ボーダー本部、ランク戦ラウンジ。
生隊員・訓練生問わず、今日も今日とて多くの人間が研鑽を重ね、普段通りの賑わいを見せている。
そんなラウンジにて、さっぱりとした男前たる烏丸京佳が、ソファに座ってスマホをポチポチと弄っていた。
「……」
誰かと待ち合わせ…というわけではない。
バイトが終わりボーダー本部にやってきた彼は、いつも通り自隊の作戦室へと向かったが、作戦室には誰もおらず。
暇だし久々にランク戦するか~……とラウンジに訪れたはいいものの、手軽に誘える知り合いが見つからず。
今日はみんな予定あるのかな…と少し寂しい気分になりながら、ただ孤独にスマホのソシャゲをポチポチする存在になってしまった。
「あれ、京佳くん?」
某パズル&ドラゴン達のゲームを、ぬぼーっとした表情で適当にプレイしている彼に声をかける女子が1名。
肩より上で切り揃えた黒髪に、さっぱりとしているが美少女といって差し支えない顔立ち。
動きやすそうなジャージを身に纏った彼女は、B級那須隊の攻撃手・熊谷友子である。
「あ、クマ先輩。おつかれっす」
京佳はスマホから顔を上げ、熊谷に向けて小さく会釈をする。
「おつかれ。個人ランク戦しに来たの?珍しいね」
熊谷の言う通り、京佳は普段あまり個人ランク戦をしない。バイトや防衛任務で多忙のためだ。尤も、米屋や出水などの戦闘狂に引きずられてランク戦ブースを訪れることはあるが。
「たまたま時間できたんで。クマ先輩もランク戦ですか?」
「そ。まあ時間潰しって感じだけどね。このあと部隊ミーティングがあるんだけど、ちょっと早く着いちゃってさ」
「そうなんすね。…あ、なら俺とランク戦しませんか?」
「え!?あたしと!?」
京佳の言葉に、熊谷は目を見開いて驚く。
まさか自分が誘われるとは思っていなかったらしい。
そんなに驚くことか?と京佳が首を傾げていると、熊谷は顔を俯かせ自信なさげに語り出す。
「いや、あたしは……京佳くんからしたら歯応えがないんじゃない?ほら、京佳くんが普段相手してる人と比べたら全然だし……」
京佳が普段相手にしているのは殆どがA級隊員。熊谷と比べ、総合値では確かに上だろう。
しかし、京佳は対戦相手の実力を気にしていない。例え相手が強かろうが弱かろうが、全ての他人が自分に何かを教えてくれると知っているからだ。
勿論、熊谷も例外ではない。京佳からしてみれば、熊谷の戦闘から学ぶべきところは多くある。
「いや、そんなことないっすよ。クマ先輩の"捌き"はめっちゃ勉強になりますし、そこからの斬り返しは見事だと思います」
熊谷の敵の猛攻を捌く力と、猛攻を防ぎつつも反撃を差し込む力は上位の隊員からも一目置かれるほど。京佳としても、隊をサポートするうえで是非とも付けておきたい技術だ。
「え、ちょ…そんな…」
「それに、俺も弧月を鍛え直したいと思ってたんで。是非、お手合わせ願います」
「…そこまで言うなら…」
京佳の褒め殺しに負けた熊谷は、頬を搔きながら承諾する。
「10本勝負でいい?」
「!あざす!」
「言っとくけど、手加減は無用だからね。あたしも京佳くんから学ばせてもらうから」
「もちっす。全力でいきますよ」
そう言って別れ、各々ブースへと入っていく。
ブースの中に入った瞬間、熊谷の頬が思いっきり緩んだと思えば……ニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた。
(やった!京佳くんと個人ランク戦!しかも、あんなに褒めてくれて…や、やばい……!ニヤケが止まらない……!)
熊谷友子……彼女は、隠れ京佳ファンガールだった。
このことは一切公にしておらず、親友たる那須にすら告げていない彼女だけの秘密である。―なお、隠しているつもりであるが那須にはバレている。
(…はっ!いけないいけない。浮かれてちゃダメだ。A級との貴重なランク戦、しっかり糧にしないと…!)
自らの頬をパンっと力強く叩き、気持ちを入れ直す。
ランク戦に色恋の不純な気持ちは不要。例え相手が想い人であろうと、全力で臨まねば失礼だ。
「よし、やってやる」
気合いを入れている間に、京佳からランク戦の申請が届いた。
(…弧月、10189ポイント…)
ボーダー内で僅か数人しか存在しない、攻撃手トリガーの10000ポイント越え。対して、熊谷の個人ポイントは7000と少し。彼我の実力差は歴然。
…だがそれは、恐れる理由にはならない。
熊谷は、自らの心に闘志を焚べた。
ーーー
『個人ランク戦、10本勝負。開始』
無機質な音声とともに転送が完了し、戦闘が始まった。
熊谷の正面に立つ京佳は、ゆっくりと弧月を鞘から抜き放つ。
直後、力強い踏み込み。
トリオンで再現されたコンクリートの地面を砕き、一気に熊谷に肉薄する。
熊谷は横薙ぎに振られた刃を弧月で受け止め、その勢いを利用し鋭く斬り返す。対する京佳は、熊谷の鋭い斬り返し―自らの顔に向けて振るわれた刃を上体を反らすことで躱す。
上体が横方向に倒れた不安定な体勢。それを好機と見た熊谷は追撃を繰り出そうとするが、視界の端に煌く刃を見て…咄嗟に顔を後ろに反らした。
―直後、京佳の弧月が熊谷の鼻先を掠める。
「さすが」
「…ッ!」(体勢を崩したと見せかけて……死角からの突き…!)
一歩踏み込んだ熊谷に生まれた一瞬の死角を突く一撃。気づくのがコンマ数秒遅れていれば、脳天を串刺しにされていただろう。
「ギア、上げていきます」
「…くっ!」
上下左右から繰り出される鋭い斬撃に翻弄され、防戦一方となっていく熊谷。持ち前の防御力で何とか致命傷は避けているものの、浅い傷が積み重なっていく。
このままではジリ貧。ここから一矢報いるには…何とか隙を見つけてカウンターを叩きこむしかない。
光明が見えるまで、捌き、耐える。
耐えて、耐えて、耐えて…瞬間、僅かな隙を見出した。
(…ここ!)
京佳が繰り出した上段を弾き、返す刀で首を狙う。
京佳はシールドで弧月を防御しようと試みるも、熊谷が振るった弧月はシールドを砕いた…が、そのシールドが2人の明暗を分けた。
シールドと弧月が衝突した瞬間、ほんの一瞬だけ刃の動きが止まり…僅かな猶予が生まれた。それによって京佳の回避が間に合い、熊谷の一閃は彼の左耳を切り飛ばすに止まる。
「…ッ」
熊谷の顔が歪む。
渾身の一振りを凌がれ、彼女の全身は大きな隙を晒していた。
何とか体勢を立て直そうとするも……その隙を見逃すほど、A級は甘くはない。
京佳の弧月が、静かに熊谷の胸を貫いた。
ーーー
「あ~……全然だめだった…」
10本勝負が終わり、結果は1勝9敗。
最後の最後に一矢報いることができたものの、結果としては熊谷の惨敗であった。
しかし、熊谷の表情は明るい。短時間ながら想い人と2人きりの時間を過ごせたうえ、戦闘面では多くの学びを得ることができたからだ。
「あざした」
ブースを出た熊谷を京佳が出迎えた。
「おつかれさま。さすがだね、全然敵わなかったよ」
「いやいや。最後に1本取られましたし、それ以外でも何回もヒヤリとしましたよ。流石の腕前でした」
「も~。そんな褒めたって何も出ないよ?……ジュース飲む?」
「いいんすか?」
「勿論。ほら、買いに行―」
「あ、師匠!」
京佳と熊谷が談笑していると、そこに声がかかった。
2人揃って声の方向を向くと、そこには健康的に日焼けしたボーイッシュガールが1人。
熊谷が(師匠…?)と脳内にハテナを浮かべている間に、ボーイッシュガールは2人の目の前まで移動してきていた。
「師匠!おつかれさまっす!」
「おお、帯島。おつかれ」
ボーイッシュガール改め、帯島ユカリは満面の笑みで京佳と挨拶を交わすと、続けて京佳の隣に立つ熊谷へと顔を向けた。
「熊谷先輩っすよね!自分、弓場隊の帯島ユカリっていいます!以後よろしくお願いします!」
「あ、うん。よろしくね、帯島ちゃん。…てか、え?師匠?」
帯島への挨拶も程々に、先ほどから脳内を埋め尽くしている疑問を解決すべく京佳へと視線を向ける。
熊谷の視線を受け、京佳はドヤ顔でサムズアップを返した。
「帯島は俺の弟子っす。な?」
「はい!」
「…ッ!?」
京佳の宣言を受け、熊谷の全身―頭から爪先まで―に衝撃の稲妻が走った。
―今まで弟子を一切取ってこなかった京佳くんに、いつの間にか一番弟子!?
―しかもこんなに健気で元気で可愛い年下の子が!?
熊谷が倒れ込みそうなほどのショックを受けている間にも、京佳と帯島は楽しそうに会話を繰り広げる。
「師匠!この後暇ですか!よかったら稽古つけてほしいっす!」
「いいぞ」
「やった!」
「そんなに喜ぶなって。稽古ならいつでもつけてやる」
「い、いいんですか!?いやでも、師匠…忙しいですよね?私の稽古のために師匠のスケジュールを圧迫するのは……」
「気にするな」
「で、でも…」
「おいおい。俺を誰だと思ってるんだ?……師匠だぜ?弟子のためにスケジュールを調整するのは当然のことだろ?」
「し…師匠~~!い、一生ついていくっす!」
「はっはっは。よしよし」
(……ッ!!!!)
無邪気に喜び京佳を尊敬する帯島。
そんな彼女の頭を撫でて可愛がる京佳。
それを見て嫉妬する熊谷。
(帯島ちゃんズルい……!あ、あたしだって…京佳くんにナデナデしてもらいたいのに~!!)
中学2年生に嫉妬する高校2年生。
なんというか、大人げないというか…。
(ど、どうしたらあたしもナデナデしてもらえるかな!?)
京佳のナデナデがあまりにも羨ましいようで。
嫉妬によって理性&知性が著しく低下した熊谷は、何が何でも撫でてもらうために脳をフル回転させる。
(……そうだ!)
「京佳くん!」
何か思いついたらしい熊谷は、未だに帯島とじゃれついている京佳に声をかける。
「ん?なんすか?」
「あ、あたしも弟子にしてよ!!」
「え」
「え!?」
予想だにしていない発言。
京佳は固まり、帯島は驚愕の声を上げる。
数秒の沈黙の後、京佳が再起動。
「……あー…すみません。年上の人が弟子って、ちょっとあれなんで……」
「一歳差だから!そんな変わらないから大丈夫だよ!」
「え、いや…」
「一歳差なんてほぼ同い年みたいなもんじゃん!なんなら呼び捨てにしていいよ!」
「ええ……」
ガンガン押してくる熊谷に、京佳もタジタジである。
「だからお願い!私を弟子にして!もっと強くなりたいの!」
そう言って真剣な表情で頭を下げる熊谷。
ナデナデしてもらう…というのが強引な弟子入りに踏み切ったきっかけではあるが、もっと強くなりたいという気持ちも嘘ではない。
部隊のため、親友のため、更に腕を上げたいというのは前々から思っていたことだ。
ちなみに割合で表すと、強くなりたい:ナデナデ=3:7である。
純情な感情はたったの1/3であった。
「いやあ……う~ん……」
それでもなお、渋る京佳。
彼がここまで悩む理由は、既存の弟子・帯島を考えてのことである。
もちろん、熊谷の真摯な(京佳目線)想いに応えたいという気持ちはある。
しかし弟子を増やしてしまえば、帯島に割ける時間が減るのは明白。それは帯島に……そして自分を信頼して隊員を預けてくれた弓場に対する不義理に当たるのではない……と。
唸りながら色々と考えている京佳に、帯島がおもむろに声をかけた。
「師匠!ここまで真剣なんですし、弟子にしてあげたらいいじゃないっすか!」
「……いやでも、弟子が増えると帯島に割ける時間が減っちゃうぞ。いいのか?」
「私は全然かまわないっす!むしろ、姉妹弟子がいた方が切磋琢磨できて成長できる気がするっす!」
「まあ、それは確かに」
人を最も強くする要因は何か。
それは競争相手―ライバルがいることである。
京佳の部隊長である太刀川慶も、一番成長できたのは迅とバチバチにやり合っていた頃だ、と話していた。
「……わかりました。いいですよ」
「いいの!?」
熊谷が頭を上げ、ぱあっと花が咲いたような笑みを浮かべた。
「はい。ただし、先輩だからって加減はしないっすよ」
「それは勿論!本気で鍛えてほしい!」
「よろしくっす!熊谷先輩!負けないっすよ!」
「こちらこそ!負けないように頑張るよ!」
こうして、京佳一門に新たな弟子が加わった。
某A級6位隊長が知れば、嫉妬から暴走するような出来事である。
「じゃあこれからよろしく、友子」
「…………はえ?」
(!!???!?)
熊谷の動きが固まり、帯島も脳内で声にならない声をあげる。
彼女らが想定していた呼び捨ては"熊谷"ないしは"クマ"であり、まさか下の名前を呼び捨てにされるなど夢にも思っていなかったのだ。
あまりにも予想外な展開に、熊谷の脳がショート。そんな様子を見て、京佳は首を傾げた。
「……あれ?弟子になったら呼び捨てにしていいんでしたよね?……あ、違いました?すみません、じゃあ今まで通りの呼び方で―」
「え、あ、いやいあやいあやあ!」
(やいあやあ……?)
なんとか再起動した熊谷。意味不明な声を上げた。
再び首を傾げる京佳をよそに、今までにない早口で言葉を吐く。
「全然呼び捨てでいいよ!てか呼び捨てがいいかな!うん!むしろ呼び捨てじゃないと許せないかも!」
「そうすか。じゃあ、呼び捨てにしちゃいますね」
「う、うん!あ、ごめんもう行かなきゃ!じゃまたね、京佳くん、帯島ちゃん!」
「うす」
「お、おつかれっす!」
早口のまま言い切り、速足でその場を去っていく熊谷を見送った二人。
帯島は、隣で背伸びをする師匠にキラキラとした目を向けた。
「師匠、意外と大胆っすね……!」
「え、なにが?」
「何でもないっす。ていうか、熊谷先輩だけズルいっす。一番弟子は私なんですから、私のことも名前で呼んでください!」
「ああ、別にいいけど。じゃあ手合わせするか、ユカリ」
「はいっす!」
帯島の元気な返事とともに、2人はブースへと消えていった。
第二次 書いて欲しいキャラ
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那須玲
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熊谷友子
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真木理佐
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かわいいかわいいマリオちゃん
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香取葉子
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小佐野瑠衣
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今結花