三人称視点って難しいよね...。初めて書きました。
間幕 嵐の前の静けさ
テストが終わり、池たち三馬鹿はいつも通りに大声で雑談していた。そんな中、池がふとある疑問を投げかけた。
「────そういえば綾小路と神谷って付き合ってるんだよな?」
「なんだよ池?そんな急に」
「いやーな?さっきのテストのこと思い出してな?ちょっと気になったんだよ」
先程、クラス全員に見せつけられた綾小路と神谷による絵の見せ合い。それは思春期真っ只中の池たちにとって、異性との過剰な関わりと恋愛はほぼ一緒と言っても過言ではない。ただ仲が良いだけに見えるはずがないのだ。
「そうなんじゃねぇの?あんだけ仲が良かったら普通付き合うだろ。綾小路は普通に友達だとか言ってたけどな」
不思議そうにはしつつも、綾小路との何気ない会話を聞く限り、付き合ってはいない様子に何とも曖昧な返答を返す須藤。そんなそんな須藤に池は頭を傾げた。
「ん?健はいつの間に綾小路と仲良くなったんだ?」
「ああ、前コンビニで上級生と言い合いになった話したろ?その場にたまたま綾小路たちが居てな、散らかしたモンを一緒に片づけてくれたんだよ。それからたまに話すってだけだ」
入学初日、綾小路たちは帰宅途中にコンビニに寄っていた。それもその筈。なぜなら寮には最低限度のものしか備えていないからだ。その状態では帰ったところで晩御飯すらない状況になってしまう。だから近くのコンビニへと食料調達がてら向かっていたのである。
「なるほどなぁ~。それじゃあ付き合ってない可能性も出てきたってわけか」
「そんな訳ないってwただの照れ隠しだろ。実際、あいつらがデートしてたところ見たことあるし!」
この男、嘘である。意気揚々と言い放った山内は二人のデートなど見ていない。いや、見ているはずがないのだ。なぜなら二人は一度もデートをしたことはないのだから。
山内は極度の虚言癖がある。それが特に意図的ではなく、主に見栄を張るためだが特に意味はない時もある。つまりは気まぐれで適当なのだ。
「...まぁいつも一緒にいるしな」
「ただ遊んでただけじゃねぇの?」
そんな山内の発言は、二人には特に響かなかった。当たり前のように一緒にいる綾小路たちでは容易に想像できる内容だったからだ。池たちの反応にこれはまずいと思ったのか山内は少し口を走らせる。
「そ、そんなことねぇって!プールの時だってまな板押し付けてたじゃねぇか!」
「あーあれな。でもあれは可哀想だったわ。最初はけしからんとも思ったけどよ、痛そうな綾小路の顔見てたらご愁傷さまだなって」
「だよな。やっぱり大事なのはボン、キュッ、ボンだろ!」
「だな!」
須藤に大きく賛同する山内。その裏には安堵が含まれていたとかいないとか。
「でもいいよなぁ~!あんな可愛い子とイチャイチャできるなんて羨ましいぜ!あー俺も櫛田ちゃんとイチャイチャしてぇよ」
頭を抱えるように願望を口にする池に対し、山内は鼻で笑った。
「でも綾小路も大変だろ?神谷って小柄で可愛いけど性格があれじゃあなぁ...」
「あー胸も残念って感じだもんな。自由人つーか、変人だよな」
「そうそう、高円寺といい勝負だよな。教室では気づいたらあちこち動き回ってるし」
「他にも、廊下走り回ったり、知らん奴に馴れ馴れしく話しかけたり、ベクトルは違うけど自由度で言えば高円寺以上だもんな。唯一の救いは元気で積極的ってとこか?」
「...改めて考えると綾小路って意外と苦労人なのでは?」
池たちの頭には総じて、神谷という猛獣を何とか宥める綾小路の姿が映し出されていた。いかにも苦労人という風格だった。
「…そういえば神谷って運動系の部活で体験入部しまくって荒らしてるって聞いたけど、実際のところどうなんだ?」
「ああ、バスケ部にも来てたけどよ、あいつ初心者なのにすげーうめーんだよ。ありゃ男子と混ざっても問題ないレベル。ま、もちろん俺には及ばないけどな」
負けず嫌いな須藤がここまで褒めることに驚きを覚えつつ、池は改めて疑問に思ったことを吐き出した。
「ほんとあいつって何がしてーんだ?なんか分かんねーわ」
「──-誰が分からないの?」
「誰って?そりゃあ貧乳大明神...え?」
聞き覚えのある声に体が硬直する。池は瞬時に自分がどのような立場にあるのかを理解したのだ。その声は明るかった。なのに感情が籠っておらず、何故か背筋に悪寒が走る。池は声のする背後へと首をグギギギと動かした。
「か、神谷さん?いつからここに...?」
「...あはっ!」
神谷の狂気とも言える笑顔を見せた次の瞬間、池たちの鳩尾には綺麗なブローが突き刺さった。
「清隆君!食堂行こー」
「お、おう」
(((((えげつねぇ...)))))
おまけ コンビニにて
「うーん...どれにしよっか?清隆君」
「悪いな。自炊したことがないから分からないんだ」
「む~じゃあ、これからはどうするの?寮生活だよ?」
ジト目で腰に手を据える神谷。何故そのような目を向けられているのか疑問でならないのだが。
「カップラーメンというものを食べてみようと思ってる」
「駄目だよ!そんな高カロリーなもの食べちゃ!健康には気を使わないと!」
膨れ顔でそう詰め寄ってくる神谷の勢いの強さに困惑しつつも、友達とはこんなものなのかと実感が湧く。あの白い部屋では培えないもの。...悪くは感じないな。
「お、おう。そういう神谷は自炊が得意なのか?」
「うん!お料理って楽しいんだよ!豚さんや牛さん、お野菜さんを切り刻むのとか!火で焼くのとか!」
「そ、そうなのか...」
きっと悪意はないのだろうが、文面をそのまま想像するととんでもない猟奇的な絵面になる。言い方というものがあると思う。
「じゃあさじゃあさ!もし良かったら私が──-」
「──-うるせぇよ!」
「うひゃい!?」
神谷が何かを言いかけたと同時にそれを遮るように大きな声が響く。神谷はその声に耳を手で覆って涙目になっていた。
「にゃ...にゃにが起こったの?」
「どうやら揉め事らしいぞ」
「うにゃ?」
声の方に目を向けるとコンビニの外ではいかにも気性の荒そうな生徒が他の生徒二人と言い争っていた。片方は須藤と言ったか?クラスメイトだ。二人の方は上級生か?
「ふざけんじゃねぇぞ!そこにカップラーメン置いてあるだろうが!」
「ああ?関係ないだろ。もともとここは俺ら二人で居たところだ。一年は先輩を敬ってどっかいけ」
「敬うに値しねぇやつが何言ってんだ!とっとと退けや!」
どうやら、居場所を巡ったいざこざのようだ。どんどんヒートアップしていく中、二人組の片方がもう片方にひそひそと耳打ちした。それを聞いた途端、二人は嘲笑うかのように顔を見合わせて笑い始めた。
「ははは!なるほどな!」
「おい...!なに笑ってんだよ!」
「いや、何でもねぇよ。まぁいいぜ。先輩のよしみだ。ここは譲ってやるよ」
「はぁ?」
先輩たちの突然の心変わりに疑問の声を漏らす須藤。そんな須藤を気にすることなく二人組は饒舌に話を進める。
「だからここは譲ってやるって言ってんだよ。あとついでに当ててやる。お前Dクラスだろ」
「はぁだから何だよ?」
「ぷはははは!マジかよこいつ」
「馬鹿だ!馬鹿がいる!」
腹を抱えて笑う先輩たちは、呆気にとられている須藤に向かってこう言い放った。
「せいぜい今を楽しむんだな!落ちこぼれクン」
「来月が楽しみだなぁ!」
「おい!...クソが。どういう意味だよ!」
それをだけを言うと先輩たちは須藤に構うことなく、どこかへ歩いて行った。須藤は納得いかないのか、近くのものに当たり散らしている。
「...すごく怒ってるね?どうする?このまま二人で潜伏しちゃおうか?」
しばらく静観していると横から神谷が手を添えてひっそりと話しかけてきた。いやここは店内だから声を潜める必要はないはずなのだが、本人が楽しそうなのでまぁいいのだろう。
「そうだな。これ以上は流石に店の迷惑だし、注意してくる」
「あっ...む~仕方ないなぁー。でも...」
そう言って横に並ぶ神谷の顔は初めて見た宝石のように輝いて見えた。
「これから