【完結】フィジカルお化けおじさん、異世界へ行く3 作:タラバ554
おじさんは跳んだ。
普段なら全体を俯瞰して見た後に何処に跳ぶかを決めて飛ぶ。
割とランダムに跳んでる様に周りからは見えるが、実はきっちりコントロールして跳ね回ったりしている。
とはいえ初めからではなかったが……それはさておきコントロールするのは性格的に慎重な部分や、仕事の際に求められる正確さ等から来るもの。
だが今この時はそういったモノが頭から消えていた。
良く言えば覚悟を決めた。悪く言えば何も考えてない。
本能のままに全力の踏み込みで跳躍する。自分の身体を弄繰り回して強化を図っても行動という意味では自分の思い描いた冒険者像に届かなかったおじさんだが、この瞬間の動きは正におじさんが思い描いていた冒険者像と重なっていた。
これは非常に単純な話なのだが……今までは余分な脂肪が多くて理想通りの動きが出来なかったのだ。
しかしアスフィの完成させた「魔力双方向の循環とストック」が可能なシステムがおじさんから余分な脂肪を取り除いた。
今まではスキルの発動材料として、また防御に直結するモノとして蓄えられていた脂肪はそのナリを潜め腰に装着されたベルトが唸る。
さながら呪いのアイテムを外した、縛りプレイを止めたプレイヤーの如く、普段のおじさんを見ていた人物が居れば動きのキレがまったく違う事に気が付いただろう。
両の手に再度チャージされたオーラ(魔力)を再び振り抜く。
振り抜く度に削れていく熊の肉。
ヘイトを集めるためか防御を捨てて殴り続ける。
当然ながらその間も他の冒険者からの攻撃は続く。
今までの攻防で毛皮が剝がされていた事も功を奏しておじさんの攻撃は熊に当たると当てた分だけ身を削っていく。
まるで弱点を突かれたように。
熊の意識がおじさんに向いてる。フリーになった冒険者は当然ながら最大級の攻撃を仕掛ける。
各々の持つ最大の火力が正面から対峙しているおじさんの反対側……つまり熊の背中へと命中していく。
その攻撃は熊の触手を砕き、毛皮という鎧を剥ぎ、肉を削り、骨にまで達する。
だが熊型のモンスターの視線は依然おじさんに向き、振るう手も同様におじさんへ向いている。
それと対峙しているおじさん、勢いで押していたが実情としては押されている。
簡単に説明するなら一撃死式高難易度ハードモードプレイ。
少なくとも熊の爪が頭に当たれば柘榴の様に破裂した脳が辺りに飛び散りスキルでの復活も無理だろう。
それ故に頭に食らう事を避けつつ、可能な限り避けながら攻撃、被弾したら回復。
この行動が最低限。
自分の理想とする動きが出来ているおじさんだが、それでも尚攻撃を当ててくるモンスター。
おじさん自身を囮にして他への注意を減らすという目論見は見事に的中したが……想像していた以上にモンスターから注視されていて対応が間に合わない。
特に攻撃に利用していた両腕の損耗が激しい。左1回、右が3回。
相手のカウンターで肘から先をもぎ取られた回数。
涙が出る程痛いがストックされている魔力を消費して再生。同時に装甲も合わせて再生されるが当たり所が悪いと再生した装甲ごと腕を持っていかれる。
そして何より警戒しなければいけないのが口だ。
左右の攻撃よりも上から降り注いでくる牙、ソレに捕まれば身動きを封じられたまま両の手で拘束され文字通りおいしく頂かれてしまうだろう。
前後左右上下と出来る限り敵の向きを変えない程度に動きながら攻撃を続ける。
既に戦闘開始から30分以上経過している中、極まった覚悟とアドレナリンから来る高揚感に凄まじい集中力、更には普段とは違う引き締まった体型は堕ちた精霊との戦闘でも遅れを取る事は無かった。
だが極度の集中とは当然ながら長時間は続かない。
切っ掛けは一つの攻防から。
熊の攻撃を四肢を地面につける事で身を沈めて避け、沈んだ反動で熊の右側頭部まで跳躍。体の捻りを加えながら踵落としを繰り出した時だ。
頭に入ると思われた蹴りは熊の口の中から突如現れた触手に絡め捕られた。
背中の触手は相変わらず他の冒険者の攻撃で再生と切断を繰り返している。恐らくこのモンスターの奥の手と思われる触手はおじさんの意識外の攻撃として成立し足を絡め捕られてしまう。
驚きに身が固まった一瞬。その一瞬は目の前の怪物相手にはとても致命的な一瞬だった。
物の様に振り回され氷の大地に叩きつけられる。更に体にかかるGは体中の血を一瞬で頭に送り、体に襲い来る衝撃と共に仮面の中で鼻血や吐血、血涙として流れ出てくる。
尚も熊の怪物は攻撃の手を止めない。
首の動きと連動して触手でおじさんを振り回し、叩きつけ、散々地面を崩した後におじさん自身を武器として冒険者に振り回した上で上空に振り上げてから地面に叩きつける。
そこからの突進。
これはマズイと周りの冒険者が止めに入るがガレスに一度邪魔されて学んだのか最初に見せた突進よりも遥かに速度と威力が出ている。
勢いを殺す事無くおじさんが居た場所へ両の腕が振り下ろされ、大地は割れ、空中には氷の粒が舞い散る。
舞い上がった氷の煙を突き抜ける様にして跳躍で熊との距離を取るおじさん。
着地するも踏ん張りが上手くいかず後ろへ跳んだ勢いのまま地面に転がる。
おじさんの右腕は圧し折れ、右の腹は爪で抉られ、左脚は足首から先が無い。
血の匂いを嗅いだからか、戦闘の興奮からか熊のモンスターは大きく吠える。
周りもマズイと思ったのか一斉に攻撃を仕掛けるが相変わらずモンスターは周りを無視しておじさんに突っ込んでいく。
どうにか立ち上がろうとスキルによる再生を試みるが再生が間に合わず不完全な回避も空しく、熊の両の爪を胴体に受け体は泣き別れしてしまう。
「げぁっ」
攻撃の反動で跳ぶおじさんの上半身に周りの冒険者の動きが止まってしまう。
熊型モンスターもソレを視線で追い、追い打ちをかけるべく足へ力を入れた時、顎を下から蹴り上げられた。
何事かと視線をやれば下半身のみで動くおじさんの脚。
今度はモンスターが驚愕で固まる番だった。
下半身は一度着地後、再度飛び上がり再び熊の顎を膝蹴りでカチ上げてから熊の体を足場に上半身の方へ跳んでいく。
着地後に今度はおじさんの上半身が自分の腰を掴んで上へと収まると胴体が生えて上半身と下半身が繋がった。
その光景に冒険者、モンスター共に驚きで動けず、フィールドとは別の意味で場が凍っていた。
「ふー、死ぬかと思った」
「「「「「(いや、死んで無いのかよ!!!!)」」」」」
その場にいる全員(人、モンスター)の総意である。
死んだと見せかけて生きてるおじさん(実は1死)
攻撃は苛烈さを増していく
次回、おじさんの舞台3