では、続きをどうぞ。
「着いたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
両腕を挙げて上陸を叫ぶのはルフィ。
初めて自分の村を離れ、近いとは言えど船に乗っての〝冒険〟に心を踊らせていた。
冒険とは言っても島の祭りに参加するだけなのだが、ルフィには未知なる島へ来るだけでも十分に〝冒険〟だと言える。
「もぉ〜、はしゃいじゃって。子どもなんだから」
「良いじゃねェか!! おれにとっては初めての航海だったし、何より――――楽しみなんだから!!」
遅れてウタが呆れたようにルフィに言う。
しかし、ルフィは「ししし」と笑って目をキラキラと輝かせていた。
ウタも何のかんの言ってルフィの気持ちが分からなくない。
彼女もそうだが、船長を始め赤髪海賊団の面々も知らない島へ足を踏み入れるのはいつも気持ちが高揚する。
だから、彼が楽しんでいる状況へ水を差すのはしないようにしておく。
「それじゃあ、おれは町長へ挨拶に行ってくる。あとは任せたぞベックマン」
「はいよ」
シャンクスは祭りを取り締まっているこの島の、この町の町長へ挨拶へ行くと告げる。
以前にも足を運んだ事はあるが、やはり挨拶をしておくに越した事は無い。
町長も最初は海賊という事でこちらを警戒していたが、こちらに敵意がない事を知って貰い、打ち解ける事が出来た。
その際にえらく気に入られてしまい、酒も酌み交わす程の仲に。
今回もそのままシャンクスの航海の話を酒の肴にして飲んだくれるかもしれない。
ベックマンに任せたのはルフィの動向を後押しした責任も含まれていよう。
いくら治安が良くてもルフィから目を離すのは心配であった。
なので、ベックマンもお守り役は買って出るつもりであった。
「それじゃあ、行くとするか」
「おう!!」
「はーい」
ルフィとウタが待ち切れないとばかりに走り出す。
それを「やれやれ」と思いつつ、ベックマンは笑みを浮かべて追い掛ける。
「この食い物もうめぇな」
「本当、食い意地ばっかり張って」
ルフィが回るのは食べ物の出店ばかり。
ちなみにお金はここへ来る前にフーシャ村の村長から貰っていた。
ただ財布の紐はウタの分も含めてベックマンが握っている。
彼が居なければ今頃は散財していただろう。
ルフィとウタには不服な部分もあるだろうが、そこは我慢してもらう。
「それにしても、屋台以外にも普通のお店もやってるんだな」
「そりゃそうさ。むしろ、島外から人が来る今が書き入れ時だからな」
「ふーん。あっ!! そしたら美味い飯屋もあるのかな?」
「まだ食べるつもりなの〜? どれだけ食い意地張ってるの」
話を聞いていたルフィは何とも彼らしい結論に達する。
ウタはそんなルフィに呆れる。
ベックマンは2人を微笑ましく見ている。
「ねえ、私は服屋に行きたい」
「えー、服なんて見てもつまらねえだろォ〜?」
「ルフィは分かってないんだから」
ルフィにとっては「飯>服」だろう。
故に不満の声が出るのも彼らしくはある。
「服屋で買い物するのはルフィにとっての冒険と同じもんなんだ」
「そうなのか?」
そこへベックマンが意味をルフィに分かりやすく伝える。
ウタとしてもベックマンの例えは的を射ていたので「うんうん」と頷いた。
どういうオシャレな服があるのか、見つけられるのか、ウタとしてもその巡り合せが楽しみで仕方無い。
それはさながら初めて航海へ出たルフィの興奮と似ている。
「なら、仕方ねェな」
「でしょでしょ? という訳で冒険へ行きましょう!!」
「おーーーーっ!!」
冒険と聞けばルフィとしても興味が出てくる。
ウタもベックマンの例えに乗っかる事で自然と服屋へ誘導する事に成功した。
出来た娘である。
しかも、恐らくは気を遣って服選びも手早く終わらせてくれるだろう。
まだ9歳という年頃で気遣いまで覚えてしまった。
繰り返す。本当に出来た娘だ。
「そこに服屋があるから行ってみましょう」
「ちょっ、走るなよ」
ウタが指差す先にある服屋。
そこへルフィとウタは駆け足で向かっていく。
祭りで人混みもあるのだから疾走らないように注意を促すも、残念ながら弾丸となった2人は止まらない。
そのまま店の前に来ていざ扉を開こうとした瞬間――――中に居ただろう客が扉を開いたのだった。
「わっ!!」
「いたっ!?」
「おっ、とぉっ!?」
扉は店の外側、つまりはルフィ達の方へ開かれた。
幸いだったのは当たったのは扉ではなくて、出てきた人の膝だった事だ。
ゴム人間となったルフィには当然ながら痛みは起こらなかった。
けれど、ウタは額にぶつける結果となった。
ぶつかった相手は突然の衝撃に驚きながらも倒れる事はなかった。
「こら、言わんこっちゃない。そちらは大丈夫でしたか?」
「はい。こっちは」
ベックマンは2人の安否を確認すると、次にぶつかった相手へ詫びを述べる。
相手側も何ともないようで何よりだった。
「大丈夫だったかい?」
「うん。大丈夫」
「おれも平気だ」
赤みがかった髪の両サイドを刈り上げた変わった髪型の女性だ。
ルフィとウタに改めて怪我が無いか訊ねると「うん。それは良かった」と嬉しそうにしていた。
「お待たせ、行こう」
服屋で買い物をしてきたのだろう。
店の袋を持ってルフィとウタとも年齢がそう変わらない少女が遅れて出てきた。
オレンジ色の髪をショートカットにした少女。
何処か、表情も浮かないものに見えた。
「ごめんね。それじゃあ、行こうか」
自分を呼んだ少女にそう促され、女性は頷いた。
ルフィ達に「それじゃあね」と一言告げて、その場を後にする。
しかし、直後にルフィが少女の腕を掴んだ事で阻まれた。
「何よ?」
「分からねェ」
「はあ?」
自分の腕を掴んだ少年が何故そのような事をしたのか分からない。
ストレートに訊ねるも、返事は理由にもなっていなかった。
当然、少女の反応は「何を言っている?」というものに変化する。
「おい、ルフィ。人様に迷惑を掛けるのは良くないぞ」
ベックマンに言われるも、ルフィも状況を理解している。
だが、腕を掴む直前に脳裏にあるワンシーンが過ぎってしまったから。
『――――、助けて……』
涙を流し、誰かの名を呼ぶこの少女と同じオレンジ色の髪を持つ、今よりも年齢の上がった少女。
そんな少女が放った一言は、助けを必死に求めるものだった。
それを口に出すのにどれだけ勇気が必要であったか?
とれだけの悔しさを抱いてきたのか?
どうしてもこの少女と脳裏を過る少女が重なって見えてしまった。
その時程ではないだろうが、目の前の少女の表情が浮かない事がルフィは大層気になった。
腕を離し、向かい合って「気になった」部分を言葉にしてぶつける。
「お前、何かあったのか?」
「え? な、何でっ!?」
「何となくだ」
ルフィの直感は正しかったと証明するかのように少女は狼狽、次には何故気付いたのかと慌てて問い返した。
しかし、論理的な理由ではなくて本能に突き動かされた結果である事が判明する。
「こら、ルフィ。他人には他人の事情ってものがあるんだ。無闇矢鱈に足を踏み入れるもんじゃない」
ルフィの動物的な本能は見事なものだろう。
言語化するには難しいものの、それでも人の機微に敏感なようだ。
だが、人それぞれ事情がある。
今は親御さんも居るのだから、割って入るのはどうかとベックマンは諭そうとする。
けれど、ルフィは引き下がらない。
「だけどよォ、こんなに楽しい所に居るのに、暗い顔でいるのは
「私が楽しんでるかどうかは、そんなの私の勝手でしょ? 放っておいてくれない?」
ルフィは気に掛けているが、少女としてはお節介も良いところだ。
確かに何も知らないルフィが言う事ではない――――のだが、
「そんなの知らねェ。おれが気になったんだからな」
何と、我儘な物言いか。
これにはウタも「ちょっとねー」と
「へえ、随分と鋭いじゃないか」
そう言ったのは女性の方だった。
ルフィと同じ目線になるようにしゃがみ込んでくれる。
「どうして分かったんだい?」
「何となくだ」
先程と変わらぬ問答。
同じ年頃の子どもの答えを女性は「なるほどね」と返す。
「その直感、正解だよ」
「ちょっとっ!?」
女性の答えに動揺したのは少女の方だった。
ルフィの感覚は間違っていないと、女性は告げる。
ウタとベックマンはずかずかと他人の家の事情へ踏み込んだルフィがどうなるかとハラハラしていたが、女性の方が寛容だったからか、安堵をしていた。
「この子にはね、お姉さんが居るんだ。血は繋がってないんだけど、とっても仲良しなんだ」
「へぇ〜、でもその姉ちゃんは居ねぇみたいだけど?」
「――――来る直前に熱を出しちゃったの」
ルフィの当然の疑問に答えたのは少女の方だった。
涙ぐみながら彼女は告げる。
「『絶対に来よう』って約束してたから。だから、一緒に来れないなら意味無いって言ったの」
けれど、少女の姉は笑ってこう言ったのだと。
「楽しんできてって。それでお土産を買ってきてって」
自分のせいで行けないのだけは避けたかった。
だから、姉の為にも来ようと思った。
姉の方は村の人々が見てくれてるらしく、心配は要らない。
だったとしても少女としては納得いかなかった――――いや、寂しさと罪悪感があった。
姉と来るつもりだった予定が崩れ、寂しい気持ちと自分だけ来た罪悪感が心の中でごちゃまぜになってしまったのだ。
けれど、それだけ姉と来るのが楽しみで仕方無かったに違いない。
「なあ、お前――――」
それを聞いたルフィは少女を呼ぶ。
少女もまたルフィを見る。
ウタもベックマンもルフィがどう少女を慰めるのか見ものだと思って――――――
「何言ってんだ? バカか?」
「何を――――」
「何がバカなのよ!!」
ルフィの一言に物を言いたくなったウタが言い切るよりも前に少女の怒号の方が早かった。
祭りの喧騒も貫く程の怒号だったからか、周囲の人も「なんだなんだ」と興味を惹かれる。
ベックマンと女性が「すいません、気にしないで下さい」と周囲へ声を掛けると散っていった。
その間もルフィと少女との間に険悪な空気が発生している。
そんな空気が読めないのか、はたまた無視しているのか。
ルフィは気にせずに言葉を紡ぐ。
「姉ちゃんと来れなかったのは残念だけどよ、でもお前の姉ちゃんは『行って来い』って背中を押してくれたんだろ?」
「そ、そうなるわね」
ルフィの言わんとする事を考えている内に怒りの矛先は何処へやら。
その間に言葉が続けられる。
「だったら、姉ちゃんの為に楽しい話を聞かせてやる為にも祭りを楽しまないとだろ」
「――――――あっ」
ルフィに言われ、少女も気付く。
そうだ。何の為に姉は少女を送り出してくれたのか?
ならば、彼女が羨ましがる位の楽しい話をしてやれば良い。
ルフィの突拍子もない発言と普段なら思ってしまうウタとベックマン。
しかし、両者は逆に彼の発言が"実に的を射ているのも事実なのを理解していた。"
「でも、それで喜ぶかなんて分からないでしょ?」
「そうか? 少なくともおれは楽しいぞ?」
この場でルフィの発言の意味を正しく理解しているのはウタとベックマンのみ。
これまでルフィは何度も航海をせがんできた。
だが、その度に断られて代わりに航海中の事を〝冒険〟と称して話を聞きに来た。
その時のルフィはまるで自分が〝冒険〟をしてきたかのように目を輝かせて聞いていた。
話してるこっちも楽しくなり、ついつい脚色してしまう事もあるのは内緒だ。
「だからよ、楽しい事をいっぱいして、それを話してやれよ。お前が楽しそうにしてるの聞いたら、きっと姉ちゃんも喜ぶぞ!!」
少女にしてみれば目から鱗だ。
まさか、こんな事を言われるまで気付けなかっただなんて。
「でも、楽しい事をするって、何をしたら良いか分からない」
「じゃあよ、おれと〝冒険〟しよう!!」
「冒険?」
「そうさ!! この祭りの食い物は美味いのばっかりだからな!! まだまだ知らない美味いものがあるかもしれねえだろ?」
何とも食い意地の張った発言。
しかし、ルフィは一点の曇りのない笑顔で言い切った。
少女は彼の言う〝冒険〟がどういうものであるのかを理解できてはいないだろう。
けれど、分かった事はある。
「あんた…………随分と食い意地が張ってるわね」
「ししし。かもな」
少女の自分への評価など何のその。
ルフィは笑顔で応えていた。
「ちょうど良いかもね。荷物はこっちで預かっておくから楽しんで来なよ」
「よし!! 決まりだ!! 行こうぜ!!」
「あっ、ちょっと!!」
女性の許可が得られた。
強引に少女の手を引っ張って、ルフィは祭りの雑踏へ向かっていく。
「ちょっと!! 服屋に行くの忘れてるんじゃない!! 待ちなさいよ!!」
走っていくルフィと少女を追うようにウタも駆け出した。
その様子を見ている大人組は微笑ましく見守っていた。
しかし、彼らからお守りを言い渡されたベックマンはこれから子ども3人に振り回されるだろう未来が見えたので、密かにげんなりしている。
如何でしたでしょうか?
前回の話でなにジアを連想した方も居たでしょうが、違う島に来ています。
その島はもう少し先のお話になります。
あと2か3話程です。
少しだけ行く前までの下準備をさせて下さい。
着いた島に特別名前はありません。
祭りではありますが、どこかの映画に出てきた肩に花を乗っけた男爵も出てきません。
さて、ルフィ達が出会った女性はいったいナニメールさんなのか、そして少女はナニさんなんだろうか。
さて、今回はこの辺りで。
待て、次回。