リコリスマイスター 刹那   作:水が死んでる

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結局追加で出したのは戦争屋さんでした


16 未来を切り拓く

「おいおい、折角の感動の再会だってのに、ちったぁ冷たくねぇかあ?」

 

「再会だと?」

 

たきなと別れることになった刹那は、目の前に立っている男の存在を未だに信じられていなかった。

 

顔はあのサーシェスと瓜二つなのだ。

何かしらの因縁を感じざるを得ない。

 

だが。

 

「私はお前を見たことはない」

 

「おいおい...お前を救ってやったんだ、わざわざ変装までしてお前に会いに行ってよ!」

 

そして、刹那は一つピンとくる。

まさか、この男なのか。

 

刹那は即座に銃を引き抜き、男へと突きつけ、声を荒げた。

 

「答えろ! お前が、あの時私の体を変えた後、会いに来た男なのか!」

 

「...ふっ、ご明察。大変だったぜぇ、わざわざ髪の毛を染めて、顔も少しメイクして声も言葉遣いもあいつに寄せたんだからよ!」

 

刹那の脳裏に、あの時の事が蘇る。

今こうして、あの時いた本人が目の前にいても、どこか違和感を覚えるのは事実だ。

だが、本人がこうしてあの時のことを口に出すのだ、疑う必要はない。

 

そう、目の前にいるのだ。

己の手で、決着をつける機会が、目の前に。

 

「『期待している』、そういったんだがなぁ...忘れちまったか? ま、俺の本意じゃなかったんだけどな」

 

「貴様は...」

 

「あんとき、俺がお前に言いたかったのはもっと別の言葉だ。アラン機関によって想定された通りの進化をするのであれば、もっと面白いことができる」

 

「貴様だけは...!」

 

「お前はこの世界の新たな火種になれる、自覚してんだろ、他の人間とは違うって」

 

「この私が断ち切る!」

 

男の声はもう刹那の耳には入っていない。

銃をカバンにしまい、太ももにつけられていたナイフを二本取り出し、構えて突っ込む。

 

「ハハッ、おいおいヤル気か?」

 

その道のプロですら瞬く間に殺すに足る刹那の猛攻は、男によって簡単にいなされていた。

 

殺意を隠そうともせずに襲い掛かる刹那。

そんな姿を見た男は、つまらなさそうに鼻を鳴らして、刹那を蹴り飛ばした。

 

「がっ...」

 

「決めた。お前、その胸に入ってるやつを残して死んじまえ」

 

「く...私は...」

 

「お前にアラン機関が入れ込んでいるのがわかんなくなっちまった。その技術は俺が有効活用してやるよ!」

 

立ち上がった刹那から、ナイフを手早く奪い、刹那の息の根を止めようと襲い掛かる男。

それを刹那は、今度は腰に装着されていたマチェットを抜き放ち、それを器用に弾いていく。

 

だが、男の体の一部かのように振るわれるナイフにより、刹那の手にあるナイフもマチェットも弾かれてしまった。

 

「くっ...!」

 

「おい逃げんのかよ!」

 

このまま継続して戦闘をすれば、いずれは殺される。

そのことを悟った刹那は、銃を取り出して、牽制の意を込めて弾をばらまく。

流石に銃弾をよけるなどという人外じみたことはできないのか、男は通路を横へと飛び、射線を逃れた。

 

そのまま刹那は全速力でその場を離脱する。

 

まず合流すべきはたきなだ。

千束の方に合流してもそばには松下がいる。

人質を狙われてはたまらないし、千束が放つのは非殺傷弾だ。

 

「使うか...」

 

刹那は、自身に秘められた機能を使用することを、渋っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、うぅ...」

 

端的に言ってしまえば、たきなは大変ピンチだった。

 

松下を狙うジンの銃をねらい撃ち、弾いて狙いをそらせた。

そこから突き落とし、どこかの工事現場に落下。

そこまでは良かったのだが、落下の衝撃で銃を落としたたきなは、ひとまず逃げる事しかできなくなり、更に、今左足の太ももをかすった程度だが、撃たれてしまった。

 

(この傷を放置してこれまでと同じパフォーマンスを出すには、アドレナリンが足りない...痛みで体が無意識にひるんでしまう)

 

撃たれた左足を庇いながら、ひとまずコンテナの裏に隠れているたきな。

だが、この時間稼ぎも気休めにしかならない。

相手はプロの殺し屋。

このままではすぐに撃ち殺される。

 

(一か八か...賭けに出る!)

 

勢いよく立ち上がり、たきなは撃たれた左足で全力で地面を踏みしめた。

それに比例して、血も勢いよく飛び出るが、たきなは顔を顰めてこらえる。

 

ここが正念場だ。

 

「未来を、切り拓く!」

 

たきなは自身を鼓舞する意味を込めて、声を張る。

それと同時に予備の銃を取り出し、構えながら走り出す。

 

飛び出すと同時にジンの場所は把握できた。

たきなが今走っている場所の一階層分上にいる。

 

銃撃戦に置いて、上を取られているというのは不利な状況だ。

まずは、そこをひっくり返す。

 

「はっ」

 

三角飛びの要領で、たきなは上へと乗る。

これでまずはイーブン。そして。

 

「たきな、下がって!」

 

千束が来た。これで状況は逆転。

 

千束の戦い方は近づかなければ始まらない。

それを理解しているたきなは、ジンの銃を狙う。

 

「...!」

 

時間が引き延ばされていく感覚だ。

いつもは素早くて目で捉えるのが大変な千束の動きも鮮明に見えるし、ジンが正確に千束の頭を狙っているのも分かる。

いつも通りの千束であれば、何もしなくても避けるのだろう。

だが、相手もプロだ。万が一避けられない場合はどうする。

 

たきなは迷いなく引き金を引き、ジンの銃を手から弾き飛ばした。

 

「ないす援護!」

 

千束はそう叫びながら、ジンの拳を避けつつ鳩尾に銃をあて、六発連続で引き金を引いた。

そしてそのまま弾き飛ばしたジンは、意識を失ったのか、ぐったりとその場に倒れた。

 

終わった、とたきなが一息ついたところで、クルミから通信が入る。

 

『刹那がやばい、どっちか刹那の援護に行けないか?』

 

戦いはまだ、終わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物陰に隠れながら、刹那はDAお抱えの医者に言われたことを思い返す。

 

『あんたの胸に埋め込まれたそれ。それから出てるキラキラした粒子が、人には良くないって結果が出てるの。普段は制御されてるっぽいけど、あんまり全力稼働するとか、それこそ、なんだっけ? トランザム? あれもよくないわね』

 

それを言われた後は、あの男に渡された資料を読み漁ったものだ。

確かにそこには、『制御されずに放出される場合は危険』と書いており、なるほど、と刹那は一人で頷いていた。

 

渡された資料をDAに渡していないのは、複製されることを危険視した刹那の独断ではあるが、考えてみれば、アラン機関でさえワンオフと言っていたものをDAが製作できれば、今頃千束の胸にも同じものが入っている可能性もある。

 

と、思考の海に入りかけたところで、刹那は頭を振って意識を戻す。

 

例え体に異変が出たとしても、刹那には意地を通す覚悟がある。

それこそ、青服として任務を受けた、あの日から。

 

と、そこにクルミから通信が入る。

 

『刹那、松下は千束が送る。たきなが援護に行くから、今から送るポイントにやつを誘導できるか』

 

そうしてクルミから送られてきたデータのポイントは、美術館の隣にある、建設途中の中だった。

 

確かにここならば、一般客が入り込む心配もないし、クルミがここに誘導するということは、作業員もいないのだろう。

それを理解した刹那は、一言、了解、とだけ返し、男を銃で牽制しながら移動を始めた。

 

「鬼ごっこかぁ?」

 

刹那に当てるつもりがないことを悟っている男は、余裕のある表情でゆっくりと追いかける。

己を捕らえるステージへ誘導されていることを理解しながら、それでも余裕の表情を崩さない。

 

「あいつの中に入ってるやつを有効活用できるのは俺だ...。アラン機関なんかが決めたやつじゃあ、役不足ってやつだ」

 

今の段階で、太陽炉を胸に入れている刹那を封殺できている。

であれば、今の男の体に入れることが出来れば、世界を変えられるほどの強さを手に入れられる。

 

「戦争をするためにアラン機関にいたが...そろそろ替え時だな。この前見かけたバランスバランスとうるせえやつの方がいいかもなぁ...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイミングは一度だけだ。しくじるなよ』

 

「わかっています」

 

クルミの声が、たきなの銃を握る手を強くする。

今たきなが潜んでいるポイントは、刹那が誘導してくれれば射殺出来るポイントだ。

しかも、相手側からはこちらの姿を視認できずに撃つことが出来る。

これを外すのは、リコリスになりたての時ぐらいだ。

 

「...」

 

外したら次はない。

最悪、カウンターでたきな自身が死ぬこともある。

 

だからだろうか。

心臓が嫌にうるさい。

 

「はっ、はっ」

 

呼吸が荒くなっていく。

 

撃てるだろうか。

自分に。

 

(刹那が苦戦する相手。相手の銃を視もせずに避けられたら、それこそ千束以上...外せば、外したら、全員死ぬ...?)

 

射撃には自信がある。

千束には『機械みたい』だと言われたし、刹那には『いい腕をしている』と褒められた。

ただ、この引き金を引いた瞬間、全てが決まる。

 

そうたきなが緊張していると、その手に柔らかいものが触れた。

 

体を一瞬震えさせ、自身の隣を見ると、そこには千束がいた。

 

「ち、千束。松下さんは...」

 

「ミズキと合流したから任せてきた」

 

千束はそれだけ言うと、たきなが構えている手に手を重ねて構えた。

 

千束の手から温かさを感じる。

緊張がほぐれていくようにも、思う。

 

「...ありがとうございます、千束」

 

「どーいたしまして。...じゃあ、せっちゃんを軽く救っちゃいますか」

 

「...そうですね」

 

千束の方を見て軽く微笑み、視線を戻せば、そこには男がちょうど狙撃ポイントへ向かっているところだった。

あと数秒で引き金を引く。

たきなは息を吸い込み、止める。

 

まただ、とたきなは思う。

 

世界がゆっくりになっているような感覚。

隣の千束の息遣いは鮮明にわかるし、それどころか、刹那が瞬きをしているのも分かる。

 

たきなは、自分自身の落ち着きように自分でも驚きながら、引き金を引いた。

 

「ガッ!?」

 

狙いは頭。

だが、男は驚異的な反射能力で体を反らし、かすった程度になってしまった。

 

「外れた!?」

 

隣で千束が驚きの声を上げている中で、たきなは落ち着いて二射目を放つ。

今度は狙いから外れず、左肩に命中した。

 

刹那はそれを見逃さず、すぐさま距離を詰め、自分から奪ったナイフを、新しく取り出したナイフで弾く。

 

これで決める、と刹那が意を決した瞬間、嫌な予感がよぎる。

 

前へと踏み込もうとしていた体を無理やり横に方向転換すると、その場をマシンガンで撃たれているかのような銃弾の雨が降ってきた。

 

「真島か!?」

 

「ピンポ~ン」

 

刹那が上を見ると、そこには真島が立っており、銃をこちらに向けていた。

千束とたきなが潜んでいる狙撃ポイントを知っているのか、二人からは絶妙に狙えない場所だ。

 

刹那が軽く舌打ちしながら正面へと顔を戻すと、既にそこには男はおらず、また真島の方へと戻すと、真島もまた姿を消していた。

 

「...」

 

こうして、リコリコプロデュースの東京大観光は、新たな敵出現と共に、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ日も沈む、といった頃。

処理を終えたリコリコメンバーは、荷台に乗せられているジンと対面していた。

 

「ミカ。お前の部下か...。いい腕だ」

 

ジンがそう言うと、ミカは二人で話したいことがある、とだけ告げ、千束とたきなを離れさせた。

 

「センセの知り合いなんだっけ」

 

「通信では、リコリスの教官になり前にいた場所での仕事仲間、と聞こえてきましたが」

 

「みたいね...いや、ホント、疲れたわ...」

 

千束とたきながそうミズキに問いかけると、ミズキは心底疲れたように運転席に座り込む。

今回瞬間的に負担が大きかったのは、ミズキだろう。

 

元情報部とはいえ、プロの殺し屋に捕まり、幸い殺されることはなかったが、縛られロッカーに放り込まれていた。

たまたま作業員が近くを通りかかったから出てこれたものの、誰もいなければ事が終わり次第回収ということになるところだった。

 

 

そして、時点で刹那だろうか。

 

「それにしても、刹那が苦戦するほどの白兵戦能力の持ち主、ですか」

 

「ああ。奴は腕が立つ。真正面から向かっても勝つことは難しいだろう」

 

そう言って、刹那は目を細めた。

あの時、刹那には、一挙手一投足が見切られていただけでなく、見定められていたように感じた。

その視線を受けた段階で、刹那は自身の技量全てを出し切ることを渋ったのだ。

 

そうして刹那は、男に対して実力を全て出すことなく、乗り切ることに成功したのだ。

 

四人が話していると、ミカとジンの話が終わったのか、ジンはバイクに乗ってどこかへと走り去っていった。

その中で、たきなだけが、ジンがこちらを見ていることに気が付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリーナーから連絡があったわ。指紋から身元が判明。先々週に病棟から消えた、薬物中毒の末期患者だって」

 

リコリコへと向かう帰り道。

運転席でハンドルを握るミズキが、そういえば、と口を開いた。

 

既に彼自身では喋ったり動いたりすることは叶わず、今日付けていた機械は持っていないのだとか。

 

そのことを聞いたリコリス三人組は、驚きの表情をした。

 

「そんな! みんなと喋ってたじゃない」

 

『ネット経由で第三者が千束たちと話してたんだよ。ゴーグルはカメラ。車椅子はリモート操作だ」

 

「音声はスピーカー、か」

 

『その通り』

 

そのことからわかるのは、やはり。

 

「松下さんは、存在しない...?」

 

眉尻を下げたたきなが、まだどこか信じられないといったような声色で言う。

気合を入れて案内をしていた千束や、そんな千束に感化されて優しくなっているたきなには酷な話だろう。

 

と、そこで千束が口を挟む。

 

「え、じゃあ誰が声を出してたの? なんで私に殺させようとしたの? なんのために?」

 

その瞬間、ミカが何かを理解したような声を出したのを、刹那は聞き取っていた。

 

そしてその夜。任務にあたっていたサードリコリスの一人が、殺された。

事態は既に、動き始めている。

 

 




Q.誤字多くない?

A.ウッ(心肺停止の音)

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