あれから1週間が経った。
テントの中のベッドの上でシズさんはずっと眠り続けている。
「起きないな、シズさん」
「ああ、シズさんを苦しめていたイフリートはリムルが喰ったはずなのに」
この一週間、俺とリムルで付きっ切りで看病してきたが、一向に目を覚まさない。
そんな中、知識者から俺に声がかかる。
《告。イフリートとの同化が彼女を延命させていたようです》
リムルも大賢者から同じようなことを聞かされたみたいだ。
俺とリムルの顔をが一気に青ざめる。
「え…」
「マジか…。…だとしたら俺達がやったことって…」
俺がそう言うと知識者が「それは違うかと」と話してくる。
《彼女の気力は、通常ではイフリートを抑える事ができないほど激しく消耗していました。
イフリートとシズエ・イザワを分離させ、浄化しなけば、やがては自我を失い、暴虐の限りを尽くしていたでしょう。
そしてそれは、シズエ・イザワの望みではないと思われます》
俺達が黙っていると、ベッドから声が聞こえてきた。
「…スライムさん、リアス君」
「っ!シズさん!?」
「気がついたんすか、まだ無理しない方が…」
シズさんが目を覚ました。しかし、顔色はよくないみたいである。
「ずっと傍にいてくれたの…?」
「あ、あぁ…、良かった。
もう目を覚まさないんじゃないかと心配してたんだ。」
「そっか、仮面は…」
「ここに持ってきてます」
俺は棚においてあった仮面を手に取り、シズさんに渡す。
シズさんは仮面を受け取ると、仮面に手を添えながら胸におく。
「水持ってくるよ、リムルはシズさんの傍にいといてくれ」
「分かった」
俺はそう言って外に出ようとするが、そんな俺をシズさんは止めてくる。
「いいよ…、必要ないから。」
「え…?」
「シズさん…?」
「二人とも…ありがとう。
私はまたこの手で…、大切な人達を殺してしまうところだった…」
シズさんは弱々しい声で俺達に今まで経験したことを話していく。
魔王のレオン・クロムウェルに召喚され、イフリートを憑依させられ、友達を殺めてしまったこと…。
勇者と出会って一緒に旅をしたこと、その人もどこかへ行ってしまったこと。
そして人々を助けたいと、強くなろうと決意して英雄と呼ばれるようになり、何十年も頑張り、冒険者を引退した後は、学校の先生として異世界人の子ども達を指導したこと。
長い時を生きるにつれてイフリートの制御が困難になり、シズさんは最後の旅に出た…、自身をこの世界へ召喚した魔王レオン・クロムウェルを探すために。
そしてシズさんはカバル、ギド、エレンの3人と出会い、俺達と出会った。
「もう何十年も前にこっちに来て、辛いことも沢山あったけど、良い人達にも沢山出会えて…、最後にはこんな奇跡みたいな出会いがあった。
心残りが無い訳じゃないんだけど…、私はもう…、十分生きたから…」
シズさんは笑顔でリムルを撫でて、俺を見つめる。
「ねぇスライムさん、本当の名前は何ていうの?」
「え、俺はリムル…」
リムルがそう言うと、シズさんは首を横に振る。
「本当の…名前」
「…俺は悟、三上 悟」
リムルがそう話すとシズさんは俺に顔を向ける。
「リアス君は?」
「俺は航、松葉 航…です」
「私は、静江…井沢 静江」
…久々だな、本名を名乗るのは。
「シズさん、もう眠った方が…」
俺がそう言うと、シズさんはリムルに話していく。
「悟さん、お願いがあるんだけど…聞いてくれる?」
「いいよ、なんでも言ってくれ…」
リムルがそう返すと、シズさんは弱々しい口調で話していく。
「私を…、食べて…」
「っ!?」
「…マジっすか」
俺は驚いた表情でシズさんを見る。
「私の呪いを…食べてくれたみたいに、嬉しかった。
私は、この世界が嫌い……でも憎めない。
まるであの男のよう。…だから、だから…。
この世界に取り込まれたく、ない…。
最後の、お願い…私を、君が見せてくれた故郷の景色の中で…、眠らせてくれないかな…?」
俺の目には既に涙が浮かんでいた。
抑えようにも抑えることが出来なかった大粒の涙が、俺の頬を伝っていく。
「…いいよ」
リムルは静かにそう承諾する。
確かに、シズさんの望みがそれなら、そうしてやるべきだろう。
「静江さん、あなたは…魔王に何を聞きたかったんですか?」
シズさんは俺の言葉に続けてくる。
「…私と言う人間がいた事を…認めさせたい、かも、しれない。
それに、もし…あの子達が、救われ…元の、世界に…」
シズさんの声が霞んでいく中、俺とリムルはシズさんの手を握る。
「静江さん…」
「約束しよう。三上悟、いや、リムル・テンペストと…」
「リアス・テンペストの名にかけて」
「魔王にきっちりと、あなたの思いをぶつけてやるよ!」
「心残りである教え子達のことも、シズさんの思いも、俺達が受け継ぎます。
…約束しますよ」
「…あり、がとう」
俺達の言葉にシズさんは小さく呟き、シズさんは眠りに就いた。
そしてリムルは捕食者を発動させて、シズさんを優しく包み込んでいく。
「…シズさん、どうか安らかに…」
涙を拭った俺は、そう呟きながら手を合わせた。