ハイスクール D-ECO   作:豚派

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この作品においてのECO勢は、ECOで実力があってもそう上手くいくわけではないという方向で進めて行こうと思います。
つまりは、こういうことです。



娘、実力見せます!

 

 兵藤くんが部長さんの下で悪魔の下積みをはじめてから数日が過ぎました。

 

 その間も私は特に用事とかはなかったのですが、一応堕天使対策に部室には毎日顔を出しておいた方がいいとのことだったのでお言葉に甘えています。ちなみに、サクラたち三人も毎日一緒です。

 

 両親に概ねの素性がバレて以降、彼女達もかなり自由に過ごしていました。隠し通せるとも思えなかったので正直にネトゲのキャラが画面から出てきたと伝えれば、驚くどころか孫同然の存在だと喜び構うようになっています。ごまかす為に吐いた嘘も軽く許してくれたので、本当に頭が上がりません。

 

 もっとも、本来ならそうしてサクラたちのゆっくりできる場所が出来たのですから家に居てもらえばいいとも思ったのですが、本人達の希望と両親からの連れて行けばいいじゃないという有難いお言葉を貰ってしまいました。なので最近では、通学路に私と兵藤くん、それから娘達という組み合わせでの登校が日常となっていました。

 

 

 

 さて、このところチラシ投函という地味なパシリ業務をしていた兵藤くんですが、ついにクラスチェンジをするらしいです。

 

 つまるところ、悪魔として欲望滾らせる人々と契約するお仕事になりました。

 

 友人の昇進ですからそれはそれで喜ばしいことだとは思うのですが、契約を取るために魔法を使って転移とやらをしていくはずが、魔力とかがなかったせいで泣きながら走っていったのがつい先ほどのことです。

 

 当然ですが、指差して笑いました。ヒマワリあたりが真似し出したらちょっと不味いかなとは思いましたが余りの不意打ちだったので、つい。

 

 まあ私と兵藤くんは気の置かないそういう間柄なのでお互い気にも留めないでしょう。次に私が無様なことになれば兵藤くんが指差して笑ってくるでしょうから、その指を掴んで圧し折るイメトレに入ります。紐切り気分で少し動きを体に馴染ませるために数度やってみれば、周りがまた引き気味で見ていました。それもコレも兵藤くんのせいです。

 

 そんな感じで、微妙に壁の感じる部室の隅でキキョウをもふりながら癒されていると、部長さんに呼ばれます。

 

「貴女の連れの子達――サクラちゃん、ヒマワリちゃん、キキョウちゃんのことなのだけれど」

「なるほどわかりました、当然あげませんよ?」

「何もわかってないじゃない……あの子達なんだけれど、戦闘には参加できるのよね?」

 

 そこまで言われて、何の話かこんどこそわかりました。部長さんには既に私が堕天使だけではなく妙な神父にも狙われていることを伝えてありますので、

 

「――この子達が私の身を守れるか、ということですね?」

「ええ、そういうこと。口約束とはいえ契約した以上私達もできる限りは貴女のことを守れるようにはするけれど、それでも常に一緒に居ることはできないわ。だから、もしもの時にあの子達が戦えるのならそれに越したことはないと思うの」

「それと、悪魔の味方としての戦力にもなるか、ということも含んでいるのではないですか?」

 

 私が指摘すれば、部長さんは苦笑い。それは肯定を含む反応ということで、間違いないでしょう。

 

「そうなるとしても、先に連絡を入れてそこから話し合いで決めるつもりよ。何にしろ一度は貴方達の実力を見ておけば、こちらとしても助かるのよ」

 

 そう言いながら、部室で思い思いに過ごしている娘達を見る部長さん。その目はちょっとだけ、見定めるような冷徹さを含んでいます。

 

 娘達もその視線気付いたようで、私がもふっているキキョウを除いた二人が寄ってきました。キキョウも含め、その顔は部長さんの視線の色からかどことなく緊張気味です。でもその真面目な顔も可愛いのでくっついているキキョウを抱き寄せる腕をさらに強め、ついでに頭に手をやって撫で繰り回しました。うろたえるうちの子もめっちゃ可愛いです。

 

「……相変わらずブレないわね、貴女」

 

 部長さんがなんか言ってますが、無視です無視。

 

 

 

 所変わってここは旧校舎の傍、木々に囲まれた鬱蒼とした場所です。今は日が沈んで悪魔がはしゃぎまわるような時間なので、ぶっちゃけほとんど真っ暗になっています。周りの悪魔の方々は夜目がきくらしいですが、私はただの一般ピープルなので当然そんなものききません。ちなみにサクラを初めとした三人は、ECOにおいて暗いところで活動したりもするのである程度はきくみたいです。

 

「それはおいときまして――実力ってどうやって把握するんです?」

「まずはちょっと模擬戦感覚で動いてみましょう。キキョウちゃんの戦闘は少しだけなら見ていたから、祐斗と手合わせをしてもう一度確認させてもらえるかしら?」

 

 部長さんが言えば、木場くんがイケメンスマイル携えて一歩前に出ます。いつの間にかその手には剣が握られていました。もういつでも準備万端でございます、って感じですが残念ながら私はそこに水をささなければいけません。

 

「あー、申し訳ないですけど部長さん。私達は諸事情で『一日一回、三人のうちの誰かと、時間制限あり』という内でしかまともに戦闘できないんです」

「あらそうなの……継戦能力皆無ってことね、本当に厄介な神器だわ」

 

 部長さんが頭を抑えながらため息をつきます。これであの真っ白少年神父を返り討ちにしなければいけない私だってため息をつきたいです。

 

 お察しの通り、先日兵藤くんが襲われてる時も戦えたのはキキョウだけで、さらに時間切れでぶっ倒れたと言うわけです。最近色々と試した結果、他にできることはいわゆる中出し――もとい、憑依時使用可能スキルならなんとか使えなくもない、と言ったぐらいでしょうか。完全憑依とこっそり呼んでいる神器の力を使っての肉体入れ換わりにしろ憑依時スキルの使用にしろ、使えばその娘がしばらく休眠状態になるみたいで、本当に使いづらいことこの上ないです。

 

 ともかくそんなわけで、

 

「今日のところは部長さんが一番能力を知りたい娘を指名してください」

「そうねぇ……なら、支援役と言っていたサクラちゃんにお願いしようかしら」

「わかりました――サクラ、お願いね」

『了解です、主様』

 

 意識をすれば左手に軽い重み。光るマウス型の神器がそこにありました。

 

 ちなみに右手装備枠のヒマワリ憑依用文庫本が届いたので、それを手放さなくてもいいように左手でマウスを扱う技術を数日かけて頑張って会得しています。指が何度吊った事か思い出したくもないですが、それでも何とか扱える程度にはなりました。

 

 さあ、あとは神器の発動だけです。サクラに体を明け渡す、そう意志を込めて左手を前に。

 

 

 

『Soul Change!!』

 

 

 

 ぎこちない動きでマウスを掴む私の左手の内から光が放たれます。そのまま視界が遠くなるような、同時に目の前に割り込んでくるような不思議な感覚を覚えると、

 

 

 

『Neck-lace Cardinal!!』

 

 

 

 私が変じたサクラ。纏っているくすんだ白と赤、そしてこげ茶を基礎とした法衣は、前と後ろに分かれたロインクロスとなっていて目を引きますが、全体的には露出はさほど多くありません。そしてヘアバンドには基部の細かい金細工に赤い宝玉がはめ込まれて、とても豪華なものになっています。そして腕や腰などに嵌められた金のリングもあり、全体的に落ち着きながらも派手とも取れる見た目ですが、まるで後光のように自己主張している翼がそれを上塗りしていました。青白く淡く輝く六枚の翼。さらにその周囲には白い羽のが煌きながら舞い散って、服の装飾までが俗らしさよりも神々しさが引き立つほどです。

 

 その姿がどれほどのインパクトを見るものに与えるかということは、周囲の反応から容易に察することができました。

 

「まさか、サクラちゃんの本来の姿がこんなにも光の力に溢れていたなんて……」

「部長!大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫よ……祐斗と子猫はどうかしら」

「僕は何とか動けます」

「私も……」

 

 つまるところ、悪魔には刺激が強かったようです。そういえば悪魔は光の力に弱いとかなんとか言ってましたね。光の羽根が散る見た目エフェクトが付与される天使の宝珠とか趣味でつけていたばっかりに、余計に大惨事になっています。

 

『ええと、その……すみません、サクラは光属性得意なもので』

「気にしないで。天使に似た種族とは聞いていたのだから、予想して然るべきだった事態よ」

 

 サクラの放つ光の気配が強いので、近くにいるだけで気分が悪くなり頭も痛むのだとか。

 

「主様、悪魔って、本当に難儀な生き物ですね」

『その難儀してる原因が何を言っているんですか……』

 

 悪魔勢からの視線に若干居心地悪そうにするサクラ。普段から少しきつめの顔をしているせいでうまく隠れていますが、内心先ほどまで仲良くしてもらっていた人たちに拒絶されているように感じているみたいです。まさか完全憑依に心の中がほんのり判る効果があるとは娘達も思うまいて!というわけで後で珍しくしょんぼりしたサクラを盛大に構います絶対にだ。

 

 さてそんなところで早速サクラの性能把握になりますが、なんとなくいやな予感がします。なのでサクラには誰かを対象にするのではなく少し外した箇所を目標するように、そして手加減するように伝えました。

 

 だというのに、初っ端からでした。

 

「セイクリッドエンプレイスッ!」

「そ、総員退避――ッ!!」

 

 手心加えた地面指定の範囲回復スキルが展開された魔方陣から発動する瞬間、膨れ上がった光に周囲のオカルト研究部員が一斉に逃げ出します。後に残ったのは、ため息を吐くサクラと、空しく響く体力の回復音だけでした。

 


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