超昂大戦SS 翔べルビー、復活へのハイジャンプ! 〜敗北と、記憶を超えて 作:環 藍河
※時系列・ネタバレについては第1話同様です。
(時間軸は原作第1部第3章、内容は第1部第6章までの内容が含まれます)
「どお〜? もう痛くないはずだけど〜?」
ダイビート本部の救護室で、右脚に大ダメージを受けたエスカ・ルビーを治療するのは、新参の地上神騎・ユユエル。
つい先日、天上神騎を率いる天使長アズエルが放った魔力を受け、覚醒してダイビートに合流したばかりだ。
「は…はいっ、嘘みたいです! ユユエルさん、ありがとうございました!」
現代医学ではなし得ない、神騎の力による回復は凄まじく、ルビーの右脚は出撃前の状態そのまままで整復されていた。
「ルビーちゃん。医学的にはあなたの右脚は、完全に元通りよ〜。だから、自信を持って動かしていいわん。これからも頑張ってね〜」
「そうそう。変身中はD2エナジーで防御力も飛躍的に伸びるし、それに、ディフェンスだけじゃないよっ! 攻撃と同時に脚も強化されるアルゴリズムを組んでるから、原理上、ルビーがどんなにパワーアップしても、自分の技で自分を壊すこともあり得ないんだから! どーんと行っちゃえ!」
ユユエルの激励に、様子を見に来たダイビート技術顧問・高円寺さやかも太鼓判を加える。
「あはは…大げさに騒いですみませんでした。」
救護室を後にするルビーを見送る二人。
(…でもね…)
ユユエルが目を伏せ、心配そうにルビーを思う。
(技を破られたのも、脚を壊されたのも事実なのよね…。自信を取り戻して、全力でまた戦えるかは、ルビーちゃん次第だわ…。)
…
……
ユユエルからは、日常生活全般で一切の禁止事項は無いと言われていたが、今日は湯船には浸からずシャワーだけにし、右脚は拭くだけに留めて、ベッドに身体を預ける。
(…忘れたつもり、振り切ったつもり、だったのに…。
やっぱり、消えてないんだ。心の奥では…。)
胸のざわめきを必死に押さえて、アカリはしばし、眠りにつく。
…
……
夜明け前。
誰もいないことを確かめ、第2トレーニングルームへ入るアカリは、ウォームアップもほどほどに、サンドバッグの前に立つ。
「はああっ!」
ばしばしっ、どがっ!
右から左のコンビネーションパンチから、左のハイキック。右脚を軸足にしての攻撃は大丈夫のようだ。
「…やああっ!」
どすっ。
決意を込めて放つ、右のハイキック。
だが、威力は直前の左ハイキックに、到底及ばない。
(…ダメだ、こんな弱気な蹴りじゃ…!)
「はああっ、やあっ、だああっ!」
どすっ、ぼすっ、ばすっ。
自分に活を入れて放つ、3連の右ハイキック。
だが、そのどれもがためらいを残す。到底、サンドバッグを撃ち抜く威力とは呼べない。
(はあっ、はあっ、はあっ…!)
ままならない自分の心に、焦りが浮かぶ。
思い立ったアカリは、隣接する第1トレーニングルームに移動する。
「フラックスプロージョン・ビートチェンジ!」
真紅の閃光に包まれ、アカリはエスカ・ルビーに変身する。
昨日引き裂かれたボディのレオタードも、打ち砕かれた右脚のブーツも、すっかり元通りであった。
(変身すれば防御力が上がる…さやかさんの言う通りなら、これで大丈夫…!)
サンドバッグでは超昂戦士の激しい攻撃に耐えられないため、場所を移して蹴撃を試す。端末を操作し、人型の強化ターゲットを配置して、正対して構える。
「…っ!」
だが、ルビーは動けない。
ユユエルとさやかのお墨付きでも、本当にこの脚は前のように耐えきれるのか。
もし、治りかけのこの足が、ルビーの防御力を上乗せしても、自分のキックに耐えられなかったら。
また、この脚を壊してしまったら。
…怖い。
戦えなくなることが。自分の不甲斐なさが。
どんなに怖くても痛くても、戦い抜いてみんなを護るんだって決めたのに。
自分の右脚なんて、壊れたって構わないのに。
頭でわかっている信念に、心が応えてくれない。
どうして…!
(はあっ、はあっ、はあっ…)
…にじむ汗をぬぐうことも忘れ、荒れる呼吸をなだめ、ルビーはターゲットをじっと見据え続ける。
…やがて、決意を込めて。
数度、右脚で素振りし、狙いを定め。
深呼吸を一つ、二つ。
「…やあああーーーっっ!!」
自分の弱さを振り切るための雄叫びを振り絞り、ルビーは懸命に右脚を振り抜く。
どがっ!
蹴撃はターゲット人形を捉え、撃ち抜いた。
破壊力は、昨日までと同じ手応えがあった。
右脚の負傷跡も、痛みも違和感も、無い。
(…よかった。私…これで、戦える。)
深く息を吐き、ルビーは安堵した。
今日はここまでにして、出撃命令を待とう。
そう思い、出口に向かうルビー。
だが。
「ルビー! そんなやけばちなキックで、敵が倒せるものか! 甘く見るな!」
「ヒ…ヒビキちゃん!?」
朝の鍛錬に向かおうとして、トレーニングルームの気配に気づいたヒビキが、ルビーのためらいと妥協を全部見ていた。
「フラックスプロージョン・ビートチェンジ!」
眩しい青の光に包まれ、ヒビキはエスカ・サファイアに変身。
「ルビー、今のお前じゃ戦えない! 私がそれを教えてやる! 行くぞっ!」
「えっ…、わっ、わわっ!?」
駆け出すサファイアが、ルビーを急襲する。
「はああっ!」
しゅっ、しゅっ、がしっ。
「うわっ!…くっ…」
サファイアの拳の連撃をガードするルビー。
「やあっ!」
どすっ。
「ぐっ…ああっ!」
続けざまに、本命の鋭い左ローキックが、ルビーの右足首を真横からパルシオンごと撃ち据える。
拳の連撃は、このためのフェイントだった。
「くっ…ううっ…」
「わかるかルビー! もう次から敵は、お前の右脚を、執拗に狙って来る! ウィークポイントを克服できないまま戦場に立とうとするお前は、無駄死にを選んでいるに等しいんだ!」
「わ…私、もう大丈夫だよっ! これくらいのキックで…!」
「はっ!」
サファイアの次なる一撃は、パンチでもキックでもなく。
集中を欠いたルビーの真横に廻り込み、重心が乗った左脚を右の足払いで刈り取る。
「きゃ…わあっ!」
軸足を飛ばされて仰向けに崩れ落ちるルビーを、サファイアは逃さない。足払いの低い姿勢のまま、狙いはもちろん。
がしっ。
「あ…あああーーーーっ!!!」
ルビーの右足首を両手でがっちり捕まえるサファイア。そのまま引き込み、ルビーの右脚全体を蜘蛛絡みのように両足でぎしっと締め上げる。
「ひっ…いやっ…!」
トゥーホールドからの、レッグロック。
上体を起こして逃れようとするルビーを、サファイアは右脚を揺さぶってバランスを崩し、さらに右脚をねじって逆にルビーの上体をひねり落とす。
「うぐうっ…! …あっ、あーーーーーっ!!」
遂にうつ伏せにされ、上体と左頬を冷たい地面に押し付けられるルビー。
その背面越しに、サファイアは完全にルビーの右脚を掌握してしまった。
相手も…サファイアも、自分と同じパワーを持つ超昂戦士。
このまま足首をねじりあげて壊すも、
足首から向こうずねごと横に曲げ、膝を壊すも、
太ももごと開脚させ、股関節を壊すも、
全てがサファイアの思うがまま。
うつ伏せでエビ反りになったルビーには、次のサファイアの技が見えない。
それが悲観を増幅させ、ルビーの心をへし折る。
ぐぐっ。
サファイアがルビーの脚に力を入れた瞬間。
「やめてええっ! もうダメええっ!!」
遂に屈服の証を叫び、ルビーは抵抗を諦めた。
…
……
「ううっ…、……〜〜っっ!!」
うつ伏せのまま、ルビーは肩を震わせ、声を殺して泣く。
「ルビー…お前、以前にも足を怪我しているだろう?」
「……うん。交通事故で…。」
サファイアは、それで全てを察した。
入院治療とリハビリの、辛く痛く苦しく、希望の見えない日々。
その経験がルビーの心の深層を苛み、新たな足の怪我を極端に怖れさせるのだろう。
サファイアはルビーの身体を起こし、たしなめるように真っ直ぐルビーに告げる。
「…ルビー、もう一度言う。
今のお前では戦場に出せない。
そのトラウマを克服して、脚を攻められても跳ね返せるようになるまで、エスカ・ペアは解消だ。」
「えっ…!」
「若頭領も同じ考えのはずだ。今は待機して、心を鍛えろ。」
出動、できない。
「あ…ああっ…!」
突きつけられた現実を受け止めきれず、その場でへたり込み呆然自失となるルビー。
(ルビー…待っているからな…!)
喉まで出かかった言葉を飲み込み、敢えてルビーを突き放すサファイアは、無言で去る。
ルビーは再び戦場に立ち、人類の希望を繋ぐことができるのだろうか。
それとも希望の輝きは、このまま潰えてしまうのか…!
作者の環です。2夜連続で第2話をお届けします。
今回のルビーVSサファイア、いかがでしょうか?
環のSSでは超昂戦士どうしのバトルは、こちらが第3弾となります。
ルビーVSアメイズ(真の仲間になれないエスカチームのお嬢様は~)
ルビーVSエスカレイヤー(眠れルビー、愛する人の腕の中で)
お気に召しましたら、既作もご愛顧賜りますれば幸いです。
#ルビーVSトパーズは…原作でいっぱい既出なので(汗)
おおむね明晩をめやすに第3話、そして週末に完結第4話までお送りできるよう、鋭意執筆中です。それではまた。