リコリコの地下射撃訓練場にて。
たきなと千束と刹那の三人は、射撃訓練を行っていた。
小さな支部に訓練場があるのは珍しく、それなりの空間を確保しなければならないのに加え、ある程度の防音も整備しなければならない。
それなりにお金がかかっているはずなのだが、ここ喫茶リコリコの地下には訓練場が存在していた。
こうして本部までいかずとも訓練ができるというのはありがたいことだ、とたきなは銃を構え、引き金を引く。
「...はぁ」
弾を撃ちきり、たきなはため息を一つ吐き出してターゲットパネルを見る。
辛うじて弾は当たっているが、どれも致命傷とは言えない当たり方だ。
射撃精度に自身のあるたきながここまで外しているのには、弾自体に理由がある。
銃を置き、用意された弾を見る。
弾頭が赤くなっている特殊なこの弾は、いつも千束が使っている弾と同じものだ。
「なんですか、これ?」
思わずつぶやくと、隣で撃っていた千束も苦笑しながら反応した。
「私も当たんない」
そんな千束の声を聴いて、たきなはピンとくるものがあった。
ウォールナット護衛任務の時も、相手に撃たれている中で、さらに近づいて撃っていたあの時。
元々の距離も相当近かったはずだが、千束はさらにそこから近づいて撃っていた。
「だからですか」
「そう! 近寄れば絶対当たる!」
たきなの言いたいことをそれだけで察した千束は、隣のレーンのたきなのそばに駆け寄り銃を手で形作った。
そんな若干ドヤ顔の千束を見て、たきなはため息を吐くのを我慢して、弾を元の場所に戻した。
「私には無理ですね」
銃弾をよけることのできる千束だからできることだ。
のこのこと敵の銃弾の中に突撃しても、たきなはおろか、他のリコリスだとしても蜂の巣だ。
「この命中率では自分を守れない」
たきなはそういうと、いつも自身が使っている非殺傷弾ではない通常弾を装填し、速射。
これまでの無残な命中率とは打って変わり、全て十点に命中していた。
そんな三人(刹那はただいるだけ)を、リコリコのカウンターでクルミとミカがモニターしていた。
「ミカ、お前地下に射撃場って、アホなのか?」
「防音には金がかかったが、いい仕事には日頃の研鑽が必要だ」
頭に手を置かれたクルミは少しむっとするが、何も言わずにモニターへと視線を戻す。
たきなは装填された弾を全て十点の位置へと当てていた。
そんな様子を千束は口を開いたまま見ている。
「すごいねたきな。機械みたい」
ただ、それだけの命中率を誇るのであれば、思うところもあるわけで。
「実弾でそれだけ上手なら、急所を避けられるでしょ? 無理に先生の弾撃つことないよ」
千束はそういうと、階段に腰かけている刹那の方へと歩き出す。
たきなは横を向き、薄く微笑みながら口を開いた。
「急所を撃つのが仕事だったんですけど?」
「もう違うでしょ?」
『命大事に』。最初は否定していたたきなだが、こうして理解し始めてくれているのは、千束にとっても嬉しいことだ。
自分が他人の命を奪うのは好きじゃない。
それに加えて、周りの誰かが他の誰かの命を奪うのも、好きじゃない。
たきなの意識改善は順調だな、と今度は刹那の方を向いた。
「せっちゃんはどう思う?」
「私か?」
「そ。私的には、殺すのは好きじゃないんだけど」
「...そうだな。私も、できるのならば銃すら使わず、対話でどうにかなるのなら、その方がいいと思う」
刹那がそう返すと、千束は目を見開く。
千束が語っていたのはあくまでも理想だ。
どうしようもない状況もある。やらなければ、自分が殺されていた時だって少しは。
だが、刹那のそれは夢物語だ。
このご時世。言葉だけではどうにもならないから、世間に隠された組織が存在している。
ただそれでも。
(それでも、そうなったら素敵だなぁ)
そうなれば、誰も傷つくことなく、みんな笑顔で終われる可能性もある。
「じゃあ、一緒に考えてみよ。私たち三人で、何ができるのか」
「...ああ」
千束が手を差し伸べると、刹那はその手を掴んで立ち上がった。
そこに、たきなが合流する。
今日は定休日だが、明日は営業だ。
今から準備が必要なものもある。
三人は階段を上がり、表の準備を始めるのだった。
太陽も沈んでかなりの時間。
たきなと刹那は買い出しに出かけていた。
夏服を着ているたきなと、冬服を着ている刹那。
たきなはちらりと刹那の腕を見て思う。
刹那の腕を見たことがないな、と。
「あの、刹那」
「どうした?」
「刹那はどうして、ずっと長袖のままなんですか? 熱くないんですか?」
たきながそう問いかけると、刹那はたきなを一瞥した後、自身の腕を見た。
「半袖のものは所持していない」
「え...今までずっと長袖なんですか?」
「そうだ。必要性も感じなかったからな」
顔色一つ変えずにそう言い放つ刹那を見て、今度ミカに頼んでみようと考えたたきなだった。
と、そんなことを話していると、リコリコについたようだ。
(せっかくできた二人の時間。聞きたいことはまだあったけれど、しょうがない)
そう考えていると、リコリコの中から千束の叫び声が聞こえてきた。
一瞬動きが止まった二人は、お互いに顔を見合わせて頷いた。
中に入ると、千束は何やらゴーグルのようなものをつけており、横にはクルミが座っている。
ゴーグルからは線が伸びており、その線はテレビへとつながっていた。
「『LOSE』...?」
「ぐっ、悔しい~!」
「むきになりすぎだろう」
「だってこの人名前がムカ...」
と、そこで二人が帰ってきたことに気が付いたのだろう。
射撃の腕はピカイチなたきなの姿を見た千束は、しかめていた顔を笑顔に変え、ゴーグルを外してたきなの手を掴んだ。
「おっ、たきな! いいとこに!」
「な、なんです?」
「これやって! これやって!」
緑色の銃に見えなくもないおもちゃを持たされ、たきなはゴーグルをかぶらされた。
(一体何を....これは)
そこに映っていたのは、明らかに現実世界ではない場所。
左上にはマップと時間が表示されており、右下には体力とアーマーが。
銃の画像と弾数も表示されている。
なるほど、ゲームか、とたきなは瞬時に理解すると、辺りを見渡した。
「お~! おお、リ...リアル、ですね...ナニコレ?」
「ささ、その持ってるものを構えて!」
「え、これですか?」
先ほど持たされたものをゴーグル越しに見ると、そこには銃があり、手は謎の生物の緑の手だった。
猫のようだが...少し気持ち悪い。
なんなんだこれは、とたきなが困惑していると、画面中央に突然『Ready』の表示が。
まさか、始まるというのか。
「敵取ってよ~、スタート!」
「は?」
と呆けているのもつかの間。
ホイッスルが鳴るとほぼ同時に、角から謎の生命体がこちらの銃を撃ってきた。
ほぼ反射的に体を倒し、続いて銃を構えるたきな。
正確に当て続け、その場でリズムをとって撃っては避け撃っては避けを繰り返すたきな。
思ったよりも動きが激しくなってきたのを見た千束とクルミは、慌ててちゃぶ台だとかをよける。
しゃがんだり、横にステップしたりしたたきなは、ついにバク転をした。
その時に千束は見てしまったのだ。
少女が履いているにしては、違和感マシマシの光景を。
「っっっっ!?」
声にならない叫び声をあげた千束は、今の見た、と言わんばかりにクルミとみるが、そのクルミはちょうどこちらを見たらしく、テレビの画面を見て感嘆の声を上げたいた。
「お~!」
「えっ?」
『WInner Winner Chicken DInner!』。どこぞの三人称のゲームのような勝ち文句を表示された画面を見て、千束は喜びの声をあげた。
「勝った! しゃ~!」
「喜びすぎでしょう...」
「さすがだな、たきな!」
そんな三人を見て、刹那は買ってきたものをしまおうと奥へと歩いて行った。
そんなたきなが快勝した相手は。
「こいつ~!」
フキだった。
「急に別人みたいに戦い方変えやがって!」
パソコンをテレビに出力されている画面を見ると、砂嵐のような画面の上にでかでかと『LOSE』と表示されている。
その隣に座っているサクラがパソコンの画面を見ると、こちらのプレイヤー名は『FUKI』。
その対戦相手のプレイヤー名は『CHISATO』。
まさかな、とサクラは思いながら立ち上がった。
「次次、私っす~!」
「ああ、ほらよ」
フキからゴーグルを受け取ったサクラは、先ほど負けたフキの様子を思い浮かべながらゴーグルを装着した。
「先輩、ネットゲームにムキになりすぎっすよ」
「だってよ、こいつ名前がムカつくんだよ!」
フキがそう吐き捨てるのと同時に、千束もそんなことを言っていたのだとか。
その後、『FUKI(サクラ)』と『CHISATO(刹那(千束が無理やりやらせた))』の戦いが始まり、最初こそゲームというものに知識が浅い刹那は押されていたものの、ある程度理解した後は、ノーダメージでサクラを下し、サクラは吠えた。
ゲームで盛り上がった後、クルミが箱に中に片づけている中で、千束は椅子に座り、腕を組んで考え込んでいた。
ゲームで盛り上がるのは楽しかったが、それ以上に印象に残っていることがある。
「クルミ」
「ん~?」
「たきなのパンツって、見たことある?」
そこで千束は、突然クルミに意味不明なことを尋ね始めたのだった。
「あるわけないだろ」
「ちぇ~。なんでも知りたいんじゃないのかよ」
クルミに冷たく言い放たれた千束は、唇を尖らせて不満をこぼす。
「ノーパン派か?」
「いやいやいや」
「なら何はいていようとたきなの自由だろう」
クルミにそう言われた千束は、決意をしたように椅子から立ち上がった。
今はたきなと刹那が着替えている。
更衣室へと向かうと、ノックもせずにドアをあけ放ち、今まさにリコリスの制服を脱ごうとしているたきなのスカートをめくった。
そこにあったのは男物のトランクスであり、決して華の女子高生がはく下着ではない。
先ほど見た光景は見間違いなどではなかったのだ。
「なんですか?」
「何? これ...」
絞り出すようにして出した千束の声。
たきなの奥にいた刹那は、その声を聴いて不思議そうにたきなの後ろからのぞいた。
「下着です」
「そうじゃなくて! 男物じゃん!」
たきなの肩をつかみそういうと、たきなはこれが指定なのでは、と言う。
なんの話だ。
これが指定ならば、千束どころか刹那もミズキもクルミも男物のパンツをはいていることになる。
「し、指定...?」
詳しく問い詰めると、どうやらミカの仕業であることが判明したのであった。
「な...あ...せっちゃん! せっちゃんは!?」
たきなを少し横にどかせて、今度は刹那のスカートをめくる。
「何をしている」
「...よ、よかった...トランクスじゃない」
刹那はしっかりと女物のパンツをはいていた。
青色だ。
「千束、なんだか変態みたいですよ」
「そういう年頃なのだろう。察してやれ」
「違うわ!」
「聞かせてもらいましょうか」
カウンターに手をつき、ミカへと尋問を開始する千束。
しかし、ミカとしても今回のことは全く持って想定外だ。
「『店の服は支給するから、下着だけ持参してくれ』と伝えたんだが...」
「どんな下着がいいかわからなかったので」
なるほど、ミカに非はないかもしれない。
これはたきなに常識がないせいだ。
そう考えた千束はたきなの方を向いて言う。
「だからって何でトランクスなの?」
「いや店長が...」
またミカか。
千束の顔はグリンとたきなの方からミカの方へと向いた。
その動きに少したじろぎながら、ミカは腕を組んで答えた。
「好みを聞かれたからな」
「あほか!」
揃いも揃ってあほばっかりだ。
思わず頭を抱えたくなった千束の後ろで、たきながスカートの端をつまんで言う。
「これ、はいてみると結構開放的で」
「そうじゃない!」
このままではいけない。
そう確信した千束は、とあることを決心する。
「もう~たきな、明日十二時、駅に集合ね」
「仕事です?」
「ちゃうわ! パ~ン~ツ! 買いに行くの! せっちゃんも来ること!」
千束はそれだけ言うと、リコリコを出ていく...直前に顔を出し。
「あ、制服は着てくんなよ。私服ね私服~」
今度こそ出て行った。
また困った、とばかりに、たきなはミカの方を向いて尋ねる。
「指定の私服はありますか?」
「ん~...」
ミカは上を向いて考え始める。
一部始終を見ていた刹那は、何も言わずにリコリコを出て行った。
千束をタイピングするときに、ほぼ毎回「せんたbあ」ってなるんですよね。
変換のタイミングが早すぎるだけなんですけど。
これで時間がとられています。
クゥン