【完結】フィジカルお化けおじさん、異世界へ行く3 作:タラバ554
帰宅して直ぐに駆けつけて来た母に精霊ちゃんが倒れたと伝えられた。直ぐに寝室へ移動してみると熱で汗をかきうすぼんやりと宙を見る精霊ちゃん。
イシュタルちゃんを下ろして精霊ちゃんの手を握る。
まるで氷の様に冷たい手にゾクリとしながら両手で握る。
焦点が定まらなかった目が此方に向く。
「おじさん……」
「ごめんね、直ぐに体調を整えるから」
そう言ってスキルを使い精霊ちゃんの体を整えようとするが……体に異常はまったく見られない。
意味が分からず再度スキルを総動員して精霊ちゃんの体をくまなく調べ上げる。だがスキルがはじき出す答えは変わらず
先ほどまでとは違う汗がジワリと浮かぶ。固唾を飲みこみ精霊ちゃんを見るとにっこりと笑顔を向けてくる。
「大丈夫、わかってるから」
とても穏やかな声色で笑う彼女の顔はとても綺麗で、涙が出る。
「本体に引っ張られてるみたい、世界の壁まで超えるなんて……本体も執念深いんだから」
彼女の笑顔をしっかりと見たいのに視界が歪む。握る手から力が抜けていく。
「折角体を作ってくれたのにごめんね? 私は戻っちゃうけど……心は貴方に置いて行くから」
息が詰まりそうだ。
「もし次があったら……また見つけてね」
「見つける! 絶対見つける! 次はオメーさんに俺の子供産んでもらうからな!」
「……あはっ、産みたいなぁ」
それが彼女の最後の言葉だった。
◆◆◆◆◆
彼女が眠って二日が経った。スキルを使えば変わらず
多分スキルは間違って無い。文字通り体は全く異常が無い。
今回異常があったのは彼女の……精霊ちゃんの魂や心といった、肉体以外が問題だったのだろう。
恐らくおじさんがスキルを使い続ける限り、彼女の肉体は残り続けるし健康なままあり続ける。
ただソレを頭で、スキルで理解はしても心が拒絶してる。
結果としておじさんは心が疲れて体が動かない。
いや、体を動かしたくない。
何もしたくない。
イシュタルちゃんをと思っているのに……ちっとも体が動かない。
◆◆◆◆◆
更に3日、相も変わらず精霊ちゃんの眠る布団の横に座ってぼーとしていた。
気付けば隣に居たイシュタルちゃんも居なくなっている。
色々とやらなきゃいけない事は一杯あるのに体が動いてくれない。
息を吸いこんでは吐く。
これだけで体の力が抜けていく。
まただ、また意識が飛ぶ。寝ている訳じゃないが時折意識が飛ぶ。
継ぎに気付いた時には母に呼びかけられていた。
とても焦って、顔色が悪い。
「〇〇! お願い! お願いだから! こっちを見て!」
「母さん?」
「〇〇! 今すぐ××病院へ行って! 父さんが事故にあったの!」
「……親父?」
「そう! 父さん! アンタなら助けられるんじゃないの?!」
ぼんやりしていた頭が言葉を理解する。理解した瞬間に口からは言葉が出てた。
「対象:親父 【テレポーテーション】」
母さんを抱えて渦へと飛び込む。殆ど反射での行動。
兎に角親父に会わないと。
飛び込んだ先は丁度病院の廊下だった。親父を載せたキャスターが進む先は集中治療室の扉。
駆け寄って呼びかけても反応しない親父。
俺のスキルの前提条件は本人の同意が必要である事をこの時初めて母親に伝えた。
つまり、意識の無い親父には使えないという事を。
集中治療室の前で待つ事4時間。
医者から親父が帰らぬ人となった事を告げられた。
◆◆◆◆◆
悲しむ間も無く直ぐにお葬式の準備が進み気が付けば親父の葬式が終わっていた。
遺骨を納骨堂へ納め実家に戻り、縁側に座りぼけっと庭を見ているとイシュタルちゃんが話しかけて来た。
「おじ」
「イシュタルちゃん……何か一気に不幸が来ちゃった。不幸が重なる時は重なるって言葉は本当だね」
「……精霊の事、私は知ってた」
「?」
「精霊とこっちに来て……話が出来る様、なって直ぐ……聞いた」
イシュタルちゃんの話を要約すると、こちらの世界で喋れるようになった精霊ちゃんと色々な会話をした。俺の話、自分たちの話、オラリオの話、これからの話。
その中で精霊ちゃんは自分の命が有限で、本体が動き始めれば自分が居なくなる事も自覚していたらしい。
そしてソレを俺へは打ち明けない事を約束したと。
理解が追い付かない頭で渡されるUSBメモリー。
PCに接続して中身を見れば録画ファイルが一つ。
『コレ、もう撮れてる? 本当?
はー、イシュタル凄いなぁ……あぁ、えっと……おほん。
やっほ、おじさん。
多分色々聞いた後かもしれないけど怒らないでね?
何ていうか……おじさんが私を『あの場所』へ迎えに来てくれた事、それから私の体を作り替えてくれたこと。そういう諸々の事情はおじさんが私の体を作ってくれた時に実は知ってた。
正確にはその時に知ったかな? おじさんのスキルを通してだけどね』
『おじ、聞いてるか? コイツ分かった上でこーいう行動を取ってるからな?』
『ちょぉ! イシュタル! 茶化さない!』
『はいはい』
『本題に入るけど、私って本体から別れた分身で感覚的にはまだ繋がってるのね。で、オラリオに居る間は主導権は本体にあるの。
おじさんが精霊の体から人の体に作り替えてくれたから地上には出られる様になったけど、本体としては分身じゃなくて自分が出たい訳で……どうにかして私の体が欲しい。その為にその内自分の手駒とか闇派閥動かして私の体を取り込もうとすると思うし、その為には体の中身、つまり『私』が邪魔。
……多分おじさんはアレだよね。そーいう性癖でしょ? 自分と縁のある女が見捨てられないとかそんなの。
一回別の世界で別の私に取り込まれてるもんね。ソレも思い出したもん』
『は!? 聞いとらんぞ!??』
『あーもう! ソレは後でちゃんと話すから!!
兎も角! おじさんにこの事を話したら絶対本体の所に行くでしょ!
それが無理な場合、オラリオ全部巻き込んでかなりの無理無茶して!
……それ自体は嬉しいんだけど、私としては好きな人には無茶して欲しくないかなぁ……なんて///』
『おじ! 私も好きだからな!』
『もー! イシュタルは別で撮れば良いでしょ!』
『何言うか! 此処でお前にばかり良い顔させては神の名が廃るだろうが!』
『……っは』
『あぁー! 何だその顔! よーし、そんな顔させた事を後悔させてやる! この後この録画データを編集してお前の声に全面
『わー! ダメダメ! それは駄目! 本当に辞めて‼‼』
『ハァハァ、えっと、どこまで話したっけ……』
『無茶するなって所までだ』
『そうそう、まあ何が言いたいかって言うと私のせいで死ぬような目にあって欲しくない!
私が駄目になっても、元々そういう寿命だったと思って!
オラリオの空も……おじさんの世界の空も見れて凄い楽しかった。
夢……叶っちゃったから……。
だから後はイシュタルに任せます!』
『おわっ! 急に抱き着くな!』
『あははは! 兎に角ね! おじさん、私は居なくなってもイシュタルが居るから。
私の体はおじさんが片付けてね? 私からのお願い。
じゃあね……おじさん』
動画は満面の笑顔でイシュタルちゃんに抱き着く精霊ちゃんの場面で終了した。
感情の整理が済む前に葬式や告白やらが続いたせい……いや、そのお陰で色々な事の心の整理が改めて付ける事が出来た。
「そっか……はーーーー、そっかぁ……」
「おじ」
イシュタルちゃんが抱き着いてくる。彼女のぬくもりが今は凄く嬉しい。
ゆっくりと目をつぶり深呼吸を繰り返す。
そりゃ結婚をするはずだった人、自分の父親。当然二人の代わりは居ない。
親しい人を二人も失ったけど……、まだ残された人も居る。
「踏ん切り付けないと二人に怒られそうだわ」
「……ん」
「はー、イシュタルちゃん」
「ん?」
「別れってやっぱ辛いねぇ」
「うん……」
「別れたくねぇなー」
「……」
「……」
イシュタルちゃんの体温を感じながら、何となく頭をよぎった事を延々と考える。
女々しいというか、サイコパスというか……自分でも何てことを思うんだろうと呆れてしまうが他の考えが浮かばない。
「ねぇ、イシュタルちゃん。もし反対なら言って欲しいんだけど……」
「……?」
「――――――――――」
「それは……」
おじさんに降りかかる不幸
それでも時間は止まってくれない
少しの休憩を経ておじさんは再び立ち上がる
次回、おじさんと魔法