今回で唯我を出そうと思ってたのに長くなりすぎるから2話に分けることになるなんて…
三門市内にある焼肉屋。
その一角で4人の男女がテーブルを囲んでいた。
その中の1人、顎髭を生やした青年がグラスを手に取って立ち上がった。
「え~それでは…京佳の入隊を祝して…乾杯!!!」
「「「かんぱ~い!」」」
彼らはボーダー本部所属・A級1位太刀川隊。
本日彼らは、京佳の入隊手続きが正式に完了したことを祝して歓迎会を開いていた。
そんな中、本日の主役である烏丸京佳はグラスに注がれた烏龍茶をちびちびと飲みながら口を開いた。
「なんか…いいんすか?こんなに高そうなお店…」
京佳は周囲を見渡し、そわそわしながら不安そうに言う。
京佳の家は貧乏であるため、こういった高そうな焼き肉店に来るのは初めての経験だった。
といっても、この店はボーダーの隊員が良く通う店であり、超高級というわけではない。一般的なチェーン店よりも少し高い程度だろう。
しかし、京佳からすれば”焼き肉”という単語だけで全てが高級に見えてしまう。故に落ち着かず、柄にもなくそわそわしていた。
そんな京佳の様子を見た出水が口を開いた。
「大丈夫だから気にすんな!今日はお前が主役なんだから遠慮すんなよ!どうせ太刀川さんが全部払うんだし!」
「はっはっは。そうだぞ京佳。俺が払うから好きなもん頼め!今日はみんなで旨いもん食うぞ!」
「ひゅ~!太刀川さん、太っ腹~!」
「そうだろ国近、もっと俺を褒めろ!」
「いえ~!太刀川さんのあごひげ~!」
「だろ~~?……ん?それ褒めてんのか?
「太刀川さん、ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく…」
出水の言葉に、太刀川が気分良さそうに反応する。国近と太刀川がコントを繰り広げている中、京佳は素直に感謝の言葉を口にした。
太刀川は日常生活こそアレだが、こういったところでの懐は広い。
流石は大学生…と京佳が素直に感心していると、隣に座る国近がメニューを見せてきた。
「京佳く~ん、何食べる?ご飯食べる派?」
京佳はメニューを見た瞬間に困惑した。
(…肉ってこんなに種類あんの?ランプとかギアラとか聞いたことねえ…。黒毛和牛!?実在したのか...)
ワクワクと興奮からニヤケそうになる表情を必死で引き締めながらメニューを眺める。
ここでニヤケてしまっては先輩方に子ども扱いされ、今後甘やかされてしまう可能性が高い。それは避けなければならない。
別に甘やかされるのが嫌というわけではない。むしろ、大家族の兄として生きてきた京佳は誰かに甘えたいという欲は強い方だ。
では何故甘えないのか。そこには深く複雑な理由がある。
ーーそう、恥ずかしいからだ。
京佳は大人びているように見えて年頃の男子。誰かに甘えるなど恥ずかしくて出来るはずがない。
故に、京佳は自分の浮かれ具合を隠していた。
しかし、そんな京佳の様子を見て他の3人は全員同じことを思った。
(((あ…めっちゃワクワクしてる…)))
つまるところ、京佳のワクワクは抑えきれず微妙に溢れてしまっており、他の3人は全員それに気付いていた。
普段の凛々しい態度から一転、年相応の子供らしさをみせる京佳。
そのギャップに国近は母性を搔き立てられ、出水と太刀川は慈しむような瞳で京佳を眺めていた。
「あ、ご飯食べたいです。あと…この高そうな肉、食ってみたいです」
数秒後、京佳が指したのは如何にも高そうな雰囲気を漂わせた霜降りの肉だ。
こんなに良さげで美味しそうな肉を食べる機会は今までなかったため、溢れ出そうになるワクワクを抑えながら平静を装って答えた。
しかし、溢れ出るワクワクは抑えきれない。そんな様子を見て心を動かされた3人は、京佳に美味しい物を食べさせるため各々のおすすめをプレゼンする。
「お、京佳くんセンスいいね~。あ、あとこれも美味しいよ?一緒に食べよ~」
「これもおすすめだぞ。歯ごたえあって旨いぜ」
「京佳、俺のおすすめはこのタンだ。食ってみろ」
今日の集まりの主役は京佳であることに間違いはないのだが、”京佳と美味しい物を食べる会”ではなく”京佳に美味しい物を食べさせる会”に変貌してしまっていた。
ただまあ、本人たちは楽しそうなので良いだろう。
注文を終え数分後、頼んだ飲み物や肉が届いたので、4人はわいわいと楽しそうに話しながら肉を焼き始める。
「京佳くん。これもう食べれるよ~」
「ありがとうございます」
国近がいい焼き加減のタンを京佳の取り皿へと乗せる。京佳はタンをレモン汁に付け、白米と一緒の頬張った。
「どうだ、京佳?美味いか?」
「まじ旨いっす」
太刀川の質問に京佳は微笑みながら答える。
その微笑はあまりにもイケメンすぎたため、国近のみならず太刀川と出水でさえ少しドキドキした。
「ほら、京佳。カルビもいけるぞ」
「京佳、これも食え」
「あざす」
「京佳くん、これ食べる〜?」
「ふいふぁふ」
出水と太刀川が続けて京佳の皿に肉を乗せる。
京佳がそれを口に入れ美味しそうにモグモグしていると、口に肉が入った状態で国近に話しかけられ、もごもごと返事をした。なんて言ったいるかわかりづらかったが、国近は分かったようなのでいいだろう。
後輩が隊を抜け寂しがっていた3人の下に現れた新たな後輩。可愛い後輩が出来た3人のテンションは明らかに上がっていた。
3人は肉を焼き、良い感じに焼けた肉を京佳へと与える。年上風を吹かせ、京佳を存分に甘やかしていた。
一方で、京佳も甘やかされるのは…まあ甘やかされたいとかは無いけど…別に嫌じゃないっすけど?という感じの為、両者winwinの関係が成り立っていた。
入隊祝いーーという名の京佳を甘やかす時間ーーはどんどんと過ぎていき、お腹も少し膨れてきたなというタイミングで、太刀川が思い出したように口を開いた。
「ああ、そういや…もう1人新人が入るらしいぞ」
「新人?ウチに?」
出水の質問に、太刀川は「ああ」と短く頷く。
「そんなの今聞きましたよ。てか、らしいってなんすか。会ったことないんすか?」
太刀川を除く3人が同じ疑問を思い浮かべており。それを出水が代表して口に出した。
「ないな。まーあれだ。上からのあれで、ウチに入れろって指示なんだよ。なんでも大手スポンサーの御曹司だそうだ。確か京佳と同い年だぞ」
「へ~。お金持ちのボンボンってこと?」
太刀川が肉をトングでひっくり返しながら出水の質問に答えると、国近が塩キャベツをむしゃむしゃしながら反応した。
「まあ、そういうことだな」
「金持ちっつーと…なんとなくいい奴そうな気がしますよね」
「確かに。来馬さんとか小早川さんとか、性格良くて朗らかな人ってイメージあるっすね」
出水と京佳は新人の人柄を予想する。そこで思い浮かべたのがボーダーにいる金持ち、来馬と小早川だ。
来馬は鈴鳴支部の隊員であり、実家は鈴鳴支部のビルを1棟丸ごと無料でボーダーに譲渡するほどに太い家である。
来馬自身は金持ちながらも、それを誇示するようなことは一切しない。他の追随を許さない圧倒的な優しさと溢れ出るイイ人オーラが凄まじく、”ボーダーの仏”という異名が付くほどだ。
小早川も金持ち…という言葉が霞むほどのガチのお嬢様であるが、性格はおおらかで優しい。噂によると怒らせたらヤバいらしいが、この面子で小早川を怒らせた人間はいないため真偽は知る由もない。
この2人のせいで、出水と京佳は金持ち=優しいというイメージを持ってしまっていた。
そんな京佳らの反応を見た太刀川は、首を傾けながら唸る。
「ん~どうだろな。A級に入れろっていったのはそいつらしいし…分からんなぁ」
「ん~?つまり、ボンボン君が”自分をA級に入れろ!”って無茶言ったわけ?」
「ま、たぶんそんな感じ。なんでウチの隊なのかは知らん」
太刀川の話を国近が要約する。その話を聞いていた京佳は、肉を食べる手を止めることなく言った。
「つか、よくそんな話通りましたね。普通無理でしょ」
「まあ、大手スポンサーの御曹司だからなあ…。上も断れんかったんだろ」
「それを自分でわかってて言ってるとしたら、そいつ結構性根が曲がってそうっすよね」
太刀川と出水の言葉に、京佳は頷く。
あくまで推測でしかないが、もしそうだとしたら確かに性格は宜しくなさそうだ、と。
そいつの性格がどうであれ上手く付き合っていく自信が京佳にはあったため、特に気にする必要はないのだが。
太刀川と出水、国近も同様のため性格云々について特に気にしている様子はなかった。
「ま、実際会ってみないと分からないでしょ~」
「そうすね」
「…京佳?お前まだ食うのか?」
国近が力の抜けた声で言い、京佳が短く相槌を打つ。その間も、京佳の箸とトングは止まらない。箸とトングを巧みに使い分け、ひたすら肉を焼いては口に運ぶのを繰り返している。
先程からずっと食べ続け、尚且つペースが一切落ちていない京佳を見て、出水が心配そうな声を上げた。お前、そんな食って大丈夫か?ーーと。
そんな出水の心配など露知らず、京佳は微笑みを携えたまま左手の親指を立てた。
「もちっすよ」
「あ、そう…。まだ食うか?食うなら頼むけど」
「食います。なんでも食うんでお任せで」
「お、おう…」
食い気味な京佳の反応に若干たじろぎながら、出水はメニューを開いた。
結構満腹に近い状態だった出水も、パラパラとメニューを捲って肉の画像を眺めていると”まだいけるかもな”という気持ちになってきた。
京佳に触発されるように、出水の食欲に再び火が付いてしまった。
「あ、出水くん!私抹茶アイス食べたい」
「柚宇さんは抹茶アイスっすね。太刀川さんは?」
「いや、俺は腹いっぱいだ」
「おけっす」
一旦は一段落したが、再びメニューの吟味と注文が始まった。
わいわいと中高生3人が楽しそうに話す中、唯一の大学生である太刀川は遠い目で窓の外を眺めて黄昏ていた。
太刀川は中高生たちの食欲に内心ビビりながら、自身の財布の中身を必死に思い出していた。
太刀川が黄昏ている理由。それは持ってきた現金で会計が足りるかどうか微妙だからだ。
中高生の食欲ーー特に京佳ーーを完全に舐めていた太刀川は、先日財布の中を見た際の記憶を頼りに「まあ、足りるだろ」と判断し金を下ろしてこなかったのだ。
しかし太刀川の記憶は曖昧で、財布に何枚諭吉がいたかはうろ覚えだった。なぜ確認しなかったのだろうか。
ここで確認して下ろしに行くなりすれば解決するが、ここで財布を出して確認するのはダサいので嫌だった。
そのため、太刀川がとった行動はーー自分は追加注文せず少しでも安く済ませることだ。実際、腹は膨れているため食べなくても問題はない。
この場で自分にできることを最大限やり遂げた太刀川は、神に祈る。
ーーーどうか、足りますように…と。
ちなみに足りなかったので出水が2000円出した。
ーーー
京佳の歓迎会の翌日。
太刀川隊の作戦室に、現在の太刀川隊メンバーである4人が集結していた。
4人は作戦室のロビーに集まっており、ソファやクッションに座ってだらけていた。
国近はクッションに座りゲームのコントローラーをポチポチし、太刀川と出水はソファに座ってぐだぐだしており、ゲームに励む国近の背後には京佳がいた。
京佳は国近のすぐ後ろで、モフモフと大きなカー○ィのぬいぐるみに頭を突っ込みうつ伏せで爆睡している。
作戦室内は、これから新人を迎えるとは思えない雰囲気を漂わせていた。京佳にいたっては寝ているため迎える気0である。
ちなみに京佳が顔面を突っ込んでいるカー○ィのぬいぐるみは、国近が入隊祝いでプレゼントしたものである。
プレゼントに顔を思い切り突っ込んでるのはいいの?と思うかもしれないが、当の国近は「こんなイケメンに顔を突っ込んでもらえてカー○ィも幸せだね~」とか思っているから、まあいいんじゃないだろうか。
「なんつー寝方してんだよ…」
そんな奇天烈極まりない京佳の寝相を見た出水が小さなツッコミを零す。
それに反応したのは、同じソファでだらけていた太刀川だった。
「まあ、今朝も新聞配達だったらしいし。疲れてんだろ」
「いや、それは知ってますけど…息苦しくないんですかね?」
「いいんじゃないか?ほら、幸せそうな顔してんだろ」
「いやその言い方死んでるやつですから。てか今顔見えねえし」
出水と太刀川がミニコントを繰り広げていると、ゲームの画面をポーズ画面にした国近が振り向いた。
「あはは、確かに息苦しそ~」
国近は笑いながらコントローラーを床に置き、体を90度回転させて女の子座りになる。
カー○ィのぬいぐるみに国近の足がくっついたのを確認すると、国近はうつ伏せで爆睡する京佳の両肩を掴んだ。
「えいっ」という可愛らしい声と共に京佳の体がひっくり返り、京佳の淡麗な顔面とカー○ィが離れた。
「ふふ…すっごい寝てるね~。さ、ゲームしよ」
その様子を太刀川と出水は絶句した。
女子が男子の体を軽くひっくり返しているが、そのことに驚いたわけではない、
国近は今、オペレーター用のトリオン体に換装しているため、腕力は一般人より遥かに強い。むしろ生身の男子くらいひっくり返せて当たり前だ。
太刀川と出水が驚いたのは、京佳の頭が目を疑う場所に着地したからだ。
京佳の後頭部が着地したのはクッションでも床でもない……国近の太ももだった。
世間的に言う”膝枕”の状態になっているが、国近は何事もなかったかのようにコントローラーを手に取り、上半身を少し捻って目線をテレビに向けた。
そんな様子を見ていた2人の男は…驚きのあまり口を開けてポカーンとしたままフリーズしていた。
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