はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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誤字脱字報告ありがとん
》kuzuchiさま


その5【疑い】

 ポートガス・D・エースを追いかけて西へ東へ北へ南へと海を渡ってきたハートの海賊団にとって、海中を進むなど慣れきったものだ。マリンフォードからだいぶん離れた位置で海上の安全確認を終えると、ぴょこんと頭を出した。

 こちらを目指してくるはずの青い鳥と――が降りられるように。

 

 ――頭部の半分が切り裂かれている白ひげの手術をし、しおしおにしなびた青菜(ルフィ)を機械に繋いでカルテを作り、おびただしい傷を負ったイワンコフやジンベエらを病室に放り込み。一仕事終えたハート外科医院の院長先生が食堂に顔を出したとき、ポートガス・D・エースはチャーハンに顔を埋めて死んでいた。

 ローはぎょっとして立ち止まった。

 

「は? 死んでる?」

「あ、キャプテン! 大丈夫ですポートガス死んでません! 飯を食ってる途中でまさかの寝落ちです!」

「――なんだ」

 

 クルーの誰一人としてエースの救命処置を行っていなかった理由が分かり、ローは胸を撫で下ろす。

 

「まあ、親父さんの手術が終わったから安心したんだろうよ……。シュワルツだってそうだろ、飯食いながら寝る」

「ってことは、ポートガスも……赤ちゃん……?」

「あらあら随分図体のでかい赤ん坊ですこと」

「ばぶー! ぼくもバブちゃん! お皿のお片付けしないでおネンネする!」

「脳みそが退化したのかお前」

「おいら料理作るの疲れたバブ! 今日の晩飯は適当に食えバブー!」

「赤ちゃんならお前のパンツ全部捨てておしめに変えるけど、いいよな?」

「やめてほしい」

 

 おむつ姿の成人男性など想像したくもないが、悲しいことにこれがポーラータング号の日常だ。――バブちゃんと言おうか馬鹿じゃんと言おうか、赤ん坊を自称する何か(・・)が複数誕生した食堂は乳児保育所と化した。

 騒がしかったからだろう、ポーラータング号における二人目の赤ちゃんことポートガス・D・エースが勢いよく顔を上げ――チャーハンが飛び散る。

 

「ここはッ!?」

「おはようベイビー」

「おネムならお布団行きなベイビー」

「客間があるよ」

「病室もな――良ければ入院していくか?」

 

 優しい声かけをまるっと無視して周囲を見回し、エースは「そうだ、乗ったんだった」と頷いた。そしてローに気づくと飛び上がるようにして席を立ちローに駆け寄る。

 

「あんた、なあ、親父は!?」

「手術は終わってる――先にクルーに伝えさせた通り、あの怪我については全治二ヶ月ってところだろう。流石は四皇ってところだな」

「二ヶ月安静にしてれば……親父の怪我はみんな治るのか……?」

「おれを誰だと思ってる?」

 

 自信に溢れた態度でそう言い放ったローに、エースはとまどいの表情を浮かべる。

 

「え、知らね……ルフィの友だちだろ」

 

 ローは俯いて帽子のつばを下げた。微かに手が震えている。

 

「うわ……」

「知らないのか、情報収集不足だなぁポートガス! キャプテンはすげーんだぜ!? 五百年に一人いるかいないかって天才外科医だ!」

「悪意の欠片もない無垢な目をしやがってコイツ」

「教えてやろう。うちのキャプテンは人呼んでブラ○ク・ジャック……つまり、治せない患者はいない」

「信じらんねぇ、恩を仇で返しやがった……無自覚だけど」

「キャプテン泣いちゃうよ」

「ポートガスおまえ手配書見てねーのか! うちのキャプテンは死の外科医って通り名で有名な新進気鋭のルーキーだからな!?」

 

 エースを囲んで餌場のカラスのごとくガアガア騒ぐクルーらに、エースは少しのあいだ目をきょとんと瞬いて――にかっと笑んだ。

 

「そうか。お前らも自分の船長が大好きなんだな」

「ややややめろよ、そんな当たり前だろぉ」

「まあキャプテンいてこそのおれらですし?」

「そんな褒めるなよ、照れるじゃん」

 

 チンアナゴと化したクルーたちを気にも止めず、エースは「なあ」と再び口を開く。

 

「どっかから歌声聴こえてこねぇ? 若い女の」

 

 ハートのクルーは顔を見合わせた。確かに船内で歌を歌っているクルーはいるけれど、彼女は防音室にいる。

 ローは防音室のある方向を見て、言った。

 

「聴こえてるのか――。ああ、この船には歌を歌ってるやつがいる。いるが今ソイツは別のことにかかりきりでな、今すぐは紹介できねぇ」

 

 ――吸音素材の壁に囲まれた部屋で、紅白の長髪が激しく上下する。

 

「見たことない新しい景色」

 

 鰐を模した黒い仮面が彼女の顔の上半分を覆い、見えるのは口紅で赤く輝く口元。

 フリルのついたシャツの袖はピアノの鍵盤を模した柄、濃紺のマントの裾はフリンジがついてヒラヒラと揺れている。

 

 ふわふわと波打つ黒髪の女は難しい表情で少女を眺めている――耳には遮音のためのヘッドホン。

 

「――私は最強」

 

 私こそ生きた楽器(・・・・・)と言わんばかりに、少女は高らかに歌う。それが彼女の武器だから。

 

 ――青い炎の塊と黄金の影が、いま、この船を目指していた。

 

****

 

 マルコが持つビブルカードが示すのは、大海原に実る穂のような黄色の船。羽ばたいて甲板に降り立つ――船内への扉は「自由に入れ」とばかりに開け放たれている。

 

「お邪魔するよい」

 

 一声かけて中に入り、気配の多い場所を目指して歩く。近づいて聞こえてきた声は楽しげで賑やかだ。

 

 覗き込んだ部屋はテーブルと椅子の多さからして食堂だろう――思った通り奥にキッチンがあった。美味そうな顔をして飯を食っているエースの姿に一つ安堵のため息を吐いて扉を開ける。

 

「お邪魔してるよい」

()んんん(マルコ)!」

 

 口の中にチャーハンをパンパンに詰め込んだ末っ子の様子からして、この船――ハートの海賊団は敵ではないようだ。が、手配書で見かけた特徴的な帽子の男はマルコを見定める目をギロリと向ける。

 

「よう、よく来たな。白ひげ海賊団1番隊隊長……不死鳥マルコ」

「お前は死の外科医トラファルガー・ロー、だったか」

 

 睨み合う二人、獲物を狙う目をしたクルーら、口の中のチャーハンを咀嚼するエース。

 

「不死鳥マルコ、か」

「尾羽根、尾羽根だ尾羽根、尾羽根を毟るんだ」

「死者蘇生アイテム来ましたわコレ」

「実験してぇ……」

「んんんん!? んん! んんん、んんんんん!!」

 

 マルコは先ず両腕を上げ――次にクルーらを指差す。

 

「うちの末っ子を保護してくれたんだ、敵対するつもりはねぇよい……ただ素材扱いはやめさせてくれ」

 

 ファンタジー脳のクルーらは「あっちいってろ」と散らされ、エースは再びチャーハンにレンゲを突っ込んだ。「ここのチャーハンはうまい」らしい。

 

 マルコが1番隊の隊長であることは有名だが、白ひげ海賊団の医者を兼任していることを知る者は少ない。しかし情報収集を欠かさず――幅広い情報源も持っているローは、マルコが医者であることを知っていた。

 

「おれの見立てで白ひげの怪我は全治2ヶ月……だが、それは今回(・・)の怪我に関してだけの期間だ」

 

 ローの含みを持った言葉にマルコは胡乱な目を向ける。

 

「……何が言いたいよい」

「腕に点滴の跡がいくつもある。背中を見たがありゃあ胸椎が(・・・)何箇所か(・・・・)砕けた(・・・)な? 白ひげが目覚め次第セカンドオピニオンを行う。血液検査は後日に回すしかないが……寝てる今のうちにMRI撮っちまうか。尿検査もさせろ。いいな?」

 

 マルコはぎゅうと唇を引き結んだ。

 

 これまで白ひげがセカンドオピニオンを受けなかったのは、白ひげの弱体化が外部――海軍などへ漏れる心配があったからだ。白ひげが病気だと広まれば海軍も木っ端海賊も活気づいてしまい、海の治安が悪化する。だからこれまでずっとマルコが白ひげの治療を担当してきたのだ。

 ――だが、マルコはずっと不安を抱えていた。

 

 自分が出した結論は、病名は正しいのか? この治療を続ければ親父は元気で長生きできるのか? 何か致命的な見落としをしている可能性はないか?

 トラファルガー・ローは親父やエースの手当をしてくれた――ここは隠さず、頼るべきだ。

 

 ゆっくりと頭を下げる。腰をほぼ直角に折り、ローに首を晒した。

 

「願ってもない、ことだよい。トラファルガー先生、親父のセカンドオピニオンを、お願いします……!」

 

 絞り出すような声に二人を振り返ったエースは、レンゲをテーブルに置いてマルコの隣に走って並ぶ。そしてがばりとローへ頭を下げた。

 

「トラ先生。おれからも、親父をよろしくお願いします!」

 

 ローの耳の奥に懐かしい声が響く。『先生、ローを助けてやってくれ! 病気なんだ……!』『ロー、きっと次の先生はちゃんとお前を診てくれる』。黒い羽毛で着膨れたもこもこの背中はいつもローの手を引いて、ローを気遣って、ローを優しい目で見た。

 その背中こそが、ローの目指す男の姿だ。

 

「……ああ、任された」

 

 ここからは医者と患者家族ではなく医者同士の顔に変わる。

 

「これまでのカルテは?」

「直近のはモビーともども沈んだが、半月前までの分なら写しがある。比較的近くの島だから二日くれれば全部ここに運べるよい」

「頼んだ。ただおれたちの船は潜水しているのが常でな。うちの電伝虫を一匹貸すから接近したときに掛けてくれ、浮上する」

「よい。……電伝虫、か」

 

 電伝虫と聞いて、思い出す。一部の海賊――数年前の『ドレスローザ祝砲撃祭り』に参加した連中は知っているのだ。でんでん読み聞かせ物語の語り部が天竜人の【マリアローズ宮】であることを。

 

 エースの処刑というビッグイベントを隠れ蓑にしたことも、マリージョアを襲撃したことも、手段を選ばぬやり口だが理解できなくはない。天竜人はそれだけの恨みを買っている。

 だが、マリアローズ宮を巻き込んだことは許せない。彼女は天竜人唯一の良心と言うべき人だというのに、どうして彼女が。

 

「どうした?」

「いや……そうか、ルーキーなら知らねぇのかよい。マリージョアが襲撃されて天竜人が二人死に、一人は生死不明って言ってただろ? あのマリアローズ宮ってのは――」

「マリアローズだ、思い出した!」

 

 マルコの言葉に被せるようにして叫び――エースは、言った。

 

「オバちゃんのことを海兵がマリアローズって呼んでたんだよな。オバちゃんの名前はマリンローズなのに変だなと思ったんだけどよ……」

 

 その瞬間、船がぐらんと揺れた。攻撃されたわけではなさそうだ。着弾の音はしない。身構えたマルコたちをローは手で制した。

 

「外に出てたうちのクルーだ」

 

 大きなものが風を切る音が近づき――

 

「みんなただいま!」

 

 鰐を模したフルフェイスの兜に黄金の鎧を身に着けた女が、食堂の扉を蹴り飛ばした。女の腕には毛布に包まった白髪の女性。

 食堂のあちこちから「おかえりー」と声が上がる。

 

「見てよママだよママ! ほら! ママ!」

「あ、オバちゃん」

「お疲れ様、ウタ」

「黄金の全身鎧、黄金聖○士か!? ワニ座、は存在しねぇから、とかげ座……!?」

「とかげ座? 私てんびん座だけど。っていうかあなた誰……?」

「童虎が……女……?」

 

 混乱するマルコをよそに、白髪の女は鎧姿の女の腕から床に降り立つと胸に手を当てて微笑んだ。

 

「マリアローズ改め、ポートガス・D・マリンローズ。以後よろしく――で、これってどういう状況なの?」

 

****

 

 白ひげが目を覚ましたとき、彼は白く清潔な病室に寝かされていた。室内にはイワンコフやジンベエもいて――彼らはどちらも知った顔だったが、一人、白ひげの枕元で本を読んでいた女は知らない顔だった。

 小柄な体格、白髪に稲穂色の瞳。――やはり全く見覚えがない。

 

「起きたんですね。ローくんを呼びますから寝ていてください」

「あんたは……」

 

 顔には覚えがなかったが、声には覚えがある。でんでん読み聞かせ物語の声――皆で電伝虫にかじりつくようにして聴いていたあの声だ。

 女は背もたれのない丸椅子からゆっくりと立ちあがると、するすると歩いて病室を出ていく。

 

「おい、起きとるだろうそこの二人」

「はい……」

 

 ジンベエは頭を横に振りながら体を起こしたが、イワンコフは返事せず天井を睨んでいる。

 

「やはり、タイガーの言っていた通りのようだ。実際に見て分かった」

「しかしあの歪みと言いますか、なんと言いますか……心配になりますわ」

 

 二人には確信があった――あの女はマリアローズ宮で間違いない、と。あの声の持ち主が二人も三人もいるわけがない。

 だが、あの貧弱極まりない四肢は何なのか。白ひげやジンベエが軽く撫でるだけで骨折するのではなかろうか。体を鍛えられる環境になかったとしても、あれではあまりに弱すぎる。

 

 イワンコフは体を起こし、見当違いなことを言う二人の顔を順に眺めて鼻を鳴らす。「あんたバカァ?」などと言いそうな表情だ。

 マリージョアと海の上とを同じように考えてるから「歪んでる」なんて言うけどねと、イワンコフはジンベエに向かって人差し指を立てる。

 

「聖地の常識はヴァターシたちの非常識よ。あれ(・・)が生きるために必要な選択だったなら……歪んだんじゃなくて適応進化ってことッチャブル」

 

 無力です、弱いです、単独では何もできません、そうアピールすることでしか生き残れなかったのなら、彼女があの姿であることは正しいのだ。

 イワンコフがそう言い切ったとき、病室のドアを開けて入ってきたのはトラファルガー・ローとハートのクルー。

 

「患者ども、大人しく寝て腕を出しな」

「血圧と体温を測りますからねー。覇気とかで体表硬化させたりわざと体温上げたりしないでくださいねー正確な数値が測れないのでー。仮病はすぐバレますよー、はい腕触ります」

 

 マリアローズの話題は一旦中断、三人は順にローの診察を受けた。

 簡単な問診を終えるとローはクルーを連れてさっさと病室を去った。

 

 五分ほどしてマルコが病室に顔を出す。

 

「親父、起きたんだな。ジンベエも」

 

 ジンベエはマルコに「ああ」と頷きを返す。

 

「ありがとう。この通り元気じゃ」

 

 安堵した様子のマルコに白ひげは訊ねる。

 

「……エースはどうしてる」

「怪我の具合って点なら元気だ。ただ牢屋暮らしの疲れか今は寝てるよい」

「そうか」

「あとは――体はともかくとして、心の方は分からねぇ。今はまだ気が昂ぶってるから何ともなさそうだが、明日かそこらからから注意して見とくよい」

 

 エースを助けるためにたくさんの仲間が死に、モビー・ディックも沈んだ。

 

「そうか。ああ……何人死んだんだろうなァ」

 

 傷つき倒れていった息子たちの姿を目の裏に思い浮かべる。ベッドの上で死ぬなんてのはまっぴらごめんだと、死ぬなら家族を守るために死にたいと、そんなことを言いながら笑っていた彼らの顔を。

 肺を押しつぶさんばかりの重いため息が漏れる。

 

「元気な息子ばかり死んで、おれみたいな病気の老いぼれが生き延びちまったなァ」

「親父」

「分かっとる」

 

 廊下の外からキャアキャアという幼児のはしゃいだ声が聞こえてくる。この船も赤ん坊を乗せているのか――郷愁に似た感情が白ひげの胸を満たす。

 これから白ひげ海賊団は解体か、解体とまではいかなくとも規模の縮小は避けられない。死にすぎたのだ。

 

「少し休む……マルコ、お前も休め」

「……ああ」

 

 ベッドに沈み込んだ顔は疲れ切って――老いていた。

 

****

 

 モンデンキントはDの一族かもしれない、とは思っていた。Dの名を持つものは良くも悪くも「世界を変える」と言われており、その言葉通りモンデンキントは世界を変えた。

 

 でんでん読み聞かせ物語がしたことは、人々の識字率を上げ、学ぶことの大切さや面白さを広めただけ、ではない。

 いくつか例を挙げるなら、でんでん読み聞かせ物語は、「悪質な経済テロのやり方」について専門知識を交えつつ放送し、「知識がないがゆえに搾取される」危険と現実を教え、「環境が怪物を作る」と天竜人を揶揄した。……つまり、危険思想をバンバン流していたわけだ。

 

 それで活気づいたのが革命軍で、拍手で喜んだのが四皇そのほか規模の大きな海賊団だった。自由を求めるから体制に逆らい、自由でいたいから体制から逃れた――彼らに自由という名の毒を海に注ぎ続けた女が、いまマルコの目の前にいる。

 

「シュワちゃん可愛いわねぇ、チューしちゃう。あーたーまー、おーでーこー、おーてーてー」

 

 さきほど食堂に戻ってきたマリアローズ宮改めマリンローズは、ニコニコと楽しそうに二歳から三歳くらいだろう幼児にキスを繰り返している。海賊船の中だということを忘れる平和な光景だ……生死不明と聞いたのだが。

 質素な食堂の椅子に似合わないドレス姿なのはここに来る前マリージョアにいたからだろうか? あちこち埃やらなんやらで汚れているとはいえ元々のモノが良い。

 

「おーへー……あら。おーなーかー。おなかおなかおなか!」

 

 濃い色の肌にチュッチュッと降るキスの雨がくすぐったいのだろう、シュワちゃんなる幼児は体をよじりながらキャラキャラと笑い声を上げる。

 

「流石みんなのママだぜ……ちびっこの相手もお手の物ってことか。見ろよシューのあの姿、いつもと全然違うぜ」

 

 シュワちゃんはさっきまで食堂を縦横無尽に走り回っていた。あれの面倒を見るのは大変だろう。

 

「そういやうちの近所、あんな風に子供あやしてる母親いたわ」

「今だけでいい、シュワちゃんになりたい。ママに優しくチューされたい」

 

 そんな会話を聞き、マルコは確かにと頷く。あんな風に我が子をあやす親を見た覚えがある――幸せそうな親子だった。

 シュワちゃんを見るマリンローズの目は優しい。

 

 シュワちゃんのお腹を指先でこしょこしょとくすぐり始めたマリンローズに、黄金○闘士疑惑の女――ウタがスリスリと肩を寄せる。

 

「ねえママ、ママは変装どんなのがいい? 私は髪を私とおそろいの紅白に染めるのいいと思うんだよね。髪の色が違ったら印象変わるし、ママと私で親子っぽさが増すでしょ? 政府とか海軍がママを探してても『白髪の独身女性』って思い込みがあるだろうから私はこの案が一番のおすすめ。それに私を見た人ってだいたいみんな頭の色ばっかり見てるから顔は全然見てこないの。だからお揃いにしよ?」

 

 いつ息継ぎをしたのだろうと疑うほどの勢いで語る女の髪は白と赤の二色で、マルコの古い記憶を刺激する。紅白カラーで、ウタ……そうだ。

 赤髪海賊団にいたチビだ。赤髪が片腕を失っていたせいで追求を忘れていたが、十年近く前にいなくなっていた「赤髪海賊船の音楽家」だ。

 

 なるほど自分の仲間(・・・・・)を見つけたらしい。

 

「反対! ここは紅白ではなく赤と黒もしくは白黒ヘアがいいと思います!」

「ほほう、その心は!?」

「紅白だとキャプテンがハミ子にされるから!!」

 

 トラファルガー・ローは黒髪だ。だがどうして毛染め程度のことでハミ子がどうのという話になるのか。首を傾げるマルコをよそに、ウタは真剣な顔で「そうだよね……」と悩み始める。

 

「ローもお揃いにしないと。……ローの髪を紅白にするって、どう?」

「そりゃめでてぇ、キャプテン嬉しくて泣いちゃうね」

「えーんえーん、ハミ子にならなくて良かったよえーん的な」

 

 ナハハハ、と笑うクルーたちのすぐ近くに、いつの間に食堂に入ったのか、般若の顔をしたトラファルガー・ローが音もなくぬるりと迫る。

 なるほど、お揃いか。クルーもみな同じ作業着姿だ――若いなぁ。

 

「お前らァ後ろ後ろ」

「えっあっ違うんですキャプテンぼくは違います分かってくれますよね」

「はわわわぼくたちが話してたのは悪口じゃなくて軽口なんです! かわいい軽口!」

 

 バカ二人とも殴られた。

 

「下らねぇ話ししやがって……。おい、不死鳥屋」

「よい」

「白ひげ屋との面会を許可する。行ってやれ」

 

 マルコは壁から背中を浮かせた。客間で寝ているエースを起こすか迷い――寄り道せず病室に向かった。




熱出て寝てるので、誤字脱字報告もらってもすぐには直せません。―2022/10/29現在―
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