はろー・にゅー・わーるど   作:充椎十四

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誤字報告ありがとござる
》オカムー様、不死蓬莱様


その2【知ることの功罪】

「……放っておいて」

 

 ドアを叩く相手にウタはそう声を絞り出す。

 ベッドの上で布団を頭から被り、何もない虚空をじっと見つめる。ゆっくりと目を閉じて膝に額を押し付けた。

 

 ――きっかけは、フーシャ村を離れる前日にローと交わした会話だった。

 

「おれは、赤髪海賊団がエレジアを滅ぼした理由には何があるんじゃないかと思っている」

「どういうこと?」

「連中がこれまでやってきたこと……賞金が掛けられたり増額されたりした出来事は、エレジアの壊滅以外では『海軍と衝突したから』『それまで有名だった海賊団を赤髪海賊団が倒したから』というものがほとんどだ」

 

 普段活動する北の海を離れ、東の海まで来ている――エレジアも近い。あの国が壊滅してしまった理由を調べないか。そんな誘いにウタは迷った。

 

「で、でも――それってつまり、エレジアに何かヤバい何かがあったってこと? だから滅ぼされた?」

「そうかもしれねぇし、そうじゃないかもしれねぇ」

 

 ウタの顔が強張る。

 エレジアが滅びなければならない理由があったのならゴードンが諸悪の根源ということになり、理由がなかったならシャンクスの悪辣さを補強する証拠になってしまう。

 二人ともウタにとっては育ての父なのだ。知りたいが、知りたくない。

 

「お前ももう19だ。お前には知る権利があると思う――どうだ、調べないか」

 

 そうしてウタは幼馴染を追いかけるのを止めてエレジアに来たのだ。ゴードンには何も知らせず、ハートの海賊団と一緒に。

 

 訪れたエレジアはおよそ十年ものあいだ日ざらし風ざらしで放置されて荒れきっていた。街並みには今なお焼けた跡が濃く残り、壁には蔦が、縁石の隙間からは雑草が青々と茂っている。かつての栄光は見る影もない。

 ウタは唇を噛んだ。――どんな理由があろうと、『滅ぼされていい国』などないはずだ、と。

 

 ハートの海賊団の面々総出で映像やら書籍やらを探し、いくつもトーンダイアルや映像電伝虫を見つけて、大広間の壁に映像を投影した。

 ぼろぼろの白い壁に映るのは当時の人々の平和な思い出や歌劇の映像。ウタやハートの海賊団はそんな人々の営みや文化活動を見て聴いて涙ぐんだり感動したりしながら食べ、笑い、呑み、そして寝た。

 

 かつて存在したエレジアは美しかった。素晴らしかった。いい国だった。そう確信するに足る様々な物を見た。なのに。

 

『ウタという少女は危険だ!』

『街が――国が!!』

 

 とある伝電虫に録画されていたのは、歌の魔王が暴れまわる映像。魔王を倒そうと奮闘する赤髪海賊団の面々の姿、燃え上がる街並み、老若男女の悲鳴。

 この映像が始まってから、酒を飲み肉を食べる手が止まっている。右を見ても左を見ても青い顔しかいない。

 

 ウタは。

 

「わ、悪いのは」

 

 ウタは、声を震わせた。

 

 信じたくない現実が、信じるしかない証拠と共に突きつけられていた。

 エレジアの壊滅は、シャンクスが悪いわけでもゴードンが悪いわけでもない。エレジアが滅びたのは――

 

「私だったの」

 

 力の入らない脚でよたもたと席を立つ。見下ろす面々はみな青ざめて俯いていて、誰もウタの顔を見ない。ローはどうだ? 目を閉じて腕組みしていて、何も言わない。

 

「そう、だったんだ」

 

 シャンクスへの恨みも、ゴードンへの疑いも、てんで見当違いなものだった。「ハハ」と乾いた笑いがウタの口から漏れる。とんだお笑い草じゃないか、犯人が無実の相手を疑っていたのだから。

 ウタは大広間から逃げた。

 逃げて逃げて部屋に飛び込み、ガチャガチャと手荒に鍵を閉めてベッドに飛び込む。誰とも会いたくない。誰にも見られたくないのだ、この極悪人の顔を。

 

 ――ゆっくりとした動作で腕組みを解いたローは、クルーをぐるりと見回す。

 

「お前ら、ウタがこの国を滅ぼす破目になった理由を調べるぞ」

「「「「「「「「アイアイキャプテン!!」」」」」」」」

 

 彼らが悪意の楽譜について知るのは、もう間もなく。

 

****

 

 もう五日ほど部屋から出てこないウタへ、ローは扉越しに声をかけた。

 

「ウタ、おれの質問に答えろ」

「……なに」

 

 返ってきたのは、張りがなくガサガサにかすれた声だ。

 

「お前は、『剣道未経験の10歳児』に刃を潰していない真剣を渡すか?」

「は?……なにそれ、いきなり変な質問しないでよ」

「いいから答えろ」

「……そりゃ、渡さないよ。危ないもん」

「何が危ない」

「そんなの、扱い方なんて知らないだろうし……うっかり指を切っちゃったりするでしょ。他の人を傷つけるかも」

 

 ローは「そうだな」とウタの言葉を肯定した。

 

「お前は、刃が潰されていない真剣を渡されたんだ」

 

 返事はない。

 

「誰かの悪意だったのか、それともアレ自身に意思があるのか――それはおれには分からない。だが十年前の事件のとき、『それを歌うと歌の魔王になってしまう』危険な楽譜が、お前の手に渡ったようだ」

 

 室内から物音が届く。音が近づいて――扉の向こう側で立ち止まったらしい。

 

「それで、だから何? 操られてたから悪くありませんとでも言いたいの?」

「いいや。だが、一つはっきり言えることがある――お前は悪人じゃねぇ」

 

 ローは扉に手を突いた。

 

「本当の悪人がどんな野郎なのか、おれは知ってる。この世の全てを信用してなくて、手前勝手で、友達が一人もいなくて、金と力があれば何をしても許されると思い込んでるやつだ」

「……それ、あんたが嫌いなドフラミンゴじゃん」

「そうだ」

 

 ローは力強く頷いた。

 

「お前はドフラミンゴか? ウタ」

「違う、けど」

 

 ローの脳裏に浮かぶのは、雪の降る美しいフレバンスの街並み――感染者として一方的に「処分」されてしまった家族、友達、シスター、みんな。

 

「悪人じゃねぇなら……辛くても、重くても、背負え。歩け。立ち止まってんじゃねぇ」

 

 ――変えられない過去を背負え。苦しんで藻掻いて泣け。二度と他人の悪意に操られるな。

 事務的に人を殺すような人間にも、笑いながら人を殺すような人間にも、なりたくないのなら。

 

 しばらく沈黙が続き、ゆっくりと扉が開いた。やつれた顔のウタがすぐそこに立っている。

 

「飯、食いに来い。みんな待ってる」

「……うん」

 

 ――そんな二人のもとへ、一人、転がるように駆け込んできた。

 

****

 

 「ナミィ! ちょっといらっしゃい!!」。そんな気色悪い口調でアーロンに呼びつけられたナミは、アーロンから割り振られた自分の部屋に駆け込む――まさか自分がいる時に家捜しされるとは思ってもみなかった。女の部屋に入るなんてサイテーよと怒鳴ろうとして、白い顔の……元々白いのに更に真っ白になっているアーロンにギョッと目を剥く。

 

「どうしたのその顔色」

「こっこここここっここの本はなんななんなんなんな」

「はあ、えっと、何? ごめん、うまく聞き取れなかった。もう一回言ってくれる?」

「なんななんな……バーサクババアの笑い方か?」

「やめろ、あのババアには嫌な思い出しかねェ。チュッ♡」

 

 アーロンと共にナミの部屋に入っていたクロオビとチュウの二人がこそこそと何やら話していたが、ナミには聞こえなかった。

 アーロンは口の痙攣を止めるためだろう、「ガーッ!」と咆哮を上げた。怒鳴られたように感じてナミの肩がびくりと揺れる。

 

「だから! この本は何なんだつってるんだ!」

「そ、それなら、ちゃんとそう言ってよ。――それは奪った船にあった本よ。ボロボロだけど『でんでん』の話だから捨てるのはもったいないし……私が貰おうと思って」

 

 ボロボロにはなっているが、元々作りがしっかりした本だからページの欠けはない。

 

「これはおれが預かる」

「え? ちょっと待ってよアーロン。私まだそれ読んでないんだけど」

「なんでもだ! 黙っておれの言うことを聞け!!」

 

 怒鳴りつけられ本を取り上げられ――部屋に一人残されたナミは盛大な舌打ちをする。

 

「アーロンがあんな態度取るなんて……もしかしてアレが『万国版』? 本物を見たことがないから分からなかったけど……」

 

 がじがじと爪を噛みながら「こんなことなら読もうなんて思わずに売り払っちゃえば良かった」とナミは独りごちた。でんでん読み聞かせ物語の放送主が特別に原稿を貸し出したという『万国版』は、中古でも一冊五万ベリー前後が相場だと聞いたことがある。あれだけ読み倒された状態であれば……他の中古本の半分の価値があるかないか、といったところだろうか?

 お宝の鑑定には一定の自信があるナミも、本の鑑定は専門外だ。

 

 持ち去られてしまった本の装丁がどんなものだったか思い出しつつメモに書きつけていく。万国版を手に入れられる機会があったら値段を確かめてやろうと思ったのだ。時間が経って忘れる前にメモをしておかなければ。

 アーロンに取り上げられた本は――濃紺の布張りの表紙に金のインクで八つ首の蛇が描かれていた。同じ色のインクで「ヤマタノオロチ退治」とタイトルが書かれており、背表紙にもタイトルの印字があった。そして下の方に、Written by P.M――そうだ、writtenだった。printedではなく、writtenと書かれていた。

 

「うそ、万国版にはでんでん放送主のイニシャルの印字がされてるってこと? だから特別なのね。……P.M、何て名前なのかしら」

 

 Mで始まる名前なら、モニカ、マーシャ、マリー、モリー、マーガレット、マティルダ――小さな大天才に自分の名前をつけてたりして――マーシー、ミア、メレディス他にもたくさん。

 そうだ、ペンネー厶の可能性もあるのではないか? P.M……パシフィック(おだやかな)マリン(うみ)とか、ピースフル(へいわな)もありえそうだ。

 

「うーん、ペンネームよね、きっと……」

 

 放送主は「私のことは好きに呼んでくれて構いません」と言っている――もう放送を始めてから三十年になるのに、一度として名乗ったことがない。

 自分の名前で本を出版すればベストセラーになるだろうにそれもせず、私家版の製本を許し、ただ「声を届ける」ことだけしかしない。彼女は秘密のヴェールに包まれた存在なのだ。

 

 だからだろう、放送主に親を重ねる人、兄弟や姉妹を重ねる人、妻や夫を重ねる人、子を重ねる人……「失った家族」や「得たくても得られなかった何か」を重ねる人は多い。

 

 ナミは「死んでしまった息子がね……ずっと一緒にいるよって私に教えるために、この放送をしているのよ」と語る老婆と会ったことがある。放送主が名乗らないから、放送主以外にも老若男女の声が物語を読み聞かせるから――幸せを奪われた人は、自分に都合のいいように妄想を抱くのだ。

 老婆ほどではないが、ナミもそんな想像をしたことがある。ナミが赤ん坊のときに生き別れになってしまったことを嘆いた放送主が、世界の何処かにいるナミのために読み聞かせを流しているに違いない、と。そんな想像をノジコと語り合って喧嘩した回数は数えきれない。

 

 みんな「物語」を自分にとって都合が良いように解釈している。老婆も、ナミも……アーロン一味も。

 

「おれたちは! 誇り高き男マリナーの血筋! 陸に残った下等生物とは違うのよォ!!」

「なあナミ、あれ、どういうことだ?」

「ウォーターワ○ルドって話があるじゃない? アーロンたちはそのマリナーの子孫だって主張してるの……って! 今そんな話してる暇ある!?」

 

 追いかけてきたルフィたちに絆されて、アーロンを打ちのめして。

 

「あんたの持ってたヤマタノオロチ退治の本、『万国版』でしょ? よく東の海で『万国版』なんて手に入ったわね」

「ああ、これか?」

「なにぃ、てめー『万国版』を持ってるだとぉ!?……違う、こいつぁ『万国版』じゃねぇ。こいつは」

 

 ルフィの手の本を見たサンジが、ごくりと唾を飲み込む。

 

「作者製造版、つまり御本人版だ……!」

 

****

 

 「ミ○ウツーの逆襲」第2回を聞き終えて、ベガパンクは額に手を当てて哄笑した。()のままのベガパンクでは彼ら(・・)と対立したとき、勝てない。

 

 選定を急ごう、といってもほぼ決まっているのだが。

 

 ――ベガパンクの研究室のすぐ外、廊下に座り込む少女。顔の半分をくせ毛で覆った彼女の目に映るものは。

 

****

 

 ここはアラバスタ――砂漠と太陽の国。日中は焼けるほどに暑いが朝方は冷え込むため、就寝時の毛布は必須だ。

 

 毛布を頭から被ったまま、ロビンはのろのろと部屋を見回す。その視線の先には考古学に関する書籍が仕舞われた本棚。ハードカバーの背表紙がずらりと並ぶなか、何冊か異色の冊子があった――そのうちの一冊のタイトルは『ニノミヤ・キンジロウのお話』。偉人の伝記という体をとったこの物語はロビンが一番好むもので、表紙が擦り切れるほど読んでは新しく買い直すということを続けて既に五冊目になる。

 他のタイトルはノグチ・ヒデヨ、シブサワ・エーイチ、トーマス・エジソン、ファーブル、シートン、その他、実在しない偉人のはずなのに「どこかに実際にいたのでは?」と思わせる物語の数々。学び、打ち込み、研究し、活かす……そんな人生を疑似体験できる『偉人伝』は、これまでロビンの心を癒やし温めてきた。

 

 しかし、前々回の放送から始まった「ミ○ウツーの逆襲」では、研究や開発の負の側面に焦点が当てられている。

 

 低く響くような声で語られる物語のメインキャラクターは――『人の手によって作り出された生命』、ミ○ウツー。

 

 ロビンはゆっくりとベッドから床に足を下ろし、毛布をするりと落としてクローゼットへ向かった。

 先程まで聴いていた物語を咀嚼しながら仕事着に着換え、姿見の自分と見つめ合う。

 

「学問の発展がもたらすものは、良いことばかりではない……」

 

 冷たい鏡にそっと手を添えた。悲しい目をした女がロビンを見つめ返している。

 

「同じ技術が、知識が、使う人の心一つで全く色を変えることは知ってるわ。でも」

 

 ロビンは鏡に額を押し当て、無理やり押し出したようなかすれ声で囁いた。

 

「私達はただ研究してただけ、知りたかっただけ。それだけなのよ……?」

 

 今更そう訴えて何になる、皆が戻ってくるわけでもないのに。ロビンはため息を一つ吐いて部屋を出た。

 扉をくぐればそこにいるのはニコ・ロビンではなくミス・オールサンデーだ。

 

 ――調理担当も放送を聞いているため普段より簡単な朝食のあと、無人の執務室に入った。壁や絨毯に染み込んだ葉巻の匂いを追い出すように窓を開き、砂の大地を見下ろす。

 柿色より鮮やかな赤の砂漠が、見える限りの遠くまで続いている。

 考古学以外にさして関心のなかったロビン――ミス・オールサンデーでも、この大地の赤さが何によるものなのかは一桁の歳のころから知っている。これは酸化した鉄の赤だ。

 

 かつて想像していたよりずっと赤く情熱的な大地は、今ではもう見慣れた景色だ。

 

 窓枠に溜まった砂を払って観葉植物を外に出す。ロマンチックだからと始めた習慣だったが、続けるうちに、葉がつやつやと青いのを見ると気持ちが和むことに気づいたのだ。

 

「あの人がレオンなら、マチルダは私かしら?」

 

 ふふと笑って、窓を閉めた。

 

****

 

 三つ目族のお話がほしい。そうリトル・ママに手紙を書いたのはプリン本人だが、「こういうの」は求めていなかった。

 

「第三の目を開くと真のプリンになり、古代の凄い武器、赤いコンドルを呼び出せるんだろ? さあプリン、第三の目を晒して古代の秘宝を呼び出し、おれに捧げな!」

「ママ、私はシャラクじゃないよ」

 

 「三つ目がと○る」が放送されてからしばらくのあいだ、プリンは母親から「第三の目を解き放て!」だの「お前ならできる、力を開放しろ!」だのと言われ続けた。

 可愛くない、醜い、そう罵られるよりいいけれど――無理なことを強いられるのも辛かった。

 

 「サザンア○ズ」のときも酷かった。「无」がどうの、もう一つの人格がどうの、生まれたときから定められた夫がどうの、三只眼の末裔として意見を出せと騒ぐ母や兄姉から逃げた。无ならゲッコー・モリアが作れるらしいのだから、彼に声をかければいいのに。

 

 プリンはでんでん読み聞かせ物語が好きだ。好きだが、恨んでもいる。リトル・ママの過剰な期待が家族に波及したせいで「うちのプリンは覚醒前の現在こそオトボケだが、覚醒すれば最強」とか「額の目にバンソーコー貼らなくて平気?」とか言われるのだ。

 

 でも、第三の目がひとつなぎの秘宝――ラフテルへの道を示す可能性が高いという話が出たとき、あまり負担を感じずにいられた。「赤いコンドルが云々」、「パールヴァティ何世が云々」と根拠のない期待を掛けられ続けて、それにプリンは何度も反発して――自己主張の仕方を学んでいたからだ。

 私は私よ! ただ目が三つあるだけで武器を召喚できないし、定められた運命の夫もいないし无を作ることなんてできるわけもない。だけどそれがなんだっていうの? そんなことできる人なんて世界中に一人か二人くらいしかいないんだから、その一人だか二人だかが私である可能性なんて数億分の1。

 私はただのプリン。そんなファンタジーなんて物語の中にしかないの。私は――私は額にもう一つ目があるだけの女の子なのよ!

 

「――でも、いつか王子様が」

 

 迎えに来るのだ、なんて都合のよいロマンスだけは信じている。

 

****

 

 部屋の大きな姿見に向かって口を開く。

 

「鏡よ鏡、鏡さん。世界で一番美しいのはだぁれ?」

『……それは黒壇の髪に薔薇の唇、雪のように白い肌の白雪姫だよ』

 

 ――ミロワールドからなら誰にも邪魔されず聖地に来ることができる。それを知ったのは三年前、私の文通相手について監視役の一人が漏らした一言だった。

 

「シャーロット・ブリュレ……ミラミラの実の能力者か」

 

 なんだそりゃと思って悪魔の実辞典を取り寄せ、調べてびっくり玉手箱。ミラミラの実を食べたブリュレちゃんは「鏡の中の世界『ミロワールド』を使えば鏡のある場所へならどこへでも行ける」というスーパー能力が使えるのだという。鏡のある場所ならどこにでも侵入し放題――つまりこの部屋に鏡があれば、ブリュレちゃんがここへ来ることができる……?

 ひらめいた。女子風呂の覗きだ――じゃなくて。

 

 小柄な私はともかくとして、噂によればブリュレちゃんは身長3メートルを超える長身らしい。ここへ来てもらうなら3メートル以上の高さの鏡を用意しないといけないってことだろう。

 

「わちしの全身を写して余りある……わちしの倍くらいに大きな鏡がほしいあます」

 

 出入りの商人にそう頼んだら一年以上待たされ、装飾過多なデカい鏡が届いた。このデカさならブリュレちゃんも楽々出入り出来るに違いない。

 

 『すごく素敵な鏡を買いました。横幅は2メートル、高さは3メートルもある大きな鏡です^^その鏡の前に立つと、まるで自分の部屋がもう一つ鏡の向こうにあるかのように感じられます』云々と手紙に書いた、その二ヶ月後のことだ。鏡の向こうにブリュレちゃんが立っていたのは。

 

「もしかして、ブリュレちゃん?」

「その声、本当にリトル・ママ……?」

 

 鏡の世界から出てきたブリュレちゃんは私の倍はある高身長でパイオツカイデー。腕も足も腰も細いのに何で胸だけデカいの? 筋肉に回るべきプロテインが全部胸部に集中したの? そんなバナナ。羨ましすぎるのでそのおっぱいを半分くらい私によこすべき。

 

 そんな初対面から、鏡の世界経由でブリュレちゃんとの交流が始まった。とはいってもブリュレちゃんのお宅から聖地が遠すぎることもあり、移動がかなり大変だそうで一〜二ヶ月に一度会えればいいといったところだ。

 遠い距離を往復してくれるブリュレちゃんには感謝してもし足りない。

 

 三回目の訪問の時だ。ブリュレちゃんは私の手を握って胸元に引き寄せると、真剣な目で私を見つめた。

 

「ローズ、アタシと一緒にここから逃げよう。ウチは泣く子も黙るビッグマム海賊団だよ? 世界政府に睨まれたって今更だし、屁でも……へっちゃらさ」

「ブリュレちゃん……」

 

 転生したら百合婚だった件。わちし、強い人は男でも女でも好きあます……というのは冗談として。ブリュレちゃんに口説かれたことで、これまで百合モノを語ったことがなかったと気付いた。もう「マリみて」とか「ウテナ」なんてキャラ設定をざっくりとしか覚えてないしな……適当に肉付けすればいいか。

 

 真面目に考えよう。――ブリュレちゃんの気持ちは嬉しいが、すぐには無理だ。今の私は柵が多すぎて動けない。

 

「ブリュレちゃん。わちしには守らなければならないものがたくさんあるの」

 

 読み聞かせ人員である奴隷を解放してから逃げなければならない。また、逃げるまでのあいだ、それを監視役たちに察知されないようにしなければならない。

 

「今いる奴隷をみんな、安全に開放したいのです」

 

 逃亡奴隷は追いかけられるが、解放奴隷なら追われない。彼らには安全な帰路を用意してやりたいのだ。そう言えば、ブリュレちゃんは不満そうながらも頷いてくれた。

 

 マリンフォードへ行くたびに一人ずつガープやクザンらに奴隷を任せていく。一人減り、二人減り……そして遂に最後の一人がいなくなった時、母はすっかり体調を崩してベッドの住民と化していた。

 母の手首を見てブリュレちゃんの手首より細いと気づいてしまい、やるせない気持ちになる。

 

 次にブリュレちゃんが来たとき、私は聖地(ここ)から逃げるのだ。こんな状態の母を残して――

 

 ニュースクーから受け取った新聞に視線を落とせば、太字の見出し。『白ひげ海賊団2番隊長、ポートガス・D・エースを公開処刑』。

 

「えっ?」




サザン○イズ読んだの昔過ぎてググったのじゃ。許してけれ。

ましまろ

追記
海賊王の息子という新聞報道は処刑後でした。修正しました……教えていただきすみません。
追記2
本誌でベガパンクの謎はまだ引きずるようなので表現変更!
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