初っ端からダイジェストで始まりますがお許しを。
そこは原作の展開そのままです。
では続きをどうぞ。
翌朝、クロ率いる〝クロネコ海賊団〟が襲撃を仕掛けてきたのは真実だった。
敵の数は未知数。
対して村の住人のウソップ、加勢に入ったルフィとゾロ、そしてナミのたった4人だ。
結論から言えば、足止めには成功している。
途中で色々なトラブルがあった。
当初は村に出入りする為の入口付近の坂で罠を仕掛けて足止めする予定が、入口が2つあった事を失念して片方にしか危うく侵入を許しそうになってしまったり。
ルフィやゾロの到着が遅れてしまったり。
相手のジャンゴの催眠術で敵が強化されたり。
催眠術にはルフィも掛かり、船員の殆どを返り討ちにしたり。
纏めて倒そうと船首を引っこ抜いて一網打尽にしようとするが催眠で眠らされたり。
その後に出てきたシャムとブチという2人が出てきたりと、色々と手こずる事が起こる。
その間にクロが到着した。
これまでとは違った冷たい視線、その手には特殊な手袋をしていた。
それぞれの5本の指の爪先に刀と同じ長さの刃物が備え付けられている。
〝猫の手〟と呼ぶ武器だ。
彼の登場に全員が視線を集めている間にルフィを踏み付けるという荒業で叩き起こす。
これにルフィは叩き起こされる事となる。
乱暴な目覚ましに文句を言いたくなった。
だが、ナミの怪我やゾロとウソップのボロボロ具合から状況を把握する。
そして、来ていたクロを視界に入れる。
「なんだ。わる執事も来てたのか」
どのみち海賊を潰すだけでは何も終わらない。
元凶が向こうから来てくれるなら好都合だ。
「クラハドール!!」
そこへカヤが現れる。
突然の事態に全員が驚く。
話は屋敷のメリーという執事から聞いたらしい。
その人物がクロに襲われ、事態を把握した。
ウソップの言葉を信じず、戦っている事も知らなかった。
全てはこんな自分の為に。
非力な自分に出来る事など限られる。
だから、屋敷の財産など全て投げ打つつもりで来た。
しかしながら、クロの回答は意外なものだった。
「私は金の他にも〝平穏〟が欲しいのです」
彼の言う〝平穏〟の為に3年間の土台を用意した。
村人からの信頼を得てきた。
これはウソップの話を誰一人として信じなかった事からも分かる。
クロの事を伝えても誰も信用してくれなかった。
既にこの村は侵食されていた。
きっと、カヤが真実を伝えても信用してくれる人物が何人居るのか分からない。
あまり村へ顔を出さないカヤの村への信用度も高いものではないだろうから。
ならば実力行使に出るしかないと銃口を向ける。
しかし、クロは動じない。
あろうことか彼は語り始めた。
カヤとの日々を。
それは綺麗な思い出であった。
だが、それは"クロにとっては屈辱の日々でしかなかったと言われる。"
かつては〝キャプテン・クロ〟と呼ばれた彼がニコニコしてヘリ下ったのも、夢見るお嬢様に付き合った事も全ては繋がっていた。
何に?
それは彼の計画にある。
「全ては、貴様を殺す今日の為に」
背筋がゾッとする程の低い声。
殺意の籠った声を少女にぶつける。
思わず持っていた銃を手から落としてしまう。
彼の行動は全て自己満足の為に行ったもの。
彼がこれまで彼女に見せてきた姿は偽りのものだった。
そのショックから彼女は敵を前にして涙を流して傷心する。
「クロオオオオオォォォォォーーーーッ!!!!」
ウソップの怒号が鳴り響く。
カヤの代わりに怒りをぶつけ、感情のままに殴り掛かる。
しかし、怒りに任せた大振りの拳など百戦錬磨の"本物"の海賊の前では何の意味も成さない。
圧倒的な経験値の違い。
クロはウソップの大振りの拳を軽々と回避して後ろへ回り込む。
「ウソップ君、君には殴られた恨みがあったな」
両腕を大きく広げ、猫の手でウソップの身体を切り刻もうとする。
次の瞬間だった。
クロの身体が大きく仰け反り、地面に寝転がったのは。
何が起きたのかは分からない。
けれど、クロの身体が吹き飛んだ事実は変わらない。
「そんなに殴られるのが嫌なら、あと100発ぶちこんでやる」
それを成し遂げたのはルフィだ。
クロとルフィとの間には距離がある。
腕を伸ばしたところで届く距離ではないのは間違い無い。
全員が息を呑んで状況の変化を見守っている中だった。
「「「今だ!!」」」
その叫びと同時に飛び出して来たのはウソップ海賊団の面々だ。
それぞれが思い思いの武器を持ってクロへ殴り掛かる。
まさかの登場にウソップも驚く。
この一件に気が付いたようで、水臭いと一緒に戦うと言ってくれた。
嬉しくはあるが、相手は本物の海賊だ。
クロは立ち上がる。
こちらを狙ってくるかと思ったが、彼はルフィのみに注目していた。
「随分と奇っ怪な技を使う」
自らを傷付けぬように手の平で眼鏡の位置を整える。
思えば、この癖は〝猫の手〟で自らを傷付けないようにする為のものだったという事か。
しかし、そんな事よりも自身に起きた不可思議な現象を追求するのが目的だった。
飛び道具を持たない彼がどのようにして超遠距離を縮める攻撃を行ったのか。
これまで耳にしてきた事のあるものが候補に浮上する。
「貴様、悪魔の実の能力者だな?」
「ああ。〝ゴムゴムの実〟を喰ったゴム人間だ」
クロからの問い掛けにルフィは肯定の言葉を紡ぐ。
悪魔の実の能力者――――この言葉に周囲はザワつく。
それだけ〝悪魔の実〟というのは名前だけがメジャーな存在だと言える。
「おいジャンゴ。その小僧はおれが殺る。お前はカヤお嬢様に遺書を書かせろ」
クロはゆったりとルフィの方へ進んでいく。
それと入れ替わるようにジャンゴが坂を渡ろうとする。
「止まれ」
ゾロが立ちはだかる。
刀を構え、ジャンゴの行道を遮る。
「ブゥゥゥチッ!!」
ジャンゴの叫びと共に肥満体型の男が飛び出す。
彼はゾロが斬って倒した相手なのだが、肥満体型が幸いして急所は外れていたようだ。
そして、パワーも人並み外れている。
ゾロへ突撃すると、そのまま岩で出来た壁まで押し込む。
「邪魔しやがって!!」
ゾロもまた苦悶の表情を作る。
この状況、何とかできるのは――――
「ウソップ海賊団!! カヤを守れ!!」
ウソップを慕い、訪れた子どもの彼等だけだ。
彼の言葉を受け、彼等にカヤを任せて先に行かせる。
ジャンゴも後を追う。
途中でウソップが鉛玉を飛ばして妨害するも、彼もまた動けない状態だ。
それ以上の追撃は叶わず、ジャンゴを取り逃がす結果に。
「早く追わねぇ…………っ!?」
ウソップはジャンゴを追おうと立ち上がろうとするも、躓いてしまう。
地面にうつぶせになったまま、動けなくなる。
かろうじて腰だけを浮き上がらせる事は出来たがそこで止まってしまう。
「だははっ!! 何だあの恰好は!!」
「だっせえ!!」
「それで追うとか良く言えるよな」
クロネコ海賊団の船員がウソップの恰好を見て大声で笑う。
確かに恰好を見たら情けないとウソップ自身も理解している。
でも、恰好など気にしていられない。
「敵わなくたって守るんだ!! あいつらはおれが守る!!」
そうだ。
その為に自分はこうしてここに居るのだから。
恐怖で逃げ出したくなる。
けれど、それを押し殺してウソップはここに居る。
村を、人を、ウソップ海賊団を、カヤを、思い出を、守る為に。
それだけのものがここには詰まっているのだから。
「おれはウソップ海賊団のキャプテンで……勇敢なる海の戦士だ!!」
ここに立つと決めた想いを達成する為に言葉を尽くす。
自分はそんな大層なものじゃない。
ビビり散らかしている。
こんなウソでも言わないと自分はきっと折れてしまう。
そういう訳にはいかない。
ここで倒れていたら、自分が望むいつもの明日が一生来なくなる事を本能で理解しているから。
「変な恰好で良く言うよ」
「笑わせる」
「泣いてやんの」
敵の海賊に笑われようと構わない。
誰に笑われようと。
1人でも立ち上がる。
そして、皆を救う!!
「おべえっ!?」
瞬間、船員の1人が変な声を出した。
見ればルフィが戦いの中で抉れた地面の岩の部分を持ち上げ、それを放り投げていた。
彼の身の丈程もあるというのに軽々と投げた彼のパワーは凄まじい。
「お前らにウソップを笑う資格はねェ」
凄まじくドスの効いた声だ。
これまでのルフィを知るゾロとナミにしても意外なものだった。
しかし、彼の言葉の意図を深く理解しているのも、その2人だけだった。
「おい、いい加減におれの邪魔をしてんじゃねぇ、よ!!」
次の瞬間、ブチの身体に刀傷が発生する。
先程までとは違い、深いものだ。
その勢いに敗け、ブチが地面に転がる。
今度こそ動かなくなる。
「ルフィ、おれがウソップを担いで催眠野郎を追う。問題はあるか?」
「ない。急げ!!」
ウソップを担ぎ、クロの横を通り過ぎようとする。
しかし、そう言われて「はい、そうですか」と素直に道を譲る相手ではない。
「誰が、ここを通って良いと許可した?」
既にゾロの真横にクロが移動していた。
ウソップは慌てるが、ゾロは到って冷静だった。
何ならクロの方など見ずに真っ直ぐ前だけ見ているではないか。
それは何故か?
「おれだよ!!」
後ろには頼りになる
「行け!! ゾロ!! ウソップ!!」
クロとゾロ達の間に割り込むように腕を伸ばす。
結果、回避しようとクロは後ろへ跳ぶ。
追撃とばかりにルフィはもう片方の腕も伸ばすが、クロは姿を晦ますように視界から消える。
「消えた?」
一瞬、そう思うが――違う。
本能がそう告げると同時に背後で金属音が聞こえる。
さっきの手袋に付いていた刃物がぶつかり合う音だ。
咄嗟に身を屈め、頭上をクロの5本の刃物が通過する。
「〝ゴムゴムの槍〟!!」
カウンターに両足の裏を合わせて、それを真っ直ぐに伸ばす。
しかし、これもクロは難なく回避する。
また消えるように移動した。
ただ、ゾロとウソップが坂を抜ける事に成功した。
一先ずはこれで良しとしておく。
「"戦う前に"聞いておこうか。
よそ者のお前が何故この村の事に首を突っ込む?」
ルフィと真正面から向かい合ったクロが問い掛ける。
彼からしたら至極当然の疑問だろう。
だが、ルフィからすれば"当たり前なのだ。"
「死なせたくない男がこの村にいるからだ」
「簡単だな。それで良いのか? お前が死ぬ理由は?」
「それでいい。おれは死なねェけどな」
ルフィとクロとでは考え方が全く相容れない。
そして、互いに譲れないものがある。
その事を理解しているからぶつかる事は必然だ。
これ以上、言葉を交わす事は無意味だ。
その事も互いに理解しているからこそ、言葉を交わすつもりもない。
「〝ゴムゴムの鞭〟!!」
先手を取ったのはルフィ。
ゴムによる伸縮性を活かしたリーチの長さを存分に発揮する。
クロを足払いすべく放たれる足を伸ばしたローキック。
しかし、見え見えの攻撃なので後ろへ跳びながら回避するクロ。
それ事態に何の問題もない。
狙いはクロの機動力を削ぐ事だ。
空中では身動きを取りづらい。
それを教えたのはバギーだ。
「〝ゴムゴムの
そこへルフィはすかさず拳を叩き込む。
腕を伸ばし、有り得ない出来事を現実とする。
直撃――――かと思われた。
「欠伸が出るな」
クロはあろうことか伸ばした腕に“乗っていた。”
小さく跳んだ事で拳が届くよりも爪先でも地に着いた。
当たる寸前に更に上に跳躍、ルフィの腕に乗る事に成功した。
「にゃろッ!!」
腕を引き戻し、体勢を崩してやろうとする。
だが、それよりも速くクロはルフィが伸ばした腕を伝って走る。
「このッ!!」
迎撃をしようと、空いている腕を伸ばす。
クロはそれが眼前に迫ると、軽く跳躍して今度はもう片方の腕の上を駆ける。
追撃で伸ばした腕さえ利用し、ルフィの元へ辿り着く。
前へ跳躍しつつ、ルフィの側頭部へ蹴りを打ち込んだ。
「ぶへェッ!?」
蹴られた衝撃で地面を転がる。
地面から出っ張っていた岩の塊にぶつかるまで滑るのだった。
「口切った」
ダメージこそゴム人間の彼には皆無だが、蹴られた衝撃で口の中を切った。
血を吐きながらクロへ視線を逸らさない。
「さすがだぜキャプテン・クロ!!」
「やっちまえ!! キャプテン・クロ!!」
ルフィの強さは目の当たりにした。
だが、それを上回るだけの強さがクロにはあった。
ズバリ、圧倒的なまでの経験値の差。
〝悪魔の実〟を食べた事による超常の能力は人智を超える。
現にこれまでルフィは〝ゴムゴムの実〟の能力を駆使して勝ってきた。
だというのに、今はどういう事だ?
クロには自身の能力を逆に利用されている。
それだけ彼は戦闘経験を積み重ね、死線を潜り抜けてきたのだ。
これ程の戦闘能力の高さを見せられ、船員の士気も高揚する。
クロならばあの麦わらの男に勝てる――――その確信が芽生えた。
「"その名前を"呼ぶんじゃねェッ!!!!」
これまで冷静を保ってきた彼が見せた事のない怒号が響く。
理由は定かではないが、自身の名を呼ばれる事に不快を抱いている。
「これはキャプテン・クロという名を完全に捨てる為の計画だ」
突如としてクロは今回の一件の目的を語る。
名が上がる事で彼は海軍や賞金稼ぎに狙われる生活に辟易していた。
そこで世間一般に「キャプテン・クロが死んだ」と思わせる必要がある。
彼は〝百計のクロ〟とも呼ばれていた。
戦略という面においても秀でていた。
その彼は影武者を用意し、海軍へ引き渡す事で世間の目を欺く事にした。
ウソップが言っていたようにクロは死んだ。
しかし、影武者を立てて……である。
クロが望む〝平穏〟を手にする為に彼は海軍の船を一隻壊滅させた。
その後、仲間を身代わりに仕立て上げて世間一般的に「死んだ」と見せ掛けた。
シロップ村で過ごし、信頼を得た。
彼の言う平穏の為には足りないものがある。
「おれの生存を知る者達を生かしておく訳にはいかない」
クロの発言の意図を呑み込むのに時間が掛かった。
その意味するところは――――
「まさか、おれ達も!?」
「そんな!?」
船員が混乱している。
彼の計画にはクロネコ海賊団は“弊害になる。”
1人でもクロの生存を話してしまえば、海軍等から狙われる。
そうなっては平穏等は手に入ろう筈がない。
「何だお前ら。カッコわりい海賊団だな」
その様子を見ていたルフィが呆れた口調で放つ。
「知った風な口を利く」
偶然居合わせただけの男が何を言うのやら。
「所詮海賊なんて世間からはみ出した野良犬のかき集めだ」
クロという男にとって、船員は自分の計画を通す為の〝コマ〟という扱いでしか無い。
それ以上の価値など存在しない。
「お前がキャプテンで、何人の部下を従えようと、ウソップには勝てねェ」
「…………ほう? まさか海賊ごっこをしてる奴より下だと言われるとは思わなかった」
クロの話を聞き、ルフィの出した評価だった。
いくらなんでも聞き捨てならないとばかりにクロも話を返してしまう。
「名を揚げる事が怖くて海賊なんかやれるか」
「ふん、何も知らない奴がさっきからペラペラと良くほざく。
まさか、それがあのホラ吹き小僧に勝てない理由だとか言わないよな?」
「そうだ」
あっさりと、ルフィはクロの言葉を認める。
しかし、クロからしてみれば面白い訳が無い。
平和な村で暮らして来た男がクロに勝てないと豪語する理由にどう繋がる?
たった今、ルフィが告げた内容はあくまでクロ個人の事だ。
ウソップが関わる要素が何処にある?
「支離滅裂な事を言う。結局、そんな事があのホラ吹き小僧に勝てない理由にどう繋がるってんだ。
何が違うか、教えて貰おうか!!」
痺れを切らしたクロがルフィへ接近する。
いや、真正面からではない。
ルフィの視界から消えたのだ。
船員達はこのクロの移動法に〝抜き足〟と名付けている。
音も無く、瞬間移動したのかと勘違いする程の速さを有する。
そんな方法で移動されては目で追うのは困難だ。
これまでクロはこの移動法を武器に、数多の海賊と戦って死線を潜り抜けてきた。
目で追えず、気付いた頃には猫の手によって切り刻まれる――――筈だった。
「器だよ」
ルフィがクロへの切り返しをした瞬間、身体を反転させていた。
クロが背後を取っていた事に気が付いており、右腕を伸ばしてリーチを縮めて裏拳を叩き込む。
ルフィの告げた回答にクロは衝撃を受けた。
ウソップとの違いはまさか「器」だと言うではないか。
抜き足の速度に追いついた事も相まって、諸に喰らう。
側頭部を殴られ、脳がシェイクされる。
「何が器だ!! ふざけるな!!」
先程の発言が余程気に入らなかったのか、激高と共に再び距離を詰めようと走る。
今度は真正面から。
というのも、偶然か、ルフィの背後は村へ続く坂道の左右にある岩で出来た壁がある。
結果的に背後に回り込む選択肢が取れないのも大きな理由であった。
クロの突撃よりも速く、ルフィは地を蹴って懐へ飛び込んだ。
相手が息づく間も与えず、両腕を掴む。
「ふんッ、ぎィッ!!」
腕力だけでクロの身体を真上へ放り投げる。
「〝ゴムゴムのスタンプ〟!!」
右足を振り上げ、空中に放り投げられたクロの顔面にクリーンヒットする。
クロの意識が飛ぶ。
そこへルフィはすかさず腕を伸ばして襟首を掴む。
背負投げの要領で、岩で出来た壁へと投げ付けた。
「なっ」
「クロとやり合ってる!?」
「何なんだッ!?」
自分達の抹殺を言い渡した船長の強さを誰よりも船員達は理解している。
あの男はクロの動きにも付いていき、あまつさえ攻撃を当てている。
「クソ」
額から血が流れ、服も汚れている。
しかし、彼が忌み嫌う海賊時代が皮肉にも活きる形になった。
幾多の戦闘が彼の身体を頑丈さに拍車を掛けていた。
「おれの計画を邪魔してくれる」
「だから、お前じゃウソップには勝てやしないんだ」
「器が違うってか? 何がどう違うか言ってみろよ!!」
クロの言葉に被せる形で、ルフィは言い放つ。
当然ながらクロは納得しやしない。
ルフィの言う理由は先程から抽象的だ。
「おれはこの時の為に3年も掛けて計画を立ててきた!!
完璧なものを用意した!!
それを完遂する為の手駒も用意できる!!
あんな〝ウソつき〟と格が違うだろうが!!」
「そうだな。〝ウソつき〟としてならお前は絶対にウソップより格下だ」
クロが並べる言葉の数々。
だがしかし――――ルフィの中ではそんなものよりもウソップの方が強いと判断する。
「何を、言ってる?」
「そのままの意味だ。〝ウソップのウソ〟と〝お前のウソ〟を一緒にするなよ」
「おれのウソだと!?」
ルフィの言葉からクロは疑問を隠せない。
いや、意味が分からないと言ったところか。
クロがウソを言っていたという。
「おれの影武者を立てた事、村にキャプテン・クロの名を隠していた事を言いたいみたいだな」
確かに、ルフィの発言は正鵠を射ている。
ウソつきという一点において、ウソップとクロは同じ事をしている。
「だが、それがどうした?
自分の計画を成功させる為に手を尽くす手段だ。
おれはこの3年で村の信頼を得た」
クロは自らのしてきたウソで勝ち得たものは多い。
その最たるは信頼だと言える。
そして、これから得るのは長年待ち望んだ平穏である。
その為に「クロは死んだ」というウソを部下を利用して伝えたのだから。
現に海軍はクロの手配書は取り下げている。
「それに引き換え、あの小僧のウソは見栄を張ったものばかりだ。
更には村の連中にも迷惑を掛けていた。
その結果が今だ。
声を大にしたところで誰も信用しなかっただろう?」
後から来たのは真実を知る事となったカヤ、ウソップ海賊団の子どもしか居ない。
彼を信用したのはあとはルフィ達だけなのだ。
「あいつのウソと、おれのウソ、どちらがより"上手く出来ていたのかは明白だろう?"」
結果的に多くの信頼を勝ち得たクロ。
最初は信用されず、偶然に信用されても数人しかいないウソップ。
どちらのウソが上手であったのかなど、議論の余地はあるまい。
「だから、お前はウソップに勝てないんだ」
「…………は???」
何がどうして「だから」という回答になるのか?
〝百計〟の二つ名を持つ頭脳を以てしても理解不能だ。
思わず、言葉が突いて出てしまう程であった。
そんなクロの混乱など知った事かと、ルフィは言葉を紡ぐ。
「ウソップのウソは皆の為なんだ」
ウソップ海賊団の面々が言っていた。
彼は決して他人が傷つくようなウソは言わない――――と。
こうも言っていた。
お嬢様の、カヤのところへウソを言いに行っているがそれが「立派」なのだと。
それは病気がちで動けないカヤを想っての行動なのだと。
そして今、昨日村に言い触らした〝真実〟をいつも通りの〝ウソ〟にする為に奮闘している。
「お前のは違う。
自分勝手だ。
自分の目的の為なら皆を平気で傷付ける」
自分の平穏の為に本人だとウソをつかせ、平気で仲間を犠牲にした。
そして今、クロのしてきたウソのせいで"ウソップの住む村が危険に晒されている。"
「誰かを助ける為にウソをつける男を、自分の為に他人を犠牲にするウソをつくお前なんかと同じにするなよ」
ウソを言うとかどうとかの話ではない。
ウソップのウソがクロのウソと同列で語られるのが嫌なだけだ。
「ははッ!! 言いたい事はそれだけか!!」
ルフィの言葉を受けたクロの返答はどこか怒りの感情が混ざっていた。
口では言い返しても、彼が恐らくは無自覚で繰り出した正論パンチにぐうの音も出ないのだろう。
ただ、そんな事は関係ない。
ここにいる邪魔者を全て排除すれば終わる話なのだから。
「さっきから言いたい放題の貴様に見せてやるよ」
腕を脱力させ、身体を小さく左右へブラブラと振る。
それを見た船員は騒ぎ始める。
後ろで何かを言っているが、ルフィはクロに集中する。
彼が何かを仕出かすつもりなのは分かっていたからだ。
「幾度となく死線を超えた……海賊の恐ろしさを」
瞬間、クロはこう叫ぶ。
「〝
瞬きをする間もなく、クロの姿が消えた。
いや、違う。
これまでの戦闘から把握している。
素早く動いたのだ。
"まさしく目にも止まらぬ速さで。"
一体どこへ消えたのか?
ルフィの疑問はすぐに解消された。
背後にクロの船員が切られるという結果を用いる事で。
次々とクロの船員が切り刻まれていく。
極まれにルフィの身体にも切り傷が生まれる。
時には地面、岩の壁など。
この技はクロが高速で動いているが故に何を斬っているのかも把握できていない。
味方をも巻き込む大技だ。
とんでもない大技を隠していた。
だが、そんな事はどうでもいい。
自身の身が裂かれつつ、ルフィの視線は“そこ”から決して外す事が出来なかった。
「痛てェッ!! 痛てェよォッ!!」
「しゃがめ!!」
「止めろ!! 止めてくれ!!」
「助けてェッ!?」
村を襲撃しようとしたクロネコ海賊団は船長であるクロの手によって深手を負わされている。
船長の命で来た筈なのに、だ。
何という皮肉な話か。
悲鳴が木霊する。
悲痛な叫びが届く。
生き残ろうと必死になる。
命乞いをしている。
海賊団として、誇りも何も無いものだろう。
他人の海賊団であるし、ルフィもとやかく言うつもりはない。
それでも、憤怒の感情が腹の奥底からフツフツと湧き上がる。
誰に対して?
決まってる。
「出て来い執事!! お前は仲間を何だと思ってるんだ!!」
元凶であるクロに対して吠える。
自分の思想と噛み合わないのは理解出来ていた。
でも、それでも――――付いてきてくれる仲間への仕打ちがこれはあんまりではないか。
「とっ捕まえてやる!!」
しかし、クロの姿を目で追えていない。
どうすれば良い?
『そんなの何となくで良いんだよ』
ふと、思い出したのはヤソップの一言だ。
〝赤髪海賊団〟の狙撃手を担う彼はルフィからの問い掛けにそう答えた。
どういう内容なのか、今でも思い出せる。
動きの速い相手にどう当てるのかと聞いた時だ。
あの時は意味が分からなかった。
そんな事で捕まえる事が出来るのかと。
何となく――――それは適当に言っていた訳では無い。
確かに足音は聞こえない。
クロの移動はこれだけ移動に特化しつつも、悟らせないようにしているのだ。
『なら、状況を整理しろ。相手が能力者だろうと、とっ捕まえる方法は存在するんだからな』
またしても思い出すのはヤソップの言葉だ。
分かる事は姿が消えた訳では無い事だ。
現にルフィの身体を斬り付けているのだから。
能力者という線も無い。
今のルフィにクロを目で追い掛けるだけの力は持たない。
頼れるのはヤソップの助言だ。
そして、自分の直感である。
ルフィの身体をクロが斬り付けた――――その瞬間だった。
身体を左へ流される程の衝撃が起こる。
同時に麦わら帽子が落ちた事からも勢いは窺い知れる。
しかしこれは、斬り付けたと同時に"そこに居る事を白状しているに等しいものだ。"
直後、腕を左へ伸ばす。
ここで頼れるのは自分の直感。
そこに居るのだと"何となく理解した。"
それだけを頼りにクロの衣服を掴む事に成功した。
「何ッ!?」
「〝ゴムゴムのロケット〟!!!!」
ルフィのゴムの特性上、腕は伸ばされて居場所を教えているようなものだ。
そして、逃がさないとばかりに伸ばした腕を伸縮させながら自身がクロへ突っ込む弾丸と化す。
恐らく技を使った代償だ。
体力の消費、いきなり制止させられて状況を把握できなかったのも要因だろう。
ルフィの渾身の体当たりの直撃を受ける。
「ぐゥッ!? このォッ!?」
クロもまた意地で倒れる事はしなかった。
反撃をしようとルフィへ向き合う――――しかし。
「しししッ!! やってみろ足技!!」
クロを煽るルフィ。
彼はゴムの四肢をクロの四肢に巻き付けて身動きを封じていた。
「まさか!!」
「生きられる!!」
「頑張れ!! 麦わら!!」
「うるせえッ!!!!」
自分達の命が危険に脅かされている事から船長のクロに勝てそうなルフィを応援し始める。
そんなものは煩わしいだけだと、ルフィは叫ぶ。
一度、クロの顔面に頭突きをしてから勢いを付けて背後に居る船員の方へ首を伸ばす。
「お前らもぶっ飛ばしてやるからな!! 覚悟しとけ!!」
彼らの応援も生き残りたい一心のもの。
だが、彼らがしようとしていた事は褒められるものではない。
それに"彼と違って"戦おうと立ち上がりもしない連中に応援される筋合いはない。
「〝ゴムゴムの〟!!!!」
「有り得ない……おれの計画は……絶対に狂わない!!」
迫り来るルフィの頭。
これまで崩れる事の無かったクロの計画が壊れる音が聞こえた。
何処で間違えた?
カヤの両親が事故で亡くなった事か?
実力行使に出た事か?
かつて恐れられたからこそ1人のごときにへりくだるのを嫌ってプライドを捨てなかった事か?
いや、理由は明白だった。
ただ運が無かった。
たった1人の〝ウソつき〟に正体がバレた事。
これだけの強さの者が手助けした事。
そして――――
「鐘!!!!」
〝ウソつき〟の勇気に応えた者達が居た事だ。
刹那、想い浮かべたのは計画失敗の理由ではなかった。
決してへりくだるまいとしていたカヤの笑顔だった。
既に平穏を手にしていた事に気付いていた。
それを見て見ぬふりをしていたもの。
彼女の笑顔が眩しくて裏稼業に居た自分とのコンプレックスからのものだったのだろう。
きっと、羨ましくて、妬ましくて、目を逸らしていた目の前に既にあった〝平穏〟を彼は自ら放棄したのだと気付く。
その"気付くのが遅すぎた"結論に辿り着いた頃にはクロの意識は暗転していた。
如何でしたでしょうか?
初っ端のダイジェストはすいません。
原作との大きな相違点はありません。
ルフィとの戦闘で少し時間をズラしている点もあります。
あとルフィの言葉が過激だったものを自分なりにマイルドにしました。
さて、ここで前回あとがきで言っていた推しの子と原作を読み返していて思ったのはウソップはもちろんですが言葉を変えればクロもまた大ウソつきだという点です。
本編内でも語ったようにクロは「自分の死を偽装」つまりは「嘘をついている」という事です。
その後もシロップ村で自らの素性を隠して「クラハドール」という人物を演じている訳ですから、周りにウソの姿を見せています。
結果的にクロは村人やカヤ達からも信頼を勝ち得ています。
しかし、それは独りよがりの願いを叶える為のもの。
対するウソップはありのままの自分でウソを言い続けています。
普段はウソを言い続けたせいで、いざという時に信頼されなかったというのはクロとは対極に位置しています。
ですが、ごく一部の人は疑う事無く、信じてくれます。
クロとは異なるのは「誰かの為」が多いですね。
シロップ村編ではカヤを退屈させない為、クロネコ海賊団の襲撃の際にはあえてウソとする事でウソップ海賊団の面々を突き放して危険なところから遠ざけました。
その後でも、もちろん自分の為にしている事もありますが巡り巡って誰かを守り、助ける為のウソになっていたりします(特に戦闘シーンで)
原作でも彼のウソは〝願い〟が込められたものでもあると語られていました。
心がイケメンでお人よしの彼の根本には「誰かの為」が前面に出るという事でしょう。
そういう点ではクロとは真逆ですね。
そこのところはルフィに代弁して頂きました。
ありがとう、ルフィ。
さて、最後のクロの回想は知ってる方は知ってるかもですがアニメで追加されたものです。
カヤとの生活は楽しかったのもあるとは思います。
ですが、裕福な暮らしが約束されており、平和に暮らしているカヤへ劣等感を抱いている可能性は高いかと。
現にそのまま襲撃などせずにカヤとの信頼関係を築いて財産を手にすれば良かった訳ですから。
平穏は既にその場にあった訳ですが、彼の海賊時代のプライドの高さが要因かなという考察を呼んだのでそれを参考にさせて貰いました。
その果てに目の前に落ちていた平穏を見落とし、最終的にはルフィ達に阻止される結果に繋がってしまいました。
さて、あとがきを長々と書いてしまいましたのでこの辺で。
次回も殆どダイジェストになるかもですが、お楽しみに。