仮面ライダーアスロン   作:彦星七

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第二走「凛然たる投擲、仮面ライダースルーズ」

「貴女も……仮面ライダー」

 

 レストランソゴーに現れた女性、三嶋冴は仮面ライダーであるという。その情報は健貴を驚かせるには十分過ぎた。

 スパルタンに対抗する仮面ライダーは自分しか存在しないという認識はこの瞬間崩れ落ちた。そして仮面ライダーが出会った時、何が起こるのかを健貴はまるで理解していなかった。

 だがそんな健貴の後ろのカウンター席で話を聞いていた田代は冷静だった。

 

「タッちゃん、落ち着いた方がええ。相手は役所の人間や。挨拶だけして、ほなバイバイってなるわけはない」

 

 田代の言葉に健貴は我に帰った。

 地主として色んな人と関わってきた田代は健貴や美沙に比べると、人を見る目は間違いなく高い。普段はてきとーな爺ちゃんだが、こういう時の田代は本物だった。

 

 そしてその田代の言葉に、冴も反応した。

 どうやら図星だった様で、一瞬引きつったような表情を見せた。だがそれもすぐに改めたのか、再び堅苦しいほどに真剣な表情を浮かべた。

 

「そちらがそう理解してくれるなら話は早い。本題に入らせてもらいたい」

 

 冴はそう言い、許可を求めた。当の健貴はなんとか回避したかったが、最早断ることすらできない状況に追い込まれていることを悟った。

 

「わかりました……美沙ちゃん、臨時休店の札を出してきて」

「は……はい!」

 

 健貴がそう言うと、美沙は慌てる様に倉庫に札を探しに行った。

 

「協力感謝する」

 

 冴はそう言うと、健貴に促されたテーブル席に座った。そして鞄の中からクリアファイルを取り出すと資料をテーブル席の上に並べていった。

 

「……」

 

 同じくテーブル席に座った健貴は無言でその資料を見つめる。

 それらの資料には、先ほど対峙したフットボールスパルタンのようなスパルタンの写真が載っていた。それらのスパルタンの中には、過去に健貴が仮面ライダーアスロンとして戦ってきたものもあり、記憶にも残っていた。

 

「おー、おったなー! こんなやつ」

 

 健貴の横に椅子を持ってきた田代が懐かしむように声を上げた。

 

「これは極秘情報であり、関係者以外は……」

「わしはタッちゃんの保証人や。ここもわしの土地やし、十分関係者や」

 

 覗き込もうとする田代を制止しようとした冴だったが、逆に田代にそう言われてどうやら諦めたらしい。

 ちなみに真実を言うならば、レストランソゴーの土地は田代の土地で間違いないが、健貴と田代の間に保証契約は結ばれていない。田代の完全な嘘だった。

 だが健貴はそんなこと否定するつもりはなかったし、冴には確認のしようがない。

 結果として田代は同席が認められ、偶然だったが嘘が良い方向に進んだ形だった。

 

「知っているとは思うが、最近アスリートや市民が暴走・変異する現象が報告されている。共通しているのは、ベルトのようなものが原因になっているということだ」

 

 そう言いながら、冴は資料内の写真のスパルタンの腹部を指差していく。そこにはどれも共通して、ベルトのバックルのようなものが見える。

 実際、健貴自身も過去に対峙したスパルタンがベルトを使って変身するのを見たことがあった。

 

「その変異の際に「Change Spartan」と音声が聞こえることから、この変異体のことをスパルタンと仮に命名した……まぁ、ここまでは知っているだろう?」

 

 冴の確認に健貴は無言で頷く。「当たり前だ」と言いたい気持ちだった。

 

「そのベルトは一度使用すると使用者の身体能力を底上げできるが、性格は暴走的になることが確認されている。そしてその結果、引き戻せなくなり、最終的にスパルタンとして破壊的になる。

 そんなことは富体市としても看過できない。私の所属するスポーツ管理課有事対応担当がその対応をしている」

 

 冴はそう言いながらテーブル上のスパルタンの写真を一纏めにして、端に置いた。そして追加で別の資料を机の上に出した。

 

「だがそこにイレギュラーな存在が現れた。それが君、仮面ライダーアスロンだ」

 

 冴が追加でテーブルに出した資料に映っていたのは仮面ライダーアスロンだった。いつ撮影されたものかはまるでわからないが、それは紛れもなくスパルタンと戦っている時のアスロン、つまり健貴だった。

 

「君がどういった理由で活動を続けるのかはわからないが、君の活動はSNSでも話題になっていたりする」

 

 冴の説明を聞きながら、健貴はアスロンに関する資料をめくった。そこにはユーザー名は伏せられていたもののSNSの投稿が載っていた。

 

「『赤黒の格好の人が凄い勢いでバイクで走ってた! あれが話題の仮面ライダーなのかな!?』……やって。人気者やな、タッちゃん」

 

 苦笑いしながら田代が健貴の背中を叩く。

 健貴もSNSの投稿されていたと聞いたことはあった。だが健貴自身はSNSに疎いし、美沙は別のSNSサービスしか利用していない。ましてや60歳を超えた田代はスマホの操作さえおぼつかないから、レストランソゴーのメンバーがその投稿を見たのは初めてであった。

 

「市民の人気は高いみたいだが、市としてはスパルタンの存在すら未だ公表していない以上、君に好き勝手活動されるのも都合が良くない。そこで……」

 

 資料を見ていた冴は、健貴の方に真っ直ぐ顔を上げた。

 

「仮面ライダーアスロンの変身用媒体、つまりベルトを引き渡してもらいたい」

 

 冴はそう言い放った。

 その言い方は既に決定事項であるかのような、力強い物言いだった。

 

「引き渡したらベルトは……アスロンはどうするんですか」

 

 視線を変えずに健貴が問う。

 彼が心配しているのは、そこだけであった。

 

「市の方で新たな適合者を用意する。そしてアスロンは市の管理で活動をすることになるだろう」

「そうですか……」

 

 冴の答えに健貴はふうっと息をついた。

 

「お断りします。自分以外の人間に、アスロンは譲れません」

 

 そしてキッパリと力強く、健貴は逆に言い放った。その目は据わっており、一点の迷いも感じられなかった。

 

「そうか。だが、だからと言って市もそれで良いというわけにはいかない」

 

 冴はテーブル上の資料を片付けた。そして全てを鞄に戻すと、静かに席を立つ。

 

「また日を改める。だが次は君のベルトを差し押さえるつもりでくることになるだろう」

 

 そう言うと冴は「迷惑をかけた」と言って、1人店を出て行った。

 

「なーんか、お役所様な性格のやつやったのう。あんなやつ、わしは好かん」

 

 田代がそう言いながら、ガブっと水を飲む。確かに田代にとってサバサバとした感じの冴はあまり好かないタイプの人間だった。

 

「そうだね……」

 

 健貴は田代にそう言い返したが、頭の中にあるのはただ一つ、冴の発言だった。

 

 君のベルトを差し押さえるつもりでくることになるだろう……

 

◯◯◯

 

 富体市の山手側に位置している富体国際大学。その広いキャンパスの中で屋内運動場は、大きな盛り上がりを見せていた。

 行われているのはバドミントン部のシングル試合。放たれたスマッシュが対戦相手の横をすり抜け、コートに強く突き刺さった。

 

「すごい……! また麻友子のスマッシュが決まった!」

「亜美を圧倒するなんて……!」

 

 その試合は3年生の鷹田麻友子と、同じく3年生の板崎亜美の練習試合だった。練習とはいえその2人の試合は、バドミントン部の他のメンバーを唸らせるほどの猛烈なものだった。

 

 そして時計の針が倍の速さで進むほど、盛り上がりを見せた試合は、麻友子が僅かな差で勝利した。

 

「麻友子すごーい! かっこよかった!」

「対抗戦が待ち遠しい!」

 

 バドミントン部のメンバーは皆、麻友子に群がった。急成長を遂げた彼女はバドミントン部の新エースとして迎えられようとしていた。

 だがそんな中で、唯一麻友子を睨む人物がいる。

 練習試合で敗北した板崎亜美だ。

 亜美はそれまでバドミントン部のエースとして、対外試合や交流戦で活躍してきた。今回の練習試合もバドミントン部の最強として、麻友子の挑戦を受けた形だった。

 それが結果的には亜美は防戦一方で、麻友子に及ばなかったのだ。

 自らのエースの座が脅かされたという気持ちはあったが、それ以上に亜美は麻友子に対して不信感を抱いていた。

 

 麻友子の成長スピードがあまりに異常だったのだ。

 

 同じ3年生ということもあり亜美は麻友子の実力は知っていた。

 それまでの麻友子は良くも悪くも普通だった。地味だが粘り強い試合を見せる時もあれば、あっさりと負けるような時もある選手だった。

 そんな麻友子はここ1ヶ月ほどで急成長を見せた。つい先ほどの練習試合では力任せなスマッシュすら見せたほどだった。

 亜美には麻友子のそんな変化が信じられなかった。1ヶ月で突然、プレイスタイルが変わるほどの成長があるだろうか。

 もちろん努力もあるのだろうが、亜美は「絶対何かやってる」と麻友子を疑っていた。

 

 そして部活終わり。

 

「ねえ、麻友子」

 

 部員がいなくなったタイミングで亜美は麻友子を呼び止めた。

 

「今日の練習。私の完敗だったけど、どんな練習してたの?」

 

 いたってシンプルな質問だった。負けた亜美としては、勝者の練習方法が気になるのは至って自然であり、なんの違和感もない。

 

「えっ……? 普通の練習だよ……ほら、筋トレとか」

 

 麻友子が取り繕うようにそう返事した。

 その答えに亜美は直感的に違和感を覚えた。そもそも麻友子のこれまでの練習は知っているからこそ、急成長の理由が「普通の練習」であるはずがない。

 何かを隠している……亜美はそう認識した。

 

「ねぇ、麻友子。様子変だよ? 何か隠してる?」

「そんなことないよ……普通だよ」

 

 口で否定してるものの、麻友子は焦っているように見えた。狼狽と言えるのかもしれない。

 

「ねぇ麻友子、教えてよ」

 

 亜美がそう言って麻友子の肩に触れた。

 その時だった。

 

「やめて、触らないで……!」

 

 麻友子がそう叫ぶと、左手で亜美の手を振り払った。

 

「っ……!?」

 

 突然、亜美はバランスを崩して後ろに尻餅をついた。

 いや、違う。

 亜美の体は2メートルくらい後ろに飛ばされたのだった。

 

「えっ……」

 

 突然の出来事に亜美は何が起こったのかを理解できなかった。だが地面に強打した太ももがジンジンと響くように痛むことから、否が応でも麻友子に吹っ飛ばされたという事実を思い知らされた。

 

「亜美……ごめん。でも知られたらダメなの」

 

 麻友子はそういうと、服をチラッとめくる。Tシャツの下にはインナーだろうか、何か機械のようなものを着用していた。その腹部にはバックルのようなものが見える。

 そして手には不気味な小さな端末が握られていた。

 そんな麻友子を見て、亜美は直感的に危険を察知した。

 

「麻友子……何……何するの……」

 

 声をかけても麻友子は止まることがなかった。

 手にした端末のボタンを押すと、腹部のバックルに押し当てる。

 

「GIPS ON……badminton……badminton……」

 

 麻友子のものではない不気味な声が響く。

 

「麻友子……私たち友達だよね……?」

「うん。でもごめん……亜美、許して……」

 

 怯える亜美とは対照的に麻友子は黒い覚悟を決めていた。

 バックルから煙が吹き出す。その煙は麻友子を取り込み姿を変えていった。

 全身が皮のような物に包まれる。その上から肩や背中から、シャトルコックを思わせるような羽が生える。

 右手の先端は金属製のラケットになっており、左手は大砲のような形になっている。

 頭は右半分が鳥の目のように鋭い目で、左半分はシャトルコックを真っ二つにしたようなものが取り付いていた。

 

「Change……Spartan」

 

 そう声が響くと、麻友子は異形と化していた。

 麻友子が変化したスパルタンは、天に向かって咆哮すると、背中の羽を力強く羽ばたかせ始める。

 

「ま、麻友子……」

 

 亜美は一連の流れに既に恐怖を覚えていた。

 そんな亜美の瞳に映るのは、かつての友人……バドミントンスパルタンだった。

 

◯◯◯

 

 三嶋冴が来店した日の翌日は、ディナータイムの営業がない木曜日だった。

 ランチタイムの営業を終えた健貴は1人静かに洗い物をしていた。ただその頭の中にあるのは冴の発言であった。

 

「次は君のベルトを差し押さえるつもりでくることになるだろう……」

 

 どのようにするのだろうか。

 役所業務について、全く詳しくない健貴はその方法がわかるはずもなかった。ただ健貴自身も仮面ライダーとしての自分を譲るつもりはなかった。

 ゆくゆくは健貴自身が市役所から追われる立場になるのかもしれない。自らが対峙してきたスパルタンと同じように……

 そうなると自らの仮面ライダーとはなんなのだろうか。果たして正しい存在なのだろうか……

 

 皿を水で流していた、まさにその時だった。

 店のカウンター席の方から勢いのある着信音が鳴った。それは健貴のスマートフォンであり、健貴が好きな一昔前のスーパーロボットものアニメの主題歌だった。

 電話は美沙からだ。

 今日は午後の営業がない日で、美沙のシフトも当然にない。予期せぬ電話に驚きながらも、健貴はスマートフォンを手に取った。

 

「美沙ちゃん、どうした……」

「店長! スパルタンです……! 大学にスパルタンが出ました……」

 

 スマートフォンから美沙の声が響く。

 その叫びの後ろからは大きな衝撃音も聞こえていた。

 

「美沙ちゃん! 怪我してるのか」

 

 健貴は夢中で電話に問うた。

 蛇口の水が流れ続けていることなど、まるで気がつかないくらいに。

 

「私は大丈夫です……でも怪我してる人はいるみたいです」

 

 美沙のその声が健貴の頭の中に響いた。

 止まっていた神経に電流が走ったようだった。

 

「わかった。いま行くよ」

 

 そう言うと健貴はスマートフォンの電話ボタンを切った。

 

 今、健貴の頭を支配していたのは戦う覚悟だった。

 美沙からのSOSを聞いて、大人しくできるほどの利口さを健貴は持ち合わせていなかった。

 結局のところ健貴は戦士だった。

 

 美沙の大学は富体国際大学だ。

 富体駅に近いレストランソゴーに対して、大学のキャンパスは富体市の山手にある。決して近くはない距離だった。実際、美沙もアルバイトでレストランソゴーに来る時はバスを使っている。

 だがだからと言って、ここで健貴が時間をかけるわけにはいかなかった。到着が遅れるほどスパルタンによる被害も拡大する可能性があった。

 慌ただしく店内を行き来していた健貴は、やがて水道の蛇口を強く締める。そして腰につけていた黒いエプロンを、走りざまにカウンター席に投げた。

 

 その2分後。

 レストランソゴーから一台のバイクが走り去っていった。

 

◯◯◯

 

 富体国際大学ではバドミントンスパルタンが盛大に暴れていた。

 特徴的な羽を広げながら空地を舞い、左手の大砲から次々にシャトルを勢いよく放つことで、階段や道路に窪みを作っていた。厄介なことに一つ一つの攻撃に距離が出る性質のため、麻友子自身が意識していなくても被害が拡大してしまっているらしい。

 その周りでは学生が悲鳴を上げて逃げており、その反対に正門に立っていた2人の警備員がバドミントンスパルタンに向かってきていた。

 

「止まれぇ!」

 

 警備員の静止の声にバドミントンスパルタンが一瞬、動きを止めた。その隙に警備員は前と後ろからさすまたを突き出した。

 バドミントンスパルタンは動きを封じられた。誰もがそう思った時だった。

 

「がぁああ!!!」

 

 バドミントンスパルタンは呻き声をあげて、背中の羽を大きく動かした。それで巻き起こった風は見えない力となり周囲を巻き込んだ。

 

「うぉお……!?」

 

 警備員2人は最も簡単に吹き飛ばされた。

 もはやバドミントンスパルタンを止めうるものは誰もいなかった。

 

 健貴に連絡した美沙は暴れるバドミントンスパルタンを遠くに見ながら、健貴からの万が一の依頼に備えて身を低くしていた。別に頼まれたわけではないが、健貴が来るまでは仮面ライダー側の人間としてこの場を支えないといけないという思いが美沙にはあった。

 

「でもあのスパルタン、羽があるからスピードも速いし……」

 

 迂闊に近づくことはできない。

 どうすれば良いか美沙が頭を捻っていた時だった。

 

「あれ……もしかして」

 

 スパルタンの側の茂みで蹲っている女子学生を美沙は視認した。

 

「亜美……!」

 

 女子学生は美沙と同じゼミに所属する板崎亜美だった。その様子はスパルタンに襲われたのか、怪我の有無など全くわからない。

 だが美沙は何も考えずに建物の陰から飛び出した。友達の1人として、見捨てることは出来なかった。

 バドミントンスパルタンの横をすり抜けるように美沙が走る。

 キャンパス内の道路を横断して、板崎亜美が転がっている茂みにたどり着いた。

 

「亜美ちゃん、大丈夫!?」

 

 美沙はしゃがんで亜美の体を揺すった。

 

「美沙ちゃん……? 大丈夫じゃない……足が痛い、折れてるかもしれない……」

 

 美沙に対して亜美はそう反応した。どうやら命に別状はないが、右足の骨折が疑われるほどの怪我を負っているようだった。

 もちろん安静にして医者に診てもらった方が良いのは当然だ。だがこの場ではスパルタンの攻撃で更なる怪我を負いかねない。

 亜美の足に負担がかからないように、美沙が抱き抱えようとした時だった。

 

「美沙ちゃん……後ろ……!」

「えっ……」

 

 亜美の声に美沙は思わず振り返る。

 するとすぐ後ろまでバドミントンスパルタンが迫っていたのだった。そしてスパルタンは右手の大きなラケットを振り上げ始めた。

 

「あっ……」

 

 この場から離れなければ危険だ。

 そんなことはわかっているが、美沙は体が硬直して動けなくなっていた。

 

「た……た……」

 

 助けて……

 

 声にもならないような声で、美沙が叫んだその時だった。

 

 ブルォオオオン!!! 

 

 目の前に突如として金属の塊が飛んできた。熱がこもったバイクはバドミントンスパルタンを轢き飛ばし、はるか後方へ退けた。

 

『On your mark! On your mark!』

 

「店長……!」

 

 美沙と亜美の前に健貴が力強く立つ。

 あと僅かなところで間に合った健貴は、すでに戦いに入ろうとしていた。

 

「美沙ちゃん、その子を連れて離れられるかい?」

「はい!」

 

 美沙からの力強い返事に頷いた健貴を光が包み込む。

 

『Spartan! Athlon! Sprinter!』

 

 黒とスカーレットのスーツの戦士、仮面ライダーアスロンが起き上がったバドミントンスパルタンに向かって構える。

 

「うぁああああああ!!!」

 

 バドミントンスパルタンが右手のラケットを振り下ろす。

 だがその一撃をアスロンは両手をクロスにして受け止めた。そして逆に勢いよく腕を押し上げて、バドミントンスパルタンを押し飛ばした。

 

「このまま……!」

 

 アスロンは追い討ちで必殺のライダーキックを決めようと、右手でベルトをタッチした。

 だがそれと同時にバドミントンスパルタンは背中の羽を動かして大きく飛翔した。そして空中から左手の大砲でシャトルを撃ちつけてくる。

 

「ぐっ……」

 

 シャトルの攻撃はアスロンを掠めるだけで、深刻なダメージは入らない。

 だがそれと同時に飛翔するスパルタンには、アスロンとしてもなす術がない状況になっていた。

 

「ライダーキックのエネルギーを転用すればあそこまでは届くだろうが……」

 

 アスロンのライダーキックのエネルギーで地面を蹴ってジャンプすれば、バドミントンスパルタンの高さには届くはずだ。だがそれ以上の動きは厳しく、スパルタンに躱されてしまえば何の攻撃もできないだろう。

 

 スーツの下で健貴が歯を噛み締めていた時だった。

 

「どうした。仮面ライダーアスロンはその程度か」

 

 後ろから凛とした女性の声がした。

 振り返るとそこにいたのは市役所の三嶋冴だった。パンツスーツの上からアスロンよりスタイリッシュなベルトを装着していた。

 

「スパルタンは市役所の下に対応する」

 

 そう言うと冴は手にした端末(ライダーキー)のボタンを押した。

 

『Cross and Step! Cross and Step!』

 

 冴のベルトからコールが始まる。

 冴の体を上下に濃紺の光が流れていく。

 

「変、身っ!」

 

 冴が光に包まれる。

 

『Spartan! Thrud! Thrower!』

 

 ベルトから音声が流れると、冴は姿を変えていた。

 シルバーとシアンのスーツに、蛍光レッドの丸い複眼。陸上選手を思わせるようなデザインのスーツは、アスロンのカラーリング違いであり、冴の体型に合わせて若干スリムになっているようだった。

 ただアスロンとは異なり右手に細長い銀とシアンの槍、スルーズジャベリンが握られていた。

 

「仮面ライダースルーズ。市民を守る仮面ライダーだ」

 

 冴は、仮面ライダースルーズは高らかに言い放った。それはバドミントンスパルタンだけではなく、アスロンに向けて言われたものだったのかもしれない。

 

「仮面ライダーアスロン、その姿でいるのならばこちらの邪魔はしてくれるな」

 

 スルーズはそう言うと、その場でグッと踏み込み勢いよく右手の槍を投げた。

 その槍はただまっすぐに、スパルタンに向かって空を突き進んでいく。

 

「ぎゃあああ……!!」

 

 空中で槍はスパルタンに命中し、そしてスルーズの元へと帰ってくる。

 一方のスパルタンは、飛翔の自由を失い墜落を始めた。

 

「いまだ!」

 

 墜落するスパルタンに向かって、アスロンは駆け出した。そしてタイミングを合わせて回し蹴りを放つ。

 垂直に落ちていたスパルタンはアスロンの蹴りで、勢いを増して地面に叩きつけられた。

 

「はぁあ!」

 

 地に落ちたスパルタンに向かって、スルーズが追い討ちで槍の乱れ突きを放つ。

 その5連続の突きはバドミントンスパルタンに決定的な一撃となった。

 そしてこの攻撃はスパルタンの戦意を完全にへし折った。攻撃を受けてボロボロになった羽を動かして、逃れようとしていた。

 

「決めるぞ!」

 

 アスロンとスルーズは同時にベルトをタップした。

 

「Speed Goal Athlon!」

「Flying Javelin Thrud!」

 

 2人のベルトからコールが響く。

 

 まずスルーズが槍を肩に担ぐように、右手で構えて踏み込みを始める。

 それを見ながら、アスロンはクラウチングスタートの構えを取った。

 

「ライダースロウ! はぁあああ!!!」

 

 前倒する勢いで、スルーズが槍を投げる。

 その槍は弾丸のごときスピードでバドミントンスパルタンめがけて突き進む。

 そしてアスロンもスタートを決めて、その勢いのままジャンプをする。

 

「ライダーキック!」

 

 バドミントンスパルタンに槍が突き刺さると、アスロンが釘を打つような格好で槍の逆側に飛び蹴りを放つ。

 アスロンの蹴りが加わった槍はバドミントンスパルタンを貫いた。

 

「きゃあああ!!!」

 

 バドミントンスパルタンは爆発を起こしたかと思うと、すぐにその体は崩壊していった。

 そしてキャンパス内の道路に、鷹田麻友子が倒れ込んだ。目立った外傷はないが、どうやら気を失っているようだった。

 

「スパルタン……スポーツの世界には不要な存在だ」

 

 仮面スルーズ、三嶋冴がそう言いながら槍を拾う。

 

「だからこそ私は市民を、アスリートを守るために戦っている」

 

 そう言うとスルーズはアスロンに向かって槍を向けた。

 

「君は何のために戦っているんだ?」




 健貴と冴。
 スパルタンに対して仮面ライダーとして戦う2人だが、その立場は異なっていた。
 覚悟を示すため冴と戦う健貴。そして健貴の秘めた過去が明かされる。

 次回、第三走
 「戦いの覚悟」
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