はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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ブリュレによるいわれのない罵倒が鷹の目を襲う。鷹の目の明日はどっちだ。

脱字報告ありがとうあます
》山水公さま


その12【再会】

 フィッシャー・タイガーらの逃亡を陰ながら手助けしながら聖地を走り回るシャンクスの耳に届いたのは、憎しみと悲しみに満ちた怒号と喧騒の中では場違いな、義憤の怒鳴り声だった。

 

「こら〜!! ここにも奴隷のいる屋敷があるあますがー!? 無視するなーっここもぶち壊していくあますー! 奴隷を解放しろー!」

 

 声の元はアステル聖の敷地内。広い庭を挟んで百メートルほど向こうにあるアステル聖の屋敷の三階、楕円形に突き出したベランダに人影が二人分あった。一人は両腕を激しく上下に振り回し暴れながら叫ぶ若い女、もう一人は女の腰にしがみついて「ローズ様落ち着いて!」「お願いだから目立たないで!!」と懇願する奴隷の少年。

 あちこちから上がる破壊音や悲鳴に紛れているが、聴き馴染みのある――馴染みすぎなほど馴染んだ声はシャンクスの耳にはっきりと届く。

 

「マリアローズ宮」

 

 高い柵を越え数歩でベランダに飛び降りると、女――マリアローズ宮は一瞬目を見開いたと思えば口をへの字にし、シャンクスを睨み上げる。

 

「これはこれはシャムロック聖、お会いするのは何ヶ月ぶりやら……ご壮健そうでなによりあます。わちしに何かご用がおあり?」

 

 刺のある言い方からして、マリアローズはシャムロックを嫌っているようだ。見た目が華やかではなく弱々しい彼女をシャムロックが「アジの中落ち」や「干物」と呼んで憚らないからだろう……言いたいことは分かるが、あまりにも酷い言い様だ。

 

 マリアローズ宮の腰にへばり付いていた少年がじりじりと後退してゆくのを隠すように、彼女は大きく胸を張り腕組みまでする。

 さほど広くないベランダから少年がパッと部屋に飛び込み、そのまま走って階下に駆けていった。アステル聖とダファディール宮の名を繰り返し叫びながら。

 

 気配を探って他の耳目はないことを確かめはしたが、万一がある。二歩でマリアローズ宮をガラス窓に追い詰め、覆い被さるように背中を丸め囁いた。

 

「おれはシャムロックじゃない。シャムロックの双子でシャンクスという」

「はい?」

「縁あって青海育ちでな……君の紡ぐ話にはいつも心癒されてきた。有難う」

「は、はい……? 腕がのシャンクス……?」

「うでが?――時間がないから端的に言うが、ベランダで騒ぐのは危ないからやめておけ。ただまあ、被害がないと変に疑われるだろうから屋敷の一部は壊しておこう。ではまた、レディ・月の子(モンデンキント)

 

 ぽかんとした表情のマリアローズ宮をその場に残しアステル聖邸を離れ――しばらく後に聖地を脱出してからは彼女と(まみ)える機会はなかった。

 

 ニュース・クーから受け取ったばかりの新聞の一面は七割が写真だ――長い髪を結い上げることなく垂らし、金色の両目を悲しみに潤ませているマリアローズ宮の姿。見出しは「でんでんラジオドラマのマリアローズ宮、ご存命!」。

 この二年生死不明だった彼女が、ドレスローザに現れたのだという。

 

「生きていた……」

 

 ハラルドの手に乗ったとき、顔を真っ青にしながら彼の指にしがみついて「わちしには、うん、命づn……そうそう安全ベルト。安全ベルトが必要だと思うあますね……少なくともわちしには。見ての通り腕力もないあますし」と、血の気の失せた唇でハラルドに微笑んでいた彼女が――生きていたのだ。

 喜びや安堵といった複雑な感情がシャンクスの背中を重くし、椅子に深く沈み込んだ。そして写真に比べて分量の少ない記事を読み進めてゆく。

 

「うわ、こわ……」

 

 彼女を怒らせたらこうなる、という未来予想図がはっきりと想像できる紙面だった。ドフラミンゴへの積年の恨みがビシビシと伝わってくる言動の数々に、シャンクスはぶるりと背筋を震わせる。相手が自分ではなくて良かった。

 彼女を本気で怒らせたなら――ゴッドバレー事件に比類する混乱と暴力が、間違いなく、起きる。

 

 マリアローズを怒らせないと誓ったシャンクスだが――既にウタの件で怒りを買っていることなど、彼は知らない。

 

++++

 

 見つけたら鏡からひょいと手を伸ばすだけで良い。ローズは軽いから簡単に助け出せる。

 そう確信していた通り、ドレスローザを発ったばかりのどこぞの船――どこの誰の船なのかなど知らない。なんせ周辺の鏡全てを見て回っていたのだ――からマリアローズをひょいと抱えてミロワールドに連れ込んだブリュレは、記憶よりもだいぶん背丈が近くなった相手をぎゅっと抱きしめた。

 

「ローズ、ああローズ! やっと会えたわ!」

「あ、え、ブリュレちゃん!? なんでここに!?」

 

 表情の固いマリアローズを宥めるようにブリュレは努めて明るく元気な声を出す。

 

「助けに来たのよ。ローズがあの品性下劣男の国(ドレスローザ)になんてわざわざ行くわけがないんだから、無理やり連れてこられたに決まってる。そうよね? ああ……これまで大変だったでしょう、もう大丈夫よローズ。あたしたちと一緒にトットランドに帰りましょ!」

 

 みんなローズを待ってるわとにっこり笑んだのだが、マリアローズはブリュレの腕の中で「あー」と呻いて視線を彷徨わせる。

 

「ブリュレちゃん、実はね」

「うん」

「娘に加えて、息子も増えたのあます。名前はシュワちゃん」

「なんだいそのクソ羨ましいガキ――ううん何でもないよ。それで?」

「ドレスローザに来る時にシュワちゃんを置いてきぼりにきてしまったから、迎えに行きたいのあま、迎えに行きたいのよ」

「うんうん家族を置いてはいけないよね、気持ちはとっても分かるよ。なんて島だい」

「クライガナ島という島よ」

 

 ブリュレは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうじゃく)の男をこの世から取り除かなければならぬと決意した。ブリュレには政治がわからぬ。ブリュレは、ありふれた札付きの海賊である。この二年は島から島を渡り、疑わしきはすべて罰して暮して来た。それゆえに邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 クライガナ島唯一の住人が誰なのかブリュレはよく知っている――ビッグマム海賊団の幹部だから情報はあちこちから入ってくる。旧シッケアール王国のクライガナ島とかいうシケた島を拠点にしているのは、ジュラキュール・ミホークという名のいけ好かない男だ。

 面が良いことに胡座をかいており、だからいつも木で鼻をくくったような顔をしている……とブリュレは思っている。

 

 ローズの義理息子がクライガナにいるということは、だ。あの男――間違いない、ブリュレのローズと夫婦ごっこをしたのだ! 心暖かく優しいローズが捨て子だか何だかを拾ったのを良いことに、そのガキを挟んで夫婦っぽい雰囲気を楽しんだのだ! 絶対にそうだ! したに決まっている!

 「おい(シュワちゃんの)母さん」なんて呼びかけてはニヤついていたに違いない。だってブリュレがその立場なら絶対にやる。そうとも、あのスカしたキザ野郎は鵜の目鷹の目でチャンスを狙い、夫婦っぽい会話をして散々鼻の下を伸ばしたのだ。鷹の目だけに。

 

「ダメ!」

「え、ダメ?」

「ダメよ、ダメダメあの何を考えてるか分からない助兵衛男の島に行くなんて。お願いよローズ、そのシュワちゃんって子供にはウチから別に迎えを寄越すから……それか私が後で迎えに行くから、先ずは安全なトットランドに来てちょうだい」

「でも……」

「あたしを安心させて、ローズ……。お願い……!」

 

 ――泣き落としの結果ブリュレは説得に成功。「娘に一言」「せめて電伝虫を!」と繰り返すローズを抱え、自分の船へ足音軽やかに戻ったのだった。




 このしばらく後、嫉妬に目のくらんだブリュレとカタクリがクライガナ島を襲撃(なおその時トットランドではルフィ一行が)
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