はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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支部版より書き足ししてますが中身は変わりません。

誤字報告サンキュー!
》ユーグレナ様、miontauros様、みみお様、kuzuchi様
密出国について
ワノ国へ、政府加盟国から密「出」国でして。すみません。


その3【好きということ】

 放送が始まってから十数年が過ぎたときのことだ――読み聞かせの後の別れの一言で、リトルママがこう呟いた。

 

「私は事情あって外に出られないので、書籍の形になったものを見たことがないんですよね――とても残念です」

 

 本の形になったものを見てみたい、というリトルママの愚痴を聞いて、ブリュレは立ち上がった。ブリュレが周囲を見まわせば兄弟姉妹らの何人も、いや、分別がつかないほど幼い者以外ほとんど全員が立ち上がっていた。そして揃って部屋の奥――母親を振り返る。

 

「ママ」

「ねえ、ママ」

「――ママ!」

 

 肘掛けに片肘を突いていたシャーロット・リンリンは子供達の声に応えて大きく頷く。

 

「『でんでん読み聞かせ物語』の本はおれたちが作る! いいか、絶対に他の奴らに取られるんじゃねぇぞ!」

「「「「「「「「「「「はいママ!」」」」」」」」」」」

 

 しかしそう宣言したはいいが、こちらからリトルママに接触する手段はない。ならばどうする――

 

「そうだ、新聞だ」

 

 その案を思いついたのは誰だったか、スムージーだったかもしれない。新聞の広告欄に「ビッグマム海賊団には『でんでん読み聞かせ物語』の本を作る用意があります」と載せたらどうだ、と。

 こうと決めたら曲げないビッグマムは即座にニュースクーの編集部に連絡を取り、広告欄を1ページ買うと伝えた。

 

「いや、待て。一回や二回の広告でリトルママがおれに気づくかどうか分からねぇよな……。よし、一年分買おう! いくらだ、言い値を出してやる!」

 

 数日後発行された新聞には1ページまるごとビッグマムの写真が印刷されており、「でんでん読み聞かせ物語の書籍を作るのはこのおれ」というシンプルだが問答無用な一言が添えられていた。

 他に名乗りを上げた者は何人もいたがビッグマムの理不尽かつ圧倒的暴力を前に白旗をあげ、リトルママに選ばれたのは――ライバル全員()ち転がしたから当たり前なのだが――ビッグマムだった。

 

 一年分の広告料を先払いで得たニュースクーのサービスによりリトルママから「書籍化よろしくお願いしますね」という手紙も貰った彼らにはもはや敵などない。読み聞かせされた物語の生原稿も借りられるという――ビッグマムは興奮のあまり鼻血を出した。

 

「読み聞かせ物語の作品数は多い……自分が担当したい話の希望を取ろう。ああ、今回に限っては喧嘩はなしだぜ。許可をくれたリトルママを後悔させるなよ? 先ず、これだけは他のやつに取られたくない、という物を順に上げていくのはどうだ……ペロリン♪」

「いいと思うぜ」

「異議なし」

「異議なーし」

「賛成」

「それでいい」

 

 事理弁識能力を認められた年の兄弟姉妹とビッグマムらおよそ三十人は会議室の広いテーブルに「でんでん読み聞かせ物語」の作品名一覧を並べ、餌をつつく鶏のようにそれを覗き込む。

 

「『もう一つのおいかけ○こ物語』の装丁はあたしに任せてもらいたいね」

「わか○たさんシリーズは私がしたい――シリーズも一つの作品として数えて良いならな」

「え? シリーズ全部ってズルくないか、それは」

「いや……シリーズものの装丁が一つ一つ違うのは避けるべきだと思うぜ……ペロリン♪ シリーズを一つの作品として数えることにおれは賛成だ。だからブリュレには『お○ごっこ物語』も担当してもらう」

「たしかに。ふむ、おれはダークホルムの○の君がいいな」

「ラビリンス―迷宮―希望」

 

 一覧には次々に赤ペンで名前が書き込まれていく。カタクリはほとんどの兄弟が希望を出したのを見て、口を開き――

 

「ではおれは」

「お兄ちゃんはモチモチ○木だよね」

「お兄ちゃんらしいな」

「カタクリだもんな」

「カタクリはモチ○チの木……と」

 

 希望を述べる前に担当作品を決められ、上げかけた手は寂しく下げられた。

 モンドールはオリヴァー・ツイ○トを取っていった。

 

「では次、第二希望を取るぜ」

 

 第一希望でシリーズを選んだスムージーその他四名は第二希望と第三希望を辞退し、血を見ることなく第四希望まで決まった。それでもまだまだ残る作品数は多い――十数年という年月の積み重ねに皆がため息をついた。

 

「すごいものだ……こうして改めて目録を見ればリトルママの抜きん出た才能が分かるというものだ。小さな子供向けから大人も楽しめるものまで多種多様にあるのだから」

「放送の時間はみんな静かになるからね。リトルママがいなかった時なんて思い出したくもないよ」

 

 そう感想を述べ合う子供達に――ビッグマムは目を少し潤ませながら「その、スゴい『でんでん読み聞かせ物語』の顔になるんだぜ、おれたちが作る本は」と声を絞り出す。

 

「おれたちは海賊だぜ? それがリトルママに認められて……公認で本を作るんだ」

 

 いくらビッグマム海賊団がライバルを蹴落としたところで、決定権はリトルママにある。彼女に「海賊団による製本は嫌だ」と言われたらどうしようもない、そのときは涙を呑んで諦めねばならなかった。

 全てはリトルママの胸三寸だというのに、彼女には選ぶ権利があるのに、ライバル全員ぶち殺したビッグマム海賊団に許可をくれたのだ。

 

 誰もが目を押さえ、鼻をかみ、ハンカチを洗濯に出した。

 

 『細かいところまでこだわりすぎて製造単価がやばい、売価がほぼ原価』と評される万国版誕生の瞬間だった。

 

***

 

 ニュースクーのネットワークを利用した生原稿の貸出――それが万国に届く日は、城内が上を下への大騒ぎになる。

 

 原稿を絞りたがるスムージーを抑えるペロスペローやカタクリ、自分の本の一頁に加えたくなる闇の衝動と戦うモンドール――彼らを外野に、原稿に群がってキャッキャと騒ぐ兄弟姉妹。

 

「この文香すっごくいい香りがする」

「わわ、いい紙使ってるよ……触り心地サラサラ、やば」

「人柄が現れたような字だ、可愛いな」

 

 原稿の裏には落書きなどもあったりして、彼らはそれも舐めるように見た。

 

「ん? なんだこれは」

 

 原稿とともに包まれていたのは「プラリネちゃんへ」と書かれたノートだ。

 そしてぞろぞろとプラリネの水槽に移動した兄弟らは、まだ幼い妹のやったことを聞いて悲鳴を上げた。

 

 ――プラリネ曰く。

 前に原稿を返すときお手紙を入れたのよ。

 手紙に「どのお話も好きだけど、人魚とか魚人とかが主人公の物語が少ないからほしい」って書いたの。

 

 「リトルママ、あたしに絵本作ってくれたのね」と笑み溢れるプラリネは可愛らしかったが、それとこれとは話が別だ。そんな羨ましいことがあってたまるもんか、私だってリトルママ手作りの本がほしい――おれだって、あたしだって。

 絵本はプラリネの手に渡ったが、羨ましいものは羨ましい。「足長族の物語はどこ?」だの「剣士の物語……いいよな」だのと苦しい胸中が口から漏れる。

 だが自分より嫉妬で苦しんでいるブリュレの姿を見れば、みなが口を噤んだ。

 

 ブリュレは――血涙を流していた。ひぐっ、と嗚咽を飲み込んでミロワールドに逃げ込んだ彼女を追いかけられる者はいない。

 

「――リトルママに、ブリュレのための物語を……依頼しよう」

「賛成」

「うん……いいと思うぜ……」

「異議なし」

「それがいい」

 

 そして送られてきたのは、「まじょ○とカワイイの大好き王子さま」。カワイイ妹や弟が側にいるとお兄ちゃんお姉ちゃんはやる気百倍になるんでしょうね、という一言が添えられていて、それに兄や姉は神妙な表情で頷いた。

 

「分かるぜ。妹や弟がいるとみっともねぇ姿を見せられねぇと思うからな」

「いつでも格好良く有りたいね、特に弟妹の前では」

「お兄ちゃんかっこ悪いとか言われたら自殺する自信しかない」

「強く、凛々しく、美しく……理想の姉たるべく日々努力を重ねるのみ」

 

 そしてそれと同じ包みに、ビッグマムにも「ぐり○ぐら」が同封されていた。ノートに描かれたほのぼのとした色鉛筆画にペロスペローは「これはやばい」と頭を抱える。

 

「ママのことだ、絶対にこのノートを持ち歩くぜ」

「だろうな。……それに何の問題がある」

「ご機嫌でいてくれるんじゃないのか?」

 

 ペロスペローは目を閉じ――天を仰ぎ、囁く声で答える。

 

「うっかり汚したり破損したりなんてしてみろ、ママの機嫌が直ると思うか」

 

 無理だ、というのは火を見るよりも明らかだ。ビッグマム本人のせいであっても他の者のせいであっても、故意があっても故意がなくても、このノートが少しでも破損すればビッグマムは暴れまわるに決まっている。

 しかし、このノートをビッグマムに渡さないという選択肢はない。どうする……どうすればいい。

 

「モンドール、どうにかできないか」

「おれが使えるのは本を操る能力であって、本の状態をきれいに保つ能力じゃねぇぞ」

「だよなァ」

「役立たずね」

「おい表へ出ろモーツァルト」

 

 最高の本を作るため、世界各地から金と脅迫の二刀流で集めた木版画職人。その中でも技術力で抜きん出た三人を呼び出し、シャーロット家の兄弟らはこう命じた。

 ――それの文字も絵もそっくりそのまま写して本にしろ。ノートの解体は許さないし、線をなぞるのも禁止。ああ? 「無理です」だ? おれたちは出来るか出来ないかなんて聞いてねぇんだ……やるかやらないかだ。やれ。

 

 職人を泣かせた、世界に数冊しかない「ぐりと○ら」の原本は――ガラスケースに仕舞われた。

 

****

 

 ニュースクーから新聞を買うたびに見せられるシャーロット・リンリンことビッグマムのデカい顔――マルコは「もうこのババアの顔なんて見たくねぇよい」と嘆いたが、新聞社の発表によるとビッグマムは一年分の広告枠を買ったらしい。

 1ページ全面にデカデカとアクの強い顔が印刷され、「おれが『でんでん読み聞かせ物語』の本を作る。文句あるやつは万国に来い」とガンを飛ばしている。マルコはすぐにそのページを折りたたんで見えなくした。もはや視界の暴力だよい。

 

 この広告をこれから半年以上……細かいことを言えば十ヶ月も見ることになるかもしれないと思うと気が滅入ってならない。署名を集めて新聞社に抗議の手紙を送るべきではないか? ビッグマムの顔なんて見たくねぇ、せめてお菓子の写真に変えろ、と。

 

 ――いくら勢力がデカかろうが金があろうが海賊は海賊、モンデンキントの許可が下りるわけもない。そうハナから諦めていた白ひげ海賊団は、つい先日あったビッグマムの勝利宣言「(モンデンキントから手紙が)来た!(手紙の中身を)見た!(許可もらえたから)勝った!」に耳を疑った。

 万国の王だなんだと持ち上げられてはいるが、ビッグマムは世にはばかる海賊であり、忌避される身分だ。王侯貴族あたりからは恨まれてもいる。

 

 だというのに、モンデンキントからの公認を得た。

 

「まさかビッグマム海賊団が公認を得るとはなぁ。じゃあやっぱりモンデンキントがどっかの王族か貴族って話は噂でしかなかった……ってことかね」

「王族や貴族じゃないかもしれねぇが、金持ちってのは確かだろうよい」

 

 横から新聞を覗き込んでいたサッチに、マルコは肩をすくめて返した。トーンダイアルを湯水のように使っているのだ、貴族ではないなら大企業のご令嬢あたりだろう。

 

「うちも立候補すりゃ良かったのになぁ、残念」

「そしたらビッグマムと全面衝突だよい」

「やべぇ」

 

 大規模な海賊団といえばカイドウもいる――カイドウも手を上げたらしいが、数年前にカイドウの拠点となったワノ国は鎖国している。イゾウが満面の笑みで「ハッ、ざまぁみろ」と吐き捨てた姿は記憶に新しい。

 

「ビッグマム版出たら買うか?」

「分からねぇな……あいつらって趣味いいのかよい」

「おれの覚えてる範囲では服の趣味が悪い奴しかいなかったはずだぜ」

 

 ビッグマム海賊団の代表例といえば――ベビードール姿のシャーロット・リンリン、全身から変態臭さが漂うペロスペロー、格好つけているのがあからさまでムカつくカタクリ。

 マルコとサッチは自らの服装を確かめた。ありふれた……つまり、まともに見える格好をしている。

 

「絶対に買わねぇよい……」

「ま、これまで通り私家版買っときゃいいだろ。安いし、ボロボロんなったら気楽に捨てられるのがいい……ときどき誤字脱字あるけど」

 

 しかしその数ヶ月後、全世界規模で販売された本の装丁は、二人の想像と違いまともだった。変態性など全くない表紙、薄すぎずめくりやすい紙は生成りの色で、本文のインクははっきりと濃く発色しており読みやすい。

 愛蔵版と呼ぶべき素晴らしい本だ――本棚に並べて大事に扱いたいやつだ。こんなのほしいに決まってる。

 

 購入希望者は母船の食堂に集合せよ、という呼びかけに応えて集まったのは、随伴の船からを含めて百数十人。

 

「二冊だ――二冊だけ買う」

 

 まとめ役をしている兄が指を二本立てた。

 

「一人ひとりが揃えると重みでモビーが沈む。分かるよな? 個人での所有は認められない。いいか、絶対に買うなよ。ふりじゃねぇ。モビーを沈没させたくなかったら絶対に買うんじゃないぞ。代わりに図書室に二冊ずつ置くから……いいな? 分かったらハイと言え」

「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」

 

 良い子の返事が食堂を揺らしたが、それから一年後に個人所有している者が見つかって船首に吊るされた。

 

「ぼくはー! だめって言われていたのに物語の個人所有をしたー! バカでーす!」

「「「「死ねー!!!!」」」」

「自分だけのー! はてし○い物語はー! 自分がバスチ○ンになったみたいでー! 最高でしたー!」

「死に晒せー!」

「おい、誰かあいつの縄を切れ。キレちまったよ」

「死んじゃう、死んじゃうから駄目だって。腕縛ってんだからさ」

「今すぐそのバカ引き上げろ! 兄貴がそいつを殺しちゃう前に!」

 

 モビー・ディック号の航海は今日も平和だ。

 

****

 

 海上における理不尽な存在といえばほぼ全ての海賊が該当するが、海上で見る者全てに「どうしようもない理不尽さ」を感じさせる存在といえば、王下七武海が一人ジュラキュール・ミホークをおいて他にない。

 彼の船には寝る場所、調理スペース、日陰なし。堂々たる玉座が甲板のど真ん中に設置されており、何故か前方二箇所に火のついた蠟燭が立ち……そればかりではない、航海には不向きとされる棺型をしている。これで偉大なる航路を進んでいるというのだから――ミホークの気が違っているのか、船に何かしらの秘密があるのか、一般常識が間違っているのか。

 

 マリージョアの港に自分の船を固定させたクロコダイルは隣に浮かぶ小さな自殺船を視界に入れ、頭を振った。堅実と盤石を愛するクロコダイルには受け入れがたい船だ。これで往く路は航路ではなく死路だろう。

 

「……ん?」

 

 固定された玉座の肘置きに置かれた薄い冊子に目を留め、案内役の海兵が「こちらへどうぞ」とか言いながら歩き出すのを無視して棺に乗り込む。体重が掛かって沈み込む船体、ギッと木材が軋む音――手に取った冊子は私家版「るろうに○心」だ。

 何冊に分冊したものかは分からないが、表紙には頬の十文字傷と長い赤毛だけ鮮やかに着色された男の輪郭と刀の絵に四巻という文字のシンプルなものだ。潮風の中読んでいるからだろう、紙の一枚一枚が不揃いに歪んで厚みを増している。

 「る○うに剣心」は人を殺して殺し続けて――その末に不殺に辿り着いた男の物語だ。舞台はワノ国をモデルにしたのだろう、他国との交流を絶っていた四百年の平穏を外国により叩き起こされたニホンなる国。ニホンを舞台にした作品は多くあり、「ワノ国行きてぇ」と嘆く部下たちを「馬鹿が」「カイドウに喧嘩売るつもりか」と何度罵ったことか。

 

「バカバカしい。ニホンを舞台にした至高の物語といやぁ『国盗○物語』だろ」

「お前はそう思うのか」

 

 波止場に立っていたのは母船ならぬ墓船の主――ミホークだ。

 

「鷹の目」

「山あり谷あり、立ちはだかる幾多の壁を乗り越え人を蹴落として夢をつかむ立身出世物語だ……が、ドウサンは息子に裏切られ、ノブナガはミツヒデに討たれる」

「……ハ、んなもん澱まなけりゃいいだけのこった。海や河の水は流れているから澄んじゃあいるが、堰き止めりゃぁすぐに腐るもんだ。おれは老年のドウサンやノブナガとは違ぇ。いつまでも流れ続けるのさ」

「そうあれればいいがな」

「うるせぇな」

 

 海葬船から下りると案内役の海兵が引き返してきていた。申し訳ありませんと謝罪を繰り返すそいつに手を振って、クロコダイルは顎で先を差した。

 

「おら、案内役じゃねぇのか――早く歩け」

 

 王下七武海を集めた会議が――二時間後に迫っている。

 

****

 

 ボア・ハンコックはドンキホーテ・ドフラミンゴが嫌いだ。あれと仲良くするくらいなら舌を噛み切るくらいに嫌いだ――ちゃんと理由はある。

 

 ドフラミンゴは「でんでん読み聞かせ物語(ラジオドラマ)」を自分の所有物扱いしているのだ。

 

「あいつはおれのために朗読を続けてんだぜ? おれのものだと言って何が悪い」

 

 ドフラミンゴはそう言ってはばからない。

 

 ドフラミンゴを評するなら、海賊の中でも「有り様」が最底辺のクズ、品性の欠片もない女の敵、四つの海で一番信用に値しない男……といったところだろう。そんな奴が放送主を指して「あいつはおれの婚約者。我が愛しのマリア様だぜ」などとうそぶいているのだ。

 ――殺してしまえばいいのに。七武海が六武海になっても誰も困らない。

 

「見たくない顔じゃ――死んでしまえばいいのに」

「フッフッフッ、いきなりの暴言だなァ海賊女帝」

 

 今日のため用意された会議室。そこに現れた人間のクズを一瞥してハンコックは顔ごと目を逸した。クロコダイルは顔をしかめて腕組み、ミホークはあくび。

 

 三十路半ばのクズ男はガニ股歩きで汚いスネを左右に見せびらかしながら会議室を進むと、礼儀知らずな態度を恥じることなくどっかりと椅子に腰掛ける。

 この男が幼心の君の婚約者を名乗るなど片腹痛い。ハンコックは内心盛大に顔をしかめた。――が、本当に婚約者かどうかは別にして、こいつが幼心の君を知っていることは確かだ。

 

 聖地にドンキホーテの名字を名乗る天竜人がいること――幼心の君が彼の地で呼ばれている名を知るハンコックは、ドフラミンゴの言葉を妄言と切り捨てることができない。

 

「よう、誰の話をしてたんだ? この数年で肥満が進んで見た目がやべぇビッグマムか? 高額賞金首が増えた白ひげか?」

「いや、ワノ国――カイドウだ。今日の議題になる」

「あのニホンもどきの国と引きこもり野郎か! あそこへの密出国が増えてるらしいなァ――物語が面白ぇせいか。おれのマリアの才能にも困ったもんだぜ」

「ドフラミンゴ」

「フッフッフッフッフッ。分かった分かった、黙ればいいんだろ」

 

 センゴクがたしなめるとドフラミンゴはニヤけ面で口を閉じる。

 元帥ともなれば幼心の君がどこの誰なのか――どのような身分の方なのか知っているだろうに、何故ドフラミンゴの発言を否定しないのだろう。ハンコックには不満がある。

 

 これではまるで、ドフラミンゴが彼女の「婚約者」であるのは事実だと認めているようではないか。

 

「議題の詳細については全員が――今日の参加者が揃ってから話す」

 

 誰も喋らない静かな会議室の窓の外へ、ハンコックはツイと目を向けた。妹たちに背中を撫でてもらいたいような――「寂しさ」などという一言では表現しきれない感情が胸の中を渦巻く。

 あの人は今も一人でいるのだろうか。鳥かごの中に一人で。

 

 半年以上前のことだ。懐かしい声の男を見つけたと配下から報告を受けて面会すれば、顔こそ知らない相手だったが――よく聴き知った男だった。

 

「とある名字の人間を探しているのです」

 

 男が求めたのは人探しの助力。男とその仲間たちは二十数年前から人探しを続けていると話し、ハンコックは胸を詰まらせながらそれに頷いた。分かった、協力しよう……必ずやその名字の者を見つけてみせるから安心するがいい。

 礼に話をすると言った彼の声を聴きながら、ハンコックは恩人へ送る手紙の文面を考えた。海は広い――いるかも分からない人探しだ。金はあるらしいが、耳と口は多ければ多い方がいい。

 

 東の海へ向かうという彼とは電伝虫の番号を交換し、別れた。

 

 今はまだその名字を持つ者は見つかっていない。――彼女を喜ばせる情報は手に入っていない。

 

「バーソロミュー・くま様、入室です」

 

 海兵の声かけののち、のっそりと現れたバーソロミュー・くまが静かに席につき、王下七武海のうち五人が揃う。今回モリアは「無理、しんどい……」ため欠席、ジンベエは海王類によって船が小破したため遅刻という連絡が入っている。

 モリアの欠席は「でんでん読み聞かせ物語」でフロム・○・エンパイアの連載が終わったせいだろうか。もしそうなら寝込んでいる可能性が高い。

 

 緊急の連絡なるもののため別室で電伝虫を使っていたバーソロミュー・くまが戻った今、いつでも会議を始められる。

 

「おいおい、遅刻しておいて何もねぇのか、くま?」

「遅刻はお前だけだ、ドフラミンゴ。くまは別室にいただけで、とっくに来とった」

 

 ドフラミンゴの人間性はドフ……もといドブだ。それは王下七武海の残る全員が理解している。しかし強さのみを評価するならドフラミンゴはこの世で十指に入る強大な個人戦力であり、敵に回すと面倒極まりない男だ。

 海軍は――つまり世界政府は、この男を操縦するために幼心の君を餌としてぶら下げているのでは? だからこその婚約者、だからこその――「おれのマリア」なのではないのか。

 

「――ワノ国に行くやつが減りゃいいんだろ? それならニホン関係の話は全部出版停止にすりゃいい。簡単だ」

 

 会議が始まり、ワノ国への密出国をどう防ぐか、海軍の取れる手段や王下七武海が取って良い手段の範囲についての話題に進んだ際、ドフラミンゴは軽い口調でそう口にした。

 

「てめェとは反りが合わねぇと前々から思ってたが、やはり合わねぇな」

「表へ出ろ、ドフラミンゴ」

「二人とも落ち着け――今は会議中だ。座れ、座れというに。煎餅はどうだ……今なら大福餅も付ける」

「緑茶」

「茶」

 

 尊大な態度でニホン茶もといワノ国の茶を要求した二人に梅干しを食べたような表情になりながら、センゴクは「あー、キミキミ、緑茶人数分」と雑用に声をかけた。

 

****

 

 私がラジオで読み聞かせているのは、前世で読んだ物語が元とはいえ、記憶があやふやな部分はたくさんあるし、文面をひねり出してるのも私だ。つまり五割くらい私の作品といえる。

 ――本にしたいな。ハードカバーで書店に並んでるの、想像すると楽しいな。

 

 そんな思いがうっかり口から出てしまった数日後、新聞に「おれが作ります」という1ページ広告が出た。広告主はシャーロット・リンリン、ビッグマム海賊団の船長だという。

 他にも手を上げてくれた出版社や個人や海賊団はいたが、全てビッグマム海賊団が押し潰してしまった――ビッグマムが他の希望者全員を排除するのに掛かった期間は一ヶ月ちょっと。

 

 これを拒否したら死者が増える……。私は震えながら「よろしくお願いします」と手紙を書いた。いのちだいじに。

 

 母は「海賊に任せるなんて!」とプリプリ怒っていたが、祖父()は「狂信的な信者から信仰を取り上げようとしたら何が起きると思うえ? 地獄だえ」と言って認めてくれた。

 えっ、ビッグマム、私のラジオのファンなの! 祖父()も知っているくらいなのだから、ビッグマムが「でんでん読み聞かせ物語」の熱狂的ファンだということは世界的に有名なんだろう。

 

 ちょっと照れるね。そんなファンだなんてふへへへへ、サービスしちゃおうじゃないか。サービスサービスぅ!

 特別に絵本も描いちゃう!

 

 そうこうするうちに出版された本が手元に届き、私は熱い涙を流した。ビッグマム海賊団、めっちゃ立派な本にしてくれた――どんな海賊版()が出るんだろうなんて疑ってすみませんでした。めっちゃいいです。

 

 言い訳させてほしい。私の中での海賊版のイメージは、電気屋街のアーケード下、路上にレジャーシートが敷かれていて段ボールが並べられている光景なのだ。そしてその段ボール箱の中に詰め込まれたビデオテープと、販売者なんだろう不審者。

 前世の懐かしい思い出だ。

 

 ――そうだ、ヤミ販売者がレジャーシートを敷いていたその正面のビルの二階で、人気絵師やゲームイラストの原画販売会やってたりもしたんだった。ビルの雰囲気が怪しすぎて入らなかったけど。

 嘘です一回だけ入りました。もう何の絵を見たかも覚えてないけどエロゲ系のイラストだったはず。

 

 一つ思い出すと関連した記憶が次々に蘇ってくる。脱法行為してるんじゃないかって実は疑って見ていた免税店、これで商売が成り立つのかこっそり心配してたネジ専門店、キン○マン連載時のジ○ンプ本誌を置いていた古本屋、ぶっちゃけ一人で入るのが怖かったまんだ○け、間口が狭いマクドナ○ドを過ぎたら(まん○らけよりは)明るいア○メイトが待っていた。近所の本屋には冬○社の単行本を置いてなかったから、氷の○物の物語は全巻メイトで買ったのだ。懐かしい。

 しかし00年代初頭にまほろ○てぃっくから始まったメイドブームによって電気屋街ではメイドカフェ戦国時代が始まり、日本一のメイドさんを目指す胸熱漫画が○EXに連載され……大学の友達がメイドさんになりオムレツにハートを描くようになった。ちなみに私が一番好きなメイド系作品は仮面のメイド○イ。

 

 メイド――そうだ、メイドもの、やろう。

 

 奴隷をこき使う他の天竜人の皆さんをメイド萌えに目覚めさせ、奴隷に「おかえりなさいませ、御主人様♡」って言わせて喜ぶオタクにしよう。

 「レンチン料理を劇的に美味しくする魔法の呪文」とか「お触りなしなのに何故か満足してしまう写真撮影」とかを広めれば、奴隷はメイド化して地位向上を見込めるはず……!

 〜世界は平和になった〜第三部完!

 

 しかしそれには問題が一つ。私がメイドバイト未経験かつメイド喫茶通いもしたことがないトーシロということだ。

 小さなハコでライブしているビジュアル系バンドを推したことも、アマチュアバンドの対バンを見に行ったことも、地下アイドルを応援したこともない。

 ――そんな私が「ファンの心を引き付ける発言」や「コレクター精神をくすぐるチェキ」がどのようなものなのか知るわけもない。

 

 どうすれば……どうしたら……!

 

 困ったすえ、母上が集めてくれた「声がいい」奴隷たちにアイデアを募った。草色の髪の青年がバカを見る目を私に向けて「宮様よ」と口を開く。

 

「依存症なら、もっと身近で今すぐ簡単にできる方に染めたらいいだろ……ギャンブルとかよ……」

「テゾーロ……あなた天才あますか?」

 

 ギャンブル依存とメイド・V系オタク化の二方面作戦が決まった。




モデルは大阪の日本橋。
今年のユニバのサンレス、行きたかったです……。
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