その悪魔の実には意思がある   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

今回も長くなりましたが、続きです。


幼少期編2
変わるものと変えられなかったもの


エレジアでの冒険を終え、一同はフーシャ村へ帰還を無事に果たす。

その間にウタは自らの心の内をシャンクス達へ話していた。

 

どうなったのかルフィには分からない。

だが、ウタはそれ以降はいつもより歌う時には楽しそうだった。

シャンクス達もまた、彼女の歌を楽しそうに聞いていた。

それだけで十分であった。

 

こういう時には深くは聞かない方が良い事を黒髪の美人との会話の時に学んでいる。

他人の事情に土足で踏み込む選択肢はルフィには無かった。

 

向こうもウタワールドでの出来事は聞いて来なかった。

と言うより、ルフィとウタが積極的に話したのだが、話は「ウタが応援したからルフィが強くなって勝った」という事で終わってしまう。

具体的な事は何も分からないし、何よりも両者にとってもその認識でしかないのだから話はそこで止まる。

シャンクス達もルフィとウタの無事を喜んでいるので、その話だけで十分なのでそれ以上の詮索をしようとも思わない。

 

詳細はルフィとウタのみの知るところだ。

ちなみにウタの方は事細かにある程度の事は覚えているようだが、ルフィは所々が曖昧で、特に最後の方はあまり覚えていないとか。

 

そんなこんなでフーシャ村に帰還した翌朝にマキノの酒場へ直行し、酒を浴びるように飲んでいた。

 

「もう、船長さんったら。帰ってきてすぐにお酒ですか?」

 

「ちょいと今回の長旅であまり飲む機会が無くてさ。許してくれよ」

 

「仕方無いですね」

 

シャンクスにとっては定位置になりつつあるカウンター席。

マキノは帰ってきて早々にお酒を飲み始めた事を(たしな)める。

向こうに居た島か、帰り道で酒を飲んでるだろう事は想像に容易かった――――だが、それでも彼らは騒ぎたいだろうから諦めと共に言葉短く酒と料理を振る舞う。

 

「なあ、シャンクス。次の航海はいつ行くんだ?」

 

「おいおいルフィ。今回連れてったばかりだろ」

 

「何度か航海しちゃったから、冒険する事の味を占めちゃったんじゃないの?」

 

シャンクスを挟んで右隣のルフィが、左隣のウタがそれぞれ言う。

 

「今回ので楽しい事ばかりじゃないのは分かっただろ?」

 

「そうだけどよォ〜」

 

「それに、おれ達もここを拠点にしてそろそろ一年経つからな。あと何回か航海したらこの村を出ていくぞ?」

 

「えェッ!? そんなの聞いてねェぞ!!」

 

「そりゃ、言ってねェからな」

 

シャンクスの突然の発言にルフィは驚く。

それはいつかはこの村を去る事は想像が出来ていた。

けれど、それはあまりにも急すぎる。

 

「ウタも知ってたのか?」

 

「当然でしょ。私は〝赤髪海賊団〟なんだから」

 

ウタに問えば「当然だ」と返答される。

ルフィとしては自分だけ知らされて無かった事に仲間外れのような感覚を抱いたのだろう。

 

〝赤髪海賊団〟の一員と仲が良いだけの少年とでは立場が違うのだが、仮に言われたとしてもルフィは納得しないだろう。

それを分かっているからこそ、シャンクス達は何も言わない。

そんな事よりも、だ。

 

「まあ、今回の一件で助けられたからな。何処かのタイミングで航海へ連れてってやるよ」

 

「本当か? やったァッ!!」

 

「良かったわね。ルフィ」

 

まさかシャンクスから言質が取れるとは思わなかったのだろう。

ルフィは大喜びだ。

その様子を見て、マキノも自分の事のように微笑む。

 

「邪魔するぜェ」

 

そんな中、酒場へ入ってくる何人かの男達。

あからさまに態度からして柄の悪い連中だ。

その頭目と思わしき人物がズカズカとカウンターの方まで来る。

後ろに結った黒髪と、額の右側にある大きな十字の傷が特徴的な細身で長身の男だ。

赤いロングコートを着用し、白いシャツに黒のズボンと丸みを帯びた黒靴を履いている。

 

「ほほう……これが海賊って輩かい。

 初めて見たぜ。間抜けた面をしてやがる」

 

瞬間、空気が変化した。

嫌な予感がする――――マキノはこの粗暴なイメージしか感じない男達が面倒を起こすのではと危惧し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マキノの不安は確かに的中した。

男の頭目はこの付近の山賊の頭目で自身は賞金首だと自慢げに手配書を見せる。

その手配書に記載されていたので頭目の名がヒグマだという名前なのも知った。

 

ヒグマは酒樽を10個程欲しかったようだが、生憎とシャンクス達が飲んでしまっていた。

なので、シャンクスの方から空けていない酒瓶を渡したのだが、入ってきて早々の発言から海賊というものを下に見ていたヒグマは受け取った酒瓶の中身をシャンクスにかけたのだ。

その行動で満足したのか、最後に「腑抜けめ」と言い残すとヒグマは去って行った。

 

「船長さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。しかし、派手に酒をかけられちまったよ」

 

「本当だよ」

「派手にやられたな」

「みっともねえな」

 

口々に船員(クルー)が言うが、どこか面白そうなものを見ているかのようだった。

最終的には腹を抱えて笑い出す始末だ。

 

「しかし、お前らは突っかかるかと思って冷や冷やしたんだが、良く我慢したな?」

 

シャンクスはカウンター席に座るルフィとウタへそう言った。

ウタはまだしも最近は以前よりも穏やかになったが、元々は血気盛んなルフィだ。

馬鹿にされたのを見れば一目散に怒鳴り散らしそうなものだが。

 

「本当は言いたい事はいっぱいあるんだけどね。

 シャンクスに何か考えがあると思ってるから何も言わないわ」

 

ウタの方は腸が煮えくり返る想いだろう。

けれど、シャンクスが理由も無しに黙ってやられているとは思わない。

それ位にはウタは〝赤髪海賊団〟の一員だ。

 

「おれは分かんねェ!!」

 

しかし、やはりと言うべきかルフィは頬を膨らませて怒っていた。

不機嫌そうにプリプリしている。

 

「ただ酒をかけられただけだからな。そんなに怒る事は――」

 

「シャンクスがあの山賊をどう想ったのかなんてどうでもいいんだ」

 

シャンクスが言葉を紡ごうとするのを制するようにルフィは告げた。

しかし、意外にもルフィはシャンクスがあのヒグマという男に対して応戦する、殴る価値もない相手だから何もしなかった事に不満を持っていないようだ。

それとは異なる何かに苛立ちを抱いているようなのだが…………

 

「なら、何が分からないんだ?」

 

「それが分かんねェ」

 

ルフィへ再度問うも、返答は先程と同じだった。

しかも要領を得ない答えが返ってきた。

 

「何に対して怒ってるのか自分でも分からないんじゃないのか?」

 

「そう、それ」

 

何だかんだルフィの思考を読み取れる能力を身に着け始めたベックマンが言う。

彼の回答こそが言いたかった事なのだと、ルフィは同調する。

 

「それじゃあ、答えようがないだろ」

 

「そうなんだけどよォ」

 

ルフィ自身、自分が怒っている理由が良く分かっていない。

いやはや、それはそれでシャンクスも何を言って良いのかが分からない。

 

「あ~、私は分かった」

 

「本当か!?」

 

ルフィの怒りの理由を知ったと告げたのは他ならないウタだ。

当人が分からないのに大したものだと思いながらルフィは答えを求める。

 

「う~ん、でもこれは私が言う事ではないかも」

 

しかしながら、ウタは答えを言わない。

当然、これにはルフィも不満の声を上げる。

 

「え~、良いじゃねェかよ。教えてくれたって」

 

「自分で気付く事に意味があるの」

 

ルフィが何と言おうともウタは断固として拒否する。

彼の抱くモヤモヤは彼自身が発見する事に意味があるのだと言う。

 

「まあ、ルフィじゃ気付けるか怪しいかもだけどねェ~」

 

「そんな事はねェぞ!! ウタが気付けるならおれが分からない訳がねェッ!!」

 

「本当かな~?」

 

「なら、勝負だ!!

 おれは絶対に怒ってる理由を見付けてやる!!」

 

何だか勝負事にまで発展し出した。

どうしてそのような流れになるのかと一同は思ってしまう。

けれど、結局は「面白そうだ」との事で話が進んでいかないかと見ているのだった。

 

「勝負にしたら見付けられないよ?

 だって、私が連勝中だもの」

 

「そんな事ねェ!!

 ウタはズルばっかしてるし!!」

 

「私は海賊なんだから卑怯も何もないの」

 

いつものやり取りを見ていると、何だか安心させられる。

やはり、歳が近い事が功を奏している。

 

「止めないか2人とも。せっかくの料理が冷めちまうぞ」

 

2人が言い合いしている間にもマキノは料理を用意してくれていた。

これは一時休戦と、即座に2人はマキノの料理にあり付く。

 

それを見た一同も、どんちゃん騒ぎを再び始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「誰も居ねェ」

 

「船長さん達、近くの島まで買い出しに行ってくれてるからね」

 

山賊騒ぎのあった翌日、ルフィはマキノの酒場まで来ていた。

しかし、そこにシャンクス達の姿は無かった。

赤髪海賊団は近くの島まで物資の調達へ赴いている。

前回はウタを置いていったが、ああいう事は基本的に起こらないのでいつもの通りにルフィだけが残される。

 

「船長さん達もルフィを航海へ連れてってくれるって言ってたし、気長に待ちましょう」

 

そう言いながらルフィへジュースを出してあげるマキノ。

ルフィはそれを嬉しそうにして飲む。

コップを一気に飲み干してしまう。

彼には飲み物よりも気になる事があったからだ。

 

「それよりか、昨日のおれが怒ってた理由を見付けないと」

 

「答えは分かったの?」

 

「それがよ~、さっぱり分かんねェんだ」

 

マキノが問い掛けるも、ルフィは空になったコップを眺めながら返す。

依然として答えは見付かっていない。

 

「ウタのやつは教えてくれないしよ~」

 

「ふふっ、私も何となくルフィの怒った理由が分かっちゃった」

 

「えぇッ!? マキノまでッ!?」

 

マキノのまさかの発言にルフィは驚きを隠せない。

ウタに続いて彼女まで気付いていた。

 

「けど、意外かな。ルフィならすぐに気付いちゃうと思ってたのに」

 

「そんなに簡単に分かるのかー?」

 

ルフィ本人が気付けないのに周りの人間は気付いていくというのが驚きだろう。

頭を必死に使って考えているが答えは一向に出てこない。

そんな彼の様子を微笑ましく見守るマキノ。

 

「何だァ? 海賊達は居ねェのか?

 まあ、静かで良い」

 

そんな時、昨日のヒグマを頭領とする山賊達が酒場へ来る。

部下を10人程引き連れ、我が物顔で酒場の席を占領する。

 

「おれ達は客だぞ、酒を持って来い!!」

 

横柄な態度でヒグマは酒を注文する。

マキノとしても態度が悪くとも接客しない訳にはいかない。

 

酒癖が悪いのは最初の来店から理解はしていた。

だが、今は彼の悪癖が良い方向に働いた。

酒を振る舞われて上機嫌に飲んでいる。

多少騒がしさはあれども、飲み終われば下手なトラブルも無しに帰ってくれそうだなと内心で安堵した。

 

「しかし、あの時の海賊共の顔を見たかよ?」

 

途端、ヒグマが部下達へそのように語り掛ける。

 

「酒をぶっ掛けられても文句一つ言えねェんだ!!

 情けない奴らだよ!!」

 

シャンクス達をあからさまに馬鹿にした物言い。

ヒグマの言い方を皮切りに部下達も一斉に笑い出す。

無論、マキノも聞いていて気持ちの良いものではない。

けれど、それを言ったところでこの山賊達は意見を変える等とは思わない。

 

「おれァ、ああいう腰抜けを見るとムカムカしてくるんだ。

 殺してやろうかと思った位だからな」

 

ヒグマのシャンクスへの誹謗を止めない。

 

「弱っちい腰抜けな奴だ。

 そうだな、海賊は船に乗るんだ。

 いっそのこと、あいつらの海賊船でも奪ってやるか」

 

そんな下種な発言まで飛び出す始末だ。

今、シャンクス達はこの場には居ない。

昨日はここで彼らが宴会をしていたのを忘れでもしたのか?

その話は後でシャンクス達に届いてしまうだろう。

 

ヒグマは本当にこちらと彼らの繋がりを考えていないのか、はたまたシャンクス達を侮っているのか。

正解が後者である事が次の彼の発言で良く理解できた。

 

 

 

 

 

「どうせ海賊なんてカッコつけのあいつらなんかには、大事なものは何一つ守れやしない。

 せっかくならおれ達の酒代になる金品を奪って、仲間を殺してやろうや」

 

 

 

 

 

ヒグマの中にある残虐性が口から飛び出した。

いや、これこそが彼にとっての「普通」なのだ。

しかし、彼の見せる思想はマキノのような一般人からすれば「異常」である事は明らかだ。

 

明らかに危険すぎる存在にマキノは得体の知れなさを感じ取る。

一刻も早くこの場を去って欲しい――――客に対して抱いて良い感情でないのは分かっている。

けれども、そう願う程にヒグマという男の思想は危険視するべきものだ。

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!

 シャンクスがお前なんかにやられるか!!」

 

 

 

 

 

その危険な思想の持主へ真向から言葉を浴びせる者が居た。

マキノではない。

この場に山賊以外に居る少年――ルフィだ。

 

「あ? 何だ? ガキ?」

 

「シャンクス達は腰抜けなんかじゃねェッ!!

 馬鹿にするなよッ!!

 シャンクス達がお前らみたいな弱虫に負けるか!!」

 

ルフィの怒号が酒場の中で木霊する。

このままではまずいと察知したのはマキノだ。

 

昨日の件を見てもヒグマの怒りの沸点が低いのは明らか。

ヒグマが行動を起こす事は事前に察知できた――――だが、一歩遅かった。

 

「何だと? このガキ!!」

 

ルフィの胸ぐらを掴むと、そのまま拾い上げる。

乱暴に酒場の扉へルフィを投げた。

 

(しつけ)のなってないガキだ。おれが直々に躾けてやる」

 

更にルフィを痛め付けようと、仲間と共に酒場を出る。

マキノも止めたかったが、彼女だけではどうにもならない。

 

己の弱さを知っているからこそ、無謀はしない。

無謀をして、助けられる筈なのに取り零してしまう事の方が危険だ。

残酷な話だが、ルフィは物理的な攻撃は通用しない。

銃も通用しない。

しかし、それもヒグマが機嫌を完全に損ねるまでの間でしかない。

 

実力行使で彼を止められるならマキノも身体を張るが、彼女は非力な一般人だ。

そんな非力な彼女が取れる選択肢は1つ。

 

「村長さんを呼ばなきゃ!!」

 

こういう時に頼れる大人を呼びに行く。

それがマキノの戦い方だ。

ルフィを助けるべく、一分一秒でも早く助けられるように走る。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、随分と頑丈なガキだな」

 

店を出たヒグマは投げ飛ばされたルフィが立ち上がり、睨み付けてきた事に感心した。

手加減したつもりはないので、ルフィのタフさに感心しているのは本心からだろう。

 

「こいつは丁度良いサンドバッグだ。

 昨日の海賊のせいでムシャクシャしてたからな」

 

「うるせェッ!!

 余裕でいられるのも今の内だけだ!!」

 

ヒグマの余裕綽々な態度にルフィは言葉を叩き付ける。

腕を上げて振り被る。

 

あの時、ウタワールドでの戦いを思い出す。

どうやったのか、全ての事は覚えていない。

それでも最初の部分は覚えている。

 

この伸縮する身体を用いたリーチの長さを活かした戦法を他ならない自分が可能とした。

例え精神のみの出来事だったとして、起きた事実は着実にルフィの中で芽生えている。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

ルフィの狙いはヒグマだ。

ヒグマを始めとした山賊の面々はルフィが何をしようとしているのか興味深そうに眺めている。

否、子どものやる事だからと侮っているのだ。

 

それもそうだ。

ルフィとヒグマとの間には距離がある。

大人が何歩も歩いて縮められる距離を、子どものルフィがどうして縮める事が出来ようか?

それが分からない程の子どもなのかと、嘲りを向けている。

 

「〝(ピストル)〟!!」

 

そう思われているとは知らず、ルフィは足を前へと踏み出して、届かない筈の距離で拳を前へと突き出した。

ビヨーン!! 考えられないような音がしたと同時に"ルフィの右腕が伸びた。"

 

これにはさしもの山賊達も度肝を抜かれる。

ただの子どもと侮っていたが、まさかこんな不思議な身体をしているとは思わなかったからだ。

そう思うも、もう遅い。

子どもと侮ったルフィの拳が直撃する――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面を殴り付け、それで跳弾した拳がルフィ自身の顔面に直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えッ!?」

 

自身の拳で受けるも、当然ながらダメージは無い。

しかし、勢いは確かにあったのでルフィ自身の身体を転がす威力はあった。

仰向けに大の字で倒れ、何が起きたのか把握するのに時間が掛かった。

 

いや、自爆した事は分かっている。

けれど、何故そうなったのかだけは理解出来なかった。

 

いや、本当は自身に拳が飛んできた理由だって把握しているのだ――――

 

「ははッ!! 驚かせやがって!!

 自爆してりゃ、世話ねェぜ!!」

 

ルフィの様子を見ていて爆笑をするヒグマ。

それは何も彼に限った話ではない。

部下の山賊も何人もが、ルフィの行動を嘲笑する。

 

「まだだ!!

 〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 

再び、ルフィは右腕を伸ばす。

今度はヒグマの頭上を通過するという結果に終わる。

 

「腕が伸びるとは、おかしな生き物もいるもんだ。

 だが、自分の能力もコントロールできない癖に戦いを挑むのは、もっとおかしな生き物だな」

 

頭上を通過する腕をヒグマは掴み、下へ引っ張る。

ルフィはその力に抗えず、地面へと叩き付けられる。

 

「ほれ、こっちに来い」

 

腕を今度は自身の方へと引っ張る。

それだけで伸ばされていた腕は縮んでいき、ルフィの身体も地面を引きずられながら引き寄せられる。

 

「このッ!!」

 

残る左腕を伸ばし、ヒグマへ何とか一矢報いる筈だった。

それでも"本来の"戦闘経験値で言えばヒグマの方が圧倒的に高い。

加えてルフィの動作も分かりやすく、何よりもその身体的特徴は看破されてしまっている。

 

「お前の身体の特徴を知る前までなら通用した手だったな」

 

ひょいっと――わざわざ口にそう出しながらヒグマはルフィの腕から手を放すと、彼の飛んでくる軌道上から横へズレる。

それだけでルフィの左腕も無駄に伸ばされるだけに終わる。

 

まだ、ルフィの身体は引き寄せられる勢いは殺されていない。

そのまま地面を引きずりながらヒグマの真下へ到着する。

 

「おらよ!!」

 

乱雑に頭を踏み付けられる。

普通であらば大けがをするところ、ルフィには無傷である。

それでも体格差もあって、踏み付けられた状態で動けずにいる。

 

「このッ!! この足を退けろ!!」

 

「こいつは驚いた。全く効いてないのか?」

 

「おれはゴム人間だ!! こんなの効かねェッ!!」

 

「おかしな生き物だと思ったが、ゴム人間とはな」

 

動けないルフィに利用価値があるなとヒグマは考え出す。

子どもではあるが、ゴム人間などと言う摩訶不思議な存在ならば見世物小屋にでも売り捌けば結構な金になるだろう。

その前に楽しく酒を飲んでいたところを邪魔された事の報復をしなくてはならない。

 

「その子を放してくれ!!」

 

ヒグマの思考を遮るように声が掛けられる。

この村の村長だ。

 

「頼む!!

 金なら払う!! だから、その子を助けてはくれないか?」

 

「村長……」

 

村長は土下座をし、ルフィの命を助けてやってくれと懇願する。

普段は小言ばかりの村長が自分の為にこうして土下座までしてくれている。

 

「ダメだ。こいつはおれを怒らせたからな。

 今、ここでこいつを殺すのも良いかもしれない」

 

村長の必死の嘆願も虚しく、ヒグマは意見を変えるつもりは一切ない。

むしろ、この場でルフィを殺害さえも行おうとしている。

それをさせてはならない――――村長達は必死に訴えるも、ヒグマは先程と同様に意にも返さない。

 

 

 

 

 

「港に誰も居ないから何事かと思えば……いつかの山賊が来ていたのか」

 

 

 

 

 

この空気を切り裂くように、割って入る声があった。

声の主はシャンクスである。

その後ろには赤髪海賊団の面々の姿が。

 

「ルフィ、お前のパンチは(ピストル)よりも強いんじゃ無かったのか?」

 

「うるせェッ!!」

 

シャンクスがルフィへ真っ先に問い掛ける。

しかし、この状況で問う内容かと聞かれるとそうではない。

ルフィもぶっきらぼうに返す。

喋りながらもヒグマの方へと歩を進める。

 

「昨日の海賊か。腰抜けが何の用だ?

 それ以上近付くなら撃ち殺すぜ?」

 

ヒグマが部下の1人に目線を配る。

それだけでどういう意図を持っているのか部下も把握する。

シャンクスの真横まで行くと、銃を突き付ける。

 

(ピストル)を抜いたからには命を懸けろよ」

 

「あァ? 何を言ってやがる?」

 

「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ」

 

シャンクスが何を言っているのか分からなかった。

直後、乾いた音が響き、それが発砲音だと理解するのにその場の全員に時間が必要だった。

 

発砲したのはヒグマの部下――――ではなく、ラッキー・ルウである。

容赦なく、部下の頭を銃で撃ち抜いた。

 

「なんて卑怯な事をしやがる!!」

 

「甘い事を言ってんじゃねェ。聖者を相手にしてるんじゃねェんだぞ?」

 

「お前らの目の前にいるのは海賊だぞ?」

 

副船長のベックマンが山賊の意見を真っ向から蹴り飛ばす。

その理由を船長であるシャンクス自らが叩き付ける。

 

「おれ達に用があるのかよ?」

 

こういう事を行うのならば、昨日の時点で何故やらなかった?

様々な意味を込めた疑問の言葉を投げ付ける。

 

「いいか山賊。おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、唾を吐かれようが、大抵の事は笑って見逃してやる」

 

だがな――――最後に言葉を付け足すと同時、彼は山賊を睨み付ける。

それはこれまで笑顔で、楽しそうにしていたシャンクスとは思えない程の目付きだった。

そこに宿る感情は「怒り」だ。

 

 

 

 

 

 

「どんな理由があろうと!!

 おれは友達を傷付ける奴は許さない!!!!」

 

 

 

 

 

シャンクスの言葉にも怒りの感情が込められていた。

この場をたった一言で支配してみせた。

 

「許さないって言うならよ、やってみろ!!

 野郎共、山賊様にたてついた事を後悔させてやれ!!」

 

ヒグマの号令を受けて、山賊の部下達が駆け出していく。

それを見てシャンクスが剣を抜こうとして……

 

「おれがやろう。充分だ」

 

銃を肩に担いでベックマンが前へと出る。

数は10人近く。

対してベックマンは1人だが、いつものように煙草を吸って落ち着いている。

 

勝負は一瞬で決着が付いた。

まず真正面から向かってきた山賊に吸っていた煙草を額に押し当てて怯んだところ蹴とばして後続の山賊に押し当てる。

その直後、銃をこん棒に見立てて次々と山賊の顔面へと叩き込む。

山賊の数は多いが、それ以上にベックマンが強過ぎた。

瞬く間に山賊全員をノックアウトする。

 

「ま、待て!! 仕掛けてきたのはこのガキだぞ!!」

 

「どの道、賞金首だろう?」

 

部下を一瞬で蹴散らされた事にヒグマは怯え、この場を収める方向へシフトする。

自分の方が強いと思っていたからこそ、強気でいられたがこの場の強者は間違いなく奴らだ。

なので、言葉を尽くそうとするも苦し紛れのものしか出ない。

故に、シャンクスから逃げられはしないと最後通告をされる。

 

「くそッ!!」

 

そうなれば仕方ない。

ヒグマの取った手段は煙幕だ。

 

「ちっ、"こんな時に"」

 

煙幕を使われ、そのように舌打ちしたのはヤソップだ。

恐らく、〝覇気〟と呼ばれる力に関係しているようだが、言葉通りなら今は使えないようだ。

 

煙幕が晴れると、ヒグマの姿もルフィの姿も消えたいた。

 

「ルフィ!!」

 

「油断した!! ルフィが連れてかれた!!」

 

「皆で探せば見付かる!! だから狼狽えてるな!!」

 

ルフィの姿が消えた事で真っ先に動揺するのは事の成り行きを後ろで見守っていたウタ。

そして、船長のシャンクスだ。

狼狽えるのも親子で似ていると場違いな感想を抱きつつ、ルフィの捜索を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらもまさか山賊が海へ逃げるとは思わないだろうな」

 

小舟を用いて、ヒグマはルフィを連れて海へ逃げていた。

ルフィも抵抗を続けるが、ヒグマの方が力が強い。

結局は組み伏せられ、何も出来ない。

 

「お前みたいな弱い奴には、何も出来やしないんだよ」

 

「このォッ!!」

 

ルフィは組み伏せるヒグマを退かそうともがくが、子どもと大人の力の差が如実に表れてしまっている。

ヒグマは高笑いし、ルフィは必死に脱け出そうと身を捩る。

 

「さて、こうなるとお前の人質としての役目も終わりだ」

 

シャンクス達から逃れる為にルフィを盾に移動したが、あとは他の島にでも逃げてしまえば早々には見付かるまい。

癪だが、ここは海賊の奴らの真似をして海を移動する事にする。

 

「お前も戦う為の身体の使い方の発想はできてるみたいだが、如何せん"使い方そのものがなっちゃいないな"」

 

実を言えば、ルフィの最初の攻撃はヒグマにとっても予想外の出来事だ。

油断もあるが、ルフィがゴム人間だと気付く方が無理な話だ。

もしも、あれがヒグマの顔面を正確に捉えていたならば、間違いなく直撃していた。

 

発想は間違いなく素晴らしい。

けれど、惜しむらしくはルフィにはゴムの身体を使いこなす事ができていない事実が全ての原因である。

それが故の自爆、そしてあらぬ方向へ腕を伸ばす結果となった。

 

「もしかして、自分が強いとでも勘違いしたか?」

 

「うるせェッ!! おれはこれから強くなれるんだ!!」

 

「強く"なれる"だと?

 まさか、これから先の未来で強くなるから、おれに勝てるとでも思ったのか?

 所詮はガキだな。お前は弱い。それが覆せやしない現実なんだ。

 それを、今から身を以て体験できるんだ。ラッキーだな」

 

ルフィの服の襟首を持って、ルフィを持ち上げる。

この場には海しかない。

悪魔の実の能力者のルフィは海で泳ぐ事が出来ない。

 

「この!! 放せ!!」

 

「じゃあ、望み通りにしてやるよ」

 

ルフィの望みを叶えてやる――――そう宣言するや、ヒグマはルフィを海へと放り投げた。

 

「くそっ!! くそっ!!

 あいつクズなのに!! 一発も殴れなかった!!」

 

ルフィは悔しさで涙が溜まる。

ウタワールドでの戦い方を真似てみた。

あの時に出来た事が今のルフィにはできなくなっている。

 

「あいつの言う通りになるなんて!!」

 

納得したくなんてない。

けれど、ヒグマの言う事が正しいのも事実なのだ。

ルフィはウタワールドで出来た戦い方を"覚えているだけに過ぎない。"

平たく言えば、頭の中のイメージに身体が追い付いていない。

 

自分も強くなれる事は分かってはいた。

しかし、最初にヒグマに殴り掛かろうとして失敗した際に痛感した。

まだその領域に達していない事に。

 

彼がそこまでたどり着くのは先の話だ。

それに加えて、死に物狂いで努力をしなくてはならない。

言うなれば力を前借りしただけで、"彼自身が強くなった訳では無いのだ。"

 

ヒグマの言う事が正しい結末となってしまった。

自分を強いと、いや強くなるから大丈夫だと、錯覚していたのだ。

力を持たない現状のルフィにこの窮地を脱するだけの力はない。

それどころか窮地を招き、結果として今死にかけている。

 

「誰か、助けてッ!!」

 

海へ放り込まれて溺れまいと、必死に両腕を動かして浮かぼうとしている。

しかし、能力者のルフィには無意味な行動だ。

 

「ははッ!! あばよ!!」

 

その光景を見ながらヒグマはこの場を後にしようとする。

しかし、それを阻む存在がヒグマの背後に出現した。

 

大きい、鋭い牙とウツボのような身体を持つ海獣と呼んで差し支えない海の生物だ。

フーシャ村付近でたまに見掛ける近海のヌシである。

 

「何だ、こいつは!?」

 

しかし、この近海のヌシの事を知らないらしいヒグマは慌てるばかりだ。

ルフィへ投げた言葉がそっくりそのまま返ってくる。

力を持たないならどうする事もできないのだと。

 

 

 

 

大口を開けた近海のヌシに成す術無く、捕食される結果となる。

 

 

 

 

 

あわれ、ルフィを一方的に痛めつけたヒグマは近海のヌシに瞬く間に丸呑みにされた。

だが、これはルフィを救う結果に繋がるものではない。

次はお前だ――そう宣言するかのように近海のヌシはルフィへ襲い掛かる。

 

「誰か、助け――」

 

助けを懇願する悲痛な叫びは届かない。

 

 

 

 

 

『安いもんだ腕の一本くらい。無事で良かった』

 

 

 

 

 

脳裏に過る光景があった。

シャンクスがルフィへ笑いかけながらそんな事を言っている。

海で右腕一本でルフィを抱えながら、そう告げたのだ。

 

「……ッ!?」

 

その脳裏を過るものが何なのかを考えている暇は無かった。

直後にルフィは何者かに引き寄せられていた。

 

その人物は赤い髪が特徴的な男――ルフィの尊敬する海賊の大頭のシャンクスで、近海のヌシを睨み付ける。

 

「失せろ」

 

たった一言だった。

次の瞬間には近海のヌシはそそくさと海中へと去って行ったのだ。

 

「恩に着るよルフィ。話はマキノさんから聞いた。

 おれ達の為に戦ってくれたんだってな」

 

先程に近海のヌシへ見せた迫力は消えていた。

いつもの穏やかな、優しい雰囲気が表に出ていた。

 

「うっ、うぅっ……シャンクス!!」

 

「泣くなよルフィ。男だろ?」

 

「だってよ、シャンクス……腕が!!!!」

 

近海のヌシからルフィを守ってくれたシャンクス。

しかし、その代償はあまりにも大きかった。

 

彼の左肩から先、左腕が失われていた。

左腕があった肩口から血が流れている。

けれども、ルフィを心配させまいと笑顔を絶やさない。

 

「安いもんだ腕の一本くらい。無事で良かった」

 

「おれ、おれ……"多分"こうなるの分かってたんだ!!

 なのに、何にも出来なくて、出来なくて……ッ!!」

 

先程に脳裏に過る映像が現実となった。

時々見ていた映像は恐らく、この先の未来で起こり得る出来事なのだ。

なのに、だと言うのに……ルフィは変える事が出来なかった。

 

「バーカ!! おれの事をお前に心配するなんて十年早い」

 

「シャンクス……」

 

「それに未来が分かっても力が足りなきゃ意味が無いってのが分かって良かったじゃないか」

 

結局のところ、何を成すにしても力が必要となってくる。

それが分かって良かったとシャンクスは言ってくれる。

だが、それでルフィは納得できない。

 

「起きちまった事は後悔しても仕方ない。

 なら、これから強くなれルフィ。

 今よりももっと、もっと、強くなれ。

 守りたいものを守れるくらい、もっと強くなれ。

 身体だけじゃない、心も、な」

 

ルフィに気遣わせない為の言葉ではない。

強くなれ――その一言はルフィへの期待を込めている。

 

そんなシャンクスの強さにルフィは再び泣き叫ぶ。

 

最初、ルフィを航海に連れて行かなかった本当の理由を知った。

海の過酷さ。

己の非力さ。

シャンクスという男の偉大さを心に刻み込む。

 

それでもルフィへ「前を向け」と暗に告げるシャンクスの〝強さ〟を知った。

ただ力が強いだけじゃない、心の強さを自身の中で刻み込む。

いつか、こんな男になりたい――――ルフィは心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンクスの腕が失われ、ルフィは責められるかと思ったが誰も責めない。

それどころか無事を歓迎された。

ウタには怒鳴られこそしたが、それでもシャンクスの覚悟を知っているのでそれ以上は言わなかった。

最後にはルフィもシャンクスも無事であった事を喜んでいた。

 

それからしばらくの月日が経過した。

 

「シャンクス!! この航海でもう村に戻ってこないって本当か?」

 

「ああ。長い間拠点にして、少々名残惜しいが、お別れだ」

 

別れは突然に訪れる。

前々から示唆していた事なのだが、やはりその時が来るとルフィとしても寂しくあった。

 

「もう航海には連れてってやれないな」

 

「良いんだ。前に海賊にはなるって決めてたから。

 だから、今度は自分の力で航海するよ」

 

「なるほどな。そういう事か。

 あの時の祭りで言ってた違和感はそういう事か」

 

ルフィの宣言を聞いて納得したのは意外にもベックマンだ。

オレンジ髪の少女とその母親と出会った、その際に抱いた違和感があった。

確かにあの時にはルフィは「おれが海賊をやる時」と宣言していた。

その時には海賊になる気持ちを固めていたのだ。

 

「お前が海賊になれるのか?」

 

「なる!!」

 

シャンクスの問い掛けに間髪入れずにルフィは力強く返答する。

 

「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!

 世界一の財宝を見付けて!!」

 

更に一息。

次の一言はルフィの決意表明でもある。

 

 

 

 

 

「海賊王になってやる!!!!」

 

 

 

 

 

「ほう、おれ達を超えるのか」

 

この少年が本気で言っているのだと、シャンクスも理解できていた。

それだけの付き合いである。

彼の決意を馬鹿にする者は〝赤髪海賊団〟の何処にも居なかった。

 

「じゃあ、この帽子をお前に預ける」

 

シャンクスの被っている麦わら帽子を被せられる。

この少年の決意に応えられるシャンクスにとっての唯一の方法だった。

 

「おれの大切な帽子だ。

 いつかきっと返しに来い。

 立派な海賊になってな」

 

「うん!!」

 

「ズルいルフィだけ!!」

 

そこへ頬を膨らませて言うウタが割り込んでくる。

シャンクスの宝物と言っても過言ではない麦わら帽子を渡しているのが不服なのだ。

 

「そういうウタだって、ルフィから何か貰ってただろ?」

 

「私達の〝新時代〟のマークだよ。

 麦わら帽子がモチーフなんだけど、お世辞にもそうは見えないけど」

 

「似てただろ?」

 

「最初見た時に瓢箪(ひょうたん)と勘違いしたんだけれど?」

 

「絵心が全くないんだなルフィは!!」

 

しんみりした空気を一瞬にして笑いの渦へ吞み込んでしまう。

これこそがルフィの持つ特異性なのだろう。

 

「そうだ。ウタ。

 おれ、"あの時の答えがようやく分かった"」

 

「答え?」

 

「ああ、山賊でシャンクスが抵抗しなかった理由は分かってたのに怒ってた理由だ」

 

「そういえば、そんな事もあったわね」

 

今更ながら分かったのかとウタもルフィの鈍さに呆れる。

だが、問題は彼の回答が正解でなければ意味が無い点にある。

 

「それで? 答えは」

 

「シャンクス達が馬鹿にされた事が許せなかったんだ」

 

そう、本当にシンプルな理由でしかない。

ルフィの抱いた憤怒の理由は結局のところ「シャンクス達を馬鹿にされたから」に他ならない。

 

"友達である"シャンクスを馬鹿にされて、ルフィは怒ったのだ。

それはシャンクスがヒグマに対して敵意を剥き出しにした理由と同じである。

 

唯一の違いは頭で理解してのものではなく、ルフィのは本能から来る感情であった事か。

彼らしいと言えば彼らしい。

考えるよりも先に感情の方が表面に出てきたのだ。

 

「良く分かったじゃない」

 

「へへェ~、おれの勝ちだな?」

 

「時間を掛け過ぎたから無効よ。

 つまり、私の勝ち。これで私の183連勝ね」

 

「えェッ!? ちゃんと答えただろう!!

 おれは負けてねェぞ!!」

 

「出たァ!! 負け惜しみィ~!!」

 

ウタは両手を開き、いつものポーズを取る。

しかし、このやり取りも見納めだ。

シャンクスもこのやり取りを温かく見守っている。

 

「ねェ、ルフィは海賊王になるつもりなのよね?」

 

「おう。それがどうかしたのか?」

 

「ならさ、色んな女の人が寄ってくると思うんだ。

 それこそ、あのオレンジ髪の子みたいに」

 

「んん???」

 

ウタの切り出しがいまいち理解できない。

故に首を傾げるのだが、彼女は気にせずに話を続ける。

 

「海賊王になるつもりなら、ハーレムを作るのは許してあげる。

 だから、今よりもっと良い男になるんだぞ。

 私も、もっと良い女になるんだから」

 

「ウタ!! おれは認めないぞ!!

 おい、ルフィ!! お前にウタはやらんぞ!!

 それと海賊王になろうとするからって、モテる訳じゃないんだぞ」

 

「?????」

 

ウタの言いたい事もシャンクスが何を言っているのか、本当に理解が出来ない。

なので、更にルフィの中の疑問は加速するばかりだ。

 

「おーい、お頭!! ウタも!! そろそろ行くぞ~」

 

そこへ船員の声が届く。

ついにお別れの時が来た。

だが、これは永遠の別れなんかではない。

 

「また会えるのを楽しみにしてる。

 お前の掲げる〝夢の果て〟――――〝新時代〟もな。

 けど、ウタをお前にやるかは別の話だ」

 

「え? 何それ? 私聞いてないんだけれど?

 それと私の事を大切にしてくれるのは嬉しいけれど、過保護だよ」

 

シャンクスの最後の一言にウタは反応する。

ルフィに聞こうとも思ったが、出航の為にシャンクスは既に背を向けて歩き始めていた。

恐らく、今のウタの言葉に聞く耳持たずとばかりにこの場を離れたかったからだろう。

 

「ルフィ!! 今度会った時にアンタの思い描く〝新時代〟を聞かせてよ!!

 それと、次に会った時にはどれだけ強くなったか、見てあげるから!!

 そして、私を貰ってね!!」

 

「おう!! 良く分かんねェけど、分かった!!

 また会おうな!!」

 

服の内側にしまっているペンダントにした指輪を掴みながらウタは告げる。

ルフィは本当に分かっていない事に呆れるも「彼らしい」と思って、それ以上は告げない。

シャンクスに続いて船へと乗り込む。

 

「錨を上げろォッ!!

 帆をはれ!!

 出発だ!!」

 

「「「おおォォォッ!!」」」

 

シャンクスの号令と同時、レッド・フォース号はフーシャ村を出航する。

船の姿が見えなくなるまでルフィは手を振ってずっと見送るのだった。

 

 

 

 

 

変える事の出来ない〝運命〟もある。

けれど、変える事ができるものもある。

 

今はきっと分からなくとも構わない。

この先ずっと知らなくても構わない。

 

どんな過酷な〝運命〟が待っていようとも、鍛えた拳で打ち砕けば良い。

その為に少年は強くなる。

 

超えるべき偉大な男と、そう約束をしたのだから。




如何でしたでしょうか?

ほぼ原作1話の出来事をなぞっています。
細部が違ったりしていますが、基本は同じ流れです。

ウタワールドの出来事は確かにルフィも覚えていますが、全てではありません。
何となくこんな事をしたな~位で、記憶は曖昧でございます。
人も夢から覚めた時にどのような夢だったのか、覚えていない事もあるでしょう?
それと同じようなものです。

ではいつものように補足を兼ねて原作との相違点から
・エレジア事件後の翌日である。
・ルフィがシャンクス達の行動を本能ながら理解していた。
・ウタも一緒に出航している。


まず最初の部分はヒグマとの帳尻合わせみたいな部分もあります。
ヤソップを始めとした面々が〝覇気〟を使えなかったのは、トットムジカとの戦いでの疲労が抜け切っていないからとしています。
原作で他の理由があったら変わる部分かも。



次にルフィは何となくヒグマに対するシャンクスの行動に理解を示しています。
きっと、夢の中ででも似たようなシチュエーションでも見たのでしょう(雑)
しかし、それでも友達を傷付けられる事を良しとしないので怒っています。


そして、ウタは〝赤髪海賊団〟の一員として出発します。
ルフィと一緒に島を出るのではと楽しみにしていた方には申し訳無いです。

この展開は最初から決めていました。
映画の本編でも彼女は「赤髪海賊団の音楽家・ウタ」と言っています。
なので、彼女の望むようにウタはシャンクスと共に海へ出させました。
ルフィを想っていますが、彼女はシャンクス達と共に冒険に出て自分を磨くつもりのようですので。
何だかんだナミの事は気に入っているようですから、ハーレムでも築けと言い出します。

新時代のマークは渡されています。
夢の果てはシャンクスのみが聞いていますが、ウタもいずれは聞きたいと考えているでしょう。
本編の彼女はルフィの夢の果てを知る前にエレジアに残されたわけですから。

今後はウタも番外編でも出す予定なので、全く出番が無い訳ではございません。
それに大人になった彼女の出番はそう遠くないと思います。
今しばらくお待ちください。


ここからは補足を。

最後の部分のベックマンの台詞から。
ルフィは海賊になる事をナミとの出会いの時から決めていました。
その前の回の航海へ連れて行って貰いたい台詞の「〝冒険〟がしたい」と言い出してますから、既にその時に決めてました。
それ以前の時点でルフィはシャンクスの船に乗りたくて、仲間になりたくて乗ろうとしていましたが、原作では助けられてから自身が海賊になる事を決意しました。
ですが、こちらではその前に決めています

ヒグマに立ち向かったルフィは自分の身体を上手く使いこなせてはいません。
ウタワールドでの出来事はいわゆる経験の前借り状態で、ドーピングしていたからこそ戦えていたに過ぎません。

現時点でのルフィが使いこなせていないのは、ナミと邂逅した祭りで腕を伸ばした際に上手くコントロールできていなかった事からも分かる通りです。

ルフィはウタワールドでの経験が残っていたが故に「逆に」戦えると錯覚したというところです。
皮肉にも戦い方を知ってしまったが故の悲劇といったところでしょうか。

その結果とは言いませんが、シャンクスの腕は失われてしまいます。
ルフィもその事実を察知しましたが、彼自身に力が足りないが故に未来を捻じ曲げる事は出来ませんでした。

何かを成すにも、やはりある程度の力や能力が無ければ叶える事は難しいです。

つまり、今後はルフィ次第で変える事は出来るでしょう。
ですが、変える事のできない結果も同時に起こってしまうかもしれません。



さて、長々と書いていきました。
では、また次回に。
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