我輩は猫である。名前はいらない。何故なら名も顔も知らぬ誰かが勝手に付けていくからである。

我輩は家無し猫であった。人間はどうやら家無し猫のことを『野良猫』と、いうらしい。だが、一言、声を大にして言わせて…いや、鳴かせて頂きたい。


「なんだそれは…!」と。


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皆様、初めまして。新人のはぐれメンタルと申します。この小説は、体調不良のなか布団の上で寝っ転がりながら書いた、いわゆる見切り発車の小説でございます。長々と前書きを書き続けるのもあれなので本編どぞ。

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我輩は猫である。名前はいらない。

 

 

 

我輩は猫である。名前はいらない。何故なら名も顔も知らぬ誰かが勝手に付けていくからである。

 

 

 

我輩は家無し猫であった。人間は家無し猫のことをどうやら『野良猫』と、いうらしい。だが一言、声を大にして言わせて…いや、鳴かせて頂きたい。

 

 

「なんだそれは…!」と。

 

 

確かに我輩達には家はない。ないが、我輩達も「ぷらいど」を持って生きているのだ。だが野良猫と、猫に野良を付けるだけでまるで我輩達に「ぷらいど」なんてものはなく、日々を惰性で生きているように感じるではないか。

 

ふざけるんじゃあにゃ…ない。人間達にすり寄って自慢の毛並みを見せ、その対価に日々の糧を貰うのも。暖かい日差しのある高台のもと、優雅にくつろぎながら、手のひらから足の先までの身だしなみを整えるのも。我輩の『ナワバリ』に入ってくる不届き者がいないか確認しに行くのも。

 

 

すべては、「優雅」に、そして「華麗」に、さらに「美しく」、「たくましく」生きていくための行動なのだ。

 

…決して。そう、決して寂しかったり、うとうとしてたり、お散歩をしてるわけではないのだ。

 

 

 

さて、そんなある日の事である。我輩は人間に捕まってしまったのである。大ピンチなのである。

 

捕まってしまった理由は単純。数日間続いた雨でまともな糧にありつくことができず、また水に濡れて体温が奪われ弱っていたところを人間に発見され、連れ去られてしまったのだ。おーまいがー。

 

なんとか逃げられないか抵抗してみたものの、我輩は弱っている猫で、相手は水避けを片手に持っている我輩の4、5倍はある人間。抵抗虚しく連れ去られてしまったのだ。

 

自慢の毛並みの対価に糧を貰ってたことはあるものの、人間が住み処で何をしているのかは詳しくは知らない。ひょっとしたら我輩のことを食べる気でいるのかも知れない。非常にまずいことになったのだ。

 

そうこうしているうちにこの人間の住み処に着いてしまったようなのである。うぅむ、なんとか隙をついて脱出しなくては…。

 

 

どうやら、我輩を自分の住み処に連れ込んだこの人間はオスのようだ。だが、街を歩いてる他のオスと違い、どこか物悲しい雰囲気が漂っている。何故なのだ…?我輩達は悲しい事なんて一晩寝てしまえば忘れることができるのだ。糧を求めての闘争に負けたときも、親元を離れることになったときも。

 

だが、この人間は違う。少なくとも我輩を「ゆうかい」してから数日が経ったが、いまだに表情は暗い。我輩が元気になった時は涙を流すほどにはすごく喜んでいたが、それ以降喜ぶ様子を見せることはなかった。

 

 

我輩はなんとなくその理由が知りたくなったのだ。

 

 

まずは観察から始めるのだ。情報は力なり。どんな敵でも弱点はある。あの黒い鳥に襲われそうになった時は、きらきら光る冷たいナニカを投げれば、そっちに釣られてどっか行ってくれるらしい。これも情報なり。

 

…どうやらこの人間は毎日、人間の顔がでかでかと飾ってある大きな台の上に煙が出る棒を備えて、手のひらを合わせながら泣いているようだ。時おり、頭が眩しい変な毛皮をしている人間を呼んで、長々と鳴いているようだ。我輩、ある程度人間の言葉を理解できるが、この眩しい人間の言っている言葉は何一つ理解できなかったのである。

 

その台の観察をしていると、何故か浮遊感。しまった、我輩としたことが、人間に捕まったのである。

 

「…どうしたの?…あぁ、この仏壇が気になるのかい?」

 

人間は時おり、我輩に話しかけてくる。どうやらこの人間のメスの顔がでかでかと置いてあるこの台は「ぶつだん」というらしい…。

 

「…これはね、亡くなってしまった人を忘れないように、いつでも会えるように、そして亡くなってしまった人が安心して天国に行けるようにするためのモノなんだ。」

 

 

…人間の価値観はいまいち理解できないのである。我輩も動かなくなった同族を見たことはある。その同族はどうやら大きく、硬い、高速で動く箱のようなものにぶつかったようである。その同族とは仲がよく、いつも日向で毛繕いをしあう仲だった。確かに悲しかった。だが、この世界はそうしてまわっている。我輩達は鳥や虫を殺すが、それはやがて誰かの糧になり、それを喰らった者もまた、誰かの糧になる。そうしてこの世はまわっているのだ。だから我輩も、その同族の死体を見た時、一声だけかけた。それだけで充分だったのだ。

 

しかし、この人間はどうやらその悲しみを乗り越えられなかったらしい。

 

 

「…この人は僕の妻だったんだ…。両親は結婚に反対していたけれど、それでも確かに僕たちは愛し合っていた。両親の説得もできて、これからだね…って笑いあってたのになぁ…」

 

 

…どうやらこのぶつだんとやらに置いてある人間のメスの顔はこの人間の番らしかった。人間が泣きながら説明してくれた。

 

 

「…ホントはね、キミを拾ったあの日、僕も死ぬつもりだったんだ…。」

 

 

…どうやらこの人間はあの雨の日に死ぬつもりだったらしい。小雨のような声で呟いた。

 

 

「…でも、キミを見つけてしまった…。両目が傷ついて、雨の中で震えているキミを…。」

 

 

…黒い鳥に襲われ両目が見えなくなっていたのもバレていたようである。

 

 

「…ほっとけなかった。また、僕の目の前で誰かが死ぬのを見たら、たぶん自分で死ぬことも出来なくなっちゃう気がして…。」

 

 

…我輩そこまで弱くないのである。確かに両目は傷つき、腹は減って、体温も低かったが、死ぬことはないのである。

 

 

「…キミを見つけてすぐに病院に駆け込んだよ。お医者さんが言うには、危ない状況だったらしい…。その時だよ、久しぶりに心から『良かった…』って思ったのは。」

 

 

…びょういんこわいのである…。もういきたくないのである…。

 

 

「…その頃からかな。僕が一緒に行きたいって思わなくなったのは。」

 

 

…どうやらこの人間は自分で死ぬつもりはなくなったらしい。

 

 

「…だって、僕が死んじゃったら、キミ一人になっちゃうもん。そんな思い、もう誰にもさせたくないんだ。」

 

 

人間は微かに笑いながらそう言った。

 

 

「…でも、やっぱり、乗り越えるのはまだ無理そう…。だって、愛してたんだもの。二人で、これからだねって…。」

 

 

…この人間はどうやら泣き虫のようである。また泣いてしまったのだ。

 

 

「…ダメだね、このままじゃ、安心して天国に行けないよね…。うん…、まえを…、前を向かないとね…。」

 

 

…なにかを決意したようである。我輩の頭を撫でながらそう呟いた。…違う。そこじゃないのだ。もう少し手前なのだ。

 

 

「…でも、こんな広い家に一人だとふとした時に泣きたくなっちゃうんだ…。だからさ、お願いがあるんだけど…。」

 

 

…ここまできたのなら一つくらいそのお願いとやらを聞いてやってもいいのだ。「いっしゅくいっぱんのぎ」とかいうやつなのだ。

 

 

「…キミも……ここで暮らさないか?」

 

 

………

 

 

「キミと一緒ならきっと…また泣きそうになっても、踏みとどまれる気がするんだ…。」

 

 

 

…しょうがないにゃ…なぁ…

 

 

「にゃあ」

 

 

「…!………そうか…、ありがとう…!ありがとう……!!」

 

 

…また泣いちゃったのである。まったく、この人間は泣き虫なのだ。

 

 

「…泣いてばかりだね、僕。アハハ…。…そうだ、名前、名前を付けないと…」

 

 

…なまえ。

 

 

「…そうだな…なにがいい?」

 

 

…なまえ…なまえ…なんかしっくりこないのである。

 

 

「うーん…じゃあ、ありきたりだけど、『クロ』なんてどうかな?キミのことを考えてたら真っ先に浮かんだのが、その綺麗な毛並みだったんだ。」

 

 

…毛並みを褒められたのである。我輩ちょっと嬉しい。

 

 

「…じゃあ、クロ、これからよろしくね!」

 

 

…しょうがないのだ、この人間が立ち直れるまで付き合ってあげるのだ。

 

 

 

…ありがとう

 

 

 

…なにか聞こえた気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

我輩は猫である。名前はクロ。名も顔も知らぬ誰かが勝手に付けたこの名前を、我輩は気に入ったのである。




と、いうわけで立ち止まって読んで頂き、ありがとうございました。なにぶん、初投稿ということでなかなか読みづらかったり、機能をよく分かってなかったりでご不便をお掛けしたと思いますが、それでも最後まで読んでくれたあなたに感謝を。

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