誤字報告ありがとうございマッチョ
》ユーグレナさま、不死蓬莱さま
エレジアの城の地下に収められた大量の書籍には歴史書から医学書から様々な分野の知識が揃っており、ローが医学書を読み込む横でクルーらも好きに本を読んでいた。
日記文学好きの一人が読んだのはエレジアの王族らが残した日記で、その中に――あったのだ。歌の魔王トットムジカに関する記述が。
「ウタワールドと現実世界とで両方から同時に攻撃しないと、魔王を倒せない……無茶言うなよ」
「見聞色の覇気の使い手が二人は必要ってことだよな」
「いや、見聞色の覇気の使い手ってのも必要だけど、同じ箇所を同時に攻撃できる戦闘力も必要だろ」
「要求されるものが多すぎるんだわ。解散」
そんな忌憚ない意見があれこれと出て――誰だったかが疑問を口にした。「なんで倒す方法わざわざ書いてあんの? 楽譜をわざわざ封印して残したりせずに燃やしちゃえば良かったのに」。
国一つ滅ぼすような危険な楽譜だ、何故かつてのエレジアの民は封印だけで済ませたのか。ロー以下クルーの面々は教室から黒板を運び込みまでして激しい議論を交わし、封印で済まされた理由を4つに絞った。
1つめ、あまりに素晴らしい曲だから惜しくて処分できなかった(楽譜に魅了された)。
2つめ、処分しようとしたら呪われたため、処分したくてもできなかった。
3つめ、処分しても処分しても呪いのイチマツニンギョウのごとく蘇った。
4つめ、この楽譜を悪用した犯人がいて、そいつが悪いだけで楽譜は悪くなかった。
そして開かれる映像電伝虫の無音上映会――暴れ倒している姿を見るに、歌の魔王には破壊衝動こそあれ、良心や理性はなさそうだ。黒板の板書きから4つめの項目が消された。
次に2つめと3つめだが、処分しようにも現物がないため確認できない。というわけで最後――1つめ、トットムジカは素晴らしい楽譜なのか?
その謎を解き明かすため、船員たちはウタのもとへ向かった。
「え……本気? ムリムリ、絶対ムリ。イヤ」
「そこをなんとか!」
「聴いてみたいんです!」
「危ないものとは分かっているけど興味関心を引くんです!」
「そんな興味捨てて!?」
「お願いします、この通り!」
「頼んます!」
すがりつき、揉み手し、真摯な瞳で見つめる面々を邪魔だとばかりに弾き飛ばし蹴り飛ばしたウタだったが、シロクマの姿を見て「うっ」と後退った。
ベポはニホン式ドゲザをしていた。
「お願いします!」
「や、やめてよベポ、頭あげて」
「お願いします! 聴かせてください!」
「やめてってば!」
「お願いします!!」
そんな二人もとい一人と一頭をよそに、外野は好き勝手なことを言い始める。
「すげぇ、チヒロ式恐喝じゃん」
「恐喝? まあ確かに恐喝か……懇願してるというより脅してるわな」
「『君がッ! 頷くまで! ドゲザをやめないッ!』って……コト……?」
「さすがウタ親衛隊の隊長だぜ。自分が聴いたことない歌声があるのが許せねぇんだ、きっと」
「働かせてくださいって場面、こんな圧力があったのか……そりゃあユバーバも許可出すわ」
宥めても怒っても梨の礫、てこでも動かずドゲザを続けるベポにウタも折れた。
「……分かった。すぐ眠れるように睡眠薬飲んでからなら、歌ってもいいよ」
――ウタはトットムジカがどんな歌なのか覚えている。十年前に一度歌ったきりのため記憶があやふやなところはもちろんあるが、好きこそものの上手なれと言うべきか、八割ほどは覚えているのだ。
ローから処方された強めの睡眠薬を水で胃に流し込み、ウタは深いため息をついた。この歌には嫌な思い出しかないのに……胸に重石が乗っているような心地だった。
そしておよそ三十分後。かつては毎日のように音楽家たちが楽器や歌声を披露した場所、屋外舞台にウタは立っていた。処方された睡眠薬が効き始めて眠い目には青空が眩しい。
少し離れた場所にベポたちが座り、ウタワールドに取り込まれないよう遮音ヘッドホンをしたローたちがその向こうに立っている。
ウタはそれを確認してから大きく息を吸い込み……腹の底から音を奏でる。
「雨打つ心」
雨? 嘘をつくんじゃない。見ろ、目がチクチクするくらい晴天だ。雨なんてどこにも降っていない。彷徨う……彷徨う? 正直なところ「彷徨う
眠気と戦うウタの脳内は回路がおかしくなってしまったらしい。眠いのはつまり寝が足りていないのだ。空はこんなに青いのに睡眠不足なのだ。歌いながら体が前後左右にゆらゆら揺れる。
口から迸るのはトットムジカのはずなのに、ママから誕生日プレゼントとして貰ったトーンダイヤルの歌が脳内でイス取りゲームを始める。トットムジカか、ママの歌か――ママの歌声が耳の奥で繰り返し流れだす。
睡眠睡眠睡眠睡眠睡眠不足♪ 睡眠睡眠睡眠睡眠睡眠不足♪ 睡眠睡眠睡眠睡眠睡眠不足♪
認知している世界がぐるぐる歪み、蛍光ピンクや紫の光が高速でぎゅんぎゅんと回り始める。腕と腕を絡めてその場でぐるぐるぐるぐる……だんだん光同士が溶け合って白く変わり、柔らかさを得て、まるでバタークリームだ。虎がヤシの木の周囲を走ったらバターになるってでんでん読み聞かせ物語でも言ってた。
えーっと。
「頭がちっとも働かない」
私は何を歌ってるんだっけ?
めちゃくちゃな歌を歌うウタの手の中には、古びた楽譜があった。
****
トットムジカとしての曲調や歌詞を保っていなくても
寝てしまったウタを舞台裏の休憩室に運び、背中をブリッジさせながらギャン泣く名無しの赤ん坊に七分粥を与えてご機嫌を取ったりして過ごすことおよそ一時間。満足して寝た赤ん坊と入れ替わるようにウタが目を覚ました。
「おはよう、いい朝だよ」
「睡眠は足りたか?」
「ウタ、ハイお水」
ウタは枕にしていたローのもこもこ帽子を顎の下から押しのけ、大きく口を開けてあくびしながら背伸びする。
「おはよ……水ありがと」
ベポに渡されたコップの水を干して一息ついた。
「で、どうだった?」
ウタは「トットムジカを聴いてみたい」というベポらクルーのために歌ったのだ。感想を聞きたいと思うのは当然だろう――が。
「……ワンテイク、モア!」
「途中からスイミン不足と混ざってたぞ」
「えっ、ウソ、マジ?」
「マジマジ。曲調めちゃくちゃだったよ」
「頭がガクガク揺れてて怖かった」
「ホラーじみてた」
「やけに転調しまくるなって思ってたらスイミン不足が侵食してただけっていう」
「歌声は天使でした。改めてもう一回やり直しお願いします」
「どうしてーこんーなに眠いのー♪ で腹筋が決壊したよね」
「……はぁー!? 私睡眠薬飲んでフラフラの状態で歌ったんですけど! 混ざったって仕方ないでしょ!?」
がー! と唸りながら両腕を振り上げて飛びかかれば「どうどう」「おちけつ」「怒っちゃいやん」「赤ちゃん起きちゃう!」と両手を上げる者、逃げる者、自分の体を抱く者と様々な反応。ベポの「ワンモア! ワンスモア!」の声は誰にも届かない。
遮音ヘッドホンをしていたため歌を聞いていなかったローが「おちょくるのもほどほどにしておけ」と声をかけるまで、彼らとウタの追いかけっこは続いた。
名無しの赤ちゃんは指をしゃぶりながら寝ている――起こしてしまったら大変だったろう。
「おいウタ。お前が寝ている間にこの実験で分かったことをまとめていたんだ、こっちに来い」
「分かったこと? 実験?」
ローたち数人が囲むテーブルを覗き込めば、裏紙にたくさんの書き込みがされており――古びた楽譜もそこに、あった。
「え、これ! 楽譜!」
「言いたいことは分かるから座れ」
ウタが丸椅子に座ると、ローはペンの尻で書き込みの一部を示す。
「推測も含むが、分かったことは3つ。1つめ、魔王を呼び出すためにケツまで歌う必要はない。2つめ、トットムジカを歌う分量によって魔王のサイズや攻撃力が変わる。3つめ、ウタウタの能力者の手元にはトットムジカの楽譜が現れる」
ローの言葉にテーブルのみなが頷き、ウタはぽかんとして彼らの顔を見回した。
ウタに記憶はないが、ウタが眠る直前にローは歌の魔王を蹴っていた。魔王はなすがままに蹴り飛ばされてバウンドし、起き上がると鞭のような両腕を伸ばしてローをぽこぽこと殴って反撃した。――ウタに殴られる方が痛いくらいの力だった。
「だからねウタ、十年前の事件はウタが悪かったんじゃないんだ」
「ウタはただ魔王に利用されただけ」
そう語るクルーたちに、ウタの目が見開かれていく。
「……分かりやすく例えるならそうだな、『渡されたおもちゃが爆弾の起動スイッチだった』といったところか」
ウタの眦にじわりとにじむ涙。顔をクシャクシャにして笑顔を浮かべ……
「ロー、みんな――」
「ウタ、ムジカワンモア! オーケー!?」
「あっはい」
もう一度歌うことになった。
****
全国から召集された幹部候補生らはこの日、マリンフォードから船で半日の島で遠泳訓練をしていた。今季の訓練生に能力者はいないため遠泳は全員参加、日の出前に海へ突き落とされ四十キロを泳ぎきった彼らは甲板でタオルに包まりながら息を整えている。
ゼファーは教官らと共に訓練生の頭を端から数え、全員戻ったことを確認した。
「うむうむ、全員戻ったようだな。お前たちにはこれから三ヶ月の教育期間でこの倍の距離を泳ぎきれるようになってもらうからな! がんばれよ!」
「ば、倍!?」
「ひえっ……正気じゃない……」
「むむむ無理death」
「六式の訓練できるんだと思ってたのに」
そんな悲鳴や文句を漏らす訓練生を教官が「バカモン! 高級将校たるものそれくらいの体力がなくてどうする!」と怒鳴りつける。
なおも怒鳴ろうとする教官を手で制し、ゼファーは訓練生の顔を一人ひとり見つめた。
「君たちの言うとおり、八十キロを泳ぎきるのは大変だ。そんな長距離を泳げないからと言って死ぬわけではない。六式などの技術習得や戦闘訓練の方が接敵した際には役に立つだろう。――しかし、これから幹部になろうという君たちに、私は問いたい」
眼鏡の奥の静かな瞳に気圧されたのか、訓練生らは固い唾を飲み込む。
「君たちがなろうとしている幹部は、君たちが世話になってきた上官は、ただ海賊を殴り逮捕する技術だけを身につければなれるような存在だったろうか? 海に投げ出され意識のない一等兵を抱え、泳いで船に戻った上官はいなかったか。民間人を急ぎ助けるため空を駆け海へ飛び込んだ上官はいなかったか。――いなかったのなら後で報告しなさい」
訓練生たちのうんざりした表情が固く真剣なものに変わったことに頷き、ゼファーは言葉を続ける。
「幹部になるというのは、守るべき対象が増えるということだ」
眼鏡を押し上げてバインダーに視線を落とすゼファーは現在、遊撃隊として海賊を殲滅する任務に就いているのだが、今季の幹部教育は「是非に」と求められて教導に加わった。なぜ彼が招かれ、彼はどうしてそれに応じたのか?
その理由を一言で表すならば『物語ロスのせい』と言うべきだろう。
次代を担う幹部候補生らのほとんどは二十代後半から三十代。彼らはみな「でんでん読み聞かせ物語」を聴いて育った。様々な物語に触れて育った彼らは想像力があり、共感性が高く、様々な事柄への意欲に溢れている。
海軍の仕事は海賊を倒すことだけではない。基地周辺の治安を守ることも仕事の一つだ。――彼らは思いやり深く地域住民と交流できる人材と評価されている。
だが。「でんでん読み聞かせ物語」によって情緒を育て、友情を育み、人生における様々なことを学んできた彼らは、『「でんでん読み聞かせ物語」のない生活』を経験したことがない。「大事なあなたのために」と優しく語りかける声がない毎日を知らない。
なんせ物心ついたときから「でんでん読み聞かせ物語」が側にあったのだから。
数週間前、白ひげらによるマリンフォード崩壊の裏でひっそりと発生したマリージョア襲撃事件。
血で血を洗う戦場となったマリンフォードにて、奪った電伝虫で売名行為に励んでいた脱獄者「道化」のバギーは。
『マリアローズ宮は邸宅の倒壊に巻き込まれた模様で――生死不明!』
伝令がそう叫んだのを聞き、裏返った声で叫んだのだ。
『えっ、マッ、マリアローズ様が!? 犯人はバカか!? あの人殺すとか世界を敵に回すようなもんだろ!』
『あのお方ァ
その日の夕刊――海軍や世界政府が止める間もなく発行された新聞には『天竜人唯一の良心』『慈愛の人』『幼くして目覚めた天才』の文字が踊り、様々な国、様々な地域でその生存を祈る声が上がった。
だが……邸宅の崩落に巻き込まれたとされるマリアローズ宮は未だ見つかっていない。
放送は今なお止まったままだ。
「でんでん読み聞かせ物語」が止まったことで人々を襲ったのは、たとえるなら、主食の白米を突然取り上げられたような喪失感、飢餓感だ。当たり前のものとして享受してきた日常の一部を削り取られた若者たちは耐え難い『物語ロス』に苦しんでいる。
本部でマリアローズ宮を見かけたことのある海兵らの落ち込みようなど酷いの一言に尽き、不眠などのうつ症状を訴える者も多い。
そんな状況下でありながら幹部になるべく訓練に参加した者達である、彼らが心に宿す炎は熱いはずだ。ゼファーはそれを信じている。
「その『守るべき相手』は仲間だけか? 否、民間人をこそ我々は守らねばならない。仲間がいるから船を動かすことができるように、帆布を織る人がいるから帆を張れる。船大工からいるから安心して海へ漕ぎ出せる。この世にいるどこかの誰かがした仕事が我々を支えている」
三十年近く前、マリアローズが放送で初めて披露した歌は「てをつなごう」だった。
「――これから我々は君たちに無理と無茶を強いる」
『物語ロス』で立ち止まっていられては困るのだ。だからゼファーが呼ばれたのだ。ゼファーならば彼らの尻を蹴り飛ばし、追い立てることができるからと。
訓練期間は三ヶ月。
「三ヶ月だ。血反吐を吐け」
****
万国が荒れている。万国だけではない。世界中が荒れている。特にシャーロット家の魔女――シャーロット・ブリュレが怨嗟で狂う様は激しく、他の兄弟らと共にモーガニア系海賊の襲撃を繰り返している。商売の邪魔だ。
腹立ちのままドフラミンゴはテーブルの脚を蹴り折った。三本脚で保たれていた丸テーブルの水平は崩れてみっともなく転がる。
「クソが!」
金と暴力と婚約の三本柱で維持してきた天竜人との蜜月関係は、婚約者であるマリアローズが生死不明――まあ死んでいるだろうが――となったことで崩れた。
わざわざマリージョアまで行った犯人の行動力には感嘆するものだが、よりにもよってマリアローズを殺すとは。そいつのせいで十年の我慢がパアだ。
自室をいらいらと歩き回る。マリアローズには悩まされ続けてきた――婚約してからの数年は『母上様が云々』『今日はお天気がよくて云々』とチリ紙にもならない無駄話で時間を浪費させられ、数年前には万国の連中やその尻馬に乗ったバカ共が『祝砲』の名目でドレスローザを砲撃してくれたお陰で城の再建とその資金調達に苦しまされ。家族のため置いていたいくつかの悪魔の実もオークションに掛けざるを得なかった。
「あの疫病神が――」
革張りのソファへ勢いよく腰掛け、長い脚を鋭角に折り曲げて沈み込む。思えば、あの女を利用しようと決めてから腹が立つことばかりだ。
結婚したいと言い出したのはあちらのくせに、ドフラミンゴから婚約を申し出てやったら断ってきた。
物語を放送し続けているのはドフラミンゴのためだと言い続けているくせに、手紙や電伝虫では中身のない無駄話しかしなかった。
熱心すぎる信徒が嫉妬でドレスローザに襲撃を仕掛けてきたせいで、その都度に資金や時間が削られた。
ポートガス・D・エースを餌に白ひげを釣り上げたはずが、信者の介入のせいでポートガスの死刑も白ひげ抹殺も失敗に終わり、黒ひげはゲッコー・モリアを誘拐し姿を消した。
ビッグマム海賊団は先述の通り治安維持活動に精を出している。あの調子では北の海が東の海ばりに平穏な海になりそうな勢いだ。
そして――なんだ、あのトーンダイヤルは。ポートガス・D・エースが持っていた『これまで誰も聞いたことがなかった歌』の録音されたトーンダイヤルの存在が硬い小骨のごとくドフラミンゴの喉に刺さる。
ドフラミンゴの婚約者でありながら……あの女、海賊王の息子というだけの若造を愛したとでも?
毒婦め。
「ふざけやがって」
背もたれに体重を預けて天井を見上げる。フットレストを引き寄せてその上に脚を放り出せば、くつろいでいる時と同じ自堕落な姿勢だが、普段と違い気持ちはくさくさしている。
その苛立ちのまま指を動かし、壁際に並べられた女の本を棚ごと全て切り刻む。親指の爪サイズの紙片の山はそのまま窓から外へ掃き出した。鳥が飛び立つように紙片は風に舞い――何処かへ消えていく。
その後、デリンジャーに「捨てる前にどうしてあたしに声かけてくれなかったの!? 『ウォーターワ○ルド』の万国版! くれるって言ってたじゃない、若様のバカ!」と泣かれた。
****
決行日をエースの処刑日と決めたのは私だった。海賊海軍その他の人々……世界中の注目をエースが集めればマリージョアの警備に隙ができるのではないか、と。
なんせエースは海賊王ともやりあった生ける伝説エドワード・ニューゲートが率いる白ひげ海賊団2番隊隊長の処刑だ。配下を「家族」と呼んで大事にしている白ひげがエースを見捨てるとは思えないし、エースが甥かもしれないのだとお願いすればビッグマム海賊団からカタクリさんあたりは参戦してくれるだろう。
四皇のうち二つが参加すれば――海軍の戦力はマリンフォードに集中するはず。その隙にマリージョアから逃げるのだ。
希望的観測が多大に含まれるが、マリージョアは外からの侵入には強いが内からの脱出には弱い――と思う。弱点のない城なんてないんだって三国志でも言ってた、はず!……というわけで、監視の目が緩むだろう処刑日に外海へ繋がる河に飛び込むとかそういう方法で脱出しようと決めた。泳ぎは得意な方だからいけると信じてワンチャンダイブ!
だめだこれ死亡フラグや。
とまれ、「世をはかなんで自殺」っぽく演出して河に落ちるか、運悪く河に落ちて行方不明か――どちらがマシだろうかと悩んでいたところにローくんからの連絡があって。
天は私に味方した、と確信を持った。
ローくんの話によれば、ウタちゃんがトットムジカなる危険な
タイミング良すぎでは? そういうの求めてたんだよ、そういうのを。
「ウタちゃん有難う、キミにきめた!」
そう、決めた。
ブリュレちゃんを頼るつもりは、初めからなかった。
――私をここから誘拐してくれる人員として、ブリュレちゃんはとても理想的な能力の持ち主だ。ミラミラの実の能力なら私をマリージョアから安全かつ簡単に連れ出せるし、ブリュレちゃんと一緒の万国での暮らしはきっと楽しいだろう。
だが、彼女が私を誘拐したと分かれば、万国が地図から消される危険が高い。世界政府は島の一つや二つ程度楽々消し飛ばせてしまう兵器を持っているのだ、「動けない攻撃目標」なんて良い
友人の一人や二人なら「私の逃避行につきあって!」と頼めるが、無関係な一般市民百万人を巻き込めるほど私の肝は太くない。それだけの命の責任を負うことはできないし……私も島と一緒にあぼんで万国国民全員死亡エンドの確率のが高い。無理。
そして迎えたエースの処刑、その日。ウタちゃんがどこから現れるのかとドキドキしながらバルコニーにいた私の視界に、空を飛ぶ白騎士ならぬ黄金騎士の姿が映った。マリージョアを――パンゲア城を守る兵たちが黄金騎士に向かって空を駆ける様子も見える。
「あれなのかな……?」
あまりの眩しさに目を細めながら見上げていれば、黄金騎士の背後に巨大なラッパが出現する。
ラッパは尺取り虫のように伸び縮みしながら曲を奏で始め――黄金騎士が歌い出したとたん兵たちが墜落していく。あの高さから落ちたら死ぬんでは、ボブは訝しんだ。
「その傲岸無礼な慟哭を」
壮大で格好いい曲なんだけど歌詞が陰気過ぎる……選曲変えた方が良いと思う。
欄干を握りながら空を見上げていれば――黄金騎士が私に気づいた。騎士が餅まきみたく両腕で何かを撒くような仕草をすると、その指先から数え切れないほどの騎士もどきが生み出され四方八方へ散っていく。
あっ、パンゲア城が氷漬けに! 違った、結界っぽいのに包まれた!
黄金騎士は体をくの字に曲げて前傾姿勢になると、両腕を飛行機の羽のように斜め後方に広げてこちらへ駆けだした。まっすぐ飛んでくる。えーっとアレ、神○ユリカじゃなくて、カンザキ○オリでもなくて、神崎す○れでもなく……そうだ。
「神崎あ○りじゃん」
大運動会が、いま、始まる――!!
「ママでしょ……ママ、ママ! 迎えに来たよ!」
落ちてくる勢いそのままに、私を抱いて四回転半回った黄金騎士は「やっと会えたね」と声を弾ませた。
そのセリフ、どこかの映画で聞いたような。
風邪が治りまペン……ッ!
支部版からゼファー先生パートかなり変えました。