もう1シーンほど書こうかとも思いましたがどうにも上手くいかず断念。
目が覚めると、そこは見慣れた私の部屋でした。
目覚ましは止まっていて、少し起きる時間が遅かったのはありますが、それ以外はいつもと変わらない朝です。昨日あったことなんて、全く存在しなかったかのように思えます。
そう――あれは、本当は夢だったんじゃないでしょうか。
公園で黒い羽の生えた兵藤くんの彼女と私になったキキョウが戦って、兵藤くんが死んだなんて、そのほうが夢らしく思えます。
そう、あれは夢。悪い夢――だと、思いたかったのですけれど。
右手に、軽い重さがありました。見てみれば、それはPCのマウス。ケーブルが無いので赤外線かブルートゥースあたりかもしれません。
でも、それは違うと確信が持ててしまいます。これは、夢だと思いたい出来事の際に手の中で光っていた何かだと、見ただけでわかってしまいました。
これがある、ということは昨日のだと思いたい出来事も、きっと現実なのでしょう。
つまり、兵藤くんは、もういない。
そう考えるだけで、急に体が気だるく重くなってきます。月のあれにも匹敵する辛さは、友達一人亡くしたと考えれば妥当なのかもしれません。
とりあえず今日は、もう少し寝ていたい。そう思って、再び布団に沈みます。
でも、目を瞑っても昨日の光景のフラッシュバックばかり頭に浮かんできました。
何もかも赤色でした。兵藤くんの血も、あの彼女さんが手に持っていた光の槍も、そして最後に現れたリアス先輩の髪も。
しばらく、赤色は見たくないと思いました。
布団の中でぼんやりとしていれば、お母さんに呼ばれてたたき起こされました。どうせ夜更かししていたせいでしょう、と言われましたが、本当のことは言えなかったので適当にごまかします。
だけれどそのごまかし方と、あまりに食欲が無くて水とヨーグルトくらいしか食べられなかったのが両親に心配をかけてしまったみたいです。
真実は心の中に仕舞いこみます。辛くても、私は頑張ります。
朝食ともいえない、ほんの少しの食べ物をお腹に入れて、部屋に戻って学校へ行く支度です。
今の時間、サクラは起きていますがヒマワリとキキョウはたいてい眠っています。
サクラに朝の挨拶をして、三人が憑依したままのペンダントとブレスレットを付け、鞄を持ちました。ちなみに妙なマウスはいつの間にかどこかへ行っていました。捜せば布団の中にあるかもしれませんが、今はほうっておくことにしました。
準備は万端。あとは、兵藤くんの居ない通学路を歩くだけ。
少し目尻に涙が浮かびました。それを指先でぬぐって、勢いよく振り払って、
「いってきます!」
あえて、大きな声で挨拶をしたのでした。
普段よりも遅い時間の通学路は、普段よりも人が多く行きかっていました。
その中を、今落ち込んでも何にもならないことはわかっているので、意識して前を向いて歩きます。
昨日のことが何だったのかは、きっとリアス先輩が教えてくれるのでしょう。
それを待つ間は昨日のことは忘れておきます。だから今の私はただの女子高生。
昨日よりちょっと調子は悪いけど、今日も学業に邁進します。あと、パンツの布教。
そういえば、昨日からパンツのことを殆ど考えていないことに気付きました。
これではいけません、むしろチャンスでしょう。
あのおっぱいに傾倒していた兵藤くんが居ない今、松田くんと元浜くんをどんどんパンツ派に傾かせることができます。
なんということでしょう、兵藤くんが死んだ今こそ最大のチャンスだったとは。兵藤くんに何の罪もありませんが、今は不謹慎ながらも喜ばせてもらいます。
ということで教室に着きました。扉をがらりと開けて、いざ偉大なるパンツ千年王国の第一歩!
「ん?おー鷺沼、今日はどうしたんだ?珍しく朝居なかったから逆に挙動不審になっちまったじゃねーか」
松田くんと元浜くんと共に、また何か新しいグラビア雑誌か何かを読んでいる兵藤くんが、挨拶をしてくれました。
――WHY?
生きてる?それじゃあ昨日のことは一体?もしかしてやっぱり夢?
などと色々一気に駆け巡りましたが、とりあえず今やることは唯一つ。
兵藤くんのところへと駆け出して、飛び込んで、
「パンツ千年王国のために死んでくださいっ!!」
「結局朝っぱらからトチ狂ってるんじゃねーかお前はッ!!」
全力のダイブから繰り出す右手の一撃は、あっさり兵藤くんに避けられたのでした。