

 

「勘違いだったみたいね...。変なこと言って悪かったわ」

 

「別にいいぞ。むしろ良いことだと思うしな」

 

「えっ...どういうことかしら?」

 

「物事に流されずにただ真実を見極めようとすることは、正しく状況を把握するうえで大切なことだ。それをこの緩んだ空気の中、実行できるのは十分に賞賛できることだ」

 

実際、堀北の考えは間違ってはいないのだろう。この学校にはまだ見えない部分が多くある。つまり、この段階ではいろんな選択肢が用意されているともいえる。今、このまま堀北の考えをスルーする選択をすることもできる。だが、それをするよりも、いや正確には堀北が勘違いしたままでことが起こるよりかは、事実を理解している方が好都合だ。ことが起きた時、わざわざ動かなくとも勝手に解決してくれるからな。使える手段が多いに越したことはない。

 

「...ふふっ」

 

「?何かおかしいかったのか?」

 

どこか意味深長な微笑が俺に向けられる。それが何かはわからないがいい意味ではなさそうだ。

 

「別に大したことではないわ。あなたからそんな言葉が出てくるなんて思わなかっただけよ。人を励ますこともできるのね」

 

「酷くないか...?」

 

やはり堀北の中での俺の評価がどこかおかしい。いったい俺はどんな人間だと思われているんだ…?

 

「だから...気に食わないわね」

 

「は?」

 

なんでコンパスを抜き身で持って...?

 

ブスッ

 

「...痛い」

 

「上から目線で話さないでもらえるかしら?不愉快よ」

 

容赦なくコンパスで刺してくるなんて思わなかった。というか励ましたのにその対価がコンパスって酷くないか...?

 

「でも。そ、その...嬉しかったわ。ありがとう」

 

頬を染めてお礼を言われたが、痛さの方が勝る。だが、とりあえず目的は達成したことだし良しとしよう。

 

「そういえば、あなた彼女とよく一緒にいるのよね?」

 

「彼女?誰のこと──-」

 

「──-それって私のこと?」

 

後頭部から背中にかけて比較的軽度な重みを感じる。横目で確認すると、相変わらず神出鬼没な神谷が座っている俺の首に腕を回していた。これがバックハグか。...何も感じないな。

 

そんな神谷に堀北は動じることなく、神谷を見据えた。どこか緊張感が走るがその理由がよく分からない。二人とも視線が鋭い。

 

「...他に誰がいるというのかしら?あなたいつも綾小路君に絡んでるじゃない」

 

「そうだねっ!それでっ?」

 

少し機嫌が悪いのか...?顔は笑っているのに何故か目が笑ってない。あと腕の締め付けが痛い。...まだ水泳の件を引きずっているのかもしれないな。堀北も声のトーンが下がった気がする。

 

「っ...そういえば、あなたとても運動が出来るのね?」

 

堀北は圧にのけぞる様に話題を急転換し始めた。そんな堀北に満足したのか神谷も少し腕の拘束を緩めた。顔は見えないが、堀北機嫌が何故かさらに悪くなった。

 

「普通だと思うよ~?」

 

「水泳の授業とても速かったわ。何も習っていないとは思えないほどにね」

 

「う~ん、そうかな~?私はいつも通りに楽しんでるだけ?だよっ!」

 

「楽しむだけで水泳部の記録を超えてしまうなんて、可哀想ね水泳部も。でも仕方ないと思うわ。このクラスは体の抵抗が大きい人もいるもの」

 

火花散る話し合いの中で、堀北の一撃に神谷の腕に筋が走る。やっぱり肋骨って痛いんだな。

 

「あ~鈴音ちゃん()負けて悔しがってたね!」

 

堀北に動揺が走る。神谷を怒らせると何をするか分からないがこういう反応もするのか。かなり参考になるな。

 

「ち、ちがっ...べ、別に拗ねてないわ。そもそも負けの定義から考えてもらっていいかしら?私とあなたは勝負などしていなかったでしょう。だから負けも勝ちもないわ」

 

「...随分と早口なんだな」

 

「ッ...!」

 

頬を染めて睨みつけてくる。なんで俺が睨まれるんだ?ただ、事実を述べただけなんだが...。とりあえず分からないふりだけしておこう。後が怖いからな。そんなあわわしている堀北をよそに、神谷は勝ち誇ったように「あっ!」っと声をあげた。

 

「清隆君!せっかく5000pt貰ったんだし食堂でおいしいもの食べよっ!」

 

「ああ、いいぞ...って、ちょ...」

 

「レッツゴー!」

 

俺の返事を待つことなく手を引いて教室を駆け出していく神谷に引っ張られて俺は教室を後にした。

 

 

 

 

「…綾小路君の馬鹿」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「むむむ...」

 

「どうしたんだ?まだ気にしてるのか?」

 

「そうじゃないよ…むぅ~」

 

さっきからずっとこの状態でお手上げだ。教室からしばらくして廊下を並んで歩いている途中、神谷はずっとうねり続けている。理由を訊いても曖昧な返答しか返ってこないため、本当にお手上げだ。

 

「…おい、聞いたか?」

 

ふと、とある話声が耳に入った。さっきからいつもとは違う視線を感じるがそれと関係あるのか?

 

「ああ、1年D組の神谷だろ?あの変人って噂の...」

 

「ああ、廊下を走り回ったり、知らないやつに突然話しかけたり、とにかく行動が悪目立ちしてるやつなんだよ」

 

「それはやばいな。関わらない方がいいよな...」

 

...。聞いていて心地のいい会話ではないみたいだ。周りにはそんなことを思われているのか。

 

「むむむ...」

 

ふと横の神谷をみると考え込んでいて聞こえていないようだった。それならわざわざことを荒立てる必要はない。何も起こらないのが一番だからな。

 

「神谷っていつもずっと無表情のやつと絡んでるらしい」

 

「あいつが...」

 

...やっぱり迅速に対応する必要があるかもしれない。俺を巻き込まないでほしい...。

 

「──-何の話かな?」

 

「「っ!?」」

 

気が付くと横に居た筈の神谷は話していた男子二人の目の前に立っていた。突然話しかけられた驚きと、噂していた内容が突然来たことに驚きが混ざって混乱しているようだった。

 

「い、いや...その」

 

「ただの噂話というかなんというか...神谷さんの横に居る男子とはどういうかんけいなのかな~って」

 

「...友達」

 

神谷の口から出た言葉...という感じではなかった。無意識で反射的に出た言葉。そんな出た言葉に言った本人も驚いているようだった。

 

「へ?」

 

「私の大事なお友達。とても大切な、…!そうっ!すごい大事な私のお友達」

 

神谷は自分で言ったにも関わらず、何故か納得したように繰り返した。その男子たちは返答に困ったまま、固まっていた。

 

「...だから私は良いけど、大事な友達の噂は流したら駄目。それと困らせるのもダメッ!分かった?メっ!」

 

そう言って指でバツ印を作ると男子たちはおずおずと言ったように頷いた。それを見た神谷は満足したように笑顔を浮かべるとこちらに走ってきた。というか飛び込んできた。

 

「イェーイ!」

 

「急に飛び込んでくると危ないんだが...」

 

「なんだが嬉しくなっちゃって!」

 

「はぁ...?」

 

今の一連には特に嬉しくなるようなことなんてないと思うんだが...。やはり神谷には俺の知りえない感情の動きがあるらしい。興味は尽きないな。はぁ...。

 

「それじゃあ改めて!食堂へレッツゴ―!」

 

腕に抱き着いて進もうとする神谷に俺は困惑していた。

 

「もう悩み事はいいのか?」

 

「ふぇ?もうすっきりしたよ?ばっちり完璧に」

 

まぁ...いいか。それを今考えても答えなどでないだろう。わかる時が来るとしたらそれは俺が感情を知るときだろうな。

 

 

 

 

 

 

そんなことを思う横で神谷はすっきりとした笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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