続きです。
ここはシェルズタウン――――海軍基地の町。
この海軍基地を取り締まっているのは〝斧手〟の異名で知られるモーガン大佐である。
右腕がその通りに斧になっており、凶器を装着した状態となっている。
さて、そんなモーガン大佐が駐在する巨大な基地の脇にグラウンドがある。
大きな塀で外界と隔たりを作っているそこは本来なら海兵の訓練で使われる場所なのですが、今は別の用途で使われている。
1人の男が十字にそれぞれの腕を縛り付けられている。
まるではりつけだ。
白い半袖のシャツ、腹巻に黒い長ズボン、そしてひと際目を引かれるのが目元を隠すように覆っている手拭い。
その男の名前はロロノア・ゾロ。
〝海賊狩り〟の名で知られる賞金稼ぎだ
しかし、どうして賞金稼ぎで知られる彼が海軍に捕まっているのか?
海賊を倒す事は海軍側にしても嬉しい事である筈だ。
わざわざ賞金を懸ける事で海賊が起こすだろう悪行を防いでいるのだから。
勿論、こうなっている事には理由がある。
彼はこの町の海軍のモーガン大佐――――その息子の飼っている狼へ危害を加えたからである。
町で狼を散歩させていて、少女に噛み付こうとしていたところを庇う為である。
そもそも狼を何故飼っているのかとか、町で散歩させているのかとか、ツッコミどころ満載ではあるが事実なのだから仕方ない。
その事で罪を着せられ、一ヶ月はりつけ状態で立っていられたら全ての出来事を無かった事にするとの事だ。
飲まず食わずで一カ月というのはやはり過酷ではあるが、約束まであと半月というところまで来ている。
まあ、そんな中でたまに自作のおにぎりを持ってくる助けた少女が居るのだが、突っ撥ねている。
自分に協力すれば罪に問われる可能性があるからだ。
そのタイミングでモーガン大佐の息子――――ヘルメッポが来てしまった。
彼は少女の作ったおにぎりを踏み潰し、あまつさえ部下に少女を塀の外へ放り出すよう命じる。
嫌々ながら部下は言う通りにし、少女を放り出してしまった。
塀は高さがある、故に落ちればひとたまりもない。
しかし、直後にこちらを覗いていた2人の内の麦わら帽子を被った男が助けるのが見えた。
「全く、今日は来客の多い日だ」
その麦わら帽子を被った男がこちらにやって来た。
その男は海賊をやる為の仲間を探しているのだとか。
「自分から悪党に成り下がろうって訳か」
正直に自分から悪の道に進む理由が分からない。
しかし、これに対して麦わら帽子の彼はこう返した。
「おれの意志だ。海賊になりたくて何が悪い」
その言葉、その表情――――彼から放たれる覚悟は本物だ。
海賊をやるのに仲間が必要らしく、自分を勧誘しに来たのかと思った。
「別にまだ誘うつもりはねェよ。
お前、悪い奴だって評判だしな」
まさか海賊をやるのに善悪の部分を問われるとは思わなかった。
ただ、仮に勧誘をされるにしても条件がそんな内容なら願い下げであった。
ロロノア・ゾロには命を懸けてでも叶えたい野望があるのだから。
麦わら帽子の男の去り際、少女が持ってきて、ヘルメッポに踏み潰されたおにぎりを拾って食べさせるように頼む。
塩ではなくて砂糖を使っていた事、踏み潰されてドロドロで食べられたものではない。
けれど、あの少女が自分の為に作ってくれたものを粗末にするのは自分自身が許せなかった。
だから、麦わらの男に「美味かった。ごちそうさまでした」と伝えてくれと頼む。
それからしばらくして、再び麦わらの男が訪ねてきた。
名前は「ルフィ」と言うらしい。
今度ははっきりと自分を仲間へ勧誘するつもりのようだ。
だが、自分から外道に落ちるつもりは毛頭ないので拒否する。
そしたらあろうことかルフィとやらはこう返して来た。
「知るか!! おれはお前を仲間にするって決めたんだ!!」
「勝手な事を言ってんじゃねェッ!!」
何と我が儘なのだろうか。
こちらの意見など最初から聞く耳持たずだったのだ。
これに頭痛を覚えない筈がない。
話はすり替えられ、自分が刀を使える事を話す。
するとあれよという間にルフィが「刀を取り返すから、返して欲しけりゃ仲間になれ」と言ってきた。
何て質の悪い奴だ。
そして、こちらの話を聞かずに海軍基地へ乗り込んで行ってしまった。
それがついさっきの出来事だ。
こんなにも慌ただしく来客が訪れるのは初めての事だ。
「ルフィさんが基地の中に行ったんですか?」
ムチャクチャな人だ――――先程、ルフィとやらと一緒にこちらを覗いていたもう1人の男まで来た。
丸眼鏡を掛けた少年だ。
コビーと言うらしい彼はルフィと行動期間こそ短いがどうにもこういうムチャクチャをする人物である事は承知しているらしい。
現に海軍基地へ乗り込んだ話をすれば溜め息を吐くだけでそこまで驚いているようにも見えなかった。
彼が何者なのか、気になっているとコビーが縛られている縄を解き始めた。
だが、これは海軍への反逆行為に等しい。
その事を指摘するもコビーは止めなかった。
こんな海軍は見てられない!! そう言い出す。
「ぼくは正しい海兵になるんです!!
ルフィさんが海賊王になるように!!」
「海賊王だと!? 意味分かって言ってんのか!?」
これには驚きを隠せない。
途方もない野望を彼もまた抱えていた。
いや、彼は本気なのだ。
そんな途方も無い夢を追い求めて、彼は海賊となったのだ。
ゾロもまた途方も無い夢を追い求めるからこそ、彼の事を理解出来てしまう。
亡くなった親友との約束がある。
彼の野望は――――
「がっ、づぅぁっ!?」
遠くで銃声がかろうじて聞こえた。
その直後にコビーとやらが倒れて右肩から流血していた。
掠っただけのようだが、自身の血を見て騒いでいる。
とりあえずは元気そうでホッとする。
「さっさと逃げろ」
「いえ!! あなたの縄を解かないと!!」
逃げろと告げるも、コビーの回答は「NO」であった。
ゾロの縄を解く――――まるで使命感のように言う。
しかし、そんな事をせずともゾロは一ヶ月経てば解放される。
「あなたは三日後に処刑されるんです!!」
そんなゾロの希望をズタズタに引き裂く現実をコビーが告げる。
いや、まさか――――考えたくもない事実を突き付けられる。
それが現実なのだ。
あのヘルメッポという男は救いようのない程のクズだ。
それを聞いたからこそ、ルフィはヘルメッポを殴ったらしい。
これで突然海賊への勧誘を始めたのも、刀を取り返すと言い出した理由も納得出来てしまう。
全ては、会ったばかりのロロノア・ゾロの為に。
「動くな!!」
そこへ銃を携えた海兵達がやってくる。
それにモーガン大佐、ヘルメッポも居る。
銃口は当然のようにゾロとコビーへ向けられている。
こんな所で死ねるものか!!
ロロノア・ゾロには亡くなった親友――――くいなに誓ったのだ。
世界一の大剣豪になる事を。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
コビーの方が驚いており、ゾロは逆に冷静になる。
けれど、縛られている現時点ではどうしようもない。
無情に一斉に発砲される。
打つ手無し――――そう、思っていた。
その時、上空から人が落ちてきた。
何処から来たのかは分からない。
真っ先に目に入ったのは麦わら帽子だ。
つまり、ルフィという男がゾロとコビーの盾になるように両手を広げて立つ。
「お前!?」
「ルフィさんっ!?」
自分達を庇って、何を仕出かすのか!?
そう思っていたが、奇妙な出来事が起こる。
本来、銃弾が撃ち抜かれて鮮血が飛び出る。
にも関わらず、銃弾の撃ち込まれた箇所からルフィの皮膚が伸びたのだ。
ビヨーンッ!! というおおよそ人体から発せられない筈の擬音と共に。
「効かーーーーんッ!!」
伸び切った皮膚が元に戻ると、あろうことか銃弾を文字通りに弾き返してみせた。
何事も無かったかのようにルフィは笑い出す。
「何だ? お前は?」
「おれは海賊王になる男だ」
当然と言えば当然の疑問。
しかし、答えになっていない。
けれど、彼は銃弾を撃ち込まれても平然としている。
明らかに異常だ。
だが、彼の背中には刀が3本ある。
どれがゾロのものか分からず、全部持ってきたという。
計らずも、それは正解であった。
「3本ともおれのだ。おれは三刀流なんでね」
ロロノア・ゾロは刀を3本扱う。
ルフィは感心する。
刀を3本も使えるものなのかと思っていそうだ。
さて、そんな事よりも――――だ。
こちらへ向けて海兵の銃が向けられている。
このままではルフィはともかくとして、コビーとゾロは蜂の巣だ。
この状況をどうするのかとルフィは問う。
「お前は悪魔の子かよ?
良いぜ!! なってやるよ、海賊に!!」
ゾロは腹を決めた。
ここでくたばる位ならば、海賊という外道に落ちてでも生き延びる事に。
「仲間になってくれるのか!?
やったーッ!!」
「良いからさっさとこの縄を解け」
喜びに満ちるルフィへゾロは冷たく言い付ける。
早速縄を解こうとするが、結び目が硬いからか上手く解けない。
急かすゾロにマイペースなルフィ。
対照的な2人の掛け合いに狼狽えるのはコビーであった。
ルフィに銃弾が効かないと知り、剣による白兵戦に切り替える。
それでこちらへ突撃してくる。
「解けたぞ」
「さっさと刀を寄越せ!!」
ルフィから刀を受け取ると、縄を切り落とす。
そして、持ち手の白い部分を口に挟む。
両手で刀を掴むと、海兵の振り下ろしてきた剣を全て受け止める。
「おおっ!! カッコいい!!」
ゾロが刀を受け止め、それをルフィは感心した眼差しで見る。
「海賊になってやる。約束だ。
だが、おれには野望がある。世界一の大剣豪になって、おれの名前を轟かせる野望が!!」
海軍と一戦交えるという事は世界に名が知れ渡る頃には、どういう意味を持つのかゾロには分からない筈がない。
もう名前の浄不浄は問わない。
どんな形であれど『ロロノア・ゾロ』という名前を世界に轟かせる。
その野望を叶えたい。
「だから、もし野望を断念する事があれば…………その時は腹を切って詫びろ!!」
「良いねェ。世界一の剣豪。
海賊王の仲間なら、それくらいなってくれないとおれが困る」
ゾロの言葉にルフィはノータイムで返した。
良く言う――――しかし、両者共に胸に秘めた野望は大きい。
その事がシンパシーを感じさせたのだ。
「しゃがめ、ゾロ」
突如、ルフィも動き出す。
左足を中段蹴りするかのように振り抜き――――
「〝ゴムゴムの鞭〟!!」
ルフィの指示に従い、しゃがんだゾロの頭上を“文字通りに”ルフィの左足が伸びた。
それが海兵を蹴り飛ばす。
一瞬にして海兵を蹴り飛ばした。
ルフィの強さにも驚くが、それよりも足が伸びるのはどういう理屈だ?
「お前、一体……?」
「おれはゴムゴムの実を食べたゴム人間だ」
ゴムゴムの実――――噂に聞く悪魔の実というやつだ。
そのシリーズの1つを彼は食べたのだと。
ルフィが自分の能力を晒すと、海兵達は全員が及び腰になる。
それを見たモーガンは自身が前線へと赴く。
「今弱音を吐いた奴は自分の頭を銃で撃て」
要は遠回しに自害しろと言っている。
これが本当に海軍なのかとゾロは考えてしまう程だ。
そんな事を考えていると、隣に立っていたルフィが駆け出した。
標的はモーガンだ。
「おれは海軍の敵だぞ。死刑にしてみろ!!」
駆け出した勢いはそのままに、拳を繰り出す。
しかし、それを斧になっている右腕で受け止める。
「ルフィさん!! こんな海軍なんか潰しちゃえ!!」
「おう!!」
モーガンから距離を取り、コビーの叫びに応える。
それでも敵であるモーガンから目を逸らさない。
「潰すか……やれるもんならやってみろ!!」
モーガンはルフィへ向かって肉薄する。
斧である右腕を振り上げると、即座にルフィへ向かって振り下ろす。
ただ、そんな大振りの攻撃がルフィへ当たる筈もない。
体格こそルフィが大きく劣っているが、素早さは明らかにルフィの方が上だ。
振り下ろされる斧を紙一重で身体を左に傾けて回避する。
「貰った!!」
瞬間、右拳をモーガンの頬へクリーンヒットさせる。
ルフィよりも体格の大きいモーガンが容易く殴り飛ばされる。
「こ、のォッ!!」
まさか、自分が体格の劣る男に殴られるとは夢にも思わなかったようだ。
モーガンは即座に立ち上がると、再度ルフィへ駆けていく。
「ずあああっ!!」
ルフィの身体を真っ二つにしようと斧を真横へ振るう。
しかし、これも紙一重のところでルフィにしゃがむという簡単な動作1つで回避されてしまう。
「〝ゴムゴムの
本来ならしゃがんだ状態で大の大人の顔面に腕は届かない。
しかし、ゴム人間となり、身体が伸縮自在となったルフィは腕を伸ばす事でリーチの差を縮められる。
今度は反対の頬を殴り付けられる。
ただ、ルフィの方も無理な体勢で放った拳なので威力はそこまでない。
だが、普通では有り得ない位置から放たれたパンチはモーガンの動揺を誘うには十分だった。
「〝ゴムゴムのスタンプ〟!!」
直後、その状態でルフィはモーガンの足を蹴り付ける。
人体の弱点でもある脛を蹴り付けられる。
痛みを我慢出来ようとも、一瞬の身体の硬直は起こる。
その僅かな隙を突いてルフィはモーガンの腹部にタックルする。
仰向けに倒し、馬乗りになる。
「コビーの夢を壊しやがって」
モーガンの顔面を殴ろうと腕を振り上げ――――
「待て!!」
制止の声が聞こえたが、構わずに拳を振り下ろして殴り付ける。
「待てって言ってんだろ!! これが見えねェのか!?」
コビーの頭に銃を突き付けるヘルメッポの姿が。
海軍が海賊相手に人質を取るとは完全に立場が逆ではないか。
「僕はルフィさんの邪魔をしたくありません!!
死んでも!!」
「ああ、知ってる」
コビーの言葉に笑顔と共に答えるルフィ。
ゾロには分からないが、2人にはそれだけの信頼があるのだろう。
「諦めろバカ息子。コビーの覚悟は本物だ!!」
モーガンから離れて、ルフィはゆっくりと腕を上げてコビーとヘルメッポの方へ近付いていく。
解放されたモーガンがただ呆然としている訳では無い。
ルフィの背後から右腕の斧を振り下ろそうとしている。
「ルフィさん!! 後ろ!!」
「〝ゴムゴムの〟!!」
コビーが警告するがルフィは完全に無視する。
拳を繰り出そうと、腕を振り抜く。
「〝
ヘルメッポの顔面を狙いを寸分も違わずに撃ち抜いた。
たった一撃でヘルメッポは気絶して地面に伏した。
そして、後ろに立っていたモーガンは腕を振り下ろそうとする動作の直前で動きを静止していた。
数秒の後、モーガンは真後ろに倒れ込む。
「ナイス。ゾロ」
後ろに居る新しい仲間へ向けて、ルフィは言葉を掛ける。
そこには刀を構えたゾロが立っている。
「お安い御用だ。
モーガンを斬り伏せた剣士はそう応えた。
「大した猿芝居だな。あれじゃバレてもおかしくねェぞ」
「あとはコビーが何とかするさ。絶対」
ルフィとゾロは港に来ていた。
アルビダから奪った小船を使わせて貰う手筈になっていたので、出航は何の問題もない。
ゾロは手拭いを脱いで、左腕に巻いている。
さすがにずっと手拭いを巻いている訳では無い。
緑色の髪の、ルフィよりも少し年上の男である。
そして、この場にはコビーは居ない。
先程、おにぎりの少女の店で別れた。
あの後、海軍に出ていくように言われたので出てきた。
だが、コビーは海軍に入る際に大問題があった。
そう、アルビダの海賊船に2年も乗っていた事実だ。
その事を海軍が知っていれば入隊など出来よう筈がない。
それを防ぐ為にルフィはコビーの素性を明かそうとしたので彼にわざと殴られて喧嘩を始める。
海軍への疑いを晴らす準備は整った。
あとはコビー次第だ。
「しかし、考え無しかと思えば意外とそうでも無いようだな」
「海賊の仲間じゃないって言って、喧嘩もすれば疑われないだろうしな」
海賊=悪党の図式はルフィの中にも確かに存在している。
故にコビーと喧嘩するのが一番だと直感で動いたようだ。
訂正、意外と野性的に動いているのだと察した。
「ルフィさん!!」
いざ出航――――そこへ、コビーが呼び止めた。
敬礼をして、こう叫ぶ。
「ありがとうございました!!
この御恩は一生忘れません!!」
海兵に感謝される海賊なんて聞いた事が無い。
ゾロも、もちろんルフィもその言葉を受けて何処か嬉しそうだった。
「また逢おうな!! コビー!!」
コビーとの再会を願い、ルフィは笑顔で手を振る。
彼との付き合いは短かったが、コビーとの出会ってからの冒険は一生忘れる事が無いだろう。
「全員敬礼!!」
そして、この町の海兵もコビーの背後に立って敬礼する。
彼等もルフィ達には感謝していると言っていた。
きっと、彼等の気持ちもコビーと一緒なのだろう。
海軍の軍規に逆らってまで、彼らは感謝の気持ちを表してくれたのだから。
だから、ルフィも、ゾロも笑顔で別れる。
コビーもまた涙を流しながらも笑顔で以て彼の出航を見送る。
歩む道は違えども、彼等は再会を願う。
立場なんて彼等には関係ない。
だって、彼らは海賊と海軍という括りの前に「友達」なのだから。
如何でしたでしょうか?
ルフィを中心にするつもりがゾロ中心の三人称に。
正直、彼を中心とした方が早く済むと思って……ゲフンゲフン。
読んでの通りに原作準拠です。
何も知らない人から見たルフィって、やっぱりびっくり箱みたいな存在なんですよね。
くいなとの回想は原作シーンを思い返して下さい。
全部書いていると尺が。
さて、次回は原作通りなのでナミ登場です。
次回も早くにお届け出来るように頑張りすので。
ではまた次回に。