【完結】フィジカルお化けおじさん、異世界へ行く3 作:タラバ554
戦場は膠着していた。
ロキファミリアとフレイヤファミリア。
オラリオの主力2大戦力を集めて尚、圧し潰せない相手。それが落ちた精霊の本体だった。
オッタルがフィールドの氷を踏み締め、一瞬の踏み込みで距離を潰した勢いのまま右手に構えた大剣が上段からの振り下ろしでモンスターの皮膚を割き、続く左手の大剣がモンスターの振り向きざまに繰り出される左腕のカウンターを受け止め。
長い時間の中でやっとマトモに入った一撃。たまらずと言った具合にモンスターの咆哮が冒険者達の鼓膜を震わせる。
『グォオオオーーー!』
オッタルの作った隙を見逃さず、
それに対抗する様に動くのはロキファミリア一の速度を誇る
一撃の大きさを持つ雄と速さで視界の中でウロチョロと動く雄2匹。
鬱陶しい! と言わんばかりにモンスターが両手を広げて前方へと突進、と共に背中から生える触手が一度に咲き乱れ周囲の
触手の動きはある程度成功し狼を捕食は出来たが冒険者の方には避けられてしまう。
そして突進の方は横合いから来た
突進を邪魔する膂力に少なからず驚きの感情が生まれるが、それ以上に攻撃を邪魔された事に怒りが湧く熊型のモンスターは邪魔をしてきたモノに転がった姿勢から更に突進を慣行してみせた。
「んなっ!?」
それに驚愕したガレスは避けるのは不可能と両手に持った斧を固めて正面から受けるが、相手の質量と速度に負けて吹き飛ばされてしまう。
攻撃後の隙へすかさず襲撃をかけるアイズとティオナ・ヒリュテ、ティオネ・ヒリュテのアマゾネス姉妹。
ガレスが抜けた穴を埋める様に飛び出した三人がアイズを先頭に流れる様に攻撃を仕掛け顔、腕、足を中心にそれぞれが責め立てる。
そして近距離で触手を切り払いながら機会を伺っていた
「永争せよ、不滅の雷兵 【カウルス・ヒルド】」
短文詠唱により彼の身体を巡っていた魔力は人の頭部程の雷という形に変わり熊型モンスターの背中を撃ち、雷による一瞬の麻痺を敵に与える。
またその隙を見逃さずに連続して詠唱が行われる。
「永伐せよ、不滅の雷将 【ヴァリアン・ヒルド】」
唱えるとほぼ同時にダンジョン内に鳴り響く轟音と稲光。下手な者がモンスターの周囲に留まればそれだけで二次被害が出かねない程の高威力且つ、待機時間の短い魔法行使。
ロキ、フレイヤファミリアの第一級冒険者はソレを見事に見切り、すり抜け、直後に攻撃をしてみせた。
モンスターの横合いから両手剣の二刀を救い上げる様に切り上げ剣戟の雨霰を降らせるオッタル。
一撃離脱でモンスターの毛皮という装甲を剝いでいくアレンとヴェルフ。
アイズが敵の顔を攻撃する事で集中力を、ヒリュテ姉妹が手足を攻撃する事で機動力を削いでいく。
そんな中、
「ヘグニ! いい加減に魔法を使え!」
「えっ、いやぁ……アレあいてにはちょっと」
「いい加減にしろ! そんな事でフレイヤ様のご命令に背くつもりか!」
「そんなつもりは無いが……」
「だったらさっさとヤれ!」
そう激を飛ばされヘグニ・ラグナールは覚悟を胸に
「抜き放て、魔剣の
唱えた瞬間、大きな笑いと共に黒い影がモンスターへと襲い掛かる。
「ゲハッ、ゲハハハハ‼‼ この毛玉野郎がぁ~、生意気に障害面してんじゃねぇ‼‼‼」
爆発的なスピードでモンスターまでの距離を潰し、黒の長剣でモンスターの目を潰しにかかる。
モンスターからすれば優先度の低かった存在が急に攻撃を仕掛けて来て思わずギョッとして身体が硬直してしまった。
そして人格改変魔法を使ったヘグニはそんな一瞬の硬直を見逃さない、猪突猛進、もしくは自暴自棄とも呼べる防御を考えない攻撃を連続で仕掛ける。
その間も他の冒険者の攻撃は続いておりヘグニの生んだ隙は他冒険者の攻撃のチャンスへと繋がり更なるチャンスを生んでいく。
身体に着く細かい傷にモンスターの口から零れる雄叫び、攻撃の手を休める事無くヘグニの口から更なる呪文が紡がれる。
「永久(とわ)に滅ぼせ、魔の剣威をもって 【バーン・ダイン】‼‼」
人格を変えた事により意気衝天のヘグニはモンスターの横っ面から効果範囲は短距離ながらも威力は折り紙付きの爆炎魔法を叩きつける。
大きく揺らいだモンスターを見てフィンの知略がPTの行動を加速させ、
「炎と雷の魔法を中心に立ち回れ! アイズは風でソレ等の補助を!」
冒険者一同の攻撃は速度を増し、より苛烈なモノへと変わっていく……それでも尚陥落する気配が無い。ソレが精霊を抱えたモンスターの持ち得る戦力。
一撃が重く、まともに受ければ戦線離脱は確実。
受け止めて動けるのはガレス位のもので、そんなガレスですら正面から受ければ今の様に回復が必要になる。
千日手になりつつある戦場に空から英雄擬きが降って来る。
「バレットストライク‼‼」
両の拳に緑の
数十の乱打を受けて怯む熊型モンスター、その隙に着地して距離を取るおじさん
改めて目の前の熊型モンスターを見て大きさを実感する。
二階建ての家屋に届く程の高さ、背後から伸びる無数の触手、両の腕は成人男性の身体よりも大きく、鋭い爪は雑に振るだけで人体等簡単に引き裂く事が想像できる。
あぁ、モンスターは恐ろしい。簡単に人の命を奪う事が出来る魔獣。
そして少し視線を下げればモンスターの腹に抱えられた氷柱の中の人物と目が合う。
長らく欲しかったプレゼントを見つけた子供の様に、ギラギラとどす黒い感情を隠す気も無く此方を見る精霊。
自身を覆う氷柱の淵に手を当て狂気に染まった笑みを浮かべる。
それに呼応して吠える魔獣。
それと同時に聞こえてくる精霊の声。
『ソレ……頂戴?』
魔獣の声よりも遥かに小さいその声は、戦場に居る者全員が聞こえた。そしてその声に乗る感情は狂気。
奈落の底に堕とされ、温もりを欲し、太陽に焦がれ、狂いから何を置いても、周りにどれだけ被害が出ても厭わない、そんなモノを感じる余裕の無い精霊の狂気が声を伝って冒険者の脳を犯す。
冒険者の身体が強張る一方、おじさんはその狂気を正面から受け止めていた。
おじさんの根っこの部分、普段は表に顔を出す事の無い部分が彼女の言動を理解している。
彼女は彼女でないけれど、それでも近しい者として大人として、男としてという覚悟が湧いてくる。
仮面で決して外からは見えないが、声が届いた者には笑みを浮かべている顔が想像出来た。
「応、利子付きで渡してやるよぉ……その代わりお前さんはおじさんのになるけどなぁ!」
両の拳を打合せ緑の火花が飛び散り自身を鼓舞する。
次の瞬間、氷を踏み砕いて瞬間移動と見まごう跳躍からの乱打が堕ちた精霊を抱えたモンスターとの第二ラウンドを告げる事となった。
第一級冒険者達が挑む堕ちた精霊
攻めきれず千日手になりつつあった戦況
現れたおじさん
おじさんの目的は達成できるのか
次回、おじさんの舞台2