はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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びっくりするくらい本編の筆が進まないので、筆休めにハンター×2に突っ込んでみた。


【番外編】空色が瞳なら

 逃げ込むように登った東塔の屋上にはクロロ一人。古びて傷だらけのラジオから、落ち着いた少女の声が流れる――絵本を読み聞かせる時のような優しい声音だ。ただし遠方から届いているためか音質は悪く、ガーガーザーザーという不快な音が混じっている。

 

『では今日最後のお便り。ラジオネーム「とっぴん」さんから。「ローズさんはじめまして。ローズさんのラジオは面白いお話がたくさんで大好きです。私も大きくなったらローズさんみたいにラジオで読み聞かせをしたいです。それで、さっそく質問ですけど、ローズさんの将来の夢はなんですか?」――とっぴんさん初めまして、お手紙ありがとう』

 

 クロロはつまみをくるりと回してラジオを切った。

 見上げた空は青い。あまりに遠くて手を伸ばしても届かない。

 

 あのラジオドラマみたいに、この空が瞳だったなら……触れられたのだろうか。手が届いたのだろうか。

 

 ――クロロがローズのことを知ったのは三年ほど前、クロロがまだ八歳かそこらのときだ。商売だかなんだかで外界――流星街の外――へ出ていた長老の関係者が持ち帰った一冊の児童小説、その作者がローズだった。

 クロロより三つだけ年上の女の子が書いただなんて当時は知らなかったが――その本はびっくりするくらい面白く、クロロは齧り付くようにしてそれを読み込んだ。時間を摂取しないと生きられない灰色の侵略者、時間を盗まれて心の余裕をなくしていく人々、時間を取り戻すための冒険に飛び込む少女。この本は、『モモ』は、これまでクロロが読んだどんな本よりも面白く、わくわくして、含蓄に満ちていた。

 

 本を買ってきた老爺の下へ行き「どうしてこれを買ってきたの」「どこでこれを知ったの」とせっかちに訊ねれば、老爺は「本屋でたくさん平積みになってたのさ」と答えた。

 

「その本は、あー……流星街の東の方にある国に行ったんだがな、そこのラジオでやってた話らしい」

「ラジオで……?」

「そうそう。何人もの人が集まって、えー、ラジオで流す、なんだ……そうだ。朗読劇だ。朗読劇をやったんだと」

 

 だらだらと長い老爺の話によれば、東の国ではいまパイロットだかなんだかという朗読劇団が人気を博しているらしい。彼らは完全オリジナルの脚本でラジオドラマを作っていて、その脚本の……つまり物語のクオリティがすごく高いのだと。

 クロロは「そうだね」とこっくり頷いた。モモは素晴らしい物語だ。

 

 できるならその朗読劇も聴きたいけれど、ないものねだりしても仕方ない。

 

「あと……そうだ。あんまり人気が凄いんでサイホウソウとかいうのをやっとるらしい」

 

 クロロはパッと顔を上げる。「サイホウソウ」というのは「再」びの「放送」で「再放送」だろうか? もしそうなら、それで合っているなら、ラジオを手に入れなければならない。図書館にもラジオがないわけではないけれど持ち出し禁止だし、つまみが固定されているから流星街の放送しか聴けないようになっている。

 

 聴きたいという気持ちがむくむく湧くけれど、ラジオなんていう価値のある(・・・・・)ゴミが残っているはずがないし、どうしたものか。誰かを巻き込むか? クロロが特に親しくしている相手といえばパクノダだが……あとは、困った。どうしよう。

 

 結局、クロロがラジオを手に入れられたのは十一歳になってからのことだった。カタズケレンジャーの吹き替えを機に仲間になったウヴォーらの力も借りてようやっと手に入れた、古い小さなラジオ。ラジオドラマを聴くぞとみんなワクワクしながら一番東側にある高い塔の屋上に上り、アンテナを東に伸ばしてつまみを回す。周波数の針を右へ左へ動かせば、かすかに雑音以外のものが聞こえ始めた。

 

『ガ――あザザッ朝ザ――ザザザ』

「人の声だ!」

「シッ! 今周波数合わせてるんだから静かにして!」

『晴れ、ザザッどき曇りでガ――』

 

 つまみを少しずつ……少しずつ動かす。ラジオが欲しいと言いだしたのはクロロだから、周波数を合わせる係もクロロだ。音よ出ろ声よ聴こえろと強く念じるあまり自然と息を止めて、コンマ1ミリ単位でつまみをずらしていく。

 

『今日はザザザ――洗ガッ日和な一日でしょう。では次のニュースです』

「いけ……た……」

 

 雑音がほぼ消えた。何を話しているのかくっきり聴こえる。

 力が抜けてしゃがみ込むクロロに対し、パクが、マチが、ノブナガが、フランクリンが、シャルが、サラサが……クロロ以外の全員が飛び跳ねたりガッツポーズをしたりと喜びをあらわにする。

 

「やった、やったー!」

「スゲェー!! 知らねぇやつの声がする!」

「今のって天気予報ってやつだよね!?」

 

 バシバシと背中や肩を叩き合う男連中、抱き合いはしゃぐ女連中。クロロはドキドキする胸をどうにか抑えて「でも……あのね、この周波数の放送はここでも聴けるのかも知れないけど、朗読劇をしてるのがこの周波数とは限らないんだよ」と声を張り上げる。

 

「なんでそんな水を差すのさ……」

 

 マチが唇を尖らせ、じっとりとした目をして愚痴った――その時だ。

 ラジオから音楽が流れ始めた。体を動かしたくなるようなメロディーが十秒ほど流れて、そして。

 

『みなさんこんばんは、ローズです。今日もまた「スタジオパイレーツ提供・でんでんラジオドラマ」の時間がやってまいりました』

「なんだ。クロロあってるじゃん」

「偶然だよ……」

 

 ラジオパーソナリティーの声は若かった。クロロよりは年上で、フランクリンより年下だろう。

 

『今日は「床下の小人たち」第3話……』

「3話だぁ!?」

「オイオイおれら1話と2話聴いてないぜ」

「ちょっと! ラジオの声が聴こえないから黙って!」

 

 サラサに一喝されてウヴォーやノブナガらはバツが悪そうに「へーい」だの「わかった(あーった)」だのと返し、その場をごまかすように冷たい床に坐ってラジオを聴く姿勢を取る。

 

 ラジオに耳を傾け、クロロたちは空色の瞳をした巨人の少年と出会う。だがその少年は実際には巨人ではなく人間で、語り手であるアリエッティが小人なのだった。アリエッティは自らを借り暮らし屋だと自認しており、それは人から様々なものを借りて――というか盗んで――暮らしている、酷い言い方をすれば、蔵を荒らすネズミのような存在らしい。鍋から具材や出汁殻を釣り上げるとか、腕時計を借り(・・)て壁に掛けるとか、人間は借り暮らし屋のためにいるとか……。

 体が小さいせいか視野も狭いらしい小人の考え方に腹立たしいような虚しいようななんとも言い難いもやもやした気持ちを抱えたが、そんなもやもやも含めて、面白い。

 

 良質な物語とはこういうものなのだと言わんばかり。

 音が拡散してしまう屋外で、クロロら十一人はラジオから流れる声にじっと耳をすませて聴き入った。引き込まれ飲み込まれるような心地だ。

 

『今週はここまでです。続きは来週のこの時間に……では皆様、今日も良い夢を。おやすみなさい』

 

 誰も彼もが潜めていた息を吐き出し、屋上はため息で満たされた。

 

「すっ……」

 

 目を輝かせたサラサが腕をぐるんぐるんと動かす。

 

「すっごい! すごい! すごい――こんな、本当に、すごい! 私達もやりたい! だよね!?」

 

 声と効果音だけでこんなにもくっきりと世界を描けるのだと知った。自分たちのしていることの発展型を知った。

 

 声の演技だけで人を引き込むなら――ここにはその天才がいる。この場の全員がそれを知っている。

 ぐるりと皆を見回すサラサに、最初に応えたのはパクだった。丸く大きな目に沈む夕日が映る様は宝石よりも美しい。

 

「……うん。やりたい。やろう」

 

 そこから続々と賛同の声が上がる。

 

「そうだな、やるか!」

「楽しそうだ」

「こんなドラマ作れたらさあ、カッコいいよね絶対」

 

 おれたちなら、私達なら作れる。だって十一人もいるのだ。このローズって人みたいに朗読劇を作って、ラジオで流すんだ。

 

 そんな、きれいな夢を、見た。

 

++++

 

 

 生まれ変わったら中国語の文化圏だった。

 

 中国では愛人って書いてアイレンって読むという程度のことはまゆたん*1が教えてくれたとはいえ、私に中国語の知識はほとんどない。

 ウォーアイニーが愛の告白で、ニーハオが挨拶で、イーアルサンス酢の力……そんなほぼゼロの状態から始めた中国語だけれど、四年もこの環境にいれば身につくもの。集合住宅の前の公園で十三姉(シーサンメイ)がどうのこうのという絵本を音読していたのが近所の映画監督(見習い)の目に留まり、台本を読めて感情の演技もできる4歳児と持てはやされて子供向け番組やドラマに出るようになり――マコーレー・カ◯キン的なゴタゴタが起きたため事務所に後見人をつけてもらって親から独立、干渉を逃れるため生国を離れた。

 

 それから色々あって――朗読劇団を率いることになったり非行少年の立ち直り支援に首を突っ込んだりしつつ十年ちょっと。

 

 チャリティライブのため訪れた街で、何故かウボォーギンと知り合いました。

 

 アイエエ!? ウボっ、ウボォーギン!? ハンターハンターのキャラナンデ!!!??? エッ、ちょっ、マッ、待って……ここ狩人だったとか知らなかったんですけど。だって私ハンター協会なんて聞いたこと――あるわ。いつもお世話になってるわ。

 

 ガチでハンターハンターじゃん。ええ……まじか……主人公一行とアダルトリオ*2周辺のメインキャラ以外は記憶の彼方なんですけど……。ストーリーだって「蟻編でカイトが死亡」くらいしか覚えてないし。

 

 その日の晩、「えーんこんなのってないあますー! せめてもう少し内容を覚えてる作品にしてほしいあますゥ!」って泣き喚きながら枕をボコボコ殴った。でも嘆いたところでどうにかなることではない……ご縁ができてしまったものはできてしまったのだ。仕方ない。

 どうにもならない過去のことを引きずるのはやめて、これからのことを考えよう。これから私がすべきことは――「ウボォーギンとは単なる顔見知り程度でバイナラ、そういえばそんな人もいましたねルート」。これだ。これしかない。

 

 ウボォーギンと知り合った翌日、旅団員の顔見知りが増えた。なんでや。旅先だからとカフェで朝食なんていうパリっ子みたいなオシャンティーをキメてたら生国の言葉で話しかけられて、「こんなところで同じ国の人と会うなんてすごい偶然あますね、すてきー」とニコニコ対応したら――「名乗てなかたね、私フェイタンいうよ」と名乗られたときの衝撃よ。もしかして私狙われてたりする? 旅団に狙われるようなお宝なんて持ってませんけど?

 

 回らない頭でどうにか会話を続け、ハイとイイエとさしすせそ*3でその場を凌いでいたところに――走って現れたのがウボォーギン。フェイタンに「なんでてめーが!」とか噛みついてる。

 どういうことなのよ、いや説明しなくて良いから。やめて、交流を深めさせないで。フェードアウトで記憶の彼方でさよならバイバイさせてくださいお願いします。さっさと何かしら盗んでどっかに行ってください、関わろうとしないでほしい頼む。

 

 あんたらと関わったら命がいくつあっても足らんとですよ!

 ――その日からウボォーギンと遭遇することが増えた。やめろ……やめろ来るな頼むから後生です。

 

+++++

 

 世に多言語話者は溢れている。言葉の異なる国同士の国境で生まれ育ったとか、親が国際結婚だとか、単純に努力で身につけたとか……だが、その多言語話者が、全ての言葉について「母国語並み」に使いこなせるかはまた別だ。どの言語についても児童の会話レベルしか話せない者、一つだけ突出して残りは日常会話レベルという者、複数言語を流暢に操る者と、習熟度はそれぞれに様々。

 

 ――三つの言語を母国語レベルで使いこなし、素晴らしい脚本や小説を書く語学力の怪物ことプーチャ・メイグィという女……芸名マリンローズ・ポートガスのチャリティーライブの情報を見つけてきたのは、なんとウボォーさんだった。

 旅団として本格的に活動しはじめて半年ほど過ぎたある日のこと。次の仕事地から五十キロほどの距離にある地方都市でローズの劇団がライブをするらしい、というニュースを掴んできた。

 

「聴きてぇだろこんなん! パイレーツの生朗読だぜ!?」

 

 行くなら連絡くれ、オレは行くから。そんなメールにまともな返信をしたのはシャルだけだった――「長時間拘束されるのイヤなんだよね。ウボォーだけで行ってきなよ」。あとの面々はと言えば絵文字だけだったり「暇人」と貶したりと適当な返信ばかりで、やれやれと肩をすくめた。

 野人みたいなウボォーさん一人での参加じゃ変に目立つだろうし、オレがついて行こうじゃないか。

 

 というわけでチャリティライブ前日の昼前に街へ着き、ウボォーさんに連絡を取った。待ち合わせ場所はホテルのロビー。目立つガタイに向かって声をかけ――

 

「二人とも、なんでいるんだ……」

 

 ウボォーさんの影に、フェイタンとノブナガの二人がいた。

 ウボォーさんは「まさか四人も集まるたぁな」と愉快そうに笑っている。

 

「それは私の台詞ね。クロロ興味ない言てたろ」

 

 じっとりとした目を向けられて両手を胸の前で振った。

 

「いやいや、興味ないとは言ってないよ。『そうなんだ』って返事しただけだろ」

「それ興味ない言う態度よ」

「普通の相槌じゃないか。それでノブナガは? どうしてここに」

「オレぁウボォーに頼まれたから来たんだがよ……」

 

 来てくれてありがとよとにっかり笑ったウボォーさんをちらりと見てから、ノブナガは呆れた目でおれたち二人を見やった。

 

「おめーらは二人とも『自分は興味ありません』ってなメール送ってきてたろうが。おめーらこそなんで来てんだよ」

 

 そんなもの、理由はちゃんとある。

 

「おれは……ウボォーさん一人での参加じゃ浮きそうだと思ったのと、ライブ物販限定販売の短編集があると聞いたからだよ」

「クロロが一緒でも浮くと思うぜ」

「お前らなんでおれが浮くって決めつけてんだよ」

 

 そんな無駄話に花を咲かせ、チャリティーライブがある明日の夕方までは各自自由に過ごすことになったその日の晩だ。興奮した様子のウボォーさんが借宿に飛び込んできた。

 

 フェイタンとおれは人の気配が多いホテルを嫌って中心部からほどよく離れた廃病院にいたんだけど、ウボォーさんが来ると明るく騒がしくなる。

 やっぱりウボォーさんはすごいよ。ウボォーさんがいるだけで全然空気が違うんだから。

 

「な、お前ら聞け、いいか――すげーぞ。なんとパイレーツのローズに会ったんだ! 偶然! いやあヤッパ若くても才能のある奴ってのはデケェなァ。背はちいさかったんだが……フェイタンより低かったんだけどよ、存在感がデケェな」

「ホー……」

 

 フェイタンがキラリと瞳を輝かせた。

 

 フェイタンより低いなら150センチくらいか。

 

「やはり、私の背が低いのはそういう人種だからということか。お前らの人種が無駄にでかいだけね」

 

 そう満足げに頷いたフェイタンがまさかマリンローズをナンパするとは……。

 翌日の昼前、フェイタンを引きずって帰ってきたウボォーさんと三人で囲めば「ナンパしたつもりはない。ただ私もローズも同じ国の血が流れる者同士だよ、仲良くなれると思ただけ」とフェイタンは主張。

 

「自分より背が低い女だから気になったんだろ」

「幼女性愛者だな」

「言い訳が言い訳になってねーんだよ」

 

 などなど罵ったがフェイタンは知らぬ顔で、「品の良い女だたよ」なんて言いやが……言い放つ。

 

「おれらみたいな連中には高嶺の花ってことだね、諦めた方が良いよ」

「次の恋探そうぜ、なっ」

「……私はナンパしてないと言てるが?」

 

 殺気の乗らない喧嘩で半日を過ごし――夕方。スタジオパイレーツの朗読ライブは最高だった。

 

 開演ギリギリに入れば座席は満席で立ち見も出ていた。座らなくて良いようで安心する。

 後方扉から一番近い通路に立ち、壁に背を預ける。

 

 時間になり、ぞろぞろと舞台袖から現れ席についた演者は十数人、その背後で効果音を作る連中は七人ほどだ。劇団長のローズが主人公のデロリスを演じ、三人の男が情景描写と刑事そしてどこか憎めないマフィアの面々を、十人ほどの女がシスターとなり話をさくさくと進めていく。効果音係の一人、ピアノの前に座っている女はシスターの役を兼任しているようだ。

 ミサで歌うシーンになり、ローズを除く女連中がみな立ち上がる。会場内に音の外れた騒音が響き渡ったが――話が進むとどんどん歌声がまともになり、揃っていく。

 

 そして法皇が訪れる日に起きる誘拐事件、歓楽街尼さん大行進、そして大団円。「老若男女の区別なく楽しめるお気楽コメディ」としてかなり質が高く、ミュージカルの良さも取り込んだ良作だ。

 

 出入り口を出てすぐの募金箱に二つ折りのジェニー札をねじ込んで、グッズの種類が少ないためかガラガラの物販で限定の短編集を買う。

 ――覚えのある気配がひっかかった。そちらに顔を向ければ、扉から出てきたのはパクとマチの二人。

 

「なんで二人がここに……」

「クロロこそ、どうしてここに」

 

 喫茶店ではウボォーさんとノブナガが浮くからパブに入りテーブルを囲む。パクたち二人はこれまでにも何度かスタジオパイレーツの朗読ライブを観劇しているといい、情景描写と刑事を演じた男のファンをしているらしい。線は細いが声は太いギャップが良いとかなんとか。

 

「声の演技が上手いのは前提なんだけど、実物を見たら『あの見た目からこの声が出るの!?』っていうギャップがね……。それからどんどん深みにハマっちゃって」

「本人の性格もいいんだよ、無駄に爽やかでさ」

 

 「無駄に爽やか」というのが褒め言葉なのかどうかは横においておくとして、二人とも健全にファンをしているようだ。

 ウボォーさんのメールに絵文字しか返さなかった理由については「だってウボォーと一緒にいたら目立つじゃない」とのこと。

 

 ウボォーさん……。

 

+++++

 

 チャリティーライブが終わってから二時間ほどが過ぎた夜十時。『パイレーツのはよ寝ろラジオ』が始まった。番組名の通り「こんなの聞いている暇があるなら早く寝ろ」というのがコンセプトだから、まったり進行でおたよりコーナーもない。

 

『チャリティー公演に来てくれたみなさんありがとうございましたー。ずっと座っていて疲れたでしょうし、早く寝てくださいね』

『明日はまた別の演目をするので。明日来てくださる予定の方は、また明日、よろしくおねがいしまーす。というわけで早く寝ましょう』

 

 お決まりの挨拶のあと、まだ入団して半年の新人劇団員だという男女――十代くらいの声だ――が伸び伸びとした礼を言う。今回は彼ら二人で進行するようだ。

 

『うちら今日出番なかったんで、物販で売り子してたんですよ。そしたら公演のあと募金箱に札束をねじ込んでる四人組の男性がいて、めっちゃシュールだったんで笑うのこらえるのが大変だったんですよね』

『そうそういたいた。全員方向性が違うイケメンで、仲良さそうだったからそういうアイドルグループとかミュージシャンかもって思ったんです。でも調べても出てこなかったんで、メジャーデビューしてないバンドか野生のイケメンかのどっちかですね』

『野生?』

『野生』

 

 コレおれらのことだろとノブナガが言い、「そうだな」と頷く。イケメンと言われて悪い気はしない。

 

『うちの劇団もイケメン増えないかな。劇団長だってイケメンが好きなんだし、パイレーツをイケメン天国にしてもいいと思うんですよ。イケメンを前後左右に侍らせて左団扇的な』

『え、でも劇団長って自分が逆ハーになる展開は地雷だった気が』

 

 二人の話は毒にも薬にもならず、なんとも眠気を誘う。内容がくだらないうえ話し方が一定で淡々としているためだ。

 番組名の通り「さっさと寝ろ」ということなのだろうが、「聴いてもらう」ことが前提にあるラジオでわざわざこんなことをするのだから酔狂と言おうか、灰汁が強いと言おうか。

 

 眠くなるラジオをBGMにおれは短編集をまったりと読み進め、ノブナガは刀を抱えて寝る体勢、ウボォーさんはまだライブの興奮が冷めないようでグルグルとラジオの周りを歩き、フェイタンは――寝ている。そんな時だ。

 

『前に飲み会で劇団長本人から聞いたんですけど、劇団長の好みは「おおらかで頼りがいがある性格」の「強くてムキムキで三日くらい不眠不休で走れるような年上の人」らしいです。我こそはという方はぜひ「はよ寝ろラジオ」へご連絡ください。他薦も可です』

「ウボォーじゃねぇか」

「ウボォーさんだな」

 

 ノブナガは眠気が吹き飛んだらしく目をまん丸に見開いてウボォーを見ている。おれもウボォーさんに顔を向ければ――ウボォーさんは立ち止まって自分の顔を指差していた。

 

「それは……間違いなく、おれだ」

 

 寝ているフェイタンを除く三人の意見が一致した。

*1
カンフーで有名な人

*2
イルミ、クロロ、ヒソカの三人のこと。この三人の夢小説はわんさか溢れていた

*3
「さすが」「知らなかった」「すごーい」「センスある」「そうなんだ」のことであって「サイダー」「シードル」「酢」「セゾンビール」「ソーダ」ではない




それは間違いなく奴なのか――
おおらかで頼りがいがあって強くてムキムキで三日三晩走れそうな年上の男「グラララララ!」
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