「──修多羅千手丸?」
「そうそう、ホラ。護廷十三隊の死覇装とか。色んな霊子を組み替えたりとか、虚の探知とか。……あと、色々な
「……まぁ、構わんが」
「おっ、そうこなくっちゃね。いやぁ助かるよ。その所長は気難しくってね、色々話題を提供すれば快く応じてくれるんだけど、ボクもしょっちゅう使いに出されるからネタが尽きちゃって」
「……待て。それは、オレがネタにされてるってことか?」
「やだなぁ、友人を助けると思って協力しておくれよ。ちょっとお話しするだけだよ」
「絶対違うよな!? 怪しい実験には付き合わんぞ!?まずネタにしてるってとこを否定しろ!?」
「大丈夫、大丈夫。五大貴族の魂魄にちょっと興味があるだけみたいだから、変なことされないって」
「いや、まったく安心できんぞ!?」
やいのやいのと言い合いながら、しかし断るのも憚られてオレは背中を押されるがままに流魂街にある片隅に来ていた。
そこは絶壁をそのままクリ抜いた、と形容すべき異様な建造物が聳えている。要するに壁に穴を掘った場所を指して、建造物と呼称しているに過ぎない。
いや、建造物と言って良いのかもわからない。
間に合わせのように棲まう。それは獣の棲家に近いようにすら感じた。
「……本当に、ここなのか?」
「ウン。まぁ最初は驚くよね。けど、意外と理にかなってるんだよ。建材とか建築時間とか、そういうのを省いて、拡張に拡張を続けられるじゃない? 所長の人曰くそういうの待つのが面倒でここに住み始めたんだってさ。ほら、待ってるだろうから早く行くよ。待たせちゃ悪いからね」
「あ、ああ」
京楽に促されるままに洞窟に入って、張り巡らされる現世を彷彿とさせる機械染みた配線の風景に少し懐かしさを覚えながら進んでいく。
いや、待て。懐かしさ?
ここは、原作が始まる
その違和感に気がついた時、大きな一室に出た。
そこには、名が体を表すような女が、洋風の玉座染みた椅子に腰掛けながら、ジトリとこちらを睨めていた。
無数の夥しい量の反物が中空にユラユラと揺れ、床にも反物が敷かれている。
そんな一室の中央に座すのが、修多羅千手丸。
造りものであろう6本の手を従える背と、豪奢な簪を刺す頭を優雅さを滲ませて傾けていた。
「──ああ、京楽家の次男か」
「どうも、修多羅さん。お願いしていたものを受け取りに来ました」
「良い。土産も用意してもらったことじゃ。妾は満足しておる。──確か、涅マユリの奴が持っておった筈じゃ。帰り際に受け取るがよい。素直に渡してもらえれば、の話じゃが」
「……えーっと。便宜、図って貰えません?」
「……ふむ。まぁよかろう。妾にツケておくことを許そう」
「そりゃどうも。じゃあ、ボクはこれで……」
ヘラリと笑った京楽が、機敏な動きで手を上げて別れの挨拶をするのを見て電光石火の速度でオレがその背中を掴んだ。
「おいい!!? なにオレを見捨てて帰ろうとしてんだ京楽てめぇ!」
「えぇ〜? だって、ボクがいたってお邪魔でしょ。滅多にないよ? ボクが女性の相手を譲るなんてさ」
「それだけで厄介事の匂いが凄いんだが!!?」
京楽と言い合うオレの背後から、スッと影が差した。
ゾクリと背筋を伝う感触は刃に似ている。
一瞬でオレの背後を取った修多羅に首筋を指で撫でられた感触だった。
「──ほぅ。五大貴族故か、それとも、別の何か故か。何やら妙な気配を感じる」
サワサワと身体を6本の手で弄られる感覚に背筋が伸びて、くすぐったさに震えた。
変なところを触られて変な声が出る。
「はひゅ! な、どこ触ってる!?」
「ん? 五大貴族ともあろうものが、なんとウブな反応か。不敬じゃというならまだわかるが……、まさか童貞か?」
「ど、童貞・・・」
「よいよい。色々と教えて貰おうではないか」
妖艶な仕草で近づいてくる修多羅千手丸に少しドキドキしながら向かい合っていれば。
そんなオレの背後から、去り際に京楽が爆弾を落としていった。
「あと、言い忘れてたんだけどね。修多羅さんは、零番隊への昇進が
「護廷十三隊十二番隊、隊長──、修多羅千手丸。懐かしい呼び名じゃ。最近はめっきり所長とばかり呼ばれておるものでな。天示郎の奴が先に上がったが、それは妾が望んでの事。まだ尸魂界でしか出来ぬ事を果たすため……。まぁそれも、もう終わりじゃ」
「無茶しないでくださいよ? 零番隊昇進が決まってるアナタはよくっても、部下たちがどうなるかわかったもんじゃない。『技術開発局』の
「案ずるでない。
その発言は、していると明言するようなものだった。
僅かな緊張感が京楽と修多羅の間に走るが、頬に冷や汗を垂らした京楽が退いた。
無機物を見るかのような瞳。
修多羅千手丸の瞳は、この事を話せばどうするかを明実に語っていた。
何も、しないだろう。
恐らくは京楽が摘発に動いても修多羅千手丸は何もしない。そのまま零番隊に昇ってゆくだろう。王属特務に誘われるとは、そういう無茶が効く。
故に修多羅は、ただの興味本位で。
この発言を聞いた京楽がどのような選択肢を取るのか、静かに観察していた。
「……では、失礼しますよ」
京楽の表情はオレの位置からは窺えない。
ただ、アイツが大多数の人間を陥れる事は考えにくい。
この事実を墓場まで持っていくことに疑いはなかった。
「──さて、お楽しみの時間と行こう」
艶やかな唇を舐め回すような雰囲気で、修多羅はオレに近づいてくる。
思わず一歩を引けば、そこは既に壁際だった。
固い土壁の感触が背中を伝ってくる。
一瞬背後を見て、視線を逸らしたことに慌てて正面を見れば、眼前に修多羅の美しい顔が迫っていた。
「では、色々と教えて
油断させるように、甘い吐息を吹きかけてくる。その耳朶を揺らす甘さに気を逸らされた瞬間に意識が揺らいだ。
白伏。
グラリと揺れる意識の中で、瞬く間に刈り取られた意識の中で、それを使われた事を認識する。
崩れ落ちて下がる視線から見上げれば、変わらず妖艶な笑みを浮かべたままの修多羅が見える。
その6本の腕に抱きかかえられながら、オレは意識を喪失した。その間際に、最悪でありながら最も望ましい事態が思い浮かびながら。
「──五大貴族。超絶した死神と云われるが果たして……──それと、京楽。すこうし、情報が古いな。妾は既に、零番隊じゃ。この骨は、既に王鍵である」
表情を変えず、妖艶さの中に愉悦を滲ませながら、修多羅千手丸は手の内に落ちた男を大事そうに抱きすくめた。