「転属、ですか」
「そうだ」
司令室にて、左頬に湿布を貼っている少女が、転属命令を出されていた。
彼女の名前は井ノ上たきな。
先の任務にて、『待機』という指令を無視して、その場にいた商人をすべて機銃で薙ぎ払った少女だ。
それ故に、たきなは転属する事になったのだ。
軽いため息を吐くのは、赤髪短髪の女性、楠木。
「指令を無視して作戦を台無しにした責任は重い。現場指揮官からも、越権行為の報告が来ている。...扱いきれない、とな」
「...わかりました」
「配属先にもリコリスが一人いる。生意気だが優秀なやつだ。得られるものもあるだろう」
たきなからしてみれば、あの場で最も効率のいい動きだと思ったのだが、それが納得のいかないらしい。
上の指示に従わない部下はいらない。そういうことなのだろう。
だが、司令が『優秀』とまで言うリコリスだ。司令の言う通り、なにか得られる物があるかもしれない。
そう考えていると、司令がなにやら口を開いては閉じるのを繰り返していた。
「...?」
「ああ、いや。ついでにあいつにも行ってもらうか」
「あいつ...?」
「ああ。最近になってよく耳にするのではないか? 『青服』のリコリスについて」
「...!」
喫茶リコリコに向けて、スーツケースを引いて歩くたきな。
支部には、基本的にはファーストリコリスが一人いることが条件となる。
司令は『一人』と言っていた。
つまりは、一人で支部を維持できるほど、優秀な人材なのだろう。
...リコリコについて考えることはそれだけで。
(『青服』のリコリス...。最近になって、本部の中で噂を聞くようになった単語。
曰く、任務は常に単独でこなし続けるが、その任務がコンビや部隊推奨の任務でさえもこなしてしまうという。...そんな人がいるのだろうか?)
これまでリコリスとして活動してきた中で、聞いたことも見たこともなかった青服の存在。
それが、今になって急に耳にするようになった。
ただ噂を聞いていただけのときは、そんなリコリスは存在しないと内心一蹴していたものだが、司令までもが口にしているところを見ると、本当に存在しているのだろう。
それが、喫茶リコリコに転属になる?
「一体何が目的で...」
リコリスには位がある。
下から、サード、セカンド、ファースト。
それぞれ着用する服も異なり、たきなはセカンドリコリスの黒服を着用していた。
青、という色は、どの位にも当てはまらない色だ。
たきなは首をかしげながら歩き続けるが、明確にこれだと思いつくものは浮かばないままだった。
そうして歩くこと数分。
外見は落ち着いた色の建物の、喫茶リコリコへとたどり着く。
「ここが、リコリコ」
司令から聞いた名前は、確か、錦木千束。
あの、電波塔のリコリスだ。
だが、なぜ、そんな優秀なはずのリコリスが、こんな支部にいるのだろうか。
「とりあえず、入ろう」
『CLOSE』とかけられた扉を開け、中に入るたきな。
店の中は、一階がカウンターと座敷席。
二階は、たきなからは見えないが、おそらく机と椅子があるのだろう。
流しっぱなしにされているテレビからは、アラン機関についてのことが流されており、『あの山田選手も救った』とテロップが出ている。
...あの山田とは、どの山田なのか。たきなには知識が足りなかった。
そして、そのカウンター席には。
「うぅ~。ここにも母となるべき才能が今結婚という障害に阻まれているのよっ」
茶髪の和服を着た女性、ミズキは、ゼクツィという題名の雑誌に手を振り下ろし、天井を仰いだ。
「不満だわ...今すぐ私にいい男を支援しなさーい!」
『凡人のやっかみですな』
「なんだとぉー!」
そんな、テレビのコメンテーターの言葉にも噛みつくほど、ミズキは出会いに飢えていた。
そんな彼女に、たきなは近づいていく。
「あの」
「ん...あんた誰?」
たきなに突然話しかけられ、少し驚いたようだが、黒服のリコリスとわかると、少し警戒心を出しながら問いかける。
とはいえ、たきなのすることは変わらない。
「本日転属になりました。井ノ上たきなです」
自己紹介をしていると、カウンターの奥から、褐色肌の男性がテレビを消しながら出てきた。
「きたか。たきな」
褐色肌の男性、ミカが、たきなが来ることを知っていた様子をを見て、ミズキは何かを思い出したのか、あぁ、と声を上げた。
「DAクビになったってリコリスか~」
「クビじゃないです」
食い気味の否定だった。
「あなたから学べ、との命令です。千束さん」
「...?」
「...」
たきなはそのままミズキの方を見てそう言うが、残念ながら外れである。
ミズキとミカは顔を見合わせるが、たきなの口は止まらない。
「転属は本意ではありませんが、東京の一番のリコリスから学べる機会が得られて光栄です。この現場で自分を高めて、本部への復帰を果たしたいと思います」
そこまで言い切ったたきなに、ミカは間違いを指摘するべく口を開く。
「それは千束ではない」
「それって言うな」
「...? ...!」
ミカにそう指摘されたたきなは、ミズキから視線を外し、ミカの方を見て何かに気づいたかのような顔をする。
「そのおっさんでもねぇよ!」
ミズキの鋭いツッコミが入った。
「ここの管理職のミカだ」
「井ノ上たきなです」
ミカから手を出し、握手をする二人。
男の人の手だな、なんていう、当たり前のことを、たきなは考えていた。
そしてそのまま、ミカはミズキの方を紹介する。
「彼女はミズキ。元DAで、所属は情報部」
「...元?」
今はゼクツィではなく、酒を手に持っている女性の方を紹介されると、たきなは気になった部分をオウム返しに聞いてみた。
「嫌気がさしたのよ。孤児を集めて殺し屋をさせてる、キモい組織に」
そうミズキが損底嫌そうに行っている最中。外から騒がしい女性の声が響いてきた。
「ほーら、やかましいのが来たぞ~」
そのミズキのセリフのすぐ後に扉を開けたのは、赤い和服に身を包んだ女性。
「先生たいへーん、食べモグの口コミで、『このお店のホールスタッフが可愛い』って、これ私のことだよね」
「私のことだよ!」
「冗談は顔だけにしろよ酔っ払い」
(ひどい)
彼女は口コミのことが自分のことについて書き込まれている、とのことだったが、それに食いついたミズキは一蹴されていた。
そして、ミズキの方を向くと、自然に目に入る黒服のリコリスの姿に気がつく。
「ん? あら、リコリス...」
「例のリコリスだ。話したろ千束」
そのミカの言葉に、二人が反応を見せた。
「え!」
『この子が!』と喜びの感情を見せる千束と。
「!」
『この人が?』とついミカの方を向くたきな。
「今日から二人相棒だ。仲良くしろ」
「この子が~...!」
「この人が...」
口にした。
喜びのまま、たきなのそばにより両手を手に取る千束。
「よろしく相棒! 千束で~す!」
「井ノ上たきなです、よろし」
「たきな~! はじめましてだよね?」
「あぁはい。去年京都から転属になったばかりなので」
「おぉ~転属組~優秀なのね、年は?」
「十六です」
「私が一つお姉ちゃんか~。けど、さん、はいらないからね、ち、さ、と、でおっけ~!」
「は、はぁ」
たきなは圧に押されていた。
勢いのまま自己紹介を終えると、千束は少し離れて、機銃を構えるポーズを見せた。
「この前のあれ、すごかったねぇ~! その顔は、名誉の負傷?」
この前のあれが何なのか。説明されずとも理解できたし、この頬は名誉の負傷などではない。
だからか、たきなは目を横にそらし、ことの顛末を語り始めた。
「いえ...」
「?」
それを聞いた千束は、怒り心頭といった様子で、受話器を手に取ったのだった。
ちさたきはBIGMAMAの秘密がすごい合うと思う