何だこのアホな小説は…(2回目)
本当に評価や感想ありがたいです。これからも頑張ります
「えー…っと……これはどういう状況…?」
加古隊の作戦室。
ソファに座る綾辻と三上に黒江。腕を組んで立つ加古、なぜかいる太刀川を前にして京佳は困惑を露わにする。
加古に促されるままコタツの前に座ったはいいものの、京佳はここからどうしていいか分からなかった。
「さて…揃ったわね」
加古が腕を組んで仁王立ちしたまま言う。良く通る綺麗な声が響くが、その声音は恐ろしい程に冷たい。
京佳は「また太刀川が何かやらかしたのか?」と予想するが、それならば自分が呼び出された意味がわからない。そしてなぜ綾辻と三上がいるのかも分からない。もう何もかも分からない。
京佳自身が何かをやらかした記憶は無いので本当に謎だった。
「京佳くん」
「は……はい」
加古が口を開く。その圧倒的な迫力に京佳はたじろぎ、小さな声で返事をした。
「京佳くん、太刀川隊に入るんですって?」
「まあ、そうです」
加古の質問に、京佳は短く答えた。
昨日決まり、まだ誰にも話してないことを加古が知っていることを疑問には思ったが、どうせいつかは知られることだ。隠す必要は無い。
ということは、今回はその件で呼ばれたのだろうか?と京佳は予想した。
「ふーん。私たちの誘いは断ったのに、太刀川隊には入るのね?そんなに太刀川隊がいいのかしら?」
どうやら加古は、京佳が自分の誘いを断ったにも関わらず太刀川隊に入ることが気に食わないようだ。
(…あれ、綾辻先輩には誘われてないよな?なんでここに居るんだ?)
三上と加古には誘われたが、綾辻には誘われていないことを京佳は思い出す。もし自分を呼び出した理由が「誘いを断ったのに太刀川隊に入ること」だとしたら、綾辻がこの場にいるのは不自然だ。
しかし、そのことを口に出したところで状況は変わらないだろう。
そう判断した京佳は加古の逆鱗に触れないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「誘いを断ったのは、すみません。ただ、太刀川隊には他のA級部隊には無いものがあったので」
京佳の言う他の隊に無いものとは、遠征に行かなくてもいい、という隊長の許可だ。
以前所属していた隊では、京佳が遠征に行かないと告げたところ、全員で行かないと意味が無いというふうに意見が一致し、遠征を諦めた。
また、京佳は来年高校に進学したらバイトを増やすつもりでいる。今はまだ新聞配達のバイトしかしていないが、更にバイトを増やすとなれば防衛任務とのシフト調整が難しくなるのは目に見えている。
その旨を昨日のランク戦後に太刀川に伝えたところ「バイトが忙しい時は防衛任務に無理して参加しなくてもいいぞ」と言われたのだ。
そういった他の隊にはない、"太刀川隊の自由さ"に京佳は惹かれたのだ。
勿論、兄である京介の推薦もあってこそだが、上記の理由が大部分を占めている。
しかし、その言葉を聞いていた女子達の心中は穏やかではなかった。
「「他の隊に無いもの!?!?」」
「うお…」
京佳の言葉を聞いて真っ先に大声を上げたのは綾辻と三上だ。急に声を上げた2人にびっくりし、京佳は体を震わせ小さな声を上げた。
綾辻と三上が声を上げた理由は、自分達の予想が当たっていたことを確信したからだ。
それはつまり、
「太刀川くん」
「は、はい」
加古が冷たい声音で太刀川に声をかけると、太刀川は小動物のような声を上げた。
「ちょっと、作戦室から出てくれない?」
「は?お前らが呼んだんだ」
「いいから」
「………はい」
あまりにも急な退出要請に抗議しようとするも、加古の笑顔の前では黙るしかない。言葉を遮られ、冷たい笑顔を向けられた太刀川の背筋が震える。
いかにボーダーで1位の実力を持っていようが、今の加古の迫力に逆らえるはずもなかった。
呼び出されたから来たのに、加古の都合で直ぐに帰される。都合のいい女よろしく、なんとも可哀想なことになっていた。
A級1位の隊長とは思えない情けない背中を見せながら、太刀川はゆっくりと退出して行った。
こうして太刀川が退出し、作戦室にいる男子は京佳1人になった。
もはや四面楚歌といえるような状況で、唯一の良心である黒江は京佳に哀れみの目を向けると同時に心の中で謝罪する。
(わ…私が胸の話をしなければ…ごめんなさい、京佳先輩…)
しかし、1粒の良心がいるとはいえこの状況は変わらない。砂漠に1滴の水を垂らしたところで何も変わらないのと同じだ。
京佳は周囲の突き刺さるような視線に何とか耐えつつ、加古の言葉を聞いた。
「…京佳くん、私達に無いものって…何かしら?もしかして、言えないようなもの?」
「え、いや……」
加古の問いかけに、京佳は思わず言い淀む。
京佳が言い淀んだ理由は、太刀川隊に入る理由が女子達に言えない理由だから、というわけではない。
入る理由は全然言える。では何故言い淀んだのか。
それはただ単に、加古達の突き刺すような視線に怯んでしまっただけである。
しかし、そんな事情など知らぬ女子達から見た京佳は「いやらしい理由があるから言い淀んだ」という風にしか見えていなかった。
「そう…やっぱり言えないのね…」
「え、別にそういうわけじゃ」
「いいのよ、京佳くん。京佳くんも男の子だもの。私は気にしないわ」
溜息を吐きながら言った加古の言葉に対して言葉を返そうとするも、加古の言葉によって遮られる。
そして、加古の続く言葉を聞いた京佳は脳内が?でいっぱいになった。
(なんで男の子って言葉が出てきたんだ???)
たしかに京佳は年頃の男子だが、その事と入隊理由に何の関連があるというのか。全く分からなかった。
「ねえ、京佳くん」
「は、はい。なんでしょう…?」
その疑問を口にする間もなく、加古の言葉が紡がれる。
そして次の瞬間に飛び出した言葉は、京佳とってあまりにも予想外ーーというか意味不明なものだった。
「私、大きさはあまりないけれど…意外と形はいいのよ?」
「……は?」
加古の言葉の意味が分からず、京佳はフリーズする。
大きさ?形?何を言っているのか理解できなかった。
完全に思考回路がショートしている京佳を横目に、加古は自分の胸を腕で覆うようにし、続けた。
「京佳くんがウチに入るなら、1回くらいは触らせてあげてもいいわよ?どう?ウチに入らない?」
京佳がおっぱい星人だと思い込んでいる加古が取った戦略。
それは、自分の胸を餌にすることだった。
普段の加古であれば決してこんな作戦を取ることはないが、今は京佳関連の問題でIQが50程下がっている。
故に、このようなアホな作戦に躍り出た。
太刀川隊の国近は胸こそ大きいものの、京佳のファンという訳では無い。京佳に気安く胸を触らせることはないだろう、多分。恐らく。
そう考えた加古は、自らの胸を餌にする作戦を思い付いた。
おっぱい星人である京佳(違う)であれば、必ず食い付くだろうーーと。
まさに自らの身を切る戦略だ。断腸の思いで取った作戦だが、太刀川隊の国近(のおっぱい)に京佳が取られるくらいなら、この程度は痛くも痒くもなかった。
しかし、他の女子達がそんな暴挙を黙って見ているはずもなく……。
「加古さん!それは禁忌ですよ!それなら私だって…その、触らせてあげてもいいです!」
「そうですよ!私だって……この中で一番小さいけど…京佳くんになら…!」
「遥ちゃんの隊はもう満員でしょう?隊に入るのは無理じゃない。歌歩ちゃんも無理しなくていいのよ?」
「確かに満員ですけど…加古さんの暴挙は見過ごせません!そんなことしたら、太刀川隊でも加古隊でも、どちらに入ろうとおっぱいに溺れる生活になっちゃいます!京佳くんには健全な生活を送ってもらいたいんです!」
「む、無理なんかしてないです!私は京佳くんになら…!」
「大丈夫よ、2人とも。京佳くんは私がちゃんと可愛がって大切にするわ。安心して」
「「可愛がるってどういう意味ですか!」」
まさにそこは、カオスであった。
周囲の狂乱に巻き込まれ、あわあわと右往左往する黒江。
全く見当外れの勘違いから、終わりのない哀れな争いを繰り広げる女子。
この世のアホさを全て詰め込んだような光景が、そこには広がっていた。
そんな中、1人の男は僅かに冷静さを取り戻していた。
(なんで胸の話してんだ?…というか、さっきの加古さんの話…大きさとか触るとかってそういうことか?……いや、なんでそんなこと言ってきたんだよ。意味わかんねえ…)
京佳は目の前で繰り広げられるカオスから「おっぱい」という単語を聞き、先程の加古の発言の意味を漸く理解していた。
しかし、なぜそんなことを言ったのかは一切理解できない。というか、どうせバカな理由なのは予想ができているため理解したくなかった。
とはいえ、このままでは自分がおっぱい星人だと思われたままになってしまう。何とかしてそれを避けなければならない。
そのためには、目の前の争いを止める必要がある。この無様な戦争に口を出すのは憚られたが、何とか勇気を振り絞って声を出す。
「あの……ちょっとまだ理解出来てないんですけど…。なんで先輩達は胸の話をしてるんですか?」
「「「え?」」」
京佳の言葉で、辺りが静まり返った。恐る恐るといった様子で、加古が口を開く。
「え?だって、京佳くんは……国近ちゃんのおっぱいが目当てで太刀川隊に入ったんじゃないの?」
その言葉を聞いた京佳は、あまりの驚きに表情を無くす。
色々言いたいことはあったが、真っ先に出てきた言葉があった。
ーーこの人、何を言ってんだ?
ーーー
「というわけで、俺が太刀川隊に入ったのは京介の推薦と今言った理由があるからです。断じて国近先輩の胸目当てじゃありません。分かりましたか?」
「「「……はい…」」」
先程のカオスとは打って変わって、いつもの静かさを取り戻した作戦室。
しかし、静かにはなったものの、そこに広がる光景は見るものが見れば驚愕する光景だった。
立ったまま腕を組む京佳の前に、正座をする女子が3人。
あまりに馬鹿すぎる勘違いをした京佳ファンガール達ーー加古、綾辻、三上ーーの3人だ。
3人は京佳の説明を聞いてやっと自分達の愚かさに気づき、顔を真っ赤に染めたまま俯いていた。
「あの…京佳先輩。最初に胸の話したの…私なんです」
黒江が恐る恐るといった様子で口を開き、京佳が溜息混じりに答える。
「そうかもしれないけど…信じたのはこの人達だから。黒江に責任はないだろ」
京佳の言葉を聞き、黒江はホッとした表情を浮かべた。
黒江は京佳のファンガールではないものの、ボーダーの先輩として京佳のことを尊敬している。時々勉強を教えてもらうこともあったし、黒江にとっては兄のような存在だった。
京佳から見た黒江も「可愛い後輩」であり、黒江と接する際は大家族の長兄である京佳が持つ兄属性が十二分に発揮されていた。
そんな尊敬する京佳に叱られるのではないか…と内心ビクビクしていたが、どうやら杞憂だったようだ。
「ごめんなさい、京佳くん。私達、てっきり京佳くんがおっぱい星人だって勘違いして……」
「いやおっぱい星人って何ですか。どこの星なんすかそれ。あまりにもバカすぎるでしょ」
綾辻が震える声で謝罪してくるも、京佳はおっぱい星人というアホすぎる単語に鋭くツッコミを入れる。
もう色々酷すぎて頭痛がしてきそうだった。
「…とにかく、後で太刀川さんにも謝ってくださいね」
「「「…はい…」」」
とりあえず誤解は解けたようだ。京佳は一安心しつつも、勝手に巻き込まれた太刀川に同情の念を送っていた。
今回の太刀川は完全なるとばっちりであり、普段の行いを加味してもかなり可哀想だろう。
とはいえ、太刀川に対する誤解も解けた。色々あったがようやく解決だ。
厳密に言うと、誤解というよりは3人が勝手に暴走していただけだが、無事解決できたため(あともう色々面倒臭いため)京佳は良しとした。
「じゃあ、俺もう行っていいすか」
「ええ。…本当にごめんなさい…謝っても謝りきれないわ」
「京佳くん、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
3人が一様に頭を下げてくるので、京佳は居た堪れない気持ちになる。悪いのは3人だが……。先輩、しかも女性に頭を下げさせるのは京佳の心が傷んだ。
「お詫びと言ったらあれだけれど…私達に出来ることがあれば言って?何でもするわ」
「私も出来る範囲なら何でもするから!」
「私も…!遠慮しないで言ってね…?」
そんな居た堪れない様子の京佳を前に、加古は平然と告げ、綾辻と三上も肯定する。
年頃の男子相手に「何でもする」と言うのは少し無用心に見えるが、京佳がそういったお願いをしてくる事は有り得ないと3人は分かっていた。
もし万が一、いや億が一そういったお願いをしてきたとしても「まあそれはそれでありっちゃあり」というのが3人の魂胆だった。
しかし、そんなこと当の京佳は知る由もない。顎に指を当てて小さく唸る
「もういいすけど……そこまで言うなら…うーん」
京佳としてはもう気にしてないため、わざわざそこまでする必要は無いのに…というのが本音だったが、折角の申し出を断るのも勿体ない。
こう言ってる事だし、どうせなら何かしてもらおう。
そう考えた京佳は、数秒の思案の後に口を開いた。
「んー。じゃ、今度いいトコの飯奢ってくださいよ。それでチャラってことで。俺もう行きますね、おつかれさまです」
京佳は小さく微笑みながら言い、作戦室を後にする。
そんな京佳の背中を、3人のファンガール(アホ)はぼーっとした瞳で眺め、黒江は小さく手を振って見送った。
京佳が退出したあとの作戦室は一瞬静かになったが、綾辻の発言で先ほどの騒々しさを取り戻した。
「ご飯奢るって…で、デートってことじゃないですか!!!?」
綾辻の発言に即座に反応したのは三上と加古だ。
「あ…!ホントだ…!うそ…私、京佳くんとデートできるの!?」
「…!確かに言われてみればそうね…!あっちからデートに誘うなんて…京佳くんもやるじゃない…!」
ニヤつきそうになる顔を必死で押えながら三上が言い、加古は「ふーん、なかなかやるじゃん」みたいな表情を見せる。
そんな中、黒江はーーコタツの上に宿題を広げ、既にペンを手に取っていた。
こんな騒がしい中で宿題をする度胸。既に大物のオーラを漂わせている。
「そうね…まず、いいトコのレストランで食事をするじゃない?その後は…」
「え!?加古さん…それはアウトですよ!そうよね、歌歩ちゃん!?」
「そうです!まだ20歳になってないのにそういうのはダメです!!」
「あら、何がダメなの?互いに合意の上なら…」
「「そういうことじゃないです!!!」」
周囲のアホな喧騒に紛れ、黒江はひたすらに問題を解いていく。
そして、心の中で大きな溜息を1つ。
ーー入る隊、間違えたかも…と。
それと同時に、ボーダーの女子って皆こんなにアホなの?という不安が襲う。
自分は絶対あんな風にはならない、黒江はそう覚悟を決めた。
次回、二宮隊
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