Fate/Grand Order × まほうつかいの箱『乙女聖匣 ケース:トライテン -星明かりの迷宮へようこそ-』   作:ひゅーzu

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 この物語は、引き続き『Fate/Grand Order』と、同じくTYPE-MOON作品『まほうつかいの箱』ならびに『スターリット・マーマレード』のコラボイベント風の二次創作です。
 また、FGO第2部本編「非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」までのシナリオ状況のネタバレを含みます。あらかじめご容赦ください。
 最後の更新となりますので、どうかお時間のある時にお読みいただけますと幸いです。
 
 


最終節『友遠からじ』

 

 

 

 一つの星も見えない暗い空。

 

 夜の闇のような世界に、私たち(・・)はいる。

 

 

 そこは絵本で見るような、

 魔法使いのお部屋には程遠い。

 

 そんな場所に、私は座っている。

 

 つい心細くなって、

 月に見立てたほのかな明かりを、

 自身の膝もとへと、溶かすように照らす。

 

 

 「チカちゃん──────、」

 

 

 その視界の先には、

 私の膝の上に頭を預けて眠る、大切な人(・・・・)がいた。

 

 

 彼女は、まだ目を覚まさない。

 魂が馴染むまで、もうちょっとかかるかな。

 

 

 私はここで、彼女が目を覚ますその時まで、

 ただ、ぎゅっと手を繋いでいる。

 

 

 「ごめんね…、守って、あげられなくて…」

 

 

 私の頬を(つた)った()が、

 眠り続ける彼女の頬を()ぜた。

 

 

 そんな私たちのもとへ。

 

 

 

 " 桂木 千鍵 を、殺せ。"

 

 

 「っ──────!」

 

 唐突に、そんな言葉が頭に届いたのだ。

 

 

 「ダメだよ、そんなの──────!」

 

 

 どうしよう。どうしたらいいんだろう。

 

 誰かが、ここに来る。

 チカちゃんを殺しに来る。

 

 そんなことは、絶対にダメだ。

 

 

 ──────だから。

 ここには、チカちゃんを置いておけない。

 

 

 「ごめんね、……ごめんね、チカ、ちゃん…っ」

 

 

 そうして、虚空(ソラ)へと送る。

 最奥(ここ)ではない、果ての果て。

 

 私の手が届かなくなるくらい、ずっと先まで。

 

 

 「ああ─────────、」

 

 

 "繋いだ手" が離れていく。

 "大切な人(・・・・)" が、遠ざかっていく。

 

 

 「これで、いいんだ──────、」

 

 

 私のことを照らし続けてくれた、あの星。

 その星は、今はもう遥か小さく。

 

 

 

 

 「…………千鍵(チカギ)を渡して。ひびき」

 

 

 やって来た誰かの言葉に、私は首を横に振る。

 

 

 「ここにはいないよ。……ごめんね」

 

 

 私の言葉を聞いて、その誰かは、

 諦観を込めた眼差しで私を見る。

 

 

 「────そう。あなたもわたしを拒むんだ。」

 

 

 そう言って、何もせずに去っていく。

 

 

 「どうせそれっぽっちじゃ、あなたは なんにもできやしない。……そこで見てて。千鍵(あの子)を殺して、わたしが世界を(もてな)すところを。」

 

 

 

 ─────────星は、遥か遠く。

 

 

 

 

 私はあの星を、

 見つめ続けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 最終節『(とも)(とお)からじ』/

 

 

 

 

 「……これより、最終階層へと突入する前に、改めてその目的を確認しようか」

 

 第三階層・最奥の大広間。

 自分───藤丸 立香たちは、日比乃 ひびきが桂木 千鍵を守るために造ったこの結界『乙女(おとめ)聖匣(せいごう) ケース:トライテン』を掌握した黒幕 "多元(たげん)交錯(こうさく)式・アーネンエルベ" の打倒のため、最後の準備を終えた。

 

 「私たちの目的は、ひびきさんを救出し、千鍵さんのもつ力を最大限に発動して、あの術式…アーネンエルベから、結界の支配権を奪い取りこの場から帰還すること、そうですね?」

 

 マシュの言葉に、ホームズは頷く。

 

 「そうだ。そのためには、既に最終階層を散策済みのミス・須方に、ナビゲートをしてもらう必要がある」

 

 「うぃ〜。けどもっかい言っとくけど、アタシが散策した時、最終階層の最奥らしき場所には何もなかったからな? それでもいいんだな?」

 

 「構わない。アーネンエルベは、この結界の構造を(いじ)ることはできないからね。必ずそこのどこかにあるとも」

 

 「ようするに、ぶっつけ本番ってワケか」

 

 ホームズの言葉に、クー・フーリンは愉快げに鼻を鳴らした。

 

 「ああ。だがなにも策がないという訳ではない。……まぁ、そこは私がなんとかするとも」

 

 そう言って、ホームズはパイプを口にする。

 

 

 「ねぇスナっち。ちなみに最終階層って、どんくらいの広さだったの?」

 

 「道はそこまで複雑でもないし、(せま)くもなかったにゃあ。…ま、最終階層だけに絞っちまえば、なぎこのソレ(・・)は問題なく届くっしょ」

 

 「おっけまる! 信じてんよぉ、スナっち!」

 

 「おうおう、こっちもね〜! ……ねぇ藤丸? ホントにこの人 あの清少納言なんかぁ? シナジーありすぎて、もうJKの違和感ねんだけど」

 

 恐ろしいまでに噛み合うスナオとなぎこのやり取りは、正直 こちらも苦笑いするしかないのである。

 

 

 「ふむ。ミス・なぎこの役割(・・)に関しては問題なさそうだ。同じくクー・フーリンも、構わないね?」

 

 「おう、任しとけ。…ある意味、あの(やっこ)さんの野望に火ぃつけちまったのは、オレが軽率なことを言ったせいでもあるからな。与えられた役割(・・)は、必ず果たすとも。」

 

 そう言って、クー・フーリンも覚悟を決めていた。

 

 

 「ああ。俺とマシュも、最奥まで必ず千鍵を護衛してみせる。……千鍵も、もう大丈夫?」

 

 自分の言葉に、千鍵はパチンッと、自身の頬を叩いて、

 

 「ああ! 絶対にひびきを見つける。絶対だ…!」

 

 強い眼差しを返してくれた。

 

 「そんじゃ、チカちー、念のためにコレあげる」

 

 そう言って、スナオは何かを千鍵に差し出した。

 

 「え、短剣……?」

 

 それは彼女が愛用していると見られる、赤い柄の短剣だった。

 

 「護身用に持っときな〜。多少は自分の身は自分で守れないと、気が気がじゃないだろぉ?」

 

 「───ああ。助かるよ、スナオ」

 

 

 そうして、すべての準備が整う。

 

 

 「ではこれより、

  最終階層に向かいましょう、皆さん!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 そうして、最終階層への階段を降り切る。

 

 

 そんな自分たちを、今か今かと待ち侘びていたかのように、あの術式(しょうじょ)が姿を現した。

 

 「いらっしゃい! ケース:トライテンの最終階層へようこそ! さぁ、千鍵(チカギ)を引き渡す準備はできた?」

 

 そう言って、術式(しょうじょ)はニコニコと微笑みを絶やさない。

 

 

 「コイツが、ひびきに……、」

 

 

 「──────残念だが、キミにミス・桂木の命を差し出すつもりはない。」

 

 

 ホームズの言葉に術式(しょうじょ)は、つまらなさそうに溜め息を吐いた。

 

 

 「ふーん。千鍵(その子)、そんなに大事? だってもう死んでたんだよ? "初めからないもの" を犠牲にして、世界を救えるなんて、こんなに好条件な取引はないよ?」

 

 

 術式(しょうじょ)の言葉に、自分は首を横に振る。

 

 

 「俺たちがキミの条件を飲めない理由に、千鍵のことは関係ない(・・・・・・・・・・)。」

 

 

 「は───────?」

 

 

 「キミがやろうとしていることは、"救済" なんかじゃない。今あるモノをすべて捨て去って、平穏な思い出の中に閉じこもる "逃避" だ。」

 

 たとえ、その宇宙に。

 自分たちが失ってきたモノが、すべて揃っていたとしても。

 それは自分たちが置き去りにしてきた、本当のモノではない。とてもよく似た、"違う何か" なのだ。

 

 自分たちがもしも、それを肯定してしまったら。

 あの痛みは。

 あの喜びは。

 あの悲しみは。

 

 どこへ向かうというのか。

 

 「"人類(わたしたち)の未来は、人類(わたしたち)で決めます"。……貴方の箱の中で約束された、永遠の明日(・・・・・)なんて、欲しくありません…!」

 

 

 藤丸立香(じぶん)の想いを支えるように、マシュが、強くそう伝えた。

 

 

 「ざーんねん。交渉決裂(・・・・)だね…?」

 

 

 そうして、指を鳴らそうとした術式(しょうじょ)に、

 

 「……最後に。ひとつだけ聞かせてほしい」

 

 そう頼み込んだ。

 

 

 「──────いいよ。なぁに?」

 

 

 「千鍵はキミにとって、身内も同然のはずだ。彼女の命を奪うことに対して、キミは心が痛まないのか…?」

 

 「藤丸………、」

 

 自分の言葉に、術式(しょうじょ)は失笑する。

 

 「なにかと思えば。同情を誘って、許してもらおうって腹積(はらづ)もりなの?」

 

 

 「違う。キミの本音が知りたいだけだ」

 

 「本音もなにも。その子のせいで、わたしたちの世界は閉じた。口にするまでもないでしょ。……それにね? 接客において大切なことをひとつ教えてあげるわ?」

 

 「なに──────?」

 

 「"身内よりも(・・・・・)お客さまが一番(・・・・・・・)" なんだよ…?」

 

 「っ──────!?」

 

 術式(しょうじょ)のその言葉とともに、何かとてもない気配が、自分たちの後方(・・)からした。

 

 

 「ッ、まさか てめぇ、引き寄せたな…!」

 

 クー・フーリンの言葉で理解する。

 

 どうやら術式(しょうじょ)は、"上の階層に残っているすべての魔獣を、この最終階層へと呼んだ" のだ。

 

 

 「あっはははっ! 当然よ。この階に(くだ)った時点で、あなたたちに退路なんてないの! 別に死んだって構わないわ。だってお外には、まだ他のお客さん(・・・・・・)がいるのでしょう?」

 

 「あなたは──────ッ!」

 

 術式(しょうじょ)の目的において、必要な汎人類史のサンプルは誰だっていい。自分たちが言うことを聞かないのなら、今度は外にいるシオンやダ・ヴィンチ、ゴルドルフ新所長たちを招き入れるつもりか───!

 

 

 「……ほら。千鍵(チカギ)。またあなたのせいで、ぜんぶ失われていくよ? あなたが大人しく身を差し出せば、みんな助かるの。 どうせもう死んでた(・・・・・・)んだから、簡単でしょ?それくらい」

 

 そう言って、術式(しょうじょ)は千鍵を(おど)す。

 

 

 「─────ああ。藤丸たちには悪いけど、私も、それが一番いいんじゃないかと思う」

 

 

 「千鍵──────、」

 

 

 「でも。その前にひびきに会わせろ。今のこの私の命は、ひびきがくれた命だ。……頼んでなんかいないけど、アイツに一言くらい礼を伝えておきたいからな。それが終わったら、私の命なんていくらでも差し出してやる」

 

 

 そう言って、千鍵は術式(しょうじょ)を見据える。

 

 「──────それはダメよ。あなたはひびきには会えない。……それにね、悲しいことを教えてあげるわ?」

 

 そう言って、術式(しょうじょ)は不敵に微笑む。

 

 「悲しい、こと───?」

 

 「ひびきはね? あなたのことなんてどうでもいい(・・・・・・)の。……おかしいと思わなかった? "なんで自分は第一階層にいたのか" って」

 

 「──────!」

 

 「"あなたを守るための結界" なら、あなたは "最終階層の最奥" にいるはずでしょ? でもそうじゃなかった。……それはね、千鍵(チカギ)、ひびきはあなたを捨てたから(・・・・・)だよ…!」

 

 そうして、愉快げに笑い出す。

 

 「あっはははははっ! ひびきはね! あなたが狙われてるって知って、自分の命が()しいから、あなたのことを捨てちゃったのっ! ポイって!自分からいっちばん遠いとこまでね! あはははは!」

 

 「おい、アンタ…! 冗談もそこまでに、」

 

 シビレを切らして、その術式(しょうじょ)に短剣を投げ放とうとしたスナオの肩を、千鍵が抑えた(・・・・・・)

 

 「チカちー………!?」

 

 

 「──────そうか。そりゃわざわざ教えてくれて、どうも。でも関係ない。それが本当か嘘か(・・・・・)は、私が自分で(・・・)ひびきに会って確かめるから。」

 

 

 そう、強い眼差しで、術式(しょうじょ)に答えた。

 

 

 「ッ、……………あっそ。なら死んじゃえば?」

 

 

 パチンッ、という指鳴らしと共に、術式(しょうじょ)の姿は消える。最終階層には、そんな彼女の楽しそうな笑い声がこだました。

 

 

 「では、諸君! 最奥まで走り抜けるぞ!ここは任せた、頼んだぞクー・フーリン!」

 

 ホームズの号令で、一斉に走り出す。

 

 その殿(しんがり)には、一騎の槍兵(・・・・・)が留まった。

 

 

 「おうよ! ここは任せとけッ! ハエ一匹だろうと通しはしねぇ!!」

 

 

 彼の視界の先、最終階層へと繋がっていた ただ一つの階段からは、溢れんばかりの有象無象(うぞうむぞう)の魔獣たち。魑魅魍魎(ちみもうりょう)の群れ。

 その数は百、いや(ケタ)二つ足りない(・・・・・・)

 

 ()におよぶ軍勢が、この時を待ち侘びていたと、我先にと湧き出てくる。

 

 

 「ランサー──────!!?」

 

 

 「振り返るな、千鍵(・・)! 前だけ見て走れッ!ここまではわかってた(・・・・・)ことだろ!」

 

 

 

 そう。ここまでは、ある意味 予定通り(・・・・)

 

 

 "千鍵を引き渡すか否か" という交渉の余地があった以上、向こうは事前に、最終階層には魔獣を(はべ)らせないだろうという可能性に賭けた。

 

 これは彼女が、たとえ感情をもったとしても、その本質は "術式という一種のプログラム(・・・・・)"───意味が生じてはじめて行動を起こす存在であるからだ。

 

 自分たちが千鍵を引き渡しても、引き渡さなくても、彼女の目的は自分たちを "自身の(はこ)に閉じ込める" ということ。

 故にはじめから、自分たちを "逃がす" という選択肢は、彼女にはなかった。そうである以上、最終階層の交渉の場にやってきた時点で、この行動を起こす理由が生じる。

 

 彼女は "逃げ道を塞ぎ、自分たちの退路を断つ"。

 

 この行為は、"交渉が決裂した自分たちを殺すために、最終階層へ魔獣を生成する" という行為よりも優先的に行なわれる。

 故にこそ、まずはじめにこちらが対応すべきなのは、それらの退路を断つモノたちの追跡を押し留めること。

 

 

 適任者は、ただ一人。

 

 

 

 「っ、でも──────!」

 

 「いいか? このオレを誰だと思ってやがる。メイヴの野郎がいるわけでもねぇんだ。オレが "ここを通さねぇ" と言ったら、その誓い(ゲッシュ)は決して破らん! ……ひびきに会うんだろ? それがお前の誓いじゃねぇのか、千鍵───!」

 

 

 「っ、わかった! ありがとう、ランサー! ……次また会ったら、その時はバイトのシフト代わってやる!」

 

 

 そうして、彼を残して走り出す。

 

 

 「……はっ、余計なお世話だ、ツンデレ(みどり)

 

 

 

 「「「「■■%#€■$\kis■¥■■■#^■!!」」」」

 

 

 それは、もはやひとつの大災害(・・・)

 相対する者を問わず喰らわんとする、(わざわ)いの蠱毒(こどく)。終わることなき、死の坩堝(るつぼ)

 

 

 

 ──────されど、恐るるに足らず。

 

 

 

 相対するのは、地獄の奔流(ほんりゅう)を前にしてなお、絶えずその口角を吊り上げ続ける、星見の(きみ)の番犬なれば。

 

 

 ここに在るは、アルスター最強の勇士が一人。

 

 数多の戦場(いくさば)を駆け抜け、

 不退転(ふたいてん)の証を刻むクランの猛犬──────!

 

 

 「さぁ来いッ! 雑兵ども! ここに刻むは、"四枝の浅瀬(アトゴウラ)"! 逃げも隠れもしやしねぇ! ここを通りたくば、臆せずしてかかってこい───ッ!!」

 

 

 蒼き槍兵は、跳躍する。

 その右手には、渾身の魔力を纏った必滅の槍。

 

 

 「「「「■■€■$\■■eff¥■#^■&°■!!!」」」」

 

 

 「……安心しな。この()に及んで、出し惜しみなんざしねぇよ。文字通りの全力(・・)で、オレがてめぇらをもてなしてやるぜ───ッ!!」

 

 

 とくと味わえ、幻想の同胞(はらから)ども。

 これが "影の国" にて、女王スカサハより(たまわ)ったこの魔槍の本来の使い方(・・・・・・)

 

 

 

 「消し飛べ──────ッ!!

  『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』──────ッ!!!」

 

 

 それは、流星がごとき炸裂弾(・・・)

 因果を捻じ曲げ、個々の心臓を貫く赤き軌道ではなく、その生命を諸共に奪い去る死の暴力。

 

 美しさに欠けるなぞ、百も承知。

 

 だが(おご)るな。

 この蹂躙(じゅうりん)こそ、貴様たち獣どもには相応しいのだから。

 

 

 「「「「■%■■■<€ws■■>¥#^■■■!!!」」」」

 

 

 ────この轟音が、

 最終階層の決戦の狼煙(のろし)となった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 「前方、複数の熱源反応を探知! スナオさん!」

 

 「んにゃ!? 遠回りでいいなら、左の通路からでも行けるけどぉ…どうするよ!?」

 

 「いや、どのみち塞がれるだろう! 構わず直進だ!」

 

 臨機応変(りんきおうへん)に進路を変更しながら、最終階層の最奥を目指す。

 その光景は、もはや迷宮と呼ぶにはあまりに広大。

 第三階層と同じく、天井と呼べるものはなく、果てなき暗闇が広がり、その通路一つ一つが、今までの倍の広さを誇っていた。ともすれば、ここは外界だと錯覚してしまいそうになるほどに。

 

 そんな深淵を走る自分たちの陣形は、第三階層の大回廊を突破した時と同じもの。ナビゲートのために、先頭はマシュとスナオの二名で構成されている。

 

 

 「うひゃあ、アタシが散策した時とは比べもんにならない地獄絵図になってるじゃねぇか、これ───!」

 

 「でもやっぱり、生成してるのは殺戮人形(オートマタ)や獅子型の合成獣(キメラ)がメインだ…! 巨像(ゴーレム)なんかの追跡に向いてない魔獣はあえて出してないぞ…!」

 

 「はい! 速度主体の魔獣がほとんどのようです、先輩! ですが、第一階層にいた、あの水の馬(ケルピー)はいません…!」

 

 「おそらく門番を担っていた魔獣は、強力であるが故にコストが高いのだろう! そう簡単には生産できないと考えるべきだ!」

 

 

 いける。

 このペースなら、最奥までたどり着ける。

 

 既に第三階層の大回廊で、突破戦を経験した自分たちにとっては、このレベルの魔獣の攻撃であれば、足止めを食らうまでもない。

 

 

 「ココだよ、ココ! このトンネルみてぇな通路を(くぐ)った先が、 "最奥" だ!」

 

 

 もはやゴールは直前。

 スナオのナビゲートもあって、最短ルートでこの最終階層の最奥へと至れ───、

 

 

 

 

 

 "……あはっ、ほーんと。バカなヒトたち(・・・・・・・)"

 

 

 

 

 「ッ──────、!!!?」

 

 

 唐突に。

 酷い耳鳴りが、自分たちの脳に響いた。

 

 

 

 

 "この結界の中じゃ、勝ち目なんかない(・・・・・・・・)って、せっかく一番最初(・・・・)に教えてあげたのにね?"

 

 

 

 

 「なん、だ──────ッ!?」

 

 思わず足を止める。

 いや、止められた(・・・・・)

 

 

 「おい、どうしたんだよ!? みんな!」

 

 

 唐突に進行を止めた自分たちに、千鍵は混乱する。

 

 

 

 "じゃあ、お遊びはおしまい。楽しかったよっ!ここまで頑張ったあなたたちに、一番 残酷なご褒美(・・・)をあげるねっ!"

 

 

 

 その声は、するりと全身へ染み渡るように。

 

 

 

 

 "あなたたちで、千鍵を殺して(・・・・・・)…!"

 

 

 

 

 「ア───、ッ──────。」

 

 

 文字通りのバッドエンド。

 この結界内にいる以上、安全な場所などない(・・・・・・・・・)

 

 そう。たとえ自分たちが千鍵(かのじょ)を守っていたとしても、それは例外では無いのだ。

 

 この結界にいるすべてのモノに、"洗脳(・・)" を響かせられる、あの術式(しょうじょ)を相手取った時点で、勝ち目なんて、最初からどこにもなかった。

 

 

 自分たちは、守るべきモノを。

 自分たちの手で殺めて、敗北(・・)する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………その言葉、もう聞き飽きた(・・・・・)ッ!」

 

 

 

 

 

 "ッ──────!!?"

 

 

 

 

 ──────世界が、"郷愁(きょうしゅう)" に包まれる。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 この迷宮の第二階層に降りた時、

 あたし(・・・)は、唐突にその言葉を耳にした。

 

 

 

 " 桂木 千鍵 を、殺せ。"

 

 

 

 「は──────?」

 

 

 正直、意味がわからなかった。

 

 でもそうしろ、と言っている。

 だから言う通りにしないといけない。

 これは理屈の話ではなく、命令(・・)なのだ。

 

 

 ──────そう。"あたしちゃん以外" ならね。

 

 

 

 ま、結論。

 あたしは全くもって聞く耳を持たず。

 その洗脳は、まるで効かなかったわけだ。

 

 そもそも、"桂木 千鍵" ってだれやねん。

 

 

 

 そんなこんなで、唐突に湧いた魔獣どもを一人で懸命に倒して、ようやく着いた第二階層の最奥は、ゴキブリ☆パラダイス。

 

 

 こんなの、キレないJKなんていない。

 

 許すまじ。

 マジ許すまじ。

 あたしを置いてった、ちゃんマスに呪いあれ。

 

 

 そんな積もりに積もった積年(数日分)の恨みは、たった一人の少女の言葉で、どうでもよくなった(・・・・・・・・・)

 

 

 

 「誰が(たぶら)かされるか!……私は千鍵。加々美崎(かがみさき)高校一年、桂木(・・) 千鍵(・・)だ……!!」

 

 

 「─────────。」

 

 

 ───ああ。

 この子が、"桂木 千鍵" なのか。

 

 

 もしもちゃんと洗脳にかかってたなら、名前なんて聞かなくても、顔を見ただけでわかったんだろうけど。

 

 

 そっか。

 "女子高生"……だったのか。

 

 

 それは、ふと(いだ)いた、素朴な疑問。

 

 

 今どきの。

 "本当の(・・・)女子高生って、どんな子なんだろ"。

 

 

 

 「どこの誰だか知らないのはお互い様だろ! いいから黙って、一回 私にビンタされろ、多分 どっかの偉い人───っ!!!」

 

 

 

 なにそれ。

 意味わからん。

 ぶっ飛んでる。

 

 ──────こんなの。

 

 嬉しすぎて(・・・・・)、笑うに決まってんじゃん…!

 

 

 「ぶっ、はっはっはっはっは───っ!!!」

 

 

 ああ。これがJK。

 この世界の一番先。最前線で輝くもの。

 

 こんなにキラキラしてるなら、

 同じ時代を生きてみたかった。

 

 でも。それは違う。

 あたしの生きた時代が…あたしのいま(・・)があったから、この子のいま(・・)が続いてる。

 

 

 これは。

 ずっとむかしから、変わらず在るモノ。

 形を変え、色を変え、なお輝きを放つ光。

 

 

 であればこそ、守るべきモノ。

 清少納言(あたし)(のこ)した──書き(つづ)った()のひとつだ。

 

 

 

 

 

 ──────と、まあ。回想はこのあたりで。

 

 

 

 

 あたしの出番がやってきた。

 

 

 「………その言葉、もう聞き飽きた(・・・・・)ッ!」

 

  

 

 "ッ──────!!?"

 

 

 テンプレの反応、たいへん助かる。

 

 「ソレはあんたの切り札(・・・)だもんね? なら、こっちも切り札を出すのが、(スジ)ってもんじゃん?」

 

 

 "待って。なんで動ける? なんなの、お前…!?"

 

 

 「聞かれた以上は、答えてあげるがあたしちゃん。……平安の世、一条天皇が皇后(こうごう) 中宮 定子(ていし)様の女房として仕え、その日々を書き綴っただけのしがない作家。実家の清原(きよはら)から "清" 、役職の "少納言" を合わせて "清少納言(せいしょうなごん)"! ただし、あたしちゃんが少納言だったわけじゃなくて……あー、もうめんどくさ。人 呼んで "なぎこ(・・・)"!! なぎこさんと呼べッ!!!」

 

 

 "─────────。"

 

 

 「あー、わかるわかる。呆気にとられるよねー、ふつう。……でも、あたしちゃんは、待ってあげないンだな、コレが。」

 

 

 そう言って、ばさりと番傘を開いて、ひと回り。

 隣にいたあの子を引き寄せて、あたしはニヤリと笑ってみせる。

 

 

 「な、なぎこ──────?」

 

 その視界の端には、不安そうな顔が映っていた。

 

 

 「安心しな、チカちー。……誰にも、あんたのことは殺させない。たとえ、この身が()ちれども!」

 

 

 

 "なにをする気──────?"

 

 

 彼女の、困惑の声が響く。

 

 「……あんた前にさ、あたしちゃんにだって "逢いたい人" がいるでしょって言ったよね」

 

 

 "──────事実でしょ。そんなの。"

 

 

 「うん。アレ、大正解(・・・)っ!」

 

 

 "は─────────?"

 

 

 「──────でもね。たとえそうでも、誰かを犠牲にしてまで逢うのは、やっぱり違うんよ。……だってさ! "逢いたい人" って誰にでもいるじゃんっ!」

 

 それが恋人でも、友人でも、家族でも。

 もう一度 逢いたい、抱きしめたい "親愛なる誰か(・・・・・・)" は、誰にだっている。

 

 そしてそれは。

 "犠牲になる誰か" だって、例外じゃない。

 

 

 「………だから。あたしちゃんは抵抗するぜ(・・・・・)?」

 

 

 では、ご覧にいれましょう。

 ここがあたしの大一番(・・・)──────!

 

 

 「"春は(あけぼの)、夏は(よる)──────、"」

 

 

 あの子を殺そうとしていた仲間たちの、動きが止まる。

 

 

 「"秋は夕暮(ゆうぐ)れ、冬は(あさ)──────"」

 

 

 四季彩(しきさい)が、ほのかに香る。

 

 

 "あなた、なにをしてるの──────!?"

 

 

 「"なべてこの世は、いとおかし(・・・・・)────ッ!"」

 

 

 「なぎこ……!?」

 

 

 "その女を止めてッ! 魔獣ども──────!"

 

 

 「塗りつぶせ(・・・・・)枕草子(まくらのそうし)──────ッ!

  永遠無休(えいえんむきゅう)ッ! 『枕草子・春曙抄(エモーショナルエンジン・フルドライブ)』!!」

 

 

 これは、

 この最終階層を塗り替える、あたしの固有結界(・・・・)

 

 たとえその景色を、

 この結界内に(ひろ)げられずとも。

 

 ここにいるすべてのモノの心に、

 この景色は届くのだ──────!

 

 

 

 「っ、あ─────────、」

 

 それは春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)四季折々(しきおりおり)

 日常を彩る、誰もが(いだ)郷愁(きょうしゅう)(かげ)

 この輝きは、彼らの胸の中へと染み渡っていく。

 

 

 

 「ッ、は───! なぎこさん───!」

 

 「やった、か……! ミス・なぎこ…!!」

 

 そうして、彼らは目を(さま)す。

 

 

 「やっと起きた? ちゃんマス! ……それじゃ、ここからは耐久戦(・・・)ね!さっさとやっちゃって!」

 

 その言葉に、彼は辛そうな表情を浮かべる。

 

 

 「藤丸、なぎこに何をするつもりなんだ……?」

 

 

 「ああ、チカちーは気にしないでイイよ。説明してもよくわからないだろうしね!……でも。チカちーには、関係ないものだけどさ。この景色(・・・・)を、その胸に忘れないでいて?」

 

 

 彼女は、困惑しながらも頷いてくれた。

 

 

 「───よかった! じゃあ、ちゃんマス、あと任せた!こっちはこっちでなんとかする! 頑張ってね、みんな!」

 

 

 彼は、その右手(・・)を構える。

 

 

 「──────令呪をもって命じる(・・・・・・・・・)! 清少納言、"宝具を展開し続けたまま"、この最終階層のどこかへ飛べ(・・・・・・)ッ!」

 

 

 

 "な──────ッ!?"

 

 

 そう。

 これがあたしに与えられた役割(・・)

 あの術式ちゃんが、切り札である "洗脳" に頼ったタイミングで、あたしの宝具(・・)を発動させて、相殺する。

 どちらも ともに、精神に干渉する(・・・・・・・)能力。であればこそ、この宝具が "維持し続けられているかぎり" 彼女は洗脳を使えない。

 

 ──────当然。

 そんな状態のあたしは、ちゃんマスたちに着いていけない。この最終階層のどこかに踏みとどまって、宝具を発動し続けなきゃいけない。

 だから、令呪を使ってもらう(・・・・・・・・・)。あたし一人にはできないけど、ちゃんマスの令呪によるバックアップで、空間転移(・・・・)を行なうのだ。これで一瞬にしてちゃんマスたちから離れて、あの術式ちゃんの意識を撹乱(かくらん)させられる。

 

 …問題があるとすれば、ちゃんマスから離れた後も、あたしの魔力だけでどのくらいの時間 宝具を展開し続けられるのかわからないということ。まぁ、そこはアーチャークラス。単独行動スキルがあるし、気合いと根性でなんとかする。

 

 

 ──────とうぜん!

 こんなのは大博打(おおばくち)! 撹乱が目的だから仕方ないけど、この階層のどこかに飛ぶって、ヤバすぎ! もし魔獣とやり合ってるリンリンのとこに飛んだら詰み。ないとは思うけど、最奥に飛んじゃってたら、気マズっ!……なのでできれば、端っこの方に飛んでくれたら、マジ感謝。ま、なるようになれ!

 

 

 

 「ごめんね〜、術式ちゃん。あたしちゃんがどこに行くか、あたしちゃんにもわからないからさ! …でも術式ちゃんならすぐに見つけられるでしょ? 洗脳を使いたかったら、死に物狂いで探しなよ! その代わり、ちゃんマスたちは止まんないよッ!」

 

 

 "っ、清少納言──────ッ!!"

 

 

 あっ、"なぎこ" って呼べって言ったのになー。

 まぁいっか。名前覚えてくれただけでも、ヨシ。

 

 

 「ちょ、飛ぶって!? そこまではアタシも聞いてなかったぞ!? 戻ってくるんだよな、なぎこ!?」

 

 「んー、どうだろ。多分 魔力使い果たして、ひっそりと消えちゃってんじゃない?」

 

 「いや、嘘でも "戻る" って言うとこだろ!?」

 

 そんな少女たちの反応が、ただ楽しくて。

 

 

 「あはははー!ま、世は()べて事もなし ってね!……日比乃 ひびき。良い子じゃん。あんな "最高のアルバム" を見て、命を張らない理由なんてないっしょ? だからあたしちゃんのことは気にすんな! セリヌンティウス(・・・・・・・・)は死なせない(・・・・・・)! 必ずダチを助けてきなっ! チカちー、スナっち!」

 

 「──────!」

 

 

 

 そうして。

 光となって暗闇を超える。

 

 

 

 ──────ああ。世界は今日も、いとエモし(・・・・・)

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 清少納言の奮闘で、再びその進行を再開する。

 

 

 「魔獣たちは変わらずこちらを追跡しています!おそらく彼女は、なぎこさんの捜索は切り捨て、洗脳に頼らず私たちを排除することに専心する気かと!」

 

 疾駆(しっく)を続けながら、マシュはそう分析する。

 

 「なぎこのおかげで、コイツら執拗(しつよう)にチカちーのことは狙わなくなったにゃあ、殺気もだいぶ(やわ)らいでんよ!」

 

 「ならば問題ない!こちらはただ最奥へ向かうことにのみ注力すれば、っ、なにッ!?」

 

 「え──────?」

 

 唐突に、ホームズの身体が吹き飛ぶ。

 

 「な、ホームズ──────!!?」

 

 彼は、死角から突撃してきた "水の馬(ケルピー)" の突貫から千鍵を守ろうとして直撃したのだ。

 

 

 「どうして!? 門番を担っていた魔獣は量産できないんじゃ───!?」

 

 いや。

 それはこちらがそう推測しただけ。

 

 あの術式(しょうじょ)は、ひと言もそんなことは言っていない。すべての作戦が、何もかも都合よく運ぶはずがなかったのだ。

 

 

 「私のことは構うな───ッ! そのままミス・桂木を連れて最奥まで走り抜けろ、マスター・藤丸ッ!!」

 

 ホームズは、自身の身を(てい)して "水の馬(ケルピー)" を抑え込む。

 

 

 「く──────ッ!」

 

 「ホームズ──────っ!!」

 

 「行きましょう千鍵さん! ホームズさんは必ず追いついてきます!彼を信じてくださいッ!!」

 

 マシュの言葉を胸に、千鍵はその足を止めない。

 

 

 「くそ、あと少しなのに………ッ!」

 

 

 トンネルの先の蒼白い光が、徐々に大きくなる。

 

 

 

 「着いた…! ココが、この階層の最奥(・・)!」

 

 スナオの言葉とともに、トンネルを抜ける。

 

 

 広がった大広間は、第三階層の時の数倍。

 そんな外界と見紛う空間に、王が鎮座していた(・・・・・・・・)

 

 

 

 ***

 

 

 

 それは、第三階層の門番とは比にならない巨躯。

 

 全長およそ30メートルは超える巨竜(・・)

 中世欧州においては、"双頭の竜(アンフィスバエナ)" として恐れられる、この迷宮最大の幻想の具現であった。

 

 されど、これはあくまでその再現個体───"竜の力の模倣(ドラゴン・ダイン)" に過ぎない。

 その身は本物の竜骸(りゅうがい)を纏ってはいれど、在り方としては、第三階層の模倣された竜(ドラゴン・ゴーレム)と変わらないモノだ。

 

 

 ──────問題は。

 

 この王を取り囲むように、およそ数十頭(・・・)の "水の馬(ケルピー)" と "模倣された竜(ドラゴン・ゴーレム)" が侍らされていたことである。

 

 

 「こん、なの─────────、」

 

 

 勝てるわけがない。

 勝てるわけがないのだ。

 

 予想はできていた。あの術式(しょうじょ)にできる魔獣の生成スペックが、こちらの想定を上回ることは。

 

 けれど。

 直接 この "幻想の暴力" と対面すると、足が石になったように動かなくなってしまった。

 

 

 「ざんねんでしたっ! ……"洗脳がわたしの切り札"? そんなわけない(・・・・・・・)じゃない!」

 

 

 「っ─────────!」

 

 

 術式(しょうじょ)が、くるくると踊りながら姿を現した。

 

 

 「言ったでしょ? あれはご褒美(・・・)。楽しいお別れ会にしてあげようとしただけよ?」

 

 

 「っ、私たちは最短ルートで、この最終階層の最奥まで来ました…! だというのに、これほどの魔力量をもつ魔獣を、こんな短時間で大量に生成できるはずがありません…! 貴方は、意味をもってはじめて行動を起こすのではないのですか…!」

 

 マシュの問いに、術式(しょうじょ)はクスクスと笑う。

 

 

 「そうよ? わたしは術式だもの。意味が生じてこそ行動を起こすわ。……でもね? あなたたちが最終階層へと来た時点で、"逃がす" という選択肢がなくなったのと同じように、"日比乃 ひびきに会わせる" という選択肢だって、初めからない(・・・・・・)に決まってるでしょ?」

 

 

 ──────そう。

 この最終階層に自分たちが降った時点で、彼女はこの最後の砦(・・・・)を準備できるようになっていた。

 千鍵のことを引き渡しても、引き渡さなくても "逃がす" という選択肢がなかったのと同じように。

 千鍵のことを引き渡しても、引き渡さなくても "日比乃 ひびきに会う" という選択肢もなくなっていたのだ。

 

 それ故に。

 "戦闘によって彼女に勝つ" ことだけは、

 はじめから不可能だとわかっていた(・・・・・・)

 

 

 「………ああ。これで、最後のピースは埋まったようだ、そうだろう? マスター・藤丸…?」

 

 

 その言葉に振り返る。

 

 「ホームズ──────!!」

 

 視界の先には、この最後の解明(・・・・・)に同席しないはずがない、信頼に足る "名探偵" が、ボロボロになりながらも、ここへとたどり着いていた。

 

 

 

 「────死に損ないが、なにしにきたの?」

 

 

 術式(しょうじょ)は、冷めた目でホームズを見据える。

 

 

 「実は我々の目的には、ふたつほど不安要素(・・・・)があってね…?」

 

 

 「え───────?」

 

 

 「ミス・須方が事前に探索した最終階層には、魔獣はまだ生成されていなかった。……これは、キミがミス・須方のことも保護するつもりだったからだと考えれば納得できることだが、そのせいで我々は "ここが本当に(・・・・・・)最奥なのか(・・・・・)" わからなかったんだ」

 

 

 「──────!」

 

 

 「なにしろ、目印となる門番クラスの魔獣がいなかったのだからね。いかに大広間といえど、確証はなかったワケだ」

 

 ホームズはそう言って、やや足を引きずらせながら、自分たちの横までやって来る。

 

 

 「加えて、"日比乃 ひびきが、最終階層の最奥にいる" という確信もまた、我々にはなかった。同じアルカトラスの第七迷宮を模倣していたとは言えど、彼女は人間(・・)だからね。最奥から移動している可能性は十分にありうる。これはある意味、死活問題だ。……だが、この階層に来て、キミは最初の交渉で失言をした(・・・・・)

 

 

 それは最初の交渉の時。

 千鍵の心を折ろうとした彼女は、その無邪気さゆえに口を滑らせた。

 

 

 "あなたを守るための結界なら、あなたは最終階層の最奥(・・・・・・・)にいるはずでしょ? でもそうじゃなかった。……それはね、千鍵(チカギ)、ひびきはあなたを捨てたから(・・・・・)だよ…!"

 

 "ひびきはね! あなたが狙われてるって知って、自分の命が惜しいから、あなたのことを捨てちゃったのっ! ポイって!自分から(・・・・)いっちばん(・・・・・)遠いとこ(・・・・)までね! "

 

 

 

 ──────そう。確かに言ったのだ。

 

 

 「あの言葉は、ミス・桂木が第一階層にいた理由を語るとともに、今もって "日比乃 ひびきが最終階層の最奥にいる" ことの裏付けになった」

 

 

 「ッ──────!!」

 

 

 「……そして。我々が最終階層の最奥だと睨んでいたこの場所に、キミは "これだけの数の魔獣を配置" していた。」

 

 

 ホームズは、ニヤリと口角を吊り上げて。

 

 

 「この二つから導き出される結論は、"ここが最終階層の最奥であり、ここのどこかに日比乃 ひびきは間違いなく(・・・・・)いる" ということだ…!」

 

 

 ホームズの言葉に、術式(しょうじょ)は動揺する。

 

 

 「だからなにっ! あなたたちには、ひびきは見つけられないッ! ここにいるとわかったところで、なんの意味も───、」

 

 

 「意味ならある(・・・・・・)。ここまで状況が揃っていれば、確実に、我々が望むもの(・・・・)が現れるだろうからね」

 

 

 「な、にを─────────!?」

 

 

 そうして、ホームズは自分へと視線を向ける。

 

 

 「では、マスター・藤丸。ここで披露して構わないね…?」

 

 彼の言葉に、自分は信頼を込めて頷く。

 

 

 「─────ああ、シャーロック・ホームズ! その宝具を開帳(・・・・・)してくれッ!」

 

 

 さすれば、最後のゲートは開かれよう。

 

 

 「─────(うけたまわ)った。では、望み通り。我が宝具をご覧にいれよう!」

 

 

 それは、彼の起源─── "解明" を宝具として昇華させたモノ。

 立ち向かう謎が、真に解明不可能な状態であったとしても、必ず(・・)真実に到達する手がかりや道筋が "発生" する。

 

 今この場において、未だ解明されていないモノはただひとつ。

 この最終階層の最奥のどこかにいる、"日比乃(・・・) ひびきの場所(・・・・・・)" のみ。

 

 ここまで絞り出せば、

 必ずやその道筋は姿を示す──────!

 

 

 「この──────ッ!」

 

 魔獣たちは、術式(しょうじょ)の意思に従うように、ホームズを止めるべく突貫を仕掛ける。

 

 「させません──────ッ!!」

 

 すかさず、マシュがその聖盾で防ぐ。

 

 

 その見事なアシストに、

 ホームズは万感の信頼を込めて、自身の瞳を閉じ。

 

 

 「"では、解明(はじめると)しよう。

  ──────『初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)』。"」

 

 

 

 ─────ひとつの()が、最奥に現れた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 それは、この大広間の中央。

 

 鎮座する竜の力の模倣(ドラゴン・ダイン)のすぐ目の前の床に、その姿を現した。

 

 

 「いくぞ、マシュ──────ッ!!」

 

 

 「はい!行きましょう、先輩、千鍵さん、スナオさん!」

 

 

 ホームズが導き出した最後のゲートを目指し、四人で一心不乱に突き進む。

 

 

 「絶対にそいつらを行かせるな、魔獣ども───ッ!」

 

 

 『…───■■■■■、■■■■ッ!!!』

 

 

 その咆哮は、コンマ一秒(・・)のズレを含んでいた。

 

 

 ──────当然だ。

 たとえ人ならざる魔獣たちでさえも、術式(しょうじょ)からの命令に、数秒のタイムラグを生じさせるだけの環境が、今もってこの階層には保たれている(・・・・・・)

 

 この結界内のすべての者の心に響き、

 染み渡り続ける、巡る季節(とき)の色。

 

 すなわち、"枕草子(・・・)"。

 今もこの階層のどこかで、清少納言が宝具を展開し続けてくれている証左(しょうさ)である。

 

 

 そしてこの "一秒のズレ" は、この一瞬の勝敗を分けるに足るだけの好機を自分たちに与えた。

 

 

 「マシュ! ……礼装起動(プラグ・セット)幻想強化(・・・・)ッ!」

 

 自身のその言葉とともに、少女は一足先に、その底上げされた敏捷(びんしょう)とともに大地を駆る。

 

 

 「はぁぁぁぁ──────ッ!!!」

 

 

 そうして少女は、最奥に開いた穴を飛び越えて(・・・・・)、魔獣たちの眼前に立った。

 

 

 「な──────ッ!?」

 

 

 術式(しょうじょ)は困惑する。

 "なぜ、飛び込まなかったのか" と。

 

 

 無論。語るまでもなく。

 それは、自分やマシュの役割ではない(・・・・・・)のだから。

 

 

 

 「我々は、はじめからキミに戦闘で勝つ(・・・・・)つもりはなかった。アーネンエルベ」

 

 

 自身の後方で、ホームズの声が聞こえる。

 

 

 「………これはただ。一人の少女が、"大切な人へ礼を伝えにいく" だけの、なんてことのない恩返しだったのだから」

 

 

 

 ──────そう。故にこそ。

 

 自分たちの役割は、ただその瞬間まで。

 少女の歩みを、誰にも止めさせないことだ!

 

 

 

 「──────令呪をもって命じる(・・・・・・・・・)ッ!

  マシュ・キリエライト!"宝具(・・)"を発動せよッ!」

 

 

 

 二画目(・・・)の赤い閃光を、自身の右手から放つ!

 

 

 「はい!おまかせください、マスター!!」

 

 

 少女は、その聖盾をまっすぐに大地へ突き立て。

 

 

 「カルデア技術顧問 レオナルド・ダ・ヴィンチとの約定に基づき、この一度のみ(・・・・・・)霊基外骨格(オルテナウス)、その出力を最大値 "100%" まで上昇! これより、全制限(リミッター)を解除します───ッ!」

 

 

 そのまま、大きく息を吸って。

 

 

 「──────"真名・凍結展開" ッ!」

 

 

 雪花の壁は、今この時 "聖城の門" と成らん。

 

 

 「"これは多くの道──────、

  多くの願いを受けた幻想の城"、」

 

 

 遠くはブリテン。

 すべての(きず)を癒し、すべての怨恨(えんこん)を清めし、かの者たちの故郷。

 

 ここに顕現するは、その "残滓(ざんし)" なれば。

 

 

 

 「"呼応せよ…ッ!

  『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』───ッ"!!!」

 

 

 この城門、

 破れるものなら破ってみせよ────!

 

 

 

 「今だ、千鍵! ここから先は頼んだ、スナオ!」

 

 自分の呼びかけに、二人は頷く。

 

 

 「まかせな! ……ほら、行くぞぉ チカちー!」

 

 

 「────ああ。

  信じてるぞ、藤丸、マシュさん!」

 

 

 そう言って、二人は中央の穴へと飛び込む。

 

 

 

 

 

 「─────────う"っ、がは…ッ!!」

 

 

 「先輩………っ!?」

 

 二人を見送った後、耐え切れずに吐血(・・)した。

 

 当然の代償(・・)だ。

 令呪によるバックアップはあれど、今現在、自身の契約下にあるサーヴァントが、二騎同時に(・・・・・)、宝具を "展開し続けている"。

 そんな状況が続けば、マスターへとその影響が及ぶのはわかっていた。

 

 故に、想定内。

 この程度の対価は、あって無いようなものだ。

 

 「問題ない…ッ! そのまま宝具を展開し続けてくれ!…マシュ!」

 

 

 「──────っ、はい! 先輩!」

 

 

 ああ。

 彼女には、きっと。

 これが強がりだと見透かされただろう。

 

 だが見透かしても、なお。

 こうして自分を信じ続けて、

 ただ背中を預けてくれている。

 

 

 「──────ありがとう、マシュ。」

 

 

 その背中に、ただ感謝を伝えた。

 

 

 「……くだらない、くだらない、くだらないッ! なんなの、あなたたちは! なんで、そこまでして(あらが)うのよ…っ!!」

 

 

 「決まっているッ!俺たちははじめから、助けるため(・・・・・)にこの場所に来たからだ……!!」

 

 自分の言葉に、術式(しょうじょ)狼狽(うろた)える。

 

 

 「ここからは我慢比べだろ、アーネンエルベ…!

  俺たちの誰かが力尽きたら、キミの勝ちだ!」

 

 

 「っ、望むところよ! そんなに死にたいのなら、誰かと言わず皆殺しに決まってるじゃない…っ!」

 

 

 その勝敗の行く末は、少女たちに託された。

 

 

 

 ***

 

 

 

 最終階層、その最奥に空いた穴の中。

 

 「おっと───、!?」

 

 

 勢いよく飛び込んだ私───桂木 千鍵と須方 スナオは、その想定よりも早い着地点に、思わず動揺する。

 

 

 「なんだぁ? てっきり垂直落下していくんかと思ったら、階段になってるんかよ…?」

 

 私たちの視界の先、着地した薄く白みがかったガラスの板は、まるで螺旋階段(・・・・)の形状となって、ずっと下の深淵へと、何枚も何枚も繋がっていた。

 

 その周囲には、壁もなければ、手摺(てすり)も存在せず、暗い闇の中をほのかに繋ぐ道筋となっていたのだ。

 

 

 「きっとこの先に、ひびきがいる "秘密の部屋" があるんだ。行こう、スナオ」

 

 

 スナオとともに、その蛇のようにとぐろを巻いた階段を、駆け降りていく。

 

 ずっと前、こんな光景を(ユメ)で見たことがあった。

 あれは、一体いつのモノだっただろうか。

 

 

 「なぁチカちー、ホントにひびきちはアンタのことを…」

 

 "捨てたのだろうか" と彼女は聞いている。

 

 「さぁ? 直接会って聞けばいい話だろ。……もっとも、言葉は言葉でしかない(・・・・・・・・・・)からな。本当はどう思ってるのかなんて、聞いたってわからないけど」

 

 それはまるで、望遠鏡で覗いても見えない星のように。

 

 「うひゃあ、そりゃ正論だけど、冷めすぎだぜチカちー。…桂木家の教育方針は、"他人を信用しすぎるな" なのかにゃあ?」

 

 あんまりにも冷めきった答えを返した私へ、スナオは冗談交じりにそんなことを口にする。

 

 「まさか。その()だよ。……もしも相手を疑うのなら、まずは相手を知る努力をして、それで信じられるって思ったら、心に()を思い浮かべるんだ」

 

 私の言葉に、スナオは目を丸くする。

 

 「星……? それが嘘か本当かわからなくても?」

 

 「そう。大切な人へ抱く大事なことは、ふたつ(・・・)だけでいい。"相手を想う気持ち" と "その人も同じように想ってくれてるって信じる気持ち" だ。……どんな時でも、この "ふたつの星" を胸の中に置いておけたら、それでいいんだ」

 

 スナオは、その言葉に笑い出す。

 

 「にゃっはは、そりゃいいね! チカちーらしくない、くさいセリフじゃん」

 

 「私らしくない、は余計だろっ! ……ああ、でも。ホントに私らしくないな。この言葉、いつだか姉貴(・・)に言われた言葉だったんだ」

 

 「チカちーの姉ちゃん…?」

 

 「ああ。……けど、まさか。それと同じことを、この場所で耳にすることになるなんて、思ってもみなかったよ」

 

 けれど。

 今ならハッキリとわかる。

 

 姉貴が、藤丸が伝えたかった気持ちが、いったい何だったのか。

 

 

 「───そっか。じゃ、アタシも今のうちに言っておくわ。この言葉を信じるかどうかは、チカちーに任せるよ。………あの時はゴメン。突き放すような言い方して」

 

 スナオのその言葉に、今度はこっちが目を丸くする。

 

 「あの時? ……ああ、第三階層で再会した時のことか。なんだよ、気にしてたのか? ははっ、らしくないぞ、スナオ」

 

 「だ、だってよ! いきなり "もう死んでる" なんて言われたら、混乱すんのは当たり前だってわかってたけど…、アタシはあんま頭よくねぇから、良い気の回し方がわからなくて…」

 

 スナオは珍しく、言い(よど)んでいた。

 

 「はははっ、それを言うならお互いさまだろ。私だってあの日、喫茶店にお前が来てたの、すっかり忘れてたんだしな!」

 

 「あ〜!そうだよ! あれホントに傷ついたんだからなぁ!」

 

 「悪かった悪かった。ほら、これでおあいこ。ここからは無駄口なしで行くぞ」

 

 「む〜〜、誠意がこもってなかったが、グッとこらえるアタシなのだった…!」

 

 つい、互いに笑みがこぼれる。

 

 これもひとつの友のカタチ。

 信頼に値する相手だからこそ、私は、ありのままの私の言葉を(つむ)ぐのだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そうして、どれほどの時間をかけたのだろう。

 永遠に続いていくのかと思われたその螺旋(らせん)階段は、終点にたどり着いた。

 

 

 「これって──────、」

 

 

 そこにあったのは、真っ白な鍵付き()

 

 

 この長すぎた旅路の果てにあったモノとしては、あまりにも質素な一枚の扉だったのだ。

 

 

 「……この先に、ひびきがいるのか」

 

 ここで立ち尽くしている時間はない。

 それを承知しているからか、構わずスナオはその扉を開けようとする。

 

 「よし、行くぞぉ、せぇーの!……ってアレ?」

 

 

 ──────しかし、

 扉はびくともせず、鍵がかかっていた(・・・・・・・・)のだ。

 

 

 「おぉい、ウソだろ!? ここに来て詰みかよ……!?」

 

 そう言って、スナオは頭を抱えて慌てる。

 

 

 「──────そこ、代わってくれ、スナオ」

 

 

 私には、ひとつの確信があった。

 

 

 「な、チカちー……?」

 

 「私なら開けられる(・・・・・)。……そんな気がするんだ」

 

 

 理由はわからない。

 きっと記憶の奥底(・・・・・)に眠ったまま、

 未だにわからないモノなのだろう。

 

 

 だから、これは賭け。

 私は大きく深呼吸をして、そのドアノブを捻る。

 

 

 

 ─────────ガチャリ、と。

 

 

 

 "秘密の部屋" の扉は開かれた。

 

 

 

 「おお、すげぇよチカちー! もしかしてアレか? チカちーの中にひびきちの力があったからか……!?」

 

 

 「……さあ、どうだろう。でも、開いたんだから、それでいいんじゃないか?」

 

 私には、ホームズほど謎を解明する欲はない。

 

 

 今の私にあったのは、ただこの扉の先にいる、"アイツに会いたい" という気持ちだけだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 一方、負けられない防衛戦が続く。

 

 自分───藤丸 立香たちは、最奥に生まれたゲートを魔獣たちの攻撃から死守していた。

 

 

 「いい加減に、そこをどいて──────ッ!」

 

 

 マシュの宝具が、徐々に剥がされていく。

 

 

 「くっ、先輩──────!」

 

 

 「まだだ、マシュ! 礼装起動(プラグ・セット)、"浄化回復"ッ!」

 

 

 今の自分に出せる全霊を費やす。

 それでも足りないが、出し惜しみなど論外だ。

 

 

 『■■■■■■■、■■■■■────ッ!!』

 

 "双頭の竜" の咆哮が轟く。

 

 

 「ぅぐ──────っ!」

 

 なんとか堪えていたが、大気を震わされ、思わず嘔吐してしまう。

 

 

 「マスター・藤丸! キミの肉体の限界が近い…!礼装による補助まで手を回さなくとも構わない───ッ!」

 

 

 ああ。ホームズに指摘されて、ようやく自分の手が無意識に痙攣(けいれん)していたことに気がついた。

 

 

 ──────けれど。

 

 「大丈夫、まだやれるよ…! いや、やるんだ(・・・・)!」

 

 

 「先輩…!」

 

 

 「いくぞ、マシュ! ……最後の令呪(・・・・・)を、」

 

 そんな。

 一呼吸すらも、戦況を分ける恐れがある状況の中で。

 

 

 自分たちが死守していた後方。

 この最終階層の最奥の中央部に開いた穴から、とてつもない "魔力の風" が溢れ出した。

 

 

 「な──────!?」

 

 

 

 そしてその溢れ出た風の中に、

 自分たちが送り出したはずの "少女" の、片割れがいたのだ。

 

 

 「スナオ、──────!?」

 

 

 「ぐっ、……ゴメン、藤丸ッ!

  チカちーが、まずい(・・・)──────ッ!」

 

 

 「──────!」

 

 

 

 「…………うふふ。あーあ、もうお芝居(・・・)の時間は終わりなのね。ざーんねん」

 

 

 自分たちの前方、魔獣たちを従える術式(しょうじょ)の口から、そんな言葉が聞こえてきた。

 

 

 「っ、まさか最悪のパターン(・・・・・・・)になったか…!」

 

 ホームズはそう言って、憎らしげに術式(しょうじょ)を見る。

 

 

 「あっはは、三文(さんもん)芝居も、ここで終わりよ。……それじゃ、お疲れさま。あなたたちのおかげで、千鍵(チカギ)を丁重に(もてな)してあげられるわ」

 

 

 術式(しょうじょ)はその言葉を残して、姿を消す。

 

 

 そう。ここは既に、あの術式(しょうじょ)の箱の中。

 そしてそれは、この穴の先(・・・)も例外ではなかった。

 

 

 

 向こう側は、もはや地獄と化していた(・・・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 "秘密の部屋" の扉を超える。

 

 

 そんな私たちを出迎えたモノは、

 

 

 「な──────!!?」

 

 

 溢れんばかりの、"暴風"。

 

 

 「ちょ、ま、ぎにゃぁぁあああ────!!?」

 

 

 「スナオ──────ッ!!?」

 

 

 その凄まじいまでの勢いで、スナオは扉の外へと吹き飛ばされる。

 

 そしてそのまま、唯一の出口であった螺旋階段の頂点の穴へと、まるで排水口へ水を流すように、ぐるぐると飛ばされていく。

 

 

 「クソ───ッ! こんなことなら、ポケットいっぱいにして、体重傘増(かさま)しにさせとくんだったにゃぁあ───!!」

 

 

 そんな断末魔(だんまつま)を残して、彼女は穴へと吸い込まれていった。

 

 

 「くっそぉ、ッ──────、」

 

 私は、なんとかその場に踏みとどまる。

 両手で顔にかかる風を防ぎながら、前を見る。

 

 

 

 「ゴールに到着したと思ったら、地獄だった気分は、どう? ……千鍵(チカギ)?」

 

 

 

 当然。

 この暴風を放っている元凶がそこにはいた。

 

 

 「お、まえ──────、」

 

 

 ひびきのフリをして、ホームズやランサーを洗脳した黒幕。私たちの喫茶店に備わった意志だと、藤丸から説明されたその少女は、邪悪な笑みを浮かべて立っていた。

 

 

 「わたしはこの結界と融合したんだもの。この秘密の部屋でさえ、わたしの一部なんだって、わからなかったかな…?」

 

 

 「う"っ、かは──────っ!?」

 

 

 その凄まじいまでの風に、抗おうとした身体が圧迫され、胃液が逆流する。

 いや、吐き出したのは胃液ではない。()だ。

 

 ただ突風を浴びていただけだというのに、私は吐血していた(・・・・・・)のだ。

 

 

 「あっはははははは! 痛い? 苦しい? ねぇねぇ、聞かせてよ、千鍵(チカギ)っ!」

 

 少女は愉快げに笑う。

 

 

 「これはね、ただの風じゃないわ。わたしがひびきから預かった力そのもの。可視化された大源(マナ)(うず)、純粋な "魔力の奔流(ほんりゅう)" よ」

 

 

 「ぐ──────ッ!」

 

 

 「スナオちゃんが、耐えられずに吹き飛ばされたのは当然よ。だって魔力の規模(・・)が違いすぎるものっ!普通の人間がもつ魔力の小源(オド)じゃ、この暴風には逆らえない。ヒトが吹きかけた息で、アリが為す術もなく吹き飛ぶのと同じようにねっ!」

 

 

 耳に届く声が、時たま途切れている。

 自分の鼓膜が破れかけているのが、感じられた。

 

 

 「──────でも。あなたは違うわ? 千鍵(チカギ)。あなたが抱えている力は、わたしが抱えている力と同じ(・・)。だから、そうやって踏ん張れているのよ?」

 

 

 「な、に──────っ!」

 

 

 「でもね? 同じ力だということは、より強い方(・・・)に押し流されるの。あなたの "霊基の器" は、この魔力の奔流に押し流されて、徐々に(ほど)けていくのっ!」

 

 

 「ぐっ、あ、あぁ──────、!!」

 

 

 そうか。

 この全身から溢れる痛みは、文字通り身体が分解(・・)されているのか。

 

 

 「あっはははは!あなたの身体は、いったいどれだけ保てるかしらね? ほら、頑張ってここまでおいでよっ!」

 

 

 「あ、あ"あ"──────、ッ───!!」

 

 

 (ほど)ける。千切(ちぎ)れる。

 (はじ)ける。()ける。…()ける。……()ける。

 

 

 関節の節々が、外れるように。

 筋肉の繊維が、壊れるように。

 骨身の隅々が、(ひび)割れるように。

 

 あらゆるモノが、ただ失われていく。

 

 

 「ぅう、あ───、ああああ"あ"───ッ!!」

 

 

 こんなの、耐えられるわけがない。

 身体の細胞一つ一つが、泡となり弾け飛んでいく。

 

 心が折れる折れないの話じゃない。

 全身の神経が、"このままでは死ぬ" と訴えかけてきているのだ。

 

 これは、"存在の消失" だ。

 桂木 千鍵というカタチが、ただ無くなっていく(・・・・・・・)

 

 

 

 

 そんな。

 生きながらの地獄の中で、

 まだその身に残っていた眼球が、

 少女の向こう側にいる、大切な人(・・・・)を見つけた。

 

 

 

 「チカちゃん(・・・・・)─────────っ!!!」

 

 

 

 アイツは、キラキラとした大きな水晶玉のようなモノの中に、ただ閉じ込められていた。

 おそらく、この魔力の奔流を一緒に浴びてしまわないように、あの少女が封じ込めたのだ。

 

 

 

 「私のことはいいから、逃げて(・・・)───っ!!」

 

 

 

 

 ──────ああ。……なんだよ、それ。

 

 

 その言葉で。

 お礼よりも、文句のひとつでも言いたくなった。

 

 その言葉で。

 アイツが私を捨てたとか、馬鹿馬鹿(ばかばか)しくなった。

 

 その言葉で……!

 こんなにも、両足に力がこもる(・・・・・・・・)──────ッ!

 

 

 

 「な───────っ!?」

 

 

 困惑する少女を尻目に、私は歩み出す。

 

 

 「な、なんで…! どうして歩けるの……!?」

 

 

 さあ。なぜだろう。

 膝下の感覚なんて、とっくになくなってる。

 

 

 「止まれ…ッ! 止まってよ……ッ!!」

 

 

 暴風の勢いが増す。

 

 「がはッ、う…………、くっ!」

 

 血を吐いたはずなのに、鉄の味がしない。

 吐いたはずの血液が、その端から分解されたからだろう。それとも、もう味覚を感じる舌がついてないのか。

 

 

 「チカちゃん、だめ…っ! もう、もういいからぁ…! これ以上 前に進んだら、ホントに、何もかも、ぜんぶなくなっちゃうよ……! そんなの、私 耐えられない…っ!」

 

 アイツは、涙を浮かべてそう口にする。

 

 ああ、それ反則。

 そんなこと言われて止まれる奴はいない。

 

 「いい、から、黙って、そこで、待っ、てろ…!

  私は、おま、えに、(かえ)すモノがあんだよ…!」

 

 

 たとえこの魂が、燃え尽きたとしても。

 もとより、"失ったはずの命" だったのだから。

 

 

 「でも──────っ!」

 

 

 「私を、信じろ(・・・)ッ! ひびき───ッ!!」

 

 

 

 

 私の声が、ただ響き渡る。

 

 

 

 

 「─────────、うん…っ!」

 

 

 互いを信じ合って、その歩みを継続する。

 

 

 「どうして…!なんで、どうして、なんで…!」

 

 

 知るか、そんなの。

 理由なら、その後ろにいる馬鹿に聞け。

 

 

 「死ぬのが…、消えるのが怖くないの…!? 自分というカタチが(ほど)けていくのに、なんで抗えるのよ……ッ!」

 

 

 「…なに、言ってんだ。"もう死んだ命" だって、散々、おまえが言ってた、だろうが…っ! 存在が消える(・・・・・・)なんて、こっちはとっくに、経験済み、なんだよ、この……ッ!」

 

 

 「っ─────────!」

 

 

 構わず突き進んでくる私に、

 少女は思わず狼狽(うろた)える。

 

 

 「っ、そうだ、足りない(・・・・)んだ…!足りないから、止まらないんだ…!……ひびき(・・・)ィ! わたしにあなたの "残ってるぜんぶ" を渡して…ッ!」

 

 

 「な──────!?」

 

 まいった。それは卑怯だ。

 そんなことをされたら、こっちも止まるに止まれなくなってしまう。

 少女は混乱して、本来の優先順位(・・・・)を見失ったのだ。

 

 

 

 

 「─────────って、は…?」

 

 

 

 

 振り返った少女は、アイツをその手にかけようとして、"とある事" に気がついていた。

 

 

 「なんで? どうして、あなた、これっぽっちも(・・・・・・・)力がないの……ッ!? だってあの時は、まだ…!」

 

 

 少女は、理解できないと困惑する。

 アイツの中に残っていたはずの力は、既に見る影も無く、なくなっていた(・・・・・・・)のだ。

 

 

 ──────なら、それでいい。

 ぜんぶなくしてしまっているのなら、(かえ)(がい)があるってもんだ。

 

 私は、もはや光の粒子となって崩れゆく身体を、ただ意地(・・)だけで前に進めている。

 

 

 「もういい……ッ!

  殺す(・・)! わたしがこの手でッ!」

 

 

 最後の最後で、少女はその信条に反する。

 ことここに至るまで、決して "自らの手で" 殺そうとはしなかったその術式は、はじめて感情だけに(・・・・・)任せて、私に魔力の()を振りかざす。

 

 

 「はっ、それがお前の、おもてなし、かよ…。やれるもん、…なら、やってみろ、ってんだ…!」

 

 

 そう強気に言葉を連ねるも、私には既に、その攻撃に抵抗できるだけの余力はなかった。

 

 つまりはここが終点。

 

 ホントのホントに。

 私にはもう、この先はないのだろう。

 

 もとより終わってた命の延長戦。

 

 みんなには悪いけど、

 ただの女子高生にはここが限界。

 悔しいけど、口先で強がるので精いっぱい。

 

 ……ただ。

 アイツに借りを返せないのは、心残りだよな。

 

 

 

 「イヤっ、だめ、やめて!

  チカちゃん─────────ッ!!!」

 

 

 ああ、ホントに。

 この意固地さ(・・・・)が、私の取り柄だったな────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『いやいや。美しくないね。

  身内でも お客でも、"刃物を振りかざす" のが、

  "おもてなし(・・・・・)" な筈がないだろう─────?』

 

 

 

 

 

 ───そう言って。

 自身の服のポケットに、

 大切にしまっておいたケータイ電話(・・・・・・)が。

 

 見覚えのある光(・・・・・・・)を放ちながら、

 私の目の前に浮かんでいた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ──────それは、はじまりの最奥(・・)

 

 

 友人を見送った少女と、

 友人を見捨てた少女の邂逅。

 

 

 

 「ここにはいないよ。……ごめんね」

 

 

 「────そう。あなたもわたしを拒むんだ。」

 

 

 「どうせそれっぽっちじゃ、あなたは なんにもできやしない。……そこで見てて。千鍵(あの子)を殺して、わたしが世界を(もてな)すところを。」

 

 

 

 ─────────星は、遥か遠く。

 

 

 

 彼女はあの星を、

 見つめ続けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 ──────この話には、続きがある(・・・・・)

 

 

 

 『随分と、ヒドイ有り様だね、ひびきくん。考える時間なんてなかったのは把握しているが、それにしたって "自己犠牲" が過ぎる』

 

 ()は、この部屋で為す術もなく星を見上げていた少女のもとへと、姿を現した。

 

 「ケータイさん……、」

 

 少女は、力なさげに私を呼ぶ。

 

 『端的に、今の君の状態を教えよう。……千鍵くんの魂の保護、ならびに "霊基の器" の生成に4割強。この結界の作成、改変に5割弱の力を消費した』

 

 「………。」

 

 『今の君に残っている聖典の力は、"1割あるか無いか"、という現状だ。肉体は動かせるだろうが、この部屋からの脱出は諦めた方がいい』

 

 ただ淡々と、その現実を突きつける。

 

 『………君に責任はない。一人の男の(たわむ)れが、偶然 悲劇に繋がっただけのこと。これは事故だった。解決を行なうべきなのは、我々ではなく──、』

 

 「えぇ!? まだ1割も残ってたの……!?」

 

 

 『─────────え?』

 

 少女の予想外の反応に、こちらまで動揺する。

 

 

 「あはは…、ぜんぶ使い切った(・・・・・・・・)と思ってたのに、まだそんなに残ってたんだ。………でも、そっか。私じゃここから出られないんだね」

 

 

 『……そうとも。故に、もう無理はしなくていい。君の努力は無駄に終わるのではなく、ただ間が悪かっただけ──、』

 

 「じゃあさ。

  コレ(・・)、ケータイさんに、ぜんぶあげるね」

 

 

 

 『─────────え!!?』

 

 彼女は、なにを言っている?

 

 

 『話を聞いていなかったのかい!? それは君を聖典として成り立たせている最後の欠片のようなものだ…! それすらもなくしたら、君の無事は保証できないぞ…!?』

 

 「うん。聞いてたよ? ようするに、ここから動けない私が持ってても、"勿体ないもの" ってコトだよね。なら、ケータイさんが持って行って。……ケータイさんなら、ここから出られるでしょ?」

 

 その言葉は、私にこう伝えていた。

 

 

 "自分の代わりに、桂木 千鍵 を守ってほしい" と。

 

 

 

 『──────そうか。そんなにも、君にとってあの子は、大切な人(・・・・)なんだね…?』

 

 私の言葉に、少女はこくりと頷く。

 

 

 

 「チカちゃんを守れるのなら、たとえ私が、この夜空に消えても、それでもいいんだ。……だから、ケータイさん。おねがい」

 

 

 

 ──────ああ。

 この結論は、かつて私が求めたモノとは、全くもって異なる。

 こんなにも人間的で、こんなにも感情的な理由で、"たった一人のために" 自己を切り捨てられる価値観。

 こんなものは、"主の愛(・・・)" とは呼べまい。

 

 

 ──────だが。

 この結論が、今の私にはどこか心地よい。

 いつの間にか。二千年近く前に忘れ去ってしまったはずの人間らしさを、こうして懐古(かいこ)してしまうほどに。

 

 

 

 『──────わかった。君の願いを聞き届けよう、ひびきくん。私がその力を預かろう(・・・・・・・・・・)。』

 

 

 そんな私の言葉に、少女は微笑む。

 

 

 「………ありがとう、ケータイさんっ!」

 

 

 

 『──────ただ。一つだけ条件(・・・・・・)がある。』

 

 

 「………ほよ? なぁに?」

 

 

 

 『いやいや。今のこのボディ(・・・・・)も、中々に気に入っていてね。そう簡単には、捨てがたいんだ』

 

 

 私は、至って大真面目に。

 

 

 『……故に条件はひとつ。

  私が君の力をこの身に宿すのは、あと一度(・・・・)

  この端末が壊れたら…………で、どうかな?』

 

 

 

 

 「──────うん! それでいいよ!」

 

 

 

 その条件はまるで、

 私たちだから伝わる合言葉(・・・)のように。

 

 

 

 「それじゃあ、いってらっしゃい。

  …………チカちゃんのこと、おねがいね?」

 

 

 

 そうして。

 少女はその身に残された、

 最後の欠片を差し出す。

 

 

 その力を受け取った私は、

 遥か先の星を目指して、旅立ったのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「お、まえ……、その力って……?」

 

 

 それは今まで散々見てきた、

 私と同じ、アイツの力だった。

 

 

 「な、んで? どうしてあなたがそれを持っているの……!?」

 

 

 『君はこう思っていたんだろう? 日比乃 ひびきは、"桂木 千鍵を守るために、大半の力(・・・・)を消費した"、とね。…まったく。そんなわけがない(・・・・・・・・)だろう』

 

 

 「なに──────、」

 

 

 『日比乃 ひびきは、"桂木 千鍵のためだけに、その持ちうる全て(・・・・・・)を使ったんだ"。そこにいる彼女は、もはや "日比乃 ひびき" という人格だけだ。……その中身(ちから)は、とっくに空っぽさ』

 

 

 「でも、だったらどうして…!? どうしてあなたは、たったそれだけしかないのに、まだここに留まっていられる(・・・・・・・・)の…!?」

 

 

 『おや。わからないかい? ようは使い方なのさ。君ももう知っているだろう? 聖典(この力)は、とある愚者の信仰心(・・・)が行き着いた到達点だ』

 

 

 「それが、なんだって言うのよ────っ!」

 

 

 『ようは、思い込みだよ、思い込み。"信じる想い" が、カタチになる力だってことさ。ならばこれは当然、信じる心(・・・・)の強い方が勝るとも』

 

 

 「な──────っ!?」

 

 

 『君は、(あらが)い続ける千鍵くんを見て、こう思っただろう? …… 自分の力が足りない(・・・・・・・・・)ってね?』

 

 

 「ッ────────!」

 

 

 『"自分の力を疑った"。この時点で、もう君には聖典(この力)は使いこなせない。……いや、振り返るのならもっと以前から、君はこの力を疑っていたかな? だからこそ、千鍵くんのもつ力を欲したわけだからね』

 

 

 「っ、そうか! おまえ、おまえが……ッ!」

 

 

 『さあ、"おもてなし" はここまでだ。我が友が残した遺産(・・)よ。……最後まで。自分自身を。親愛なる友人を信じ続けた、この少女の勝ち(・・)だ』

 

 

 

 そうして。

 彼はこちらへ、そのひび割れた画面を向ける。

 

 

 「おまえ、なんで………?」

 

 

 『いやはや、死んだフリも疲れる。さすがに不死身のケータイさんも、端末を変えずに(・・・・・・・)、ずっとこの姿というのは、骨が折れる…いや、基板が折れるね?』

 

 

 私は、ただ困惑するしかなかった。

 

 

 『ほら、千鍵くん。いつもやっていること(・・・・・・・・・・)だろう? 今の君なら、こんなにひび割れたケータイ、片手で捻り潰せるとも』

 

 

 わかっている。

 言いたいことはわかっているのだ。

 彼は私に、その力を受け取って欲しがっている。

 

 「っ、でも──────っ!」

 

 

 そんなことをしたら。

 本当に今度こそ、彼は帰ってこない気がした。

 

 

 『おやおやぁ? (みどり)くぅーん? 泣いちゃってるのカナ? まったく、最後くらい告白してくれたって、いいんだゼ? ほら、顔をあげなよ、レディ。…ケータイさんのことが、()()ぅ〜〜?』

 

 

 

 「好きなわけないだろっ、クソ ケータイ…ッ!」

 

 

 

 そうして。

 私はその右手で、彼を掴み割る。

 

 その端末は、

 まるで硝子(ガラス)細工のように砕け散った。

 

 

 

 『──────ああ。

  ようやくこの身体(・・・・)から解放だ。

  丈夫なのはいいが、やはり機動性に欠けるね。

  うん、柄にもなく信条は曲げるもんじゃない。

  ………これだから、"スマホ" は嫌いなのさ。』

 

 

 

 その託された力で、ただ駆ける。

 

 

 「ひ──────ッ!?」

 

 

 怯えるその少女を横切って、

 そのままアイツのもとへと至る。

 

 

 その左手には、もう一人の友人から、護身用に託された赤い柄の短剣(・・・・・・)を握って。

 

 

 「こォの──────ッ!!」

 

 

 その身を閉じ込めていた水晶玉へ、今の私にできる、精いっぱいの力で振りかざす───!

 

 

 突き刺さった短剣の先の小さな亀裂から、

 やがて、そのすべてに崩壊の線が伸びる。

 

 

 

 

 

 

 ─────────パリンッ、と。

 

 

 

 

 星屑(ほしくず)のように、砕け散った。

 

 

 

 

 「チカちゃん─────────ッ!!」

 

 

 

 「わっ、ちょ──────!?」

 

 飛び出したひびき(・・・)は、

 そのままの勢いに任せて、私に抱きついてきた。

 

 

 

 「………ごめん。ひびき。

  "これっぽっち" しか、(かえ)せないや」

 

 

 

 「………ううんっ!

  "こんなにある" んだよ。チカちゃんっ!」

 

 

 

 そのまま、私たち(・・・)の身体は輝きだす。

 失われつつあった私の身体は、その輝きとともに、元のかたちを取り戻していく。

 

 

 

 「どう、して…、わたしに逆らうのよ……ッ!」

 

 

 

 ひびきと二人、

 そんな嘆きを吐き出す少女を見据える。

 

 

 

 「………ごめんね。貴方の気持ちはわかるよ。でも、やっぱり間違ってたんだよ。だから終わらせないと」

 

 

 ひびきはそう言って、私の手を握る。

 

 

 「チカちゃん、少し手伝ってくれるかな…?」

 

 

 繋いだ手の先から、ひびきの心の声が届く。

 

 それは、これより放つべき言霊(ことだま)

 この箱を開く、"終わりの言葉" だった。

 

 

 「──────わかった。…やろう、ひびき」

 

 

 

 私の言葉に、ひびきは笑顔を向けて。

 

 

 

 「や、めて…! おわ、終わらせないで…ッ!!」

 

 

 

 繋いだ私の右手と、ひびきの左手を前にかざす。

 

 

 「"──────どんなに遠く離れても、"」

 

 

 

 「"──────夜空を照らす星のしずく。"」

 

 

 

 「「"誰もが夜に迷わぬよう、

   空に光を届けよう……!"」」

 

 

 その光は、淡い二つの色を放って。

 

 

 

 「「"柑橘(かんきつ)のように実を結べ!

  ────『儚泣く明りよ 星と熟れ(スターリット・シトラス)』!!"」」

 

 

 

 

 輝きは、ただこの暗い夜空を彩る、

 溢れんばかりの、星の実の雫となった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 そうして、わたし(・・・)は消えていく。

 

 

 

 この暗闇に包まれていた秘密の部屋で、

 大の字に倒れて、空を見上げている。

 

 

 

 「ああ……、おわっちゃった……、」

 

 

 

 消える。崩れる。無くなる。

 

 わたしというカタチが、存在が、

 ただ意味もなく失われていく──────。

 

 

 ────嫌だ。

 嫌だ。いやだよ。消えたくないよ。

 

 だって知っている。

 あの子が味わってたから知っている。

 

 それは痛いのだ。辛いのだ。苦しいのだ。

 本当に、本当に。ただ心の底から───、

 

 

 

 

 「──────ううん。消えないよ」

 

 

 

 力なく倒れていたわたしの手を、

 ひびき(・・・)が、そっと握っていた。

 

 

 「ひ、びき──────?」

 

 

 「私たちには、わかるよ。貴方の気持ちが。だってずっと、私もチカちゃんも貴方も。ひとつの力で繋がってた(・・・・・)んだもん」

 

 

 そう言って、ひびきは笑顔を向ける。

 

 

 「な、んで──────?」

 

 

 

 「貴方は、ずっとさびしかった(・・・・・・)んだよね? ……だから、みんなを招き入れようとした。ずっとここにいてもらおうとした。世界を再現して、みんなに帰ってきてほしかった。そうでしょ?」

 

 

 それは、わたしが得た、ただひとつの感情(きっかけ)

 

 

 

 ──────そう。

 "さびしい"。さびしかったのだ。

 

 

 また、おもてなしをしたかったのだ。

 また、あの日々を取り戻したかったのだ。

 

 また、みんなと笑顔で過ごしたかったのだ。

 

 

 

 「ぅう──────、っ───、」

 

 

 「わかるよ。私だって、チカちゃんが消えちゃって、さびしかったんだもの。"守りたい" と "さびしい" は、表と裏。……貴方がやろうとしてたことは、私と変わらない」

 

 

 ひびきは、にっこりと笑って。

 

 

 「だから、消させない(・・・・・)。貴方はただ私の、ううん、私たちの中に溶けていくの。……みんなが帰ってくるその日まで、大切に抱えてあげるよ」

 

 

 「え──────?」

 

 

 でも。それは虫がよすぎる。

 そんなことが、許されていいのかな。

 

 

 「わた、わたし、あなたが守ろうとした、千鍵(チカギ)を、殺そうとしたんだよ…? なのに…、わたしを許せるの…?」

 

 

 「でも。結局 殺せてなかったでしょ? ならそれでいいじゃん。何も問題なんてないよっ!」

 

 

 ひびきは、その笑顔を絶やさない。

 

 

 「っ、も、問題ならあるっ! だって、あなたが許したって、千鍵(チカギ)は許さないでしょ? 殺そうとしてた相手を、ずっと抱え続けていくなんて、そんなの───、」

 

 

 「んー、そうなの? チカちゃん…? この子のこと、チカちゃんは許せない…?」

 

 

 そんな間の抜けたひびきの言葉に、

 千鍵(チカギ)はいつものように、ただため息を吐いて。

 

 

 「はぁ、………いいよ、別に。お前のワガママを聞くのは、いつものことだしな」

 

 

 そうして千鍵(チカギ)は、

 わたしのもう片方の手を握った。

 

 

 「どう、して──────?」

 

 

 「んなこと知るかよっ。……別に。私はお前に恨みなんてないしな。お前から言われたことなんて、ほとんど正論だったし」

 

 千鍵(チカギ)は頬を掻きながら。

 

 「……それに、お前は私たちの居場所(・・・)だから、なくなられたら、その、困るんだよ」

 

 

 そう言って、恥ずかしそうに目を逸らす。

 

 

 「やったー! さっすが、チカちゃんっ!」

 

 「おいコラ、く、くっつきすぎだ、バカっ!」

 

 

 二人は、あの頃と変わらぬ笑顔(・・)を浮かべる。

 

 

 

 ────ああ。

 なんて馬鹿だったのだろう。わたしは。

 

 

 こんなにも、こんなにも得がたい。

 "自慢の看板娘たち" が、ずっと傍にいたのに。

 

 

 

 「ぅう、ああ、ぁああ──────っ」

 

 

 涙が、ただあふれる。

 

 

 「…ごめんっ、ごめんね…、ごめんなさいっ、ぅう、あなた、たちを、みんなを、傷つけて、ごめんなさいっ…!」

 

 

 ありがとう、二人とも。

 本当にごめんなさい。

 

 

 わたしは、

 取り返しのつかないことをしたけれど。

 

 

 

 「──────ああ、」

 

 

 暗闇の夜空には、

 こんなにもたくさんの星明かり(・・・・)

 

 二人が放った、この箱を光に染める、星の雫。

 

 

 

 「──────ありがとう、ひびき、千鍵(チカギ)

 

 

 

 わたしは、溶けていく。

 このたくさんの星々とともに。

 ただ帰るべき場所へと、(かえ)っていくのだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「────うん。おやすみ、アーネンエルベ」

 

 

 そうして少女は溶けていった。

 

 

 この秘密の部屋に残ったのは、私とコイツだけ。

 

 

 

 「なぁ、ひびき、私───、」

 

 「チカちゃん──────っ!!」

 

 「ちょ、それは、さっきやっただろっ!」

 

 話しかけようとした私を尻目に、コイツはまたしても抱きついてくる。

 

 

 「うん。でも、何回もやりたくって…!チカちゃんはこうしてココにいるんだって、実感したかったの…!」

 

 「……ったく、誰かさんのお節介のおかげでな」

 

 「あいたっ!」

 

 ひびきの(ひたい)に、人差し指を弾く。

 

 

 

 「助けてくれ、なんて頼んでなかったけどさ。……その、ありがと、う。ひびき」

 

 

 そんな。

 ぎこちない私の言葉に、ひびきはにっこりと笑って。

 

 

 「……うん。私もチカちゃんには、助けてって頼んでなかったけど、ありがとう…! ここまで迎えに来てくれてっ!」

 

 

 そう。だから、これはお互いさま。

 私たちは、お互いのためにこの命を使ったのだ。

 

 

 「それと、ごめんねチカちゃん。私のこの力…」

 

 

 「……いいよ。別に言わなくても。」

 

 

 「で、でも──────っ」

 

 

 「黙ってたってことは、言いたくないことだったんだろ? …だからいい。誰にだって、人には言えない秘密のひとつやふたつはあるからな」

 

 

 その言葉に、ひびきは目を丸くする。

 

 

 「えぇ!?チカちゃんにも、私には言えないような秘密があるのっ!? なになに、教えてよ〜! 気ぃにぃなぁるぅ〜!」

 

 

 「っ、い、言わないっ!言うわけないだろ!話聞いてたのか、おまえ!? 自分のことを棚にあげるなよな!」

 

 

 「だから! 私も教えてあげるから、それでおあいこにしよっ! それならいいでしょ〜?」

 

 

 「だ、ダメだっ!ダメに決まってるだろそんなの! 私は絶対に言わないし、絶対にお前の秘密も聞かないからなっ!」

 

 

 「ふ〜んだ、なら勝手に言っちゃうもんねっ! 私は、聖、っ!? もごもご、チカ、ちゃんっ!! !??」

 

 「なに許可なく言おうとしてんだ、コラっ!」

 

 そう言って私は、秘密を公言しようとするひびきの口を、自分の手でもごもごと塞ぎ込む。

 

 

 

 そんな私たちのもとへ。

 

 

 

 「おーい! チカちー! ひびきちー! 早く戻ってこーいっ! なんか知らないけど、ここ崩れそうだぞぉ〜!!?」

 

 

 螺旋階段の頂点。

 ぽっかりと開いた光の穴の先から、スナオが手を振っていた。

 

 

 

 「スナオちゃん! …って、そうだ!この結界の中枢だったあの子が溶けちゃったから、ココこのままじゃ崩れちゃうんだった!」

 

 「ちょ!? それ先に言え、バカ!」

 

 

 そう言って、私は先に立ち上がり、

 ひびきへとその手を差し出す。

 

 

 「ほら、いくぞ! しっかり握っとけよ、今度は(・・・)

 

 

 「っ! ──────うんっ!」

 

 

 そうして、私たちは駆け出す。

 

 

 ずっとずっと先。

 一番眩しいあの星───"私たちの空" を目指して、この長い螺旋階段を駆け上がっていく。

 

 

 

 「ちょ、チカちゃんっ!はやいよぉ!」

 

 「バカ、離すなって言ったばっかだろ!?」

 

 「もう〜、バカバカ言わないでよっ!」

 

 「ごめんって、今のはわざとじゃない!」

 

 

 ああ、ホントに締まらない。

 

 

 けれど。繋いだこの手が、

 たとえ離れたとしても、それでもいい。

 

 どんなに離れていても、私は何度も手を伸ばす。

 この距離を飛び越えて、何度でも何度でも。

 

 なぜなら私たちの心は、

 この指先から、もう触れ合っているのだから。

 

 

 

 「──────!」

 

 

 そうして、私たちは帰ってきた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「千鍵! ひびき───!」

 

 

 光のゲートの先から、二人が舞い戻る。

 

 既に、この結界は消えかけていた。

 自分───藤丸 立香たちが戦っていた魔獣も、既にこの崩壊とともに溶けていったのだ。

 

 

 「は、はじめまして! 日比乃 ひびきです!…えっと、この度はご迷惑をおかけして、大変もうしわけ───、」

 

 

 「おっと、積もる話は後にしよう、ミス・日比乃。この結界の消失だが、キミには止められるかい?」

 

 「そ、そうだよね! ……でも、ごめんなさい。中枢を担っていたあの子が溶けちゃったので、この崩落は止められないの」

 

 

 「そんな───、」

 

 彼女の言葉に、思考を巡らす。

 なんとかこの状況を改善できないだろうか。

 

 

 

 「…なんだ? 決着がついたのかと思いきや、行き詰まってやがるのか? てめぇら」

 

 

 唐突に聞こえてきたそんな言葉に、思わず振り返る。

 

 

 「「ランサー───!!?」」

 

 

 「クー・フーリンさん! ……と、その肩に腰から担がれている御方は…!」

 

 

 「あっはは〜、調子どうよ? ちゃんマス!」

 

 

 「「なぎこ──────!!?」」

 

 

 よかった。二人とも無事だったのか。

 

 

 「なんだよ…、不安にさせやがって…っ! あんな別れ方したら死んじまったと思うだろ…っ!」

 

 

 「バカ言え。オレがあんな雑兵で死ぬ(たま)かよ。……とは言っても、この嬢ちゃんが宝具を発動したタイミングあたりから、魔獣どもの殺気が弱まったんでな。ひと通り蹴散らした後、アンタらの方へ加勢に向かおうとしたんだが、その道中で、大の字になってこの嬢ちゃんがへばってやがったから、拾ってきたわけだ」

 

 

 「おいコラ、リンリン! あたしちゃんを捨て猫みたいに説明するなーっ! ……けどま、そりゃ死ぬわけないっしょ? あたしちゃん言わなかったっけ? "誰かを犠牲にしてまで、大切な人に()うのは違う" って! なら、あたしちゃん達が犠牲になったら、メンツ丸つぶれじゃん…?」

 

 

 「……ああ、そりゃ確かにその通りだ」

 

 満面の笑みを浮かべるなぎこに、思わず千鍵は苦笑する。

 

 

 「けどどうすんよ? このままじゃアタシら、みんな仲良くこの結界と丸つぶれじゃん…!?」

 

 

 「私に、もう少し魔力が備わっていたら、みんなのことを地表まで飛ばしてあげられるんだけど…」

 

 そう言って、ひびきは落ち込む。

 

 

 

 「………いや。それなら方法はある」

 

 

 

 「チカちー……?」

 

 

 「今の私は、ひびきの一部(・・・・・・)みたいなもんだろ? なら私の力をひびきに渡せれば、みんなここから出られるってこと」

 

 

 なんだって──────?

 

 

 「おい、なにアホなこと抜かしてんだ、チカちー! ここに来て "自分を犠牲にする" とかありえないだろ!? そんなのダメに決まってるぞぉ!?」

 

 慌てて止めようとするスナオに賛成だ。

 千鍵がだした提案は、自分たちには飲めない。

 

 

 「いや。それはわかってるよ。私が言ってるのはそういう事じゃなくて、"私が力を補充できれば、ひびきにも力がつく" ってこと」

 

 

 彼女の言葉に、自分以外(・・・・)の全員が目を丸くする。

 

 

 「千鍵、それって───、」

 

 

 「ほら、まだあるんだろ? ひとつ(・・・)

  …………それ、私に使ってくれ(・・・・・・・)よ」

 

 

 「マスター・藤丸、まさか───、」

 

 

 

 そう。

 それはあの時交わした、ひとつの契約(やくそく)

 

 

 

 

 "……ひびきを助けにいこう。これは、千鍵にしかできないことだ。キミの力を貸してほしい。"

 

 

 そうして、自分の右手(・・)を差し出す。

 

 

 "──────ああ、わかった!"

 

 

 

 

 その。

 確かにそう交わした、二人だけの約束(けいやく)

 

 

 

 「──────頼んだよ、藤丸」

 

 

 彼女の言葉に、自分は強く頷いて。

 

 

 「────令呪をもって命じる(・・・・・・・・・)

  "桂木 千鍵"!日比乃 ひびきと協力し、

  俺たちを、この領域から外へ───ッ!!」

 

 

 自身の右手に刻まれた、最後の令呪(・・・・・)を発動する。

 

 

 「──────任せろ、マスター(・・・・)

  よぉし、いくぞ、ひびき──────っ!」

 

 

 

 そうして、結界のソラを超える。

 目指す先は、自分たちの空、ただひとつ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 気づけば、

 自分たちは白紙化された、あの大地の上にいた。

 

 

 「帰って、きた──────?」

 

 

 広い広い、青空の下。

 世界は一面の白に包まれている。

 

 

 

 「私たちの世界、

  ホントに消えちゃったんだね……」

 

 

 「ひびき──────、」

 

 

 その光景に、ひびきは一筋の涙を流して、

 千鍵の手を、ただぎゅっと握っていた。

 

 

 

 「……なに、そこまで落胆することではないとも。ミス・日比乃、ミス・桂木」

 

 

 そんな二人へホームズが声をかけた。

 

 

 「この白紙化現象は、いわば星の休眠。携帯電話でいうところの、スリープモードだ。……キミたちの世界も、我々の世界と繋がったことで、この現象に巻き込まれたかもしれないが、何も絶対に戻らない(・・・・・・・)わけじゃない」

 

 

 「ホームズ───、」

 

 

 「キミたちの世界も、ミス・桂木の肉体も、あの喫茶店(・・・・・)も。ともにこの現象の犠牲者だ。……であれば、私たちが異星の神に打ち勝ち、汎人類史を取り戻すことに成功すれば、例外なく元の状態へと戻れるだろう」

 

 

 そう言って、ホームズは目を伏せて。

 

 

 「つまり。まだ取り戻せる(・・・・・)んだ。

  ……キミたちの失くしたものはね?」

 

 

 ホームズの言葉に、二人は笑顔を向ける。

 

 

 「ホームズさんの仰った通りです。私たちカルデアは、失われたモノを取り戻すために、戦っているのですから…!」

 

 

 「だから二人にも、それまでの間、俺たちに同行してほしい。……約束する。必ずキミたちの世界も元に戻してみせる」

 

 

 「……なに言ってんだよ、藤丸」

 

 自分の言葉に、千鍵はツッコミをいれた。

 

 「え──────?」

 

 

 「お前一人が抱えることじゃないだろ? もう私も当事者(・・・)なんだ。手を貸せることがあったら、言ってよ」

 

 

 「千鍵──────!」

 

 

 「うん!チカちゃんの言う通り! 私も、皆さんに協力させてくださいっ!」

 

 「な、お前までそんなことしなくても…!」

 

 「なに言ってるのチカちゃん! もう私たちは、しばらく一心同体でしょ? なら当然、私たちも手を貸すに決まってるよっ! ね! スナオちゃん!」

 

 

 「えぇ!? アタシもはいってるんかよぉ!? ……まぁでも、地球がこんな状態じゃ、教会の任務も何もねぇかあ。ハイハイ、アタシも手を貸してやるにゃ〜っと」

 

 

 そんな少女たちのやり取りに、思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

 

 『うぅ〜ん、青春ですナー!いいですナー!これこそが友情!いやぁ、やっぱり "吊り橋効果" って言うのかな、こういうの。僕も思わず、シャッターオンが止まらなっシブル!!』

 

 

 

 「「ケ、ケータイさん──────っ!?」」

 

 

 どこからともなく、あの青いケータイ電話が現れたと思いきや、凄まじい勢いでカメラのフラッシュを()いていく。

 その姿は、最初にあった時と同じ、あのガラパゴス携帯の姿に戻ってはいたが。

 

 

 『ほ〜ら、感動の再会だヨ☆ 抱きついてきな、ウェルカム!ついでにパフパフさせてもらうから、お嬢さん方 ほらそこ一列に並んで〜!ケータイさんのハグ会はコチラでーすッ!整理券配布しますよー!』

 

 

 「このクソケータイがぁ! 帰って来れんなら、最初からそう言えってんだ、このッ! このッ!」

 

 『おぉ〜と、お客様〜!? 順番は守ってくださいねぇ!そんな逆方向に、ケータイさんは曲がらないっていつも言って、アッ! この感覚はァ! また、またハッキングされちゃうぅぅう!!!」』

 

 

 そう言って、ケータイさんはぶつりと途切れ。

 

 

 

 『…うーむ、ここを押せば、もう少し音声をデカくできるんじゃないのかネ? おいコラ、カルパッチョ君、そこじゃない!…ったく、なぜ魔術師の私が、ラジオの周波数を合わせるようなことをせにゃならんのだっ』

 

 

 「あれ…? ゴルドルフ新所長……?」

 

 

 『…ん? もしかして今 聴こえてる!? やっとミュート解除かね!?コホン、こちらストーム・ボーダー! 司令室よりゴルドルフ・ムジークだ!ようやく繋がったな!お前たち!』

 

 

 「「やっぱり、ゴルドルフ新所長───!!」」

 

 

 『そちらの音声は、繋がっていたからな!術式との決着がつく直前あたりまでは把握しておる!色々と聞きたいことは山積みだが、ひとつだけ確認する! ……全員無事だよネ(・・・・・・・)!!?』

 

 

 その言葉が、ただ嬉しくて。

 

 

 「───はい! ゴルドルフ新所長! 俺たち迷宮探索メンバー…藤丸 立香、マシュ・キリエライトならびに、経営顧問 シャーロック・ホームズ、同行サーヴァントのクー・フーリン、清少納言 ともに全員 無事です!……これより、救難を要請した "三名(・・)" の生存者を連れて、ストーム・ボーダーへと、帰還(・・)します!」

 

 

 そうして、"救難指令(サルベージ・オーダー)" は達成された。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 『間もなく、降下ポイントに到着する。全員、突風に警戒してくれ。これより、安全のために一度 通信を遮断する。…では、また後ほど』

 

 

 キャプテン・ネモからの連絡の後、

 彼らは降下ポイント付近へと移動する。

 

 

 

 

 

 

 『──────さて。カルデア、ね。"鬼が出るか蛇が出るか"。どうあれ、退屈だけはしなさそうだからね。エンジョイ、テクノライフ…といこうか』

 

 

 『そうですか。ひっそりと隠居するつもりではないのですね。それは安心しました』

 

 

 『おっと、これは困った。そっちからは私の音声は拾えないようにしていたんだが、もしやもしや、すり抜けた(・・・・・)のかい?』

 

 確か "シオン・エルトナム" と名乗っていた娘が、どういう訳か私の回線に割り込んできた。

 

 『ええ。アトラス院(・・・・・)を舐めんじゃねーですよ。科学技術の進歩で生まれた装置を模倣しているのなら、どちらかと言えばコチラの分野ですから』

 

 

 その言葉で、私はため息を吐く。

 

 

 『うぅ〜ん、ケータイさん参っちゃったなー。僕のボディよりも近未来な装置を用意できるヒトがいるなんて、そりゃ嫉妬しちゃうよねー。ついミュートしちゃったのも、許してちょ☆』

 

 

 『まあ、そこは別に(いきどお)っておりません。今回の救難(サルベージ)で犠牲者が出ないのは、計算通りです。他ならぬ貴方の働きでね? …聖典トライテン(・・・・・・・)を作った(・・・・)千年錠の死徒、"コーバック・アルカトラス"。今はダ・ヴィンチもゴルドルフ氏も聞いておりませんので、道化は結構ですよ?』

 

 

 『───いやいや。これはホントに参ったね。人理を保障する組織だと聞いていたから、まさかと思っていたんだが、君、こっち側(・・・・)か。こんなことなら、ミュートと言わず、ホントに "カット" しておくべきだったよ』

 

 

 私の言葉に、彼女は鼻で笑う。

 

 

 『それこそナイです。私は貴方の正体を周知させる気もなければ、弱みとして握っておく気もありませんから。……ただ、ひとつだけ気になったことがありまして』

 

 

 なんだ、思ってたよりも融通の効く娘だったか。

 

 

 『──────聞こう。なにかね?』

 

 

 『あの術式がやろうとしていたことは、"聖典トライテンの立証(りっしょう)行為" です。……もしも彼女が、本当にその力を掌握し、この宇宙の再現に成功させることができていたのなら、貴方にとっては、 "求め続けていた答え" だったのではないのですか?』

 

 

 "主の愛" を証明するためだけ(・・・・・・・・)に生み出された、聖典トライテン。仮にあの術式が、この力を用いて、本当に我々の宇宙を再現できていたのなら、それは、"主の愛"=宇宙である という結論を立証する行為となる。

 

 すなわち、

 私の理論が正しかったことの証左(しょうさ)である。

 

 彼女はこう言っているのだ。

 求め続けていた理論の答えを知る機会だったというのに、なぜ、それを手放すような立ち振る舞いを選んだのかと。

 

 

 

 『──────さて。なぜだろうね。』

 

 

 私には、その問いの答えは下せない。

 

 だからお得意の、"思い込み(・・・・)" を口にする。

 

 

 『単なる、優先順位(・・・・)さ。…私は "そんなこと" よりも、あの "少女たちの行く末" が気になった。それだけのことだとも』

 

 

 『な…!? 二千年も費やした、自分にとっての救い(・・)よりも、ですか……?』

 

 

 彼女の動揺は、なかなかに心地よい。

 

 

 『ああ。それにね、ひとつ良いことを教えてあげよう。…"主の愛" というのは、何も聖典で宇宙を再現しなくとも、簡単に立証できる』

 

 

 『はい──────?』

 

 

 『わからないかな? "主の愛" は、どこにでもある(・・・・・・・)からこそ、宇宙なんだ。……私が。君が。こうして対話しているこの時間もまた。"主の愛" の証明(・・)なのだから』

 

 

 森羅万象(しんらばんしょう)万物流転(ばんぶつるてん)

 この宇宙の、生きとし生けるもの全てが。

 "主の愛" を立証する、ひとつの()に他ならない。

 

 

 

 

 『だからこそ私は、少女たちの "友愛" を選んだ』

 

 

 

 なぜならそれは、

 他の何者にも替えがきかない(証明できない)、ひとつの愛。

 

 

 

 『"汝の隣人を愛せよ"…ですか。

  ………ふふっ、それは確かに。

  当事者たちにしか証明できない "()" でしたね』

 

 

 

 「おーい、ケータイさーんっ!」

 

 

 そんな私のもとへ、あの少女がやって来る。

 

 

 『おや、どうしたんだい? ひびきくん。わざわざ迎えに来なくても、このケータイさんは、ぬるりと、ひょっこりとカルデアに現れ───、』

 

 「ありがとねっ!

  チカちゃんのこと、守ってくれて!」

 

 

 『──────。』

 

 

 「ほよ? どうしたの、ケータイさん?」

 

 

 『……いや。なんでもないよ。それより、すまないね、ひびきくん。君がいない間の、千鍵くんの写真を撮っておこうと思ったんだが、つい…私の趣向を優先してしまってね? 見せれるようなモノが一枚もないんだ』

 

 

 私の言葉に、少女はにっこりと笑って。

 

 

 「ううん! 気にしないでいいよ。思い出(・・・)なら、これからまだまだ、たっくさんつくれるからねっ!」

 

 

 

 『──────ああ。それも、そうだね』

 

 

 

 「おーい、ひびきー?何やってんだ〜? 早く乗らないと、置いていかれるぞ〜?」

 

 

 向こうで、もう一人の少女が呼んでいた。

 

 

 「あっ、うん! それじゃケータイさん! また向こうで会おうね!」

 

 

 

 そうして、少女は走り去っていく。

 

 

 

 『──────いや。礼を言うべきなのは、私の方だ。……ヒトがあたりまえのようにもつ "あたりまえの愛" 。それを思い出させてくれたのは、他ならぬ君たちだよ。ひびき、千鍵』

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 ストーム・ボーダー、臨時 食堂スペースにて。

 

 

 「おーい、千鍵? このグラタン、四番テーブルまで運んでもらっていいー?」

 

 そう言って、たった今オーブンで焼きあがったグラタンを千鍵に手渡すのは、我らがカルデアのキッチン担当の一人、ブーディカ。

 

 

 「はいはい、四番テーブルならさっきドリンクのオーダー取ったから、ついでにアイスコーヒーもいれてくれる?」

 

 「了解、了解! いやぁ、専属でウェイトレスをやってくれる子がいると、キッチンは捗るねぇ。おかげであたしも心置きなく厨房に立ってられるし!」

 

 

 「ほれ、チカギ。オムライスも出来上がったゾ。ケチャップでハートを描くのはチカギの仕事だ。アタシは次のハンバーグステーキに移るから、しっかり愛情込めれ。手抜きはナシだワン?」

 

 間髪入れずに、千鍵のトレイへ出来上がったオムライスを乗せるタマモキャット。

 

 「ちょ、おい!? メイド喫茶じゃないだろ、ここはっ! 誰だそんなの注文したヤツっ!」

 

 

 「んー? あそこでニマニマしている黒いヒゲなのだな。なんとなくだがアタシではヤツには愛を込められぬ。故に許せ、チカギ。コレもカルデアに来た洗礼だッ!」

 

 「あんなオッサンに愛情込めるのが、カルデアなのかよ!?」

 

 それはとんでもない誤解である。

 

 「為せば成る、為さねば成らぬ、ニャに事も。…だが、確かに初手のハードルとしては高すぎるナ。アタシの目が正しければ、アレはAP40消費の2WAVE制かつHP100万超えの厄介客に違いない。故に高級ネコ缶ひとつで代わってやってもよい。ついでにニンジンも付けよ」

 

 「いや意味わかんねぇよ!? ったく、喋るネコ(・・・・)ってのは、どうしてこう、どいつもこいつも会話が成立しないんだ!?」

 

 「ギャランドゥ!? チカギ、今貴様がふわりと頭に思い浮かべたそのナマモノ(・・・・)とアタシを同類にするなワンッ!」

 

 

 

 

 

 「うーん、困るぅ、困るよぉ…」

 

 二番テーブルには、年端もいかない少女が二人。

 

 

 「イリヤ、もう五周くらい同じメニュー表を(めく)ってるけど、そんなに眺めても、書いてある内容は変わらないと思う」

 

 じっとメニュー表を眺めるのは、二人の魔法少女───イリヤと美遊だった。

 

 「わかってないなぁ美遊は。こういうのは、一周目に大まかなメニューを把握して、二周目にめぼしいモノに目を付けて、三周目に値段の表示を見て、四周目にカロリー表示を見比べて、五周目に思わぬブラックホースが現れるんだよっ!」

 

 「? 五周しないと見えないメニューがあったの…? 知らなかった、さすがイリヤ。なんでも知ってるね」

 

 いや、そんな裏メニューはありませんよ?

 

 「お客様、ご注文はお決まりになられましたでしょうかー!」

 

 そんな二人のもとへ、注文を取りにひびきがやってくる。

 

 「うわぁ!? 呼んでないのに来ちゃったっ!? えっと、どうしよう、どうしよう…!」

 

 「ごめんイリヤ、イリヤが気になってるメニューをぜんぶ頼めば解決すると思って、わたしが呼んじゃった…」

 

 「喫茶店で、大富豪プレイ!!?」

 

 「あはは…、お値段だったら、気にしないで大丈夫だよ、イリヤちゃんに美遊ちゃん! これは私たちからのお礼みたいなものだから! 好きなの頼んでよっ! ほら、砂糖水(・・・)とかあるよ?」

 

 「な、なんでその流れで、そんな低コストなドリンクを!? ……あ、あのぅ、オススメ とか アリマスカ…?」

 

 なぜカタコトな日本語なのか。

 

 「うーんと、当店自慢の "日替わりパイ" はいかがでしょうか! 店長(マスター)はいないから、私が作ることになるけど…、オレンジパイなら自信ありますっ! ……ちょっと前まで五番テーブルに座ってた赤いジャンパーの女の人からも、お墨付きをくれたよっ!」

 

 「日替わりパイ……? 自信の有無でメニューが変わるなんて、非効率的じゃ…? そもそもカルデアの物資の補給量を考えれば、日替わりよりも一定の材料を使った方が全体的なコストパフォーマンスも、」

 

 「あぁ〜〜!! ストップっ! ストップだよ、美遊! 喫茶店のメニュー事情には、首突っ込まないでおこうネ!? ……と、とりあえずドリンクくださいッ!オレンジジュースと抹茶ラテでっ!」

 

 

 

 

 

 一方、大柄なウェイターがひとり。

 

 「そら、ご注文のミルクティーとパンケーキだ。ハチミツは嬢ちゃんたちのお好みでどうぞ?」

 

 

 「わぁ、すごいわすごいわっ! これぜんぶあたしたちが自由にかけてもいいのね!」

 

 「ねぇねぇ、ミルクティーには、お砂糖はたくさんはいってるの?」

 

 運ばれてきたデザートに嬉々とした表情を浮かべるのは、ナーサリー・ライムにジャック・ザ・リッパーたち。

 

 

 「ああ、舌が蕩けるくらいたっぷりとな。そのパンケーキとの相性はさぞ抜群だろうさ。では、ごゆっくりお嬢さん方」

 

 

 (こな)れた仕草でお辞儀をするそのウェイターは、あのクー・フーリンだった。

 

 

 「フッ、思っていたよりも様になっているじゃないか。アルスターにも食事時の礼儀作法はあったのだな」

 

 そんな彼に厨房から声をかけたのは、赤い弓兵。

 

 「けっ、てめぇはいちいち嫌味を言わねぇと喋れねぇのかよ、赤いの。…こちとら、あの嬢ちゃんらに頭下げて頼まれてんだ。誠意を見せられたら、断らねぇのがてめぇの国の礼儀じゃねぇのかよ」

 

 「ほう? "郷に入っては郷に従え" とは。恐れ入ったよ、クー・フーリン。…いや、ランサー(・・・・)かな?」

 

 「よせよ、気持ちわりぃ! てめぇにクラス名で呼ばれると背中が痒くて仕方ねえ! そら、無駄口たたいてねぇで、手を動かしやがれ。それがてめぇの仕事だろ」

 

 「ふむ、心得た。……だがそうか。あの少女たちから、ね。私が声をかけた時は、赤いケータイの人と言われたんだが、さてなんの事だか。パケット定額プランには入ったのか、とかなんとか、全くもって身に覚えがなさすぎる。そして凄まじい頭痛に苛まれる…」

 

 「ははははッ! そいつはいい!その頭痛は、身に覚えがある証拠だろうよ!"(わざわい)(きた)るや、人自ら(これ)を生ず" ってな! あのウルクの金星の嬢ちゃんにでも、聞いてみたらどうだ? 案外 積年の怨みのように染み付いてるかもしれねぇぞ?」

 

 

 「ランサーさーん! 二番テーブルに、オレンジジュースと抹茶ラテおねがーいっ!」

 

 「あいよ、すぐ運ぶから待ってな!」

 

 

 

 

 

 「うぃ〜す、やってるー? "ひびちか"〜?」

 

 「ウェーイ! あたしちゃん達が遊びに来てやったぞー!」

 

 遅れてキッチンスペースにやって来たのは、スナオとなぎこさん、そして…

 

 「うーん、スナオとなぎこのダチってどれ? あのツインテの子?」

 

 なぎこと同じ、なんちゃってJK仲間の鈴鹿御前だった。

 

 

 「そうッスよ、鈴鹿パイセン! アレがあたしちゃん達の期待の星! 現役のツインテ ツンデレJKのチカちーだゼ!」

 

 「誰がツンデレだっ! ていうか、ここは喫茶店なんだから、遊びに来るとこじゃないぞ! ちょっかいかけに来ただけなら、帰った帰った!」

 

 「うひゃあ、冷たい…冷たい対応すぎんよぉチカちー! 臨時とはいえ、喫茶店っつったらJKのたまり場と相場が決まってんじゃん?」

 

 「そんな相場 知るかっ! ……ったく、()べりたいんだったら、六番テーブルが空いてるから、そこ座ってくれ」

 

 「おっけまる!チカちーも、今日のバイト終わったら、ひびきちと一緒にカラオケボックス集合ねー!」

 

 「なぎこまでスナオと一緒で、ひびきのことそう呼んでんのかよっ!……というかここ、カラオケボックスなんてあんのかよっ!?」

 

 そんなやり取りを、鈴鹿御前はじっと眺めてから。

 

 「へぇー。意外と面白いじゃん、この子。気に入ったし! 私の耐久カラオケについてこれるか楽しみじゃん? んじゃ、バイト終わったらメールよろ〜」

 

 「は!? メアド交換なんてしてないけど…、って、お前かスナオっ! なに勝手に人の連絡先 教えてんじゃぁあ!」

 

 

 

 

 

 「あら、思っていたよりも騒がしく賑わってますのね?」

 

 そんな賑わいをみせる入口には、二人の女神も顔を出す。

 

 

 「こういう場所はお嫌いかしら? ルヴィ……女神アストライア?」

 

 「せっかくあなたからお誘いいただいたんですもの。無下にはできませんわ、アムール。あの金星の女神はまだ来てないようですし、(わたくし)のアフタヌーンティーには、ちょうどよい騒がしさですわ」

 

 「それはよかったです。専属の召使いも今回は連れていますので、心置きなくティータイムを過ごせそう。…そうよね、ギルガメッシュ?」

 

 そう口にしたアムールの視線の先には、首輪…もとい赤い布が巻かれた小さい方のギルガメッシュの姿が。

 

 

 「…あの、カレンさん。いつからボクはアナタの召使いになったんですか? 女神の尻に敷かれるとか、割と本気で英雄王の名が(すた)るんですけど……」

 

 「ふふ、あなたの魂に聞いてみればわかりますよ。奇縁もここまで来れば運命。こんなに遊び甲斐(がい)のある……失礼、イジり甲斐(がい)のある環境は中々できあがりません」

 

 「その訂正、なんのフォローにもなってないんですけどォ!?」

 

 

 「いらっしゃい、お客様 何名……げっ、なんでてめぇらまで顔出しに来てんだよ!? 見せもんじゃねぇぞココは!」

 

 「あら、お客に対して挨拶がてらに "げっ" とは、店員の教育がなっていない喫茶店ですこと。いっそ(わたくし)が買収して、性根から叩き直して差し上げようかしら?」

 

 「っ! その言葉を待っていましたよ、女神 アストライア!それに関して、私から良い提案があります…!」

 

 「よせッ! その女の口車には乗るなよ! 悪気がなくてもロクな事にはならねぇのが、目に見えてやがるっ!」

 

 「シャラップ!」

 

 「(いた)ぁ──────!?」

 

 (ムチ)のようにしなる赤い布が、クー・フーリンを襲う。

 

 「これは失礼。今のは "カスハラ" (カスタマーハラスメント)ではありませんので、悪しからず。……愛の鞭は時に残酷なのです」

 

 

 「しかし、そうと決まれば、まずはプランを立てるところからですわね。接客スタッフの見直しからになりますが…」

 

 「でしたら、なおのこと私から良い案があります。"メイド喫茶" …というのですが、なにぶん極秘の日本の常識(ジャパニーズ・カルチャー)。場所を変えてお話ししましょう…?」

 

 そう言って、明らかな悪巧みスマイルを浮かべるカレン。

 

 「あぁ…、ボクもう帰りたい…、ってちょっと待った。あのオレンジの子……、ねぇキミちょっと、わわっ!?」

 

 「ほら行きますよ、ギルガメッシュ。私から半径3メートル離れると自動で縛られるので、ぼーっとしないでください」

 

 「ああ!そんなぁ! せっかくボクの好みの女の子を見つけたと思ったのにィ!」

 

 

 

 

 そしてカウンター席には、

 一匹の珍獣と、一個の珍端末。

 

 

 「フォウ……、ンキュ?」

 

 

 『ぐぬぬ、なんて、なんて愛らしいんだこの(ケモノ)めぇ!カルデアのマスコット枠は、このケータイさんが独占する算段だったと言うのにィ! やはり時代はケモ耳か…! ケータイにもケモ耳を生やす時代なのか……ッ!』

 

 

 「うーん、それはちょっとどうだろうねー。これ以上 キミに珍妙な要素を加えたら、一周まわってアイデンティティを失うよ?」

 

 そんな端末に苦言を呈したのは、同じくカウンター席に座っていたレオナルド・ダ・ヴィンチだった。

 

 「フォウフォウ!」

 

 『ムキーッ! 言葉は理解できないが、"諦めろ" と(たしな)められたのを感じるぞ! かくなる上は、直接この手で始末するしか、あっ、ちょ、アゥ!』

 

 「フォウ! ……フォフォウ、フォウ!」

 

 呆気なく前脚で画面を閉じられ、オモチャのように遊ばれるケータイ氏。

 

 『待て、待ってくれっ! そこは、そこは噛んだらアカンですよっ!? 負けです、負けましたァ!許してください、プリーズッ!!』

 

 

 「あっはは、良かったねフォウ。いいオモチャが見つかって。壊れても気づけば治ってるなんて、こんなに効率の良い遊び道具はないとも。もし遊び飽きたら、調べたいことがあるから、私にも貸してね…?」

 

 

 『うーん、カルデア(ここ)に来るんじゃなかったナ!』

 

 

 

 

 

 そうして、自分──藤丸 立香たちもやって来る。

 

 

 「うわぁ、すごい賑わいだ…!」

 

 「はい、かつてない大盛況です、先輩!」

 

 マシュと二人、その食堂を見渡す。

 

 

 「ふむ。彼女たち、もうすっかり馴染んでいるね。余計な心配だったかな。……私はカウンター席で、ダ・ヴィンチと話してくるとも。それでは、良いアフタヌーンを。マスター・藤丸、ミス・マシュ」

 

 そう言って、ホームズは一足先にカウンター席へと向かう。

 

 

 「うん。ホームズも楽しんで! …よし、それじゃあ、えっと」

 

 「おーい、藤丸!マシュさん! 来てくれたのか!」

 

 食堂の入口で、どこに座ろうかと戸惑っていた自分たちのもとへと、千鍵が接客にやってくる。

 

 

 「千鍵さん!すみませんっ!…本当は千鍵さんたちの歓迎会になる予定だったのに、これでは逆ですよね…!」

 

 

 そう。本来の予定では、逆だったのだ。

 カルデアにやって来た千鍵たち三名を、自分たちが歓迎会というカタチで、おもてなしをする予定だったのだが、頑なに "お礼がしたい" と言うひびきの意見を尊重して、結果として自分たちは、彼女たちに振る舞われる側となってしまったのだった。

 

 

 「いいよいいよ、こっちの方が性にあってるからさ、私たちは。むしろマシュさん達には感謝してるんだ。だから気にせず、この時間を楽しんでって」

 

 「うん、こちらこそありがとう、千鍵」

 

 

 「おーい、後輩ちゃ〜ん! こっちおいでよっ! ガールズトークしようぜー!」

 

 

 向こうのテーブル席で、なぎこさん達が呼んでいた。

 

 「あっ、ど、どうしましょう先輩、お呼ばれしてしまいました…!」

 

 「いいよ、俺のことは気にせずに楽しんできて。俺はホームズたちのカウンター席に行くからさ」

 

 「わかりました! それではまた後ほど、先輩!」

 

 そう言って、マシュを見送る。

 

 

 

 「……と、そうだ。そういえば、藤丸。この前 話したアレ(・・)、やっぱり私の勘違いだった!」

 

 「この前……?」

 

 千鍵の言葉に、思わず目を丸くする。

 

 

 「ほら、前に話しただろ? 第三階層の大浴場前でさ。"うちの店に来たことあるか?" って、話だよ」

 

 千鍵に言われて思い出す。

 そういえば、そんな会話をしたのだった。

 

 「それで、よくよく思い出してみたら、全然違う人だった。…いやぁ、なんで似てると思ったのか、わからないくらい似てなかった。あっはは」

 

 「そっか。……でも、いつかきっと、千鍵たちの店には顔を出すよ。約束する」

 

 そう言って、彼女に笑顔を向ける。

 

 

 

 「おーい、藤丸さーん! いらっしゃーい!」

 

 そんな自分たちのもとへと、ひびきが駆けつける。

 

 「ほらほら、チカちゃん!こんな入口で止まってないで、アレ(・・)しようよ! 藤丸さんが来たらやるって、ちゃんと約束して練習したでしょ?」

 

 

 はて。なんのことだろう。

 

 「あー、はいはい。やりますよ。やればいいんだろっ! ったく、他のヤツらは見てないよな…、」

 

 

 「だいじょうぶ、だいじょうぶっ! 誰も見てないから安心して!…よし、それじゃ行くよ、チカちゃん! …せぇーのっ!」

 

 

 二人は、仲良く手を繋いで。

 

 

 

 「「カルデア出張店に、いらっしゃいませっ!

  ──────アーネンエルベ(・・・・・・・)へようこそ!」」

 

 

 

 

 

 

 /『友遠からじ』-了-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その日は、ちょっと変な日曜日だった。

 

 

 

 「はぁ、今日も今日とて暇だなぁ…」

 

 窓の向こうの穏やかな陽射しを眺めながら、私は誰もいないテーブル席を拭く。

 

 

 今日は珍しくひびきはバイトを休んでおり、この店には自分と店長(マスター)の二人きりだった。

 

 

 

 そんな平穏な午後に。

 

 

 

 ちりんちりん、と。

 入口の扉の呼び鈴の音が響く。

 

 

 

 「いらっしゃいませー、アーネン…って、お客さん、大丈夫ですか!?」

 

 

 私は訪れたお客さんの姿を見て、思わず驚愕してしまった。

 

 

 背丈は高く、長髪を()い、整った顔立ちの男性。

 ここに訪れる多種多様な客たちに比べれば、これといって尖った取り柄のない、どちらかといえば平凡と呼ぶべきひと。

 間違いなく、私の目の方が()えているだけなんだけど。

 

 そんな平凡な男性は、なぜだか頭からバケツをかぶったように、ずぶ濡れ(・・・・)になっていたのだ。

 

 

 「いやぁ、参った参った。急に天候が変わるなんて、ホントにツいてないのかなぁボクは。…すみません、少し雨宿りさせてもらってもいいかな?」

 

 

 「は、はい。大丈夫…ですけど」

 

 先ほど窓から見た空模様は、とても雨が降りそうな気配などなかった。自分の知らぬ間に、天気雨にでもなったのだろうか。

 

 

 そんな彼を、私は窓際の席まで案内する。

 

 

 「あ──────、」

 

 見ると確かに、外の景色は土砂降り。

 窓をたたく雨音が、やかましいほどに響いていた。

 

 

 「あちゃあ、これはしばらく止みそうにないね。すみません、やっぱり何かいただいていくよ」

 

 彼の言葉に頷いて、私はメニュー表を差し出す。

 

 「ありがとう。さて、何をいただこうかな…」

 

 そのメニュー表を(ひら)いた彼は、目を丸くする。

 

 「えぇ!? ここって、"アーネンエルベ" って言うのかい!?」

 

 急に大声を出されたものだから、今度はこっちが目を丸くした。

 

 

 「そう、ですけど。それがなにか…?」

 

 

 「いやぁ、実は前に、知人(・・)に紹介されてね。このお店の紅茶が美味しかったって話を聞かされてたんだよ」

 

 なるほど。知人がここの常連なのか。

 

 「この街にあることは知ってたんだけど、なにぶん久々に訪れたからね。……そうか。ここがその店だったのか。偶然 駆け込んだお店がそこだったなんて、今日はツいてるぞぅ!」

 

 そう言って、彼は先ほどとは正反対のことを口にして喜ぶ。

 

 

 「そうだったんですか。でも、紅茶が美味しかったって言って薦める人は、珍しいですね。…確かにここは紅茶も美味しいけど、どちらかと言えば "パイ" の方が有名ですから」

 

 

 「おや、そうなのかい? じゃあ、紅茶と一緒に、本日のお薦めのオレンジ……いや、チャレンジメニューの "オレンジとヒマワリのミックスパイ" をひとつ!」

 

 彼は子供のように無邪気な笑顔を浮かべて、楽しげにそう注文した。

 

 

 

 しばらくして、店長(マスター)お手製のミックスパイを、彼のもとへと届ける。

 

 

 「うわぁ、これはホントに美味しそうだぁ!」

 

 

 そう言って、もむもむとミックスパイを乱獲する彼の姿に、思わずこちらも気が緩む。

 

 

 「お客さん、この街に来たの、久しぶりって言ってましたよね。地元なんですか?」

 

 そのゆるふわっとした空気感にあてられたのか、それとも単に暇を持て余していたからなのか、私は彼にそんなことを訊ねた。

 

 「うん。まぁそんなとこかな。……実はもう少ししたら、さっき話したこの店を紹介してくれた知人のところに行く予定でね。だから最後に、自分の原点(・・)に、立ち返ってみたい気分だったんだ」

 

 そう言って、彼はどこか遠くを見つめる。

 

 「へぇ。その知人さんのとこって、遠い場所なんですか?」

 

 「うん、遠いぞぉ。すごく遠い。なんてったって、南の末端だ」

 

 

 「は…? もしかして南極(・・)ですか…?」

 

 「うへぇ!? なんでわかったんだい…!?」

 

 いや、南の末端って言われたら、それしか思いつかないけど。

 

 「すまない、これは極秘事項なんだ…! 申し訳ないけど、他言無用で頼むよ…!」

 

 そう言って、顔の前で手を合わせ懇願する彼の姿は、どこか滑稽(こっけい)である。

 

 「別に言いませんよ。そんなの誰も信じてくれなさそうだし。でも、わざわざ南極まで、いったい何をしに行くんですか…?」

 

 

 そんな自分の問いに、彼は僅かに微笑んだ後、紅茶をひと口飲んだ。

 

 

 「……さて。なにをしに行くんだろうね、ホント。いつ起きるかもわからない、誰が起こすかもわからない、そもそも、その理由すらもわからない。そんな予感(・・)のためだけに、ボクは十年もかけた」

 

 

 「十年──────、」

 

 

 「キミもたまに見たりしないかい? 寝覚めの悪い(ユメ)を。……ボクの場合は、それが正夢になってしまう確信があったから、なんとかしたいだけなんだ」

 

 その言葉は、どこか切実だった。

 

 「悪い(ユメ)なら、なおさら逃げ出したくならないんですか…?」

 

 

 「うん、そうだね。逃げ出したくならないよ…って言ったら、嘘になっちゃうんだろうなぁ。でも、"他に代わりはいない" からさ。……だから最後まで。自分にできる、できるかぎりを尽くしたいんだ」

 

 

 その言葉は、なぜか私の頭の中に、強く残った。

 

 

 「───ほんとに。ただそれだけなんだ。」

 

 

 そう言って、照れくさそうに頭を掻きながら微笑む彼の笑顔は、私にはどこか、寂しそうなものにも見えた。

 

 

 

 「あれ……、雨 止んでる……?」

 

 

 ふと窓に目をやると、あの土砂降りのような豪雨は見る影もなく、綺麗な青空が顔をのぞかせていた。

 

 

 

 「──────ああ。今日は本当にツいてる。良い出逢い(・・・・・)に恵まれた一日だったよ。これなら、胸を張って彼に会いに行けそうだ」

 

 

 そう言って、彼は代金をテーブルの上に置く。

 気づけば、紅茶もミックスパイも、綺麗に平らげられていた。

 

 

 「もう、行くんですか……?」

 

 

 「うん。ホントに美味しい紅茶とパイだったとも。……これなら、ボクの友達(・・)も、きっと気に入るだろうね」

 

 

 そんな言葉を口にする。

 

 

 「それって、この店を紹介してくれた人…?」

 

 

 

 「──────いや。

  消えてしまった昨日のために、

  明日へ向かい続ける、愛と希望を担う誰か(・・)さ。」

 

 

 

 

 そうして、彼は店を後にする。

 忘れ物(・・・)など、何一つとしてない。

 

 

 

 この記憶と記録を。

 私と、この喫茶店だけは、ずっと覚えている。

 

 

 

 

 

 『星明かりの迷宮(アーネンエルベ)へようこそ』-完-

 

 




 
 
 
 
 最後までこの作品をお読みいただき、誠にありがとうございました。長々としたお話ではありましたが、この物語を気に入っていただけましたら、作者としては喜ばしいかぎりです。
 
 
 ここから先は、この二次創作に関する最後の小話と補足説明をしていきたいと思います。興味がございましたら、こちらもお読みいただけると幸いです。
 
 
 この物語のテーマは、"隣人愛"。
 自分を愛するのと同じように、隣にいる "誰か" のために命を張れるのか。秘密を抱えていても、相手を信じ続けられるのか。それを問う物語でした。
 当然、この物語は『まほうつかいの箱』ならびに『スターリット・マーマレード』のコラボイベント風シナリオ。
 であれば当然 主人公は、桂木 千鍵ことチカちゃん。
 "大切な人" を信じる気持ちを胸に抱いた彼女と、何も信じられなくなったが故に、自分の箱にすべてを閉じ込めようとしたアーネンエルベとの対比を描くカタチとなりました。
 かなり過酷な状況に陥ったりもしましたが、やはり彼女も型月主人公。いっぺん死ぬ思いをしたら、だいたい吹っ切れる。なのでカッコよく頑張ってもらいました。
 
 ちなみに本二次創作のサブタイトルは、すべて『スターリット・マーマレード』ドラマCD内のトラック名から抜粋してパロっています。二人の宝具名も、番外編からパロってたり… いつもの小ネタですね。
 
 
 
 ・星5 アルターエゴ
  トライテン [桂木 千鍵 & 日比乃 ひびき]
 
 今回の主題となった、二人の少女。桂木 千鍵と日比乃 ひびきです。
 アーネンエルベの暴走を知り、千鍵を守るために、やむなく最奥から第一階層へと飛ばしたひびきは、本人でも自覚していなかった "残り1割" の力をケータイさんに預け、完全に力を失います。この時点で、彼女に残っていたのは、聖典トライテンに芽生えていた "日比乃 ひびき" という人格だけなのでした。
 彼女にできたことは、ただ千鍵の無事を "信じ続けること"。遠く輝くその星を、見つめ続けるしかなかったのです。
 一方、千鍵は第一階層にて目を覚まして以降、途中で合流したケータイさんとともに、藤丸たちカルデアと合流。ホームズや藤丸たちの行動を通して、"誰かのために命を張ること" の意味を学んでいくのでした。
 第一階層のあの場で、千鍵のトライテンの力が覚醒したのは、藤丸が抱いていた "ホームズを信じ続ける心" に感化されたからなのでした。
 結果として彼女も、"日比乃 ひびきを信じ続けられるのか" という状況に立たされ、大切な人を想う気持ちの意味を見つめ直すことになったのです。
 
 ゲーム的な話をすると、聖典トライテンの力を請け負った千鍵は、ひびきと二人で一人のサーヴァントとしてカルデアにやってくるカタチとなります。第一再臨では千鍵 単身。第二再臨ではひびきが単身。第三再臨以降で二人揃うといった霊基グラフの変化になると思います。第三再臨での二人の衣装は、聖典トライテンに寄った白い神秘的な服装になるかと。ただしもちろん霊衣でいつもの喫茶店制服バージョンも付けるよネ!
 宝具の性能も再臨で異なり、第一再臨ではクイック、第二再臨ではバスターカードの全体攻撃宝具(性能はほぼ同じ)。ただし第三再臨では全体アーツのサポート宝具となります。
 
 というのも、彼女たちの宝具、
儚泣く明りよ 星と熟れ(スターリット・シトラス)』ですが、本編ではケース:トライテンを消失させるために使用しましたが、その本来の性能は結界宝具(・・・・)
 聖典トライテンに記されている、"この宇宙で生じるあらゆる神秘" を弾き無効化することができるぶっ壊れ宝具。1ターンの間、無敵と防御力アップ、ダメージカット、弱体無効、強化解除無効を撒くのです。やりすぎ。
 ただし、この宇宙の外側の存在…すなわち "領域外の生命" を保有するモノの攻撃は弾けません。
 アルターエゴクラスではありますが、彼女たちの保有スキルには、フォーリナーへの優位性を持たない代わりに、四騎だけでなく三騎士への優位性を獲得するスキルが備わっていることでしょう。何それバーサーカー?
 
 
 ・千年錠の死徒
 
 少女の願いを受け、その信条を曲げた道化。
 日比乃 ひびきの残った力を引き受けた彼は、第一階層に飛ばされた桂木 千鍵と合流。なんとか魔獣から千鍵を逃がしつつ、次の階層に進まないように道を間違えさせつつ、藤丸たちに合流させた張本人。
 千鍵の "いつもの行為" で、呆気なくあっさりと壊れた彼は、ひびきとの約束を果たすためにその姿をバージョンアップ。スマートフォンになったのは、トライテンの力をその身に宿した結果なのでした。
 それ以降、何度か破壊の危機にあってはいますが、明確に壊れた描写は記しておりません。それもそのはず。最後の最後まで、彼は壊れるわけにはいかなかったのだから。
 たとえその行為が、自身の二千年の理論の答えを知る機会を、無下にするものだとしても。二千年前、当たり前のように抱いていた、あの愛を台無しにすることの方が、彼には美しくなかったのです。
 
 
 ・後日談メンバー
 
 わちゃわちゃとストーム・ボーダーの臨時 食堂にやってきた面々。
 そのほとんどが、千鍵とひびきが共演したアーネンエルベ関係のドラマCDから引っ張ってきた小ネタ集。元ネタが昔 発刊されたTYPE-MOONエースの付録ドラマCDだったりコンプエースの付録ドラマCDだったりします。
 第一節で千鍵が話していた "アーネンエルベで起きた特異点紛いの体験談" も同じくここから引っ張ってきたものです。ゆる〜くやり取りを楽しんでもらえたらいいな、程度の遊び心でした。
 
 
 ・訪れた男
 
 とある日曜日、その喫茶店にやってきた男。
 彼の来訪したタイミングは、カルデアに配属される前。FGO本編の「プロトアーサーの体験クエスト」 シナリオで語られた話と同じ時期だと思っていただければ。彼の発言にあった "良い出逢い" にはこのアーサーのことも含まれています。

 また、"なぜその店を紹介したマリスビリーよりも前の時間軸に、彼は来訪してきてるの?" と疑問に思った方がいらっしゃるかと思うので、少し難しい説明になりますが、書き残しておきますと、これは千鍵がFGO世界に迷い込んだ現象の、逆パターン(・・・・・)と思っていただければ。
 "マリスビリーが来訪して以降のアーネンエルベの時間軸" は、白紙化現象に巻き込まれていますので、新しい来店は発生しません。
 ですが、2017年末までアーネンエルベは存在を確約されていますので、マリスビリーが訪れた時以降に来訪してくる客は全員、世界の辻褄合わせにより、"マリスビリーが来訪してくる以前のアーネンエルベの時間軸" に飛ばされていたわけです。
 
 こちらは余談ですが、マリスビリーと彼を来訪させたのは、型月キャラにおける、この二人の声優の中の人ネタだったりします。
 前者は "幻視同盟"。後者は "未来福音"。…と言って伝わってくれたら嬉しいです。
 あの喫茶店のパイを "食べれていない者" と "食べれた者" なのは、そういう小ネタなのでした。
 
 
 改めまして、こんな作者の願望を込めただけに過ぎない、コラボイベント風二次創作を、最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。
 この作品を機に、『まほうつかいの箱』そして『スターリット・マーマレード』という作品に少しでも興味を抱いていただけたのなら、この上なく嬉しいかぎりです。
 一つだけ作者からお願いがありまして、是非この作品を読了いただけましたら、『まほうつかいの箱』のテーマソングである『シトラス・シリウス』という曲を聴いてほしい…ということです。お時間がありましたら、何卒。
 
 それでは、またいつか。
 文章を通してお会いしましょう。
 
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