Fate/Grand Order × まほうつかいの箱『乙女聖匣 ケース:トライテン -星明かりの迷宮へようこそ-』   作:ひゅーzu

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 この物語は、『Fate/Grand Order』と、同じくTYPE-MOON作品『まほうつかいの箱』のコラボイベント風の二次創作です。
 冒頭、FGO第2部本編「非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」までのシナリオ状況のネタバレを含みます。あらかじめご容赦ください。
 また、コラボイベントをイメージする関係上、『まほうつかいの箱』ならびに関連作品『スターリット・マーマレード』の物語に関わる内容も含んでしまいます。こちらもあらかじめご理解いただいた上でお読みいただけますと、幸いです。

 本プロローグも含めて、物語は全部で『六節』を予定しております。長文ですので、お時間のある時にお読みください。それでは。
 
 


『プロローグ』

 

 

 

 

 

 ──────(ユメ)を見ている。

 

 

 (ユメ)の中の()は、目の前に続く階段を、

 一段、また一段と、降り続けている。

 

 階段には手摺(てすり)はなく、

 周囲に壁さえもない。

 

 暗闇の中に、ぐるぐると。

 

 ヘビのように、とぐろを巻いた階段が続く。

 

 

 そんな退屈な(ユメ)

 

 あまりにも味気なく、いい加減 引き返せと、

 文句のひとつも言いたいのだけれど。

 

 一向に足が止まる気配がない。

 

 きっともう、

 なにが目的かなんてどうでもよくなって、

 ただ戻るに戻れなくなったに決まっている。

 

 

 ──────本当に。

 (ユメ)の中まで、意固地にならなくてもいいのに。

 

 

 

 

 『プロローグ』/

 

 

 

 「さて。これで全員お集まりいただけましたかね?」

 

 

 シオン・エルトナム・ソカリスの招集により、自分───藤丸 立香を含むカルデアスタッフたちは、"ストーム・ボーダー" の司令室に集められていた。

 

 「まったく。一体何事だと言うのかね。緊急のアナウンスはほどほどにしてもらえんと心臓に悪い!ただでさえ、異星の神(・・・・)にいつ侵攻されてもおかしくない状況だと言うのに!」

 

 冷や汗を垂らしながら抗議したのは、この "ノウム・カルデア" の()司令官(しれいかん)である、ゴルドルフ新所長だった。

 

 「ごめんごめん、今のところ、"ビーストVII" からの接触はないよ。ゴルドルフくんには、余計な心配をかけさせちゃったかな?」

 

 そう言って、舌を小さく出しながら、てへへと笑ったのは、カルデアの技術顧問───レオナルド・ダ・ヴィンチこと、通称 "ダ・ヴィンチちゃん"である。

 

 「そういう話ではない!緊急のアナウンスを出すなら、まず先に私へ五秒、いや一分ほど早く知らせてから出すように、という意味だ!心の準備というものがあるだろう!心の準備!」

 

 「───失礼。ミスター・ゴルドルフ。一分ほど早く知らせることができては、それは緊急(・・)ではありません」

 

 涼やかな表情でゴルドルフ新所長にツッコミをいれたのは、カルデアの経営顧問───シャーロック・ホームズだった。

 

 「……む。言われてみればそうだな。」

 

 そう言って、ゴルドルフ新所長は口を(つぐ)む。

 

 

 「えっと、じゃあ異星の神とは、別の問題が発生したっていうことですか?」

 

 自分の投げかけた問いに、シオンは肯定の意を込めて頷いた。

 

 「せっかくですから、今現在、私たちが置かれている状況を、ざっくりと整理しましょうか」

 

 そう言いながら、シオンは断片的な過去のログデータをモニターに映し出す。

 

 

 「私たちノウム・カルデアは、現在 六つの異聞帯(ロストベルト)───空想樹の切除に成功し、その後、ビースト幼体であるタマモヴィッチ・コヤンスカヤとの戦闘、そして和平を結びました。」

 

 その映像を見ながら、自分も自身の記憶を追想する。

 

 「しかしその帰還 直後、異星の神による襲撃が発生。拠点としていた彷徨海(ほうこうかい)を手放し、全スタッフを伴ってストーム・ボーダーによる緊急脱出を余儀なくされました」

 

 「誰一人の犠牲も出すことなく、私たちは無事に脱出することに成功しました。これは他ならぬシオンさんのおかげです。…ですよね、先輩?」

 

 そう返したのは、自身が契約することになった最初のサーヴァントであり、かけがえのない少女───マシュ・キリエライトだった。

 

 自分は彼女の言葉に、僅かに微笑みながら頷く。

 

 「あくまで演算結果に(のっと)って行動したまでですが、貴方たちからの感謝の念は、素直に受け取っておきます」

 

 そう言って、シオンは淡く微笑む。

 

 「話を戻します。……私たちはその後、トリスメギストスIIの未来予測を頼りに、ユーラシア大陸を中心に安全な区域を今もって飛行中、といった状況です」

 

 そう、彼女の説明した通り、今現在、このカルデアは異星の神との最後の決戦に備えて、あらゆる調整を行なっている真っ最中なのである。

 

 

 「……ミス・シオン。状況整理は重要だが、緊急の招集だったはずだろう。こんな悠長に会話をしていて構わないのかな?」

 

 一通りの説明をシオンが終えた(のち)、ホームズがそう訊ねた。

 

 「ええ。ですが今回にかぎっては、先ほどのゴルドルフ氏の抗議を受け止めれる余地があります。本当は緊急アナウンスの五分前に、こっそりとお伝えすることは可能でしたよ。……なぜなら、本当に緊急か否かは、現地に行ってみないかぎり(・・・・・・・・・・・・)こちらも判断できませんから。今の段階で判断材料とか、ぶっちゃけナイナイ!」

 

 そう言ってシオンは、にこやかに笑った。

 

 「え?それってどういう意味ですか?」

 

 「緊急なのは、私たちじゃない(・・・・・・・)、ってコトだよ、藤丸くん」

 

 自分の言葉に、ダ・ヴィンチちゃんはニヤリと微笑みながら返した。

 

 「俺たちじゃ、ない……?」

 

 マシュと顔を見合わせ、揃って目を丸くする。

 

 「藤丸くん、マシュさん。とりあえず、こちらの音声メッセージ(・・・・・・・)を聴いていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 シオンはそのまま、モニターの画面を切り替え、音声の再生ボタンを押した。

 

 

 

 『あー、テステス。んんっ、んんん!…聴こえますかー?世界のどこかを旅するどこかの誰かさ〜ん?こちら、救☆難☆要☆請☆デス!こちらの生存者は二名(・・・・・・)至急(CQ)至急(CQ)〜!折り返しの電話のほどを、お待ちしておりまーす!あっ、ウソ。電話じゃなくて、直接お伺いしていただけると、大変 助かりマース☆』

 

 

 

 なんだ、今の。

 

 「───さて。お聴きしてもらったわけですが、正直 私とダ・ヴィンチでは判断できませんでした。というか思考放棄。演算するのも億劫(おっくう)なほどのむさ苦しい救難要請に対しての、ご感想を誰かひとつ」

 

 「うむ。その、なんだ。……すごい元気そうだったよ?」

 

 ゴルドルフ新所長の意見に、マシュと揃って同意の意を込めて頷く。

 

 「……少しいいかな、ミス・シオン。この救難要請、内容はともかく、発信源はどこだ。判断材料ならば、そこだろう」

 

 ホームズの指摘に、シオンはニヤリと笑う。

 

 「ええ。さすがはホームズ氏。私はあくまで "緊急か否か" の判断材料がないと言っただけで、"この問題そのもの" の判断材料がないとは、一言も言っておりませんので」

 

 そう言って、シオンはモニターに発信源と思われる座標を映し出した。

 

 「ここって、日本──────?」

 

 自分もよく知る、日本列島が映し出されていたのだ。

 

 「うん。だけど、日本のどこかの都市───というわけじゃない。そもそも "地球の白紙化現象" によって、街と呼べるものはほとんど残ってないからね」

 

 ダ・ヴィンチちゃんはそう言ってため息をつく。

 

 「あくまで、発信源とされる座標がそこだったと?」

 

 「そういうことです。そして、その座標にて確認されたものは───」

 

 「待て待て!そもそもなぜそんなメッセージが届く!?我々の他に生存者など一人もいないのではなかったのか!?」

 

 ゴルドルフ新所長は困惑しながらそう訊ねる。

 

 「…ええ。しかも、常に飛行を続けているこのストーム・ボーダーに対して、"ピンポイントに" です。オマケに2000年代以降において "3G"と呼ばれている回線を用いています。あー、頭イタイ」

 

 「どういう原理で、こんな白紙化現象の環境下の中、あんな鮮明なメッセージを飛ばしたのかは検討もつかないけど、少なくとも救難を要請した人物は、私たちカルデアのことを把握しているわけだ」

 

 シオンとダ・ヴィンチちゃんは、揃って眉間に(しわ)を寄せた。

 

 「ふむ、正直 私も驚きを隠せない。魔法(・・)の領域に踏み込んでもおかしくない技術力を、恐ろしく無駄に使っている。そんな印象を受けたがね。……まあ、私は専門外なので口は(つぐ)んでおこう」

 

 ホームズは、我関せずと言わんばかりにパイプをふかす。

 

 

 「────でも。生存者(・・・)がいるんですよね?」

 

 

 真っ直ぐな眼差しで、シオンを見る。

 

 

 「……はい。あのメッセージを鵜呑(うの)みにするのなら、ですが。」

 

 そう言って、シオンは自分とマシュを交互に見つめる。

 つられて自分もマシュに視線を向けると、同じく力強い眼差しで、彼女もシオンのことを見ていたのだ。

 

 「───正直、これから私が貴方たちに投げかける問いは、無意味なものです。演算するまでもなく、答えはわかっていますから。ですがそれでも、一つの通過儀礼(・・・・)と思って聞いてください」

 

 改めて、シオンは真面目な顔つきで、言葉を続ける。

 

 「私たちの目的は、この未曾有(みぞう)の災害───異星の神による侵略、この打倒ならびに "汎人類史" を取り戻すこと。これは今この時においては、南米(なんべい)異聞帯の攻略とイコールです。…故に、それ以外は本来 "瑣末(さまつ)事" なのです。」

 

 自然と、自身の拳を強く握っていた。

 それは彼女に向けた怒りなどではなく、自分の決意を逸らさないためのものだ。

 

 「──────ですので。この信号を、私たちは無視しても構わない。人理を取り戻すという使命(オーダー)に、これは必要ないのです。……それを承知の上で。藤丸くん、マシュさん。貴方たちは、この救難に応じますか?」

 

 

 「「─────────はい!!」」

 

 

 力強く応えた自分たちに、シオンは微笑む。

 

 

 「わかりました。予測するまでもなく、計算通り(・・・・)、です!……そういうわけだからキャプテン?次の進路を変更してくれる?」

 

 そう言って、シオンは操縦席(コックピット)に座るサーヴァント───キャプテン・ネモへと声をかける。

 

 「ようやく話は終わった?けど残念、進路の変更はないよ。その目的地なら、既に向かっている(・・・・・・・・)からね」

 

 彼はそう言いながら、振り向いてニヤリと微笑んだ。

 

 「キャプテン───!」

 

 

 「コホンッ!司令官であり責任者でもある私に了承もせず、勝手がすぎるぞ諸君。だが、今回ばかりは大目(おおめ)に見よう。お前たちがそういう性格なのは、十二分に承知している。……だからこそ、私はこうしてここにいるのだからな」

 

 ゴルドルフ新所長の言葉に、ダ・ヴィンチちゃんとホームズも了承の意を込めて微笑む。

 

 「では、決定ですね!早速ですが、今回の任務の作戦会議を始めましょうか!」

 

 「いや。その前に一つ確認だ、ミス・シオン。その発信源とされる日本列島の座標には、一体なにがあるのかね?なにも、無人の荒野から発信されてきたわけではあるまい」

 

 「ええ、もちろん。先ほどはゴルドルフ氏に話の腰を折られてしまいましたが、その座標には、"明確な建造物" が確認できました。……この星に存在していた、既存の建造物からトリスメギストスIIで検索(サーチ)をかけたところ、一件(・・)だけ、非常に酷似したものが照合(ヒット)しましたよ」

 

 「それは、一体────?」

 

 「2017年現在より過去、生きて帰還した者はただ一人としていないとされる魔窟(まくつ)。ただ一つの奇跡(・・)を守るためだけに造りだされた、難攻不落(なんこうふらく)の大迷宮……」

 

 そう言って、シオンは邪気の含んだ笑顔を浮かべて、

 

 

 「───名を、"アルカトラスの第七迷宮" と。」

 

 

 その場所の名を、口にした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「あ、アルカトラスの第七迷宮、だとぅ!!?」

 

 驚きの声をあげたのは、我らが新所長。

 

 「ご存知なんですか? ゴルドルフ新所長」

 

 「知っているに決まっている!魔術世界じゃ厄ネタの一つだ!……もっとも、その性質上、私も詳しい情報までは知らんが…、極東の地で確認されるなど聞いたことがないぞ!?」

 

 自分はその場所について詳しく知らなかったが、新所長の慌てようを察するに、どうやら よほど危険な場所のようだ。

 

 「…えっと、すみません。初歩的なことから確認させるようで申し訳ないんですけど、その "アルカトラスの第七迷宮" っていうのは、どういうところなんですか?」

 

 自分の知識のなさを恥じるが、黙っているわけにもいかないのでそう訊ねる。

 

 「いえ。藤丸くんの疑問はごもっともです。こんなもの、私やゴルドルフ氏みたいなマニアックな人種の人しか調べたりしませんから!」

 

 「え? マニアック?」

 

 物言いたげな新所長をあえてスルーして、シオンは説明をはじめた。

 

 「この "アルカトラスの第七迷宮" というのは、とある上級死徒(・・・・)が作り出した、ある種の "異界" です」

 

 そう言って、シオンはモニターに、その迷宮に関する資料と思われるデータを映し出した。

 

 「まぁ、死徒に関する説明は、今回は省略させていただきます。ぶっちゃけこの上級死徒に、物理的な脅威はありません。直接対決することなんて、まず無いでしょう!」

 

 「では、その死徒が迷宮を作った理由はなんなのですか?」

 

 「自らが創り出した "聖典(・・)" を守るためです。これは真理の書───ただ一つの奇跡だと称される "それ" の実体を知る者は、創り出した彼本人と、彼に深く関係を結んだ人物くらいでしょう」

 

 「ただ一つの、奇跡───、」

 

 「正直、この聖典の正体についての推測であれば、迷宮がアグリッパの惑星魔方陣に対応した内部構造をしている等の情報から、私やホームズ氏にもある程度 予測はできますが……今回 重要なのは、この聖典ではなく、」

 

 「問題は、"この聖典が眠るとされる場所に、二人の生存者がいる" ということだね?」

 

 言おうとしていた台詞をホームズにとられ、不服そうな顔をシオンは浮かべる。

 

 「……そういうことです。この地下迷宮は、その目的の性質上、侵入者や探索者を排除するシステムが備わっています。ぶっちゃけ、現状の記録上の帰還率は0パーセント。生きて帰ってきた者は一人もいないとされています」

 

 「それに関して、私から質問いいかな、シオン」

 

 行儀よく手を挙げたのは、ダ・ヴィンチちゃんだった。

 シオンはそれに、肯定の意を込めて頷く。

 

 「帰還率が0パーセントなら、その迷宮 内部に関する情報は、一体どこから湧いて出たんだい?」

 

 「───さて。今回 私たちが受信したデタラメなメッセージのように、探索者の誰かが、内部から何らかの手段で情報だけを届けたのかもしれません。もしくは、迷宮を創った張本人(・・・)が、わざと "あること無いこと" 情報を横流ししているだけかもしれませんねぇ?」

 

 そう言って、シオンはイタズラな笑みを浮かべる。

 

 「いずれにせよ、危険なところであることは変わらん! 先ほどは了承したが、そんな場所からとあっては、どうしようもあるまい!……やっぱり、やめないかね?」

 

 「おや。ゴルドルフ氏ともあろう御方が、"男に二言(にごん)" があると?」

 

 「意地の悪い挑発はやめたまえ、シオン・エルトナム! 今回の我々は、決戦前なんだぞ! 行動が慎重になるのは仕方なかろう!……そもそも、なぜそんなものがまだ(・・)残っているのだ!」

 

 「もとよりあの地下迷宮は、次元の歪んだ領域。地球の白紙化現象を(かわ)して、その存在を維持していたとしても、さして違和感はありませんよ。……ですが。もしそうであるのなら、"座標を割り出せたこと" 自体がおかしな話です」

 

 「不安定かつ不確定な領域だからこそ、その存在を維持できているのに、それを "見つけられたこと" が不自然だと…?」

 

 マシュの問いに、シオンは頷く。

 

 「うん。ダメ押しをするようだけどね。そもそも私たちは、この音声メッセージを受信するまで、この迷宮が残っていることにすら、今まで気がつかなかったんだ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、思わず耳を疑う。

 

 それでは、まるで。

 メッセージを受信したことで、その場所が現れたかのようだったからだ。

 

 「……ふむ、謎は山ほど湧いて出るがね。やはり一番の謎は、"なぜ今になってメッセージが届いたのか" といったところか」

 

 そう言って、ホームズは椅子から立ち上がった。

 

 「ロード・エルメロイ殿の言葉を借りるようだが、この魔術世界の謎の一端を解明する上で、やはり最重要となる要素は "ホワイダニット" というわけだ」

 

 あらゆる超常現象を起こせる魔術師たちがいる世界において、"どうやってやったか(ハウダニット)"、"誰がやったか(フーダニット)" は、強い意味をもたない。

 そのすべてを、非常識(・・・)の神秘で偽ることが可能であるからだ。

 

 ───しかし。

 "どうしてやったか(ホワイダニット)"。

 この一点だけは、例外なのだ。

 

 

 「おや。今回は珍しくやる気ですね、ホームズ氏?」

 

 「本職だからね。多少は血が騒ぐとも。……今回の調査、現地には私も同行しよう」

 

 そう言ってホームズは、自ら調査の同行を買って出た。

 

 「…私も、今回の調査、現地で協力させてください!」

 

 マシュも同じく、そう強く申し出る。

 

 「でも、マシュ。キミはこれから霊基外骨格(オルテナウス)のメンテナンスに入らないと。技術顧問として、今のキミの状態での現地参加にゴーサインは出せない」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、マシュの想いを汲み取りつつも、その現状を伝える。

 

 「妖精國、ツングースカと、長期にわたる戦闘が続きましたからね。霊基にズレがみられます。私も、ダ・ヴィンチの意見に賛成ですね」

 

 シオンからの言葉も聞き、マシュは(うつむ)く。

 

 「────はい。自分でも理解しています。今の状態では、自分は先輩のお荷物になってしまうんじゃないか、ということも。ですが今回は、今回だけは譲りたくありません! だってこれは、"誰かを助けるため" の任務です。私たちの他に、"汎人類史" の生存者がいるかもしれない……そんな状況で、自分一人 休むなんてことは、できません!」

 

 マシュは、いつにも増して強い眼差しと言葉で、そう二人に頼み込んだ。

 

 「ダ・ヴィンチちゃん、シオン。俺からも頼みます。マシュが無理をしないよう、俺も注意しながら調査をします!」

 

 自分もマシュと同じく、頭を下げて頼み込む。

 

 

 「───休むことも任務の一つだよ、と正論を返すことはできるけど、うん。そうだね。それは野暮だ」

 

 「「ダ・ヴィンチちゃん!!」」

 

 「ただし!マシュは極力 戦闘は控えること! 本格的な100%の出力での霊基外骨格(オルテナウス)の使用は一度(・・)まで!当然、ブラックバレルは禁止だからね!」

 

 そう言って、ダ・ヴィンチちゃんは隣にいたシオンへ視線を向ける。

 

 「それでいい?シオン?」

 

 「はぁ。目を(つむ)ります。……確かに。マシュさんの想いは当然でしたね。"滅ぼすのではなく、救うために"。それは、貴方たちの基本理念(オーダー)でした」

 

 そう言って、シオンも同意を示してくれた。

 

  

 「───ええい、まったく!どうなっても知らんぞ!私はちゃんと止めたからな!報告書にはしっかりとそのことを、書き忘れるんじゃないぞ!」

 

 「ゴルドルフ新所長!?」

 

 納得いかなそうに、ズケズケとした足取りで、ゴルドルフ新所長は操縦席(コックピット)の方へと向かう。

 

 「キャプテン! 目標の地点までの到着時間は、残りいくつだ!」

 

 「現在の進行速度なら15分ってとこ。必要とあらば5分まで短縮させるけど、どうする?」

 

 「結構!5分もあれば私も諦めがつく!…ピカタ君!キャプテンと操舵(そうだ)を代われ!」

 

 「ムニエルだっての! ったく、相変わらず人遣いが荒いなぁオッサンは。……やや減速させて20分後の到着に切り替えるよ。決戦間近の緊張で、ストレスやばいんだろ。変に強がってオッサンの胃に穴があいても困るからな!」

 

 そう言って、カルデアスタッフの一人───ムニエルさんは、キャプテンと操舵を交代した。

 

 「ええい!そういうのは黙ってやるのがプロだぞぅ、ムール貝君!…しかし構わん!これよりキャプテンも加えて、司令官である私、シオン・エルトナム、技術顧問、経営顧問、マスター・藤丸、キリエライトの計7名を中心に、本任務の作戦会議にうつる!異論はないな!」

 

 覚悟を決めた新所長の表情に、自然とこちらの身も引き締まった。

 

 「──────はい、ゴルドルフ新所長!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 そうして、作戦会議は執り行われる。

 

 「まずはじめに、迷宮への潜入方法に関してですが、当然のことながら、ストーム・ボーダーごとの突入は不可能です」

 

 「シャドウ・ボーダーでの突入も同じくダメそうだ。入口のサイズは、人間が通れる大きさを想定して造られているみたい」

 

 「ある程度の変動は許容できる仕掛けになっているでしょうが、ここで無理をするのは得策ではありません。……よって、ストーム・ボーダーでの待機組と、迷宮の探索組に分かれます」

 

 そう言って、シオンは自分へと視線を向ける。

 

 「潜入には、マスター・藤丸、マシュさん、そしてホームズ氏の三人は確定として、あともう二騎(・・)ほど現地での戦力を送ります。うち一騎は、藤丸くんの魔力量や本作戦の状況を考慮して、こちらで選出させていただきました」

 

 シオンのその言葉とともに、一人のサーヴァントが霊体化を解除した。

 

 

 「ランサー───クー・フーリンだ。よろしく頼むぜ、藤丸、嬢ちゃん」

 

 

 選出されたのは、ケルト神話においてアイルランドの光の御子とまで呼ばれる大英雄、ランサークラスのサーヴァント "クー・フーリン" だった。

 

 「彼の継戦(けいせん)能力と、臨機応変な対応力は折り紙付きだ。迷宮探索は、どれだけの時間を要するかわからないからね。この手の調査は適任だと思うよ」

 

 「ま、選ばれたからには、ちゃんと活躍してやらぁ。ご無沙汰だったが、槍捌きは(にぶ)っちゃいねぇことを証明するぜ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんからの評価に、クー・フーリンは得意げに鼻を鳴らしてやる気をみせた。

 

 「うん、こちらこそよろしく、クー・フーリン!」

 

 彼と握手を交わしてから、再びシオンに向き直る。

 

 「そして、もう一騎に関してですが、本作戦はマシュさんの戦闘を最小限に抑えた方針となっています。よって藤丸くん側には、多少ではあれ余力がありますから、貴方が適任だと考えるサーヴァントを同行させて構いません」

 

 「わかりました。そしたら───、」

 

 

 「ちょっっと、待った──────ッ!!!」

 

 

 自分の声を(さえぎ)り、待ったをかける声が届いた。

 

 「だ、誰だ──────!?」

 

 

 「その任務、あたしちゃんに任せてもらおうか!…とぅ!」

 

 しゅばっとした着地音(声あて)とともに、一騎のサーヴァントが自分たちの前へと降り立った。

 

 

 「き、きみは──────!」

 

 「せ、清少納言(・・・・)さん───!?」

 

 「よっす!ちゃんマス!後輩ちゃん!呼ばれて飛び出て、なぎこさん。呼ばれてないけど、来てやったゼ!」

 

 嵐のように颯爽(さっそう)とやってきたのは、日本 平安期において、一条天皇の皇后・中宮定子を生涯の主人とし、その定子に捧げた散文は『枕草子』としてまとめ上げられ、今なお愛され続けるエッセイ(・・・・)を世に残した、作家にして歌人─── "清少納言" こと、なぎこさんだったのである。

 

 「これは驚いたね。ミス・なぎこ。こういうのに率先して名乗りをあげる人物だったとは。」

 

 「うん。そこはあたしちゃんも驚いてる。けどまぁ、話聞いてたら行ってみたくなったっていうか、ぶっちゃけ……ヒマだったんよ」

 

 ホントにぶっちゃけたな、この人!?

 

 「そんで、ぶらぶら〜と散歩してたらさ、リンリン(・・・・)がコソコソと司令室に向かってる姿が見えたもんだから、こっそりと尾行してきたってワケ! フッ……このあたしちゃんにツけられるたぁ、リンリンもまだまだアマちゃんだね」

 

 「いや、普通に気づいてたわ!追っ払うのもメンドくさかったんで、スルーしてただけだっての!…あとそのリンリンって、呼び方!マジ、"オレ以外のオレ" に言うのだけはやめとけよな!?」

 

 なぎこさんの破天荒な言い分に、クー・フーリンは()かさずツッコミをいれた。

 

 「ま、そういうワケだからさ、ちゃんマス!どうよ、あたしちゃんのこと、連れてってくんない?」

 

 「……これから向かうところが、危険な場所かもしれないっていうのは、ちゃんと把握してるんだよね?」

 

 「モチのロン!!」

 

 自分の問いに、なぎこさんはいつものノリのまま、力強く胸を叩いてやる気をみせる。その瞳は、本気であることを訴えかけていた。

 

 「………わかった。こちらこそよろしく、なぎこさん。ちゃんと頼りにしてるよ」

 

 「さっすが、ちゃんマス! ノリわかる〜!」

 

 そう言って、なぎこさんはバシバシと肩を叩いてきた。

 ごめん、やっぱりちょっと不安かも。

 

 「……いいのかい? シオン?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんも、少しだけ不安げにシオンへと訊ねる。

 

 「……まあ、問題ないでしょう!迷宮のような閉鎖的な空間には、彼女のような明るい性格の存在は、割と重要です。戦闘よりもメンタルケアの要員として、期待するとしますか!」

 

 ちょっと投げやりになってませんか、シオンさん?

 

 「よし、それじゃ決まり!迷宮探索はちゃんマスと後輩ちゃん、リンリンとホッピー(・・・・)、そしてあたしちゃんの五人だ!」

 

 「……………ホッピー?」

 

 そう言って、(いぶか)しげな表情で眉間に皺を寄せ、五秒後 それが自分のことだと気づいて、目を見張るホームズこと、ホッピー。

 

 

 「ムニエルから連絡だ。もう間もなく、目標地点 上空に到着するようだ。こっちの作戦会議は終わりそうかい?」

 

 操縦席(コックピット)でストーム・ボーダーを操縦するムニエルさんから、キャプテンを通して到着の知らせが届く。

 

 「ええ。そろそろ大詰めです。ではゴルドルフ氏?」

 

 「う、うむ。やや不安は残るが、迷宮の探索メンバーは先ほど清少納言が名を上げた五名だ!お前たちを "仮称・アルカトラスの第七迷宮" 入口に降ろし、他のカルデアスタッフはストーム・ボーダーにて待機だ!」

 

 「一箇所に留まることは危険ですので、私たちは藤丸くんたちが生存者を連れて帰還するまでの間、周辺地域を巡回しながら飛行を続けます。……また、迷宮内部からはこちらと通信を取ることが困難だと予測されます」

 

 「おや、そうなのかね? 我々の座標は絞られているんだ。音声メッセージを送ってきた人物のように、連絡をすることは可能ではないのかな?」

 

 「いえ、念を押してお伝えしますが、あの迷宮から外部に連絡を送るというのは、明らかに異常(・・)です。我々の技術同士での通信は困難でしょう。送られてきたメッセージは一方的なものでしたし、こちらから折り返すことは不可能でした。……まるで着信拒否(・・・・)をされているかのように。」

 

 シオンは、そう言って目を細める。

 

 「じゃあ、俺たちだけで、なんとか生存者を発見して、かつ帰還する手段も見つけないといけないってことですね…」

 

 「最悪の場合はそうなるね。けれど、全く方法がない、というわけでもないんだ。あのメッセージが送られてきたということは、迷宮内部に "それだけの技術をもつ端末が存在してる" ってことだからね。上手く応用すれば、脱出手段も生み出せるし、通信も可能かもしれない」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、そうして今ある状況から希望を見出す。

 

 

 「うむ、そういうわけだ。……では本作戦における、迷宮探索組の任務を伝える! まず第一に、迷宮内部に潜入後、救難を要請した二名の生存者を見つけ出すこと! 第二に、迷宮内部からこちらへ連絡を取るための端末を発見すること! そして最後!脱出手段を確保し、諸君ら全員(・・)で帰還をすること!以上だ! 健闘を祈っているぞぅ!」

 

 「はい! 了解しました、ゴルドルフ新所長!」

 

 新所長の言葉に、マシュは笑顔で返事をする。

 

 「本作戦は、人理(じんり)継続保障を目的とした、冠位指定(グランド・オーダー)じゃない。これは、ひとつの"救難指令(サルベージ・オーダー)"。 ……どこにでもある、誰にでも起きうる隣人の危機(・・・・・)だ。藤丸くん、マシュ! 最終決戦前に、あなた(だれか)の明日を救ってきてくれ!」

 

 そんなダ・ヴィンチちゃんの言葉と笑顔に、背中を押される。

 

 

 「────よし。それじゃあ行こう、みんな!」

 

 

 

 これより向かうは、難攻不落の大迷宮。

 白紙化された世界に、ぽつりと遺された遺産(・・)

 

 

 そこで語られる、甘酸っぱくも(はかな)い。

 ──────星明かりのような友愛(・・)のはなし。

 

 

 

 /『プロローグ』 -了-

 

 




 
 
 まずは、ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございました。この文章があなたに気に入っていただけたのなら幸いです。
 
 ここから先は、本作品における小話や補足説明を、今後のシナリオのネタバレを含まない範疇(はんちゅう)で、お話していきたいと思います。興味がございましたら、お読みいただけると幸いです。
 
 前書きでもお話しましたが、本作品は『Fate/Grand Order』と同じくTYPE-MOON作品である『まほうつかいの箱』ならびに『スターリット・マーマレード』のコラボイベントを装った二次創作ストーリーです。
 で、そもそも『まほうつかいの箱』ってなんだよ?『スターリット・マーマレード』なんて知らねぇよ。………という方も、もちろんいらっしゃると思います。
 ええ、その通り。本当に悲しいことに、ぶっちゃけマイナー作品。この作品を知ってる、好きだというファンの方とは、みんな友達になりたいレベルで、世間にはあまり知られてねーのです。このハーメルンのサイトで検索したって、一件たりとも二次創作は書かれてねーのです。なので知らなくても全然 問題ナシ。むしろ今回のこの二次創作 作品は、そんな知らぬ存ぜぬな人にも楽しんでもらいたいというモットーのもと、比較的 丁寧なシナリオにしていこうと考えております。プロローグを長々としたのも、そういった意図があります。
 
 『まほうつかいの箱』───通称 "まほ箱" は、元々 2009年から展開されたTYPE-MOONの公式携帯電話ウェブサイトでした。
 このサイトは、TYPE-MOON(以下、型月)作品の情報サイトであると同時に、『Fate』や『月姫』、『空の境界』といった他の型月作品の繋がる場所『喫茶店 アーネンエルベ』として、看板娘キャラクターの "日比乃(ひびの) ひびき"、桂木(かつらぎ) 千鍵(ちかぎ)" の二名のオリジナルキャラクターを中心に、設定面からこだわって生み出された一つの作品だったのです。
 コミカライズやゲームアプリ、ドラマCD、Webラジオ等 さまざまなコンテンツを展開し、型月を支えてくれていた欠かせない要素のひとつとなっていました。そしてそんな看板娘の二人が活躍するオリジナル作品が、ドラマCDとコミカライズで展開された『スターリット・マーマレード』なのです。
 
 しかし、そんな型月の大黒柱となっていたまほ箱も、2014年をもってサービスを終了してしまいました。系列作品である『スターリット・マーマレード』も、未完のまま今現在に至っている次第です…
 そしてご存知の通り、この まほ箱の翌年───2015年より、『Fate/Grand Order』のサービスが開始したのです。つまり、今もって大人気ゲームアプリとして話題を寄せるFGOまで、型月をずっと繋いでくれた作品こそがこの『まほうつかいの箱』だったわけです。
 今年(2022年)の夏に開催されたコミックマーケット100にて頒布された、竹箒サークルの『型月稿本』。これを読んで、作者の中のまほ箱に対する想いが再び燃え上がり、今に至ります。
 
 今回の後書きは、小話でも補足説明でもなんでもない、作品紹介になってしまいましたが、次回からは、色々と本編のお話をしていきたいと思います。
 
 冒頭にも記載しましたが、本プロローグも含めて、物語は全部で『六節』を予定しております。更新の頻度は、早くて一週間後。遅くて二週間後と思っていただければ。不定期な更新で本当にすみません。
 また、序盤ということもあり、『第一節』に関しては上記の更新スパンよりも早めにあげる予定ですので、しばしお待ちいただけますと幸いです。
 
 それでは、また!
 次回以降の更新をお待ちいただけますと幸いです。
 改めまして、ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました!
 
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