問題児たちが異世界から来るそうですよ?人魚の恩恵 作:ホモ・サピエンス
「おやぁ?誰かと思えば最底辺コミュニティの“名無し”のリーダー、ジン=ラッセル君じゃあないですか。」
その男は大牙よりも頭ひとつ抜けた2mを超える巨体をタキシードで包みいかにも安っぽい笑みを大牙たちに向けた。
ジンは嫌な顔を隠そうともせずに突如現れた男に返事をする。
「僕達のコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレスガロ”のガルド=ガスパー。」
「黙れっ、名無しめ!聞けば新しい人材を呼んだらしいじゃねぇか、コミュニティの名と旗印を奪われてなおそのままでいるなど、未練がましいにも程がある!――――――そうは思いませんか皆々様?」
そう言ってガルドは大牙たちに愛想笑いを向け勝手に空いてる席に腰を下ろす。飛鳥はそんなガルドが気に入らないのか冷たい対応をする。
「失礼するなら、まず名前を名乗り一言添えるのが礼儀ではないの?」
「これは失礼。私はコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、って待てや小僧!」
ジンに横槍を入れられガルドは怒鳴り声を上げると同時に口が耳元まで裂けて肉食獣のような牙をみせる。
「口を慎めよ、小僧ぉ・・・紳士で通っている俺にも我慢ならん事があるんだぜぇ?」
「森の守護者としてのあなたになら礼儀を尽くしたでしょうがいまのあなたではここを荒らしていく獣にしか見えません。」
「ストップ。事情は分からないけどあなたたちの中が悪いのはよくわかったわ」
あまり良い雰囲気出ない、いやむしろ悪い雰囲気で飛鳥が声を出して二人を引き止める。
「 その上で質問したいのだけれど・・・ジン君?」
飛鳥はジンに向かって鋭い視線をおくる。
「私たちのコミュニティの状況・・・・・・そこのガルドさんが言っていたことをしっかりと説明して頂けるかしら?」
「そ、それは」
ジンは言葉に詰まる。自分はいま大きな失敗をしたとその時に気がついた。
飛鳥はまだ言葉を出して行く。
「ジン君、あなたはコミュニティのリーダーなのでしょう?なら黒ウサギと同じようにコミュニティについて説明する義務があると思うわ?」
ジンは黙ったまま何も言えなかった。それを見たガルドは明らかに得意な顔になり、上品ぶった声で、飛鳥に話しかける。
「レディ、あなたの言う事は正しい。ですがそれを彼に話させるのはあまりに酷なことでしょう。なので私がこのジン=ラッセルが率いる“ノーネーム”の状況について説明させては貰えませんか?」
飛鳥は冷えた目をガルドに向けながら、
「そうね。お願いするわ。」
「ええ、お任せ下さいレディ。―――そもそもコミュニティは複数の人が集まる組織の総称です。それは家族とも組織とも何らかの機関とも国とも言い換えられます。そしてコミュニティは活動する上で“名”と“旗印”を箱庭に申告をしなければなりません。特に旗印はコミュニティの縄張りを示す重要な物。この店にもかかっています。これが旗印です。」
ガルドは店頭にある“六本傷”の旗を指さしながら説明を続ける。
「この旗印はこの店を経営するコミュニティの縄張りであることを示しています。もしコミュニティを大きくしたいならコミュニティ同士で旗を掛け、ギフトゲームをしたら良いのですよ。実際私のコミュニティもそのようにして大きくしましたから。」
自慢げに語るガルドは着ているタキシードに刻まれている旗印を指し、噴水の広場の店に白道たちの目を向けさせる。―――そこには同じような旗印が飾られていた。
「なるほど、ならあんたのコミュニティはここら一帯を取り締まっているってことでいいのか?」
少し感心した様子でピアスを弄りながらガルドに話しかける白道、ガルドはさらに得意げな顔をして、
「ええ!、その通りですよ!ジェントル!!ーーーさぁここからが本題なのですがここにいるジン君のコミュニティは昔はここ東側では最強のコミュニティだったのです。」
ガルドは少し姿勢を正して話を続ける。それに対して飛鳥は、
「それは意外ね、」
「リーダーは違いましたが、それでも人が作り出したコミュニティとしては本当にすごい事だったのですよ。私も嫉妬を通り越して思わず感心してしまうほどでした。先代はですがね。」
ジンはまだ黙ったままガルドの話をきいている。訂正がないということは事実だと言うことなのだろう。
「だが彼らはこの箱庭で決して敵に回しては行けないものに目をつけられてしまった、そしてそいつらのギフトゲームによってたった一夜で滅ぼされてしまったのです。―――最大最悪の天災、魔王によって。」
「「「魔王?」」」
三人は口を揃えて声を出した。なんじゃそりゃと言わんばかりの声だ。
「ええそうです。魔王とは“
一通りの説明を終えたのかガルドはまたタキシードの襟を正してた。
「なるほど。食い物にされ、崖っぷちに追いやられたわけだ」
大鮫はふーんとつまらない返事をする。
「そうまさに崖っぷちと言えるでしょうね。考えても見てください、名乗りをあげることの出来ないコミュニティは一体何が出来るとおもいますか? 商売も主催者も名前のない組織では信用がありません ギフトゲームの参加者ならばできるでしょうがそんなへんぴなコミュニティに誰が加入してくれるのでしょね?」
「そうね。・・・誰も加入したいとは思わないでしょうね。」
「そしてさらにコミュニティの活動は全て黒ウサギに支えてもらっているのです。“箱庭の貴族”と名高い黒ウサギはそんな日銭稼ぎのために毎日毎日走り回っている。他のコミュニティに入れば破格の待遇を約束されていると言うのに。全く不憫でしかたがないですよ!!」
ガルドは声高らかに喋りながらジンをみる。ジンは否定出来ないのか拳を力一杯握りしめてローブにシワを作り悲痛の顔を浮かべている。
「はぁ、それでガルドさんは一体どんな理由で私たちにそんな話をしてくれるのかしら?」
飛鳥はため息混じりにガルドにといかける。
「単刀直入にいいましょう。もしよろしければ黒ウサギ共々皆さん私のコミュニティにきませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!!」
「うるせえぞ、そもそもはてめぇがさっさとコミュニティを解散しないからだろうが、名前と旗印を改めていればこんな最悪の事態は防げたはずだ。違うかよ。」
ガルドは怒気を含んだ声でジンに問う。それには何も言えないのか、ジンはまた黙り込んでしまった。
「どうですか皆様?返事は直ぐにとは言いません。一度私のコミュニティと彼のコミュニティを見比べてからでも・・・」
余程の自信があるのかガルドは真っ直ぐな笑みを大牙たちにむけていたが、
「結構よ。私はジン君のコミュニティで間に合ってるもの。」
「「は?」」
意外にもガルドとジンの声が被り同時に飛鳥の顔を伺う。
飛鳥はそんな目線を気にもせずに耀と大牙に話を振る。
「春日部さんと大鮫くんはどう?」
「別に、どっちでもいい私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの。」
「あら、意外ね!じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら?」
飛鳥はそう口にした途端髪の毛を触る。なれないことを口にしてはずかしかったのだろう。
「うん、飛鳥は私の知る人達とちょっと違うから大丈夫かも、」
「あら、嬉しいわ。大鮫くんはどうするの?」
「別にジンのほうでいい」
そんなことどうでもいいと大牙は飛鳥と春日部に向けて言った。
「そんな雰囲気で決めていいの?後悔しない」
飛鳥は少し挑戦的に大鮫に返答し、春日部は興味なさそうな表情を浮かべる。
「あぁ、俺はそこのえせ紳士が嫌いだ。だから消去法だ」
「消去法って受動的な男なのね」
飛鳥はニヤニヤと笑いのがら言葉をかいしていた。春日部はそれでも興味がないのかぼーっとどこか別の場所を眺めていた。
二人とは対照的にガルドは顔を引き攣らせながらもう一度三人に問いかけた。
「失礼ですが、理由をお聞きしても?」
「だから、間に合ってるのよ私は、久遠飛鳥はーーー裕福な家庭も約束されている将来も支払ってこの箱庭に来たのよ。それを小さい地域を支配してるだけの組織の末端になった所で何も魅力にならないわ。分かったら自身の立場を理解して出直してきてほしいわね、エセ虎紳士さん?」
挑発的な声音で問いかける飛鳥、白道は笑いが込み上げているのを押さえ込んで体が小刻みに揺れている。
ガルドは怒りに身を震わせながらも必死に次の言葉をだそうとする。
「お言葉ですがレデ、」
「『黙りなさい』」
ガチン!と音がなるほど音を立ててガルドは口を閉じる。本人は混乱しながらも口を開けようとするが一向に開かない。
「私、あなたの話を聞いて聞きたいことが出来たのよ。『あなたはそこに座って、私の質問に答え続けなさい』」
飛鳥の言葉に力がこもりガルドは椅子にヒビが入るほど勢いを付けて座り込んだ。
パニックを起こしているガルド抵抗しようと試みるが何をしても、いや何をしようとしても体が動かないのだ。
その様子を聞きつけた猫耳店員は奥から急いで飛んできた、
「お、お客さん!店内での揉め事は控えてください!」
「ちょうどいいわ店員さんにも聞いてもらいましょう。これからこの人から面白い話しが聞けるはずよ。」
なんのこと?と言った顔の猫耳店員は黙って話を聞くことにした。
「あなたはこの地域のコミュニティに両者合意で勝負を挑んでそしてコミュニティを大きくしたのよね?でも私が聞いたギフトゲームとは内容が違うのよ。ギフトゲームは主催者とそれに挑戦する人がチップを賭けて行うもののはず。―――ねぇジン君?コミュニティそのものをチップにするゲームはありえるのかしら?」
「や、やむを得ない状況なら稀にあります。しかしそれは本当にレアなケースです。」
「そうよね、それぐらいなら箱庭に来たばかりの私にもわかるわ、その上でコミュニティ同士の戦いを強制できるからこそ魔王はおそれられているのよね?どうして魔王でもないあなたがそんな勝負を続けられたのか《教えてくださらない?》」
ガルドは必死に抵抗しているのだろうが口はその意思に反して言葉を紡いでしまう。その光景を見ていた者達はガルドの様子を見て悟ってしまう。
ーーー此処にいる久遠飛鳥の命令には逆らえないのだと。
「強制させるのは簡単だ、相手のコミュニティから女子供をさらっては脅迫し、無理やりゲームに参加させる。」
「まぁそんな所ね、でもそんな方法で吸収した組織があなたの下ではたらいてくれるのかしら?」
「各コミュニティから子供を人質に取っている。」
「ーーーそう、外道の鏡のようね。それで、子供たちは今どこに?」
「もう殺した」
その場の空気が凍りついた。その場にいた全員が思考を停止していた。唯一動き続けたのは飛鳥に命令されたガルドのみだった。
「初めてガキを連れてきた日に泣き声がうるさくて思わず殺した。自重しようとしたがイライラして殺した、それからはさらった日にまとめてその日に始末することにした。」
ガルドのみ言葉を紡ぐ、その言葉を受けてジンや飛鳥はガルドのいっている言葉が理解できなかった。
いや、理解をしたくないと頭がガルドの言葉を拒否しているような錯覚をしていた。
「身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る、始末したガキの遺体は腹心の部下に食・・・
バゴンッ!!
肉と肉が激しくぶつかり、骨が砕ける音が聞こえる。
音が鳴った瞬間にガルドは座っていた椅子から後方に吹き飛び、まだ飛鳥の恩恵のせいで起き上がれず地面に転がった。
「黙れ下衆。茶が不味くなる」
立ち上がり殴った当の本人はまた椅子にゆっくりと腰掛けてもう一度茶を啜る。不思議なことに大牙の拳から聞こえた骨の砕ける音が聞こえたが大牙は殴った手を使っていた。
「素晴らしいわ。ここまでの外道にはなかなか出会えないわ。箱庭にはこんなやつばかりがいるのかしら?ジン君?」
飛鳥は地面に転がるガルドを見て冷ややかに言う。
「彼のような悪党には箱庭でもそうはいませんよ。」
「そう、それは少し残念ね、ところで今の証言で彼を裁くことはできるのかしら?」
「厳しいです。裁けることは出来ますがその前に彼が箱庭を出ればそれまでです。」
「そう、ならしかたないわね。」
そう言って飛鳥は指を鳴らす。それを合図に地面に転がっていたガルドが
「こ、こ、こ、この小娘共がああぁぁ!!!」
その雄叫びと共にガルドの体が変化する。その巨体はさらに大きくなり体には黄色と黒の毛皮が生えてくる。
いわゆるワータイガーと呼ばれる混在種。それがガルドのギフトだった。
その剛腕を振りかぶり飛鳥に向かって思いっきり振り落とそうとするが春日部が腕を掴んで回すようにしてガルドをまた地面に押さえつける。
「喧嘩はダメ。」
春日部は冷静な声だったが少女の細腕でガルドの巨体を押さえつけている姿は不思議を通り越してもはや恐怖の光景だった。
「てめぇら分かってんのか!この俺に喧嘩を売るのは俺の後見人である魔王に喧嘩をふっかけることなんだぞ!!」
「それが何?私たちはこれから魔王を倒し“名”と“旗印”を取り戻すのが目標なのよ。そんな脅しにいちいち怯んだりしないわ。」
「・・・はい、僕達の最終的はコミュニティの完全復活です。今更そんな脅しには屈しない!」
「く、くそったれ!」
そんなジンの強気な言葉にガルドは思わず悪態をつく。
「でもね、私はそんなことでは満足しないの、あなたのような外道はここでズタボロになって置くべきなのよ。」
飛鳥は地に伏せているガルドに挑発的な笑みを浮かべて話しかける。
「そこで、提案なのだけど私たちと『ギフトゲーム』をしましょう?あなた達“フォレスガロ”と私たち“ノーネーム”の維新と誇りを賭けてね。」