その悪魔の実には意思がある   作:ゼガちゃん

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何とか連日投稿ができました。

では、続きをどうぞ。


その出会いは偶然か、運命か②

その少女には血の繋がりのない母と姉が居る。

母と姉にも血の繋がりはない。

けれど、血の繋がり以上の絆が確かにあった。

 

母からは惜しみない愛情を貰っているし、姉も喧嘩する事はあるが姉妹仲は良好と言って良いだろう。

 

この祭りを知ったきっかけは母が買っていた新聞でこの島まで行く船のチケットの抽選が当たったから。

距離はあるが、地元と目的地を往復する船も出してくれる。

母は元海兵だった事もあり、この島の治安の良さを知っていた。

 

なので娘2人に祭りへの参加を促してきた。

当然二つ返事で「「行く」」と答えた。

恐らく、この行事を一番楽しみにしているのは母だ。

子どもみたいに笑っていたし、間違いないと思う。

 

ただ、不運というのは突如として起こるものだ。

姉は直前になって熱を出してしまった。

 

彼女も楽しみにしていた。

自分も姉が居なければつまらないから行くのを拒んでいた。

けれど、姉の口から出たのは「楽しんできて」の一言だった。

 

姉は自分のせいで行けなくなるのは申し訳無さがあったのだろう。

姉の言葉の真意に気付いていたが故に「うん」としか答えられなかった。

 

しかし、いざ来てみれば今度は自分だけが来る事になった罪悪感が降り掛かる。

祭りを楽しもう等という気持ちは既に消え始めていた。

 

母が気を利かせて服屋で何か買おうと提案してくれた。

せっかくならと店内へ、姉へのお土産の服も買った。

裕福ではないが、この為にお金を使ってくれた母には感謝しかない。

 

その後だった。

買い物を済ませて店を出た直後に母にぶつかった同い年位の少年少女と出会ったのは。

母はこの手の手合いには慣れたもので、安否を確認する。

遅れてきた男が「申し訳無い」と謝罪してくれた。

 

話は済んだだろうと母へこの場を離れるように進言する。

母は何も言わないが自分の心の内に気が付いているだろう。

この場を後にしようとして――――少年の手が自分の腕を掴んだ。

 

何事かと思っていると、少年はこちらをマジマジと見ていた。

何なのかと思っていたら、彼が次に放った一言に自分が凍り付いた。

 

「お前、何かあったのか?」

 

あまりにも核心を突いた発言。

それには脳内も思わずフリーズした。

色々と言いたい事もあるが、彼の発言は動物的な直感が引き起こしたもの。

深い意味がない事は続く会話で理解する。

 

自分の胸の内をついつい吐露してしまった。

母にも話していないというのに。

 

しかし、彼女には自分の心情は見抜かれていたようで、的確に言われてしまったので狼狽した。

それを受けた少年は自分へ言葉を掛ける。

だが、その一言がこんな事があるか?

 

「お前、何言ってんだ? バカか?」

 

――――である。

隣の少女が何か言ってくれそうだったが、それよりも自分の怒号の方が大きくて速かった。

周囲へ迷惑を掛けていたみたいだが、自分の怒りはそんな事では収まらない。

何故、会ったばかりの見ず知らずの少年にそんな事を言われなくてはならないのか?

 

しかし、少年はこちらの怒りなど御構い無しだ。

ズカズカと踏み込んでくる。

 

「姉ちゃんと来れなかったのは残念だけどよ、でもお前の姉ちゃんは『行って来い』って背中を押してくれたんだろ?」

「だったら、姉ちゃんの為に楽しい話を聞かせてやる為にも祭りを楽しまないとだろ」

「楽しい事をいっぱいして、それを話してやれよ。お前が楽しそうにしてるの聞いたら、きっと姉ちゃんも喜ぶぞ!!」

 

自分の言葉に対して少年は悉く言い返してきた。

しかも全てが的確で、こちらはぐうの音が出せなかった。

 

では、具体的にどうするのかと問えば「冒険をしよう」と言い出した。

こちらの手を取って走り出す。

母が自分の荷物を持ってくれるという。

そのまま少年に手を引かれて自分と、遅れて少女も追い掛けてくる。

 

この祭りの場所で「冒険」とは何処へ向かうのかと思った。

自分が少年へ言い返したように食べ物が並ぶ屋台にばかり少年は次から次へ狙いを定める。

 

その度に自分と少女は「食べてばっかり」とこの少年に対する印象が同じとなった。

ちなみに母はベックマン(少年が買い物をする時に名前を呼んでいた)と話をしていた。

少年が名前を呼んだ際に母の表情が険しくなった気がしたのだが、それ以上に少年が引っ張ってあっちこっちへ連れ回すので、やがて記憶の隅へ追いやられる。

 

「ねえ、食べ回ってばかりだと疲れるから何処かで休憩しようよ~」

 

「私も賛成。何処かで休みましょうよ」

 

「え~~~っ!! まだまだ色んな店があるじゃねえかよ~」

 

少女2人掛かりの言葉にこの少年は全く意にも介さない。

それどころか、まだ動き足りないと言い出す始末だ。

 

「あまり女を困らせるもんじゃない」

 

「でもよ~、ベックマン」

 

「それに一度休憩した方が新しい〝冒険〟を見付けられるかもしれないぞ? 何ならそこで新しい発見があるかもだ」

 

「なら、仕方ねえ」

 

どうやら少年の手綱の握り方をこのベックマンという男は心得ているらしい。

まだまだ子どもな少年と比べたら大人の色気というものを振り撒いている。

こういう男性がモテるのだろうなと「女」である自分も直感した。

 

こうして見事に少年の意識を「冒険」から「休憩」へ変更させている内に移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩場所に選んだのはケーキ屋だ。

お代はベックマンのポケットマネーから出してくれるそうだ。

お土産としてケーキもいくつか包んであるので、それを渡すつもりのようだ。

 

子ども組はテーブル席、大人組はカウンター席とで分かれる。

ベックマンは女性の方と相席する。

 

「あんた、ベン・ベックマンだね?」

 

「おれの事を知ってるのか?」

 

「むしろ、知らないと思われてる方が不思議じゃないかしら? それにこれでも元海兵でね。顔は何度か拝む機会はあったのさ」

 

言いながら女性は煙草に火を付けてベックマンを見る。

 

「まあ、今の私には関係のない話だし、何よりあの()が楽しそうにしてるのを見てるだけでも満足だから。そっくりさんだとでも思っておくわ」

 

「気遣いに感謝する」

 

そう言って店主に飲み物を注文する。

アルコールを頼みたいところだが、子ども達から目を離す事も出来ないので、ノンアルコールのお茶を注文する。

女性の方も同じ考えだったのか、ベックマンの注文に乗っかった。

 

「正直さ、嬉しさの方が勝ってるんだ」

 

「と言うと?」

 

「あの()が笑ってくれたから」

 

「そうか」

 

女性にとって、あの少女は宝なのだろう。

ベックマンもウタの事を大切に想っている。

シャンクスの娘ではあるが、ウタは紛れもなく赤髪海賊団全員の娘も等しい。

いや、それだけではないのだが――――

 

「おたくのお子さんのおかげで助かってるよ」

 

「残念ながら、どっちもおれの子じゃない」

 

女性はどうやらベックマンの子どもだと勘違いしたようだ。

しかし、それは訂正させて貰う。

 

「片方は今停泊してる島の子を預かりで、もう片方はウチの船で面倒見てるが、みなし子なんだ」

 

「預かりは男の子の方かな? みなし子は女の子の方でしょ?」

 

「――――――正解だ。良く分かったな?」

 

「女の勘ってやつかな?」

 

良く分かったものだと感心する。

どうやらこの女性も直感力は優れているようだ。

 

「良い子ね」

 

「ああ、おれ達の自慢の娘さ」

 

何のかんのと、ベックマンもウタの存在に助けられてきた。

むさ苦しい男所帯の中の小さな歌姫には誰も頭が上がらない。

 

「そっちの方も立派に育てているじゃないか」

 

本当に血が繋がっていないのかと疑う程に少女は女性に良く懐いている。

 

「そう言って貰えると助かるよ。あの()には不自由を掛けてるからさ」

 

「とてもそんな風には見えないがな」

 

「私の家は裕福な方じゃない。正直、食べていくのもやっとさ。ここへ来れたのはここまでのチケットが偶然に手に入ったから」

 

女性は一息吐いて、吸い殻を捨てて新しい煙草を用意する。

ベックマンも女性に続くように煙草に火を付けた。

 

「正直、あそこまで育てるのも大変だった。村の人に何度も何度も助けられた」

 

「良い村としか言い様が無いな」

 

女性の話を聞く限り、多少の不自由は感じられる。

それでも温かな環境で育てられた事だけは伝わる。

少女が母親をしているこの女性に懐いている事だけは伝わった。

しかし、どんなに言葉を尽くしても女性の表情は優れない。

 

「何か、不安があるのか?」

 

「このままで、良いのかなって心配もあるんだ」

 

「心配? どんな?」

 

ベックマンは吸っていた煙草を灰皿へ押し付ける。

2本目を吸おうとはせず、顔だけでも女性へ合わせようとそちらへ視線を向ける。

彼女は真剣に悩んでいるのだ。

今しがた知り合ったばかりだが、それでも気持ちを少しでも軽くしてやれたらと思う。

 

「あの()の、姉もだけれど、未来を奪っているんじゃないかって心配になるんだ」

 

「未来を奪う?」

 

それはまた仰々しい話だと思った。

けれども、ウタという少女を連れ始めたベックマンを始めとする赤髪海賊団の中にも同じような心配はあった。

 

「もしかして、今の生活のせいで彼女のやりたい事をやらせられてないとか考えてるのか?」

 

「良く分かったね」

 

ベックマンの導き出した回答は花丸であった。

女性としても漠然とした心配として圧し掛かる。

 

「今、みかんを作ってるんだ。それをやってるのもあるけど、さっきも言ったように裕福じゃない」

 

聞けば少女が着ている服は姉に作ったもののお下がりだったようだ。

お金がないからおしゃれをさせてやる事も出来ない。

今日、服を買ってあげたのだって多少の無理もあった。

 

「多分、あの()もそれには気付いてる」

 

「随分と敏い子なんだな」

 

今後、女性の為に少女は自分を犠牲にして生きていこうとするのではないか?

そんな心配が彼女の中に渦巻いていた。

 

多分、こんな心配を口に出したのは初めてだ。

あの()達の為にも常に明るく振舞っていた。

無理に取り繕っていた時もあったが、本心の方が多かったのは間違いない。

 

「せめて、あの()達の将来の夢を見付けて追い続けられるようにしてあげたい」

 

こんな風に誰かに話すだなんて事もしてこなかった。

今が初めてなのだ。

話している内に漠然としていた不安を喋ってしまう。

既に感情のダムは決壊してしまい、言葉は湯水のように溢れてしまう。

 

「もしも本当の母親じゃない私の事が足枷になって、将来の夢を叶えられないようになったらどうしようかって考えちゃってね」

 

こういう時、どうしたら良いのか分からない。

ベックマンも適切な答えを持っている訳ではない。

 

ベックマン達は海賊だ。

最終決定権はシャンクスに委ねられるだろう。

だが、ウタが〝海賊〟である以上、このまま船に乗っていれば付けられる異名には〝悪名〟の意味が込められてしまう。

 

彼女は〝世界の歌姫〟を目指している。

けれど、その夢は赤髪海賊団に所属している以上はいつかは足枷となる。

しかし、今更ウタと別れる想像だって出来ない。

 

きっと、女性の方も根っこは同じなのだ。

言葉を選ばずに言うなら「貧乏」である事が全ての元凶となりえる。

下手をすると、少女の将来を取り上げる形で育てているのではないかと考えているのだろう。

 

2人共、適切な言葉が出ずに沈黙が訪れてしまい――――

 

 

 

 

 

「バカだなー、そんな訳ねえじゃん」

 

 

 

 

 

こちらの沈黙をぶっ飛ばす発言が横から放り投げられた。

気付けばこちらまで来ていた少年。

 

彼の放った言葉の意味を上手く理解できなかった。

その間に少年はこちらへ駆け寄る。

 

「あのよー、あいつが何やりたいのか聞いたのか?」

 

「えっと、知ってはいるけれど……」

 

少女は将来、自分の目で見た〝世界地図〟を描きたいと語っていた。

それには島を離れる事になる訳で、お金だって掛かるだろう。

無論、自分にもできる事はするつもりだ。

けれど、何処までいっても裕福ではない事が足枷となる。

船に乗る為のお金を少女は母親と姉の為に使う事だって十二分に考えられる。

 

「おれもさ、将来は〝海賊〟になりたいんだ」

 

「海賊ぅ?」

 

横に居るだろう元凶へ視線を送る。

居た堪れないらしい男は明後日の方向を向いていた。

けれど、少年の言葉は止まらない。

 

「でもさ、何をしたいとか、どうしたらいいか分からないからとにかく特訓してるんだ」

 

元海兵の前で「海賊になりたい」と言い出す少年。

女性の素性を知らないのだから無理ない話なのだが。

 

「でさ、その話を村長にしたら怒られるんだ」

 

「そりゃ、そうよ」

 

誰が好き好んで海賊にさせたがるのか?

けれど、少年は言葉を続ける。

 

「でもさ、おれはやっぱり海賊になりたいから特訓するんだ」

 

「うん……うん?」

 

聞き間違いかとも思ったが、少年はそれでも海賊になる事を諦めるつもりは毛頭ないようだ。

正直、頭がパニックになりそうになる。

つまり何が言いたいのかという話だ。

 

「つまり、将来なりたい自分を決めたらその為に諦めずに突き進むって言いたいのか?」

 

「おう、そうだ」

 

ベックマンが少年の言葉を通訳する。

女性としてはベックマンの言葉の方がしっくりきた。

 

「あの()は将来の夢を叶えるつもりでいる?」

 

「そうだと思うぞ。さっき、あいつは楽しそうに地図を描くとか言ってたからな」

 

どうやら、思っていたよりもあの()は見ず知らずの2人と仲良くなったようだ。

少年が今の「海賊になる」と言ったらあの()も「そんなの止めた方が良い」と言い出したようだ。

一緒に居る少女も「世界中に私の歌を届ける歌姫になる」と語った。

流れで娘も自分の夢も語ったのだと。

 

「まあ、心配しなくてもおれが海賊やる時に一緒に連れてくから地図を作れると思うぞ」

 

「そこに関しては止めるけどね」

 

「え~、良いじゃねえか!!」

 

「今後、助けられるような事でもあれば考えとくさ」

 

自分の娘も連れて行く前提になっているのは如何なものか。

それに少年にもできるなら海賊にはなって欲しくはない。

けれど、この少年は自分の決めた事は曲げなさそうだ。

多分、ずっと先の未来で海賊になっていそうでならない。

 

まあ、でも――――

 

「ありがとう。今度、話してみる」

 

「何か分からんけど、どういたしまして。あいつも母ちゃんの事は好きみたいだし、何とかなったなら良かった」

 

ししし――少年はそう笑う。

爆弾発言も飛び出した気がしたが、それは娘から直接聞きたいので聞かなかった事にしておく。

 

「ちょっと、店員さんがまだ来ないんだけど?」

 

「何を話し込んでるの?」

 

「わりぃ、忘れてた」

 

少年はどうやら店員を呼びに来たようだ。

それを忘れていて、少女2人に怒られる。

尻に敷かれている様子を見て、先程に振り回していた少年とは別人に見える。

 

思わず、女性はクスリと笑う。

 

「何か、違和感もあったんだがな。何だ?」

 

隣に座るベックマンは少年の発言の違和感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

休憩を終え、自分はまた少年の言う「冒険」に付き合わされた。

しかし、少年の行きたいところばかりではない。

 

どんな出店が見たいか、自分にも聞いてくれた。

共に居る少女が「他のところも見るのも冒険になるから行こう」と言うと、少年も「そうなのか」と純粋に信用して他を回り始めたのも理由だが。

 

装飾品を並べているものも点々としてあったので、そちらへ足を運ぶ。

やはり年頃の女の子だけあり、おしゃれにも気を配るようになったのだ。

 

あとは自分は本を読む。

地図の勉強もあって本を読む習慣が付いた。

その中で恋愛小説なんかも読み始めたのもある。

どうやら少女も同じようで、その話題でより仲を深め、盛り上がる。

特に男性が想い人へプロポーズの為に行った指輪をはめるシーンはドキドキしたものだ。

その行為の意味も書かれていたので、読んでいるこっちが恥ずかしくなった――等々。

 

話が脱線した。

屋台を見回るも、目を引くようなものは無い。

そもそも祭りで使えるお小遣いが殆ど残っていないのもあるが。

 

「ねえ、最後はあれにしない?」

 

そんな中、少女が真正面に「くじ引き」の看板の書かれた出店のテントを指差す。

天井を通ってぶら下がっている紐を引っ張り、奥に置かれた箱から景品が出てくる仕組みだ。

あまり大きくは無い箱なので、子ども向けといったものに見える。

料金も安いので残り僅かなお小遣いの使い道もない。

せっかくなら――と、少女の提案に乗る事にした。

 

少年の方はどういうものなのか理解していなかったようだが、自分が「何が当たるか分からないドキドキを味わえる店よ」と教えてあげると目を輝かせて「面白そうだ」と乗ってきた。

段々と少年の扱い方が短時間で分かってきてしまった。

 

「いらっしゃい」

 

笑顔で出迎えてくれる初老の男性。

その人にお金を渡し、順番に引いていく。

 

まず少女がくじを引く。

当てたのはオンプのキーホルダーだった。

 

次に自分が引く。

当たったのは手のひらサイズのみかんの玩具だった。

 

次は少年の番になったのだが――――

 

「なあ、あれも引いて良いのか?」

 

等と言い出し、指差したのは箱から少しだけ出ている短い紐だった。

 

「ありゃ、これはすまない」

 

どうやら男性の不手際であったようだ。

今の今まで指摘されるまで気付かなかったようだ。

 

「あれが良いなら取ってやろう」

 

「いや、良いよ。自分で取るから」

 

初老の男性が言うが、少年は「自分で取る」と言い出した。

何を言い出すのか?

ここからあの箱まで距離がある。

大人だって手を伸ばしたところで届かないのは明らかだった。

 

少年が言い出した意味を理解できないまま、彼は「ししし」と笑うと腕を高々と振り上げた。

 

「待て――」

 

ベックマンという男性は瞬時に理解したようだが、時既に遅かった。

 

その瞬間、自分と母、ついでに初老の男性も何が起きたのか理解できなかったに違いなかった。

少年が腕を突き出したかと思えば、その腕が箱の方にまで"伸びたのだ"。

 

目の錯覚ではない。

伸ばされた腕は紐を取ろうとして――――その勢いのまま、箱を倒してしまった。

勢いは然程でもないが、倒れた箱の中に入っていた景品が散らばってしまう。

 

「こら!!」

 

「いてぇっ!?」

 

少年にベックマンからの拳骨が落とされる。

一瞬、彼の手が黒くなった気もしたが……今は肌色なので気のせいだろうか?

 

「あ、あれ? 何で痛いんだ!?」

 

「そんな事よりも!! 考え無しに行動するな!! 人様に迷惑を掛けたなら言う事があるだろ!!」

 

少年は何かに疑問を抱いたようだが、そんな事よりもするべき事があると告げる。

それには少年の方も同意しているようで「う、うん」と頷いていた。

 

「おっちゃん、ごめんなさい」

 

「すまない店主」

 

「いやいや気にしないでくれ。どのみちもう景品も無くなってきたから片付けるところだったから」

 

初老の男性は笑顔で言ってくれる。

ベックマンは「ありがとう」と今度は感謝の言葉を告げる。

 

「ほれ、少年の景品はこれだ」

 

そう言って渡されたのは玩具の指輪だ。

プラスチックの材質だろう物が2つあり、それぞれ桃とオレンジの2色がある。

 

「何だ。指輪か」

 

「文句言うな」

 

少年は不満そうに言うが、彼が迷惑を掛けた事には違いない。

ベックマンは少年へ釘を刺す。

 

「この指輪は不思議な物でな。かなり頑丈な造りになってる」

 

「そうなのか」

 

興味を持ったのは意外にもベックマンだった。

こういった玩具にしては随分と珍しい。

 

「おれは別に要らねえしな~」

 

「まあ、こういうのは女の子の領分みたいなところがあるからな」

 

少年としても玩具の指輪を渡されても困るだろう。

ベックマンが言っている「領分」とやらを少年も理解は出来ていないようだが、感覚でキャッチしている。

考え込んでいる少年はこちらと少女を見て「そうだ」と何か思い付いたようだ。

 

「これ要らねえから2人にやるよ」

 

「良いの?」

 

「おう」

 

少年へ問うと、満足気に頷いていた。

深い意味がある――――という訳ではないだろう。

ただ本能的にこれを渡そうと考えただけに見える。

 

「せっかくだからはめてやるよ」

 

言いながら自分の左手を取ると薬指へオレンジ色の指輪をはめ込んだ。

次に共に来ていた少女の左手も同様に取ると、桃色の指輪を同じく薬指へはめ込む。

 

「ほぉ~、一丁前に凄い事をするもんだな」

 

「何がだ?」

 

「自覚無しってのが、何とも罪なもんだね」

 

少年の行動にベックマンが驚き、母も微笑ましそうに様子を見ていた。

しかし、少年は自分の行動の意味を理解出来ていないので首を傾げるばかり。

 

自分と少女も2人の反応が分からなかった――最初は。

そして、2人は先程に盛り上がっていた恋愛小説のプロポーズシーンを思い出す。

それを思い出した2人の表情は真っ赤になる。

頭から湯気が出ているのではと錯覚する程だ。

 

「まあ、おれが2人にあげたいって思ったからな。受け取ってくれよ。ベックマンが指輪を女にこう渡してるのを聞いたし、ヤソップからも女に指輪を渡す時の作法だって聞いてるから。こうするのが一番だと思ったんだ」

 

「なるほど、おれとヤソップの話を――――待て、おれの情報の出処は何処だ?」

 

あどけない笑顔で言うものだから自分と少女は何も言えない。

ここで「要らない」と突っ撥ねるのは気が引けた。

結局、押し切られる形でこれを持つ事に。

 

元凶たるベックマンは少年に話の出処を聞き出そうとしている。

その横で女性が「何を教えてるんだか」と額に手を当てていた。

 

唯一、何も知らない少年だけは無邪気に笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間が過ぎるのもあっという間だった。

そう、何だかんだ来れなかった姉の分も間違いなく自分は楽しんだ。

この楽しさを目一杯伝えようと思う。

教えてくれた少年には感謝だ。

 

そうだ。少年と言えば気になる事がある。

 

「ねえ、さっきの腕が伸びたのって?」

 

「ああ、おれはゴムゴムの実を食ったゴム人間なんだ」

 

「それって、もしかして悪魔の実を食べちまったって事なのかい?」

 

「そうだ。良く分かったな」

 

少年の言った事を理解できていないのはどうやら自分だけらしい。

悪魔の実は聞いた事がある。

所詮は噂と思っていたのだが、どうやら違うらしい。

でなければ少年が腕を伸ばすところを見間違うとは思えなかったから。

 

「それは、大変だったんじゃない?」

 

「いやー、おれもこんな事になるとは思って無かったからビックリしたよ」

 

はっはっはっ!! 白い歯を見せながら少年は告げる。

底抜けに明るい少年の様相に心配した自分は何か間違えたのかと勘違いした。

 

「カナヅチにはなっちまったけど、おれは元々泳げなかったし。それに海に落ちなきゃ良いだけの話だしな。あと身体が勝手に伸びるのも驚くけど、遠くのものを取れるとか考えると良いもんだぞ」

 

少年は自分の身に起きた不便を指折り数える。

けれど、その分だけ良くなった内容も数えていく。

 

「どうして――――」

 

「ん?」

 

「どうして、そんなに前向きなの? そんなに悩まないの?」

 

少年に対して疑問をぶつける。

姉と来れなかった事だけでもこんなにクヨクヨしていた自分とは正反対だ。

自分と年は変わらない筈なのに、どうしてそこまで前向きに物事を考えられる?

 

少年は自分の言葉を受けて――――

 

「おれだって悩まないわけじゃないぞ」

 

心外だとばかりに少年は言う。

 

「ゴム人間になって悩む事もあったけど、色んな良いことも見付けられたんだ。なら、きっと色んな事が何とかなるって思えるんだ」

 

付き添いの少女やベックマンも驚きの表情を見せる。

きっと、この少年の変化は2人も分からない事なのだ。

何かが起こり、少年はこういう考え方をするようになった。

 

一見すると何も考えてないようにも見える。

だけど、その実はある意味で核心を突いていると言える。

 

何とかなる――――時には人としても必要になる場面のある考え方だ。

 

「何とかならなかったら?」

 

「そりゃあ、どうにか出来ないか誰かに聞くのが一番だろ?」

 

「それでもどうにもならなかったら?」

 

「そりゃあ、別の誰かに聞くのが一番だろ? それで何か自分に出来る事が見付かるかもしれねェしな」

 

1人で出来る事には限界がある。

少年はまたも核心を突く発言をする。

 

「もし何か困った事があったらよ、おれが海賊やる時に一緒に〝冒険〟しよう!! 困った事があったら一緒に考えたら何とかなるって!!」

 

「海賊になるかは考えさせて」

 

「え〜、良いじゃねえか!!」

 

「今後、助けられるような事があったら考えるわ」

 

「お前も母ちゃんと同じ事を言うんだなー」

 

仲が良いんだな――――少年は最後に付け足す。

 

「え? それって――」

 

「あっ!! そろそろ帰る時間だ!!」

 

そう叫んだのは女性だった。

 

「そうか。そしたらまた会おうな」

 

「私も。また何処かで会おう」

 

「ええ、またいつか、何処かで」

 

少年と少女と、再会を誓う。

あちらもあちらで誰かと落ち合う約束があったらしく、ベックマンが2人を連れて去っていく。

 

「そういえば、あの子達の名前は? 自分も名乗った?」

 

「…………あっ、聞き忘れた。それにこっちも名乗ってない」

 

母に問われるも、そういえば名前を聞いてなかったと気付く。

更には再会を約束したのに自分の名も教えていない。

 

「でも、何だかまた会える気がするわ」

 

「そうだね。一緒に居た女の子と一緒にゴムの少年に唾付けられちゃったしね」

 

「っ!? い、いや!! きっと、そういうのじゃ、ないわ」

 

「まあ、深い意味は無さそうなのは同意しておくわ」

 

女性としても少年の行動にはそこまで深い意味がない事には気が付いているようで。

 

「ところで、あの子に最初に冒険へ連れられる前に“本当はどう思ったんだい?”」

 

自分は少年を「食い意地が張ってる」と告げた。

けれど、そう応えるのに多少の間があった事を女性は見逃さなかった。

どうせ彼はもう居ないのだし、素直に答えてしまおう。

 

「何というか、底抜けに明るくて――――太陽みたいだなって」

 

「なるほど、太陽か。あの明るさなら納得するよ」

 

自分の例えに女性も理解を示す。

本当に彼の明るさはそう思えてしまう程に輝いていた。

 

「さてノジコが待ってるわ。帰りましょう、ナミ」

 

「うん。ベルメールさん」

 

ナミとベルメール――――血の繋がりは無くとも、それ以上の絆で結ばれた家族が手を繋いで船へ乗る。

もう1人の大切な家族が待つ村へ帰る為に。




如何でしたでしょうか?

女性はベルメールさん、少女はナミでした。
場転があってちょっと分かりづらくなりましたが、ナミ→ベルメールさん→残りはナミを中心とした三人称になっています。
本当は一人称の方が早かったんですが、ナミの方で子どもとは思えないような事を言っていたのでボツにしました。

この作品のルフィはプレイボーイ的な事をしていますが作中でも述べた通りに無自覚です。
原因はベックマンとヤソップです。
彼は唯一の既婚者であるので、男女の事はよく知っているでしょう。
ベックマンのプレイボーイ設定が映画の特典で明かされたので、そういう事をしている事に(ごめんよ)
ちなみに彼が女性に対してキザな事をしている事を吹き込んだのはヤソップです。
酔っ払った拍子に彼はルフィに教えました。

アニメでルフィとウソップの出会ってヤソップの回想で酔っ払っていた彼が持っていたビールジョッキをルフィの頭にはめ込んだシーンを思い出し、酔っ払った彼ならやりかねなさそうだなと思って。

あと指輪は本当にただの壊れにくい玩具です。
カラーリングに関してもフィーリングで選んでます。
ナミはみかんと髪の色から。
ウタは髪の色を混ぜたものと、最近明かされたプロフにて「かわいいもの好き」とあったので、かわいい色の代名詞で選びました。

今回、ベックマンに2人のお守りを頼んだ理由はベルメールさんとの会話をさせたかったから。
正確にはシャンクス以外の船員がウタを「大切に思っている」描写が欲しくて、副船長の彼を利用しました。
アニメや映画を観ていても大切に想っているのは明らかなんですが、まだこの頃の彼等って30前位だった筈で、色々な葛藤も抱いていたと思いましたので。

映画でウタの事を知らない面子も居ましたが、見ず知らずの彼女の為に身体を張れたのもシャンクスやベックマンの人徳があっての事だなと思い、似たような関係であるベルメールとナミを絡ませたかった。

裏話で本当はベルメールの代わりにはっちんを出そうとも考えたのですが、どうしても時間的に異なるので取り止めました。
シャンクス達はフーシャ村を拠点に1年と少しなので、その翌年までベルメールさんは存命ですし、ナミとウタは拾われた点、ベックマンとベルメールもそれぞれの家族代わりという点も似ていたのもあって絡ませて書きたくなったので逆に良かったと思っています。



それと、話は唐突に変わりますが作者は元々ルナミのCPが好きでなんですよ、今も好きなんですが。
しかし、ルフィと他の女性キャラとのカプ、特に有名処だとルビビやルハンといったものも好きですし、何より今回の映画でルウタも好きになりましたし、と優柔不断な作者でございます。
ですが、この作品のタグには特定のCPを入れておらず、ハーレムは入っているという事は…………まあ、ハーレムパターンにするのが本当に高いです。

仕方ないじゃないか!! だって、他のカプ(主にルフィ絡みのもの)も好きなんだもの!!

一部例外(ウソカヤとか)はもちろんありますが、基本はルフィと女性キャラがメインの予定でございます。

しかし、問題はルフィさん本人。
果たして、そのような展開を起こせるのだろうか?
実際、LIKEとLOVEが混ざってそうな気もしますが。




さて、あとがきで凄くはしゃいでしまいました。
長々と申し訳無かったです。
なにジアへの出航までにあと2話を使う予定です。
いましばらくのお待ちを。

今回はこの辺りで。
では、また次回に。
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