文体とか文字数とか展開とか色々模索しながらやりやすい感じで適当になればいいと思っています。
よければ箸休めにちょっとつまんでみてはいかがでしょうか?
私こと鷺沼依子(さぎぬま よりこ)には、一人の気になる男子がいます。
中学からの腐れ縁で、私が今立っている歩道橋を普段からの通学路にしている彼は、私の存在に気付くとあからさまに嫌そうな顔になりました。
それでも私はめげたりしません。なぜなら、
「兵藤くん!今日こそおっぱいよりもパンツこそが至高だということに気付いてもらいます!!」
「朝っぱらからつきまとうな!毎度毎度うっとおしいんだよ鷺沼ァーッ!!」
こんな風に、全力で逃げ出す兵藤くんを追いかけながら神の与えたもう布地についての熱弁をふるうのが、私の毎朝の日課となっているのです。
その後、教室で兵藤くんも含めた変態チームに混じってパンツの布教をしようとしましたけれど、結局兵藤くんは未だにパンツよりおっぱい派のままでした。
松田くんと元浜くんには評判のいい私のネトゲアバターパンツ画像集も、見て喜びはするものの胸部装甲割増系衣装のほうが食いつきが良くて失敗しました。
「今日もまたパンツ派への改宗に失敗です……うーん、解せぬ」
私は独り言を呟きながら、帰ってきた自室のPCでネットゲームにログインします。
数年前に始めたそのゲームのタイトルはエミルクロニクルオンライン――略してECOといって、わかりやすく言うならパンツ特化ネトゲです。プレイヤーアバターの衣装はもちろん、人型の連れて歩けるペットキャラクターのパンツさえも細かく手が掛かっているまさにパンツ信者のためのゲームといったところです。
「フフフ……今日もナイスショットを取るために、いざコーデ模索とロケーション探索の旅路へ!」
ログイン画面に居並ぶ可愛く着飾った少女達のアバターを前に、興奮が抑えられません。
ログインするキャラクターを選んで、クリック。そうすると私が選んで着せた衣装で全身喜び表現をしてくれます。くるりと回るここが脳内シャッターチャンス――よし、見えた!
なんて喜んだのもつかの間、突然部屋が真っ暗になりました。同時に今まで映っていたPCの画面も一瞬で消えて、後に残ったのは私の滾る心だけ。
なんで?どうして?と思っていれば答えは窓の外から光と音で自己主張。ああ、本来の意味での青天の霹靂で停電――自然現象には勝てないですね、等というとでも思いましたか!
「私のパトスの行き場所を返して――!!」
叫んだその時、不意にPCの画面が灯りました。もう復活したのかと振り向けば――にゅるりと画面から人が現れました。そのままぼてりと落ちたかと思えば続いてもう一人、更に一人、折り重なるように出てきます。その間私は間抜け面で見守っていただけでしたとも。
三人目を吐き出し終えたPCは再び画面を消し、沈黙しました。後は外からゴロゴロという音と、出てきた三人組が呻く声だけです。
「あいたた……」
「うう……」
「ふにゅうう……」
なんかあざといのが混ざってますね、と思いながらよくよく見てみると――なんだか、見覚えがあります。っていうか、つい今しがた画面の中から手を振ってくれてましたよね?
「……キキョウ?サクラ?ヒマワリ?」
恐る恐るネトゲのキャラの名前を呼んで見れば、それぞれが反応して、顔をこちらに向けてきました。それから顔を喜びいっぱいに輝かせて、
「主様ー!」
「マスター!」
「お姉ちゃーん!」
三人まとめて飛びついてきたのでした。
ネットゲームから自分のキャラクターが現実世界に現れる。そんな不思議な出来事から早いもので一週間ほどが過ぎました。
その間も、私はいつも通りの生活を送ります。変わったのは、少しアクセサリーが増えたこと。
現実世界に現れた私のキャラクター三姉妹――サクラとヒマワリとキキョウですが、そのまま放置するわけにも行きません。実家暮らしである私にとって、両親に心配と迷惑をかけることは大きな問題になってしまいます。
なので、彼女達にはECOのゲームシステムの一つ、憑依をしてもらうことになりました。
キャラクターを装備に憑依させることによって装備者の能力を底上げする、という実に有難いシステムなのですが、とりあえず今回は私ですらいつ買ったかも覚えていないようなネックレスとブレスレット、それと普段使いの鞄にそれぞれ憑依してもらいます。こうすることで少なくとも人目につくことは殆どありません。
実は一回服に憑依してもらったのですが、その結果かわいらしい女の子の絵柄が入った痛々しい服になってしまったので急遽目立ちにくいものに変更した次第です。
さらに彼女達には部屋以外で外に出てはいけないと言い含めたところ、素直に頷いて聞いてくれました。その様子があまりにも天使過ぎたので、あやうく昇天するところでしたとも。
そんなわけで今日も長女サクラをペンダント、次女ヒマワリを鞄、三女キキョウをブレスレットに憑依してもらっています。
ところで、三姉妹が来たおかげでこのところ兵藤くんをはじめとした三人組とは一緒に語り合うことが出来ないでいます。彼らには現在少し忙しいと言っているので深く突っ込んではきませんが、そこに若干の心苦しさを感じています。早いところ落ち着けるようになれるといいのですが。
もっとも兵藤くんも彼女が出来たとかで三人の中でも別の存在になりつつあるみたいで、ちょっと調子に乗って居る感じです。なんでも今日はデートするんだとかで少し相談に乗ってあげたのですが、何度もおっぱいおっぱい連呼していたので、とりあえず自重するようにとだけ言っておきました。でもきっと自重はできないと思います。デート初日なのにおっぱい揉ませて位は平気で言いそうです。
そんな兵藤くんの様子を見に行くとかではないのですが、なんとなく散歩に出ている私がいます。べ、べつに兵藤くんのことが心配なんじゃないんだからね!とかツンデレるわけでもないのですが、どうにも不安が沸き起こってきているのです。
デートコースの最後に行くといいかも、とアドバイスしておいた公園へと足を運んでみれば――妙な胸騒ぎがします。自然と足が速くなり、気付けば駆け足で公園の噴水のある一角へとたどり着いて、
「死んでちょうだい」
黒い羽の生えた露出過多な女の子が、兵藤くんの腹に赤い光の槍を突き立てていました。
なにが起こっているのかわからないけれど、兵藤くんは血を吐いて仰向けに倒れ、お腹には大きな穴があって――
「あら……あなた、イッセーくんのお友達ね?まずいところ見られちゃったわね……あなたにも、死んでもらうわ」
赤い光の槍が振りかざされて、私に向かって一直線に飛んできました。
スローモーションになる視界のなかで、だけれど私は兵藤くんから目を逸らすことができなくて、そうしているうちに私の体にも赤い光の槍が――
『お姉ちゃん危ない!!』
鞄からヒマワリの鋭い声がして、私の体を光が包みます。これは私の思い違いでなければECOのスキル、リフレクションじゃないでしょうか?
なんて考えていると、思ったとおりにリフレクションと同じ効果――『相手の魔法を反射する』が発動して、赤い光の槍が私の体にぶつかる寸前で巻き戻されたかのように返って行きます。
「なっ!?……あなた、一体何者!?」
返って行った赤い光の槍を相殺しながら、黒い羽の女の子がこちらを睨んできました。なんというか、殺気といえばいいのか……よくわからないけれど、強い敵意のようなものが感じられて、吐き気がしてきます。
ふと気付くと、私の右手のひらの中に光る何かがありました。丁度手で覆うことができる程度の大きさで、暖かくてなじむような光です。
私は無我夢中のまま光を握り締めて、理解できない中でも何かにすがり付くように想います。こんなところで死にたくない。だけど、それ以上に――
「兵藤くんにも、死んで欲しくない――!」
思わず口に出た瞬間、手の中の光が強く輝いて、更に実体を持って重みになりました。
目の前の黒い羽の女の子も強くなった光を眩しそうに手でさえぎりながら、セイクリッドなんとかがどうしたと呟いています。
本当に、なにがなんだかさっぱりわかりません。ですが、
「わからなくても、感じます……お願い皆、力を貸して!」
ネックレスと鞄と腕輪。その全部に声をかければ、短くも頼もしい声が返ってきました。そして、できるという確信が沸き上がります。想いを込めて右手を掲げれば、
『Soul Change!!』
右手の光から声がして、後ろに引っ張られるような感覚がします。それと同時に誰かが目の前に割り込んできたような――だけどそこにあるのは見慣れない私の後姿。
私がここにいるのに目の前に私がいる理由は、今の私にはわかります。そして、その私が一体誰なのかということも。
『Left-hand Guardian!!』
私の体は左手からも広がった光に包まれます。一瞬見えなくなり、そして再び現れた時は全く違う姿になっていました。
それは三女キキョウ――私がECOで敵と戦うときに、最も信頼して前衛を任せられるキャラクターの姿。彼女になった私には、藤色の長髪をなびかせて、白と赤を基調とした布を纏った鋼鉄に身を包んだ、三対六翼の赤黒い悪魔のような羽と小さな鉤爪のついた尻尾がありました。
盾を持ち、もう一方に手にした細剣を対峙する相手に突きつけて、
「主様には、指一本触れさせません!!」
キキョウは頼もしく宣言したのでした。