side 炭治郎
鬼が出るから泊っていけと言われ、麓のおばあさんの家で一夜を明けた。
鬼とは何だろう?
疑問に感じながらも家に向かって歩いていた。
「泥海男兄さん、熱が下がってるといいけど」
自分が出かける前はかなりの熱だった。一応熱さましの薬は町で買っているので、帰ったら飲んでもらう予定だ。それでも治らないときはちょっと大変だけど担いで医者の元まで連れて行こう。
「あれ、なんだこの匂い、鉄臭い……」
家に近づくにつれ異臭が鼻についた。家までもう少し距離があるが、嗅覚がすぐれているため臭いを感じ取った。
間違いない、自分の家から臭いがきている。
「一体何が」
不安になり少し足早に家に向かう。
家にたどり着くと、待っていたのは悲惨な状況だった。
「そ、そんな、なんで」
家の中をのぞくと、家族だった者たちの亡骸がそこにあった。あたり一面は血だらけで、痛々しい姿が広がっている。
「母さん、竹雄、花子、茂、六太、なんで、なんでなんだよぉおおお」
泣き叫びながら骸になっている家族たちに近寄る。冷たくなっている体に抱き着き、更に悲しい気持ちになる。
そこで気付く。
「禰豆子と泥海男兄さんがいない」
一縷の望みをかけて外に飛び出し二人を探す。
少し離れた場所で、真っ赤に染まった場所があった。泥海男兄さんがきていた服がそこにある。
「泥海男兄さん」
もしかしたらそこに泥海男がいるかもしれない、そんな気持ちをもとにそこに走っていく。
「そんな、こんなことって……」
泥海男の服の周りには、肉片が飛び散っていた。もはや人とは認識できないほど無残な状況であるが、泥海男の服の近くにバラバラに肉片が飛び散っている事から、それが泥海男だと認識した。
「ひどい、誰がここまでひどいことを……、ね、禰豆子はどこだ、禰豆子」
あたりを見渡すと、少し離れた場所に禰豆子が倒れているのを発見した。
「禰豆子!」
慌てて駆け寄る。禰豆子に近づいて抱き寄せる。
「あったかい、まだ息もある!」
生きていた、禰豆子はまだ生きていた。これほど嬉しいことはない。だが、怪我もひどい。血だらけだ。禰豆子を急いで担ぎ上げる。
「がんばれ禰豆子、すぐにお医者さんに連れて行くからな」
俺は禰豆子をおぶって、急いで医者のもとに連れていくべき走り出した。
遠くでは肉片が少し動いている事には気付かずに。
side out 炭治郎
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真っ暗な意識からふと目を覚ました。ぼーっとする頭を振り意識を覚醒させる。
「一体何が……」
ふと自分の服を見てみると血が大量に付着していた。すぐさま立ち上がってあたりを確認する。
「そうだ、俺はあの男に殺され……なんで生きてる俺?それに、腰曲がりと背中曲がりが治っている」
確実に自分の体は爆散したはずだ。爆散した記憶はしっかりと自分の脳裏にこびりついている。おぞましい記憶だ。ものすごい痛みを思い出し、思わず顔を顰めてしまう。あんな思い二度とこりごりだ。
「そうだ、みんなは無事なのか!」
急いで家に向かう。が、希望むなしくそこには亡骸があるだけだった。
「あぁ、またか、また俺は家族を失ってしまった」
一滴の涙が頬を伝う。ゆっくりと家族たちに触れていく。冷たさを感じ、あの暖かい日々が失われたことを実感した。
ふと背後に気配がした。振り向いてみるとそこにはイケメンの男が立っていた。
「誰だ?」
その問いかけにイケメンは答えない。代わりにものすごい形相でこちらをにらみつけている。
お互いに視線を合わせたまま硬直状態が続く。
しばらくするとイケメンが呟く。
「お前がこの家族を殺したのか」
「何を言っている?」
「とぼけるな、鬼だな」
そういうとイケメンは腰に下げている刀を抜いた。水色のきれいな刀身だった。
どうやらこのイケメンは俺を鬼だと思っているらしい。尋常じゃない殺気にちびりそうだ。
「待て、俺は鬼じゃない。何故そう思ったのかわからないが俺は鎮江泥海男、その物騒な刀を取りあえず収めてくれないか?」
「鬼は平気で噓をつく。さっきバラバラの肉片から復活した姿を見た。お前は鬼だ」
取り付く島もない。さっきから殺気がすごくてちょっと漏らした。
「本当に待ってくれ、おれのはなしを、」
「斬る」
一瞬だった。突然姿が消えたと思ったら、俺の首は自分の体から離れていた。痛い……。
またしても死ぬのか。何回死ねばいいんだよ。女神、ここには救いというものはないのか。
のんきなことを考えながら、再び俺は意識を手放すのだった。
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side 炭治郎
走る、走る、走る。
とにかく走る。一刻も早く禰豆子を医者に診せたかった。
禰豆子を負ぶって走っているため、とてつもない疲労感が自身を襲っているが、そんなことを気にしている場合ではない。自身の気持ちに鞭を打ってとにかく走っていた。
「はぁ、はぁ、ねづこ、きっと兄ちゃんが助けて見せるからな」
たった一つの希望、それを無くしてなるものか。
ある時、背中がもぞもぞと動く気配がした。
「ね、禰豆子! 気付いたのか」
嬉しさとともに禰豆子に声をかける。後ろにいた禰豆子はパチッと目を開けると、恐ろしいほどに暴れだした。
「ど、どうした禰豆子、暴れるな、怪我をしてるんだおとなしくしてくれ」
おとなしくしていてほしかったが、そんな願いもむなしく禰豆子はさらに暴れだし、とうとう俺は転んでしまう。
「ごめん、禰豆子、だいじょ」
禰豆子を気遣い近寄ろうとしたところで、突然禰豆子は襲い掛かってきた。
「どうしたんだ、やめろ禰豆子」
恐ろしいほどの形相。こんな禰豆子は見たことがなかった。恐ろしいほどに八重歯は発達し、まるでその姿は鬼のようであった。よだれがあふれかえる禰豆子に嚙みつかれそうになる。とっさに俺は腰に掛けていた斧の柄で、噛みつかれるのを防いだ。
「やめろ、どうしたんだ、正気に戻ってくれ禰豆子」
恐ろしい力で禰豆子は俺を噛みつこうとしていた。こんな力、禰豆子にはなかった。どうなってしまったんだ。鬼になってしまったのか。
必死に抵抗しながら、正気に戻ってほしくて必死に呼びかける。このままでは力負けしてしまいそうだった。
「お願いだ、落ち着いてくれ禰豆子」
「うううううううう」
だらだらとよだれを垂らしながら今にも噛みついてきそうだった。
しかし、ふと気づく。禰豆子は涙を流していた。苦しそうに、何かを耐えるように。
「禰豆子、お前」
禰豆子にはまだ心が残っているそう感じた。
突然の出来事だった、禰豆子が誰かに吹き飛ばされた。いつの間にかやってきていた男の人に蹴飛ばされたらしい。その男はそのあとすぐに禰豆子のもとに向かい、あっという間に禰豆子を組み伏せ、刀を首元に添えていた。
本当に一瞬の出来事に唖然としたが、禰豆子が殺されそうになるのを見てすぐに我に返る。
「やめてください、禰豆子を離してください」
「こいつは鬼だ、ここで斬る」
「禰豆子は俺の家族だ、妹なんだ」
「一度鬼になってしまえば、こいつは人を食らう化け物だ。殺すしかない」
このままでは禰豆子は殺されてしまう。そんなのはだめだ。禰豆子はたった一つの希望なんだ。俺に残された最後の大切な家族なんだ。失うわけにはいかない。
「お願いします、禰豆子を殺さないでください」
地面に頭をこすりつける。土下座をしてお願いする。何とかして禰豆子を助けたい。
「生殺与奪を他人に委ねるな!!」
突然の咆哮。男はすごい形相でこちらをにらみつけてくる。
「このぐらいの逆境を跳ね返せずして鬼となったものを守り抜くなどできるものか。それほどまでに鬼となったものはどうしようもない存在なんだ」
「それでも、禰豆子は、俺のたった一人の大切な家族なんです、妹なんだ!」
「……跳ね飛ばして見せろ、この逆境を。証明して見せろ自分自身で俺から助け出すことで」
その言葉を聞いて俺は禰豆子を助けるために動き出した。どんな手を使ってでもいい。持ちうる力をもって禰豆子を助けるんだ。
色々なことを試みつつ男に向かって攻撃をして突進する。しかし、無情にも力及ばず、男の攻撃で意識を刈り取られるのだった。
side out 炭治郎
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side 冨岡
立ち向かってきた男の意識を刈り取った後、突然回転して迫ってくる斧を紙一重でかわす。いつの間に斧を投げていた?
あの絶望的な状況下の中でここまで計算してこの男は攻撃を仕掛けていたとでもいうのか。
わずかながら驚かされた攻撃に気が緩んだのがいけなかった。鬼はその隙を見逃さず俺から逃れてしまったのだ。
鬼は一目散に今倒れている俺が意識を刈り取った男のもとへと向かっていた。
まずい、飢餓状態の鬼にあいつが食われてしまう。
自分の失態に情けなくなる。急いで刀を構え向かおうとしていた時に、信じられない光景を目にした。
鬼が人間をかばってこちらを威嚇していた。
「鬼が人間をかばった?」
まるで自分からその存在を守ろうとでもしているようだ。実際に守っているのか?ありえない。
「家族の、絆?」
そんなこと、ありえるのだろうか。本当にこの鬼は家族を守っているのか。家族として認識しているというのか。
俺は賭けてみたくなった。この鬼とこの男の家族の絆に。ゆっくりと刀をしまう。とはいっても、警戒は怠らない。鬼がいつ変貌して男を食うかわからないからだ。いつでも拘束できるように準備はしていた。
ふと気配を感じた。誰かが近寄ってきている。焦っているのか走って向かってきているようだ。
「禰豆子!」
気配がした方から鬼を呼ぶ声がした。その姿を見て驚きが隠せなかった。現れた男は、先ほど自分が首を切って殺したはずの鬼だったからだ。何が起きているんだ。
「禰豆子、よかった、生きてたんだ。本当に良かった」
少しばかりパニックになっていたため気付かなかった。その男は鬼に近寄っていた。我ながら本当に情けない、失態続きだ。
「やめろ、安易に近づくな」
こちらの制止も聞かぬまま、男は鬼に抱き着いた。飢餓状態の鬼に刺激を与えて何が起こるかわからない。本当に失態だ。しかし、そんな不安もさることながら、男に抱きしめられた鬼はおとなしくなっていった。まるで、安心できる何かを見つけたみたいに、その男に身をゆだねていたのだった。男も愛おしそうにゆっくりと髪をなでている。
「……本当に、どういう状況なんだ」
わけのわからないまま、その光景を眺めることしかできなかった。
side out 冨岡
似ているようで、似ていない。