そんなに人生甘くないよね   作:ジャイリ

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踏み込むのは危険だが、そうしないといけないときもある。


ごめんなさい

 黒子、もとい隠とよばれるものたちによって運ばれた俺は、おそらく蝶屋敷という場所に連れてこられていた。

 

「ここが蝶屋敷だ。後はがんばれ」

 

「あ、うん、ありがとう。君たちも頑張ってね」

 

 そういうと隠の人たちは消え去った。すごいな、どうやったらあんなに早く動くことができるんだろう。義勇といい隠といい、鬼殺隊という組織は化け物たちの集まりなのだろうか。

 

「ごめんくださーい」

 

 とりあえず玄関を開けて誰かを呼ぶこととする。すると三人の女の子がやってきた。

 

「「「どちら様ですか?」」」

 

「えっと、鎮江泥海男です。ここ蝶屋敷であってるよね?そこに行くように言われているんだけど」

 

「「「鎮江さん、ようこそ蝶屋敷へ、伺っておりますのでご案内します」」」

 

 そういうと三人の女の子は俺を招いてくれた。

 

「ありがとう。えっと、君たちのお名前は」

 

「きよです」

「すみです」

「なほです」

 

 きよ、すみ、なほか。うん可愛いな。禰豆子成分がない分思いっきり可愛がりたい。

 

 三人の女の子についていくと、客間であろう場所に連れてこられた。

 

「「「ここでしばらくおまちください」」」

 

 お辞儀をして三人は去っていく。可愛い。小さいのにしっかりとしてるなぁ。

 

 しばらく待っていると、こちらに向かっている人の気配を感じた。強そうなオーラだ。義勇クラスか?

 

「お待たせいたしました。ここの蝶屋敷の主、蟲柱の胡蝶しのぶです」

 

 丁寧にお辞儀をして部屋に入ってきたのは見惚れるほど可愛い女の子だった。

 

「これはこれはご丁寧に。鎮江泥海男と申します。お館様?でいいのかな。その人に言われて蝶屋敷にやってまいりました」

 

 思わずつられて丁寧にお辞儀をする。可愛い女の子の前だと緊張しちゃうのは男子の性だな。

 

「お伺いしております。簡単な検査をさせていただきますが、それ以外はゆっくりと過ごしてくださいね」

 

 笑顔でこちらに向かってそう言った。

 

「……」

 

 あぁ、これはダメだ。きちんと向き合って胡蝶しのぶという存在を見てしまうといやでも気づいてしまうことがある。

 

「……それはありがたい、ゆっくりさせていただきます」

 

 彼女の眼は、とてつもない闇に飲まれていた。とても気持ちの悪い張り付いた笑顔。じっくりと見てしまうと、ありとあらゆる感情が読み取れてしまった。こいつの眼は、自分の命を軽く見ている眼だ。いつ死んでもおかしくはない。自殺をするもの特有の眼だった。

 産屋敷耀哉、こいつはとんでもない場所に俺を連れてきてくれやがったな。このことを知っていたからこそ、俺をここに連れてきたかったのか。荷が重い。踏み込んでしまえばきっと後戻りはできないだろう。でも、きっと、早いうちに踏み込まないと手遅れになってしまう。こいつ、胡蝶しのぶという人格は、早く手を打たないと壊れてしまうだろう。恨むぞ、産屋敷耀哉。

 

「今日は何かお手伝いできることはありますか?」

 

「いえ、今日はゆっくりなさってください。明日から色々と指示をさせていただきます」

 

 そういうと胡蝶しのぶは部屋から出て行った。

 

「はぁ、踏み込みたくないなぁ。でも知ってしまったからにはそういうわけにはいかないよなぁ」

 

 近いうちに、踏み込もう。今は束の間の休息を味わっておこう。

 

 

 

 

 蝶屋敷での生活は平穏であった。軽い血液検査さえしてしまえば、あとは本当に自由な時間だった。空いた時間は、きよ、すみ、なほの家事の手伝いをすることがもっぱらで、三人はよく俺に懐いた。

 

 蝶屋敷にはもう二人女の子が住んでいる。カナヲとアオイである。アオイは何故か俺に対して恐怖心を抱いているようで、まともに会話をしたことがない。俺もそんなアオイに近づくのはかわいそうだと思い近づくのはやめている。

 カナヲに関してはよくわからない。何を考えているかわからないうえに、話しかけても会話が続くことはなかった。

 

 栗花落カナヲ、独特な雰囲気を持った女の子だ。なんとなくだが主要人物な気がしてならないため、仲良くなるために努力をすることにした

 

「お、カナヲ発見」

 

「……」

 

 じっとこちらを見つめるだけで言葉を発することがないのはいつものことだ。なので、アプローチを変えることにする。

 

 ぷにぷに。頬をつついてみた。

 

「……」

 

 反応はない。今日は頬をひたすらにつつく日にしてみよう。

 

 次の日

 

「お、カナヲ発見」

 

「……」

 

 今日は頭を撫でてみる。

 

「……」

 

 反応はない。嫌がるそぶりがないのでひたすらに撫で続けた。

 

 さらに次の日

 

「お、カナヲ発見」

 

「……」

 

 今日はカナヲの髪をひたすらいじって遊ぶことにする。三つ編みに挑戦だ。

 そんな様子をうらやましそうに見ていた三人娘にも同じことをやってあげた。

 

 さらにさらに次の日

 

「お、カナヲ発見」

 

「……」

 

 今日は趣向を変えてお姫様抱っこをしてみる。お姫様抱っこをして散歩をする。ひたすらにカナヲを連れまわした。

 ちょっとだけカナヲの頬が赤くなっていたため体調不良を心配する。連れまわしすぎて疲れさせてしまったようだ、反省。

 

 そして、何日も構った。どんどんエスカレートしていろいろとカナヲに構いまくった。

 

 とある日

 

「お、カナヲ発見」

 

「……」

 

 今日は俺の膝の間にカナヲを座らせていた。のんびりと外を眺めている時間は最高だね。

 

「……あの」

 

「え?」

 

 突然カナヲが話しかけてきた。なんということだ、カナヲから話しかけてくるなんて、こんなに嬉しいことはない。

 

「……頭、撫でてくれないのですか?」

 

 カナヲのまさかのリクエスト。俺はぶわっと涙を流した。

 

「……なんで、ないているのですか?」

 

「てやんでい、嬉しいからにきまってらい」

 

 いつもより多めに撫でまわさせていただきました。心なしかカナヲが笑顔になっている気がした。

 

 

 あぁ、幸せな日々。最高の日々。これこそ求めていた平穏だ。

 うん、そろそろ現実逃避はやめにしよう。

 根本的な解決は何もしていない。蝶屋敷に本来来た目的は何も達成されていない。

 もう覚悟を決めて、踏み込むときだろう。

 

 俺は、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 何回目かの血液採取をされていた。胡蝶しのぶはいつものように手際よく、採血をすませる。

 

「今日の分は終わりです。お疲れさまでした」

 

「ありがとうしのぶさん」

 

「それにしても、ずいぶんと蝶屋敷の面々と仲良くなっているようですね。みんな笑顔があふれていてうれしい限りです」

 

「みんないい子たちだからね。こちらとしても仲良くさせてもらってうれしいよ」

 

 アオイとあんた以外とは仲良くさせてもらってるよ。

 

「これからもみんなと仲良くしてくださいね」

 

 気持ち悪い笑顔だ。そんな顔で言われても嬉しくも何ともないんだよ。

 

「そのみんなの中にあんたは入ってくれないのかい」

 

「私は仲良くさせていただいてるつもりですよ」

 

 本当に気持ち悪い笑みだ。笑えてくるね。

 

「そうかい。だったら、まずはその気持ちの悪い笑顔をやめてくれないか」

 

「……何を言っているのですか」

 

 ぴくっと表情が揺らいだ気がした。

 

「言葉通りの意味だ。その気持ち悪い笑顔をやめろって言ってんだよ」

 

「女性に対して笑顔が気持ち悪いとは、ずいぶん野蛮な物言いをなさるのですね」

 

「そんな気持ち悪い笑顔を向けるよりよっぽどましだと思うけどな」

 

「……」

 

 さぁ、仮面をはがせよ。元々そんな顔は似合わない。だってよ、初めにあった時からお前は、俺のことをものすごい憎悪していたのだから。

 

「……あなたに何がわかる」

 

 どすの利いた声が響く。いいぞ、もっとだ。

 

「あ?なんだって?きこえねぇな」

 

「あなたに何がわかるっていうんですか、何も知らないくせに踏み込んでくるな」

 

「あぁ、知らねぇな、だってお前は何も教えてくれないからな。その気持ち悪い笑顔で、偽物の感情でずっと俺と接してきたんだからな」

 

「偽物?偽物なわけがあるものか、これは大切な、私の大切な」

 

「大切ななんだよ、そんな気持ち悪いもん大切にすんなよ」

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。何も知らないくせに、どういう気持ちでいるかも知らないくせに。気持ち悪いんだよ鬼の分際で」

 

「鬼じゃねぇよ、人間だよ馬鹿野郎」

 

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、私の家族を、姉さんを殺した鬼の分際で、その汚い口を開くな」

 

 これがこいつの本性か。憎悪、さぞ辛かっただろうな。けどごめんな、もう少し付き合ってくれ。俺のことはどんなに恨んでもいいから、許さなくていいから、もう少しだけ踏み込ませてくれ。

 

「はっ、そうか大切なもんを鬼に殺されたのか。あぁわかった、その気持ち悪い笑顔、もしかしなくてもその姉さんってやつの真似でもしてたってことか。やめちまえ、お前にそれは似合わない。そんなのはその姉さんに対しての侮辱だ」

 

「おまええええええ!!ゆるさない、ぜったいにおまえはゆるさないいいいいいいいい!!」

 

 しのぶは激高して俺に襲い掛かってくる。その速度に俺はついていけるわけもなく、首元に注射を撃ち込まれた。きっと大量の睡眠薬でも投与されたのだろう。俺は意識を失った。はぁ、どんな事されるんだろ。憂鬱でならない。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 目を覚ますと椅子に座らされていた。手と足は拘束されていて身動きが取れない。薄暗い部屋だった。まるで拷問部屋だな。そんなことを考えていると、目の前にしのぶがいることに気付いた。

 

「よぉ、こんな風に拘束なんてして、まるでこれから拷問でもするみたいだな」

 

「だまれ、口を開くな。せめて解剖で役にでもたてよ鬼が」

 

 そういうが否や千枚通しで俺の指を突き刺した。

 

「ぐぅあああああああああああああああああああああああ」

 

 強烈な痛みにただ叫ぶしかない。このようなことがずっと続くと考えると嫌になる。

 

「血の色は人間と同じなんですね。あぁ、でもすぐに回復する。おぞましい。この化け物が」

 

 もう一度同じ場所に千枚通しを刺される。

 

「あああああああああああああああああああああああ」

 

「汚い声を出すな汚らわしい」

 

「……む、ちゃいうなよ」

 

 無表情のしのぶは鉈のようなものをもちだした。

 

「冗談きついぜお嬢さんよぉ」

 

「だまれ」

 

 無情にも鉈は振り下ろされた。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」

 

 痛い、気が狂いそうだ。産屋敷耀哉、恨むぞ……でもきっと、しのぶの心の傷はこんなものではない。もっと痛いんだよなきっと。だから、こんなことでしか受け止めることはできないから、俺は全部を受け止めよう。

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。一か月にも感じられるし、もしかしたら一日もたってないかもしれない。おれはしのぶの拷問を受け続けていた。でも、俺は、しのぶに話しかけることをやめなかった。

 

「今回はどんな拷問をしてくれるのかな」

 

「だまれ」

 

 爪を剥がれた。

 

「よう、俺の生態の研究はやくにたってるか」

 

「口を閉じろ」

 

 歯を抜かれた。

 

「やっぱり感情をむき出しにしたありのままのお前の方が俺は好きだな。もっと見せてくれよお前の美しい姿を」

 

「この変態が」

 

 目を刺された。

 

「今度一緒に出掛けないか、いろんなところをお前と言ってみたいと思ってるんだ」

 

「……気でも狂ったの」

 

 全部の指を切断された。

 

 

 とても辛かった、痛かった。逃げ出したかった。でも、俺はしのぶに話しかけることをやめなかった。優しく、慈愛に満ちた感じで必ず話しかけた。憎んでなるものか絶対に。俺はしのぶを絶対に憎まない。大好きだ。大好きでいてやる。それがこいつへの意趣返しだ。

 

 

 

―――――――――――――――

 

side カナヲ

 

 いつも私を見かけたらすぐにやってきてくれる泥海男の姿を最近見かけない。もう一週間くらいだろうか。よくわからないがぽっかりと穴が開いたような気持ちになる。この気持ちは何なんだろう。

 

 会いたい。そう思った。

 

 どこかへ行ったという話は聞かない。だからこの蝶屋敷のどこかにはいるはずだ。探してみよう。

 

 泥海男に用意された部屋に行ってみる。いない。

 

 いつもゆったりとしている縁側に行ってみる。いない。

 

 客間に行ってみるいない。

 

 患者が連れてこられる部屋に行ってみる。いない。

 

 あらゆる場所を探してみたがみつからない。もう、蝶屋敷から去ってしまったのだろうか。何とも言えない気持ちになる。穴があいたような気持ち。これは何なのだろうか。さみ、しいのだろうか。これがさみしさなのか。会いたい。

 

 ふと、しのぶに立ち入りを禁止されている場所を思い出した。そこにはいっていない。でも、立ち入りは禁止されている。どうしよう。コイントスをしようとするも思いとどまる。行ってみよう。行って確かめてみたい。

 

 初めて芽生えた自我だと気づくのはだいぶ後。だが、この時カナヲは自分の意志で決定した。

 

 

 禁止されている部屋にたどり着く。ちょっとした緊張をしつつもその部屋を明けた。下る階段があり、それを下っていく。そしてたどり着いた先に、目的の人物を見かけた。

 

 おぞましい姿の、泥海男だった。

 

「っ!?」

 

 思わず息をのむ。目はナイフで刺されており、各指は千枚通しで貫かれていた。

 

「ん、その気配は、もしかしてカナヲか?」

 

 急に話しかけられてびっくりするも、泥海男に話しかけられたことに安堵する。しかしながら、悲惨な状況には変わりはない。

 

「いたく、ないんですか?」

 

「ははは、見られたくないところを見せちまったなぁ。痛いけど、まぁ大丈夫だ」

 

「だいじょうぶ、なんですか?」

 

「大丈夫だ。信じて待っててくれ。それとここで見たことは忘れてくれ。ちょっとした喧嘩をしてるだけなんだ。またすぐに頭をなでに戻るから、もう少し待っててくれ。……それと、しのぶとは今まで通り接してやってくれお願いだ」

 

「……どうしてそこまで、ここまで我慢するんですか」

 

「意地だ。大丈夫俺を信じろ。さぁ、見つかる前にお帰り」

 

 ものすごい心配だった。だが、あまりにも明るく言われたため従わざる負えなかった。

 

 ものすごい疲労感とともにその部屋を後にする。

 あれをやったのはきっとしのぶだ。なぜ?……きっとカナエ姉さんのことをまだ……。カナエ姉さんのことを思い出すと最近ものすごい悲しみにとらわれることがある。しのぶ姉さんはきっとそれ以上なのかもしれない。

 

 泥海男兄さんが戦っている。そうカナヲは感じた

 

 side out カナヲ

 

 

 

―――――――――――――――

 

 どれくらいたっただろうか。もう時間の感覚はなくなっていた。そろそろ限界が近い。だが、踏ん張り時だ。

 

 しのぶがやってくる気配がする。さぁ、楽しい会話の時間だ。

 

「やぁ、今日も美しいね。今度その髪に似合う髪飾りでも探しに行かないか一緒に」

 

「……」

 

「あぁ、それともお団子でも一緒に食べに行きたいな。甘いものは好きか?俺はなかなかの甘党でな、餡子はこしあん派なんだけどしのぶはどっち派なんだ?つぶあんか?」

 

「……」

 

「この時代ってどら焼きとかってあるのかな?あるんならどら焼きでも一緒に食べたいな」

 

「……」

 

 おかしい、いつもなら何かしらの拷問が飛んできてもおかしくはないのに。

 

「しのぶ?」

 

「なんで……」

 

「え?」

 

「なんでそんなに優しく私に話しかけられるの?」

 

 しのぶは悲しそうにそうつぶやいた。

 

「……それは、今のお前に好感を抱いているからだ。恋といってもいいね」

 

「うそよ、どれだけひどいことをしたと思っているのよ」

 

「それは、まぁ、お互い様だ」

 

 しのぶは涙をぽろぽろと流している。

 

「泣くなよ、可愛い顔が台無しだぜ」

 

「私の姉さんは、鬼と仲良くしたいって言う変わった人だった」

 

「へぇ」

 

「そんなこと、できるわけないってそう思ってたわ。でも姉さんはそうなれるんじゃないかって、本当に信じていた。朗らかな笑顔で、嬉しそうに語っていたわ」

 

 そんな過去があったのか。誰にでも慈悲深い姉。それを模倣して歪なしのぶが出来上がりそうになっていたわけだ。

 

「……でも、そんな姉さんは鬼に殺された。そんな鬼を憎まないなんて無理だった。でも、姉さんは鬼と仲良くしたいって言っていた。だから私はその意思をついで、鬼と仲良くしようとした姉を模倣するようになった。そうしないと、姉さんが消えてしまいそうで怖かったから」

 

「でもやっぱり無理。鬼を許すことはできない。私はものすごい鬼が憎くてしょうがない」

 

「それでいいさ、憎めよ。憎んで憎んで憎みまくれ。それで気が晴れるのなら俺はいくらでも力になろう」

 

「憎んでいいのかな……姉さんの意志をなくしてもいいのかな」

 

「いいに決まってんだろ。それでお前が辛いのなら、俺はお前を救いたい」

 

「うわああああああああああああああああああああ」

 

 しのぶは俺の胸で号泣した。吐き出すといい。すべてを俺が受け止めてやる。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ひどいことしてごめんなさい」

 

「いいさ、お前の傷に比べたらたいしたことはない」

 

 ひたすらにしのぶは泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時が経っただろうか。だいぶしのぶは落ち着いてきた。

 

「おちついたか」

 

「えぇ。私は、本当にひどい女ね……」

 

「そんなしのぶが俺は愛おしい好きだ」

 

「……変態なの?」

 

「そうじゃねぇよ。なんかしのぶの感情を思いっきり感じてさ。魂と魂が重なり合った感じがしたんだ。俺からしたら拷問の日々は男と女の逢瀬のようだったぜ」

 

「……ばか」

 

「ちがいねぇ、ばかになっちまったよ」

 

「拘束、解くわね」

 

 しのぶは俺の拘束を外してくれる。

 

「ごめんなさい、許してもらえるとは思ってない。本当にひどいことをしたわ。これじゃ私は鬼と変わらないわね」

 

「そんなことないさ、一人で抱えてつらかったんだろ?それをぶつけてもらって受け止める。男冥利につきるじゃねぇか。許すも何も最初から何とも思ってないよ」

 

「ばか、甘えそうになるじゃない」

 

「甘えろ甘えろ。お前は甘え下手なんだよ。蝶屋敷の面々にももっと甘えればよかったんだよお前は。カナヲにアオイ、きよ、すみ、なほ。お前には残されたものがこんなにもたくさんあるんじゃねえか」

 

「そうね、わたしは、どうして……」

 

「俺も家族を鬼に殺されてる。そのあとにお世話になった第二の家族と思える人たちも殺されてる。恨みたくなる気持ちはよくわかるつもりだ」

 

「え?」

 

「視野は狭くなるし、復讐にとらわれそうになる。でも、まだ残ってるものもきっとあるんだ。そこから目を背けちゃダメなんだ」

 

「あなたも、つらい思いを……本当に私はなんてひどいことを」

 

「もう気にすんな、俺にどんと甘えればいい。全部受け止めてやんよ」

 

「あなたは、いなくならない?」

 

「それはお前が身をもって証明しただろ?」

 

「いじわるいわないでよぉ」

 

 しのぶはまた泣き出した。それをそっと抱きしめる。

 

「大丈夫だ。もう大丈夫だから。俺は絶対にいなくなったりしないから」

 

「うわあああああああああああん」

 

 しのぶと俺はぎゅっと抱きしめあった。絆を深めあった。それにしても大変だった。

 

 産屋敷耀哉め。

 

 そのうち滅茶苦茶な請求をしてやろうと心に決めたのだった。

 




無くしたものばかりに目を向けてはいけない。残っているものもきっとあるのだから。
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