誤字報告ありがとあます
>どどろさま
公開処刑の日からそろそろ二年。ニューゲートから円満に支配地域を譲り受けたエースは、女ヶ島でサボとルフィに宣言した通りひげを伸ばし……海賊王ゴール・D・ロジャーを知る年かさの連中から「立派になって」やら「親父さんそっくり」やらと声を掛けられることが増えた。
手配書の写真を見ればたしかに二人の顔は似ているが、ロジャーの方が骨太で男くさいうえ体格も良い。細身な体形は母方に似たのかもしれない――なんせ母方の親戚もヒョロヒョロだ。
「エースー! ひさしぶりー!」
モビーと並走している黄色い潜水艦・ポーラータング号の甲板に女が立って手を振っている――巨大なモビー・ディックと小ぶりなポーラータングの姿は親ガモを追う子ガモのようだ。色合いは親アヒルと子アヒルだが。
ひょろりとした体型の彼女、エースの母方の親族マリンローズはポーラータングの欄干を片手でしっかりと握りしめながら、空いたもう片方の手をモビーに向かって大きく振っている。エースも甲板から身を乗り出して手を振り、「おー!」と返した。
眼下のマリンローズの頭は三つ編みの――赤毛だ。死を偽装したとはいえ追手がないとは限らないため、人目を引く白髪を染めた。
なお、白よりいっそう目立つ赤毛なのはウタの猛プッシュによる。
エースはモビーからポーラータングに向かって縄梯子を投げ下ろし、マリンローズが登ってくるのを見守る姿勢を取る。手は貸さない。代わりに、マリンローズがうっかり落下したり力尽きたときのため彼女の側にはウタが宙に浮いているし、ポーラータングの甲板ではベポたちがハラハラとマリンローズを見上げている。
「ママがんばって! ママならできるよ!」
「うん……そうね、やるっきゃないと……!」
――マリンローズは聖地で運動らしい運動をせずに育ち、筋肉は最低限で腕力や握力は十歳児に劣る。長距離のウォーキングも苦手だ。そんな引きこもりのパラサイトを極めたマリンローズに一般人並みの体力と筋肉を付けさせようと、二年前、ハートの海賊団、白ひげ海賊団、九蛇海賊団そして愉快な革命軍の皆さんは彼女の筋トレについて激論を交わした。ルフィは会議開始5秒で戦力外通告を受けた。
第一回筋トレ会議の結論は『筋肉を付ける前に先ず贅肉が必要、脂肪がなければ筋肉は育たない』。ということで、栄養価の高い食事と軽い運動を始めた結果……マリンローズの背が伸びた。ぐんぐん伸びて今や2メートル近い。
これが彼女の適正身長なのだろう。が、採った栄養のほとんどすべてが身長に変わってしまったせいで、贅肉がつくどころかむしろ更に痩せた。第二回筋トレ会議開催の日は遠い。
「ま、まだ半分も進んでないとか、マジあますか……?」
縄梯子を四分の一も登っていない時点で泣き言が漏れ始める。
「ダメ……もうムリ……」
「ママファイトだよ! いけるいける!」
「がんばれー!」
「もう少しっすよ!」
「あとちょっと! あとちょっと!」
ウタの声援とモビーポーラータング両甲板からのうるさい応援に励まされながら電伝虫のごときスピードで縄梯子を登り――モビーの甲板へ登り着いたマリンローズは崩れ落ちるように倒れた。
いつの間に椅子を用意していたのか、イゾウは床板に転がった彼女にいの一番に駆け寄るとごく自然に抱き上げて日陰の椅子に座らせ、湯呑みまで握らせた。ちなみにイゾウの愛読書は太平記。
「ありがとう、イゾウくん。重くなかった?」
「いえいえ、あんな長い梯子を登られたんです。お疲れになったでしょう。重いなんてそんなことぁ全く。先生ならおれぁ一生抱き上げていられますよ」
イゾウの流し目にマリンローズは胸元を抑えて「はうっ」と仰け反り、
「え、なに、アイツ誰?」
「イゾウに似た別人じゃねえの」
「おい誰かイゾウ探しに行ってこいよ、『お前のドッペルゲンガーがいる』っつったらすぐ来るだろ」
「イゾウちゃぁん! お前のドッペルゲンガー出たわよぉ! いますぐモビーのデッキに来てェ!」
「口説く気満々じゃねーかアイツ」
ウタたちから引き継ぎの荷物やら書類やらを受け取っていたエースが遅れて日陰の椅子のもとに来たときには、イゾウが他の兄弟らを追いかけ回していた。
「ぼーりょくはんたーい」
「海賊のくせに何を言いやがる!!」
「キャーイゾウくんが撃ったァ! DVだわ、家庭内暴力よォ!」
「イゾウ、なんのために口があると思ってんだ。人には話し合いという理性的な手段があることを忘れるな」
「煽ってんだよなぁその口で」
四十男が四十男と楽しくキャッキャと殴り殴られ蹴り蹴られ。そんな平和な喧嘩を眺めるマリンローズの目は優しい。
「何度来てもここはいい楽しい場所あま、いい場所ね、エース」
「口調直せてねーぞ、おばちゃん。……そうだろ?」
白ひげ海賊団は頭が代わっても白ひげ海賊団だ。乗組員全員オヤジを同じくする兄弟で、オヤジと一緒に過ごしたあの雰囲気が――この船が好きだから今もこの船にいる。
エースはオヤジが、この船が、この船に暮らすみんなが好きだから、これからもこの名前を大切にしていく。
「なあ、ウタから聞いた。ここ来る前にルフィに会ってきたんだって? どうだった」
「元気にしていたあますよ。ただ私は殴る蹴るについて門外漢だから、ルフィがどれだけ強くなったのかさっぱりなんだけど……」
元気にしていたならそれで十分。強くなっているに越したことはないし、どれだけ強くなったのか気になるのは確かだが――元気で生きているなら、また会える。
「そっか。……っあー、気になるぜ! ルフィ、どんだけ強くなったんだろうなァ」
エースは空を見上げてぐんと伸びをし、マリンローズを振り返った。
「実はさ。まだまだオヤジみたいにはなれねぇけど、地盤しっかり固めたらよ……おれも狙うつもりなんだぜ、海賊王」
「白ひげ」を海賊王にする。「白ひげ」が海賊王になる。エースは拳を握りしめてそう宣言した。
「はやく冒険してぇなァ! あ、ラフテル行くときはおばちゃんも連れてってやるからな!」
楽しみにしてろよと笑うエースの顔は、彼の父にそっくりだった。
****
聖地を緊急脱出してから、はや二年。海軍に私が生きてることがバレたらヤバい……ということで、今の私は女ヶ島やモビー・ディック、ポーラータング号、ぼったくりバーなどの複数の拠点をぐるぐる移動し続ける生活を送っている。
マリン・テゾーロにも一回行った。
元奴隷のみんなとは電伝虫や手紙で連絡をとってたけど、顔を合わせるのは短い人でも数年ぶり、長い人だと二十数年ぶりになる。彼らと時間とか監視とか気にせず話せるのはとっても良かった……のだけれども。私の顔を知ってる海兵がマリン・テゾーロへ遊びに来るもんだから毎日がヒヤヒヤで心休まらなかった。こんなのってないよ。
とはいえ、マリン・テゾーロでの日々にも良いことが――素敵な出会いがあった。展望デッキの隅でうっかり体力が尽きて呻いてたとき、通りがかりの派手なピエロが「大丈夫ですか美しい声のお嬢さん。あ、わたくしはンオッホン、キャプテン・バギー。お見知りおきを。体調が優れないようですし、わたくしが救護室にお連れしますよ」なんて見た目に似合わないイイ声でそう声をかけてくれたのだ。
なんとなく見覚えがある容姿をしてるからバギーさんは原作登場キャラなんだろう。しかし夢サイトとルフィ総攻め本だけ摂取して原作をほぼ見てないのが私だ――彼がどこで出てくるなんのキャラなのか、それが全く思い出せない。
バギーさんが空を飛んでいくイラストを見たような気がするけどそれだけだ。
病人を部屋に連れ込む危険人物の可能性も疑いつつの道すがら、バギーさんは私に腕を貸して歩きながら「素敵な声だ、ずっと聴いていたい」とか「その辛そうな声を聞いているとおれも辛くなってくる……」とか、なんかちょっとズレた口説き文句で私を褒めちぎってくれた。なんだコイツおもしれーな。
見た目はピエロ姿の不審者なのに中身がイタリア男っていうギャップが最高に楽しいし、ヘロヘロの私のためにゆっくりした歩調にしてくれるくらい親切。そしてちゃんと救護室に送り届けてくれた。
そんなまともな紳士となれば私がバギーさんに好感を持つのも当然というもの。体調が戻ってからスタッフにバギーさんを探してもらい、彼とはすぐに友だちになった……のだけど、天竜人が団体客でマリン・テゾーロに来ることになってドタバタした別れになっちゃって、連絡先も交換できなかったんだよね。
元気にしてるといいなぁ。
――さて、マリン・テゾーロのことは横に置いておいて、今考えるべきはこっち……モビー・ディックだ。今日からまたしばらくはモビーでお世話になる予定なので。
ハートの海賊団のみんなとは船内でお別れを済ませ、ポーラータング号の甲板からモビーを見上げる。
モビーの船体は大きく、ポーラータング号から大きく首を反らして見上げ……遠いところに小さくエース(だろう男)の顔が見える。手を振ったら「おー」と声が返ってきた。声がエースだ。
エースの頭があの大きさに見えるってことは、モビーの甲板は5メートルや7メートルなんて高さじゃあない。その倍――いや三倍以上の高低差があるだろう。
その距離を、私は、自力で登らなければならない。
体力づくりの一環だ。逃げられない。
「いやいや正気か……? 冗談キツい、素人が登れる高さじゃないあますよ……」
これまではウタちゃんに抱きついてたらびゅーんと
もし私が高所恐怖症なら泣きわめいてるね。
「ママは心配しいだなぁ、大丈夫だって! 子どもでも登れるんだからママにも登れるよ」
ウタちゃんの激励がつらい。私は子どもに劣る大人ですけど? だってホラ20メートルを縄梯子で登るのとか怖くない? 私は怖いよ?
やっぱ無理ですって言おうとした瞬間、ウタちゃんがふわりと離陸した。
「だいじょーぶ! ママが落ちそうになっても、あたしがちゃーんと支えるからね!」
「わ、ワーイ……嬉しいなぁ」
もはや逃げ場はない――。心で泣き喚きながら縄梯子を握った。
ここからは私の愚痴でダイジェスト。
「これ登れるように作られてないあますよ」(登り始めて一歩目)
「腕が攣ってきたあます……今何メートル登れてる?」(海抜三メートル地点)
「壁じゃん」(五メートル地点)
「まぢむり……リスカしよ……」(五メートル半地点)
「オア〜」(七メートル地点、一回休憩)
「さえぎるもののない風が私の体力を奪っていくあます」(八メートル地点)
「むり」(十メートル地点、休憩二回目)
「は……? まだ……あるんです……?」(十二メートル地点)
「モビー縮め……縮め……ちぢ、めェ……!」(十三メートル地点、休憩三回目)
「死」(十四メートル地点)
最終的には愚痴る気力も体力も失くなって、ただ無心に体を引っ張り上げた……気がする。記憶が定かではない。
貞子よろしくズルズルべチャンとモビーの甲板に這った私を抱き上げてくれたのはイゾウさんで、座り心地の良い椅子だけじゃなくて冷たい煎茶まで用意してくれていた。うむ……よきにはからえ……大儀であった……私は疲れた。あ、でも二メートル近い女なんて重かったでしょごめんね。
謝った私に、イゾウくんは色っぽい流し目をくれた。
「重いなんてそんなことぁ全く。先生ならおれぁ一生抱き上げていられますよ」
ヒョウ(息を吸い込む音)――イケメンだ!!!! イケメンにしか許されないイケメンムーブだ!! すっごい、ヤバいすごい語彙力溶けるすごい!! 生きてて良かった!!!! ありがとう神様! そう、「ただしイケメンに限る」は……実在する……!
この世の全てのことに感謝を捧げ、イゾウさんが他のクルーとわーわーワチャワチャし始めたのを暖かい気持ちで見守る。ペンギンくんたちハートのクルーとノリがほとんど一緒じゃん……仲が良いんだなぁ。
そんなときに近づいてきたのはエース――すっかりむさ苦しいヒゲ面になったエースだ。ヒゲのせいで老けて見えるけど、威厳づくりにはいいのかもしれない。
「何度来てもここはいい楽しい場所あま、いい場所ね、エース」
「口調直せてねーぞ、おばちゃん。……そうだろ?」
待って。今すっごくショック受けたからタンマ。ヒゲ面のむさ苦しいおっさんに「おばちゃん」って呼ばれるの色々とキツいわ……すごく年取った気持ちになる。もうアラフォーだとかそんなことは知ってるし理解ってるけど、それとこれとは別というか、心はいつまでも若くありたいんだよ。
今からでも「ローズさん」に呼び方を変えさせるべきだろうか。
――まあ、でも。
「はやく冒険してぇなァ! あ、ラフテル行くときはおばちゃんも連れてってやるからな!」
顔全部をくしゃっとさせた無邪気な笑顔のエースから「おばちゃん」と親しげに呼ばれるのは、悪くない。
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ポートガス・D・エースの処刑失敗――それと同じ日に起きた聖地襲撃事件から、そろそろ二年。
クザンはさっき買った新聞を折りたたんで「あ゛〜」と喉元を晒し空を見上げた。新聞の日付から
新聞によればクザンがいるこの海域には白ひげ海賊団が航行しているらしい。ポートガス・D・エースは彼女の歌声が録音されたダイヤルを持っていた。
彼女と何らかの関わりを持った、海兵ではない男がまあまあ近くにいる、ということだ。
「ん〜」
顎を撫でながら足元――氷の板だ――を見下ろす。
「行くか」
海は広いがモビーもデカい。適当にうろついていれば遠目に見つかるだろう。
自転車にまたがりペダルを踏み込む。
クザンはこのとき、白ひげ海賊団の面々から「帰れ帰れ! 海兵帰れ! ゴーホーム!」と唱和されるとは思ってもいなかったし、「こんにちはそしてさようなら」とメラメラの炎に襲われることも想像していなかった。
「え、何? なんなのキミタチ、いつもに増して今日は更に殺意高くない?」
「特に理由のある殺意だ! ただいま白ひげ海賊団は新規入団員を募集しておりませんさようならまた会える日まで!」
「ええー……。再会は祈ってくれるのね」
仕方なくモビーを離れ、適当な島を目指す。マリアローズ宮の命日とされる日を――彼女の語った物語を読みながら過ごすために。
掲示板回要る?
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掲示板回も書くっきゃ騎士団
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本編を進めよう、話はそれからだ