【完結】フィジカルお化けおじさん、異世界へ行く3 作:タラバ554
太陽の輝きがダンジョンを照らす。
それは有り得ない光景ながら、その場に居る冒険者はまるで朝焼けの日の光に優しく包まれる様な感覚に陥った。
数舜の空白の後、フィンは事前の打ち合わせを思い出し声を上げる。
「事前に鍵を渡された者は走れ! 防衛陣形!」
フィンの一言に団員達が動き出す。高レベル冒険者を中心に数名のグループに分かれてモンスターを囲う様に位置どる。
全員が事前の打ち合わせポイントに向けて走り出したのを確認したフィンは再度高らかに声を上げる。
「設置したら合図に合わせて起動しろ! タイミング間違えるな!」
ロキファミリアの動きが慌ただしいのと同時に、ベルの動きも加速していた。
先のアルゴウェスタでモンスターの首を切り落としたが、本命はその後に来る3重魔法による効果。
ファイアーストームとサンダー・レイという頭の可笑しい威力を秘めた精霊魔法と、触媒となるファイアボルト。拡散する性質を持つファイアーストームだがファイアボルトを触媒とする事で射出と圧縮の性質を持った。そしてそこに同様の性質を持つサンダー・レイを加える事で属性の強化と出力の上昇を促し、これだけで必殺技と呼べる代物なのだが、そこに加えアルゴノゥトというさらなる出力の底上げを行った結果。
疑似的な朝日を再現するに至った。
傷口から発する超高温はモンスターの体を容赦なく消し炭へと変えていく。浸食する様に首から体へと炭になり端から崩れていく体の限界を察知した堕ちた精霊は自分を保護していた氷を内側から破り外へと出た。
目の前には捕食し損ねた獲物を抱える白髪の少年。
抱えられた獲物は四肢は砕け、皮膚は先ほど少年が放った一撃の余波で大部分が火傷を負っている。
精霊は自分に足りないモノを持つ獲物に狙いを定めて自分を構成する主属性を使って攻撃を開始する。
「凍リ、華開ケ【アイシクル・スパイク】」
たった二言の詠唱と魔法名の宣言。
次の瞬間には精霊を中心とした半径500mは氷の柱とも見える極太の槍が構成する森へと変わる。
足元の氷から無尽蔵に生えてくる極太の槍をどうにか避けていく冒険者。何か所か掠る事がありながらも避ける事には成功し術者である精霊の居た方向を一睨みした所へ……。
「狂イ咲ケ【アイスバーン】」
更なる詠唱が確かに聞こえた。
次の瞬間、直前に出現した氷柱とも思える槍は爆発。衝撃が冒険者を襲う。
そして何よりも厄介なのは爆発した氷柱が粉となり冒険者の周囲を纏わり急激に体温を奪い始める。
勿論これはおじさんを抱えるベル・クラネルにも襲い掛かっており槍の直撃は避けれたものの氷のデバフまでは避け切れなかった。
おじさんを手放さなかったものの体に纏わりつく雪はベルの体温をどんどん奪っていく。耐寒ローブを装備した上でこの状態だ、抱えているおじさんの事を考えると早急に頼まれていた事を済ませる必要がある。
ベルはおじさんから預かっていたベルトのカードリッジを取り出す。たったこれだけの動作の間に体温は一気に下がりまともに動くのが難しくなる。
振るえる腕でどうにかカードリッジをセットした所で精霊の攻撃が飛んでくる。
「【アイシクル・エッジ】」
魔法名の宣言のみで放たれる氷の刃はベルに向かう。避ければ後ろのおじさんに当たる為取るべき行動は迎撃。
右のホルスターに入ったナイフを引き出し、氷の刃に当てて逸らせる。
彼の思い描いた動きに対して体は思考を裏切る。常であれば問題無かった行動は体温を奪われており何時も通りの動きに比べ緩慢になり、結果として迎撃は間に合わず左肩へとアイシクル・エッジが刺さってしまう・
「うっ。くぅ……!」
直ぐに立ち上がるべく気合を入れ手足に力を籠める。しかしそんなベルに精霊は追加の一言を続ける。
「狂イ咲ケ【アイスバーン】」
「……ッッ‼‼‼」
ベルの左肩に刺さった氷の刃が爆ぜた。
破裂した氷の刃。衝撃は先のアイシクル・スパイクに比べれば小さいながらも爆発した箇所が自分の左肩だ。当然ながら被弾率が違う。
更にはデバフのかかり方も全く違う。
先程までのは体全体から体温を奪うモノだったのに比べ、此度の攻撃では左肩の凍結、および周囲の凍傷。範囲は左上半身と顔の左側。
左目も開ける事が出来ず体温は更に急激に下がり左腕は感覚すらない。
急速に運動能力を奪われる事に恐怖しながらもベルは動かせる右手を腰のポーチへと突っ込む、もう一つだけやらなければならない事がある……この階層へ来る前に預かったチップを取り出す。
チップを取り換える為には両手でベルトを操作する必要があるが左手が思うように動かず焦りが生じる。思い通りに動かない左手を無理やり動かしベルトのバックルを開く。
中央に取り付けられたチップはバックルの開放と共に外へと排出され代わりのチップをベルは右手で押し込む。
ベル・クラネルは気づいていた。
自分が大きな流れの中心にいる事。
このうねりの中を逆らわずに進む事で得られる飛躍とも呼べる能力の向上。
それを齎す始点は間違いなく目の前で倒れ伏している男であり、普段は裏方に回り、道を自分に譲る男である事を。
少なからず感じていた恩。嘗て祖父が言っていた『男の夢』を体現した男。
正直男の朝の様子を見た後でその夢を追いたいかと言われると答えに困るが……それでも以前自分が見た夢を実現させた男。
この大舞台の中心をまた自分に譲ろうとしているが『ソレは違うだろう』というのがベルの本心だった。
「おじさん、この舞台の主役は僕じゃない……貴方だ」
チップと共に押し込まれるバックル。
起動するベルト。溢れる魔力。
だからこそベルはこの言葉を口にする。
「『その時、不思議な事が起こった』」
ダンジョン内に発生した疑似的な太陽の輝きは消える事無く、男へと集まっていく。
失われた手足は生え、皮膚も常の状態へ戻り消えかけていた息を吹き返す。
自分が信じていた主役に舞台の中心を譲られた。
その事が信じられないと共に、嬉しくもあった。
立ち上がり彼を見る。
自分の為に身を賭して動いてくれた年下の
思わず涙が流れてしまう。
装甲の修復も遅い。
武器も盾も吹き飛んで手元に無い。
それでも……
「これに答えないと漢じゃないよなぁ、
次の瞬間、精霊は口から肺の空気を全て吐き出しながら、背中を氷壁へと叩きつけられていた。
「!?!?」
襲い来る酸素を取り入れる事の出来ない状況と苦しみに思考は混乱する。
次いで襲ってくる腹から駆け上がって来る猛烈な鈍痛と吐き気。
吐き気に逆らいきれず吐き出せば広がる血液。
何が起きたのか分からない。
解らないが目の前に居た獲物が捕食対象から敵へと明確に切り替わったのは解った。
堕ちた精霊に対して拳を叩きつけた姿勢のまま、おじさんは妙にクリアな頭で幾つもの思考が廻っていた。
堕ちた精霊
亡くなった精霊
イシュタル
春姫
ベル・クラネル
ヘスティア
自分のスキル
一瞬の内に駆け巡った思考はこの場においてある種の最適解を導き出した。
おじさんのスキルを単体ではなく全体として考えた際、シボウを消費して体の再生やカウンター、身体操作を行うスキル。
ではシボウを死亡と読み替える事も出来るのでは?
結果としては成功。
自分の生命のストックを消費する事で成し得る爆発的と呼べるブースト。
凡人が文字通り命を賭して成し得る一撃を得た。
そして最後の一手。
ソレを叩き込む為の舞台装置は既にロキファミリアのお陰で出来上がっている。
「フィイイイィィイイイン‼‼‼‼‼」
「総員! 装置を起動しろ!」
フィンの掛け声で起動されるアスフィが開発した『箱』
正式名は無く、ただ『箱』と呼ばれるソレをロキファミリアの団員が地面へ設置して起動スイッチを入れた途端、起動音と共に箱は淡い橙色の光を発する。
光は周囲の箱を認識すると光同士を伸ばしネットワークを構築、そしてネットワークを覆う様に内側に向けて六角形の障壁を重ね合わせ巨大な結界を作り上げていく。
おじさんの用意した精霊を逃がさない為の檻。精霊魔法を遮断し、生命を通さない。
「さて、ベル君。おじさんちょっと頑張って来るから向こう側で見ててよ」
「はい、見てます」
「対象:フィン 【テレポーテーション】」
おじさんが移動の為に出した穴を潜りながらベルは声を掛ける。
「おじさん、必ず勝って!」
「はいよ! 団長!」
おじさんはベル君へ返事をしながら精霊に向かって駆けだす。
逃走を封じ、外殻を剥ぎ取り、タイマンへと持ち込んだ。体は無事、鎧は……半壊だがあるだけマシ。
後は秘密兵器を抜くタイミングと、自分の命のストックが切れる前にタイミングを引き寄せる事。
「精霊ちゃんよぉ! こっからは殴り合いだなぁ‼‼」
「……ッ‼」
そこからの戦いは冒険者達の戦いとはナニかが違った。
冒険者達の戦いは言ってしまえば命の奪い合い、生存競争。
当然おじさんの相手をしている堕ちた精霊は殺す気で相手をしているし殺気も傍から見て感じ取れる。
だが肝心のおじさんはどうだ。
勝気はあるが殺気が無い。
盛大に笑いながら氷の大地を踏み割りながら駆け抜け、空気の壁を破りながら相手を殴りつける。
地球でライブ配信でもされていようものならリアルDBとでも言われていただろう戦闘。
lv6から見てもデタラメとしか言えない身体能力で繰り出される暴力の数々、致命傷を受けた端から回復していく体。
部位が欠損しながらも続けられた攻撃だが遂に精霊側が動いた。
おじさんの攻撃の隙を突いて振るわれる爪とソレに合わせて行使される無詠唱魔法。
さながら魔法拳士とも呼べるスタイルでおじさんの腹へと氷の一撃を入れた後、即座に短文詠唱の【アイスバーン】を使用。
一瞬ののけ反りの隙を突いて大きく離れる精霊。
「
|唸レ、砕ケ、流セ、大河ノ暴虐、揺リ籠ハ反転シ、全テノ命ヲ飲ミ込ムダロウ。《うなれ、くだけ、ながせ、たいがのぼうぎゃく、ゆりかごははんてんし、すべてのいのちをのみこむだろう。》
|罪ヲ流スハ佇ム女ガ湛エル涙。ヤガテ静寂ガ訪レル。《つみをながすはたたずむおんながたたえるなみだ。やがてせいじゃくがおとずれる。》
代行者ノ名ニオイテ命ジル 与エラレシ我ガ名ハ
腹の再生を終えて相手を見れば詠唱が完成間近、初めて聞く詠唱……それでも自分が使える
堕ちた精霊の周囲を渦巻く魔力が拡散しながら大気と地面へと染み込んでいくのがおじさんの目には映っていた。
さながら青い蕾が大きく花開く前に成長している様な、破壊の前の美しさの様な物を感じさせる。
その規模の大きさに腹が据わる。
その場にしゃがみ込み見る。
精霊を、辺りに漂う魔力を、場の空気を。
ほんの一瞬の事を間延びした感覚で感知する。
時間間隔の延長と共に変化するおじさんの肉。
皮膚は黒く、目は白目と黒目が反転し、その身の肉はより力強く肥大と収縮を繰り返しながら煙を立ち上げる。
「【庇護脂肪】
「【ウォーター・スウォーム】」
魔法名が宣言された瞬間、魔力が染み込んだ箇所から大量の水が
速度も量も下手な津波等比較にならない程の威力で襲い来る。
その光景をまるでコマ送りの様に見ながらおじさんは
爆ぜた水と共に破壊される足元の氷を、まるで地面の様に踏み締めて跳ねる。
体勢は無茶苦茶でとても移動している様に見えないが視線だけは一点を見据えて。
結界を埋め尽くす勢いの水。
檻は精霊魔法を通さない、故にこのまま行けば溺死という結果になってしまう。
ならばこそ、此処で決めるしかない。
精霊が迎撃の無詠唱魔法を放つ、迫りくる魔法を
腹に深々と刺さる氷柱を無視して上げた両手で虚空を掴む様に構える。
この一瞬が全てと最後の鍵を取り出す。
「【トラベラー】来い、
おじさんの手元に引き寄せられた布都御魂剣。
元は日本の刀剣だが世界を渡り、タケミカヅチの手元を経ておじさんの元に転がり混んできた。
元々は儀式剣だが長い年月をかけ信仰という名の火で鍛えられた剣はタケミカヅチの元で神性を得て普通の武器とは一線を画す物へと至った。
振り下ろされた偽・神造兵器。偽とは言え神造兵器。堕ちた精霊の体に一切の抵抗を許さず、片口から腰にかけて袈裟懸けに体を分割した。
ここで一つだけ予想外の事が起こった。
一応予想はしていた。
威力が高いと。
その点はタケミカヅチにも注意は受けてはいたけれど……。
「これは予想外だなぁ……」
振り下ろした剣の威力は普通ではなく堕ちた精霊の体を両断して尚、威力の減衰を一切見せず。
剣戟は剣筋の延長線上に結界も、地面も、ある全てを両断しダンジョンまでも大きく斬った。
その結果生まれ落ちてくるジャガー・ノート。
いや……まぁアレだな。
「全員集まれー! 逃げるぞー!」
精霊ちゃん抱えてスタコラサッサだぜ!
命を削って拾った勝利。
おじさんがこの後やる事は……。
次回、おじさんと
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1か月以上かかっちゃった・・・。
無駄にこねくり回そうとしちゃいけませんね。シンプルに行こう。シンプルに。
という訳でおじさんのやりたかった事を全部やった回、
次回で後日談で最終回でございます。