はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

15 / 26
誤字報告ありがとうございます!誤字脱字多すぎんね……
》kuzuchiさま、minotaurosさま、nana_sleepさま、ユーグレナさま、滝端さま 木周さま、藤朱鳥さま、戦車さま

謝罪
せんとう丸の表記は、何の字を当てるのかルフィが知らないための表記です。すみませぬ。
ゾロも初対面で何て字を書くのか分かってなかったから……。


その8【縁起】

 ルフィが目を覚ましたとき、サイドテーブルを挟んだ隣のベッドには兄の姿があった。立派な装丁の本を真剣な目で読んでいる。

 ぐるりと室内を見るにここは病室だろう……ベッド以外に棚も机もない。兄――エースがいるなら、白ひげ傘下の海賊船に拾われたのか。

 

「えー、す……」

 

 舌が口蓋に貼り付いているのをどうにか剥がし、ルフィはガラガラの声でエースに呼びかけた。エースはその声に気づくや本を放り投げルフィのベッドに飛びつく。

 

「起きたのかルフィ! ああ……良かった」

 

 どれだけ眠っていたのか、瞬きすればルフィの目頭から乾いた目ヤニがパリパリと落ちた。

 

「ちょっと待ってろ、水飲ませてやるから」

 

 「喉渇いてるだろ、おまえ二日も寝てたんだぜ」と言いながらルフィの背中に枕やクッションを押し込み、エースは木製マグにぬるい水を注いだ。そしてマグをルフィの口元に添える。

 

「まずは口に水を含んで、少ししてから飲めよ。いきなりゴクゴク飲もうとすると咽るらしい」

「ん……」

 

 口径の小さいマグはルフィの口にぴったりだった。ほっと一息ついたルフィの頭に大きな手が乗る。エースの手だ。

 

「おまえが起きたら呼べって言われてんだ、ちょっと待ってろ」

 

 そう言ったエースの表情にはこれまでのような角がなく、柔らかかった。ルフィが寝ている間に何か良いことがあったのかもしれない。その背中を見送ってしばらく待てば、足音が二つになって戻ってきた。

 

「よお。遅いお目覚めだなァ、麦わら屋」

「おまえ……」

 

 病室に戻ってきたエースの後ろから顔を出したのは、水玉模様のもこもこ帽子に濃い隈をこさえた男。その顔を見てルフィは思い出した。

 そうだ、ウタの仲間の船に乗ったんだった。

 

 ――トビウオに乗って1番グローブのヒューマンショップに突撃したとき、ステージには既にケイミーが出品されていた。ケイミーの首や両手には鎖がかけられ、悪趣味な金魚鉢に閉じ込められている。

 

「ケイミ〜〜!!」

「ルフィちん……」

 

 ケイミーに駆け寄ろうとするのをハチに邪魔されながら進む。「海軍が黙認するヒューマンショップで暴れたらどんな目に遭わされるか分からない」というハチの主張も分からないではないが、だからと言って友達を見捨てていい理由にはならない。

 ヒューマンショップは世界政府が黙認しており――客には王族もいる。そんな場所で問題を起こさせないようにとハチはルフィに六本の腕全て使ってしがみつく。だが、彼を見た客たちは嫌悪感に満ちた悲鳴を上げた。

 

「魚人よぉ〜!! 気持ち悪い〜!!」

「怖いわ、存在が怖い!!」

「あっマジ!? ほんとだルフィだ! ロー、あたしちょっとあっち行ってくるね」

「何その腕の数ゥ」

「おい座れいいから今は座れウタ」

「海へ帰れ化け物――!!」

 

 ハチを罵る客の声にルフィは足を止める。彼らに対して何もしていないのに、ただ見た目が違うからというだけの理由で投げつけられる罵声やゴミ。「怖い」と言っているくせして、相手に反撃されるなんて考えてもいない――誰も席を立たないのがその証拠だ。

 罵られているハチもハチだ。彼らに反撃しようという考えがないのだろう、体を丸め頭を守るばかりで何もしない。六刀流の使い手のはずなのに……ハチは強いのに、自分が差別されるのは当たり前だと諦めている。

 

 ルフィもゾロもナミも――この場でハチのひととなりを知る仲間は唇を噛み締めた。本人が耐えていることを彼らが破るわけにはいかない。

 しかし、ハチが天竜人に撃たれて、ルフィは我慢をやめた。

 

 天竜人の顔面に拳を叩き込む。楽しむための喧嘩でも、強さを測るための戦いでもないパンチに爽快感や満足感があるはずもなく……なんとも無為な一発だ。

 だがこの一発こそ、ルフィたちが踏み出すために必要な一発だった。

 

 それからヒューマンショップ内は混沌と化した。ルフィが殴った相手――チャルロス聖の家族が銃を乱射。これから拡大するだろう騒動に巻き込まれまいと逃げる客に代わり、遅れてきたロビンやブルックたちが現場に加わる。ルフィたちも早くここから去らなければ海軍大将に囲まれてしまう……あちこち疲労や怪我の残った体で海軍と戦うのは避けたいのだが、ケイミーの首輪を外さなければケイミーが死ぬ。首輪の鍵を探さなければならない。怒鳴り合うような大声で仲間と情報交換をしていたルフィへ、知らない声が呼びかけた。

 

「海軍ならもう来てるぞ、麦わら屋」

 

 ルフィが振り返ったそこにいたのは、水玉っぽい模様の帽子をかぶった男と、白くまと、耳まで覆う防寒帽の男と、紅白の髪をうさぎの耳みたく束ねた女の四人。紅白の女はぴょんと跳ねるように立ち上がるとルフィに向かってにっこり笑顔を浮かべる。

 

「やっほールフィ、いい海賊やってるね」

「ん? 誰だぁおまえ」

「は?」

 

 紅白の髪の女はルフィの返事を聞くや、浮かべていた笑顔を床にベシリと投げ捨てる。

 

「ロー、ルフィのこと見捨てていいよ。はやく船に帰ろう」

「落ち着けウタ――いいか麦わら屋、海軍ならオークションが始まる前からずっとこの会場を取り囲んでる」

「待て、ウタ? ウタってぇと……おまえウタか!?」

「そうだよ!! ウタだよ!!!!」

 

 「この特徴的な髪を忘れるとかある!? 『世界で一番側に置きたい女』ランキングでトップを走れるあたしを! 紅白で縁起が良いんだよ!」と目を三角にして怒られたが、ウタとはだいたい十年ぶりの再会なのだ。すぐ気付けというのは無茶な話だろう。名前を一度聞いただけで思い出したのだから許してくれてもいいはずだ。

 

 そんな幼馴染との再会を喜び思い出話に花を咲かせる暇が――あるはずもない。ここからは出会いと戦いの連続となった。共闘したのは超新星のうち二人……トラファルガー・ロー率いる――ウタが所属する――ハートの海賊団、ユースタス・キャプテン・キッド率いるキッド海賊団の主要戦力、ハチが探していたコーティング屋のレイさんもといロジャー海賊団の元副船長シルバーズ・レイリー。

 トビウオライダーズのお陰でヒューマンショップから離脱しシャッキー‘SぼったくりBARへ無事辿り着き一息ついたが、コーティング作業のあいだずっとBARに隠れているわけにも行かず店を出たところで王下七武海のバーソロミュー・くまのパシフィスタとかという相手に絡まれて満身創痍、自称「口が硬い」せんとう丸と戦い、海軍大将黄猿になかば甚振られ、もう一人のバーソロミュー・くまの能力で皆どこかへ飛ばされた。

 

 ――マリンフォードでの戦いから何日寝ていたのかは分からないが、クルーのみんなと別れてしまってからまだ二週間は経っていないはず。たった二週間足らずでなんとも目白押しに問題が起きたものだ。

 ウタの船長、死の外科医の異名を持つトラファルガー・ローはルフィの瞼を引っ張ったり腕やら腹やらを押したりしながら問診をし、カルテにガリガリと書き込んでいく。

 

「レントゲンを撮った方が良さそうだな……。麦わら屋、おまえかなり無理を重ねてきたろ? 治りかけの怪我やら新しい大怪我やらもそうだが、骨にも歪みやヒビがある……検査結果を見るまでは正確な日数は言えねぇが、最低でも二週間は安静といったところだな」

「二週間もか!?」

「ああ。これから二週間、飯食って寝て飯食って寝て多少の運動をして飯食って寝ろ」

「そりゃあルフィには無理だ」

「ああ、無理だ!」

「自信満々に言うんじゃねぇクソ兄弟! 火拳屋、おまえも絶対安静ってことを忘れるんじゃねぇぞ!」

 

 ローは後ろ頭をガリガリと掻き、ため息をつく。

 

「……読み聞かせの本でも読んでりゃ少しは暇潰せるだろ。読みたいのがあれば希望を言え、持ってる奴から借りてきてやる」

「いいのか!?」

「それなら――」

「そりゃ――」

「「ヤマタノオロチ退治で!」」

 

****

 

 マリアローズ宮が生死不明という報告を聞いた半日後。情報の真偽を確かめるためミロワールドへ潜っていたブリュレは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をそのままに、おぼつかない足取りで戻ってきた。

 

「鏡、割れてた」

 

 独り言のようにぽつりとそう呟いたブリュレの背中を撫でながらカタクリは天を仰ぐ。腹が締め付けられるような苦しさにぐぅと唸った。

 カタクリは彼女――マリアローズ宮とは一度しか顔を合わせたことはないが、彼女の声は三十年ずっと聴き続けてきたから、一方的ながら親しみを覚えている。また、彼女の身の上が複雑なことも、生き延びるために彼女が様々に手を尽くしてきたことも、彼女が掲げる理想も知っている。

 

 海賊には向かなくとも、自由が似合う人だった。

 

 万国へ帰る船の中、ブリュレはミロワールドに引きこもった。用意させた食事は手つかずのまま下げられ、カタクリの口に入る――そんな状態が続いた三日目の朝。

 カタクリは朝食のトレイを片手に鏡面をノックした。

 

「ブリュレ、少しだけでもいいから食事をしてくれ。でなければ倒れてしまう」

 

 返事はない。

 

「ブリュレ……」

 

 マリアローズ宮はプリンのような美人ではなかった。だがいつもニコニコとした微笑みを浮かべており、優しい声が魅力的な人だった。口喧嘩が苦手で、抜けていて、「はわわ……イケメン過ぎる。結婚して」が口癖で、共感力が高く、親切な……ブリュレにとってもカタクリにとっても、得難い友だった。

 兄弟の誰かの妻になって、家族になるはずの人だった。

 

 鏡に手をついて項垂れていたカタクリの目の前に――鏡面にブリュレの顔がぼんやりと浮かび上がる。カタクリは反射的に鏡の前から飛び退き……なるべく自然に見える動作で近くのテーブルにトレイを置いた。

 

「ぶ、ブリュレ……!」

「お兄ちゃんアタシ決めたよ」

 

 数日の絶食により少し痩け、青ざめている顔は幽霊のようだ。鏡の縁に手をかけて外に這い出る姿はどこか(おぞ)ましい印象を与える。

 ぬべりと床に落ち、ぬろりと立つその挙動はまさに怪物と呼ぶべきだろう。手を貸そうと大股で二歩近づいたカタクリを片手で制し、老婆のような前傾姿勢からぐんと背筋を伸ばすと――カタクリの太い腕に痩せた手を乗せた。血色が悪く脂も水分も足りないすっぴんが引き痙れ、真剣な表情を作る。

 

「アタシ、独立するよ。ローズの仇を討つために四つの海を回るって……ママに言うよ」

「バカを言うな。ママもマリアローズ宮のことは気に入っていたんだ、わざわざ独立する必要はないだろう。考えたくもないが、もしママがお前のことを裏切り者と判断したら――」

「分かってる」

 

 ブリュレは少し唇を緩めた。

 

「でも、ママを一番にできないのに、ママの名前を借りるなんてことはアタシの矜持が許さないんだよ」

 

 これからアタシはローズの復讐を一番にして生きていくつもりだから、と言い切ったブリュレの目は真っ直ぐだ。

 

「アタシはローズと義姉妹の盃を交わしてる。……三国志演義の桃園の誓いみたいにね、誓ったんだよ。我ら生まれた日は違えども、死すときは同じ日同じ時を願わんって」

 

 他のすべてを捨てることになってもいい、義姉(マリアローズ)の仇を討てるなら。

 そう決意を語るブリュレを翻意させられるだろうか? カタクリはぐっと奥歯を噛み締めた。無理だ。

 

「お前の覚悟はわかった。おれも一緒にママを説得しよう」

 

 それからしばらく後のこと。ビッグ・マム海賊団本体から戦力が一部分割されて作られた少数精鋭の海賊団、彼らが掲げるジョリーロージャーは……どう見ても鏡餅だった。

 

****

 

 五日ごとに朝夕の二度流れる「でんでん読み聞かせ物語(ラジオドラマ)」は藤虎の数少ない楽しみの一つだった。文字が読めなくとも――目が見えなくとも楽しめるうえ、だいたいが万人向けの内容の物語だから家族みんなが楽しめる。ちょいと潔癖気味で理想主義な雰囲気があるが、どうせ聴くなら世俗の垢で汚れた物語より白くピカピカに輝いている物語の方がいい。

 白杖で前方を叩きながらいつもの道を歩き、慣れた飯屋に入っていつもの席に座る。親父が「イッショウさん、今日もいつもので?」と少し離れた場所から声をかけてきたから「頼んます」と声を張って頷いた。

 

 軽い足音が側に来た。子供だ。

 

「イッショウのおっちゃん、新聞読むよ」

「ああ。頼んだ」

 

 懐から小銭――数十ベリーだ――を出して突き出せば拳に細い指が触れた。小さな手のひらにそれを乗せる。

 小僧どもの小銭稼ぎだ。ヤクザもとい自警隊の長を相手によくもまあ「おっちゃん」など気安く呼べたものだと思わなくもないが、このようなふてぶてしさがなければ生き残れないのがこの世と言える。

 

 声変わり前の幼い声が、一面から順に見出しを読み上げる。

 

「『読み聞かせ物語の主マリアローズ宮、生死不明』」

「それを」

「分かった。――『読み聞かせ物語の主、マリアローズ宮が暮すマリージョアが何者かに襲撃され、天竜人二名が死亡、マリアローズ宮は生死不明となっている』」

「『マリアローズ宮の住む屋敷は全壊。世界政府はマリアローズ宮の生存の見込みなしと発表』」

「『同居する祖父のアステル聖、母のダファディール宮は屋敷の倒壊に巻き込まれなかったが、その場で死亡が確認された』」

 

 小僧が記事を読み上げるのと並行して飯屋の空気は重くなっていく。ぐすんという啜り泣く声が聞こえてイッショウの腹が重く淀む。

 

「おひいさんは、本当に亡くなられたんか……」

 

 三十年ほど前に初めてその声を聞いたとき、彼女は本当に幼く、新聞を読み上げるこの小僧よりももっと年下だとわかる声をしていた。

 きっかり十日に一度放送される物語はどれも人生の複雑さや苦しみとともに美しさや素晴らしさを描いていて、乾いた土に水が染み込むように急速に人々の間に広まった。――イッショウも噂から放送を知った。

 

 三十年前はまだ若く尖っていたから、はじめ「有名になりたがった金持ちのガキがやってンに違いねぇや」「そんなもんに夢中ンなるヤツにゃ馬鹿しかいねぇ」とさんざに扱き下ろした。

 半年過ぎてもまだ放送を続けていると聞いて感心した。飯屋から漏れ聞こえた声は幼児のものだったし、たとえ親から強いられているとしても、その年ならとっくに飽きて投げ出していてもおかしくなかった。

 放送が始まってから一年過ぎて、前言を撤回した。放送を一年続けるとはチビジャリながら根性がある。自分はどこどこの誰それだと名乗っていないことも気に入った。女のガキとは思えぬ気風の良さだ。

 

 そうして聴くようになった放送は三十年続いた。彼女は三十年続けた。

 

「そうか……」

 

 世の中には汚いものが溢れ、右を見ても左を見ても必ず視界の端に汚物が映る。璧だと思って拾い上げ磨いたものがただの石だった、などということもあった。

 期待しては裏切られ、夢を見ては破れる。見たくもない不幸や悲劇を幾度となく眼底に映し……イッショウは両の瞳を突いた。

 白杖を自在に使えるようになれば移動に問題はなかったが、昼夜の判断がつかなくなったのは失敗だった。なんせ新しい草履を下ろすのは午前のあいだにしなければならないし、爪を夜に切ってはいけない。この他にも昼と夜で変わるものは数多ある。イッショウは特に信心深いつもりはないけれど、真剣にイッショウと向き合って育ててくれた親の躾を破らなくて済むならそれが一番だ。

 

 目を突いてからもあちこちを放浪し、島民の人柄を気に入ってようやく腰を落ち着けたと思えばマリアローズの(・・・・・・・)襲撃事件(・・・・)。全く笑えない。

 

 微睡む時間は掌の砂のごとく零れ落ちてしまった。指の間から風に攫われ飛んでいく。

 

 「おまたせ」と朝食を置かれて、イッショウは箸を持ち上げた。冷や飯に焼鮭のほぐし身、あられ、海苔、わさびを少し――熱い茶が注がれたそれを音を立てて掻き込む。どんぶり茶碗をドンと置いてため息をつく。

 これから世界は荒れるだろう。彼女の理想から遠ざかっていくのだろう。

 

「なんともかんとも、ままなりませんや」

 

 ひとりごちた。




ツイッタで「いいねの数だけネタバレする」というタグがあったので参加したのだが、何を書けばいいのかわからなくなり困ってしまった。何を書けばいいんだ。
これネタバレしてくれてええんやで、というのがあればマロとかに書いてほしい。
ツイッタのツリーで書くから。

ましまろ
ついったのネタバレするよツリー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。