よろしくお願いします。
あと何度
あと何度、失えば良いのだろう。
この血を、熱を、汗を、涙を、幾たび流せば良いのだろう。
幾星霜の月日が流れ、雲が流れ、この肉に通う感覚すら流れてゆく。
早廻る輪廻螺旋の回転は、止め処なく回り続ける。
風回る風車のように、軽快な音を立てて回り続ける。
カラカラと耳障りな音を奏で続ける。
それはきっと、混沌から数えて一千億罪を超えた証。
尸魂界より、外の輪廻である証。
不死身。
そう聞いて、弱いと感じる者は恐らく皆無だろう。
何せ不死の身体だ。弱い筈がない。
それを聞いた瞬間に喜び勇んでオレがその札を取ったのも、あの時を思えば仕方のない事だったと、そう思う。
今思えば、なんて馬鹿な真似をと、全身から余す事なく力が抜け落ちて崩れる姿を披露せざるを得ないだろうに。
──オレは転生者だ。
現代日本に生まれ、好き勝手に生きて、そして死んだ。
老人ではなく、中年でもなく、若くもない。
そんな中途半端な年齢でオレは死んだ。
だが、死んだと思った後の空間でオレは救われたと思った。
オレは良く転生者の小説やら、漫画やらを好んで読み漁っていた。
開き直って読んでいた。だが、何より面白かった。そう感じるのはウダツが上がらない生活だからと言われれば、まぁ否定はすまいが、無言を貫くだろうくらいには自覚があった。
だからすぐにわかった。
死んだ瞬間に存在する意識。目の前に存在する神の如き存在。
そして伝えられた転生という言葉。
正しく天啓に聞こえた。
こんなオレにチャンスがあったんだと泣いて喜んだような気がする。
そして、神様が提示する幾つもの特典の中から、オレは『不死身』を選んだ。
言い訳、というよりも、庇う言動をするならば、神様は悪くない。聞けば答える、そういうスタンスだったから。
だが、オレは話を聞かなかった。
無謀にも、字面だけで判断して、虹色に光っている如何にもレアっぽい装飾に惹かれて選んだ。
その裏には『BLEACH』と書かれていた。
そこまでは良い。むしろ望めるなら望んで行きたいくらいに好きな漫画だった。
喜びと興奮のあまり叫んだような気さえする。
地獄が始まるのは、その後からだった。
簡単な説明すら聞かずに、最低限の設定すらせずに、オレは特典だけを背負って喜び勇んで転生した。
聞いておけばよかったと今になって後悔している。
たぶんだが、オレの予想が間違っていなければ。
転生の初期設定は、漫画の中で一番最初の時代だからだ。
つまり。
オレが生まれたのは、尸魂界も虚圏も現世も存在しない。
オレなりに絶望しながらも頑張ったと思う。
だからか、最初の1回目は未だに良く覚えている。
本当に貧相な暮らしだった。
麻っぽい衣服と草履。それが持ち物の全てだった。
武器なんてある訳がない。強いて言えば、そこらに落ちている石が唯一で最大の武器だった。
頑張った。必死に逃げ延びながら、他者を犠牲にすらしながら、生きて、生きて、生き続けた。
怖かった。不死身なんて忘れるくらいに怖かった。冷静じゃなかったからだろう。自分のせいであるのに、神様を呪ったりもした。まったく馬鹿げている。自業自得だというのに、呆れて物も言えないくらいだ。
だが、それくらい、オレには余裕がなかった。
女子供。同じ人間。少し特殊な力を持った奴ら。
どんな相手だって利用した。死にたくなかった。怖かった。
幾つの罪を犯したのか。それすら解らなくなるくらい泥水を啜って生きて、そしてついに他者に利用されてオレも死んだ。
目を覚ませば、そこはまだ混沌の世界だった。
ループしているのかと恐怖した。だが、身体が変わっていた事で、オレは再び蘇ったんだと理解した。
喜んだ。これで死ななくて済むと思って、これが不死身の力なのかもしれないと活力が湧いたような心地だった。
1回死んだこともあって、オレは少し冷静になっていた。
死んでも死なないと分かったことがオレを冷静にさせていた。
そこからは只管に不死身の力を検証した。
虚に食われても、自殺しても、他殺されても、オレは蘇った。
何度何度死んでも、オレは蘇った。
それは確かに不死身だ。記憶と経験が継承される事を死なないと定義するなら、オレは確かに不死身だった。
けど、何十、何百という自分の死体を積み重ねて、オレは救いもない事に気がついた。
だって、死ねないんだから。
地獄のような世界で、終わりのない不死身の身体。
鍛えれば良いとも思ったが、死ねば身体は変わってしまう。不死身を利用しても、鍛えようがない。
経験は積めるが、ただの人間が努力したところで虚に勝てる筈がない。
話は少し変わるが、オレはガチャが嫌いじゃない。
回す瞬間に当たりが出るかどうか、その瞬間にワクワクしてしまう質だった。
オレは、身体ガチャだ、と死にまくった。
頭がおかしくなっていたんだと思う。
いや、それは今もだろうが、自認出来ているだけマシだろう。ともかく、この時から既にオレの頭はおかしくなっていた。
ただ一度、特殊な力を持った存在に、死神の先祖のような存在に。いや、欲を言えば霊王に生まれ変わりたい。
そんな思いで希望すら抱いて死に続けた。
そして、何十、何百、何千と死に続けたオレは、数千回目も、また、無力な人間だった。
──ただの一度足りとも、特殊な力を持った存在に生まれなかった。
その絶望感と無力感たるや、もう、本当に、世界が終わってしまったのではないかと錯覚する程だった。
キッカケを何か一つ挙げろと言われれば、きっと、その不死身という特性から来る
そこからは生きる屍のように死に続けた。
討死。徒死。干死。愁死。衰弱死。垂死。惨死。徒死。悶死。煙死。脳死。凍死。獄死。即死。狂死。餓死。頓死。急死。窮死。悶死。苦死。刑死。怪死。墜死。怨死。致死。横死。事故死。刎死。変死。轢死。扼死。絞死。自然死。安楽死。焼死。溺死。十死。斬死。敗死。戦死。窒死。転落死。過労死。服毒死。中毒死。毒死。暴死。老死。早死。爆死。犯罪死。病死。臨死。圧死。憤死。震死。落死。客死。焦死。倒死。野垂死。牢死。
まぁ死んだも死んだ。
景気が良いくらいに死んだ。
そう思わんとやって居られんからだが、まぁ実際に悪いことじゃなかった。
それだけ死んで、もう何千回と死を重ね続けて、ようやくオレは気がついた。
少しだけ、ほんの少しだけ、強くなっているんじゃないかと。
生まれ変わったのはただの人間だ。脆弱で、取り柄がない事もないが、虚に食われるくらいしか能のない人間だ。
けれど、そんな脆弱な人間にも魂魄はある。
ここは『BLEACH』の世界だ。ただの人間が霊となって、そんな霊が幾百と積み重なった存在が『虚』だ。
だからオレも、死に続ける先で『虚』のように特出した存在に成れるのではないかと、そう思った。
そんな事実に少しばかり希望を見出したオレだったが、積み重ねた死はオレに安易な行動選択の余地を与えなかった。
慎重になったと言って良い。
かつて神様から特典を貰って盛大に失敗したオレは既に居ない。バカは死んでも治らないが、死にまくれば治るらしい。数千回が目処だ。
まず第一に疑問だったのは、何故オレは虚に食われたのに同化していないのか、だ。
魂魄がないとは思えない。それならそもそも虚に見向きもされないだろうし、何より僅かに上昇している強さの説明が付かない。
となれば答えは単純でたった一つしかない。
恐らくそれは、不死身の特性なのだ。
そう結論づけてから、オレは検証を重ねた。
あえて虚に食われながら、内部に忍び込めないか試してみたり。
魂魄を鍛えることを意識しながら生活を送ってみたり。
徳の高い行動を取ってみたり。
色々試したが、結果としては全部ダメだった。
虚の内部に忍び込むのは我ながら良案だと思ったのだが、取り込まれた瞬間に意識が消失して、新しい身体に生まれ変わっているのだ。これでは乗っ取ったり掠め取ったりするどころじゃない。
魂魄を鍛える方法はまるで効果がなかった。
心身を鍛えれば良いのか? 滝にでも打たれれば良いのか?
この地獄から解放されるためなら苦行は厭わない心持ちだったので5回くらい人生掛けてみたが、全く効果が感じられなかったのですぐ辞めた。
徳の高い行動だが、これはすごく簡単だった。
ここはオレに任せて先に行け! を地でやればいい。
最初は恥ずかしかったが、何度か繰り返すうちに癖になる面白さだった。
リア充どもの生贄になるのは癪だったが、何度もやれば慣れる。
幸せになれよ、と思いながら虚に食われるのがワンセンテンスになるくらい慣れたが、これも幾らやっても効果がなかったので、暇な時にやるくらいになった。
そう簡単に魂魄は強くならないらしい。
唸りながら、どうやれば強く成れるのか考え続けて、そうこうして何度も死んでいるうちに、重大なミスが発覚した。
なんとオレ、霊力と魂魄を混同して考えて居た。大馬鹿である。
魂魄とは、人間なら誰しも持っているモノだ。
しかし、霊力は選ばれた人間しか持っていない特殊な力だ。
つまり、朗報である。
転生ガチャ、身体ガチャに意味はあったのだ。
あんまりにも弱すぎたので、今までの数万人のオレの中にそんな逸材が隠れているとは思わなかった。
ともかく発覚したのは、転生ガチャにちゃんと当たりがあるという事だ。
これは素晴らしい朗報だ。ガチャに取り憑かれた男であるオレの本領を発揮する時が来たと言っても過言ではない。……いや、実のところ生前そこまでガチャしてた訳じゃないんだが、まぁこんな時くらい調子に乗って良いだろう。精々が総計200マンくらいだが。うん。
霊力を持っているオレに当たるまで死にまくって、当たれば死ぬほど鍛える。
当面はこの目標で進む事にした。
何度死んだのか、もはや数えることすら億劫なほどに死んだ。
死んで、死んで、死にまくった。
鍛えて鍛えて、鍛えまくった。
だが、それでも、オレは虚の1匹すら倒せなかった。
オレの心は折れかけていた。
何百万。恐らくはそれだけの死を積み重ねた続けた。間断なく努力を続けた。
だというのに、たった1匹の虚すら倒せない無力。
脆弱すぎる人の身が恨めしい。
湧き上がる憎悪とも嫌悪とも呼べない、禍々しい何かを感じるほどに、何もかもが恨めしかった。
100万年。
混沌の時代はそれほどに前の時代だと明言されている。だが、オレは死んだ瞬間に蘇る。そのタイムラグは一切存在せず、人の股から産まれるのではなく、ランダムに世界そのものに産み落とされる。
何度死んでも、その時間が短くなることはない。
幾度月日を跨いでも、しっかりときっちりと100万年を生きねば未来はない。
だが、逆に言えば、100万年を生きれば未来はある。いや、もしかすれば、99万年くらいで済むかもしれない。
──けれど。
そう言えるだけの気力は既に、オレに残されて居なかった。
二度目の無気力期間の到来だった。
何もやる気になれなかった。全てがどうでも良いと思えた。もう二度と気持ちを取り戻せないような心地だった。
だから、それは本当にただの気まぐれだった。気の迷いだった。
オレは霊力を鍛え続けた。
それはつまり、虚よりは弱いが、普通の人間よりは圧倒的に強いという事だ。
それは大罪。
許されざる罪。
目を覆うほどに悍ましい悪意。
どれほどに精神的に疲弊して居たからと言って、手を出してはならない最大の禁忌。
オレは、人間でありながら、他人の魂魄を食らった。
そこからしばらく記憶がない。
生きながらにして虚となったのか。それとも狂って死んだのか。はたまた人間に袋叩きにされたのか、気味が悪いと特殊な力を持った奴らに殺されたのか。
何も覚えてはいない。
一つ確かなのは不思議なくらいに、旨かったという感想ばかりだった。
それからしばらくの事は、語りたくはない。