リコリスマイスター 刹那   作:水が死んでる

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模擬戦だからスペシャルな人が頭をよぎりましたが、出しませんでした。
残念。


09 勧誘

千束と別れたきなを追いかけた刹那。

訓練場どころか、DA本部内をまともに歩いたことが無い刹那は、途中でたきなの姿を見失った。

すれ違ったリコリスに訓練場の場所を尋ねると、そのたびに刹那の着ている服の色を聞かれ、刹那はかなりの時間を取られた。

 

「...ここか」

 

ようやくたどり着いた時には、たきなは既に射撃を行っているところだった。

 

後ろ姿からはたきながどう思っているかなどはわからず、刹那は入り口でただその姿を見ているだけだった。

 

「ちょっと、邪魔っすよ」

 

「ああ、すまない」

 

入り口で突っ立っていたのが邪魔だったのか、後ろから苛立ちを含めた声が刹那に届いた。

素直に横によけてみれば、そこを黒服が通っていく。

 

「セカンドか」

 

思わず刹那がそう呟くと、耳ざとく彼女は振り返った。

 

「なんすか、文句あんすか?」

 

「いや、何もない」

 

刹那はそれだけ言うと、彼女から視線を外し、たきなの方を向く。

彼女も、これ以上は無駄だと察したのか、顔を前に戻して歩き始めた。

 

彼女も訓練に来たのだろうか、と思うと、五番のレーンへと向かった。

 

...たきなが銃を撃っているレーンだ。

 

「ふぅ...」

 

ちょうどたきなが一通り打ち終わったとき、後ろから彼女が声をかける。

 

「へぇ~。ヤバいっすね」

 

射撃ポジションまで寄せられたターゲットパネルは、胴体の中心部に近ければ近いほど数字が高い。

だが、たきなが撃ったのはその中心部ではなく、すべて頭に命中していた。

 

刹那も射撃には一定の命中率があると自負しているが、あそこまでの命中率は保っていない。

それこそ、実弾を使った千束でも難しいかもしれない。

 

「...?」

 

「ど~も~っす。乙女サクラっす」

 

右手を顔の横に挙げて、彼女はそう気安く自己紹介をした。

そして、そのまま右手をたきなの方に差し出す。

 

握手だ、と理解したたきなはその手を握り返すと、サクラは握ったその手を強く握り、軽薄に尋ねた。

 

「命令無視した挙句、仲間にぶっ放したって本当っすか?」

 

「あっ...」

 

友好的な握手ではない。

そう理解したたきなはサクラの手を乱雑に振りほどき、顔を背けた。

 

「おお、マジなんすね~」

 

「違う、私は...」

 

そうして、サクラがたきなを意地悪く責める中で、刹那はただ壁に寄りかかって、その光景を見ていた。

というのも、これは彼女が解決する問題だ、と刹那は思っている。

 

いつでも誰かが助けてくれるわけではない。

 

ただ、このことを知った千束には、後から何か言われるだろうな、とも思っていた。

 

「まぁ、安心してくださいよ。先輩が抜けた穴は、後任の私がしっかり埋めますから」

 

「...後任?」

 

「あれ、聞いてなかったんすか?」

 

たきなが後任の話を聞いていなかったことを知ると、サクラは意地の悪い顔を浮かべて、たきなを薄目で見た。

 

「自分がこれからフキさんのパートナーを務めるっす」

 

「な...」

 

「あんたの席はもうないっすよ」

 

と、そこで赤服の少女が割り込んだ。

千束だ。

 

千束はサクラの襟をつかみ、前傾姿勢から元の位置に戻す。

 

「ちょっと。黙れ小僧」

 

「あんた誰っすか?」

 

千束が軽くサクラを睨み、たきなは先ほど言われたことを思い返している中で、刹那の隣にもう一人の赤服が立った。

 

「そいつが千束だ」

 

フキだ。

その後ろには楠木と、秘書の女性もいる。

 

ここまで人が集まると、自分はこうも静観していられないかもしれない。

そう思い、刹那も千束たちの方へと足を進める。

 

と、そこでアナウンスが鳴り響いた。

 

『刹那・F・セイエイさん。受付へとお越しください』

 

「...」

 

恐らく、青服として活動していく中で、DA本部内を歩くことのなかった刹那への配慮だろう。

メンテナンスをするためにどこそこへ行けと言われても、刹那は通りすがりのリコリスに尋ねて、また時間を取られる予感しかしていなかった。

 

この場は千束が何とかするだろう。

そう思った刹那は、たきなに一言だけ告げようと近づく。

 

「たきな」

 

「...?」

 

「破壊の中から生み出せるものはある。これまでの固定概念を破壊しろ」

 

「...? 一体どういう」

 

刹那はそれだけ言うと、たきなの返答は聞かずにそのまま外へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受付へと何とか戻ってきた刹那は、職員によって、部屋へと通されていた。

一見するとただの診察室だが、一般的のものとは違う点が一つ。

 

「...手術台、か」

 

視線を左にずらすと、手術台が置かれている。

この場で、胸を切り開いたりするのだろうか。

 

「待たせたわね」

 

しばらく待つこと数分。

奥の扉から、黒髪ロングで、くせっけのある女性が出てきた。

白衣をきちんとは着ておらあず。閉めるべき前は開きっぱなしだし、胸元も窮屈なのか開いている。

 

「メンテナンス、というのは?」

 

「それは嘘。今回は、あなたに話があって呼んだの」

 

「...他の誰にも探られたくない、という話か」

 

「ええ」

 

どうやら、秘密の話、というわけだ。

秘密の集合体のようなDA本部の中で、さらに秘密の話だ。

 

一体何の話をする気なんだ、と刹那が集中していると、刹那の予想を超えることを言い放った。

 

「単刀直入に言います。貴女、DAを裏切って、こちらにつくつもりはない?」

 

「...!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『繰り返します。一四○○(ヒトヨンマルマル)より、状況演習を開始します。リコリス各員は、当該時間までにキルハウスブースに集合してください』

 

アナウンスの声が鳴り響く。

それでも刹那は、その場を動けなかった。

 

先ほどの女性からの声が、頭から離れて消えない。

 

『私たちは、紛争根絶を目的とした集団よ』

 

『紛争根絶だというのならば、お前たちがいるべき場所は日本ではないだろう』

 

『今は、ね。ただこれからのことを考えるのなら、ここにいるべきなの』

 

『...DAによる情報規制が限界を迎えるとでもいうのか』

 

『その通りよ』

 

DAを裏切る。

それはつまり、千束のことも、たきなのことも裏切るということだ。

刹那には目的がある。

 

だが、今あるものを壊してまですることなのだろうか。

 

「...私は...」

 

刹那は、渡された名刺を見て、一人廊下を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たきな。今は次に進むとき』

 

ベンチに座るたきなは、先ほどの千束の言葉を思い返す。

次。次など、あるのだろうか。

 

(ここに来ることが全てだった、私の夢だった。だけど、ここに私の居場所はない。私に、次なんて)

 

それでも、千束の嬉しそうなあの笑顔が、頭から離れない。

彼女はやりたいこと最優先で生きている。

ならば、と、たきなは俯いていた顔を上げる。

 

『失うことで得られるものもあるって』

 

「失うことで、得られるもの...」

 

『破壊の中から生み出せるものはある』

 

「破壊の中から...」

 

そうして、たきなは素早く立ち上がり、どこかへと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キルハウスにて。

既にフキとサクラのペアは、千束一人に苦しい状況へと追い込まれていた。

サクラは千束に銃を奪われており、人数有利を生かせない状況だ。

 

とはいえ、フキからしてみれば、これも予想できた展開。

千束の力をいやというほど知っているからこそ、わかるものもある。

 

とはいえ、わかるからどうだ、という考えもあるのだが。

 

「闇雲に撃ってもヤツには当たらない」

 

フキがそういうと、彼女のパートナーであるサクラは自身の腕をバカにされたと勘違いし、鼻息荒く反論してくる。

 

「射撃には自信あるっす!」

 

「だから余計にダメなんだよ!」

 

それにかぶせるようにして、フキは否定する。

 

サクラの射撃の良さは、たきなに及ばずとも確かに良い。

だが、それがかえってあだとなる。

 

千束の武器は卓越した洞察力。それにより、相手の射線と射撃タイミングを見抜く。

射撃の腕が良ければ良いほど、千束からしてみれば予測しやすくよけやすいのだ。

それを説明しようとした瞬間、千束の陽気な声が響いた。

 

「忘れものですよ~」

 

床をすべるようにして飛んできたのは、先ほど奪われたサクラの銃だ。

 

バカにされている。

そう確信したサクラは、銃をすぐさま拾い、千束へと発砲する。

 

「やめろ、サクラ!」

 

フキの注意も無視して連発するも、どれも当たらない。

外しているわけではない。この距離なら、一発も外さない自信がサクラにはある。

だが、それらが一発も当たらないというのは。

 

(よ、よけてる...!?)

 

気付けば、銃は弾切れ。

その瞬間千束は素早く懐へと踏み込み、サクラの銃を持っている手を引っ張る。

そしてそのまま銃を奪い、蹴りでサクラの体制を崩し、隣に隠れているフキへ牽制。

 

「ぐはっ」

 

「くそっ」

 

言わんこっちゃない、と言いたげにフキは影へ隠れ、その間に千束はサクラへと詰める。

何とか立ち上がり、グレネードを構えようとしていたサクラの手を払い、すぐさまマガジンを替え、三発。

 

この瞬間サクラは脱落したが、それでも千束はやろうとフキが千束の後ろをとった瞬間、さらに後方から叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「うおお~!!」

 

「なっ!?」

 

声の主、たきなはその勢いのまま拳を振り上げ、フキの左頬を強かに打ち抜いた。

 

そのまま前転し、自前の銃を抜き狙いを定める。

その間には千束が立っているが、たきなはお構いなしに引き金を引き、千束はそれに応えるかのようによけた。

 

「ぐっ」

 

弾は、千束の脇を抜け、フキの頭へ。

その衝撃のまま尻もちをついたフキに、さらに四発。

 

「...くっそ!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ここまで全力疾走だったのに加え、銃を撃つときは狙い定めるために息を止める。

たきなの息は荒くなっていた。

だが、そんな様子のたきなを見て、千束は咲くような笑顔を浮かべるのだった。

 

「やるじゃん」

 

「ええ、まあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦を終えた夕暮れ時。

既に観戦をしていたリコリスは解散し、その場にはたきなだけ。

あとは、先ほど車が来たと呼んでいた千束と、刹那の元へと向かうだけ、といったところで、フキが声をかけてきた。

 

「お前、模擬戦なんだぞ。後ろから撃てばよかったんだ」

 

たきなは、確かに、と心の中で頷きながら、フキの話に耳を傾ける。

 

「それを突っ込んできて殴るなんてバカげてる」

 

それも確かに、と思いつつ、たきなはフキの方へ向き、笑みを浮かべた。

 

「これでお相子ですね」

 

「...ちっ」

 

そう舌打ちするフキの頬は、赤く腫れあがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けが綺麗な景色の中、三人は赤い電車に乗り移動していた。

たきなは窓側に座り、外の景色を見ており、千束はその隣で自身の手を見ている。

 

刹那はその正面に座り、狸寝入りだ。

 

「たきなさ~」

 

「なんです?」

 

千束は、行きで食べ損ねた飴を取り出しながら、半ば確信めいたことをたきなに問いかける。

 

「私を狙って撃っただろ」

 

あの時、たきなの目は撃つ直前まで、千束の目を見つめていた。

『あなたならば、よけられるだろう?』と言わんばかりに。

 

そう思い返しながら飴をたきなの方に差し出すと、顔は向けずに飴を取り、千束のいうことを肯定した。

 

「きっとよけると思いましたから」

 

「おお~」

 

心が通じ合ってきた証拠だろうか、と千束が少し感慨深くなっていると、たきなが飴を口に含みながら言う。

 

「...非常識な人ですよ。千束も」

 

非常識な人。非常識と来たか。

 

だが、それも良い方向だろう。

 

「でも、スカッとしたな」

 

そう千束が少し笑いながら言うと、たきながこちらに振り返り。

 

「ええ」

 

それはもう良い顔でそういった。

 

と、そこで千束のスマホがメッセージ音を鳴り響かせる。

なんだなんだと取り出してみると、そこには『ボドゲ会延長戦中! 間に合いそうなら連絡PLZZZ!』と書かれていた。

 

「お、見てみ」

 

「ん?」

 

「どうする~?」

 

たきなは数瞬黙った後、にやりとして口を開いた。

 

「行きましょう」

 

「そうこなくっちゃ」

 

「そこで寝ている刹那も連れて行きましょう」

 

「前にたきなが来るなら、って言ってたからね。逃げ場はないよ~。ウヒヒヒッ」

 

今更ながら、刹那は狸寝入りをやめておけばよかったと後悔していた。

 

と、そこで千束が立ち上がる。

 

「そうだ、写真撮ろう撮ろう!」

 

「...では、寝ている刹那を間にして撮りましょうか」

 

「そりゃ名案だ!」

 

そして、寝ている刹那の体を席の真ん中にずらし、刹那の右側に千束、左側にたきなが座り、千束が内カメラを構えた。

 

「そんじゃ撮るよ~。さん、にぃ、いち!」

 

シャッター音が響き、千束は撮れた写真を確認するべくアプリを起動した。

その写真には、ぎこちないピースを浮かべるたきな。

薄く微笑む刹那。

そして、刹那とたきなの間にピースを挟み込んだ千束の写真が綺麗に写っていた。

 

...刹那の目が開かれている。

 

「おー、綺麗に撮れて...」

 

「そうです、ね...」

 

二人が違和感を感じて刹那の方を見ると、刹那は既に目を開いてこちらを見つめていた。

 

先ほどまで寝ていたのでは。というか、刹那が笑っているところを見るのは珍しいのでは。

 

いろいろと思うところはあったが、千束は笑みを漏らすと、写真を送信した。

 

「『三人で行くぜ!』、と。それじゃあ、今日は元気にボドゲ大会参加するぞ~!」

 

「いえ、その前に、刹那はいつから起きて...」

 

「些細なことだ。気にするな」

 

「いえ気にするなってそんなの」

 

「まーまー! 私たちの仲が深まったんだし、それでいいじゃん!」

 

「よくありません!」

 

 




ストックなくなりました。
わろた。

二十一時更新には間に合わないかもですが、毎日更新は続けたいと思います。
一日でもあくとやらなくなっちゃいそうだからね
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