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シッケアール王国崩壊時に流出したものだという、クライガナ島を指す
シュワちゃんを回収したらまたモビーで烈火の続きの読み聞かせだ……これまでの経験上、他にすることがない間に書き出しておかないと後で痛い目に遭う。私は経験から学ぶ女なんだ。
他にも無償リクエストとか革命軍さんからのご依頼(現状唯一の収入源)とかもあるし、書けるうちに書かねばと書き続けてきたけれど――同じ姿勢で座り続けていたせいで体のあちこちが痛い。
首を横に倒したら「バキッ」って音がした。お客さん凝ってますねェ。
整体院ほしい。
腕をぐるぐると回したりとストレッチして最後に背伸び。紐で簡単に綴じただけの原稿用紙がミチミチになっている本棚の前で、安心が理由なのか不安が理由なのか自分でも分からないため息をつく。
――時を遡ること二ヶ月ほど前、「これからヤバいところに首を突っ込む、かも」とウタちゃんたちから連絡を受けた。ルフィくんを見送るため訪れたシャボンディ諸島でシュワちゃんが誘拐されてしまい、探すために島中の人間屋やゴロツキのアジトを襲撃した結果……シーザーが身を隠しているとおぼしき場所が判明したらしい。
シーザーはドフィと手を組んでるヤバいマッドサイエンティスト、シーザーの懐に潜り込むことができればドフィの尻尾の先っちょだけでも掴めるはず。掴めるといいな。
とまれ、情報が本当なら早く動いた方が良いし周辺情報を集めて精査もしたい――けど、シュワちゃんの行方が分からないままシャボンディ諸島を離れるわけにもいかない。人間屋を破壊しながらあちこち探し回っていたところに、当のシュワちゃんから連絡があったという。
シュワちゃんはいま、元シッケアール王国跡クライガナ島にいるらしい。
誘拐は「シュワちゃんの血縁かもしれない男」の知り合いによる犯行だったそうで、その人は「アイツ子どもがいたのか!?」と動転のあまりシュワちゃんを親(仮)がいるクライガナ島へ連れ去ってしまったとかなんとか。え、やだ何その人こわい……せっかちにもほどがあるのでは……? 動転のあまり幼児誘拐ってヤバくない……?
誘拐犯はともかく、少し通話をしただけだけど親(仮)は割とまともっぽいらしい。シャボンディ諸島までシュワちゃんを連れて行くと言ってくれたそうな。
『シーザーについての情報が本当だとしても、そうじゃなくてもさ。今回の航海にはシュワちゃんを連れて行くのは怖くてムリっていうのがあたしたち全員の判断。シーザーがマッド・サイエンティストだって話は聞いてるし……目に見えてる危険をわざわざ犯すわけにはいかないよね』
そりゃそう。シュワちゃんは可愛くて賢くて凄いから人体実験に使われてしまう可能性がある。危ない橋を渡らせるのは私も反対です。うんうん頷いた。
『でも……だからと言って預けっぱなしにするって案も論外でしょ。親(仮)とやらが豹変してシュワちゃんを利用したり売り払ったりするかもしれないじゃん。……それでさ、ママにお願いがあって。クライガナ島までシュワちゃんを迎えに行ってもらえないかなぁ』
「もちろん。そのクライガナ島とやらへ連れて行ってくれるよう、革命軍さんたちに頼み込むあます!」
そういうわけで、ごく個人的なお願いに快く頷いてくれたベティちゃんたちと私のシッケアール王国跡地旅行とあいなった。途中まではサボくんたちも一緒だったんだけど、任務があるからと途中で別れた。
行先はドレスローザらしい。
――ローくんたちの目的はシーザーではなく、シーザーと繋がりがあるドフィ。サボくんたちの目的地はドレスローザ、ドフィの本拠地。
メタな判断だけどこれからドレスローザで何かが起きることは確実だろう。
決めた。私とシュワちゃんの心身の健康のためドレスローザには行かない。絶対にだ!
そう心に決めていたんだけど、勘弁してください、今ドレスローザにいます。
クライガナ島に着いた二日目。誘拐犯のペローナちゃんとは仲良くなったけど鷹の目さんには何故かちょっと距離をとられていて居心地悪く感じていた……そんな時だ。宿を借りた立場だからと朝食の準備をしていたところに、サボくんからベティちゃんに連絡があった。「カゲカゲの実がコロシアムの景品になってる」という。
カゲカゲの実っていうと……七武海の一人がその実の能力者じゃなかったっけ? たしか名前は月光……月光……あと三文字くらい……月光◯面とかいったはず。
あらあら亡くなられたのねと御冥福を祈りかけたそこに、ペローナちゃんが壁をすり抜けてぬるりと転がり込んできた。
なんと月◯仮面さんはペローナちゃんの知り合いだったらしい。ペローナちゃんは「お゛お゛ん本当に死んじゃったのかよぉ〜!! おれは、おれは信じたくねぇぞ〜!」と泣き喚き、「カゲカゲの実を食うのはおれが認めた奴じゃねーと許さねえ、おいお前、サボとかいう奴! おれの代わりにカゲカゲの実を確保しろ!」と電伝虫に怒鳴りながら駄々をこね、「今からおれもそっちに向かう!」と声を張り上げ――何故か私の腕を掴んで空を飛んだ。
「なにゆえーッ!?」
犯人曰く「だっておれサボとかいう奴の顔知らねえ!」。なるほど納得の理由! でも私の都合も聞いて欲しかった!
そうして連れ去られた先、ドレスローザで私が何をしたか?――サボくんと合流できないまま(ペローナちゃんに引きずられて)街をうろつき、「ドフィーは悪い子、ドフィーは悪い子……」とドフィを呪いながら客席で戦いを観戦し、色々あって「行方不明なはずのマリアローズ宮」であることが公衆の面前でバレた。
バレてしまったからには仕方ない、皆殺しだ――というのは冗談として、開き直って「ドフィのせいで婚期逃したのあます、恨み骨髄あますわー」とか「返せよ、ドフィ……! わちしの可愛いロシーを……!!」とか「聖地から逃げてドフィとの婚約っていう首輪足かせから解放された、わちしは自由あますー! やったー!」とかってはしゃいでやった。そう、あれもそれもどれもこれも全てドフィってヤツの仕業なんだ……。
それからどうにかドフィの魔の手から逃げきり、ドレスローザを離れる船の中でサボくんに「えげつないことしますね」って怖いもん見たみたいな顔で言われたけど……ウフフって笑って誤魔化した。
私ができる範囲の可愛い報復なんだから大目に見てほしいゾッ☆
――新世界、万国に近い海上にて。
『マリアローズ宮、生きていた!?』『マリアローズ宮「あの人は生理的にムリ」』『リスナーを優しさで包んだあの声で
望遠で撮られたのだろう写真にはサングラスを掛けた赤毛の女の姿――サングラスで顔の半分が隠れていても、ヘアスタイルが違っていても、背が伸びていても、ブリュレには分かる――本当にマリアローズだ。本物のマリアローズだ。
ローズが生きていた。生きて、姿を現した。
握りしめた新聞がにじむ。ぼろぼろと涙が落ちて膝や腕を濡らす――胸につっかえていた栓が取れたように大きく呼吸した。
「ああ! ローズ……今迎えに行くわ!」
――同じ頃、ワノ国。城内には豪快な笑い声が轟いていた。カイドウが哄笑しているのだ。
「たった一時間ほど姿を現しただけで、あの女ァやりやがった! ウォロロロロ……!!」
ドレスローザにおけるマリアローズ宮の行動にカイドウは笑いが止まらない。あまりにも悪辣、そして効果的な一撃だ。これが事実ならドフラミンゴは二度と立ち上がれまい。
これからまた波が来るだろう。その波に乗るのだ、乗らねばならぬ。乗らねばただ流されるだけなのだから。
雷のようなその笑い声を聞きながら、バジル・ホーキンスは宙に浮かせたタロットをめくる。
「マリアローズ宮が一年内にワノ国に来る可能性……100%、か」
彼女と対面した時、自分がどのような判断をするのか。ホーキンスはまだ知らない。
――また同日、エッグヘッド。複数の肉体を持つベガパンクの一つ……生来の肉体であり、識別記号としてステラを名乗る個体は、新聞を読みながら「ううむ」と顎を撫でた。
ベガパンクは天才科学者として世に名を轟かしているが、こと発想力、想像力において、ある女に先を越され続けてきた。
その女こそ……二年の沈黙を破り帰ってきた、マリアローズ宮。
「鮮烈じゃなあ」
ドレスローザに現れたのは、婚約者であったことを大々的に喧伝し利用していたドフラミンゴ本人に「マリアローズ宮本人である」証明をさせ、その当人ドフラミンゴを地下へ引きずり落とすためだろう。
なんせドフラミンゴは「ラジオの主、マリアローズ宮とおれは婚約していた!」と繰り返し触れ回ってきたのだ、自分の名を悪用されて気分が良いわけがない。
「くわばらくわばら……」
そう唱えて新聞を畳み、テーブルに置いた。
――最後に、やはり同日の午後。海軍の所有する戦艦、重要参考人を護送する専用の牢を備えた船の一室にて……センゴクは新聞を畳むと目を閉じ、顎を反らした。
「ロシナンテ……」
マリアローズ宮とされる女は、『わちしの可愛いロシーを返せ』と叫んだらしい。
ロシナンテのことを知っているなら、ロシナンテをそう呼んでいたなら、そうとも、ドレスローザに現れたのはマリアローズ宮本人に違いない。
そのまま逃げ続ければそのうち探されなくなるだろうにわざわざ公の場に姿を現したのは何故なのか――石橋を叩いて渡るのがマリアローズ宮だ、せっかく聖地から逃げられたのだ、何かがなければこんなことをするはずがない。
いや、待て。意思決定の前後が逆の可能性もあるのか。聖地を脱出したから復讐を決めたのではなく、復讐を決めたから聖地を脱出した。――ドフラミンゴに復讐するために聖地を脱出した、という可能性はどうだ?
クソミソに貶してドフラミンゴのプライドや名誉を泥まみれにし、ドフラミンゴが再起する道をズタズタにしたのは……聖地を飛び出したのは、復讐のためだとすれば。
生まれや育ち……立場もあってか幼い頃から大人びた目をしていた少女のことを思う。聖地から逃げたのも、ドレスローザに現れたのも、あまりにも考え無し。あまりにも無謀。あまりにも――あまりにも、情熱的ではないか。
だからセンゴクは、ほんの僅かな時間しか許されなかった
「お前からも……彼女からも大切に思われて、ロシナンテは幸せだったろうな」
「彼女? 誰だそりゃあ」
「マリアローズ宮だ……お前は知らないかもしれんが、ロシナンテと彼女は幼い頃からの仲でな。どうやら想い合っていたらしい」
どこかで、フラグが折れるポキンという軽い音がした。
ローズ「死に別れの悲恋ヒロインってモテ要素じゃん! なんでフラグ折れるの!?」