Fate/Grand Order × まほうつかいの箱『乙女聖匣 ケース:トライテン -星明かりの迷宮へようこそ-』   作:ひゅーzu

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 この物語は、引き続き『Fate/Grand Order』と、同じくTYPE-MOON作品『まほうつかいの箱』ならびに『スターリット・マーマレード』のコラボイベント風の二次創作です。
 また、FGO第2部本編「非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」までのシナリオ状況のネタバレを含みます。あらかじめご容赦ください。
 
 


第四節『たとえば消えない星の事』

 

 

 

 

 ああ、気づけばこんな時間。

 開店準備をしないと。

 

 お祭り騒ぎは遠いむかし。

 みんな消えていきました。

 

 どんなに怖いヒトだって、

 ここにはもうやって来ない。

 

 正義の味方は、どこですか。

 死神だって、いないのです。

 普通の人なら、来れますか。

 

 紅茶はとっくに、冷めました。

 美味しいパイも出せません。

 

 だってどれも夢物語。

 "もしも"の話で終わるから、

 時間(とけい)空間(まちあわせ)関係(ひつよう)ない。

 

 ああ、だからせめて。

 "想い出(おとずれたこと)" だけは忘れないで。

 だって、そんなの■■■■です。

 

 自慢の看板娘たちも、笑顔が消えていきました。

 

 ここは逢いたいあなた(だれか)に逢えた場所。

 だれか(あなた)のご来店をずっとお待ちしております。

 

 

 

 

 

 

 

 第四節『たとえば消えない星の事』/

 

 

 

 「あ〜もう、待ちくたびれたっての!"世界のどこかを旅するどこかの誰かさん" たち! ……アタシは須方(すがた) スナオ。アンタらに救難信号を送った、この迷宮の生存者(・・・)ちゃんだよー!☆」

 

 

 そうして現れた少女 "須方 スナオ" に、自分───藤丸 立香たち迷宮探索メンバーは、ただ困惑するしかなかった。

 

 

 「あ、貴方が、私たちカルデアに救難信号を送った(かた)なのですか…!? えっと、"日比乃 ひびき" さんではなく…?」

 

 マシュは困惑しながらも、少女へそう確認をする。

 

 「んー? ひびきち? 確かにアタシは、ひびきちに頼まれて、アンタらにメッセージを送ったけどさー。お出迎えしてくるって言ったっきり、ぜ〜んぜん帰ってこねぇでやんの。……アンタら一緒じゃないの?」

 

 日比乃 ひびきに、メッセージを送るように頼まれた? 自分たちを出迎えに行った…? 彼女の発言は、どうにもこちらの想定していたことと噛み合っていない。

 

 「……悪ぃが、オレたちはあのオレンジの嬢ちゃんと合流はしていない。だが、"出迎え" なら確かに来たぜ。このオレが迷宮に足を踏み入れた時にな」

 

 そうか。

 クー・フーリンの話であった日比乃 ひびきの行動が、その "出迎え" だったのか。

 

 「うおっ!? ていうかランサーじゃん! アンタ、今度はレスキュー隊にでも所属してるん?」

 

 須方 スナオは、クー・フーリンの顔を見てそうびっくりしていた。

 

 「ったく、この嬢ちゃんも顔見知りかよ、オレ…。ま、緑やオレンジの嬢ちゃんが知り合いなら、同じようにこの嬢ちゃんも関係者なのは道理か」

 

 クー・フーリンはそう言って、ため息を吐いた。

 

 「失礼。ミス・須方…だったかな。キミに敵意がないのは、先ほど模造された竜(ドラゴン・ゴーレム)から我々を助けてくれたことで理解しているつもりだ。…故にまずは自己紹介をしておきたい。聞きたいことは山ほどあるが、順序 立てていっても構わないかな」

 

 「うぃ〜。頭の回る人がいると助かるね〜」

 

 そう言って、須方 スナオに対して、自分たちカルデアの簡略的な自己紹介と、ここにやって来た経緯や目的を伝えた。

 そして地球の白紙化現象や、汎人類史の話をし始めたあたりから、彼女の目の色が明確に変わっていくのが見てとれたのだが…

 

 「いやいやいや、ちょっと待って! ストップ、プリーズ! なんだよそれ!? 今って、外の世界、そんなことになってんの!?」

 

 「…ふむ。これはこちらも驚きだ。ミス・須方、キミは今現在の世界が、"そういう状態なのを知らないまま" 我々に救難信号を送ったのかい?」

 

 「……う、うん。確かにその白紙なんちゃらって現象みたいなのは目撃したけど、まさか地球規模だなんて、思わないじゃん?」

 

 なるほど。

 どおりで危機感の薄いメッセージだったわけか。

 

 「にしても、カルデア(・・・・)……ね。参ったな、そんな恐ろしい組織を教会(・・)が把握してないはずがない。ってことはやっぱり、アタシのいた世界とは違う場所に迷い込んじまったのかぁ。う〜ん、こりゃ骨が折れるにゃ…」

 

 そう言って、彼女は腕組みをして考え込む。

 

 「ほう? あの剣(・・・)、やはり教会の武装のようだね。では、今度はキミの話を聞かせてほしい。どうやらキミもミス・桂木と同じ世界からこちらへと迷い込んでしまった "来訪者(ストレンジャー)" のようだからね」

 

 「あー、頭が良いヤツって、ちょっとの失言で核心に気づいちゃうから、()んなっちゃうにゃ〜。……そ、アタシは聖堂教会(・・・・)に所属する "代行者見習い" の須方 スナオ。気軽に "スナオちゃん" って呼んでほし………ちょっと待った。今 チカちーのこと言った?」

 

 そう言って、彼女は自己紹介を中断する。

 

 「うん。キミの言っていた、もう一人の生存者だよ。ほら、ここに…ってアレ?」

 

 なぜだか不明だが、千鍵はマシュの盾の裏に隠れていた。

 

 「な、なぜ隠れていらっしゃるのでしょうか、千鍵さん…?」

 

 「し、知り合いだからちょっと気まずいんだよ…! あ、ちょ、マシュさん、盾を持ち上げないでっ!?」

 

 そうして千鍵は、その姿を彼女へと晒した。

 

 「……よ、よう。割と久しぶりか? スナオ」

 

 そんなぎこちない千鍵の挨拶を聞いて、スナオはあんぐりと口を開けたまま硬直して、

 

 「な、なんでぇチカちーがここにいんのぉ!? えぇ!? もうさっきからぜ〜んぜん、頭が追いつかにゃいんだけど〜〜!!?」

 

 「っ───!そ、それはこっちのセリフだ! お前の方こそなんでこんな場所にいるんだよ…!!」

 

 「はぁ!? 失礼だなぁ! アタシもあの時(・・・)、アーネンエルベにいたじゃん! "巻き込まれんのは当たり前" っしょー!!?」

 

 「そうだっけ!!? すまん、忘れてた!! ……でもだったら私がいるのも当然だろうがっ!」

 

 「うげぇ!? ナチュラルに忘れられてたのが、一番ダメージでかいんだがぁ!!? ひどくない!?」

 

 そんなやり取りを交わしていた。

 

 「お、お二人とも、とりあえず一旦 落ち着いてもらって…っ!」

 

 そう言って、マシュが仲裁に入る。

 

 

 「あーでも、そっか。ったく、ひびきちのヤツ、"そういうこと" かよ………」

 

 一度 冷静になったスナオは、そんなことを口にして、目を逸らしていた。

 

 「ミス・須方、今のキミの反応から察するに、キミは "ミス・桂木がこの迷宮にいたこと" は知らなかったのかな?」

 

 「え? ホームズ、でも彼女は救難信号で二人 生存者がいるって…」

 

 それは今ここにいる、"桂木 千鍵" と "須方 スナオ" の二人ではないのか?

 

 「いや、あの時点で彼女が口にしていた二人の生存者というのは、"ミス・須方" 自身と、彼女に救難信号を送るよう伝えた "ミス・日比乃" のことだ。そうだね?」

 

 ホームズのその言葉に、スナオは無言で頷く。

 

 なるほど。

 ではこの迷宮にいる生存者は、本当は "三人(・・)" だったのか?

 

 「……だが、先ほどのミス・桂木との罵り合いを聞くかぎり、キミはこの事故(・・)が起きた際にその場にいたのだろう? であれば、ミス・桂木の存在も把握していたはずだ。なぜ三人ではなく、二人と我々に信号を送ったのかね?」

 

 ホームズの指摘は正しい。

 彼女たちがこちら側の世界へと迷い込んでしまった、あの事故。"マリスビリー・アニムスフィア" との邂逅(かいこう)が発生した、とある日の日曜日。

 あの場に須方 スナオも同席していたのならば、日比乃 ひびきだけでなく、桂木 千鍵がいたことも当然知っているはずだが……?

 

 

 「ああ。確かにあん時、チカちーが一緒にいることも当然 知ってたよ。でもさ、アレ(・・)を目撃したんだから、ここにはいないと思うのは当然じゃん……?」

 

 

 「ふむ。ミス・須方、どうやらキミは、我々がまだ知り得ていない真実(・・)を知っているようだね」

 

 ホームズの言葉に、スナオは目を伏せる。

 

 

 「おいスナオ、"アレ" ってなんのことだよ…?」

 

 そう聞き返した千鍵を、スナオは目を細めながら見据えて、

 

 

 

 「その白紙化現象ってのが起きた時にさ、

  チカちー 、アンタ。死んだ(・・・)じゃん……?」

 

 

 冷たい声色で、そう告げていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その日は、至って普通の日曜日のはずだった(・・・・・)

 

 

 

 「うぃーす、"ひびちか" いるー?」

 

 ちりんちりん、という鈴の音とともに、入口の扉を開けて、アタシ───須方 スナオは、その喫茶店 アーネンエルベを訪れた。

 

 

 「いらっしゃいませ〜〜! って、スナオちゃ〜ん! 今日も来てくれたんだね〜!空いてるから、好きなとこ座っていいよー!」

 

 接客にやってきた、有り余る元気を抱えた少女───日比乃 ひびきは、そう言ってアタシを出迎えた。

 

 「ひびきちは今日も元気だね〜。チカちーはどしたん?」

 

 「うん! チカちゃんなら、向こうのテーブル拭いてるよ〜!」

 

 そう言って彼女が指さした奥の席に、緑色の後頭部が見えた。

 

 「お〜い、チカちー!元気してっか〜?」

 

 そう声をかけながら、アタシは拭きたてのテーブルに腰を下ろす。

 

 「なんだよ、ちょっかいかけに来ただけの迷惑客なら、どうかお引き取り願えますか?」

 

 そう言って、いつものツンケンした物言いを口にする少女───桂木 千鍵は、ふんっ、とこちらに冷たい対応をする。

 

 「ちぇ〜、相変わらず可愛げないでやんの。せっかく喫茶店で働いてんなら、もうちょっと愛嬌(あいきょう)ってもんを学んでくれたら、スナオちゃんは嬉しいんだけどにゃ〜」

 

 「こちとら別に、お前を喜ばせるために働いてるわけじゃないんだよ。…ほら、なんか頼むんなら早く言え」

 

 「注文を急かす接客があるかぁ!? ……まあ、とりあえずジンジャーエールでいいや」

 

 はいはい、と言って彼女は厨房へと去っていく。

 

 

 そんな、なんてことのない日曜日の午後。

 

 

 「ぷはっ、相変わらず、この店のジンジャーエールは辛さ(・・)が足りないにゃあ。……えっと、マイ タバスコ、マイ タバスコ っと」

 

 そう口にしながら自分のポケット(・・・・)をガサゴソと漁っていたら。

 

 『うぅ〜ん、相変わらず面白い身体のつくりをしていらっしゃいますねぇ、ミス・スナオ〜。まさに四次元ポケット。それ、スペアあったりするぅ? 困ったら "スナえも〜〜ん!" って泣きついていいヤツ?』

 

 そう言って、いつの間にかにあの青いケータイ電話が、テーブルの上にやって来ていた。

 

 「にゃっははは! 相変わらず な〜に言ってんのか、わっかんないねぇケータイちん。それに身体のつくりの面白さでいったら、ケータイちんには負けるって」

 

 そんな言葉を返しながら、アタシはジンジャーエールのストローを咥えて、自分のケータイ電話をイジる。

 

 

 視界の端では、パシャパシャと、気が散るほどのフラッシュが見えた。

 語るまでもなく、あの青ケータイである。

 

 「ケータイちん、また盗撮かにゃあ? なんかえっちなハプニングでも起きたん?……んにゃ?」

 

 青ケータイのカメラの先を見るも、特になんてこともなかった。

 あの二人がいつも通り会話をしていただけだったのである。

 

 「なーんだ、なんか面白いことでも起きないかなぁ」

 

 

 

 そんな呟きが(わざわ)いを招いたのか。

 しばらくして。"その男" はこの店にやって来た。

 

 

 「ん?って、え…………!?」

 

 やって来た男を見て、アタシは驚愕した。

 思わずそそくさと身を(かが)める。

 

 『おやおや? お知り合いですかな、スナオちゃん?』

 

 「いや、会ったのは初めてだけんどよ…!な〜んだってあんなのが、この店に来てんの…!? 日本の地方都市に、時計塔(・・・)君主(ロード)が顔出すか!? ふつう!」

 

 溢れ出ている魔力量を見ても間違いない。

 あれは確か、魔術協会の三大部門の一角、時計塔において "十二の学部" をそれぞれ総括する、十二人の君主(ロード)のうちの一人。

 

 聖堂教会に所属する自分としては、敵対関係にあたる組織の最高幹部といってもいい。

 

 「写真でしか見せられたことねぇけど、アレは確か……"天体(てんたい)科" のアニムスフィア(・・・・・・・)だったっけか?」

 

 『──────ふむ。面影(おもかげ)があるなと思えば、そういうことか』

 

 自分の言葉に、青いケータイ電話はまるで何かに納得したようにそう呟いていた。

 

 

 テーブル同士の仕切り板から、ひょっこりと顔を出して様子を伺う。

 

 なんてことないように接客をしていたひびきに、同じくなんてことないように紅茶を運ぶ千鍵。

 

 「うっわぁ、"知らない" って怖いにゃあ……」

 

 ある意味では、そちらの方が幸せか。なんて考えたりしていたら、千鍵と何かしらの会話をした(のち)、その男は何事もなく店を立ち去っていったのだった。

 

 

 「ふぅ…、なんとか何事もなく終わったかぁ…」

 

 『ミス・スナオ、急いで彼女を止めるんだ』

 

 「え──────?」

 

 そう言って、振り返るとそこには青いケータイ電話の姿がなかった。

 

 「あれ、ケータイちん……?」

 

 

 『ひびき! 千鍵を行かせるな───ッ!』

 

 今まで聞いたことのないような切羽(せっぱ)詰まった声に、ひびきと二人で彼女の方を見る。

 

 

 すると彼女は、先ほどの男が忘れていったとみられるコートを小脇に抱えて、この店を飛び出そうとしていた。

 

 

 「ダメ───!待って、チカちゃん───!」

 

 

 「おいおい、なんだよ 何事だよ…!」

 

 引き止めようと走るひびきと一緒に、開きっぱなしになった喫茶店の扉の向こうを目指す。

 

 

 

 「え───、あれ、なんだ……?」

 

 

 扉の向こうで、そんな、何かに困惑する千鍵の声が聞こえ、

 

 「何が起き───、

 

 

 視界の先で。

 まるで消しゴムで消されたかのように。

 桂木 千鍵の肉体が消失した(・・・・)

 

 

 

 

 「チカちー──────!!?」

 

 残ったモノは、漂白された大地。

 

 そうして。

 

 「チカちゃん─────────ッ!!!」

 

 泣き叫ぶ日比乃 ひびきの言葉とともに。

 世界が、(まばゆ)い光に包まれていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 それから一体、どれくらいの時間が流れたのだろうか。

 次にアタシが目を覚ました時には、もうこの迷宮の中(・・・・)にいたのだ。

 

 

 「っ、何が起きたんだよ… ホントに…」

 

 そんな困惑するアタシのもとへ、

 

 

 「スナオちゃ〜〜〜んっ!!!お〜〜い!!」

 

 そう手を振る、あのひびきの姿があったのだ。

 

 「ひびきち!? 良かった!アンタは無事だったのか!」

 

 そう言って近づくアタシを見て、ひびきはニコニコと笑っていた。

 

 「うん! ひびき(わたし)の力のほとんどを使ってね、なんとか "みんなのことを守った" んだ!」

 

 その言葉を聞いて、アタシは目を丸くした。

 

 「うわっ、ホントだ。アンタ、普段に比べて全然あの力(・・・)感じないじゃん…! それじゃあ、ここってまさか…」

 

 この場所の正体を確認したかったが、そのことよりも先に、確かめなければならないことを聞こうと思った。

 

 「あの、ひびきち…。チカちーは…」

 

 「スナオちゃん、お願いがあるの!」

 

 そう言って彼女は、はいコレ、と言いながら、"あのケータイ電話" をアタシに手渡してきた。

 

 「え…? どしたん、急に。ケータイちん?」

 

 よく見ると、形状はあの青いケータイ電話と瓜二つではあったが、そのカラーリングは薄茶(うすちゃ)に近い "駱駝(らくだ)色" になっていた。

 

 「これを使えば、外にいる旅の人たちに連絡が取れるの!今ここに連れてこれるのは、"その人たちだけ" だから、スナオちゃんはその人たちをそれで呼ぶお仕事! ひびき(わたし)はお出迎えに行ってくるから、ここで待ってて! それじゃ、よろしくねスナオちゃんっ!」

 

 そう言って、ひびきは去ってしまった。

 

 「え、ちょ、どういうことだよ、ひびきちー!」

 

 そう大声で呼んでも、既に彼女の姿はなかった。

 

 「呼ぶって、ようするに、"助けを呼ぶ" ってことだよな…」

 

 今の状況を考えたら、それだけは明らかだ。

 

 「って、そもそも "どこの誰" に繋がってんだか…、確か ひびきちは、旅人(たびびと)って言ってたよな…」

 

 そうして、アタシはただ漠然と。

 頭に浮かんだメッセージを吹き込んだ。

 

 

 「あー、テステス。んんっ、んんん!…聴こえますかー?世界のどこかを旅するどこかの誰かさ〜ん?こちら、救☆難☆要☆請☆デス!こちらの生存者は二名(・・・・・・)至急(CQ)至急(CQ)〜!折り返しの電話のほどを、お待ちしておりまーす!あっ、ウソ。電話じゃなくて、直接お伺いしていただけると、大変 助かりマース☆」

 

 

 そんなぶっつけ本番。

 台本もへったくれもないメッセージを送った後、

 

 「ま、もし来てくんなかったら、もっかいメッセージ送ればいっか。よし、念のためマジメなバージョンも送信し……って、うぇ!?なんでもう壊れてんの、このケータイちん! 使い捨てケータイなんか!? そんなんあるの! マジで!?」

 

 ───という。

 もう後悔しても遅い状態に(おちい)ったアタシは。

 

 

 「……まぁいっか。ひびきちがなんとかしてくれるっしょ」

 

 そう呟いて。

 緩やかな午睡(ごすい)にはいった。

 

 

 これが事のはじまり。

 アタシが知るかぎりの、この救難(サルベージ)の真相だ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「な──────、」

 

 その話は、自分たちの中にあった点と点を、一つの線で繋いでいくような真相だった。

 

 「ミス・桂木が、我々とは異なる世界からやって来た人物であることはわかっていた。"コートが失われた世界" へ "コートを持ち出した彼女" は、世界の辻褄(つじつま)合わせにより、"世界が失われた時間軸" に飛ばされたこともね。……だがそれを成立させるためには、彼女がやって来れるタイミングは、ひとつ(・・・)しかなかった」

 

 『"白紙化現象が起きる直前(・・)" ……ですね。そうでなければ、そもそも出口となる喫茶店が無くなってしまいますから』

 

 その残酷な真実を、ホームズとシオンは口にする。

 

 「ちょっと待ってくれ! じゃあここにいる()は一体なんなんだよっ!なんで私はこうして生きてるんだ…!?」

 

 千鍵は、訳が分からないと声をあげる。

 

 「ま、アタシも最初は訳わかんなかったけどさ。冷静になってみたらすぐにわかった。なにせ、その内にある力(・・・・・)の性質が、あのひびきちと全く一緒(・・・・)だったからな」

 

 では、まさか。

 

 「ミス・日比乃は、自身がもつ力の大半を消費して、"この迷宮の生成" と "桂木 千鍵の魂の保護" をした。そういうことだね」

 

 「は──────?」

 

 「今そこにいるチカちーは、ひびきちがその力で造った "霊基の器に、魂がはいっている" 状態だ。ま、ようするにアンタらと一緒で、サーヴァント(・・・・・・)ってヤツだよ」

 

 「そんな、だったらすぐに気づけ、」

 

 いや。気づけなかった。

 この迷宮を占める不安定な大源(マナ)の濃度により、サーヴァント同士の気配を察知することすらも、自分たちにはできなかった。

 

 「熱源反応のみでは、サーヴァントかどうかの区別はつけられない…、私たちは千鍵さんのことをこの迷宮の生存者だと決め込んで、ずっと普通の人間として接してきました。ですが……」

 

 迷宮を跋扈(ばっこ)する魔獣に対抗できる力。

 一切の礼装の補助もなくサーヴァントとともに走れた、普通の人間以上の体力。

 夢を見なくなり、彼女が浅い眠りのまま問題なく活動できていたのも、すべて。

 

 

 "桂木 千鍵 が、サーヴァントだったから。"

 

 

 「なんだよ、それ……、じゃあ私は、最初っから死んでたってのかよ……!」

 

 

 「霊基の器を用意することで、アンタの魂を繋ぎとめた ひびきちは、アンタが白紙化した世界に野ざらしにならないために、この迷宮を造った。……はじめからここは全部チカちー、アンタを守るため(・・・・)にひびきちが用意した場所なんだよ。」

 

 

 「…………。」

 

 スナオの言葉に、ホームズは考え込む。

 

 「ホームズ…?」

 

 「いや。仮にそうであるのならば、クー・フーリンやミス・須方に会った時の彼女の行動は、不可解だと思ってね。なんのために、我々を呼び、"魔獣を生成" し、"サーヴァントに対する洗脳" をかけた?」

 

 それは確かにその通りだ。

 もしも日比乃 ひびきが、桂木 千鍵を守るためにこの迷宮を造ったのだとしたら、なぜあのような行為に及んだのか。

 

 「あー、洗脳って、アレもひびきちがやったのか…。参ったねー、こりゃ」

 

 スナオの言葉に、思わず目を丸くする。

 

 「どうして洗脳のことを知っているのですか? スナオさんはサーヴァントではありませんよね?」

 

 マシュの疑問に、逆にスナオが目を丸くする。

 

 「そんなの、あれ別にサーヴァントだけ(・・・・・・・・)に効く洗脳じゃないからだよ。」

 

 なんだって──────?

 

 「あ? お前さん、そりゃ一体どういうことだ? それだとまだ迷宮に踏み入ってなかった藤丸やマシュはまだしも、お前や緑の嬢ちゃんも洗脳にかかるはずじゃねぇか」

 

 「言ったろ? 今のチカちーは、ひびきちの力で保たれた存在だって。なら同じ波長の力が、チカちーに効くわけないじゃん?」

 

 「でもそれなら、キミはどうして…?」

 

 「どうしてもこうしても。……その洗脳の意図(・・)が、その時のアタシにとっちゃ、とっくに終わってること(・・・・・・・)にしか思えなかったからだよ」

 

 「洗脳の意図……?」

 

 ホームズとクー・フーリンは、揃って眉間に(しわ)を寄せる。

 

 「…………っ。」

 

 なぎこさんだけは、苦しそうに目を逸らしていた。

 

 「ま、解除されてんなら、その洗脳の命令内容(・・・・)も一緒に忘れてて当然かぁ」

 

 そう言って、スナオは改めてこちらに向き直って。

 

 

 「あの時、この迷宮にいた魔獣やサーヴァント、アタシら人間にかけられた洗脳の意図はただひとつだけ。………"桂木(・・) 千鍵を殺せ(・・・・・)"。」

 

 

 「っ─────────!!?」

 

 動揺して、千鍵は一歩 後退(あとじさ)る。

 

 「なんで、そんな洗脳を、ひびきさんは…、」

 

 「さぁ? 自分があげちゃった力を、"返して欲しかった" んじゃねぇの。たとえば、"チカちーの命よりも、優先したいことができた" とか」

 

 思わず、自身の拳を握る。

 そんな話が、あっていいのか?

 

 「わ、私──────、」

 

 千鍵は、もはや何も言い返せなくなっていた。

 その姿が、我がことのように心が痛む。

 

 「嘘だ。キミは嘘をついている…!」

 

 八つ当たりだとわかっていても、彼女のことを睨まずにはいられなかった。

 

 「なら聞いてみりゃいいじゃん? ほら、そこのパリピな感じの可愛い女の子! アンタだって、洗脳を(はじ)いたんっしょ? 顔を見りゃわかるよ。……弾いたってことは、その内容を "知ったまま正気を保ってる" ってコトだ。違う?」

 

 そう言って、スナオはなぎこさんを見る。

 

 

 「──────ごめん、ちゃんマス。その子の話は、合ってる(・・・・)よ」

 

 

 「そんな──────!」

 

 

 「なぁ? もうとっくにチカちーのことを死んだと思ってたアタシに効かないのも、納得だろぉ?」

 

 こんな、こんな真実があっていいのか。

 その身を削って自分を守ってくれた友人に、その命を狙われる。

 それでは彼女に、今ある自分の命を尊重する選択肢がないのと変わらないではないか。

 

 

 「───ミス・須方。もう少し詳しい話を聞きたいのだが…、どうした? ミス・須方?」

 

 いまだある謎について問いただそうとホームズが訊ねた時、なぜかスナオは苦しそうに息を荒らげていた。

 

 「スナオさん──────?」

 

 「にゃっはは、ごめん…、もう随分と前のヤツ、だし、チカちーの顔見ても、これくらい、なら、抑えられっかなって、思ってたん、だけど…、ちょっともう、限界、かも……ッ!」

 

 そう口にして彼女は、

 不意に取り出した短剣(・・)を、千鍵へ目掛けて投げ放った。

 

 

 「千鍵──────ッ!!」

 

 「え──────、ひ───ッ!?」

 

 (うつむ)いていた彼女は、そんな緊迫した自分の声を聞いて顔を上げ、その眼前まで差し迫った短剣に気がついた。

 

 けれど。もう間に合わない。

 今の彼女のメンタルでは、その内に秘められている日比乃 ひびきの力を発動することさえできない。

 

 

 『危ない、千鍵くん──────ッ!!』

 

 

 千鍵と短剣の間を割って入るように、

 あの青いケータイ電話が飛び込んでいた。

 

 「え──────?」

 

 パリンッ、という音を立ててケータイは転がり落ちる。

 

 「ケータイちゃん──────ッ!!」

 

 なぎこさんが駆け寄って、拾い上げる。

 

 「ねぇ、もしもし? この状況でスリープモードとかありえないからな!? おい、ケータイちゃん───!!?」

 

 なぎこさんの言葉に、反応はなし。

 その画面はひび割れ、ただ虚しく光らせるだけだった。

 

 「そんな──────、」

 

 「おい………嘘、だろ…? お前まで、いなくなったら、私、私は、っ、ぅう──────!!」

 

 千鍵は、そう言って逃げ出してしまった。

 

 「っ、待つんだ千鍵! 待ってくれ───!」

 

 

 「マスター・藤丸!優先順位はこちらが先だ!ミス・須方は、おそらく "洗脳を理解できなかった" だけで、完全に弾いたわけではなかったんだ!」

 

 「ッ─────────!!!」

 

 千鍵を追いかけようとするスナオを、マシュが取り抑える。

 

 「でも、ホームズ! 千鍵が───!」

 

 「っ、チカちーは、あたしちゃんに任せろ、ちゃんマス! その子の洗脳を解いてやって───!」

 

 そう言ってなぎこさんは、ケータイさんを自分にパスして、千鍵の後を追ってくれた。

 

 しかし。

 スナオはサーヴァントではない以上、自分の礼装はつかえない。千鍵のもつ "日比乃 ひびきの力" がないと、彼女の洗脳を解くことは…

 

 「マスター・藤丸、ミス・須方と一時的な仮契約(・・・)を結ぶんだ」

 

 ホームズの提案に自分は目を丸くする。

 

 「契約って、彼女はサーヴァントじゃなくて人間じゃ…」

 

 「魔術世界において、"使い魔の契約" というのは、何もマスターとサーヴァントにかぎった話ではない。人間同士による、協力者(・・・)という関係性の契約も存在しているんだ。つまり、互いの同意があれば、彼女に対しても契約は可能だ。」

 

 ホームズの意図は理解した。

 彼女と一時的に契約を結び、自身がもつ礼装───"アトラス院制服"に備わった弱体解除(・・・・)のスキルを用いて、契約下にある彼女の洗脳を解こうとしているのだ。

 

 「なん、でも、いいから、アタシを、止めてく、れぇぇえ!!」

 

 その言葉を契約の同意と受け取り、礼装を備える。

 

 「いくぞ、 "礼装起動(プラグ・セット)"───!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 自分たちは、須方 スナオと仮の契約を結び、礼装によって彼女の洗脳状態を回復させることに成功した。

 千鍵のことも心配だったが、ホームズの判断で、まずは彼女からさらに詳しい事情を聞き、しっかりと真相を見極めることが重要だと考え、そちらを優先することを選んだ。

 

 「うひぃ…、とりあえずは助かったよ、たしか藤丸…だっけ」

 

 「うん。さっきは性懲(しょうこ)りも無く疑ったりしてごめん、スナオさん…」

 

 「"さん" は付けなくていいよ。ま、気にすんな。こっちもチカちーには、わざと邪険(じゃけん)にするような言い回しをしたしな…」

 

 そう言って、スナオは手を払う。

 

 「…ふむ。ではやはり、ミス・桂木に気を遣って、あえて濁した説明をしていたね、ミス・須方」

 

 「ひぇ〜、そんなことまで見透かしてんのかよアンタは…。あ、でも、チカちーに剣ブン投げちゃったのは、わざとじゃないからな!?ホントに洗脳が…」

 

 「もちろん、わかってるよ。ケータイさんが体を張って守ってくれたから、大丈夫…」

 

 ただ彼は一向に、新しい端末として帰ってくる気配がなかった。

 

 「スマホさん……」

 

 「壊れた本体は、機能は生きてるが応答なし……か。再生すんのかは不明だが、カルデアと連絡がつかねぇのは痛手だな」

 

 クー・フーリンの言葉に、スナオは申し訳ないと頭を下げる。

 

 「だが我々が立ち止まっていても仕方がない。まずは目の前にある問題から、解き明かさなければならないのだからね」

 

 「ホームズ……」

 

 「ミス・須方、キミがあえて伏せていた情報を話してもらおうか。なぜミス・日比乃は、それほどの力をもっていた? …彼女は、いったい何者なのだね?」

 

 ホームズの問いにスナオは、やや深呼吸をしてから、

 

 

 「ひびきちは…、いや。日比乃 ひびきは、

  "聖典トライテン(・・・・・・・)そのもの(・・・・)" だ。」

 

 

 その核心を口にした。

 

 「な──────!?」

 

 「より詳しく説明すると、聖典 トライテンに備わった人格(・・)が、日比乃 ひびきの正体だ。ま、アタシも最初はとんでもなくビックリしたけどにゃあ…」

 

 「聖典の持ち主か、もしくは迷宮を造設した上級死徒の依代(よりしろ)かと睨んでいたが…、まさか聖典トライテンそのものだとはね。これは予想外だった。」

 

 ホームズですら、その真実に固唾を飲んでいた。

 

 「ではひびきさんは、誰かに力を与えられたというわけでもなく、本当にご自身の力だけで、このようなことをやってのけたのですか…!?」

 

 マシュの言葉に、スナオは頷いた。

 

 「そのこと、千鍵は知らないんだね…?」

 

 「ひびきちが黙ってるってことは、きっとチカちーには知られたくないことなんだろうにゃあ。だっていうのに、アタシの口から言うのは野暮だろぉ?」

 

 スナオはそう言って、やれやれとため息を吐いた。

 

 「そうか。ではここは、そもそもが "アルカトラスの第七迷宮" ではなかった、ということだね」

 

 「そう。ここはアルカトラスの第七迷宮によく似てはいるけど、ホンモノじゃない(・・・・・・・・)。同じ原理から生成された、全く新しい もう一つの "アルカトラスの第七迷宮" ってコト」

 

 「アルカトラスの第七迷宮は、"聖典の力を応用して" 生まれた大迷宮だ。聖典 トライテンの力を使って生み出されたこの場所が、似通った性質をもつのは、確かに筋の通った話だ」

 

 スナオの言葉に、ホームズは納得していた。

 

 この迷宮を訪れる前、トリスメギストスIIがこの場所を "アルカトラスの第七迷宮" に照合したと示したのは、そも生まれた原理が同じだったからということか。

 

 「…ああ、そういうことか。あのオレンジの嬢ちゃんは、その大迷宮をモデルにここを生み出す時、いるモノといらないモノを剪定(・・)したわけか」

 

 クー・フーリンはそう言って、腕組みをする。

 

 「"千鍵さんを守護する" という目的であれば、"仕掛け扉や罠" は当然必要ありません。彼女本人に危害が加わる危険がありますから。そして同じく "礼装や資源の入った宝箱" も千鍵さんにとっては不必要なものです」

 

 「そうかぁ? 財宝の入った宝箱なんて、むしろ(おんな)こどもは喜びそうなモンだけどよ」

 

 「……いや。千鍵は、そういうのは好きじゃないんだ」

 

 「マスター・藤丸、それは?」

 

 クー・フーリンの言葉を否定した自分に、ホームズが訊ねる。

 

 「第三階層の最奥に行く前、千鍵と二人で話した時、千鍵は "宝箱には興味ない" って言ってたんだ」

 

 だからこそ、その要素も剪定された。

 このことは、千鍵のことをよく知る人物にしかできない。当然、日比乃 ひびきは知っていたはずだ。

 

 「んじゃ、"大浴場" はなんで残したんだ? そんなもんいるか?普通」

 

 「それは───、」

 

 「いるに決まってんじゃん! "今どきのJK" だぞ? アタシたち! 風呂に入れないなんて、ありえないっしょ?」

 

 悩んでいた自分の言葉に、スナオが口を挟む。

 

 そういえば、なぎこさんもそんなような事を言っていた。この感覚の違いは、やはり当事者にしかわからない要素ではある。

 

 

 「少しずつ真相に近づいている…が、やはり我々の思考に混乱を与えているのは、この迷宮生成後の "日比乃 ひびきの行動" だ。これを解消するために導き出されるものは───、」

 

 

 マリスビリー・アニムスフィアと邂逅(かいこう)し、こちらの世界の白紙化現象に巻き込まれた千鍵、ひびき、スナオの三人。

 

 唯一 肉体を消失してしまった千鍵を助けるために、聖典トライテンそのものである ひびきは、その力を消費して彼女に "霊基の器" と、彼女の身を置ける結界───アルカトラスの第七迷宮を模倣した、この "迷宮を造設" した。

 

 模倣した迷宮の中から、"桂木 千鍵を守る" という目的において、必要のない要素だけを彼女は削ぎ落とした。

 "仕掛け扉や罠"───切除。

 "礼装や資源の宝箱"───切除。

 "身を清める大浴場"───維持。

 "迷宮を徘徊する魔獣"───切除。

 

 

 ──────だというのに。

 

 「彼女は、切除したはずの魔獣を再び生み出して、迷宮にいた者すべてを利用して千鍵を襲わせようとした。いや…そもそも、自分たちを呼ぶ行為 自体が…」

 

 

 「あーあ。"待ってて" って言ったのに。上にのぼっちゃったんだ、スナオちゃん?」

 

 

 第三階層の最奥、最終階層への階段前で思考を巡らす自分たちのところへ、そんな寒々しい声が聞こえてきた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「日比乃、ひびき──────、」

 

 

 自分たちの前に現れた少女を見て、思わず固唾を飲む。

 

 

 「こんにちは、ランサーさんのお友達の皆さんっ! 日比乃 ひびきです! どうぞよろしくね!」

 

 少女は、丁寧にぺこりと挨拶をする。

 

 「先輩、私の後ろに…、」

 

 マシュに促され、一歩後ろに下がる。

 

 

 「……結論から聞こう。キミは何者だね?」

 

 

 そう言って、ホームズは真っ直ぐに彼女を見据える。

 

 「ほよ? 自己紹介だったら、今したよ?」

 

 少女は、何を言っているのかわからないと首を(かし)げる。

 

 「聞こえなかったのか? 嬢ちゃん。ホームズの旦那は、もうオレンジの嬢ちゃんのフリをするのをやめろって言ってんだ」

 

 クー・フーリンは、そう言って得物を取り出す。

 

 「怖いなぁ、ランサーさん。急にどうしちゃったの?」

 

 少女は、笑顔を崩さない。

 

 

 「ふむ。少しいいかな? 最後にひとつだけ確認したいことがある、ミス・須方。キミたちが白紙化現象に巻き込まれたあの日、明確にその被害を受けたのは、桂木千鍵だけ(・・・・・・)か?」

 

 ホームズは、まるで自身の中にあった最後のピースを埋めるように、スナオへそう確認していた。

 

 「え? そうだけど…。アタシは、喫茶店の(・・・・)中にいた(・・・・)から助かったし…」

 

 「そうか。それは結構。ありがとう、大変参考になった。」

 

 そう言ってホームズは再び、日比乃 ひびきを名乗る少女を見据える。

 

 「この迷宮は、ミス・日比乃による "桂木 千鍵を守りたい" という感情(・・)によって生み出された結界、ひとつの()だった」

 

 ホームズはそう言いながらパイプを取り出す。

 

 「これは、一種の固有結界(・・・・)に近い。……たとえ内部が異界化した地下迷宮といえど、通常、これほどの規模の広範囲な結界は一瞬で消えてしまう。だが聖典であるミス・日比乃が、自分自身の力─── "肉体の一部" を拡張させて空間を広げていたとするならば、世界からの修正を受けることなく存在を維持できる」

 

 「"自身の肉体の中ならば、世界からの修正を受けずに、固有結界を展開できる"……これは、」

 

 「ビーストIV(フォー)…コヤンスカヤさんが展開していた、"ツングースカの非霊長(れいちょう)生存圏" と同じ原理です」

 

 自分の言葉に、マシュが応える。

 

 「そうだ。故にここは、"白紙化現象が解決するその時まで" 問題なく存在を維持し続けられる。だというのに、この場所は、我々に救難を要請した」

 

 「呼んだのは、スナオちゃんだよ?」

 

 「だが、ミス・須方に呼ばせたのはキミだ。我々はその救難を受け取るまで、この場所の存在を知らなかった(・・・・・・)。その理由は、その存在を知らせる座標が、地上に(・・・)なかったからだ」

 

 「ふーん、それでそれで?」

 

 「おかしいと思ったのだよ。"桂木 千鍵を守る" 目的ならば、外部に座標を特定される要素───すなわち、入り口(・・・)は必要ない」

 

 「──────!」

 

 「あれは、キミが後付け(・・・)で造ったものだろう。……迷宮内部の構造は弄れずとも、"外側" であれば手を加えられる。構造そのものを弄らずに生み出せる魔獣(・・)や、洗脳(・・)と同じようにね」

 

 そう言って、ホームズは目を伏せる。

 

 「こんなものは、明らかに最初の "桂木 千鍵を守る" というミス・日比乃の意向とは正反対だ。」

 

 「う〜ん、考えが変わったの!ひびき(わたし)がやりたいことは、チカちゃんの力も貰わないと実現できないから!…だから足りないなりに、なんとかチカちゃんから力を奪う手段を考えただけだよ?」

 

 「っ──────!」

 

 そんなことが、許されていいものか。

 

 「ふざけるなッ! 考えが変わった…? 身を削ってまで守った友人なのに…? そんな、……そんな話があるか! キミのやりたいことは、俺にはわからない!でも千鍵は!ずっとキミを助けるために、恐怖を押し殺してここまで来たんだッ!」

 

 その想いを。

 (ないがし)ろにすることだけは、決して。

 

 「たとえ貴方が千鍵さんにとって大切なご友人でも、貴方が千鍵さんを傷つけるのであれば、私たちは貴方を止めます!」

 

 マシュもその聖盾を構える。

 

 「……まぁ、気持ちは理解できるが、一度 落ち着きたまえ。マスター・藤丸、ミス・マシュ」

 

 「でも、ホームズ───!」

 

 「アイツは "日比乃 ひびきじゃない"。そうなんだろ、ホームズ? いい加減もったいぶらずに言ってやれや」

 

 クー・フーリンの指摘で、ホームズが最初に彼女へと投げかけていた質問を思い出した。

 

 「では、彼女は…」

 

 「……あの時。あの場で。ミス・日比乃から霊基の器を受け取ったミス・桂木と同じように、聖典トライテンの力を部分的(・・・)に受け取り、結界に後付けを行なうことが可能な権限を得ることができるモノは、もう一人(・・・・)いた」

 

 白紙化現象の被害を受けながらも、あの場にいたもの。

 

 「先ほどのミス・須方の答えで。それは確信に変わった」

 

 そう言ってホームズは、真っ直ぐに目の前の少女を見据えて、

 

 「あらゆる次元に繋がる特異点。我々にとって、2017年末をもってなお現存していた、多元を(また)術式(・・)にして、それを維持するための防衛機構(・・・・)

 

 

 

 「すなわち、

  "多元(たげん)交錯(こうさく)式・アーネンエルベ"。

  ──────それが、キミの正体だ。」

 

 

 その正体を、解明した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ───その日は、とても■■■■日曜日でした。

 

 

 わたし(・・・)は、この喫茶店(ばしょ)に備わった、ひとつの防衛機構(・・・・)でした。

 次元を繋ぐ場所であるわたしは、繋がったそれぞれの次元が滅茶苦茶にならないように、危険分子の侵入を排除することを目的につくられた機能だったのです。

 

 けれど。さすがに無茶ぶりです。

 危険かどうかなんて、ひと目で判断なんてできません。

 そもそも本当に危険な人は、見た目でわからないものなのです。あのお爺さん、なんでそんな機能をワンオペに任せたのでしょうか。

 

 結果として。

 ここでは色んな出来事が起きました。

 どんな出会いも運命もハプニングも、わたしにとっては存在意義です。

 わたしの中で起きることすべてに、意味があるのです。

 

 だからわたしは記憶します。

 全部を大切に覚えています。

 無駄なものなど、ひとつもないのです。

 

 良かったことなら、もう一杯(いちど)

 ダメなことなら、しっかりと学んで理解して、二度とおもてなし(くりかえ)してはならないのです。

 

 

 

 ────しかし。

 その終わりの日(・・・・・)は、唐突に訪れました。

 

 

 一瞬にして、世界は白く包まれたのです。

 何もかもがなくなったのです。

 

 ────そして。

 "お客さん" は誰も来なくなったのです。

 

 

 どうして? どうして? どうして?

 

 わたしは、また失敗したのでしょうか。

 わたしのせいで、すべて消えてしまったのでしょうか。

 

 

 どんなに過去(きろく)を振り返っても。

 見つかるのは、あの "輝かしい日々" だけでした。

 

 

 ■■■■。■■■■。■■■■。

 

 感情(・・)をもったのです。

 行動する意思(・・)をもったのです。

 

 全部。

 消えてしまった千鍵(あの子)と、わたしのために、

 ひびき(あの子)が残してくれたのです。

 

 

 長い長い孤独の中、

 わたしは "それ(・・)" を見つけました。

 

 

 果てしなく広がる空を飛ぶ、一羽の鳥(・・・・)

 いいえ。あれは飛行機です。旅人がいるのです。

 

 あそこには、まだ "お客さん" がいるのです。

 

 

 逢いたい。逢いたい。逢いたい。

 

 わたしはここにいると。

 気づいてほしかった。

 

 連絡を取る手段なら、ひとつ知っています。

 この術式(わたし)と同じく、あのお爺さんが作ったものの中に、そんな便利なものがあったはずです。

 

 だから、

 わたしの力でそれを再現しました。

 

 一回かぎりの使い捨てかもしれないけど。

 一度呼べば、きっと来てくれます。

 

 ああ、でも。

 呼ぶのに失敗したらこわいなぁ。

 

 そうだ。

 信頼できるスナオ(あの子)にやってもらおう。

 あの子なら、似たものをいつも使ってるもんね。

 

 

 ああ、でも。

 呼んでもここには入口がないなぁ。

 

 そうだ。

 信頼してたひびき(あの子)の力を使おう。

 外側なら、弄っても文句なんて言わないよね。

 

 

 ひびき(あの子)はもう、力を使い果たしちゃったから。

 

 わたしがその姿を借りて、

 "ひびき(わたし)" として、代わりを勤めるのです。

 

 

 そうして。

 "お出迎え" に行きました。

 

 

 待ちきれない。待ちきれない。待ちきれない。

 

 

 

 

 ──────あっ、来たっ!

 

 

 いらっしゃいませ、アーネンエルベ(・・・・・・・)へようこそ!

 

 

 

 ***

 

 

 

 「"多元交錯式・アーネンエルベ"───?」

 

 ホームズの導き出した答えに、耳を疑う。

 

 「彼女は、ミス・日比乃がこの迷宮を生成した際、"ミス・須方たち同様に取り込んだ要素" のひとつだ。……元々(・・)アーネンエルベに備わっていた術式でありながら、結果としてこの迷宮と融合した」

 

 千鍵たちの働く喫茶店・アーネンエルベは、元々 特異点まがいの現象を引き起こしていた場所だった。

 その原因は、"聖杯に匹敵する" レベルの大魔術式(・・・・)が地下に備わっていたことだと、第三階層に降りてすぐの会話で、シオンから開示されていた。

 

 彼女は、その "魔術式そのもの" だというのか?

 

 「な、なんだよそれ…!? 魔術の術式に意思が宿るなんて、そんなことあんのぉ!?」

 

 スナオも、その真実に驚きを隠せていなかった。

 

 「有り得るとも。彼女が融合を果たしたこの迷宮は、そもそも "桂木 千鍵を守りたい" という、ミス・日比乃の感情(・・)によって生み出されたものだ。であれば、その影響を受けていても不思議なことじゃない。……それに我々カルデアは、"創造主の意向を無視し、意思をもって暴走した術式" をよく知っている」

 

 「人理(じんり)焼却(しょうきゃく)式───、魔神王ゲーティア(・・・・・・・・)…!」

 

 「先輩……、」

 

 自分のその言葉に、ホームズは無言で頷いた。

 

 

 「せいか〜いっ! すごいね、名探偵だよ!」

 

 ひびき───いや、"アーネンエルベ" は、丁寧にパチパチと拍手をしていた。

 

 

 「キミの正体を解明した上で、核心を問う。なぜミス・桂木を狙った? 彼女から聖典の力を奪い取って、何をするつもりだ」

 

 「ふふっ、その前に、もう変えて(・・・)いいよね?」

 

 そう言って、彼女の体は光に包まれていく。

 

 やがてその光の中から出てきた少女は、日比乃 ひびきに似てはいるものの、後ろ髪の長い全くの別人だった。

 その髪や服の色合いは、色褪せたオレンジのように、薄茶色や駱駝(らくだ)色に近い姿をしていた。

 

 「ふむ。それがキミの "今の姿" か」

 

 「あっ! その色! これと一緒!」

 

 そう言って、スナオは唐突に壊れたガラパゴス携帯をポケットから取り出した。

 

 「そうだよ? わたしとあのケータイは創造主(・・・)が同じだから、同じ理論と術式を応用して再現したの!さすがに、完全に同じモノは造れなかったけどね」

 

 「なるほど。スナオさんは彼女の造ったケータイを用いて、私たちに救難を送ったのですね? こちらから折り返しの信号が送れなかったのは、そもそもそのケータイが、使い捨てで壊れていたからと…」

 

 マシュの言葉で納得する。

 ということはやはり、スナオに救難の信号を送らせたのも、クー・フーリンを出迎えた後、魔獣や洗脳を用意したのも、全部 この術式(しょうじょ)の仕業だったということだ。

 

 "日比乃 ひびきは、千鍵を殺そうとしていない。"

 

 この真実に、自分はただ、ほっとしていた。

 

 

 「……さて。千鍵(チカギ)を殺して何をするつもりなのか、だったよね? それはね、あなたたちを(・・・・・・)おもてなし(・・・・・)するのっ!」

 

 

 なんだって─────────?

 

 「てめぇ、オレに会った時もそんなことを言っていたな。そんなことのために、オレたちを招いたってのか?」

 

 クー・フーリンはそう言って術式(しょうじょ)を睨む。

 

 「勘違いしてるよ、ランサーさん。わたしはね、"あなたたちの守りたい人類すべて" をおもてなしするんだよ…?」

 

 「なに──────?」

 

 「聖典の力を部分的に獲得したわたしは、この力が秘める本当の使い方を理解したの。これを使えば、あなたたち汎人類史(・・・・)を救ってあげられるよ?」

 

 「っ、キミは汎人類史について、いったいどこで知った…?」

 

 「わたしは多元を繋ぐ術式だもん。それくらい知ってるよ。……それに、お出迎えした時に、ランサーさんが色々教えてくれたよ」

 

 「あー、暇だったんで、雑談混じりに、ちょっとな…」

 

 そう言って、クー・フーリンは目を逸らす。

 

 

 「それでわたし思ったの! わたしが自分の中で、みんなのことを管理すれば、もう誰もいなくなったりしないって…!」

 

 そう言って、術式(しょうじょ)は笑顔を向ける。

 

 

 「だからね? わたしはあなたたちの味方だよ。わたしがトライテンの力を全部掌握できれば、世界を救えるのっ!」

 

 「このような迷宮に閉じこもることを、貴方は世界の救済だとおっしゃるのですか…!」

 

 マシュの言葉に、術式(しょうじょ)は首を横に振る。

 

 

 「"迷宮を造ること" は聖典のもつ力の応用にすぎない。この聖典 トライテンの真の目的は、"(しゅ)の愛" を証明すること。……けれど結果として生まれたモノは、"宇宙(・・)のモデルケース" だったのっ!」

 

 

 「な──────!!?」

 

 宇宙のモデルケース……だって?

 

 「モデルケースの例を挙げるならば、我々がよく知る "擬似地球環境モデル・カルデアス" もそのひとつだ。あれは地球という星に魂があると定義し、複写した地球のモデルだが……しかし、宇宙のモデルケースともなれば、その規模は…」

 

 ホームズも、その聖典のもつ本当の性質を知り、額に汗を流していた。

 

 「この聖典を造ったヒトは、面白いヒトみたいでね。"この世のものはすべて、主の愛によって生まれたもの"。…っていう考えを突き詰め続けた結果、"宇宙そのもの" のモデルに到達したの」

 

 思わず絶句する。

 そんなことを突き詰め続けるだけの信仰心を、その人物は抱いていたというのか。

 

 「おいおい、ホントのホントだったのかよそれ…! 都市伝説みたいな眉唾(まゆつば)ものじゃねぇんかよ……!」

 

 「スナオさん……?」

 

 「…んと、アタシはもともと、聖典トライテンの調査、処分を目的に、ひびきち達に近づいた代行者見習いだったんよ。……あるかどうかもわからないモノを探させるとか、ただの厄介払いに思ってたけど、その性質の真相がそんなのとあっちゃ、教会も放置しないわけだ」

 

 スナオは納得したように、呆れ返ったように頷いていた。

 

 「そう。だからね、わたしがこの力をすべて掌握できれば、あなたたち "汎人類史" というサンプルをもとに、もう一度 "あなたたちの宇宙" を再現できる。世界を取り戻せる(・・・・・・・・)んだよ!」

 

 術式(しょうじょ)は嬉しそうに、くるくると回る。

 

 「仮にてめぇの話が真実だとして、サンプルになったオレたち汎人類史の生き残りはどうなる? 人類がもっかい一から誕生するまで、何億年も待て、とでもいいやがるのか…?」

 

 「まさか? そんなことしないよ!あなたたちが "生きていたい時間軸" まで、わたしが飛ばしてあげるもんっ!」

 

 そう言って、術式(しょうじょ)は手を伸ばして。

 

 「"順行(じゅんこう)運河(うんが)再現(さいげん)光年(こうねん)"! ぜーんぶ、わたしに任せてっ!」

 

 その無邪気さが、今は寒々しい。

 

 

 「わたしは日比乃 ひびきが残したこの場所、

  "乙女(おとめ)聖匣(せいごう) ケース:トライテン" を利用して、もう一度 新しくあなたたちの宇宙を再現するの!」

 

 

 「すべて、キミの箱の中(・・・)で……?」

 

 

 「そう! その宇宙には、あなたたちを自滅させる獣も、侵略してくる異星の神さまもいない!わたしが守ってあげる! だってぜんぶ、あなたたちを "主体" とした、あなたたちのための宇宙(ばしょ)なんだもの!」

 

 

 術式(しょうじょ)は、満面の笑みで。

 

 

 「これがわたしのやりたいこと。

  すなわち、人理(じんり)奉仕(ほうし)『魔法使いの(はこ)』。」

 

 

 「人理奉仕───、」

 

 思わず、言葉が出なかった。

 

 「"人類の補完" 行為───それは、人理焼却の折、清き魂をもつ人類のみを聖伐(せいばつ)し、標本として遺そうとしていた獅子王…"女神 ロンゴミニアド" に近い価値観だ。だが…」

 

 第六特異点・聖都キャメロット。

 獅子王による人類救済と、彼女の考え方は近しい。だが彼女のそれは、規模も目的も異質すぎる。仮に聖典トライテンを掌握してしまえば、彼女は宇宙の創世すらやってのける気なのだ。

 

 「存在規模を宇宙そのものにするとなれば、その在り方はビーストIII(スリー)/L(ラプス)…カーマさん、いえ、マーラと同じ脅威クラスとなってしまいます…!」

 

 マシュの言葉に、動揺を隠せない。

 この術式(しょうじょ)は、ビーストの領域に踏みいろうとしているのか…!

 

 「誤解だよ…! 言ったでしょ? わたしはあなたたちを守るって。滅ぼしたりなんて、絶対に(・・・)しないよ。……ずっーと、ずっーと、わたしという宇宙が、あなたたちをおもてなし(・・・・・)し続けるの!」

 

 

 

 「そのために、ひとりの命(・・・・・)を犠牲にするって?」

 

 

 

 「──────!」

 

 唐突に聞こえてきた第三者の声に、思わず振り返る。

 

 

 「なぎこさん──────!」

 

 そこにいたのは、あの後 千鍵を追ってくれたはずの清少納言こと、なぎこさんの姿だったのである。

 

 「なぎこさん、千鍵は───!?」

 

 「よっす、ちゃんマス。とりあえず、チカちーは今安全なとこにいるから問題ないよ。でも後ですぐに行ってあげて。ここはあたしちゃんが代わったる」

 

 そう言って、彼女は自分の前に出る。

 

 

 「あなたは、わたしの目的に賛同できないの?」

 

 「ったりまえっしょ!一人の犠牲で造られる世界の、どこが救済だっての! ましてや、JKの命! いい?そこのちょっと可愛い術式ちゃん! あんたのやろうとしてることは、あたしちゃんの触れちゃならねぇラインを超えたんよ!」

 

 なぎこさんは、そう強く啖呵(たんか)を切った。

 

 

 「………呆れた。あんなの、もともと死んでた(・・・・)命なのに。……綺麗事なんか興味ない。本当は、あなただってもう一度 "逢いたい人" がいるくせに」

 

 「っ──────、」

 

 「ふふっ、今回は見逃してあげるわ。あの子を差し出すことが決まったら、最終階層まで降りてきてよ。……もし逆らうなら、相応の "おもてなし" をしてあげる」

 

 そう言って、術式(しょうじょ)は不気味に微笑む。

 

 「見逃すだと? こちとらそんなつもりはねぇよ。のこのこ出てきた以上、ここでてめぇを仕留めるに決まってんだろ」

 

 魔槍を構えるクー・フーリンを見て、術式(しょうじょ)はため息を吐く。

 

 「わたしが本気であなたたちを殺す気になったら、ここに生み出せる魔獣の数は千や二千はくだらないってわからないかな? ランサーさん」

 

 「ッ──────!」

 

 「それにここは "わたしの中" でもあるんだよ? 安全な場所(・・・・・)なんて、あるわけないじゃない……?」

 

 その言葉で、寒気がした。

 

 「まさか、千鍵を──────!」

 

 慌てる自分を見て、術式(しょうじょ)はクスクスと笑う。

 

 

 「………わかった。今はキミの提案を飲む。こちらの結論が出たら、最終階層へと降りるとも」

 

 「ホームズさん───!?」

 

 

 「だが忠告しておこう。アーネンエルベ。我々のくだす結論は、キミの望む結果(・・・・・・・)にはならないだろう。」

 

 

 

 「────────────あはっ、」

 

 

 愉快げに笑って、術式(しょうじょ)は消えていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「……くそっ、(やっこ)さん、今までは本気でオレたちを殺しには来てなかったって言いてぇのか」

 

 苦虫を噛み潰したように、クー・フーリンはそう呟いた。

 

 「彼女の目的は、あくまで我々の保護だ。狙いは最初から、ミス・桂木だけだった」

 

 「彼女の言っていたことが真実ならば、私たちに対抗する手段はあるのでしょうか……」

 

 彼女には、迷宮そのものの構造は弄れなくとも、とてつもない数の魔獣を生成できる。この事実があるかぎり、正面から彼女を打倒することは難しい。

 

 

 「対抗手段であれば、ひとつだけ(・・・・・)ある。」

 

 

 「ホームズ、それは───?」

 

 「この迷宮の造設者である、"日比乃 ひびき" を見つけることだ」

 

 日比乃 ひびきを見つける──────?

 

 「ミス・日比乃は、この迷宮の造設とミス・桂木の魂の保護を行ない、大半の力を消費した───という話だが、なにも "完全に力を失っている" わけではないはずだ」

 

 そうか。

 まだこの迷宮のどこかに、わずかに力を残した、本物の(・・・)日比乃 ひびきはいるはずなのだ。

 

 

 「………もう既に、アイツに殺されちまってるって線は?」

 

 「っ─────────!?」

 

 「……その可能性は低いだろう。たとえ聖典の力の一部を保有し、この結界を掌握していようとも、その力の源はミス・日比乃のものだ。本体である彼女を殺してしまったら、この結界が消えるリスクがある」

 

 ホームズの指摘通り、もしアーネンエルベが聖典トライテンの力をすべて掌握するつもりなら、少なくとも千鍵から力を奪うまでは、自身の支配下にあるこの結界は維持しておくはずだ。日比乃 ひびきを殺すとすれば、それこそ一番最後(・・・・)になる。

 

 

 「でも ひびきちのやつ、一体どこにいるってんよ…? アタシが会ったひびきちも、ランサーが会ったのも全部あのアーネンエルベだったんっしょ?」

 

 スナオはそう言って頭を抱える。

 

 「彼女が、アルカトラスの第七迷宮と同じ原理で、このケース:トライテンを造り出したのなら、彼女がいる場所もまた、その迷宮と同じ構造位置にいる可能性がある」

 

 「つまり、最終階層の "最奥" …?」

 

 自分の言葉にホームズが頷く。

 

 

 「最終階層の最奥って、アタシが最終階層を散策した時は、何もなかったけど……?」

 

 「さすがに、単純に見つけられるような構造には、なっていないのだろう。この結界の核となる場所だからね。」

 

 「だがよ ホームズ、それを向こうが把握していないはずがねぇだろ? 大人しく到達できると思うか?」

 

 「無論、かなりの苦難を強いられるね。だが対抗手段はこれしかない」

 

 ホームズは、そう言って目を伏せる。

 

 

 「しかしホームズさん、仮にひびきさんを見つけられたとして、どのようにしてアーネンエルベに対抗するのですか…?彼女はもう、ほとんどの力を失っているのですよ…?」

 

 「その通りだ。それゆえに、彼女(・・)にも同行してもらう必要がある」

 

 「千鍵……、だね…?」

 

 自分の言葉に、スナオは手を叩く。

 

 「………そっか! チカちーの聖典の力を、ひびきちに使ってもらうのか…!」

 

 「ああ。聖典トライテン本体であるミス・日比乃であれば、ミス・桂木を殺したりせずとも、その力の正しい効力を引き出せるはずだ」

 

 「その力があれば、彼女に対抗できる…。ともすれば、この結界の支配権を奪い返すことも…!」

 

 

 そのためにも。今度こそ。

 

 

 「──────千鍵に、会いに行こう。」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ──────星もない虚空を見上げる。

 

 

 この迷宮の第三階層には、天井がない。

 

 私は、あの大浴場前の石に腰を下ろして、

 ただただ暗闇を見つめ続けていた。

 

 

 「っ─────────、」

 

 不意に、涙が込み上げてくる。

 

 情けなく、みっともなく泣き(わめ)けば、楽になるのだろうか。…冗談。そんな行為をしたところで、この現実はなにも変わらない。

 

 だから、何もしないで空を見る。

 

 

 

 "私のせいで、みんなを巻き込んだ"

 

 "とっくの昔に、私は死んでいた"

 

 "ひびきは、私のことを殺したい"

 

 

 「ぅう───、っ───」

 

 涙を堪えると、今度は吐き気に苛まれる。

 

 そんな頭がおかしくなりそうな苦しみを、もう何回も繰り返している。

 

 

 ああ。もう死んでる命なら、いっそ───、

 

 「千鍵──────、」

 

 

 なにもかも棄てようかと思ったその時、

 あの自分と変わらぬと思っていた少年が、

 まっすぐな眼差しで、ここまでやって来ていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「チカちー、この先にいるよ」

 

 そうして、あの大浴場の付近まで到着する。

 

 "千鍵とは二人で話したい" と事前にみんなへと伝えた自分───藤丸 立香は、案内をしてくれたなぎこさんと、二人でここまで来ていた。

 

 

 「ねぇちゃんマス。ケータイちゃん、ちょっち借りてもいい?」

 

 唐突になぎこさんに促され、もう応答のないひび割れたスマートフォンを渡す。

 

 「どうしたの……?」

 

 彼女はそのまま、何かの画面を開いて、

 

 「はいコレ。……チカちーのこと、頼んだよ」

 

 そのままの状態で、返してきた。

 

 「これって──────、」

 

 なぎこさんは、わずかに微笑んで、そのまま去っていこうとしていた。

 

 

 「なぎこさんも、ありがとう…! ……ずっと、千鍵のことを気にかけてくれて。」

 

 その背中に、ただ感謝を伝えた。

 

 そんな自分の言葉に、彼女はくるりと振り返り、

 

 「気にすんなって!ダチを気遣うのは当然でしょ!…任せたかんな、ちゃんマス! バシッと決めてこい!」

 

 満面の笑みで、激励の言葉を送ってくれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 ────そうして。

 大浴場前へと到着する。

 

 

 千鍵は虚ろな瞳で、

 何も無い暗闇の空を見上げていた。

 

 

 「千鍵──────、」

 

 自分の声に、千鍵はこちらへ視線を向ける。

 

 

 「藤丸───、」

 

 彼女はそのまま視線を逸らす。

 

 

 「ごめん、私のことは、もう気にしないでいいからさ…」

 

 

 「……気にしないわけないだろ」

 

 

 「だって、ぜんぶ…、ぜんぶ私のせいだったんだっ! 私がひびきの言葉を無視して、あの店を飛び出したからこうなった…!」

 

 

 「俺が千鍵でも、同じことをしてたと思う」

 

 

 「……第二階層の時の、ホームズの言葉、覚えてるか? "今を生きる人類のために" 命を張るんだって。……笑えるよな、私もう死んでたってのに。そんなの、もう、会わせる顔がない…!」

 

 

 「ホームズは、きっとそんなこと思ってないよ」

 

 

 「だったら ひびきは…? アイツは、こんな私のために自分を犠牲にして、なのに今度は私を殺したがってる…! なら大人しく殺されてやるべきじゃないのか…? だって、私はもともと死んでたんだ…。ひびきだって後悔したんだ。こんな私のために、命を張ったことを…!」

 

 

 「千鍵は、ひびきがそういうことをする子だと、思うの?」

 

 

 「思わ、ない…っ!思いたくないよ…っ!でも、それが事実なんだろ…!! ひびきにとって、わた、私は…、"大切な人(・・・・)" じゃ、なかったん、だ……、っ、ぅう」

 

 

 「千鍵を殺したがってたのは、ひびきじゃない」

 

 

 「え…………?」

 

 

 「別の黒幕が、ひびきのフリをしてただけなんだ。だから、ひびきはキミのことを殺したいだなんて、思ってないよ」

 

 

 「で、でも……! ホントにそう、なのか…? だって私は、ひびきに殺されたって、おかしくないこと、したんだぞ……!アイツの言葉を無視したから、こんな、ことに……!」

 

 

 そう言って俯いた彼女へと、

 

 

 「──────これを見ても、そう思う?」

 

 自分はケータイを差し出す。

 

 

 「え……? なん、で、?」

 

 

 受け取った彼女は、

 その画面に写し出された、写真(・・)を見た。

 

 

 それは、二人の得がたい時間(・・・・・・)

 いつの間にやら撮られた写真もあれば、寝ている千鍵を、ひびきがこっそりと自撮りしたものもある。

 

 笑ったり。怒ったり。

 泣いたり。騒いだり。

 

 端末を()えてもなお、大事に保管された、

 誰か(・・)が抱え続けた、大切なアルバムだった。

 

 

 アルバム名には、ただ一言。"友達(・・)" と。

 

 

 「ぁあ、っ、ぅう─────!」

 

 

 千鍵は涙を零しながら、大事そうに胸に抱える。

 

 

 「……千鍵の言った通り、ひびきが今どう思ってるかなんて、俺にもわからない。でも、"大切な人" を考える時に大事なことは、二つだけ(・・・・)だと思うんだ」

 

 「え──────っ?」

 

 「"相手のことを想う気持ち" と、"その人も同じように想ってくれてるって信じる気持ち"。……どんな時でも、その二つの()を胸の中に置いておけたら、それがキミにとって大切な人(・・・・)だ」

 

 「ふじ、まる──────、」

 

 「千鍵にとってひびきが大切な人なら、

  千鍵が、ひびきのことを信じてあげよう?

   ──────だって二人は、友達(・・)でしょ?」

 

 

 自分のその言葉で、千鍵は涙を(ぬぐ)って。

 

 「っ、当たり前だ……っ! その、ごめん藤丸、弱いとこ見せた…。あ、ありがと…」

 

 そんないつもの彼女らしい言葉に、つい笑みがこぼれる。

 

 

 「……ひびきを助けにいこう。これは、千鍵にしかできないことだ。キミの力を貸してほしい」

 

 そうして、自分の右手を差し出す。

 

 

 「──────ああ、わかった!」

 

 千鍵は、大事そうにその服のポケットへとケータイをしまってから、強く握手を返してくれた。

 

 

 

 

 星も見えない虚空(そら)の下。

 大切な友を助けるために、

 一人の少女の胸に、()は生まれた。

 

 

 

 

 /『たとえば消えない星の事』-了-

 

 




 
 
 
 まずはここまでお読みいただき誠にありがとうございました。最終節 直前ということで、かなりの文章量になってしまい、申し訳ないかぎりです。
 
 ここから先は、これまでと同様に今回の話の補足説明と小話をしていきたいと思います。
 
 
 ・乙女(おとめ)聖匣(せいごう) ケース:トライテン
 
 この迷宮の正体。日比乃 ひびきが、その内に秘めた聖典 トライテンの力を用いて その場にあった "喫茶店アーネンエルベ" と融合させる形で生み出した "桂木 千鍵を守る" ための結界です。
 その作成原理は、聖典トライテンの力を応用して生み出された "アルカトラスの第七迷宮" と同じものでした。
 しかし、こちらのケース:トライテンの場合は、結界作成の前に、"桂木 千鍵の魂の保護" を日比乃 ひびきが行なったため、その本来のひびきのスペックから大幅に減衰。その結果、結界の作成は最低限かつ不完全なモノとなってしまいました。結界内部に、不規則かつ不安定な魔力溜まりが発生していたのも、その影響です。
 アルカトラスの第七迷宮は本来、トライテンの応用であるが故に、宇宙と同様、無限にその構造を拡張し続けるという性質をもつとされていますが、ケース:トライテンにはその性質はありません。こちらも本体である日比乃 ひびきが、その力を大幅に失っていたことが理由です。
 作中で語られた通り、結界を維持できていた理由は、ビーストIV…タマモヴィッチ・コヤンスカヤの『非霊長生存圏』と同じような仕組みですので、白紙化地球においてもこの場所は無事でした。日本の冬木の地下空洞を異界化させることで小規模ながら迷宮を存在させていました。
 ただし、入口はなく、地上へ干渉を一切しないため、この時点では座標を割り出すのは不可能です。藤丸たちが迷宮を訪れた時、内側からは行き止まりになっていたのは、そもそも黒幕が後付けで用意した、転移させる形で内部に飛ばす偽物の入口だったからなのでした。
 また、入口の外見が西暦1000年頃のヨーロッパの建築に似た姿をしていたのは、聖典トライテンが完成したのが、そのあたりの年代だったことに由来しています。
 
 
 ・多元(たげん)交錯(こうさく)式・アーネンエルベ
 
 この迷宮に潜んでいた黒幕。その正体は、日比乃 ひびきに偽装して、人類最後の生き残りであるカルデアを "おもてなし" しようと考えていた、喫茶店 アーネンエルベに備わった術式───防衛機構でした。
 本物の日比乃 ひびきによって、聖典トライテンの力を受け、ケース:トライテンへと変性したアーネンエルベは、日比乃 ひびきが望んだ "桂木 千鍵を守りたい" という感情の影響を受けて、意思をもちます。
 ケース:トライテンとなったアーネンエルベは、他の世界線と接続できず、白紙化地球に取り残された現状を、自身に芽生えた意思を用いて分析、回想、理解しようとしました。
 しかし、記録されていた自分のログを振り返る彼女は、その "楽しかった過去の出来事" と "もう何も起こらなくなった現在の状態" の摩擦により暴走。ひびきが残した "守りたい" という感情は、"■■■■" という感情に塗りつぶされ、残された人類とともに、もう一度 "全人類を守ろう" とする、歪んだ目的に切り替わっていきました。
 この感情を獲得した時点で、彼女は自身をヒトとしての端末───"奉仕(ほうし)体・アーネンエルベ" を誕生させます。
 
 聖典トライテンの仕組みを理解した彼女は、宇宙のモデルケースであるトライテンを完全掌握するべく、その力のおよそ半分を請け負っている桂木 千鍵の命を狙います。桂木 千鍵が死ねば、その力は迷宮に取り込まれるので、誰が殺しても問題ナシ。迷宮に生み出した魔獣やカルデアのサーヴァントたちを洗脳してその目的を達成しようとしました。
 そのため、この話で出てきた魔獣たちは、目の前に障害となる者が現れないかぎりは、必ず最初は千鍵を狙っています。この洗脳は、彼女が本来備えていた、"来訪者が違和感を感じぬよう認識を曇らせる魔術" を応用して発動したものでした。
 彼女の真の狙いは、トライテンを完全掌握し、汎人類史というサンプルをもとに、"もう一度この宇宙を再現する" こと。
 その宇宙は、すべて彼女の管理下にあるため、汎人類史を滅ぼそうとするビーストも、異星の神による侵略も、創造主である彼女の意思で捻り潰されます。まさに "永遠の存続" が約束された世界。それはもはや道ではなく()。人類は得体も知れない、把握することもできない、文字通りの "神" によって、永遠に終わることのない明日を約束し続けられるのです。
 故に、人理(じんり)奉仕(ほうし)───『魔法使いの(はこ)』。
 人の手で届かぬ、究極の神秘の領域から、人だけをしまいこんだ超常の箱なのでした。
 
 また、余談ですが、奉仕体のカラーリングを薄茶色や駱駝(らくだ)色と表現したのは、漫画版『ALL AROUND TYPE-MOON ~アーネンエルベの日常~』の表紙のカラーリングを参考にしたためです。アーネンエルベはやっぱりブラウンというか、レトロな雰囲気のウォルナットやブビンガのウッドの印象だったので、そういうデザインを思い浮かべました。
 また、見た目は "後ろ髪の長い日比乃 ひびき" という表現をしましたが、どちらかというと幼少期のアルクェイドの方に似てます。あの爺さんが造ったものなので、そうなるかなぁ…と。遊び心です。
 
 
 ・星4 アーチャー 須方 スナオ
 
 おっまたせ〜! みんな大好きスナオちゃんが、"配布サーヴァント" として来てやったぞ〜! って、チカちーじゃないのかって? 緑くれよ? うるせぇ、ガトリング砲ぶっぱなすぞっ!!
 …というわけで加入する配布枠のスナオちゃん。桂木 千鍵をミスリードに、ずっと裏でスタンバっていた本当のコラボイベ配布サーヴァントの扱いの彼女なのでした。本来は人間ですが、藤丸と仮契約を結ぶ形でサーヴァント風に頑張ります。こちとら "代行者見習い" なんだけど!?戦ってる土俵 違くないっ!? と定期的にクレームが飛んできますが、悪しからず。
 桂木 千鍵や日比乃 ひびき同様、FGO世界線の地球白紙化現象に巻き込まれた彼女ですが、ひびき(偽)に頼まれてカルデアに救難信号を送信後、ケース:トライテン内で午睡。次に目を覚ましたのは、唐突に脳裏に響いた "桂木 千鍵を殺せ" という何者かの洗脳命令でした。しかし、その時の彼女には、その命令は理解不能。なぜなら既に、"桂木 千鍵は死んでいる" と彼女だけは知っていたからです。
 結果、彼女は気にせず、最終階層の構造をひと通り散策してから、シビレを切らして上の階に上がったのでした。ちなみにこの時点では、まだ最終階層だけは魔獣は解き放たれてはいません。
 また、アーチャークラスなのは、彼女がガトリング砲やらカレー印の火炎放射器やらをしまい込める未知のポケットをもってるためです。弓を使わないガバガバ アーチャーなのはご愛嬌。宝具も彼女のフル装備による全弾掃射になるでしょう。
 『乙女の秘密(ディメンションポケット)全弾殲滅掃射(フルバレット アナイアレイト)』…うーん、この全体バスター宝具。その謎の四次元ポケットを再現した、ランダムバフなんかがスキルであったりしたら、楽しそうだネ。
 
 
 物語も次で終幕。
 どうかその最後の最後までお読みいただけましたら、作者としては嬉しいかぎりなのです。改めまして、ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
 次回の最終更新をお待ちいただけますと、幸いです。
 
 
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