残念。
千束と別れたきなを追いかけた刹那。
訓練場どころか、DA本部内をまともに歩いたことが無い刹那は、途中でたきなの姿を見失った。
すれ違ったリコリスに訓練場の場所を尋ねると、そのたびに刹那の着ている服の色を聞かれ、刹那はかなりの時間を取られた。
「...ここか」
ようやくたどり着いた時には、たきなは既に射撃を行っているところだった。
後ろ姿からはたきながどう思っているかなどはわからず、刹那は入り口でただその姿を見ているだけだった。
「ちょっと、邪魔っすよ」
「ああ、すまない」
入り口で突っ立っていたのが邪魔だったのか、後ろから苛立ちを含めた声が刹那に届いた。
素直に横によけてみれば、そこを黒服が通っていく。
「セカンドか」
思わず刹那がそう呟くと、耳ざとく彼女は振り返った。
「なんすか、文句あんすか?」
「いや、何もない」
刹那はそれだけ言うと、彼女から視線を外し、たきなの方を向く。
彼女も、これ以上は無駄だと察したのか、顔を前に戻して歩き始めた。
彼女も訓練に来たのだろうか、と思うと、五番のレーンへと向かった。
...たきなが銃を撃っているレーンだ。
「ふぅ...」
ちょうどたきなが一通り打ち終わったとき、後ろから彼女が声をかける。
「へぇ~。ヤバいっすね」
射撃ポジションまで寄せられたターゲットパネルは、胴体の中心部に近ければ近いほど数字が高い。
だが、たきなが撃ったのはその中心部ではなく、すべて頭に命中していた。
刹那も射撃には一定の命中率があると自負しているが、あそこまでの命中率は保っていない。
それこそ、実弾を使った千束でも難しいかもしれない。
「...?」
「ど~も~っす。乙女サクラっす」
右手を顔の横に挙げて、彼女はそう気安く自己紹介をした。
そして、そのまま右手をたきなの方に差し出す。
握手だ、と理解したたきなはその手を握り返すと、サクラは握ったその手を強く握り、軽薄に尋ねた。
「命令無視した挙句、仲間にぶっ放したって本当っすか?」
「あっ...」
友好的な握手ではない。
そう理解したたきなはサクラの手を乱雑に振りほどき、顔を背けた。
「おお、マジなんすね~」
「違う、私は...」
そうして、サクラがたきなを意地悪く責める中で、刹那はただ壁に寄りかかって、その光景を見ていた。
というのも、これは彼女が解決する問題だ、と刹那は思っている。
いつでも誰かが助けてくれるわけではない。
ただ、このことを知った千束には、後から何か言われるだろうな、とも思っていた。
「まぁ、安心してくださいよ。先輩が抜けた穴は、後任の私がしっかり埋めますから」
「...後任?」
「あれ、聞いてなかったんすか?」
たきなが後任の話を聞いていなかったことを知ると、サクラは意地の悪い顔を浮かべて、たきなを薄目で見た。
「自分がこれからフキさんのパートナーを務めるっす」
「な...」
「あんたの席はもうないっすよ」
と、そこで赤服の少女が割り込んだ。
千束だ。
千束はサクラの襟をつかみ、前傾姿勢から元の位置に戻す。
「ちょっと。黙れ小僧」
「あんた誰っすか?」
千束が軽くサクラを睨み、たきなは先ほど言われたことを思い返している中で、刹那の隣にもう一人の赤服が立った。
「そいつが千束だ」
フキだ。
その後ろには楠木と、秘書の女性もいる。
ここまで人が集まると、自分はこうも静観していられないかもしれない。
そう思い、刹那も千束たちの方へと足を進める。
と、そこでアナウンスが鳴り響いた。
『刹那・F・セイエイさん。受付へとお越しください』
「...」
恐らく、青服として活動していく中で、DA本部内を歩くことのなかった刹那への配慮だろう。
メンテナンスをするためにどこそこへ行けと言われても、刹那は通りすがりのリコリスに尋ねて、また時間を取られる予感しかしていなかった。
この場は千束が何とかするだろう。
そう思った刹那は、たきなに一言だけ告げようと近づく。
「たきな」
「...?」
「破壊の中から生み出せるものはある。これまでの固定概念を破壊しろ」
「...? 一体どういう」
刹那はそれだけ言うと、たきなの返答は聞かずにそのまま外へと出て行った。
受付へと何とか戻ってきた刹那は、職員によって、部屋へと通されていた。
一見するとただの診察室だが、一般的のものとは違う点が一つ。
「...手術台、か」
視線を左にずらすと、手術台が置かれている。
この場で、胸を切り開いたりするのだろうか。
「待たせたわね」
しばらく待つこと数分。
奥の扉から、黒髪ロングで、くせっけのある女性が出てきた。
白衣をきちんとは着ておらあず。閉めるべき前は開きっぱなしだし、胸元も窮屈なのか開いている。
「メンテナンス、というのは?」
「それは嘘。今回は、あなたに話があって呼んだの」
「...他の誰にも探られたくない、という話か」
「ええ」
どうやら、秘密の話、というわけだ。
秘密の集合体のようなDA本部の中で、さらに秘密の話だ。
一体何の話をする気なんだ、と刹那が集中していると、刹那の予想を超えることを言い放った。
「単刀直入に言います。貴女、DAを裏切って、こちらにつくつもりはない?」
「...!?」
『繰り返します。
アナウンスの声が鳴り響く。
それでも刹那は、その場を動けなかった。
先ほどの女性からの声が、頭から離れて消えない。
『私たちは、紛争根絶を目的とした集団よ』
『紛争根絶だというのならば、お前たちがいるべき場所は日本ではないだろう』
『今は、ね。ただこれからのことを考えるのなら、ここにいるべきなの』
『...DAによる情報規制が限界を迎えるとでもいうのか』
『その通りよ』
DAを裏切る。
それはつまり、千束のことも、たきなのことも裏切るということだ。
刹那には目的がある。
だが、今あるものを壊してまですることなのだろうか。
「...私は...」
刹那は、渡された名刺を見て、一人廊下を歩いていく。
『たきな。今は次に進むとき』
ベンチに座るたきなは、先ほどの千束の言葉を思い返す。
次。次など、あるのだろうか。
(ここに来ることが全てだった、私の夢だった。だけど、ここに私の居場所はない。私に、次なんて)
それでも、千束の嬉しそうなあの笑顔が、頭から離れない。
彼女はやりたいこと最優先で生きている。
ならば、と、たきなは俯いていた顔を上げる。
『失うことで得られるものもあるって』
「失うことで、得られるもの...」
『破壊の中から生み出せるものはある』
「破壊の中から...」
そうして、たきなは素早く立ち上がり、どこかへと走り出した。
キルハウスにて。
既にフキとサクラのペアは、千束一人に苦しい状況へと追い込まれていた。
サクラは千束に銃を奪われており、人数有利を生かせない状況だ。
とはいえ、フキからしてみれば、これも予想できた展開。
千束の力をいやというほど知っているからこそ、わかるものもある。
とはいえ、わかるからどうだ、という考えもあるのだが。
「闇雲に撃ってもヤツには当たらない」
フキがそういうと、彼女のパートナーであるサクラは自身の腕をバカにされたと勘違いし、鼻息荒く反論してくる。
「射撃には自信あるっす!」
「だから余計にダメなんだよ!」
それにかぶせるようにして、フキは否定する。
サクラの射撃の良さは、たきなに及ばずとも確かに良い。
だが、それがかえってあだとなる。
千束の武器は卓越した洞察力。それにより、相手の射線と射撃タイミングを見抜く。
射撃の腕が良ければ良いほど、千束からしてみれば予測しやすくよけやすいのだ。
それを説明しようとした瞬間、千束の陽気な声が響いた。
「忘れものですよ~」
床をすべるようにして飛んできたのは、先ほど奪われたサクラの銃だ。
バカにされている。
そう確信したサクラは、銃をすぐさま拾い、千束へと発砲する。
「やめろ、サクラ!」
フキの注意も無視して連発するも、どれも当たらない。
外しているわけではない。この距離なら、一発も外さない自信がサクラにはある。
だが、それらが一発も当たらないというのは。
(よ、よけてる...!?)
気付けば、銃は弾切れ。
その瞬間千束は素早く懐へと踏み込み、サクラの銃を持っている手を引っ張る。
そしてそのまま銃を奪い、蹴りでサクラの体制を崩し、隣に隠れているフキへ牽制。
「ぐはっ」
「くそっ」
言わんこっちゃない、と言いたげにフキは影へ隠れ、その間に千束はサクラへと詰める。
何とか立ち上がり、グレネードを構えようとしていたサクラの手を払い、すぐさまマガジンを替え、三発。
この瞬間サクラは脱落したが、それでも千束はやろうとフキが千束の後ろをとった瞬間、さらに後方から叫ぶ声が聞こえてきた。
「うおお~!!」
「なっ!?」
声の主、たきなはその勢いのまま拳を振り上げ、フキの左頬を強かに打ち抜いた。
そのまま前転し、自前の銃を抜き狙いを定める。
その間には千束が立っているが、たきなはお構いなしに引き金を引き、千束はそれに応えるかのようによけた。
「ぐっ」
弾は、千束の脇を抜け、フキの頭へ。
その衝撃のまま尻もちをついたフキに、さらに四発。
「...くっそ!」
「はぁ、はぁ、はぁ」
ここまで全力疾走だったのに加え、銃を撃つときは狙い定めるために息を止める。
たきなの息は荒くなっていた。
だが、そんな様子のたきなを見て、千束は咲くような笑顔を浮かべるのだった。
「やるじゃん」
「ええ、まあ」
模擬戦を終えた夕暮れ時。
既に観戦をしていたリコリスは解散し、その場にはたきなだけ。
あとは、先ほど車が来たと呼んでいた千束と、刹那の元へと向かうだけ、といったところで、フキが声をかけてきた。
「お前、模擬戦なんだぞ。後ろから撃てばよかったんだ」
たきなは、確かに、と心の中で頷きながら、フキの話に耳を傾ける。
「それを突っ込んできて殴るなんてバカげてる」
それも確かに、と思いつつ、たきなはフキの方へ向き、笑みを浮かべた。
「これでお相子ですね」
「...ちっ」
そう舌打ちするフキの頬は、赤く腫れあがっていた。
夕焼けが綺麗な景色の中、三人は赤い電車に乗り移動していた。
たきなは窓側に座り、外の景色を見ており、千束はその隣で自身の手を見ている。
刹那はその正面に座り、狸寝入りだ。
「たきなさ~」
「なんです?」
千束は、行きで食べ損ねた飴を取り出しながら、半ば確信めいたことをたきなに問いかける。
「私を狙って撃っただろ」
あの時、たきなの目は撃つ直前まで、千束の目を見つめていた。
『あなたならば、よけられるだろう?』と言わんばかりに。
そう思い返しながら飴をたきなの方に差し出すと、顔は向けずに飴を取り、千束のいうことを肯定した。
「きっとよけると思いましたから」
「おお~」
心が通じ合ってきた証拠だろうか、と千束が少し感慨深くなっていると、たきなが飴を口に含みながら言う。
「...非常識な人ですよ。千束も」
非常識な人。非常識と来たか。
だが、それも良い方向だろう。
「でも、スカッとしたな」
そう千束が少し笑いながら言うと、たきながこちらに振り返り。
「ええ」
それはもう良い顔でそういった。
と、そこで千束のスマホがメッセージ音を鳴り響かせる。
なんだなんだと取り出してみると、そこには『ボドゲ会延長戦中! 間に合いそうなら連絡PLZZZ!』と書かれていた。
「お、見てみ」
「ん?」
「どうする~?」
たきなは数瞬黙った後、にやりとして口を開いた。
「行きましょう」
「そうこなくっちゃ」
「そこで寝ている刹那も連れて行きましょう」
「前にたきなが来るなら、って言ってたからね。逃げ場はないよ~。ウヒヒヒッ」
今更ながら、刹那は狸寝入りをやめておけばよかったと後悔していた。
と、そこで千束が立ち上がる。
「そうだ、写真撮ろう撮ろう!」
「...では、寝ている刹那を間にして撮りましょうか」
「そりゃ名案だ!」
そして、寝ている刹那の体を席の真ん中にずらし、刹那の右側に千束、左側にたきなが座り、千束が内カメラを構えた。
「そんじゃ撮るよ~。さん、にぃ、いち!」
シャッター音が響き、千束は撮れた写真を確認するべくアプリを起動した。
その写真には、ぎこちないピースを浮かべるたきな。
薄く微笑む刹那。
そして、刹那とたきなの間にピースを挟み込んだ千束の写真が綺麗に写っていた。
...刹那の目が開かれている。
「おー、綺麗に撮れて...」
「そうです、ね...」
二人が違和感を感じて刹那の方を見ると、刹那は既に目を開いてこちらを見つめていた。
先ほどまで寝ていたのでは。というか、刹那が笑っているところを見るのは珍しいのでは。
いろいろと思うところはあったが、千束は笑みを漏らすと、写真を送信した。
「『三人で行くぜ!』、と。それじゃあ、今日は元気にボドゲ大会参加するぞ~!」
「いえ、その前に、刹那はいつから起きて...」
「些細なことだ。気にするな」
「いえ気にするなってそんなの」
「まーまー! 私たちの仲が深まったんだし、それでいいじゃん!」
「よくありません!」
ストックなくなりました。
わろた。
二十一時更新には間に合わないかもですが、毎日更新は続けたいと思います。
一日でもあくとやらなくなっちゃいそうだからね