嘘言ってごめんなさい!!
前回よりも投稿期間が空くと言いましたが、あれ取り消させて下さい。
という訳で、続きをどうぞ。
トットムジカの動きが緩慢になったのはウタワールドだけではなくて、現実世界でも同様であった。
「シャンクス!! 今だ!! 上から真っ二つに斬れ!!」
「おおっ!!」
ヤソップの合図と共にシャンクスの持つ剣がトットムジカを頭部から真っ二つにするように振り下ろす。
長い旅路の中で鍛えられた彼の一刀は並大抵の威力ではない。
それで耐えきれなくなったのか、トットムジカの身体は光となって消滅した。
トットムジカはウタワールドと現実世界で同時に倒さなければならない。
これを成したのは恐らく――――
「やったか!! ウタ、ルフィ!!」
「ああ、おれも方法までは分からないがな。それでも、あいつらはやってくれたんだ。
まだまだおれも〝覇気〟の使い方がなっちゃいないからな。最後は上手くいって良かった」
ヤソップが言う〝覇気〟というもののおかげでウタワールドの状況を把握していたようだ。
ただ、彼が扱うものは曰く完璧ではないので、内部の状況を理解できていないようで、詳細までは不明だと言う。
トットムジカにトドメを刺す瞬間は把握できたようなので、何とかこちらでタイミングを合わせて倒すに至ったようだ。
だが、戦闘経験のない2人が上手くやってくれた。
おかげでトットムジカは倒せたのだ。
そこに加えて現実世界のウタの体力も限界を迎えたのだろう。
トットムジカの消滅と同時にウタの身体も解放される。
「ウタ!!」
上空から落ちる彼女をシャンクスは凄まじい跳躍力を見せてキャッチする。
彼女の様子に変化は無かった。
トットムジカの顕現の影響で疲労して眠っている。
跳躍した後の着地先はゴードンの近くだ。
「2人とも、無事かい?」
「ああ、おれもウタも無事だ」
未だに眠るルフィを抱えたゴードンがシャンクスとウタの安否を確認する。
どちらも無事である事をシャンクスは伝える。
「良かった」
「ゴードンさん、エレジアの被害は?」
夜の街中は炎に包まれている。
火の手が街全体へと広がり、トットムジカによる光線によって抉れた地面、倒壊した建物が生々しい現実を突き付ける。
「確かに街並みは酷い。負傷者も居る」
建物にあった〝
それでトットムジカが消えた事を伝え、状況を確認する。
「すまない。おれ達のせいで島がこんな有様に……」
「そんな事はない!!
建物は被害が大きいが“国民は奇跡的に生きている。”
それは君達、それにこの子達が尽力してくれたおかげだ。
なのに謝らないでくれ。こちらは感謝したい位なのだから!!」
被害はある。
けれども、それは建造物のみに抑えられた。
最初の光線で被害が甚大になったものと思っていたが、ウタの曲を聞こうと中央部にある城へ赴こうと外へ出ていたのが幸いした。
負傷者は居るが、赤髪海賊団の協力もあって全員が無事だ。
国民は最初のトットムジカの出現で倒壊してしまった城まで避難している。
こちらは逆に無事だった事とシャンクス達がトットムジカを引き離した事で避難するのに適した場所となった。
それもシャンクス達が命懸けで民衆を護ってくれた事。
彼等始め、ルフィとウタがウタワールドでトットムジカを抑え付けてくれただろう事が理由だ。
「お頭、負傷者の手当ては一通り終わったぞ。あとはエレジアの医者達に任せてある」
「そうか。ありがとうホンゴウ」
〝赤髪海賊団〟の船医、ホンゴウが告げる。
左目の上に斜めで付いた傷痕。
頭頂部の斜め後ろで髪をまとめた、半袖半ズボンを着た男性だ。
シャンクスの指示で彼は島民の救助を兼ねて、重症者の手当てをしていた。
「私からも礼を言わせてくれ。ありがとう。君達〝赤髪海賊団〟が来てくれなければ国民は誰も助からなかった」
「海賊に礼を言って良いのかい? それに原因はこっちにもあるんだ」
シャンクスの腕の中で眠るウタに視線を落とす。
不可抗力とは言えど、ウタがトットムジカを呼び出した事実に変わりはない。
だからこそ、国王に礼を述べられても素直に受け止められないでいる。
「そんな事はない。彼女は純粋に〝音楽〟が好きなだけなんだ。
危険なものを封印していたのに野放しにしていた国王である私に責任がある」
原因を作ったのはトットムジカだ。
その事をゴードンは良く理解している。
だからこそ、今回の騒動はシャンクス達のせいだとは誰にも言わせない。
彼等は見ず知らずの島民達の為にバケモノと戦ってくれたのだから。
感謝こそあれ、責め立てる理由がゴードンには思い付かない。
むしろ、危険な存在を今まで放置していた自分こそが責任を取るべきだとまで言い出す。
「止めてくれ。そこまであなたが背負う必要は無い。
全ての元凶はあんたを利用し、ウタまでも利用したトットムジカだ」
この場に悪役など誰も居ない。
シャンクスも、ましてやゴードンもこのような事態になる等とは思ってもみなかっただろう。
それでもゴードンは自らを責めると思う。
「それに以前の国王にしても『封印する』以外の術を持たなかったんだ。
楽譜を破くなり、燃やすなり、手段はいくつもあるのに処分していなかった事を考えると簡単にできる話でもないさ」
あのようなバケモノが楽譜に存在している。
これは実際に歌ったウタと、これを伝えられたルフィのみが知る事実だが、トットムジカは言わば『負の感情の怨念』のようなものだ。
何か呪いが起こるのかもしれないし、第二第三のトットムジカのような楽譜が作られる可能性は十二分にあった。
「その証拠に、ほら」
シャンクスはゴードンの足下を指差す。
そこにトットムジカが封印された楽譜が散らばっていた。
あのような事態が起こり、消滅したとばかり思っていたのだが……どうやらシャンクスの予想は大当たりのようだ。
「これはエレジアの国王の名の下に、再封印をしてみせる」
「頼む」
ゴードンにしても出来る事は少ない。
こんな危険な存在をもう二度と誰の目にも触れさせないようにするより他にない。
「お頭、まずいぜ。恐らく海軍が来た」
そこへベックマンが慌てた様子で現れる。
島の高い位置に居るのもあり、遠目からでも船の光が点灯しているのが見える。
「この騒動を嗅ぎ付けたのか」
とんでもない騒ぎになっている。
この一件の所在を何処へ持っていくのか…………
トットムジカの件を話せば狙われるのは間違いなくウタだ。
ゴードンもこんなにも音楽を愛する未来ある若者に罪を背負わせる真似などさせるつもりは毛頭無い。
ましてや恩人の立場にあるシャンクス達に濡れ衣を着せる訳にもいかない。
「この一件、原因は私にあると伝え――――」
「いや、おれ達だ」
ゴードンが言い切るよりも先にシャンクスが言い切った。
「〝赤髪〟のシャンクスとその一味が引き起こした事件……海軍にはそう伝えてくれ」
「そんな事をできる訳がない!!
君達はこのエレジアの恩人なんだ!!」
「おれ達は〝海賊〟だ。遅かれ早かれ、おれ達がここに来ているのが知られている以上は、罪を背負う事になるさ」
海賊というはみ出し者を政府は、海軍は、世の中が良い目で見る訳がない。
ならばこそ、この件は自分達が原因だと、全ての罪を背負う。
「いや、おれの懸賞金も上がるだろうからな。むしろ光栄でしかないな」
笑いながら、その方が嬉しいと言わんばかりだ。
「その代わりと言っては何だが、この子を預かってはくれないか?」
交換条件として突き付けてきた「この子」とは今もシャンクスの腕の中で眠るウタの事だ。
「海賊のおれ達がこの子の才能を閉ざす訳にはいかない。
これからは海軍にもより一層目を付けられる事だろう」
一緒に居れば、ウタの〝歌姫〟の夢も潰えてしまう。
もしも、一緒に歩むというのならその二つ名は世間は悪名として捉えてしまう。
「それで、良いのかい?」
「仕方ないさ。これからはより一層に危険な旅になる。
この子は戦闘中には表に出ないようにして貰って、ここまで隠して来たんだ。
音楽に囲まれた生活のできるこの島はウタにとっても素晴らしい環境だ。」
その為にシャンクスはウタを表沙汰にはしてこなかった。
航海中は自分の娘とする事で護ってきた。
けれど、一般の島に預けられるならそれが一番だ。
「本当は、彼女にトットムジカの影響を伝えたくないからじゃないのかい?」
「…………」
ゴードンの一言にシャンクスは押し黙る。
「下手をすれば、トットムジカによってエレジアは滅びていた。国民を殺してしまうかもしれなかった。
この事実を知られないようにする為に、君は全ての罪を被ろうとしているんじゃないか?」
今回は運が良かっただけだ。
けれど、トットムジカの被害を知ってしまえば彼女は自分の罪の重さに耐えきれなくなる。
まだ9歳の少女がそんなものを背負って良い訳が無い。
「察しが良いなゴードンさん。
でも、それだけじゃない。このまま海賊のおれ達と居てもウタは幸せになれない。
だから、ウタの幸せの為にもこの島で音楽に囲まれて〝歌姫〟を目指して暮らすのが一番だ」
彼女に知られる事無く、彼女がこの件を覚えていなければ後は問題のない話だ。
それに加えて、これまでシャンクス達の中で燻っていたウタへの想いを口にする。
彼女にとっての幸せは、このままでは歩めないのではないか?
〝歌姫〟という目標を持つのなら、彼女はこのエレジアで目指すのが一番で――――
「ダメ、だ……シャ……ク、ス……」
そこへ待ったの声を掛けたのはルフィだ。
まだ寝ぼけているのか、半分だけ瞼を開いて眠そうにしている。
「ルフィ!? お前、起きて――――」
「ちゃん、と、ウタの、話も……聞いて……」
そこまで言うと力尽きたのか、再び睡魔に襲われる。
彼の言いたい事は伝わった。
ウタの話を聞くべきだ――――と。
直後、まるで見計らったかのようにシャンクスの胸元の服が引っ張られる。
掴んでいるのは他ならないウタだ。
「シャン……ス」
寝ぼけ眼のようで、まだ意識は覚醒していない。
トットムジカを呼び出した際のウタワールドの発動で体力を大幅に削られている。
子どもの彼女の事を考えれば、疲労感が重くのし掛かっているのは見て分かる。
それでも、途切れ途切れでも父を求めて名を呼ぶ。
「ありがとう。助けて、くれて」
ゆっくりと、しかし確かに礼を述べてきた。
まだ瞼は重そうだが、しっかりと言葉を発する。
やはり疲労はすぐには拭えないのが見て分かる。
油断していると夢の世界へ逆戻りしてしまうだろう。
しかし、それを押してまで彼女は礼を述べる。
その事実が意味するところは、つまり――――
「お前、トットムジカの事を……」
「全部…………見てた」
シャンクスが懸念していた事をウタは既に知っていた。
だが、彼女は「ありがとう」と真っ先に感謝の言葉を告げた。
「あと、ごめんな、さい……」
直後、間髪入れずにウタは謝罪を口にする。
それがどういう意味を持っているのか、無論ながらシャンクスには分からない。
「私、シャンクス達を信じてなくて、黙ってた想いがたくさんあるの」
「黙ってた想い?」
「うん」
その事への謝罪があるのだと。
けれど、そこで言葉を区切ったウタは「でも」と紡ぐ。
彼女は首だけで未だに眠るルフィの方を見る。
「その想いを、伝えるべきだって。
何があってもシャンクス達を、自分を、信じろって。
ルフィが教えてくれて、背中を、押してくれたんだ……」
彼女の中で燻る「想い」を吐き出すべきだと。
赤髪海賊団ではない。
けれども、赤髪海賊団にとっても大切な〝友人〟である少年が赤髪海賊団の娘の心を動かしてくれた。
「その為に、ルフィと戻って、来た。
話を、聞いて……欲し……」
そこまで言って、ウタの方に限界が訪れたのだろう。
ウタは再び眠りについた。
「ウタ……」
「どうやら、彼女の居場所は最初から決まっているようだ」
ルフィをベックマンへ預け、ゴードンはシャンクスと向き合う。
「この子はエレジアで預かる事は出来ない」
真っ先にゴードンは断言した。
ウタの様子を見て、彼女を預かろうという気など起ころう筈がない。
「彼女にとって大切な居場所は間違いなくあなた達だ。
彼女の幸せも、〝歌姫〟の夢も、君達が居て初めて成立するんだ」
かけがえのない居場所はもう決まっている。
それなのにどうして彼女からその場所を取り上げると言えようか。
「しかし、だな」
「それに気付いているかい?
彼女を預けると言った時から――シャンクス、君は泣いているよ」
「は?」
ゴードンに指摘され、自分が今更ながら頬を伝う涙に気が付いた。
ウタは寝惚けていた事とシャンクスの顔をきちんと見ていなかった事から、気付かなかったのだろう。
「自覚が無かったとは、恐れ入るぜお頭」
「そういう君も同じだったがね」
ベックマンが茶々を入れるも、ゴードンに指摘される。
先程から会話に入らないホンゴウも、ヤソップも同様だ。
彼だけではない、ウタは赤髪海賊団の娘で、言わば〝宝〟以上の存在なのだから。
「その少年の言うように、彼女に意見を聞いたかね?
それなのに身勝手にエレジアに置いていくような真似をされでもしたら、彼女がどう思うのか分かるだろう?」
ゴードンは何も知らされずに置いていかれでもすれば、ウタに明るい未来は訪れないと"忠告する。"
「そんな状態で生み出す音楽など、それこそトットムジカのような全てを不幸にする曲しか生まれない。
音楽が好きな彼女から、そのような周りを不幸にする曲を作って欲しくなどない」
その結果に訪れるだろう未来を容易く想像できる。
子どもが信頼していた人達に理由もなく置いて行かれる事をどう思うのか?
「身勝手に、しかも彼女の意思も聞かずに今後を決めるのはあまりにも酷じゃないか。
彼女の罪を背負わせないとは言うが、彼女は既にトットムジカの事を知ってしまっている。
だが、彼女はトットムジカ出現による影響までは把握していないのだ」
つまり、彼女は既に自分の仕出かした事を分かっている。
けれど、事の大きさまでは分かっていない。
だからこそ、シャンクス達への謝罪の中に“トットムジカの件は含まれてはいない。”
考えてみれば当たり前だ。
だって彼女はまだ子どもなのだから。
この件が後にどのような影響を与えるものなのか、分からないのは仕方ない。
「彼女もいつかはトットムジカの件で犯した罪を知れば、心が張り裂けそうになる。
きっと、彼女は表面上は取り繕っていても本音は吐き出せない。
更にはこの事を知った国民で彼女の事を許さない者も居る筈だ。
彼女がこの件を糾弾されればいずれは分かる事だ。
脅しではなく、本当に起こり得る事だ」
今は良くても将来、彼女は自分の罪に押し潰されるかもしれない。
もしも、エレジアに預けた後にトットムジカの件を知ってしまえば?
きっと遠慮して、内心を打ち明けてはくれまい。
更には、彼女の存在を良く思わない国民が出てきた際に彼女は余計に危険の中に置いていく事になるではないか。
その結果がもたらすものは最悪のシナリオが思い描けてしまう。
「確かに今、彼女に罪を背負わせるべきではないという意見には賛成する。
だが、もしも彼女が自分の罪を知った時、寄り添えるのは君達…………父親である君ではないかね?」
ゴードンからの一言にシャンクスは言葉を失う。
いや、何もシャンクスに限った話ではない。
ベックマン達も同様なのだ。
「それでも彼女を置いていくと言うなら、それは罪を背負わせない為に去るのではない――――ただの育児放棄だ」
ピシャリと、ゴードンは言葉を選ばずにシャンクスに現実を叩き付ける。
しかし、この場の誰も彼の言葉を否定できない。
良かれと思った行動はウタを守っているようで、その実態は真逆である事を突き付けられる。
「何処に居るのか、どうするのが幸せなのか――それは彼女自身に決めさせるべき事ではないか?
少なくとも、その少年はその事に気付いていたから、彼女の話を聞くように言ったのではないかな?」
ゴードンは眠るルフィを見ながらそう告げる。
ベックマンを始めとした面々も、ルフィの言葉の真意にゴードンを伝って気付かされる。
「時間は無いが考えて欲しい。
そして、これも知っておいて欲しい。
その少年は、彼女を君達に会わせる為、トットムジカを止める為に戦ってくれていたのだと。
彼女も、君達に会いたいから、そしてトットムジカを止める為に彼と共に戦っていた事を」
「あんた、ウタワールドであった事を見ていたのか?」
「いいや」
思わずヤソップが聞き返す。
けれど、ゴードンは首を左右に振って否定する。
「知らないが、その少年が寝言でそのような事を言っていたのでね」
寝言で状況を伝えるとは、考えうる中で斜め上の発想をしてくれる。
「さて、この話を聞いた上で質問を、本音を聞かせてくれ。
君はどうする?」
ゴードンの意見は確かに的を射ている。
けれど、そんな綺麗事が運ぶという訳ではないのが海賊の世界だ。
結局のところ、最終決定は頭であるシャンクスにある。
それも理解しているからこそ、ゴードンが問い掛けた相手はシャンクスに他ならなかった。
「おれは、おれは……」
シャンクスもまた迷っている。
何が正しいのかを。
いや、正解が無いのは分かっている。
どちらを選んでも、ウタにとっては最悪の事になるのは見て取れる。
「シャ……ンクス」
そこへ言葉を入れたのは抱き締めるウタだ。
彼女はシャンクスの服を未だに掴んでいる。
頭を自分に預けて安心したように眠っている。
これを見て、決心は付いた。
いや、今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えた。
「おれは、ウタの話をまだ聞いてない。
さっき、おれ達に話したい事があるって言っていた。
その事が気になって、夜も眠れない」
シャンクスは言葉を捲し立てる。
こんなのは何とか理由を付けようとしているだけだ。
違う、こんな理由を付けたい訳では無い。
もっと、もっと、ただただシンプルな理由でしかない。
「こんな理由でウタと離れるなんて嫌に決まってる!!」
彼女の意思であれば退く事は出来たかもしれない。。
けれども、何も聞かずに離れ離れになる選択を取る事の方が嫌に決まっている。
離れる事が正しいとシャンクスも思っていた。
けれど、ゴードンが、ルフィが、何よりウタが――――そんな事を望んでいないと告げた。
その瞬間、シャンクスは心の底から答えを叫ぶ。
何とも子どもみたいな理屈を混ぜている。
だが、それで問題無い。
それだけ、シャンクスにとって
どれだけ心を偽っても――――本心は最初から決まっていたのだ。
「決まりだな」
「さっさとずらかるとしよう」
シャンクスの決定に異を唱える者は誰も居なかった。
全員が笑顔で、彼の決定に従ってくれる。
「けれど、このまま手ぶらで帰るとなると、トットムジカの件からエレジアに火の粉が来ないとも限らない。
だから、少しで構わないから食糧と何か楽器を貰っていっても良いかな?
安物で構わない。それを高額なものと口裏を合わせてくれれば、海軍の目もこちらを向くだろう」
あまり言いたくはないが、海軍――ひいては政府もトットムジカといった危険な芽を摘みたいと考えてしまうだろう。
政府も一枚岩ではないのだから。
それでシャンクス達が、ウタとルフィが救ったこの国を危険に晒さない為の苦肉の策でもあった。
「それなら、あの城の地下に金品を隠してある。
救ってくれた礼も兼ねて、持って行ってくれ」
「しかし、それはこの国を再建するのに必要なお金になるじゃないか」
「構わない。この国に潜む闇を取り払ってくれた礼をさせてくれ」
その闇がどこまで纏わりつくのかまでは分からない。
けれども、ここまでしてくれた赤髪海賊団、少年と少女の為に国王の自分が今できる精一杯の感謝を伝えたかった。
それでもシャンクスは渋る。
エレジアは国民こそ無事だが、建物の倒壊は激しい。
その復興にはまず金が必要になる。
彼が差し出そうとする国税にまで手を掛ける訳にはいかない。
両者の意見が平行線になっている――
「今、家の中に金品があったんだけど、怖くて近付けないな」
「なら、帰った時に無くなってても仕方ないな」
「瓦礫の下敷きになった食糧じゃあ、食べれないわね」
「いやー、参った。この歳になると、どれだけの貯えがあったか忘れてしまう」
声が後ろからあった。
それは1人2人だけではない。
もっと大勢、老若男女問わず国民の半数はここへ来ているといった状態だ。
「お前達、何故ここへ?」
「何って、礼を言いそびれたからさ」
「そうそう」
「そこの海賊達が助けてくれたんでしょ?」
「あと子どもが助けてくれたって」
「これは直接に礼を言うべきでしょ!!」
「ええい!! 全員で言ったら分からんだろ!!
わしが話す!!」
口々に話始める。
収集が付かないが、言いたい事は分かった。
なので、全員を代表して1人の初老の男性が話すと切り出す。
「端的に言うとじゃ、あんたらの話は全部丸聞こえじゃったんよ。
国王が電伝虫を切るのを忘れ取ったからの」
「あっ」
言われて電伝虫で連絡を取り合っていた事を思い出す。
それが繋がった状態であった事から、話は丸聞こえだったのだと。
「確かにその子には酷な状況になった。
彼女の事を良く思わない国民も間違いなく居るだろう。
けれど、彼女の〝歌〟から伝わる〝音楽〟への真っ直ぐな想いが本物である事はエレジアの国民の誰もが知っている。
それを伝えたのは国王、あんたじゃないか」
今宵、彼女の歌を国中へ届けた事がこの悲劇を生んでしまった。
それをゴードンは密かに後悔していた。
けれども、ここまで足を運んだ国民の大半は今は動けない他の面々の代弁者であった。
〝赤髪海賊団〟の音楽家のウタは〝歌〟が好きな、〝音楽〟が好きなただの女の子なのだという言葉を伝える為の。
「それに、こんなにも互いを想い合う家族の会話を聞かされた上に、国王の演説まで聞かされたら動かん訳にはいかんじゃろ?」
その一言を皮切りに「そうだ!! そうだ!!」と同調する声が後ろから聞こえる。
皆、ウタの〝歌〟を聞いて惚れ込んだのだ。
いち早く彼女のファンになってくれた皆が動いてくれた。
「この惨状を招いたのはさっきのバケモノであって、その子ではないのだからな。
あのバケモノを止めてくれて感謝しているのは何も国王だけではない。
わしを始め、国民全員が感謝しているんじゃよ」
惨状を招く要因となったシャンクス達やウタの話を聞いて尚、国民達は彼らの、ひいてはウタの心配をしてくれる。
「だから、わし等にもあんた等の為に一肌脱がせておくれ」
「お前達…………ありがとう」
こんなにも心の温かさを持つ国民を育んだのは他ならない国王でもあるゴードンだ。
なのに国王が感謝を述べるとは妙な話になったものだ。
「ありがとう、ございます」
今度はシャンクスが一団の頭として、気を回してくれたエレジアの国民達に頭を下げる。
その様子を見ていたゴードンが前へ出る。
ここからは自分の出番だと初老の男性、ひいては国民から背中を押される。
気持は一緒だ――国王であれば、国民の気持を代弁できると信頼を置かれての事だ。
「礼は良い。
ただ――――」
「お頭!! 海軍がそこまで来てる!!」
「そうか。時間は無いか」
状況を報告に来てくれた船員が声を荒げさせて現れる。
「すまない。おれ達は行くよ」
「ああ、改めて感謝を」
「感謝は必要無いさ。」
決してこのような光景は見せてはならないだろう。
一国の王と、海賊が握手を交わす等とは。
「さあ!! 財宝を奪ってずらかるぞ!!」
「あいあいキャプテン」
ベックマンがシャンクスの指示に応える。
ウタはシャンクスが、ルフィをベックマンが抱えてこの場を去る。
そう時間は経たずに財宝を積んだシャンクス達の船――レッド・フォース号――がエレジアから離れていく。
それを海軍の船が追っていくのだった。
「国王、さっきあの海賊に何て言ったんだい?」
離れていく海賊船を眺めながるゴードンに声を掛けたのは先程に国民の声を代弁した初老の男性だ。
後ろで自分と同じように国民がシャンクス達の船を見守っていた。
きちんと逃げ切ってくれるだろうか?――海賊相手に考えるような内容ではない事を祈りながら。
「そんな大した内容ではないよ」
「何となく、その内容も分かる気がするんじゃがな」
初老の男性は国民達へ目配せする。
それを受けた面々も「うんうん」と頷いてみせた。
国民全員がゴードンが何と声を掛けたのか分かってしまったのだ。
「彼女の音楽に触れたからこそ分かるのであろう。
わしらも同じ事を思っとるからの」
「それは、間違いないな。
何にせよ、彼女程に〝音楽〟を愛している者もなかなか居ないだろう」
〝歌姫〟になる事を誓う少女の笑顔を思い出し、ゴードンは破顔する。
そして、去り行く船を眺め、ゴードンは今一度、聞こえないと分かっていながら言葉を投げる。
「彼女の〝笑顔〟を絶やさないでくれ」
ウタの〝音楽〟は〝笑顔〟があって初めて輝く。
去り際にその言葉を受けたシャンクスは小さく、しかしはっきりと頷く事で返事をした。
今はまだ小さな〝歌姫〟を乗せた船は、追手を撒いて未来へ向かって突き進む。
如何でしたでしょうか?
あの投稿の翌日に丁度その翌週の10月1日はウタの誕生日なのを思い出しました。
それまでに今回の話を届けようと思って必死こいて作りました。
恐らく、あの時のウタはシャンクス達と未来を居たかったのは明白なので、彼女の願いを叶えるシナリオが誕プレという事で。
前書きで書いてしまうとネタバレになりかねなかったので、ここで祝わせて下さい。
今回はルフィより少し喋っただけになりますが。
さて、いつものように相違点と補足をしていきます。
先に補足を。
ヤソップを始め〝覇気〟は体得してはいますが、まだコントロールは未熟という事で。
トットムジカとの戦闘中なので疲労もあるでしょうから、集中できないのもあります。
エレジアは火の海に包まれていますが、この後に海軍が鎮火してくれました。
その間にトットムジカの楽譜は隠しました。
あとはアニオリの映画連動と同じようにシャンクスの懸賞金が上がります。
ゴードンがウタがシャンクスの娘なのを知っているのは彼女をエレジアに誘った際の断り文句でシャンクスが「自分の娘」と告げたからです。
あとトットムジカが封印された楽譜に関しては独自解釈となります。
作中でも述べたようにトットムジカの楽譜を破棄する事へのデメリットがあるという設定にしました。
こんな危険なものならゴードンよりも前の代の国王が破棄していても不思議ないのですが、存在しているのならそれ相応の理由があるのではないかなと考えましたので。
今しがた書いてしまいましたが、映画原作の相違点としては他にもあります。
・エレジア事件後もウタが赤髪海賊団と共に居る。
・エレジアの国民が生きてる。
この2点でしょう。
ウタが赤髪海賊団に居る事を後押ししたのは他でもないルフィとゴードンとエレジアの国民です。
今回ルフィの出番は少しでしたが、彼の後押しを受けたからこそウタも本音を言えて、その上でシャンクスの考えを改めさせるきっかけを作れたのでしょう。
ゴードンも映画の聖人っぷりを見ると、彼女の言葉を受ければ同じ音楽好きとして彼女の為に言葉を返したのではないかとも思いました。
なので、彼には作者がシャンクスに想った事をぶちまけて貰いました。
多分、横で聞いているヤソップに流れ弾が跳んでいる事でしょう。
ドンマイ。
次にエレジアの国民が生きてます。
これは何度もお話ししてきたようにトットムジカの弱体化の影響にもなります。
最初の光線こそ被害は出ているでしょうが、弱くなったが故にシャンクス達に抑えられて国民の避難が間に合ったという事です。
あと、ワンピ世界では国王が人格者であれば国民も人格者である事も多いです。
なので、音楽を愛するウタの事を気に入ってくれている国民は居る事でしょう。
ゴードンのうっかりでシャンクス達の会話を聞いていたので、事件の犯人はバケモノである事を知り、尚且つ少女は利用されていたと知れば非難は多少なりと収まるのではと考えました。
まあ、全部の声が収まるかと問われると難しいでしょうが。
ちなみに代表で喋った初老の男性はあの中で一番年齢が上で、ゴードンとも歳が近かったからです。
特別な関りはありません。
なんせ音楽に関連する事は国民と触れ合っているでしょうから、音楽に真摯に向き合っていると思いますので、誰と特別に練習したとかは無いと思いますので。
最後にウタの〝音楽〟には〝笑顔〟ありきなのは幼少期の彼女の歌う姿を見ていると、どうにもそう思えたので。
彼女にとっても〝音楽〟は特別なもので〝楽しいもの〟でしょうから。
〝楽しい〟という感情には〝笑顔〟が付いてくるでしょう?
あとがきも補足を含めるとどうしても長くなってしまいました。
これにて幼少期・エレジア編は終了となります。
ん? エレジアの前に何か文字が付いてるような気がしますが……きっと気のせいですね。
さて、まだメインイベントが残っています。
そう!! 第一話にて登場して今尚その計り知れない実力に考察の止まらない敵――ヒグマさんの登場回が残っています!!
今の内に告げておくと、恐らくは第一話の焼き回しのような展開になると思うので基本はダイジェストでお送りしようかなと考えています。
現段階ですが、あと2話か3話ほど幼少期の話を展開した後には「東の海編」に突入しようかなと考えています。
前回のあとがきに他のキャラとの絡みもやるような事を言いましたが、今後の展開の中で箸休め程度に「幼少期ルフィとの出会い」を書いていこうかなと。
正直、このままですと何話で収まってくれるのか分からないので、今後は何処かのタイミングで「幼少期シリーズ」とでもサブタイに付けて間に挟んでいくと思います。
またあとがきが長くなってしまいましたがこの辺りで。
ではまた次回に。