はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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母上様は穏やかに散るよ。やったね!

※注意※
・特殊性癖の描写があります。苦手な人は読まないでください。
・増やしたタグで「穏やかな散り際ルート」の結果が分かります。苦手な人は読まないでください。

誤字報告ありがとりんこ
》滝端木周様


その6(穏やかな散り際エンドルート)【遅すぎた】

 マリン・テゾーロには様々な客が訪れる。成り上がり者はもちろん、貴族、王族そして世界貴族まで。

 世界最高のエンターテインメント・シティを自称し、それを認められるサービスとクオリティ。この巨大な船が世に知られるようになって十数年が過ぎる今では「マリン・テゾーロでできない遊びはない」とまで言われている。

 

 数週間ぶりにマリン・テゾーロを訪れたチャルロス聖は、『専用ルーム』に入るなりデレデレした顔を隠しもせず「ただいまだえ〜!」とはしゃぎ声を上げる。その彼を迎えたのは――メイド服姿の六人だ。

 彼女らはみな、ミニ丈のメイド服に胸元がハート型になったふりふりエプロンを付けている。

 

「「「「「「おかえりなさいませ、ご主人様!!」」」」」」

 

 彼女らは扉を入ってすぐの場所に立つチャルロス聖へ飛びつく勢いで駆け寄ると、「マリリン、ご主人様のお帰りを待ってましたぁ」「エリリもぉ」「そんなっ、ご主人様を一番待ってたのはキラリなのにぃ」と押し合いへし合い(しな)を作るやら可愛子ぶるやら騒がしい。

 しかしメイドのなかで一人、チャルロス聖に駆け寄らない者がいた。彼女はわざとらしい仕草で顔を覆う。

 

「――三週間も空くなんて浮気だわ。絶対に他所のメイドに浮気したんだわ」

 

 よよよと泣き真似をする姿は大根としか言い様がないが、チャルロス聖のハートを射止める力はあった。

 

「浮気なんてしてないえ〜! わちしの心はピーチだけのものだえ〜!」

 

 大根役者もといピーチはそろそろと顔を上げ、「ほんとう?」と鈴を転がすような声で訊ねた。チャルロス聖の顔が更に(やに)下がる。

 

「本当だえ〜! だからわちしの側に寄るえ〜!」

「うん! えへへ、ピーチ嬉しい!」

 

 いっそ清々しいほどの棒読みだというのに、チャルロス聖はその程度のことなど気にならないようだ。流石は懐と心に余裕がある世界貴族の一人といったところか。

 チャルロス聖に近寄るピーチのためマリリンらが場所をあける。そして間近で彼女らを見れば……そのふりふりエプロンの下、ピーチのメイド服だけ他のメイドのものと素材が違うことが分かる。艶消し塗装後の金属面に似た輝き――ラバーだ。ピーチだけメイド服型ラバースーツとラバータイツを着ている。

 

 チャルロス聖はピーチにがばりと抱きつくとクンクンその臭いを嗅ぎ始める。まるで豚だ――いや、豚に失礼なので言い方を変えよう。品性がない。

 

「んほぉ〜!! ラバーと汗の臭いだえ〜!」

「そうだよ。ご主人様が帰ってくるって聞いたから……」

 

 抱きつかれたままのピーチの目が妖しく光る。

 

「昨日の晩から脱いでないの」

 

 これを着たままサウナにも入ったわ……ご主人様に喜んでほしかったから。

 ピーチの言葉にチャルロスの肩が大きく震えた。

 

 マリン・テゾーロの船内は適温に保たれているが、ラバースーツを着て過ごしやすい室温かといえば否だ。それに加えてピーチはサウナにも入っている。発汗量は尋常なものではないだろう。

 ラバーの独特な香りと――汗の臭い。はっきり言って悪臭である。だがチャルロスはそれにこそ興奮をし、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

「昨晩から……それも、サウナにまで入ったんだえ……?」

「……うん。ご主人様が喜んでくれるなら、ピーチは頑張れるんだよ」

 

 異性の汗の匂いは良い香りであるなどというのは幻想で、汗はもともと無臭だ。「汗臭さ」は汗や皮脂を養分とするバクテリアが繁殖した副産物であり、つまり「男だから酸っぱい」とか「女だから香ばしい」とかいうものではない。臭いものは臭い。

 マリリンもエリリもキラリも――もちろんピーチ本人も、この耐え難い悪臭を耐え、湧き上がる吐き気を飲み込み、輝く笑顔で鼻呼吸できるようになった猛者たちだ。棒読みの大根演技がなんだというのか、この場には「笑顔を作れない」者などいない。

 

 現在進行系で漂う汗臭さだけでも辛いというのに、ピーチは前日の昼から絶食し、下剤を飲んで腹を空にし、小の方はカテーテルを局部に差し込み首から出す。彼女の今日の朝食はゼリーだった。

 そんな苦労を乗り越えチャルロスを迎えたのだ、面構えが違う。オーラが違う。もしかすると覇気に目覚めている可能性もある。

 

 彼女がこのような苦労や苦痛に耐えてまでラバースーツを着ている理由は何なのか。それはこの部屋の壁際においてあるとある本――通称ブラックラベル――にある。

 

 ブラックラベルは「名もしれぬ性愛の使者」が執筆した変態嗜好の指南書で、初心者向けから末期の患者向けまで二十冊以上ある。

 一度踏み込めば二度と元の世界には戻れないという秘伝の書だ……秘伝の書と言うわりに製本が新しいけれども、チャルロスはその程度のことを気にする質ではない。おおらかなのだ。しらんけど。

 

 ――メイドカフェスペースであへあへ笑っていたチャルロスの耳にブラックラベルの噂が届いたのは三年前のことだった。果てのない高次元にトべる本がある、と。テゾーロを問いただしたチャルロスはこの『専用ルーム』に招待され――それまで知らなかった世界を見た。果てのない高次元なのに果てたとはどういうことか。

 とりあえず、チャルロスは「濃密に触れ合わなくとも天国に行ける」手段があると知った。

 

 それからというものチャルロスらはブラックラベルを読むため、そして実践するためこのマリン・テゾーロへ通っている。

 とはいえチャルロスは天竜人だ、何故ブラックラベルを聖地の屋敷に持ち帰らないのか? 持って帰ってしまえば通う必要などないのだ、持ち帰ってしまえばいい――そう考え、屋敷へ持ち帰ったこともあった。が、マリン・テゾーロにはその本を読み込んだプロ中のプロ(テゾーロ)がおり、そのプロが仕込んだメイド(スタッフ)とならどんな遊びだって好きなだけできる。……自力でメイドを仕込もうとして散々な結果に終わったこともあり、五百人以上のメイドを仕込んだ(※自称)テゾーロの手腕にチャルロスは全幅の信頼を寄せている。

 ブラックラベルも「この場で読むからこその価値」云々と言われたため返した。

 

 さて、ピーチの話に戻ろう。

 

 ピーチは借金奴隷だった。父親の事業が失敗し、自分の顔面に自信のあったピーチは身売りをして弟妹の命を救った……が、ピーチを競り落としたのはなんと悪名高き天竜人。

 金持ちの妾計画は始まる前に終わった。このまま殺されるんだ、慰み物にされるんだ、私の人生ここで終わりだ。そう嘆いていたピーチに射した一条の光が――マリン・テゾーロ。

 

 チャルロスが「こいつをラバースーツメイドに仕込んでほしいえ〜」とマリン・テゾーロにピーチを持ち込んでくれたから、ピーチは聖地に行かずに済んだのだ。

 テゾーロは言った。

 

「おれがお前に求めるのは、ラバースーツを一日着ていられるようになること。先ずはそれだけだ」

 

 始まったのは固く動きづらいラバースーツで動くための訓練。ラバーと汗の臭いに頭痛を抱え、脱水症状と戦い、尿意に呻き、便意に苦しみ、全身にベビーパウダーを叩きながら泣いた。自分は一体何をしているんだろう、と。

 悔しかった。辛かった。尿道カテーテルを見せられたときには目の前が真っ白になった。それでも耐えられたのは希望があったからだ。

 

 これを乗り越えてラバースーツメイドになれば、天竜人から金を巻き上げられる。お捻りが増える。里の弟妹に良いものを食べさせられる。

 つまり全ては金である。

 

 深く険しい山を越え、激しく強い波濤に打たれ……いまやピーチ(源氏名)はマリン・テゾーロにたった二人しかいない、ラバーメイドスーツを着こなし悪臭のなかでも笑顔で棒読みできる女になったのだ。そこらの逆境など「ピーチ困っちゃう」で跳ね除けられる強さを身に着けた彼女に不可能の文字はない。

 チャルロスにラバーと汗の臭いを嗅がせても羞恥心を覚えない強靭無敵最強の女、それがピーチだ。すごいぞー! かっこいいぞー!

 

 ――ここまで語ればもはや分からぬ者はいないはずだ、チャルロスがラバースーツと汗の臭いに性的興奮を覚える変態に進化してしまったことを。

 ご先祖様が草葉の陰から泣いている。

 

 ちなみに、マリン・テゾーロに通う他の天竜人も似たりよったりな特殊性癖に目覚めている。カウントダウンだけで何処へでも○ける猛者、耳かきで全身から液体を垂れ流す猛者、赤ん坊用ミルクの飲み過ぎで治療を受けた猛者。彼らの思考回路もとい嗜好回路は既に危険水域(レッドライン)を越えている――赤い大地(レッドライン)育ちは伊達ではないということだろう。

 

「社長、どうしてこんな事業始めたんですか?」

「オーナーの意向でな、天竜人を変態にしたら世界が平和になるからだ――少なくともお前の命は救えただろう?」

「な、なるほど……?」

「あとな……もともとの素質がなければここまで染まらん」

 

 どっとはらい。

 

****

 

 ウタがゴア王国――幼馴染の住むフーシャ村へ行こうと思えたのは、ペンギンたちが「幼馴染に生存報告くらいしてやれ」と説得してきたからだ。生き別れになったなら友達はウタを心配し続けているだろう、手紙を送るとかそういうのでもいいから連絡してやれ、と。確かに彼らの言う通りルフィがウタを捨てたわけではないし、ウタのことを心配しているに違いない。

 

 とはいえフーシャ村までの道が一人旅なわけもなく、ローの海賊船もとい黄色い(イエロー)潜水艦(サブマリン)で北の海から東の海へ。

 

 海の中を進む潜水艦の旅は海軍や海賊とぶつかることがなく平穏だ。洗濯物を干すため海上に出た際は甲板や手すりについた海藻を海に投げ捨てながら「うぃーおーりゔいんないえろさぶまりんっ」と歌い、「あそーれ」と掛け声が入って音頭になり、輪になって踊った。船長は参加せずに本を読んでいた。

 

 四つの海のうち一番平和だと言われている東の海に入れば、そこは噂通り海賊が少なく静かな海が広がっていた。帆を張って海上を進んでいても遠目に海賊船や海軍が見えるばかりで、わざわざ近づいてくる船はない。静かなものだ。

 せっかくだから観光しようぜ、という話になるのは当然だった。女好き過ぎる店員が「あほ」「バカ」「やめんか」と他の店員にボコスカ殴られている海上レストランで食事をしたり、数日前に海賊が暴れて壊れたという話の『ロジャーの処刑台』跡地を見たりしつつ到着した懐かしのフーシャ村。しかし。

 

「えっ、ルフィいないの!?」

 

 会おうと思っていた相手は半月以上前に旅立っていた。元気にしていたのね、とマキノに抱きしめられ再会を喜びあったウタはまさかのすれ違いに「ウソ〜」と項垂れた。

 

「ごめんなウタ、おれらが観光しようぜって言わなかったら……幼馴染に会えてたかも」

「ううん、そんなことない。私がもっとはやく会いに来てたらルフィはここに居たはずなんだもん」

 

 遅かったのだ。

 

 ――あれもこれも、遅かったのだ。

 

 フーシャ村で二日過ごし、幼馴染に会えたらラッキーと来た道を逆走していた途中だった。乱雑な船内放送が入り……ローが怒鳴るような声でウタを呼んだ。

 

「ウタァ! 来い! はやく! おばさんのビブルカードが!」

 

 ウタが船長室に着いたときテーブルの上のビブルカードは燃えていた。一気に青ざめてテーブルに飛び付く。

 

「うそ、うそうそうそうそうそ! なんで!? 聞いてない、聞いてないよ!?」

 

 火を消そうと手のひらで何度も何度も叩くが、じわじわと紙片は小さくなっていく。ローの制止など聞こえない――聞こえているが、何を言われているのかを理解できない。

 

「嘘、嫌だ、ママ、ママそんな嘘!」

 

 意味のない言葉ばかり口から出る。ビブルカードはもう小指の爪ほどの大きさしかない。

 

「やだって、嫌だってば」

「まだ会ってない」

「待ってって言ってるじゃん!」

 

 咬み付くように吼えた。

 

「ああああああああああああ!!」

 

****

 

 乱高下を繰り返していた母の体調が一気に悪化した。胸が上下しているから生きていると分かる、そんな状態だ。

 潤いのない枯れきった手を握って時間を過ごす日が一日、二日――今日で三日目になる。落ちくぼんだ目元、しわの多い額と口元、肌は土気色だ。もう長くないだろう。

 

「マ、リ……」

「わちしはここあます、母上様」

 

 母は首をわずかに動かして私を見た。

 

「ご、え」

「謝らないでほしいあます。わちしたちは親子あますから」

 

 母が瞬きを繰り返す。青黒いまなじりから涙が流れた。

 

「ご、えん」

「母上様? 気にしないでほしいと言ったあましょ」

「ぉむ、ぇんぇ……」

 

 しつこい謝罪。やはり、と腑に落ちるものがあった。

 

「……わちしは幸せでしたよ? 母上様の娘で」

 

 母が正気を失ったふりをしていることは割と最初から知っていた。2歳の幼児(・・・・・)しかいない場所では落ち着いた態度だったし、私を見ながら「あんまり似てない」と溜息を吐いていた。

 狂ったふりをしなければならないほどに追い詰められていたのだろう。それに巻き込まれた方からすれば迷惑千万としか言いようがないが。

 

 私はあのとき、平伏しようとした母さんの腕からすっぽ抜けて道に転がって。母さんは焦って私の名前を呼んで。私の名前はマリアローズと一字違いで。この人はそれをマリアローズと聞き間違えて――私を『我が子』にした。

 目の前で舞った赤い血の鮮やかさは今でもくっきりと思い出せる。

 

「ずっと後悔していたんでしょう、子供から親を奪ったこと」

 

 母の母親は奴隷で、母が5歳のときに死別している。

 

「最初は恨みましたよ。そりゃそうでしょう。でも、あんまり貴方が可哀想だから……恨めなくなりました」

 

 母が瞬きする。私の話を聞いているという合図か。

 

「私の好きなようにさせてくれたでしょう。それに、いっぱい守ってくれましたよね」

 

 あるとき思いついたのだ。マリンフォードの子どもたちが物語を元にごっこ遊びをしていると聞いて、妙案が浮かんだのだ。天竜人にとって不都合な情報を折り込んだらどうだろう?――大人も子どもも私の読み聞かせを聞いているらしいから、中にはその情報を読み取れる人がいるはずだ。

 天竜人という『神』に疑問を抱くような神話も、物語の皮を被ったテロや内乱の手法も、様々なものを読み聞かせた。自由を勝ち取れと、物語を使って囁いた。

 

 母がいなければ殺されていただろう。

 

「たくさん守ってくれた。たくさんたくさん守ってくれた」

 

 だから、引き継ぎは(・・・・・)間に合った(・・・・・)

 

「有難うございます、母上様」

 

 細く冷たい手をとって私の頬に触れさせれば、ゆっくり撫でてくれて――その手から力が抜ける。

 

「死んでしもうたのかえ……」

「はい」

 

 ずっと私の後ろにいた祖父が、腰掛けていた安楽椅子から立ち上がる気配がした。そして頭に冷たく硬い物が触れる。

 

「お前は小さい時から、全くマリアローズに似ていなかったえ」

「ええ」

 

 母は八十路であったから、祖父はもう百を超えている。嗄れた声がぼろぼろと零れ落ちていく。

 

「三十余年、よう勤めた」

「……はい」

 

 ――愛娘が永眠(ねむ)るベッドに広がった赤い染みを、老人はじっと見つめた。

 そして手の中の銃を今度は自分の側頭部に向ける。

 

「全ての責任はわちしの命で取る。五老星には……息子にはそう伝えるえ」

「かしこまりました」

 

 扉の向こうから応えた声に老人は薄く微笑み――引き金を引く。

 

****

 

 はじまりの街、ローグタウン。今日は「でんでん読み聞かせ物語」の日だから誰もが電伝虫のある場所に集まっていて、処刑台の前はがらんとしている。

 

 7時まであと2分。先日壊されたばかりのため進入禁止となっているそこを背負って立ったのは、赤と白の髪をした少女だ。師匠達が演奏してくれた音源のトーンダイアルは適当な台の上に置いて、電伝虫も同じ台に乗せる。

 7時まであと1分。放送のための特別なダイヤルを回して――7時になった。

 

「みなさん、始めまして。いつもママ、母の放送を聴いてくださり、ありがとうございます」

 

 つっかえながら喋る声は震えている。

 

「今日は……今日は」

 

 声が出ず、言葉が止まった。鼻をすすってエヘンと一つ咳。

 

「今日からは、ママの遺言に従って、私が放送を引き継ぐことになりました」

 

 ローグタウンのあちこちからどよめきや悲鳴が響いた。それが落ち着くのを待ってから、少女は――ウタは話を続ける。

 

「私は、物語は語れないけど、歌うのは得意です。――聴いてください。『新時代』」

 

 さあ行くよ(Hello)新時代(New world)




オリ主の冒険は終わったので、ここからは後日談という形でこれ以後のことを書いて伏線回収かな――と思っていました。が、支部でのアンケート結果で「凛々しい散り際ルート」が優勢でひっくり返りそうもないので、凛々しい散り際ルートも書くことになりました。つらい、ひぃん。
なので後日談は後回しです。後回しにさせて……もしかしたら後日談書く前にエタるかもしれないけど。

こっちにもちゃんと凛々しい散り際ルートを載せる予定ですのでご安心ください。

あと全く話は変わるんだが私の誕生日が近い。ウタやローとニアミスっている誕生日で少し悲しい。
というわけで祝ってくれ↓
ましまろ
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