サッパリとした男前 とりまる   作:mowさん

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お疲れ様です
ワールドカップ最高ですね


23話 とりととり

 

 三門市立第一高等学校。

 2校しか存在しないボーダーと提携している高校のうちの1つであり、それ故に殆どのボーダー隊員がここに通っている。

 

 「はあ…」

 

 そんな高校の廊下にて。

 癖のある赤毛を小さく揺らしながら、溜息を零しながら、ゆったりとした足取りで歩く少女が1人。

 その名は香取葉子。B級6位香取隊隊長である彼女は、ボーダーでも有数の実力者として知られている。

 

 「はあ~…」

 

 憂いを帯びた表情を浮かべたまま、2度目の溜息。普段の溌剌で生意気な様子とは対極である。

 彼女の憂いの源は、やはりボーダーにまつわることか、はたまた学業に関してのことか―。

 

 (……せっかく烏丸くんたちと同じ学校になったのに全然関わる機会ないじゃん。なんでクラス別なのよ。ムカつくわほんと)

 

 全然違った。ただの煩悩だった。

 自他共に認める烏丸ファンガールたる香取葉子。ファンガールでも異質とされるガチ両刀―いわゆる両推し…箱推しともいう―である彼女は、高校になり烏丸兄弟のどちらかと同クラスになり、キャッキャウフフな新生活を送ることを夢見ていた。

 ……が、現実は無常であった。

 クラスは別、校内で会う機会もほとんどない。そのうえ放課後は多忙。全く関わる機会がない。

 やるせないムカつきの矛先は毎秒変化し、あらゆる方向へと嚙みついていく。

 

 (ほんと意味わかんない。教師共め、忖度して同じクラスにしなさいよ)

 

 するわけがない。

 

 (てか、烏丸くんたちも何?1人は玉狛に行っちゃうし、もう1人は入れ替わりで太刀川隊って…意味わかんない!なんでウチの部隊には来てくれないわけ?)

 

 そもそも誘ってすらいないのだから当然である。

 

 (あ~ほんとムカつく。お腹も減ったし、ムカつきが収まんないわホント。あーもう、さっさと買って教室帰ろ)

 

 ムスッとした表情のまま彼女が向かう先は購買。普段は弁当なのだが、本日は母親の体調不良につき購買を使用することとなったのだ。

 多くの学生で賑わう購買にて、焼きそばパンとクリームパン、カフェオレを購入した香取は、足早に購買から去ろうとし―その出入り口でバッタリと出会ってしまった。

 

 「お。香取」

 

 「烏丸くん…!?」

 

 香取の目の前に現れたのは、彼女の悩みの種たる人物。

 さっぱりとした男前、烏丸京佳であった。

 

 「おっす」

 

 「……ん」

 

 軽く手を挙げて挨拶をする京佳に、香取はぶっきらぼうに返事をする。

 そんな彼女の様子を見て、京佳が訝し気に口を開いた。

 

 「なんか元気なくね?どうした?嫌なことでもあったか?」

 

 「……!」

 

 不意に痛いところを突かれ、思わず香取は顔を背けた。

 何でもかんでも顔に出てしまう香取。今回も例外ではなく、行き場のない怒りと不満が顔に出ていたようだ。それを他人に、ましてや京佳に指摘されてしまうなど、一生の不覚である。

 

 「……なんでもない」

 

 「なんでもないってことはないだろ」

 

 「ホントに何でもないから。ほっといてよ」

 

 「いやいや、その言い方は何かあるときのやつだろ」

 

 突っぱねるように言うが、効果はいまひとつ。

 香取の発言を意にも介さずに続ける。

 

 「……よし、ちょっと待ってろ」

 

 「え」

 

 そう言って購買の列へと並んでいく京佳。ぽつん、と置き去りにされた香取だったが、待ってろと言われた手前どこかへ行くのも忍びなく、大人しく待つことにした。

 数分後、購買でパンと牛乳を仕入れた京佳が帰還。にこやかな笑みで告げた。

 

 「行くぞ」

 

 「え?」

 

 ズンズンと、京佳は廊下を進んでいく。

 

 「ちょ!……ッ!」

 

 ―行くってどこに!?

 という叫びを飲み込み、早歩きで行く京佳の背を追った。

 

ーーー

 

 京佳の背を追った結果辿り着いたのは、人気の少ない校舎裏のスペースだった。

 昼練に勤しむ熱心な運動部の怒号も、くだらない下ネタで爆笑する男子生徒の笑い声も、インスタントなゴシップで騒ぎ立てる女子生徒の喧騒も聞こえない。草木の揺れる音と、頬を撫ぜる風音だけが耳に届く。

 

 「よいしょっと」

 

 コンクリと土の狭間、そこの段差に腰掛けた京佳に倣い、香取もしずしずと腰を下ろす。

 京佳の隣に座った香取の頬が若干の熱を帯びる。それ察したように涼し気な春風が吹き抜け、香取の赤髪を揺らした。

 

 「いいだろ、ここ。静かで」

 

 「…うん、まあ」

 

 ここまで自分を連れてきた京佳の真意が読めず、曖昧な返事を返す。

 香取の力ない返事を気に留めることなく、京佳は世間話を始めた。

 

 「珍しいな、購買」

 

 「え?…ああ、今日はお母さんが体調不良で」

 

 「そうか、大変だな。俺は今日作るのめんどくてな。偶には楽したろ~と思って」

 

 「そうなんだ」

 

 変わらず、元気のない返事。

 そんな香取を一瞥しつつ、京佳は紙パックの牛乳にストローを突き刺した。

 

 「悩みがあるなら聞くぞ」

 

  ズゾゾ…と、コーヒー牛乳を啜りながら告げる。どうにも、真剣に悩みを聞くような態度ではない気がするが、香取にとっては逆にその適当さが何だか心地よかった。

 ……が、言えない。言えるはずもない。

 ただ単に、烏丸兄弟と同じクラスになれなかったから勝手に不貞腐れてキレていただけです……などとは、口が裂けても言えない。

 普段からあまり外聞を気にしない質である香取ではあるが、当の本人にこんな下らない理由を話すなど、流石にできるわけもなかった。 

 

 「……」

 

 「ま、言いたくないなら言わなくてもいいけど」

 

 口を噤んでいる様子を見て、京佳はざっくばらんな口調で言い放つ。

 先程購入した焼きぞばパンの封を開け、大きくかぶりついた。

 

 「俺でよければいつでも相談乗るし、あんま考えすぎんなよ。考えすぎても悪い方向にいくだけ、人生なんかバカでいい加減なくらいが丁度いい……ってウチの隊長も言ってたし」

 

 発言者があまりにもバカでいい加減すぎる、という点には目を瞑って京佳は言った。

 

 「…うん、ありがと」

 

 自分の機微に気づいて、心配してくれるのは…嬉しい。それこそ飛び上がりそうなほどに。

 ただそれと同じくらいに、その優しさが痛い。なにせ、死ぬほど下らない理由で勝手にキレてただけなのだから。 

 自らの幼稚さに大人な優しさが染みて、涙が出そうだった。

 それを誤魔化すように、香取はクリームパンの封を開けて勢いよく齧りついた。

 

 「それにしても珍しいな。あの香取がここまで落ち込むなんてな」

 

 「……あたしだってそういう時くらいあるわよ」

 

 「そうか?あんまイメージないけどな。普段は厚顔無恥が服着て歩いてるみたいな感じじゃんか」

 

 「は!?ちょ、何よ急に!失礼すぎでしょ!今までの優しさはどこいったのよ!」

 

 あんまりな物言いに、香取は思わず立ち上がって叫ぶ。

 炎のような香取とは対照に、京佳は極めて冷静に言葉を紡いだ。

 

 「…って、麓郎先輩が言ってた。"あいつは厚顔無恥の権化みてえなもんだぜ。ほんと華さんとは真逆のタイプだわ"……って」

 

 「なっ……!…アイツ……絶対殺す……!」

 

 部隊員の陰口に怒り心頭である。

 とはいえ、香取も麓郎に対して散々言っているためお互い様ではあるが、そんな理屈が香取に通用するわけもなく。

 よりによって烏丸くんの前で言うなよ!と心の中で叫び、次会ったらシバく!と決意を固めた。

 

 「てか、烏丸くんも本人の前で言わないでよ!デリカシー!」

 

 「はいはい。ごめんごめん」

 

 「むきー!謝罪に心がこもってない!」

 

 カフェオレでパンを流し込みながら、もぎゃもぎゃと騒がしく文句を垂れる。

 そんな香取を見て、京佳は優しい笑みを浮かべた。

 

 「…やっぱ香取は元気な方が似合ってるな」

 

 「はあ?……」

 

 ―あ。

 そこで、気づく。

 

 「……ッ!」

 

 デリカシーの無い物言いも、いい加減な態度の謝罪も。

 全て、普段の香取を引き出すための―香取を元気付けるためのものだったと。

 気づいてしまったら、もう、ダメだった。

 頬が、全身が、熱を帯びていくのを自覚した。

 

 「どうした?」

 

 「……!こっち見んな!」

 

 普段の香取らしく、ツンツンとした態度で顔を背け。

 

 「……ほんとずるい」

 

 頬を撫ぜる風音が、呟きを攫っていった。

 

ーーー

 

 「ていうかさ、なんで太刀川隊なわけ?」

 

 「ん?」

 

 昼食を食べ終えた頃には、香取はすっかり普段と変わらぬ様子に戻っていた。

 いつも通りのぶっきらぼうな物言いで、気になっていたことを京佳に訊ねる。

 

 「他にも誘われてたのに断ってたじゃん。なんで太刀川隊はOKしたのよ」

 

 「あー。まあ、京介の推薦があったってのもあるけど、一番の理由は自由度が段違いだったからかな」

 

 「自由度?」

 

 「そう。高校入ったらバイト増やすつもりだったし、あんま部隊の方に時間割けないかと思ってたんだけど、太刀川隊はシフトやらに融通利きまくるから。ランク戦も忙しかったら最悪休んでいいぞ、って言われてるし」

 

 「は?それ大丈夫なの?」

 

 「大丈夫だろ。あの人らだぞ」

 

 「…まあ、確かに」

 

 京佳の言葉に、香取は瞬時に納得を示した。

 例え京佳が全試合休んだとしても、太刀川隊にはA級1位をキープできる実力がある。そう断言できるほどに、太刀川隊は個々が異常に強い。

 ボーダー個人ランク総合1位、最強の攻撃手たる戦闘狂・太刀川慶。

 射手ランク2位、抜群のサポート力と圧巻の火力を持つ弾バカ・出水公平。

 的確で複雑なオペレーションを難なく熟す、縁の下の力持ち・国近柚宇。

 親が金持ち・唯我尊。

 ボーダーA級1位部隊は簡単には揺らがない厚みがあるのだ。

 

 「そういえば、太刀川隊って最近もう一人増えてなかった?」

 

 「ん?ああ、唯我な」

 

 「へえ、唯我っていうんだ。で、そいつはどうなの。ま、太刀川隊に即入隊ってことは強いんでしょうけど」

 

 「いや~実は困っちゃうくらいクソ弱い」

 

 「はあ?」

 

 香取が大口を空けて声を上げた。

 そんなわけないでしょ、という意を多分に含んだ声音に、京佳は冷静かつ真面目な声音で答えた。

 

 「香取と100本やったら……まあ、98対2ってとこだな」

 

 「いやいや、そんなんB級下位レベルじゃない。そんな奴がA級にいるわけ……」

 

 「……」

 

 「……え、まじ?」

 

 戸惑いながらの問いに静かに頷く。

 

 「なんでそんな弱い奴がA級に!?しかも1位部隊ってなに!?」

 

 「まあ大人の事情ってやつだな」

 

 詳しい事情を説明するのが面倒なので、適当な言葉で答えた。

 

 「なにそれムカつく!絶対あたしの方がA級でも活躍できるのに!」

 

 それに対し、むきー!っとキレ散らかす香取。相変わらずのキレ具合である。

 

 「隊員の価値はランクだけじゃないし、そこまで気にしなくてもいいだろ」

 

 「それはそうだけどムカつくのよ!もぎゃー!」

 

 京佳の言葉は正しい。それは頭では分かっているが、感情が"納得がいかない"と叫んでいるのだ。

 

 「…ま、世の中そう簡単じゃないってことだろ」

 

 このまま宥めても香取の爆発は抑えられなさそうだと判断し、イイ感じに深そうなで耳障りの良い言葉を吐いておく。

 そこでふと時計を見ると、休み時間終了まで残り僅かとなっていたため、京佳は静かに立ち上がった。

 

 「ほら、そろそろ休み時間も終わるし戻るぞ」

 

 「ぐぬぬ……!唯我とかいうやつ、今度会ったら腹いせにボコボコにしてやるわ……!」

 

 「それはいいけどあんまやりすぎんなよ」

 

 態度の大きさやプライドの高さはボーダー内でも最高峰だが、裏腹に打たれ弱いのが唯我尊という男である。香取に完膚なきまで叩きのめされたとなれば、号泣して作戦室に飛び込んでくること間違いなしだ。

 泣きだした唯我は面倒なことこの上ない。程々にしてほしいというのが京佳の本音であったが……香取の様子を見るにそれは叶わぬ願いとなりそうである。

 まあ号泣した唯我は太刀川さんとか出水先輩に任せりゃいいか…と、部隊の先輩に面倒事を押し付けることにした。

 そのまま雑談を繰り広げながら教室へ戻っていくと、丁度教室前に到着した辺りで予冷が鳴った。

 

 「じゃ、また」

 

 「……烏丸くん」

 

 「ん?」

 

 教室へと入ろうとする京佳を香取が呼び止める。

 頬を若干赤らめながら、普段よりも随分と小さな声を発する。

 

 「……その、今日はありがと。今度何かお礼させて」

 

 「気にすんな。全然焼肉でいいよ」

 

 「全然の使い方間違ってるでしょそれ。……ま、全然いいけど。じゃ、またね」

 

 「おう」

 

 最後に挨拶を交わし、2人は分かれる。

 教室への僅かな道のりを歩きながら、香取は独り言ちる。

 

 「ったく、焼肉って……ん?焼肉?…………2人きりで?」

 

 そして、気づく。

 まさか意図せぬところで、次の約束を取り付けることに成功していた。

 京佳は半分冗談のつもりだろうが、言質を取った香取が逃すはずもなく。

 

 「……♪」

 

 イライラが募っていた先ほどまでとは一転、鼻歌を口ずさむ程の上機嫌に。

 雨上がりの空のような晴れやかな表情を見せながら、香取は教室へと入っていった。

第二次 書いて欲しいキャラ

  • 那須玲
  • 熊谷友子
  • 真木理佐
  • かわいいかわいいマリオちゃん
  • 香取葉子
  • 小佐野瑠衣
  • 今結花
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