【完結】フィジカルお化けおじさん、異世界へ行く3   作:タラバ554

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116 おじさんの舞台3

敵を警戒しながら自分の腹を撫でてみる。骨、肉、臓器ときちんと繋がっている。

装甲も戻りつつあるので継続戦闘も問題無さそうだ。頭を切り替えて再度熊へと突っ込んでいく。

 

先程の二の舞にならないように今度は口からの触手も警戒しながら。

一死でちょっと頭が冷えた。

なのでモンスターの挙動をよく見る。集中して見て……挙動から予測しあて避ける。

 

避ける際も今までのスーパーボールの様な避け方から滑るように。

 

体全体を利用しての全力移動から瞬間的な加速によるステップ避けへ、ステップ避けと言いながらそのワンステップで5メートル程移動しているのは安全マージンを取っているからなのか。

避ける度に段々と爪が届かない最適な距離に近づいて行く。

 

おじさんが距離を測っている時も状況は変わっていく

モンスターの背は骨まで達する傷が徐々に癒えて行く。冒険者の攻撃は続いているのに。

 

流れる血は止まり、周囲の肉が蠢く。

傷口を覆う様に肉が移動し癒着。凄まじい速度で皮膚で覆われ体毛が生えていく。

おじさんが距離感を掴むころにはモンスターの腹回りに蓄えられた脂肪はスッキリとしてシェイプアップされた形で万全な状態になっていた。

 

「あらまぁ……ダイエット凄いですね」

 

シェイプアップされた体が思いのほか良いのかモンスターの動きが更に俊敏になる。

環境的に皮下脂肪が必須であろう目の前の怪物がソレを捨てて活動を開始した結果、更なる戦力増強が行われた。

こうなると第一級でもモンスターの速度に着いて行くのが難しくなる。

速さがウリのヴェートやアレンは対応出来るが、モンスターの背から再び生えた触手は切り落とされる前のつるりとした肉色の触手ではなく、幾分太く、厚い毛皮に覆われた尻尾の様なモノに変わっていた。

結果として素早く動ける二人の攻撃に対応が可能なソレ等は冒険者達の攻撃の機会自体を減らしていく。

 

そんな事が裏側(物理)で起こっていたがおじさんがソッチに構う余力は無かった。

何故なら前面にも触手が生えて来たからだ。

 

「ちょぉ!?」

 

またもや予想外の事に冷静になっていた脳みそはフリーズしてしまった。

結果避けるのに失敗してしまう。

 

「げぺっ!! ……ぃっ、くおらぁ!!!」

 

思わず【トラベラー】で丸盾とポーションを取り出してポーションの中身を腹にぶちまけながら、盾の淵を使って触手を切断する。だが先ほどの触手攻撃で腹肉と臓器を装甲と共に食われてしまった。

今までは攻撃一片だった相手が自分を捕食対象と見なした事にちょっと背筋が冷える。そしてモンスターは激しく震えたと思ったら触手がVerUPした。

 

「「「「「は???」」」」」

 

毛皮は更に装甲に覆われ、牙が生え、本数が増えた。

 

「おめーも身体自由自在かよ!」

(((((お前が言うのか?)))))

 

周りから何か言いたそうな目線が来たが知らん知らん。

避けるのは当然として、触れるのもヤバそうなのでおじさん棒……如意金剛も取り出し触手を捌く。

盾で防いだり流したり、如意金剛で弾いたり飛び跳ねたりと雑技団の様な動きをしながら触手を避ける。

こちらが状況に対応してきたと思えばあちらも対応し始めた。

迫りくる触手はただ突っ込んで来るだけではなく、時折自身をブレさせておじさんが捌くのを邪魔し始める。

そしてこの触手、どうやら熊が操るのとは別に()()()()()()()()()()()

 

熊野郎の目線である程度距離やら方向を察知してたのにソレとは全く関係ない方向から来る触手がある事に気が付いた。

よくよく見れば腹の氷柱に収まった女の目線に合わせて動いている触手が数本ある。

気付くまでに数回身体をえぐり食われたがどうにか持ち直してる。

 

……持ち直してると良いなぁ……さっきから再生が鈍い。脂肪の量で魔力残量を把握してた癖がここで裏目に出てくるとは。

 

魔力残量の不安、長時間の集中、激しい運動が続き集中力は削られる。更に注視すべき対象が熊本体、触手に加えて腹に収まっている精霊の視線にも注意を払いだすと……。

 

「いっだっ!」

 

当然ながら対応が追い付かない。おじさんの集中力に終わりが訪れようとしていた。

 

段々と被弾が増えていく中、おじさんの意識は次の段階へ以降していた。

おじさんの知る中で一撃の火力の最高峰、そのチャージ音は貯めている彼から離れたこの戦闘場所までも鳴り響き始めた。

ならばここしかない。と、おじさんは詠唱を始める。

 

「火よ、来たれ──

猛よ 猛よ 猛よ 炎の渦よ 紅蓮の壁よ 業火の咆哮よ 突風の力を借り 世界を閉ざせ 燃える空 燃える大地 燃える海 燃える泉 燃える山 燃える命 全てを焦土と変え 怒りと嘆きの号砲を 我が愛せし英雄の命の代償を──

代行者の名において命じる 与えられし我が名は火精霊(サラマンダー) 炎の化身 炎の王──

【ファイアーストーム】【コンプリート】」

 

本来、宙から炎を纏った多数の巨岩を降らせる魔法はその成りを潜め……否、広範囲に渡り破壊を振りまく威力を圧縮しておじさんのベルトへと吸い込まれる。

一つ目の魔法が上手い事ベルトへ装填された事で一瞬気が緩んでしまい、顔面への触手攻撃を食らい仮面の一部が割れ、頭血を流すおじさんの顔が露出するが詠唱は止まらない。

 

「突き進め 雷鳴の槍 代行者たる我が名は雷精霊(トニトル) 雷の化身 雷の王──【サンダー・レイ】【コンプリート】」

 

頭への攻撃は脳を揺らし、前後不覚に陥る。詠唱が止まらなかったのは単に意地で詠唱を……という訳ではなく、本来放たれる魔法をベルトに無理矢理収めるコンプリート状態を長く維持出来ないのと、そのまま放置すれば所謂魔力暴走が起きるというデメリットもある為だ。

なので無理やりにも()()()()()()()詠唱を完成させる必要があった。

 

衝撃にふら付く頭、血が目に入り霞む視界が動きを鈍らせる。

三度突進してきたモンスターを避けるべく足に力を入れて飛び上がるが、突進中の熊の目玉の奥、頭蓋を突き破る勢いで咲き乱れた触手の花弁を避け切れずに全身を絡め捕られる。

 

「【エクシード・チャージ】」

 

キーワードをスイッチにベルトに込められた二つの魔力は右手へとベルトから腰を、胴を、右肩を渡り右の拳に宿る。

燃え上がる朝焼けの様な輝きに後方に居る冒険者ですら一瞬目が眩む。

そしてソレを脅威と感じ取ったモンスターの動きは早かった。

 

絡めた触手を一層締め上げながら左の爪を振り下ろす。

肘の先から切り落とされた右腕を危険な物を投げ捨てる様に右腕を掴んでいた触手がソレを放り投げ、右肩には牙をむき出しにした口がかぶりつく。

凄まじい破壊の光を宿した右腕は血をまき散らしながら宙を舞っていく。

 

ギリギリと締め上げられる触手、軋む装甲。装甲ごと牙を立ておじさんを捕食しているモンスター。

今度こそ駄目だと思われた時に捕まってる当の本人が笑い出す。

 

「くっ……くくくく、あははははは!」

 

その光景に、獲物が狂ったと思ったモンスターは一瞬捕食が緩むが逃がしたらいけないと思い直し更に牙を食い込ませる。

 

「熊ちゃんよぉ……おじさんの腕を切り落としたってさぁ……落とされた腕の所有権はおじさんのモノなんだぜぇ‼‼‼‼」

 

おじさんは残った左腕を無理やり動かして自分の右肩に噛みついている熊の首を掴むとすかさず叫ぶ。

 

「今必殺のぉ……ロケットパンチ‼‼‼‼(物理)

 

これまでの攻撃の最中に切り落とされ、地面に転がっていたおじさんの数本の腕が攻撃の際に宿した魔力をそのままにモンスターへ突っ込んで来る。

この攻撃には流石に驚いて身じろぎをしようとしたが、おじさんが首を絞める様に捕まっている為に回避が出来ず、四方から飛んで来たおじさんの腕が熊の体に文字通り突き刺さる。

 

「イグニッションヴァーーストォオオオオ‼‼‼‼」

 

おじさんの掛け声と共にモンスターの肉を突き破った腕に内包された魔力が暴走し腕諸共爆発という現象を引き起こす。

余りにもあんまりな攻撃方法と手段に他の冒険者は開いた口が塞がらない。

そして冒険者達が呆けている間に物事は進む。

 

 

 

魔法二発分を宿した拳。

実は先程のモンスターへの攻撃には利用されなかった。

ではソレは何処へ行ったのか。

 

先程のロケットパンチ、その実はただの隠れ蓑で本命は魔法を届ける事が本命。

おじさんの魔法が込められた拳はヘスティアファミリアの団長。ベル・クラネルの元へと届けられる。

 

飛んで来た拳を受け止め、込められた魔法をヘスティアナイフに流していく。

炎と雷、ベル・クラネルの魔法【ファイアボルト】と同じ属性を宿した魔力は彼自身の魔法(ファイアボルト)を触媒にヘスティアナイフへ流れていく。

自身が扱うよりも強大な魔法は嘗て放った一撃を大きく上回る刃として顕現した。

その刃を抱えたままベルは走る。

たった一撃。

この一撃を加える為だけに体を張っている仲間の元へ。

 

勝利への(ベル)を鳴らしながら、英雄(ヒーロー)が戦場へ駆け抜ける。

 

 

 

モンスターは焦っていた。

目の前には絶対に譲れない捕食対象。

それも満身創痍で後は周りの有象無象を捌きながらコレを捕食すれば使()()が終わるはずなのに。

得も言われぬ焦りがモンスターの心を揺さぶっていた。

どこからか聞こえる鐘の音が、まるで死神の持つ鎌の様に、音が大きく響く度に全身の毛が逆立つ。

 

このままではマズイ。

 

野生の勘が、モンスターとしての勘がそう告げてこの場からの離脱を選択しようとした時、目の前の獲物がより一層しがみ付いてきた。

血にまみれ、装甲は剥げ落ち、爆発で体の一部が炭化しているにも関わらず。

 

「熊コロぉ……おじさんはなぁ。道化でも良い、雑魚でも良い……でもなぁ、自分の守りたいもんは何が何でも守るぞ

 

この時モンスターは初めて、自分の残った左目で目の前の獲物の目を見た。

その目に映るのは何を置いても敵を倒す覚悟を持った雄の目。

ある種の狂気を孕んだ目だった。

 

「おじさんと一緒によぉ。ウチの団長の……英雄の一撃を特等席で味わっていけ」

 

焦ったモンスターは獲物に絡まった触手を一層絞める。

その肉体をバラバラにして、最悪頭だけでも捕食出来れば良いと。

だが千切れない。

今まで以上の力を籠め、例え同レベル帯のモンスターでさえ千切れる程の力を入れても、目の前の獲物の体が千切れない。

 

 

 

最初に気づいたのはアイズだった。

彼女の風か遥か後方から来る兎の存在を伝えていた。

そしてソレが事前に伝えられていた一段階目の鍵であり、フィンがあえて彼女を補助に回した意味だと。

 

「テンペスト」

 

自然と彼女は彼に風を送り、兎の背中を押していた。

そして英雄は更に加速する。

想い人の風を受け、仲間の想いを受け止め。

 

Lv5まで只管鍛え続けていた敏捷が、貯金も相まってLv6すら超えていける速度が更なる追い風を受けて右手に宿る光は閃光となり戦場を駆ける。

その光は戦線を構成する冒険者の合間を縫い、取り巻きモンスターの壁を抜け、最前線にいる冒険者達すらを超えておじさんが捕まえている熊型モンスターの首へとその鐘の音と共に太陽の輝きを持って終わりを届ける。

 

 

 

「グアアアアアアアッ‼‼‼‼」

「本物の英雄(ヒーロー)のお出ましだ」

 

「アァアアアアッ!!! 聖火の英斬・絆(アルゴウェスタ・デスモス)‼‼‼‼

 

太陽の輝きを載せたその一刀はモンスターの首を切り離し。強烈な太陽の閃光を放ちながらモンスターの肉体を浄化して見せた。




英雄(ヒーロー)の一撃によって堕ちた精霊の外郭が取り払われる

遂に相まみえるおじさんと精霊

決着の時は近い

次回、おじさんの冒険
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