はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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イラストを2件もな、頂いてしもうたんじゃ……
ぎゃわいい……(だみ声)ちなみに髪型や服装に指定はありません。あるのは色だけ。

誤字脱字報告あざます!
》焼きサーモン様、kuzuchi様、太陽のマテ茶様、minotauros様


その4【今あいにいきます】

 あの日コラさんから押し付けられた紙には電伝虫の番号がいくつも殴り書きされている――そのどれもがローを助けてくれた。コラさんは、資金も、人脈も、この紙片という形で遺してくれたのだ。

 

 二人旅の道中にあったあれこれを思い出す。

 ――海岸線に竹林が広がる島だった。波打ち際には笹竹が、内陸部に行けば行くほど竹稈(ちくかん)(竹の幹に当たる部分)の太いものが生えていた。

 枯竹を割って薪にすれば、竹は火力が強い代わりに燃え尽きるのが速いようでどんどん薪が減っていく。

 

 数分前に火へ突っ込んだ薪の断面からしゅわしゅわと泡がたちはじめ、カマキリの卵の塊――卵鞘ほどに膨らんでぽとりと地面に落ちた。

 コラさんの顔に橙の光が揺れて不気味に見える。こんな時くらいメイクを拭えばいいのに。

 

「そろそろ最終手段をとらないとならねぇ――かもしれない」

「どっちだよ」

 

 ローの病状は既に末期と言えるところまで進行していた。オペオペの実の取引について知る数日前だったのだ。

 ローも、コラさんも、二人とも行き詰まりを感じていた。

 

「義姉上なら……義姉上の関係者のみんななら、ローの病気が人に移るものじゃねェって分かってくれる、はずだ。頭がいいし優しい人たちばかりだからな。いい医者が見つかるかも」

「アネウエってことはあんたの姉か。三人姉弟だったのか?」

「いや、義姉上はドンキホーテじゃねぇんだ。ドフィの元婚約者で……ロー、お前も毎回聴いてるだろ。『でんでん読み聞かせ物語』をもう二十年近くもの間やってる」

「ハァ!?」

 

 ローの目玉が射出されかけたのをコラさんは「ははは」と大きく口を開けて気楽に笑い飛ばす。口の奥で火の光がちらちらした。

 

「でんでん読み聞かせ物語を、あいつの婚約者がやってる……!?」

「『元』婚約者だぜ、ロー。義姉上はドフィが生きていることも海賊だってことも知らねぇからな」

 

 ローはフレバンスにいたときから――平和だったときからずっと「でんでん読み聞かせ物語」を聴いてきた。特に好きなのはブラック・ジャ○クで、確かな技術と知識に裏打ちされた外科手術の描写も、アウトローでありつつも義理や人情を忘れない黒男の性格も好きだ。

 ローの父もブラ○ク・ジャックを好んでいた。万国版をわざわざ揃えるほどで……それも全てあの日に燃えてしまったが。

 

 その「でんでん読み聞かせ物語」の主が――全く名乗らないからみんな好き勝手な名前で呼んでいる彼女が――コラさんの義理の姉だというのだ!

 ローはコラさんに飛びかかるように迫り、そのピンク色のシャツをしっかり握りしめる。

 

「ど、どんな人なんだその義姉上って!! あんだけの医療の話を語れるんだ。少なくとも医療関係者、いや、医者だろ!? そいつならおれを――」

「いいや、医者じゃねぇ。あの人は……一人で外出するのもままならねぇ立場の方だ。すまん、詳しくは言えねぇ」

 

 一人で外出するのもままならない立場とは。

 

「だけどロー、あの人の影響力は広くデカい」

 

 当たり前だ。二十年近くもあれだけのクオリティの話を続けている女の影響力だ、デカくないわけがない。

 風が吹いて、コラさんの顔を光と影が踊った。

 

 ――しんしんと雪の降る島で、ローは宝箱に隠された。

 

「落ち合えなかったときはこのどれかに掛けろ――上の番号が義姉上で、その下が……時間ねぇな。とりあえず上の番号に掛ければいい」

「分かった」

「安心しな、となり町なんてドジしねぇ限りはちゃんと着く」

「いや、ドジんなよ」

 

 「殺されることはない」と言ったのに、コラさんは死んだ。ドフラミンゴに殺された。

 

 コラさんと落ち合えるわけもない「となり街」に向かう体は重くて、胸は苦しくて、顔なんてガビガビで――ローが初めてオペオペの能力を使ったのは自分の外科手術だった。自力で肝臓を引っ張り出して珀鉛を取り除き、縫合した。

 体力は限界だった。

 

 ヴォルフが拾ってくれなければローはそこで死んでいただろう。運が良かった。

 

「おれは、コラさんの――ドンキホーテ・ロシナンテの関係者だ。あんたに助けを求めろって言われた」

『あの子が……?』

 

 切開後の傷がだいぶんふさがったころ、電伝虫を借り、一番上の番号に連絡を取った。放送で聞き慣れた声は、聞き慣れない語尾を使っていた。

 

 それから数週間後、すっかり傷が治ったローのもとへやってきたのは草色の髪をした巨軀の男と金髪の女。二人ともコラさんと同年代あたりに見える。

 ほぼ直角に背中を丸めるようにして差し出された手をローはそっと握り返した。巨体に似合う大きな手だ。

 

「おれは世界最高のエンターテイメント・シティ『マリン・テゾーロ』の船長にして社長――ギルド・テゾーロ。そしてこっちは妻で副社長のステラだ」

「ロー。トラファルガー・ローだ」

 

 ローを見下ろす目は鋭く、探られていると分かった。

 

「ロシーが書いたというメモを見せてくれるか? ああ……書かれているのはおれたちの海の番号だし、おれに繋がる番号もある」

 

 テゾーロはローから紙片を受け取り目を走らせると口を引き結んだ。彼の口元が痙攣しているのが、下から見上げるローにはよく見える。

 

「ロシナンテは……ロシーは、死んだのか」

「ああ。殺された」

「そうか……」

 

 ローはこのときやっと、自分以外にもコラさんの死を悼む者がいることに気がついた。ローはコラさんの過去を知らないし、彼のドンキホーテ海賊団外での人間関係も知らない。

 そうだ。考えてみれば当たり前だ。コラソンは……ロシナンテはドフラミンゴとは違う。彼のことをロシーと愛称で呼ぶ友達が、ちゃんといるのだ。

 

「こっ……」

 

 ローの喉がぐぅっと詰まった。

 

「コラさんは」

 

 鼻の奥がツンと痛い。

 

「おれを守って……おれを守っで(ごろ)されだ!」

 

 すみません、ごめんなさい、そう叫んだローの視界いっぱいに濃いピンクが広がって……頬に触れる布と背中に触れた腕は、熱かった。

 

 ――あれからおよそ十年。ローは新聞に挟まれていた、新たな賞金首の紙をコルクボードに貼り付ける。

 

「ああ、おれが見極めてこよう。少し遠いが向かえない距離じゃねぇ」

 

 通話相手は「慌てるんじゃねぇ、ロー。もう二十年は待ってたんだ。これに数年増えたところで誤差だ」と顔をしかめたが、ローは頭を横に振った。

 

「最近『母親』の体調がいっそう悪化したんだろう? 急いだ方がいい」

 

 タイムリミットが、近い。

 

****

 

 「でんでん読み聞かせ物語」で語られるのは良質な物語が多い。子供向けあり、大人向けあり、冒険あり、シリアス、コメディ、様々な話が放送される――が、「放送主が狂ったァ!」とか「また来たキチガイシリーズ」とか「楽しみ方が分からない」と聴者を困惑させ嘆かせる話がなされるときもある。

 そのキチガイシリーズの代表は「エンジェル○説」と「魔法陣○ルグル」。感動と訳の分からなさとワクワクとが混ざり合っており、総合的に評価して「何これ」としか言い様がない。

 

 今の連載もそのキチガイシリーズで――作品タイトルは「ロボ○ト妹」。どんな顔をすればいいのか全く分からず、アルベルもといキングは顔を覆った。

 内容をざっくり言えば、「○ボット妹」は塔の天辺より聖地(・・)よりも高い場所からやってきた『宇宙人』のお兄様と、その『お兄様』に円満に宇宙へお帰りいただくべく人型……妹型ロボットを操縦する主人公♂の愛と平和の物語だ。

 ひどい。本当にひどい。キングは部屋に引きこもった。

 

「あー、キング、大丈夫か」

「平気だ……ッ」

 

 扉越しに掛けられるカイドウの慰めが今はむしろ辛い。

 

 「ロボ○ト妹」で、もし『お兄様』が褐色肌に白髪で黒い羽根をはやしている、なんて設定だったら首を掻ききっていただろう。『聖地』よりも上に住んでいた種族などルナーリア以外にないのだ。わざとか?

 

 「宇宙人」という設定はこれまで他の作品にもたくさん出ており、「地球から出た人類」のことを「宇宙人」というのだということはキングも重々知っている。

 機動○艦ナ○シコは名作だ。「宇宙人」はルナーリア族ではない。分かっている。

 

 しかしそれでもキングの心は千々に乱れてしまうのだ。苦しいやら悲しいやら腹が立つやらで感情の整理がつかない。普段は良質な物語を語るくせにどうして……この女はルナーリアに何か恨みでもあるのかとすら思う。

 

 そのキチガイシリーズが前回の放送で終わり、キングの心は開放された。

 

『さあ、今日も始まりました、でんでん読み聞かせ物語――』

 

 キングは落ち着いた心で、安楽椅子にもたれかかっていつもの声を聴く。朝から酒を呑むのははばかられたためゴブレットにはぶどうジュースを注いである。

 

『今日は短いお話です。「親善キ○ス」』

 

 キングはゴブレットを床に叩きつけ、「このアマァ!」と顔も知らぬ女を罵った。

 

***

 

 元気いっぱい海へ漕ぎ出し――遭難し、鎖国中のニホンもといワノ国へ行き、白ひげを襲撃し。エースがルフィに別れを告げてから三年近くが過ぎていた。

 新聞を読みながら朝飯を採っているイゾウの隣に「はよー」と声を掛けて座ったエースは、イゾウの探るような目と目があった。

 

「エース、お前海賊女帝に何かしたか?」

「海賊女帝? 会ったことすらねぇぞ」

 

 白ひげ海賊団では、海賊女帝――ボア・ハンコックは「見下ろしすぎてむしろ見上げているポーズ」で有名だ。

 あのポーズについて「ハンコックより背が高いやつが相手ならもはや『見上げているだけのポーズ』なのでは」とか「あれは美貌を備えた稗田八○斎。美しければどんなポーズも許されるのだということがよく分かる」とか、白ひげ船員は色々と好き勝手なことを言っている。当人にバレたら全員が石にされること間違いない。

 

「ということは、九蛇海賊団のメンバーか関係者を泣かしたんだな……どこかで」

 

 可哀想なものを見る目に変わったイゾウに新聞を差し出され、エースはその指差す記事を読み上げる。

 

「『海賊女帝ボア・ハンコック、白ひげ海賊団ポートガス・エースを名指しで呼び出し』『お前を待っている女について話がある。首を洗って出頭せよ』……いやいや」

「いやいや」

 

 頭を横に振ったエースにイゾウも頭を横に振る。

 

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいやいや」

「往生際が悪いな、エース」

「泣かしてねぇよ!?」

 

 本当に思い当たるフシがないのだ。「妖艶なくの一になったら会いに行く」と約束したお玉はまだ一桁の年のはずだし、上陸時はたいてい食欲優先だから性欲は……身に覚えがない。

 

「殺されるかもしれねぇが――行け」

 

 エースの背後に立ったのはビスタだ。肩を叩かれて「冥福を祈る」と気が早すぎる別れの挨拶をされたエースは腰を浮かして「だから知らねぇって!」と悲鳴を上げるが、ビスタは沈痛な面持ちで首を横に振る。

 

「責任取ってこい」

 

 エースはドサリと椅子に腰を落とした。どうしたらいいんだ。おれを信じてくれる人は、味方はいないのか――

 

「ま、冗談だ」

「えっ?」

 

 パッと顔を上げたエースに、その場の全員がニヤニヤと白い歯を見せる。

 

「おめーが女泣かせられるわけがねぇだろ、十年早いのよ」

「まだ大人の階段登ってないんでしょお、エースくんウブだもんねェ」

「濡れ衣って、おれはちゃんと知ってるぜ、エース」

「あー……実はな、男と女がおてて繋いだら子供ができるんだよい」

「おいマルコっ、その話はエースには早すぎる!」

「おれが教えてやるよ、男のおしべと女のめしべが――」

「ティーチしーっ! しーっ! 黙ってろ!」

「男女の営みくらい知っとるわ!!!!」

 

 エースが怒鳴ったとたん「なんだ知ってたのかよ」「つまんねーな」と三々五々に離れていく。エースの周囲は一気にがらんとなった。

 

「マァ、濡れ衣か――海賊団員の中に、てめーに惚れたとかいうオンナがいるんだろう」

「ええ……」

「手配書が回れば、こういう一方的な惚れた腫れたはよくあることだ。気にするほどのことじゃねぇ」

 

 イゾウの言葉に、そういうものかと頷いて、エースは朝食を掻っ込んだ。

 

「おれに惚れたオンナねぇ……」

 

****

 

 ドフラミンゴは王下七武海になる際、ある条件を提示した。幼い頃に婚約した相手との結婚許可と、結婚の際にドフラミンゴの天竜人としての身分を復活させることだ。想い合っている二人を引き離すつもりか、とドフラミンゴは使者を睨みつけたが、使者――CPだろう男は「さようで」と受け流した。

 

 使者の慇懃な態度などドフラミンゴは気にならなかった。自信があったのだ。マリアローズ宮は自分のために放送を続けているのだから、と。根拠は三つ。

 まず、放送される物語に「天竜人以外に広まるには危険な思想や知識」が含まれていること。あれだけの膨大な数の物語だ、マリアローズ宮一人だけで話を用意しているはずがない。孫娘可愛さに祖父が「孫娘の教育にもなる」内容の物語を作らせた……といったところだろう。

 次に、マリアローズ宮が放送の際に「大事なあなた」のために読む云々と言っていること。この言葉は放送開始初期から繰り返されており、およそ二十年のあいだ変わらず「大事なあなた」と言い続けている。

 最後に、マリアローズ宮が二十代半ばの身でありながら未婚であること。嫁も婿も選び放題の天竜人が成人後も独身を貫いているなど普通ならありえない。心に「この人でなければ」と想う相手がいるからだろう。

 

 マリアローズ宮が放送を始めたきっかけはドフラミンゴであり、マリアローズ宮は放送開始当初から「大事なあなた」のために朗読をしている。つまり、彼女は今もなおドフラミンゴのことを思い続けているのだ。

 少しは可愛がってやろう、とドフラミンゴは哄笑した。

 

 ――だが。ドフラミンゴの要求は五老星らから猛反発を食らった。特にマリアローズ宮の祖父である男が「娘は孫娘がいないと食事も取れんのだえ。マリアローズが結婚するなんて無理だえ」と強硬に主張したらしい。

 「適切な婚約期間」ののちに結婚を許す……という五老星側の返事を伝えてきた使者に、ドフラミンゴはローテーブルを殴った。大理石のそれにヒビが走る。

 

「冗談じゃねぇぞ……。そんな約束なんか信用できるわけねぇだろ。今すぐ、おれとマリアローズ宮の結婚を認めろ」

「マリアローズ宮はまだ結婚をお望みではありません」

「マリアローズ宮がそう言ったのか?」

「マリアローズ宮はまだ結婚をお望みではない、と申し上げました」

 

 マリアローズ宮まで話が届いていないのか、とドフラミンゴは口をへの字に歪める。

 

「――いいだろう」

 

 急いては事を仕損じるという。ドフラミンゴはまだ三十になったばかり。これからの人生だって十分長い。

 天竜人にドフラミンゴの利用価値を示せばいいのだ。奴らがドフラミンゴを無視できなくなるように、手放せなくなるように、力を蓄え手数を増やし――マリアローズ宮との面会をもぎとり、その場で手籠にしてしまえばいい。

 一つ長嘆息で気持ちを整え、ドフラミンゴは使者の目をまっすぐに睨んだ。

 

「今は婚約だけ、ということだな?」

「はい。婚約証書はこちら――ここにサイン頂ければ、その瞬間からマリアローズ宮はドンキホーテ・ドフラミンゴ様の婚約者です」

 

 差し出された証書の上から下まで読み、その言葉に偽りがないことを確認する。ここにサインすれば……マリアローズ宮はドフラミンゴのものだ。

 懐から取り出した万年筆の蓋をきゅぽんと鳴らす。マリアローズ宮の流麗なサインの隣に、ドフラミンゴの字が、並んだ。

 

 ――最初に許されたのは文通。ドフラミンゴは万年筆を壁に投げつけ、ダーツの腕を使者に披露した。

 次に許されたのは一回につき十分ほどの通話。読み聞かせのようにゆっくりしゃべるマリアローズ宮にキレかけてはペンや文具が犠牲になった。

 面会はまだ許されない……四年経っても面会が許されない。

 

 通話を終えてドフラミンゴは机の上に脚を放り出した。革張りの椅子に上半身が深く沈み込む。

 

「埒が明かねぇ……」

 

 通話の際にマリアローズ宮が口にするのは、「母上様はわちしを心配してくれているのあます」だとか「母上様はお体が弱いあます。心配あます」だとか、「母上様」のことばかり。母上様の健康が不安です〜という話を一年の間に三十回は聞いたし、母上様と一緒にお庭を散歩しました〜という話はその倍以上の回数は聞いた。同じことばかり何度も何度も……引きこもりだから話題がないのか?

 可愛げがない。少しは「読み聞かせ物語」の読み手らしい話術を楽しめるのだろうと期待したのにそれもない。面白みも特徴もないない尽くしの女。これで容姿も悲惨だったら――結婚する気が失せそうだ。

 

 かつては欠かさず聴いていた「でんでん読み聞かせ物語」もこの数年は飛び飛びになり、ここ半年などは全く聴いていない。朗読の声を聞くと「母上様とお庭をお散歩したあます〜」という馬鹿馬鹿しい会話が思い出されてしまい話の内容に集中できないのだ。

 しかし全く聞かないとなると取引相手との会話に困るため、人に書き起こさせたものを読んでいる。が、朝晩二回の放送しか物語を聴く機会がないせいで誤字脱字が多い。目につくたび腹が立つ。

 

 机の上の脚を組み直し、「だりぃ」と一言愚痴る。

 

 「母上様」が死ねば、マリアローズ宮はドフラミンゴと面会する気が起きるのだろうか? 二十年以上連絡の一つもなかった初恋の男よりずっと側にいた母親の方が好感度が高いのは分かるし、病気がちな「母上様」と一緒にいたい気持ちも分かる。

 しかしだ。婚約時に二十代だったマリアローズ宮はもう三十路。その年になってもなおママべったりのマザコンというのは――気色悪い。

 

 もしや、マリアローズ宮はこの「気色悪さ」のせいであの年まで結婚できなかったのでは? つまりはあの一家の不良債権――利用するだけ利用したらどこかに閉じ込めておくべきだろう。天竜人が天竜人を殺せば罪に問われるが、キチガイを屋敷に閉じ込めておくくらいなら罪になるわけもない。

 そんな想像にドフラミンゴは肩を揺らして笑った。

 

「早く逢いたいぜ、おれのマリア」

 

****

 

 認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを――意訳「ドフラミンゴ怖いよぉ。むかし結婚したいなんて言わなきゃよかった」。

 

 ドフラミンゴが怖い。やばいくらい怖い。8歳くらいのときは「生意気でかわいい」感じだったはずなのに、今は身の危険……いや、命の危険を感じさせるヤバいやつになってしまった。

 例えるなら悪タレで小憎たらし可愛い岸和田少年○連隊がジャギ様に育ってしまったような――普通そうはならんやろがい。どうしてこうなった。

 

 ドフラミンゴがロシーのことを殺したって聞いてるんだ、ローくんから。他にも「お前人間じゃねぇ!」な極悪非道の限りを尽くしていることも報告を受けている。その男が「七武海になってもいいけど、マリアローズ宮との結婚が条件な」とか訳の分からないことを言い出したと聞いてみろ、男祭りのミルコ・クロ○プになってしまう。

 何故――いや本当に何故? 二十年連絡一つ寄越さなかったのに何故?

 

「お前にはこの婚約を受けてもらうえ」

「エエッナンデッ」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴをわちしたちが操縦するためには必要な犠牲、ということだえ」

「そ、そんなお祖父様、後生あます! 無理あます!」

 

 泣いても暴れてもどうにもならず、婚約証書にサインさせられた。泣いた。へへっ、宇宙人(理解できない人種)なんてコメディに引きずり込んでやるよオラッ、「ロボ○ト妹」を喰らえ! 「親○キッス」もだ!

 

 ――ドフラミンゴから届いた手紙には、むかし私が送った手紙に返事しなかったことや、長いあいだ連絡しなかったことについての謝罪は、一言もなかった。この野郎。

 手紙の文面からにじみ出るのは「おれは偉い」「おれは強い」という自慢で、仮にも婚約者となった私のことを知ろうという雰囲気が感じられない。質問のための質問をするな。質問に質問を返すな。

 

 手紙をやり取りするうちにだんだん返事の内容に頭を悩ますのが嫌になって、私は自慢話肯定マシーンになった。「さすが」「知らなかった」「すごーい」「センスいい」「そうなんだ?」。キャバ嬢のさしすせそを使ってみればその利便性に気づく……たった五つの言葉なのに活用の幅がとても広い。ありがとうキャバ嬢。

 

 しばらく手紙のやり取りをして、手紙を運んでくれている人から「そろそろドフラミンゴの我慢も限界ですね」という報告を受けて週イチの頻度で通話をするようになった。――が。

 

 会話すると分かるものがあるじゃない。こいつ糞だなーとかそういうやつがなんとなく分かるじゃない。

 ドフラミンゴの言葉の端々から貞操の危険を感じた。電伝虫ごしに視姦されている気がする。お前をおFAX(誤字にあらず)してやるぜという匂いが漂っている。

 

 鬼畜抜きゲーの竿役が……少年誌にいる……?

 

「無理あますお祖父様、無理あます!! 今すぐ婚約破棄あます!」

「我慢するんだえ」

「お祖父様ァ!!!!」

 

 泣いた。

 

 このところ母上様の体調の浮き沈みが激しくて心臓に悪いし、テゾーロくんから「幼女拾いました。ローと仲良くやってます」って羨ま気になる報告が来たし……気にしないといけないことがたくさんある中に、抜きゲー竿役からの電波越し視姦。

 もう何も考えたくない。

 

「今日は母上様とお庭をお散歩したあます」

「今日は母上様と東屋でお茶をしたあます」

「今日は母上様と――」

 

 数年それを続けた結果、連絡が来なくなった。私は平穏を手に入れた。

 

「えへへ、ブリュレちゃんたちにお手紙かーこおっと!」

 

 めちゃくちゃ親切で優しい読者さんのブリュレちゃんとは海賊版(公式)製作時からの仲だ。

 

「『――実は、苦手な婚約者から最近連絡が来なくなりました! 開放された気分です^^ 祝杯をあげちゃおうと思うのですが、こういうお祝いに向いているお酒でオススメってありますか?』とな」

 

 そう、愚痴を絡めた雑談を書いた。

 

 少し愚痴っただけなのだ。

 

『ビッグマム海賊団、ドレスローザを襲撃』

 

 一面の見出しだけ見て新聞を折りたたみ、見なかったことにした。




母上様は老いてますます元気と感想に返事したけど死んでいただくことにした。

母上様が凛々しく散るか、穏やかに散るか――アンケートよろしくおねがいします。

追記
41歳くんは原作でもヴァイオレット相手に行為を強いている(と推察される描写がある)ので、これくらいのことはやると思った。

追記2
少し加筆修正。
あとビッグマムはドレスローザに5発しか撃ち込んでないよ、安心してね()

母上様の散り方

  • 凛々しく散ってくれ
  • 穏やかに散ってくれ
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