感情を君へ   作:味噌汁豆腐

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のんびり投稿ごめんなさい!(土下座)


俺もだ

 

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる 雲のほそくたなびきたる。

 

同じようにこのクラスを例えるとしたら...

 

「豚に真珠。いえ、桜に病と言った方が正しいかしら?」

 

「…酷い言い様だな」

 

荒れ果てたその風景に深くため息を漏らす堀北。それも無理はない。この学校のシステムに不信感を抱いている堀北にとってこの現状はほぼ最悪に近いと言っていい。

 

「当然よ。スマートフォンに居眠り、挙句の果てには私語。授業妨害もいいところだわ」

 

「…そうだな」

 

最初は緊張感もあったはずだが...一人が規律を乱せば、一人また一人とそれは伝染していく。桜に病、言い得て妙というべきだろう。

 

「あなたはこの先、どうなると思う?」

 

「何の話だ?言っている意味がよく分からないんだが」

 

「嘘ね。あなた、この先何が起こるのか知っているのではないかしら?」

 

「知らないな。この先何か起こるのか?」

 

「何も教えてはくれないのね...まぁいいわ。あとは自分で見つけることにするから」

 

「検討を祈る」

 

「ええ、頑張ってみるわ。四月もあと少しで終わってしまうもの」

 

遅いんだよ堀北。気づいたところでもう終わっているんだ。少なくともこのクラスは。確かに堀北自身のポテンシャルはまだ余力を残している。だが、言わせればその程度。到底、他のクラスとの差は縮まりはしない。

 

来月の支給額は0pt。それに揺るぎはない。周りを見ればそれだけの確信が持てている。

 

「何も起きないで欲しいものだわ。理想を言えばだけれどね」

 

「そうだな。何も起きない...平和が一番だ」

 

俺自身が平穏に生きられるならそれが最善なのだから。

 

 

 

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「お前たち、今日だけはおとなしくしてもらうぞ」

 

教鞭に立つといつもの緩んだ空気を断ち切るように茶柱先生はプリントを配った。

 

「え~なにこれ?小テスト?」

 

「そうだ。月末だからな。だが安心してくれ。このテストは一切成績には反映されることはない。復習だと思って気軽に取り組んでくれ」

 

「え~めんどくさーい」

 

「文句を言ってもどうにかなる事ではない。諦めてくれ。それと小テストだからと言ってくれぐれもカンニングはしないように」

 

 

 

 

 

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さて、どうしたものか。この小テストは何点を取ればいいんだ?入学試験とは違って基準点が曖昧であり、正確性に欠ける。狙うなら平均よりやや下なんだが...。どうにも調節が難しい。どれを正解にしてどれを不正解にすればいいんだ?

 

レベルで言うなら最後の三問。これらは他とは違い、多少ひねられたものであることは間違いないのだがそれ以外はすべて同じ難易度のはずだ。配点も似たり寄ったり、違いはない。

 

「ふぅ...ん?」

 

前の席の自由人からは僅かながらに鼻歌が聞こえてくる。前を向くと神谷はペンを回してフンフンと陽気なオーラを纏い紙に向かっていた。

 

そんなに面白おかしく楽しめるようなテストではないのにも関わらず。というのもこのテストの難易度は極端なのだ。最後の三問、これは高校の範囲を脱している。それに対し他の小問は中学生でも努力すれば解ける程度。つまりは最後の三問が解ける実力があるのなら他は退屈であり、実力がないのなら最後の三問は楽しくないと感じるはずなのだ。

 

じゃあなんで神谷はこんなに楽しそうなんだ...?

 

そう好奇心を胸に僅かながらに見える紙の端を覗いてみる。

 

「ふふーん♪よしっ」

 

いや、落書きかよ...。正気か...?

 

よしっ、じゃないと思う。テスト中に落書きなんて普通に考えてしないのが正解だ。そもそも落書きに使う労力も無駄に...

 

「っ!」

 

いや、待てよ?神谷が起こす行動はすべて楽しさで形成されている。それは本人も自覚済みのはず。だとしたらこれは楽しいことの一環となる。そう言われてみればテストに落書きと言うのも普通に青春の一部のようにも思えてくる。なるほど。そういうことだったのか。

 

※多分違う

 

となれば急ごう。時間が足りないかもしれないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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キーンコーンカーンコーン

 

「そこまで。回答を止めろ」

 

「ふぅ...」

 

チャイムと同時に茶柱先生の声が飛ぶ。...何とか終えることができた。かなりの力作だ。意味のないこともやってみると意外と達成感があるんだな。

 

「ねぇねぇ!清隆君!見て見てっ!」

 

「俺...?」

 

そこには俺を抽象化したいかにもぬいぐるみに使われていそうな絵が描かれていた。

 

「そうそう!ミニ清隆君!可愛いでしょ~」

 

「ああ、誰かに描かれたことがなかったからかなり嬉しい。ありがとな」

 

「うんっ!どういたしまして!」

 

照れくさそうに頬を染める神谷を前に自分が描いた絵を思い出す。これは見せるべき...だよな?

 

「あーその...なんだ?俺も実は絵を描いてみたんだが...」

 

「え!見たい見たい!清隆君の絵!」

 

「ああ、いいぞ。これなんだが...」

 

「わぁ!すご...い...あれ?これって、私?」

 

俺の描いた絵。それは目の前で楽しくお絵描きをしていた神谷そのものだった。かなり写実さを優先したので見栄えとしては悪くないはずだ。

 

「そうだ。他に題材が見つからなくてな」

 

「そうなんだ。...えへへっ。見てるとなんだか心温まる絵だねっ。ずっと見ていたいくらいだよ!」

 

絵に目を輝かせながら頬を緩めている神谷にどこか満足感を噛みしめてみる。少しだけ心拍が遅くなった気がした。

 

「そうか。そう言ってもらえると描いた甲斐があるな」

 

「うん!嬉しいなぁ~!...あっ!そうだ!清隆君!これ私にくれない?」

 

「これを...か?そんなに丁寧には描いてないが、いいのか?」

 

「うん!清隆君が自分の意志で私を選んでくれた証としてこれが欲しいんだっ!」

 

少し語弊がある気がするのだが、...まぁいいか。

 

「それなら別にいいぞ」

 

「やったぁー!大事にするね!」

 

大事そうに俺のテスト用紙を抱きしめる神谷。おいおい、そんなに抱きしめたらしわくちゃに...ん?テスト用紙?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さて、この空気をどうしてくれるのかしら?すけこまし君?」

 

「あっ」

 

「テスト用紙で恋愛ごっこなんていいご身分ね。学生の本文は勉強にあるのをお忘れかしら?いえ、忘れているのね可哀想に。今すぐ思い出させてあげるわ」

 

「おい堀北。落ち着いてくれ。なんでコンパスを抜け身で持って...痛い...」

 

「当然の報いね」

 

なんでこんな目に...。やはり神谷うりを模倣するとろくなことにならない。

 

「私の絵か...。えへへ」

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「採点するので両方とも没収だ」

 

「ふぇ!?ガーン...」

 

「当たり前でしょう...」

 

 

 

 

 


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