リコリスマイスター 刹那   作:水が死んでる

7 / 18
私のリコリスは終わってない

最終回の先まで書くことは確定しています。



一つの話にまとめて書こうとしているので、文字数が長くなってきたんですよね。
気づいたら一万文字でした。



07 相場の三倍

沙保里がネットにあげた写真を見て、ミズキが僻み。

写真の投稿時間から、DAが偽の取引時間を掴まされたことが発覚した日から一ヶ月。

 

そう、たきなと刹那を加えた五人での写真をネットにあげ、たきなの初めての接客から一ヶ月が経った。

 

銃取引についてはさほど、と言うよりかは全く進んでなく。

DAも追っている件について、先んじて手柄を立てることが出来ればDAに復帰できるかもしれない、と意気揚々だったたきなも、今では少し落ち着いている。

 

少しだけ。

 

その間刹那は、見た目や言動は刹那に寄せているが、中身はただの転生者な一般人は、『DAへ復帰』に関係するものであれば何でも反応するたきなを見て、遊んでいた。

 

『たきな。本部への件だが』

 

『! 何か情報が!?』

 

『いや、情報は何も入っていない。そうではなく、仮に情報を掴んだとして、直接楠木に言うのか?』

 

『...そのつもりですが』

 

『そうか。だが、相手も暇ではない。難しいかもしれないな』

 

『...むむ』

 

これらを見ていた千束に、刹那は後で怒られた。

 

「お待たせしました~千束が来ました、っと。お~ヨシさんいらっしゃい」

 

「覚えていてくれたんだね。前に来たのは、確か一か月前だったと思うが」

 

ヨシさんこと、吉松シンジは、リコリコの扉を開け、そのまま隣に座った千束を見て、優しい笑顔を浮かべる。

 

「そりゃそうだよ、たきなの最初のお客さんだからね。忘れませんよ」

 

「ふ、そういうものかい」

 

「そういうもの」

 

そして、そのまま今回はどこへ旅行に行ったのかを聞き始める千束。

色々な国を挙げるが、どうやらどれでもないらしく、今回はロシアに言ったという吉松。

 

お土産だという、謎の工芸品のようなものを受け取り、出入口へと向かう吉松。

その途中で、扉から出てきたたきなと出会い、たきなは会釈をし、吉松は笑みを浮かべながら出て行った。

 

それを見計らったように、先ほどまで裏にいたミカが、ケースをもって千束の名前を呼んだ。

 

今回の依頼だ。

 

「んで? どんくらい急ぎ?」

 

「現在、武装集団に追われている」

 

それは大変、とつぶやきながら、座敷に座り慣れた手つきでマガジンへと弾を込めていく。

手に持っているものには込め終わり、ケースの中の物を取ろうとして、微妙に距離が遠いのに苦戦しながら、たきなに確認をした。

 

「仕事の話もう聞いてる?」

 

「はい、一通り」

 

「それはよし。そうだ、そこに置いてある袋、昨日言ってたやつだから、帰りに持って帰ってねぇ」

 

語尾に♪でもつきそうな勢いでいう千束に対して、本当に持ってきたんだ、という表情で、カウンターに置いてある袋を見るたきな。

 

袋には、テープでメモが張られており、『おすすめ映画"厳選" 千束コレクション』と書かれていた。

 

袋の大きさからして、一本や二本ではないだろう。

まさか、今日来るのが少し遅かったのは、これを選んでいたからだろうか。

 

「あ、ミズキとせっちゃんは?」

 

「既に逃走経路の確保へと向かっている。刹那はその護衛だ」

 

「おっほぉ張り切ってるねぇめっずらし~」

 

「報酬は相場の三倍。一括前払いでな」

 

ミカのその言葉に、千束は納得する。

なるほど、道理で張り切っているわけだ、と。

 

どうせ、相場の三倍だから頑張っちゃった、とでも言うのだろう、と千束はあきれつつ、カバンを背負って立ち上がる。

 

「それだけ危機的状況、と言う事なのだろう。敵は五人から十人程度。プロよりのアマだ。ライフルも確認した。気をつけろよ」

 

「了解。行こう、たきな」

 

「はい」

 

そして、リコリコの外へと出ると、千束のお腹が空腹を訴えるように小さく鳴いた。

 

「ところで~、お腹がすいてるんだけど~」

 

「時間はないですよ」

 

そんな二人のやり取りを扉越しに聞いていたミカは、仲良くなったものだ、と呆れ半分に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

電車の中にて。

たきなはスマホに書いてある作戦を読み上げていた。

時間がないため、一からリコリコで聞いている暇などなかったので、こうしてたきなが説明している。

のだが。

 

「逃走経路は以上です。羽田でゲートをくぐったところで、ミズキさんと刹那さんの二人と交代...聞いてますか?」

 

スマホから顔を上げると、千束は駅弁に夢中で、聞いていないように見えた。

 

「うん、ひらひぬひ。すおうえのはっかーでそ。んむ、どんな人かな~」

 

「飲み込んでからしゃべって下さい」

 

「ごめんごめん。やっぱり、眼鏡で痩せてて小柄な男かな」

 

たきなに向かって、割り箸を数回開いたり閉じたりをすると、千束は突然子供のように、前時代的なパソコンを使う人のマネをし始めた。

 

ドン引きだ。

少なくとも、自分が任務で一人で電車に乗っているときにこんな人を見かけたときには、視界に入れないようにするだろう。

そうたきなは思いながら、目を細めて千束を注意した。

 

「座って下さい。...映画の見過ぎですね」

 

「何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

たきなはそれだけ言うと、手に持っていたスマホを一旦ポケットの中にしまい、ゼリーを口にする。

噂の十秒チャージだ。

今までは栄養調整食品群の中であれば適当に手にしていたが、今回は時間を要しないものを選ぶ必要があった。

 

たきなの心境としては、さらばカ〇リーメイト。ようこそウ〇ダー。

 

そんなたきなを見て、千束は割り箸を持った右手を振り上げたままの態勢で、問いかけた。

 

「たきな、なにそれ」

 

「ゼリー飲料です。調べたところ、十秒でチャージできるとの事だったので、今回は採用しました。本当は」

 

「いやいやたきなさん、今の状況わかってるのかな?」

 

真面目な顔で説明をしていると、千束が尻をたきなに寄せながら絡んできた。

 

(今の状況、と言われても)

 

「依頼人に会うために特急に乗っています」

 

「そう! その前にお昼食べとかなきゃ。元気でないよ?」

 

「これで十分です。刹那さんにも確認しましたが、彼女も頷いていましたよ」

 

「あやつはたきなより頭がかたい。って、そうじゃなくて」

 

千束は自分の手の弁当から、卵焼きを取り出し、たきなの方へと差し出した。

 

「ちょっと食べる?」

 

「結構です」

 

「まぁまぁそう言わずに、ささ。おいしーよー?」

 

あ、卵焼きじゃなくて煮卵のほうが良かったか、と言いながら、今度はたきなに煮卵を差し出す千束。

 

「...」

 

「どう? 美味しい?」

 

「美味しいです...」

 

「はいおいしー!」

 

そんなやり取りをしていると、アナウンスがなった。

乗り換えの合図だ。

 

「降りますよ」

 

「えぇ~?」

 

無情にも、たきなは駅弁片手にわたわたしている千束を置いて電車を降り、改札を一度出る。

そのあとを慌てて追いかける千束。

 

改札にスマホをかざしながら後ろを見ると、片手にレジ袋、片手に駅弁と、スマホを取り出すのに時間がかかりそうだ。

 

「...片方持ちますから」

 

「お、ありがと~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォールナットが死んだ?」

 

「ダークネットの噂です。ただ、今までにも何度も死亡説が出ているので、何とも言えませんが」

 

「得体の知れん奴だ。抜かれた情報諸共消えてくれたのなら大助かりだが...」

 

指令室にて。

楠木と、その秘書である女性が二人で、今回あった事件について話していた。

ただの事件であれば話すことなどないが、それが、ラジアータをハッキングした人物であるのであれば変わってくる。

 

楠木はため息を一つ吐き出し、手元のタブレットを再び見る。

画面には、わりかし鮮明に、とあるビルの一室が爆発しているところが映し出されている。

この中にウォールナットがいたのだとしたら、確かに死んだのだろう。

 

だが。

 

「リコリスに調べさせたところ、そこに人が住んでいるような形跡は少なくとも見つからなかった、という情報が上がっていたな」

 

「はい。ファーストを投入しても同じことを言うのですから、可能性は高いかと」

 

「...」

 

思わずタブレットをこのまま手でつぶしたくなる衝動を抑え、楠木は机の上に置いた。

それを見て、女性は、手に持っていた茶封筒から、一つの写真を取り出す。

 

「あと、リコリコから提出された、例の写真の解析結果が出ました」

 

それは、作戦開始時間三時間前に投稿された、カップルのツーショット。

その後ろには、確かに、銃取引があったビルの一部屋が移されており、何者かが立っているのが分かる。

 

「偽の取引時間をつかまされるとは。...我々も焼きが回ったな」

 

元々の写真の解像度があまり高くないのか、割とぼやけている写真を見て、楠木は少し眉を寄せた。

 

「特定できるか?」

 

「まだ時間がかかりますが、必ず」

 

「そうか。...特定出来次第、居場所を探れ。わかれば、刹那を投入する」

 

「刹那をですか?」

 

机の上に写真を放り投げ、楠木は言い放つ。

 

「あれは、制圧力の高さはリコリス一だ。千束にも引けを取らないどころか、上をいくだろう」

 

「さすがは青服、と言ったところでしょうか」

 

「千束のように甘えずに進化を続けたのだ。差は出るだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車を乗り換えた二人は、青空の下、目的地へと歩いていた。

まだ時間には余裕がある。走る必要はないだろう。

 

「ねぇたきな。そのウォールナットっていうハッカさんと合流した後、どうやって羽田まで行くの?」

 

「...」

 

思わずため息を吐きそうになったが、たきなは我慢した。

本当にこの人は、と。

 

「何も聞いてないじゃないですか...」

 

「ごっめ~ん、もっかいお願いたきなさま」

 

「店長が駐車場に車を用意してくれているそうです」

 

「え、マジ! はいはいはい! 運転は私がします!」

 

「私がします」

 

千束が右手を上にあげて運転手を希望すると、たきなはそれを食い気味に却下した。

千束はそれが不服なようで、口を突き出して運転するポーズをして駄々をこね始めた。

 

「え~たきな運転できんのかよ~」

 

「できなきゃリコリスになれないでしょう...」

 

子どもみたいな人だ、と、リコリコに異動になった時から何度思ったかわからないことを、たきなは再び思う。

出来るのならば、刹那の方についていきたかった、と思うほどに。

 

そうして歩いていると、目的地の駐車場についた。

 

「あれですね」

 

「うひょ~!」

 

目に入ったのは、ツードアの赤い車。いわゆるスーパーカーだ。

 

千束はすっげぇすっげぇと繰り返し、たきなは目立つとため息を吐いた。

ちらりと千束の方を見ると、緑のフェンスのがしゃがしゃとしがみついており、何ともまぁ、動物園の猿のようだ。

 

と、その動きを突然やめ、千束が後ろを振り向けば、明らかに道路ではない場所から軽自動車が飛び出してきた。

 

その軽はそのまま二人の前に止まり、助手席側の窓を開けた。

 

「ウォール」

 

「ナット」

 

「早く乗れ、追手が来るぞ」

 

どうやら今のが合言葉だったらしく、たきなは後部座席に乗り込んでいく。

 

「え、何今の合言葉? かっこわる...」

 

しかし、たきながその車にこの場で乗る、と言うことは。

 

「え、スーパーカーは?」

 

残念ながら、スーパーカーはお預けのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで守られる側が颯爽と車で現れるのよ普通逆でしょ~?」

 

隣に座ったたきなの肩を揺らしながら、未だにスーパーカーとごねる千束。

とはいえ、今乗っている軽はどこにでもいそうな車だ。

見た目は白いし、目を引きそうな車ではない。今回の依頼には、あのスーパーカーはスピードは確かに出るだろうが、不向きだったのは違いない。

 

「予定と違ってすまない。ウォールナットだ」

 

「はい、千束です~。隣の彼女はたきな。...なんか、イメージしてたハッカさんとは違いますね~」

 

千束は、運転手の着ぐるみをきた謎の人物に問いかける。

というか、なぜに着ぐるみなのだろう。ハッカーどころか、どの裏の職業でも着ぐるみと中々結びつかないのだが。

 

「意地の悪いやせたメガネ小僧だとでも? 映画の見過ぎだな」

 

そんな返しをされ、たきなは千束にほら、と言うが、千束は納得いっていない様子だ。

 

「いやいや、だとしても、着ぐるみじゃないでしょう」

 

「ハッカーは顔を隠した方が長生きできるってだけさ」

 

JKの殺し屋の方が異常だよ、とウォールナットは言う。

確かに、異常ではあるが、どっちもどっちなのでは、と千束は思わざるを得なかった。

 

「熊のハッカーよりは合理的では?」

 

「たきな、犬だよ」

 

「リスだ」

 

二人とも外れだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから、JKの制服が迷彩服だということや、黄色いトランクケースがウォールナットの全て、と言うこと。

それから、車が『ロボ太』というハッカーに乗っ取られたりして、三人はとあるショッピングモールへと逃げ込んだ。

 

今は使われていないショッピングモールの中は、今が昼時で晴れているおかげで、薄暗い中でも問題なく視界を確保できている。

 

「はい、そのスーパーに避難しています。三人とも目立った傷はありません」

 

とりあえず、と、ミカに報告をしているたきな。

目のいい千束は外の警戒をしており、ウォールナットは白のタブレットで何かを操作中だ。

 

ひとまず移動をしよう、と言うことになり、接敵したことを考え、ファーストである千束を先頭に、殿をたきながすることに。

 

「ついてきてください」

 

千束がそう言い、ウォールナットがそのあとを追い、たきなもそれに続こうと、黄色のケースを押そうとした瞬間、武装した男たちが入り込んできた。

 

「っ!」

 

その瞬間、男たちは発砲。

たきなは防弾性のあるスーツケースの裏に隠れることで何とかやり過ごす。

 

目の前に敵。であるならば、そいつらを始末しなくては、と思うものの、たきなは違和感を覚えていた。

 

敵は目の前に二人。

しかし、真っすぐこの場所に来ていなかっただろうか。

 

「ちっ...」

 

この一か月間で、刹那の癖なのか、よく舌打ちをするのを聞いていたたきなは、無意識に舌打ちをしながら、銃を構える。

 

狙われていなかった千束が向かって右側の男を撃ったのを音で確認し、左側の男を撃ちぬく。

この距離は外さない自信があった。

 

「ぐっ、くそぉ!」

 

「なっ」

 

狙ったのは右肩。

だが、当たったのは右腕で、しかもかすった程度。

思ったよりなまっているのかもしれない、とたきなは自身の練度の低さに歯噛みつつ、追加で発砲。

ひとまずは、男たちを棚の裏側に隠れさせるだけで十分。

 

と、タブレットを頭の上にして縮こまっていたウォールナットが、たきなの方を見て悲鳴を上げた。

 

「盾にするのはナシだぁ!」

 

「たきなぁなんかそれだめらしいよ!」

 

スーツケースを守るべく、こちらに来ようとするのを通信越しに止めつつ、千束がたきなに言うが、それは無茶な相談だ。

銃弾がほぼ常にこちらに飛んでいる状況で、どうやって盾にしないで動くというのか。

 

「無茶言わないでください!」

 

リロードをすませ、今度は外さないと気合を入れて銃を構える。

放った弾丸は、狙い通りに男の右胸あたりにあたった。

あれでは、碌に構えられまい。

 

男がそのまま後ろへ引いていったのを見て、たきなは素早く立ち上がり、千束の後を追いかける。

 

「こちらです、ウォールナット」

 

「あ、ああ。...スーツケース...」

 

「あれは仕方のないことでした」

 

少し暗い道を歩いていくと、千束が見えた、のだが、その後ろで、銃を構えている男も見えた。

たきなは咄嗟に、自分の後ろをついてきていたウォールナットを前に出さないように腕で抑え自分も影に隠れる。

このままでは千束が撃たれる。しかし、今すぐ声を出したところでどうにかなる距離でもない。

 

その瞬間、弾丸は放たれる。

 

次の瞬間、千束はそれらを歩きながら左右によけ、構えた特製の銃弾を三発、すべて男に当てた。

その場に倒れた男に、とどめの意味を込めてもう一発。

 

赤い粉が舞い、その場には千束がリロードしている音だけが響いていた。

 

「...」

 

あり得ない、とたきなは思う。

あの距離で乱射された弾丸を、避けるなどと言うのは。

だがそれと同時に、ファーストであるのだからと、どこか納得している部分もあるのだった。

 

約一か月前。刹那の人ならざる力を見たからだろうか。

 

(人ならざる。なるほど...確かに、今目の前に立っている、千束は、人の枠にはいないのかもしれない)

 

千束はそのまま左に弾を放ち、たきなが胸を撃ちぬいた男を無力化した。

 

「あら、その怪我で銃持ってたの。痛くない?」

 

「...敵の心配かよ」

 

「そのまま。手当てする」

 

「何の真似だ」

 

他の男は気絶しているとはいえ、放置しても大丈夫な怪我だが、この男は違う。

そう判断した千束は、その場で治療を行うことに。

 

「敵の増援が来る前に脱出しましょう」

 

「少し待ってて~」

 

『命大事に』。これを大事にする千束に、たきなは少し思うところがある。

これが刹那であれば、即座に殺し、この場を離れているというのに、と。

 

「脱出ルートはまだ敵にマークされていない。今ならまだいける」

 

どうする。

囲まれる危険性を抱えて千束を待つか、先にこの場を離れるか。

 

たきなが数瞬迷っていると、千束が顔半分振り向いて、少し笑みを浮かべて口を開いた。

 

「私もすぐ追いつくから、先に行ってて」

 

「...行きましょう」

 

結局、たきなは前者を選んだ。

 

タブレットを見ながら歩くウォールナットと共に歩き、先ほど頭に入れていた情報通りなら、この先は外だ。

その扉を開けてクリアリングをしようとすると、先にウォールナットが外に出ようとしてしまう。

 

「あ、ちょっと」

 

「たきな出ないで!」

 

ウォールナットを止める間もなく扉をあけ放つのと同時に、後ろから千束の鋭い声が聞こえる。

その瞬間、ウォールナットが撃たれた。

 

貫通はしていない。

撃たれた場所がどこかわからない以上、まだ生きられる可能性があると踏んで、たきなは着ぐるみの体を中に入れようと、一歩目を踏み出した瞬間、リスの体が激しく舞い、その場に倒れた。

 

それ以降、銃声が響くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいんだな、ミカ」

 

「ああ、千束の前ではできないだろう。このことも、教えるつもりはない」

 

たきなから作戦失敗の連絡が来たのを確認し、刹那は救急車から降りた。

ミカに最後の確認をするように問いかけると、普段のミカからは想像できないような厳しい顔で、刹那の方を見て頷いていた。

 

(今回の依頼は、ウォールナットの死を偽装するための前座。いわば、ここまでは想定通りといことだ)

 

恐らくの話だが、千束たちは一人も死傷者を出していないのだろう。

ウォールナットを除いて。

それでいて、彼女たちが追撃を受けていないというのは、千束が何かしらを言ったのだろう。

 

だが、はいおしまい、というわけにはいかないのがDAという組織だ。

 

リコリスという存在と、リコリスが着ている迷彩服である高校生じみた制服。

それらを見られ、なおかつ、それらの統一性に気付かれたが最後、日本の神話じみた犯罪ゼロを維持している物が崩れ去る。

 

要するに、刹那はそれの後始末、というわけだ。

 

「音は出さない。確実に仕留める」

 

「ああ。あれを使うことの許可は出ている」

 

アラン機関に体をいじられ、この命を存続されたあの日、フクロウのペンダントともう一つ。

特製の剣を持たされていた。

 

『七聖剣』。

 

所謂、歴史の中にある、聖徳太子の幼少期の守り刀だった、という類のものではなく、純粋に刹那の体に合わせて作成された、オーパーツとでもいうべき剣。

 

というのも、刹那の体に埋め込まれている太陽炉は、稼働する際に、緑の粒子を生み出す。

それを利用し、容易に鉄を切り裂き、異常な耐久性を剣に付与しているのだ。

刹那以外が使えばただの鈍らと化す、まさに刹那専用装備とでもいうべきだろうか。

ただ、その威力ゆえに、普段は使用禁止が言い渡されており、楠木の許可があって初めて使用することが出来る装備だ。

 

「刹那、気をつけろよ」

 

「了解。任務を遂行する」

 

刹那はそれだけ言うと、その場から姿を消した。

それを見届けると、ミカは医療用のマスクをして、救急車を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救急車の車内の空気は最悪と言ってもいい物だった。

依頼人が死んだ。

こちらの被害は出ていないものの、結果としては最悪。

そんな中、たきなが最初に口を開いた。

 

「すみません」

 

「たきなのせいじゃない」

 

しかし、それを千束がすぐに否定する。

ただ、それ以降二人の会話は続かない。

 

そんな二人を見かねたのか、先ほどまで聞こえており、今では聞こえてくるのがあり得ないはずの声が響いた。

 

「もういい頃合いじゃないかな」

 

「?」

 

「ん?」

 

二人は聞き間違いかと眉をひそめたが、次の瞬間、撃たれた跡だらけのウォールナットが起き上がった。

これには二人も目を見開いて驚いた。

あの量の銃弾を体に受け、なおかつこれだけの血を流しているにも関わらず生きているのであれば、それはもう人ではない。

 

そして、ウォールナットが頭を取ると、そこにはミズキの顔が。

 

「えぇ!?」

 

「!?」

 

着ぐるみの中から姿を現したミズキは、顔こそ少し赤くなっているが、とても元気そうだ。

しかも、ビールを所望している。

 

すると、運転席からビールが飛んできた。

 

...誰が投げたのだろうか。

 

「うぇ、ミズキ? ななななんで?」

 

千束が混乱するまま言葉を発していると、ミカが運転しながらマスクを外して千束たちの方を振り向いた。

 

「落ち着け千束」

 

「うぇーセンセー!?」

 

運転席にいるのは紛れもなくミカであり、着ぐるみの胸を叩いて「これ防弾、派手に血が出るのがミソね」などと言うミズキ。

未だに混乱している千束を置いて、たきなはこの状況を理解しつつあった。

 

要するに。

 

「ウォールナットさん本人は、別の場所にいて、最初から着ぐるみの中はミズキさんだった...?」

 

「お、頭の回転がはやいな」

 

「え、そういうことなの!?」

 

たきなの推理をミカが褒めたことで、確信を得たたきな。

そして、横で騒がしい千束。

となると、ウォールナットはどこにいるのだろうか。

 

と、その時、黄色のスーツケースが開いて、中から人が出てきた。

 

「追手から逃げ切る一番の手段は、死んだと思わせる事。そうすればそれ以上捜索されない」

 

そう言いながら出てきたのは、VRゴーグルのようなものをつけた、金髪の幼女だった。

が、ゴーグルをつけたままで出てきたので、外が真っ暗で手を彷徨わせている。

 

そこに、たきなが疑問を重ねる。

 

「では、わざと撃たれたんですか?」

 

「彼のアイディアだ」

 

ミカが左手だけを上げた。

 

「あーあ。最後はハリウッド並みの大爆発を用意してたんだけどな~」

 

そんなものを街中で爆発させるつもりだったのだろうか。

 

と、そこで千束が違和感に気付く。

 

「あれ、せっちゃんは?」

 

「ああ、彼女には別の依頼にあたってもらっている。街の依頼を無下にするわけにもいかないだろう」

 

「それもそっか...」

 

金髪幼女がようやくゴーグルを外したようで、二人の方を向いた。

 

「想定外の事態にもきちんと対処して、見事だった」

 

お褒めの言葉を貰っていた。

 

「え、つまりその、誰も死んでない、ってこと?」

 

「そうよ~」

 

ミズキの返答を聞き、千束は安心しきったように肩の力を抜いて笑顔を浮かべた。

それだけ、彼女の中で『死んでいない』という事実は大きいのだろう。

 

金払いがいいから張り切っている、というのはこういうことだったのか、と一人納得しているたきなだったが、やはり引っ掛かることがある。

 

刹那だ。

 

(彼女は基本的には、リコリコでは裏方を担当している。接客があまりにも無愛想だから、と言う理由で。そんな彼女に、街の依頼を一人でやらせるだろうか?)

 

とはいえ、これに関しては一人で考えてもしょうがないだろう。

たきなは、後でミカに聞いてみることにして、千束の方を見る。

 

千束は、依頼主が生きていることがとてつもなく嬉しいらしく、ウォールナットに抱き着いているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諸々が終わったリコリコ店内にて。

千束は未だに拗ねていた。

理由は、死を偽装するという内容について教えてもらっていなかったから。

 

だが、それもしょうがないことだろう。

千束は嘘が下手だ。

 

「いい加減機嫌を直したらどうだ」

 

「事前に教えてもらってもよかったんじゃないですかね~...」

 

カウンター席に突っ伏すようにしえうずくまっている千束は、低い声でミカにそういう。

それを見るたきなは、お盆を持って直立だ。

 

視線を正面に移せば、ウォールナットから支払われた金額を見て、ミズキがだらしない顔を浮かべている。

 

...いや、たきなの方からは顔は見えないのだが、どうせそんな顔を浮かべているだろう、という想像だ。

 

「だってあんた芝居下手だし。むしろ、たきなと一緒に自然な反応を見せていた方がいいじゃない?」

 

そう言って振り向いたミズキの顔は、意地の悪い笑みを浮かべていた。

だらしなくはなかったが、印象は悪くなった。

 

と、そこでミズキはスマホを取り出した。

そこに映っていたのは、それはもう泣き顔でひどい顔を浮かべている千束の顔だった。

 

「あ、あー! 何撮って、いつ撮ったのそれー!」

 

それを見て慌ててミズキの側に駆け寄り、スマホを取り返そうとする千束。

そんな二人を見ながら、たきなは、救急車の中から考えていたことを、口にした。

 

「やっぱり無理がありませんか。『命大事に』って」

 

思い返すのは、目の前で撃たれた、守るべき護衛対象。

 

あの時。

 

「あの時、二人できちんと動けていれば、今回のような結果にはならなかったはずです」

 

たきな言うことも正しいのだろう。

しかし。

 

「それだと、ミズキが困っていただろう」

 

そう言いながら店の奥から出てきたのは、白い和服を着た刹那だった。

 

「刹那」

 

「せっちゃん!」

 

顔を笑顔にして刹那に抱き着く千束を無視して、刹那はたきなの方を見て言葉を続ける。

 

「今回の依頼に限っては、の話だが。二人で確実に守られると、ウォールナットを死んだことにする、という作戦は使えなくなる」

 

「ですが...」

 

「それに、千束が『目の前で人が死ぬのを放っておけない』と言うだろう」

 

「お、せっちゃんも分かってきたなぁ!」

 

「私たちリコリスには殺人が許可されています! 敵の心配をしている場合では...」

 

それだけ言うと、たきなは黙ってしまった。

たきなの言うことはもっともだ。

敵の心配をして、トリガーを引く指が鈍っている間に、自分が撃ち殺されている可能性だってある。

 

たきなは、この中で唯一、リコリスとしては人外ではないのだ。

 

そんな中で、千束が手のひらを勢いよく合わせて音を出した。

 

「あの人たちは、今回は敵じゃなかった、ただそれだけだよ。誰も死ななかったのなら、よかったよかった」

 

千束の言うことも、理解できる。

彼らにも家族がいるのだろう。

そんな彼らの命を奪うことを、千束は良しとしない。

命を奪うのは、気分が悪いから、と。不殺を貫いている。

 

しかし、たきなは不服のようで、絞り出すようにつぶやく。

 

「そういう話じゃ、ないと思います」

 

そんな不穏な空気を、ミカが仲裁するように声をあげた。

 

「ほら三人ともやめろ。私たちもだますようなことをして悪かった」

 

そうしてカウンター席に置いたのは、三本の団子。

それぞれ味が違い、見た目もよく、数少ない来客たちにも人気の一品だ。

 

「あ~、センセ~甘いもので買収するつもり~?」

 

「いらなかったか」

 

「うぅ~ん食べます~。...たきな」

 

「?」

 

「座敷に座布団出してきて」

 

「はい」

 

先程まで言い合っていたとは思えない切り替えの早さで、たきなは奥へと歩いて行った。

そのあとを、刹那もついていく。

 

「私も手伝おう」

 

「ありがとうございます」

 

そのあとは、ウォールナット改めくるみが、リコリコに住むことになったり、たきなが青のヘアゴムで指ゴム鉄砲を作って千束を狙うと、ちょうど振り向いて避けられたりだとか。

 

色々あったものの、リコリコに仲間が一人、増えたのだった。

 

ちなみに、たきなのゴムはくるみに当たっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミカ、千束と刹那とここで、どんな仕事をしているんだい?」

 

「...」

 

千束たちがかわいいやり取りをしている間、刹那は、ミカと吉松の会話を盗み聞きしていた。

途中まではただの仲が良い二人の会話だった。

だが、このセリフの瞬間から、二人の空気が変わった。

 

「吉松...警戒しておくに足る人物だな」

 

記憶の中にある、おぼろげなアラン機関の男。

千束との共通点。そして、二人の名前だけ出して問いかけてくる男。

 

この男が、刹那はアラン機関につながると確信していた。




敵側の刹那とか見てみたい。

というかCB的には第三勢力が一番似合うのか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。